オリキャラ回その3
仮眠を終えた第三班の面々が、まだ薄暗い天幕の中でゆっくりと装備を確認していた。
夜明け前の時間帯。空気は冷え込み、息を吐けば白く曇る。
休憩を終えた彼らは後詰待機に移行するため、静かに準備を進めていた。
誰もが無駄口を叩かず、黙々と自身の武器を確かめている。
その静寂を破ったのは、索敵青年が手元の端末を睨みながら呟いた一言だった。
「……第二班からの通信。内容、転送」
投影された簡素な霊子信号には、ただ一言だけが刻まれていた。
――《第一班、第二班共に戦闘継続中、応援に来られたし》
誰かが息を呑む音が聞こえた。
仮眠から目を覚ましたばかりのかしるは、手にしていた小さな呪詛刻弾を落としそうになりながら、思わず言葉を漏らす。
「詩的に……最悪ですね……」
ダグダヴェアがゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。
その声は低く、しかし確かに命令としての力を帯びていた。
「全員、出撃準備。交代地点へ向かう。第二班の引き継ぎは――現地でだ」
即座に装備のチェックが加速する。
霊子のチャージ、護符の確認、弾薬の補填。皆が機械的に動き、口数は少ない。
この班はまだ、一人の戦死者も出していない。その事実が、重く彼らの背を押していた。
武装を整えた七人は、仄かに明るみ始めた東の空に背を向けながら、戦場へと歩を進め始める。
その一歩は重く、しかし確かに、命を繋ぐための前進だった。
戦場は、まだ夜を引きずっていた。
かすかな霧が地表を這い、霊子の粒子が淡く漂う中――第三班の影がその霧を裂いて進んでいく。
小高い斜面の先に、拠点防衛陣地の外縁が見え始めた。そこには、すでに立てこもる者たちの気配があった。
第一班、第二班。
本来なら交代を済ませ、すでに後方で休息に入っているはずの者たち。
だが今、そこにあったのは――
砕けた遮蔽板。溶けかけた結界杭。
壁際に設置された臨時陣地には、傷だらけの兵士たちが寄りかかっていた。
防弾布の破れたジャケット、焼け焦げた霊子弾筒、血を滲ませた包帯。
そのどれもが、長時間の戦闘がもたらした爪痕だった。
「……遅れてすまない」
ダグダヴェアが真っ先に斜面を駆け下り、前線陣地に向かって声を張る。
応じたのは、第二班のリーダーと思しき若い女騎士だった。目の下に隈があり、声もかすれている。
「いいえ……助かるわ。……少しでも早く、引き継いで」
彼女の背後では、もはや自力で歩けない者が二名、仲間に肩を借りている。
第一班の面々も同様だった。
交代のタイミングはすでに限界に近く、いや、過ぎていたのかもしれない。
ダグダヴェアが短くうなずき、振り返る。
「配置に入れ。索敵、右後方。術支援、中央支柱横。前衛は――俺と槍術士が展開。リンデン、お前は左翼を守れ。残りの盾組は支援砲塔の陰から援護」
七人が即座に散開する。
すでに誰一人として、無駄な言葉を交わす者はいなかった。
そして、交代する第二班と第一班の面々が、重い足取りで後方へ下がっていく。
かしるがすれ違いざま、顔に返り血を浴びたままの年若い隊士に、そっと囁く。
「自由詩的に……無事を願ってます」
その隊士は、少しだけ目を細め、しかし何も言わずに去っていった。
戦場の空は、まだ明けない。
だが確かに、彼らの一歩は、夜明けへと向かっていた。
――最初の一発は、警告すらなかった。
斜面の下方、霧が濃く漂う地帯で何かが爆ぜた。
瞬間、索敵型の青年が短く警告を叫ぶ。
「接近、五秒以内! 数、八――いや十以上、速いッ!」
光学照準が霧を貫き、リンデンの視界に黒い影が浮かぶ。
だがそれは、今までの敵とはどこか違っていた。
明確な陣形。横並びの散開配置。
前衛二体が直線的に突進し、後方の個体が弧を描くように包囲を仕掛けてくる。
個体ごとの動きも無駄がなく、まるで“統制”されているかのようだった。
「――来ます!」
叫ぶ間も惜しい。
リンデンは即座にヘイロリウムを量子展開し、斜め前方に盾形態を展開。
次の瞬間、前方から飛びかかってきた異形の腕が、鋭い爪を振りかざして衝突してきた。
衝撃。火花。圧力。
だがそれすら、序章だった。
左方から回り込んできた個体が、地面に設置されたかしるの呪術トラップをギリギリで避け、地を滑るように迫る。
「抒情詩的に……学習してる!?」
その声に、誰も返す余裕はない。
霊子弾が放たれ、敵の脚部に命中するも、一瞬の躊躇すら見せず跳躍してくる。
攻撃への執着、それ自体が進化している。
「左翼が薄い!」
誰かの警告に呼応して、リンデンが回り込む。
霧の中で次の敵影を捉え、瞬時に回転刃形態へと切り替えたヘイロリウムを振り抜く。
霊子粒子を砕き、敵の肩口を削り飛ばすも、倒れない。
敵は怯まない。逃げない。
戦術を持ち、損耗を恐れず、確実にこちらを削りに来ている。
「こんな動き、初めてだ……」
中年の女兵が低く唸る。
その言葉は、重く静かに事実を示していた。
この敵は、これまでのような“野生”ではない。
明確に“洗練”され、今この瞬間にも戦場で進化している――
それが、第三班に与えられた最初の洗礼だった。
第一波を退けた斜面の前哨線は、霧の中でわずかな静寂を取り戻した。
砕かれた肉片と、霊子干渉の火花が残骸のように宙を漂う。
だが誰も、勝利を確信していなかった。むしろ、全員が直感していた。
――次は、すぐに来る。
「索敵、確認。第二波、五十秒以内に接敵。数、第一波の倍以上」
青年が冷静に読み上げる。声は沈着だが、喉が乾いているのが分かった。
「さっきの奴ら……以前と違って、呪術式の発動タイミングを見て避けてました」
かしるが弾筒を抱えながら報告する。その顔には焦りよりも驚きが濃かった。
「抒情詩的に学習されてる。記憶型の術式特性でも……ないと、こんな動き、できない……」
「じゃあ、敵は人間以上に“戦術”を身につけ始めてるってことか」
中年女性が短く言いながら、装填済みの補助弾倉を静かに抱え直す。
その態勢のまま、ダグザが低く全員に告げた。
「前線は維持。敵の狙いは“浸透と崩し”だ。対応遅れたら、今度は俺たちが潰される」
その時だった。霧が震えた。
――ギイィィィ……!
まるで機械音のような異音。
次の瞬間、地表の霊子が逆流し、霧が強制的に“裂けた”。
「来るぞ、前面展開――!」
リンデンが盾形態のヘイロリウムを再展開し、先頭へ出る。
その眼前には、既に第二波が迫っていた。
今度の敵は、より高速に、より正確に。
後方の個体が投擲弾のように爆発する“囮”を投げ込み、前衛二体がその爆煙に乗じて飛び込んでくる。
視界妨害、陽動、強襲――三段構え。
「……詩的に洗練されすぎてます!」
かしるの悲鳴混じりの報告を遮るように、敵が一斉に迫る。
リンデンは両脚を強く踏み込んで霊子を足元に定着させ、斜めから迫る爪撃をヘイロリウムで受け止める。
反動。逆跳。重心を殺してから、右の回転刃で反撃。
だが、敵はまたしても“見切った”。
「回避、早い……!」
喉を焼くような霊子の火花。
振るえば振るほど、敵の挙動は読みやすくなり、同時に“適応”が加速していく。
これは明確に、進化している。
ただの本能ではない。敵は戦術を獲得し、“戦士”としてこの戦場に適応しつつある――
中盤戦は、既に始まっていた。
――分断の兆候は、ほんの一瞬だった。
左翼を守るリンデンの前方、濃霧の裏に動いた敵の軌跡。
それは“彼”が予測していた通りの動きではなかった。
斜面を上るのではなく、わざと中央へ誘導し、左右を切り離すように動いていた。
「これ……分断される……!」
中央支柱横に展開していたかしるが叫ぶ。
前線と中衛の間に、奇妙な“抜け道”が作られ始めている。
ただの接近戦じゃない。
彼らは“配置”を見て、“狙いどころ”を選び、“仲間との連携”を意識している。
もはやこの敵は、獣ではない――戦術的に動く集団だった。
そして――
「左、抜けた! 一体侵入、中央に出る!」
「中央支柱が――ッ!」
「かしるさん、下がって!」
その瞬間、リンデンの視界が切り替わった。
敵の配置。味方の陣形。遮蔽、死角、応答時間。
空間把握と戦術の再構築が、霊子式の軌道とともに脳内で加速する。
「……左、囮です。狙いはかしるさんの呪術式! 全員、配置交代――!
前線、斜めに! 盾持ちは後退、支援を中心に扇型展開! 右の援護にダグザさんが!」
ダグダヴェアが短く息を呑んだ。その指示は、完璧だった。
しかも“時間内”に成立する再配置――この混乱の中で。
「っ、了解!」
「詩的に、完璧です!」
各自が即座に動き、配置は変わった。
敵の中央突破はその直後、真横からの霊子斬撃によって粉砕される。
前衛と中衛が再び連動し、呪術式と弾幕が合わさる。
リンデン自身は左斜面へ踏み込み、今まさに突破を狙う敵三体を同時に迎撃。
ヘイロリウムの刃が回転する。
霊子の火花が横薙ぎに飛び散り、盾の半力場を発生させた瞬間に、後ろの敵を反射で弾き飛ばす。
前へ、斜めへ、そして下へ。
敵の足をすくい、肘を砕き、最後の一体の頭部へ刃を叩き込んだ。
――第二波、殲滅完了。
が、すぐさま次の気配が押し寄せる。
「第三波、近接。数、十六体。高速型と、重装型を含む混成!」
「切れ目なし……散文的に酷すぎますッ!」
だが、第三班はもう崩れていなかった。
リンデンの再配置指示が功を奏し、陣形は整っている。
「ダグザさん、交代ポイントは下に一段下げてください。敵の重装型を引きつけて、下段の霊子杭で拘束します」
「……いいだろう。全員、指示通りに」
地形の特性と、霊子流の流れを読んだ配置変更。
霧の中、敵の重装型が轟音とともに突進してくる――が、リンデンがすでにその進路に罠を設置していた。
「術式、開放」
かしるが呟き、霊子杭が青白く閃く。
突進していた敵の脚部が拘束され、前のめりに倒れたその上から、槍術士の男が霊子槍を突き立てる。
次々と崩れていく敵の隊列。
砲撃、呪術、霊子刃――連携が回り始めた。
「敵、残り五体――!」
最後の高速型が背後から跳びかかる。
リンデンは振り返らず、右肘で盾を振るい、返す刃で首を切り裂く。
――第三波、撃破完了。
その場に、ようやく静寂が戻った。
霧がほんの少しだけ、晴れていた。
リンデンは呼吸を整え、背後のかしるの無事を確認する。
彼女は小さく頷き、呟いた。
「詩的に……生きてます、ね……」
かしるの言葉が、戦場に溶け込むように消えていく。
霧がわずかに晴れ、第三班の周囲に束の間の静寂が訪れた。
敵の気配は遠のき、空気の霊子濃度も安定しつつある。
この瞬間を逃さず、各員は補給に移った。
水筒の蓋が開き、乾いた喉を潤す音がそこかしこで響く。
かしるは詠唱済みの呪符を新しい刻弾に張り替え、隣では女兵士が手際よく弾帯を補充していた。
そんな中、ダグダヴェアは少し離れた位置で、リンデンに歩み寄る。
「……指揮を、お前に任せる。俺は後方支援に徹する」
その一言は、決して軽くない意味を持っていた。
歴戦の兵士である彼が、まだ若い“後輩”に自らの任を託す――
それは、先ほどの戦術的判断を評価した結果だった。
「……承知しました。状況が許す限り、私が戦術の指揮を引き継ぎます」
リンデンは水を一口だけ含み、静かに答えた。
目の奥に、燃えるような緑光が差す。
そして再び、戦場が動き始めた。
霧の向こうから、第四波――いや、それに続く連続的な襲撃が始まった。
だが、すでに第三班は違っていた。
リンデンの戦術によって、迎撃配置は地形に沿って緻密に再編されていた。
斜面の傾斜、霊子の流れ、呪術の射線、誘導の罠――
全てが噛み合い、敵の動きを封じていく。
突撃型には狭窄域での斜撃。
遊撃型には霊子杭の誘導線と予備射線を用いた包囲。
変則的な動きをする個体には、かしるの即応刻弾を用いた“分断”の一撃。
「左、次来る個体は加速型です。弧を描く前に、正面で落とします」
「詩的に、対応しますね……!」
「右後方、少し膨らませて。罠をわざと踏ませて、足を止めてください」
「了解、回す!」
言葉と動きが一致し、敵が一手動くごとに、それを逆手に取った迎撃が展開されていく。
戦術に対して、戦術で応える――それは、単なる力の衝突ではない。
知性と判断が勝る者が、戦場を制する。
そして、刻は流れた。
どれほどの敵を撃退し、どれほどの陣形を維持したのか。
やがて、霧が徐々に薄れ始めた頃――
「……おかしい。第一班、第二班への応答要請が……返ってこない」
索敵青年の声が、静かに落ちた。
空気が、わずかに張り詰める。
彼はもう一度操作端末を見下ろし、冷静に言葉を継いだ。
「中継信号は正常。けれど、個別応答がない……それも、両班から」
水を打ったような沈黙が、第三班を包んだ。
索敵青年の報告に、全員の動きがわずかに鈍る。
冷たい風が霧を揺らし、どこかから、聞こえないはずの“足音”のような霊圧が混じる。
「全班壊滅の可能性……?」
ダグダヴェアが呟いた。
戦場経験のある彼でさえ、その言葉に含まれた現実を直視しきれないようだった。
撤退――その言葉が、誰の心にも浮かぶ。
だが、判断を下す暇も与えられなかった。
次の瞬間、また新たな敵の群れが小刻みに押し寄せてきた。
わずか四、五体。
だが、そのたびに配置を立て直さねばならず、補給も回復も途切れる。
「時間をくれない……!」
かしるが悲鳴のように呟きながら、刻弾を打ち込む。
その霊子が閃き、また一体が砕ける。
リンデンも、左手に握ったヘイロリウムを振るい、前へ、斜めへ、横へと敵をなぎ払っていく。
だが――
戦いの最中、リンデンの中に、ひとつの違和感が芽生えていた。
(何かがおかしい。引っかかる……。)
敵の戦術ではない。霊子の流れでも、配置のズレでもない。
もっと根源的な、何か。
――何かが、ずっと“余分”なのだ。
「……かしるさん」
気づけば、言葉が口をついていた。
盾を振るいながら、リンデンは振り返る。
「私達は本当に、“七人”なんですか……?」
問いかけに、かしるは驚いた顔をした。
まるで“なぜそんなことを訊くのか”とでも言いたげな顔だった。
「韻文的に七人ですよっ! 索敵さん、女兵士さん、槍術士さん、かしる、ダグザさん、リンデンくん、███さん――!」
その言葉が終わるよりも早く、リンデンの視界が収縮した。
“███”――?
誰だ、それは。
そんな人物、聞いた覚えがない。
名簿にも、構成にも、居なかった。
だが、かしるは何の迷いもなく“七人”を挙げた。
まるで“そこにいるのが当然”であるかのように。
「ッ、罠――!」
言葉に出たその瞬間、背後から風が割れる音が走った。
音すらなく、ぬるりと血が散った。
振り返るよりも早く、霧の中で――
索敵青年の首が、すっと消えた。
同時に、中年女性の胴が肩口から斜めに裂けた。
「――ッ!?」
目を見開くかしるの隣で、リンデンは即座に身を低くする。
空間が軋む。
否、“誰か”がそこにいた。
彼らと共に、最初から“七人目”として在った“何か”が――
今、その仮面を脱いだ。
斬撃の余波がまだ空気を震わせている。
索敵青年と中年女性の身体が、音もなく崩れ落ちる。
生き残った4人――リンデン、かしる、槍術士の男、そしてダグダヴェアは、
その場でぴたりと動きを止めた。
誰もが息を呑み、ただ霧の中を見つめる。
そこにいた。
林立する歪な木々の、うねるような根の盛り上がった上――
足を組むようにして座る、少女の形をした“ドール”。
赤黒い仮面のようなアイガードが顔を覆い、
首には、何かの刻印が細かく刻まれたチョーカーが巻かれていた。
それはGARDENで用いられる文字ではない。
意味の読み取れない古い意匠で構成された、異質な文様だった。
返り血を浴びたままの胸当てには、細い体躯に不釣り合いな重厚さが宿っている。
顔の中央、虚ろに穿たれた楕円形の“スリット”が、まるでこちらを見ているように蠢いていた。
その“穴”が、真っ直ぐ、四人を見据えた。
――静止。緊張。呼吸さえ許されない沈黙。
「……天使……!」
ダグザが、喉を震わせながらその名を絞り出した。
ドールは、何も言わなかった。
ただすとん、と音もなく木の根から降りた。
その瞬間には、既に踏み込んでいた。
地を割るような加速。霊子の流れが一気に逆巻く。
「――ッ」
リンデンがヘイロリウムを展開しようとした刹那、
その視界の隅で、別の影が飛び出していた。
槍術士の男――彼が、剣閃を遮るように飛び込み、
霊子槍を振りかざしたまま、殺意の籠もった表情でドールに突っ込んでいく。
「させるかよ……ッ!!」
空気が裂ける。
ドールの背から引き抜かれたのは、鈍く赤黒く染まった両手剣。
刃は重く、長く、無骨でありながら淀みなく振るわれた。
槍と剣が正面から激突する。
霊子が火花を散らし、波打つような衝撃が周囲を包み込む。
打ち合い――一合、二合、三合。
目で追えぬ速さで、剣が横薙ぎに来る。
槍がそれを押し上げ、反転し、突き上げを狙う。
ドールはそれを読んでいたかのように後退し、背中を軸にそのまま半回転して重く剣を振り下ろす。
――正真正銘の剣闘技。
ただの暴力ではない。荒々しく洗練された動き。美しい、死の芸術。
「援護に――ッ!」
リンデンが叫びかけたその時、
木々の間に咲く、歪な形の花々が一斉に“開いた”。
どくん、と何かが鼓動する音。
霊子の匂いを孕んだ花弁が裂け、そこから異形の影がぞろりと這い出してくる。
人型。獣型。半壊した擬態体。
先ほどまで戦っていた敵とは明らかに違う“制御型”の群れ――
「来ますッ! 韻文的に……迎撃入りますっ!」
かしるが即座に呪術弾を展開。
ダグザも斜めに身を引きながら、支援砲撃用の展開式装備を立ち上げる。
リンデンは唇を噛み、ヘイロリウムを完全展開。
ドールとの距離は詰められない――今は、この3人で、ここを防がなければならない。
「散開して撃ちます! 近づかせず、ここで止める――!」
怒涛のように敵の群れが押し寄せる中、
槍術士とドールの死闘はまだ止まらない。
剣と槍のぶつかる音が、戦場の中央で雷鳴のように響き続けていた。
鉄と霊子がぶつかり続ける。
槍術士の身体は、既に何度も打たれ、裂かれていた。
だが彼の瞳は、熱を失っていなかった。
「……あの時の奴じゃねぇとしても――」
口元から血を垂らしながら、言葉を吐く。
その言葉は、過去の“何か”を見据えるように震えていた。
「テメェだけは、殺す……ッ!」
脚を踏み出す。霊子を巻き上げ、地を砕くほどの踏破。
剣が振り下ろされる瞬間に、その間合いを制して槍を叩き込む。
重い金属の音。
ドールの剣が弾かれ、わずかに軌道が崩れる。
その隙を、見逃さなかった。
「これで――終わりだッ!!」
全力で放たれた霊子槍が、赤黒い空気を裂いて伸びる。
刹那、槍はドールの胸部を貫いた。
装甲を砕き、霊子を撒き散らしながら、深々と、確かに突き立った。
そのまま、槍術士の体勢が止まる。
彼の呼吸が乱れ、次の一撃を繰り出す余力もない。
けれど――それで、決まったはずだった。
ドールは、動かない。
その両腕は、だらんと垂れ下がり、
身体も微動だにせず、ただそこに“人形”のように立ち尽くしている。
霧が、静かに舞った。
リンデンたちは敵の波を迎撃しながらも、その中心に目を向ける。
かしるが、息を飲む音を漏らした。
そして――
ドールが顔を上げた。
黒い空洞が、まっすぐ、槍術士の瞳を見た。
次の瞬間、口でもなく、空洞から直に放たれた“声”が戦場に響いた。
『オマエ、デハ……役者不足、ダ』
異質な、合成音のような音声。
人間の声帯を通さない、明らかに“機構”の声。
槍術士の目が、見開かれた。
その時、垂れ下がっていたドールの右腕が、力を持ち直した。
手にしていた大剣が、まるで引力に吸い寄せられるように持ち上がる。
そして――
横一閃。
曇天の下、血の軌跡が描かれた。
霊子が炸裂するような閃光とともに、槍術士の身体が上半身と下半身に、泣き別れた。
時間が止まったかのように、周囲の空気が凍りついた。
斜めに落下した槍と、崩れた肉体が、地面に音を立てて転がる。
その中心に、立っていた。
血のついた刃を静かに構え直す、赤黒い仮面のドール。
誰の声も届かない静寂の中、その空洞だけが――生き残った三人を、見据えていた。
槍術士の最後の一撃――それは確かに、ドールの胸を穿っていた。
霊子槍の刃は、装甲を割り、内部構造へと到達していた。
だが――それだけでは、足りなかった。
“天使”が纏う神性。
この世界の理から逸脱したその加護は、ただ攻撃を受け流すだけでなく、
あらゆる物理的因果の到達そのものを否定する。
――それを突き崩すには、“何か”が足りなかった。
たとえば、それは因縁。あるいは、信念。
あるいは、もっと別の何か――
いずれにせよ、槍術士の想いは届いても、刃そのものは届かなかった。
そして今。
赤黒い仮面のドールは、再び顔を上げた。
その空洞が、残された3人をまっすぐ見据える。
地を踏みしめる音が、ゆっくりと近づいてくる。
左右非対称に歪んだ根の上を、まるで軽やかに舞うように、ドールは踏み出した。
静かに、確実に、命を刈り取るために。
敵の波は、止まっていた。歪な花々は、もう開かない。
蠢く影も、もういない。
残されたのは――この一体。
理不尽の化身。
神性という名の“絶対”を纏い、剣を手に立ちはだかる“天使”。
リンデンは左腕を下ろし、短く息を吐いた。
左腕の接続ユニットに霊子回路が瞬時に展開され、
振動する刃を持つヘイロリウムが静かに発光する。
「かしるさん、ダグザさん――覚悟をお願いします」
その声は、冷静で、それでいて震えていた。
ダグザは既に、弾切れとなった重火器を無造作に投げ捨てていた。
代わりに引き抜いたのは、GARDEN制式の近接対応型短機関銃。
霊子共鳴の深い部位にのみ微かに届く、対神性仕様の微弱補正弾を搭載した旧式の火器。
「使う日が来るとはな……この骨董、噛みつけるか」
無理に笑おうとした口元が、わずかに震えている。
かしるもまた、霊子散弾銃に最後の弾を込め終え、
懐から、呪刻された杭をゆっくりと取り出した。
「詩的に……絶望的ですけど……」
それでも、彼女の手は震えなかった。
空虚な穴に見つめられても、なお、詩を詠む者としての矜持を失わずに。
3人が構える。
重なるように、陣を組む。
前へ、そして正面へ――。
立ちふさがる“神の人形”に、今、抗う。
うちの時空の天使はこの位の強さです。
恐らくここからひたすらボスラッシュばりの連続戦闘(10万字予想)が続くので、息継ぎの為に話の間(1.2.閑話.3.4みたいな感じ)でも閑話を差し込むべきかどうか。
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ずっと戦闘でもいいよ、あまり気にしない
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息継ぎは欲しい、差し込んで欲しい
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叡智閑話
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イベのトロイさんちゃんの掘り下げビビった