みにくい魔剣の子   作:えいちゃ

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Save, Nonsense, Suicide.2

 

 

 地下への階段は、息を吸うたびに湿った空気の匂いがした。

 上からの霊子の光は届かず、壁に埋め込まれた微かな粒子が、淡い緑色の光を放っている。

 それでも、二人の足音が響くたび、古びた通路の空気が応えるようにざわめいた。

 壁画は、途切れることなく続いていた。

 空から降り注ぐ光の束――飛行船の砲撃か、あるいは別種のエネルギー兵器か。

 その下で、逃げ惑う民、崩れ落ちる街。

 描かれた線は生々しく、筆跡がまだ湿っているように見えるほどだった。

 

「まあ、当然っちゃ当然の流れだよねー」

 

 玄鉄がぼそりと呟き、壁をなぞる。

 

「上から来た文明が、下の文明を潰す。

 技術と力が噛み合わないと、だいたいこうなる。

 順当にいけばこのまま地上が滅んで――終わり、っと」

 

 運命は黙って歩を進める。

 靴音がひとつ、またひとつ、壁に跳ね返る。

 霊子の光が、次第に赤みを帯びていく。

 

『――そうはいかなかったみたいだね』

 

 彼女の声に、玄鉄が顔を上げた。

 運命の指先が、次の場面へと伸びていた。

 壁画の中で、崩れた都市の瓦礫の上に、ひとりの男が立っていた。

 

 男は輝く剣を掲げていた。

 剣から放たれる光が、夜空を貫いている。

 その光が空を裂き、飛行船の群れを押し返す。

 地上に散った民の瞳が、その光を見上げていた。

 玄鉄は息を呑む。

 

「……神話だね。救世の図、ってやつ」

 

『うん。でも、神話として描かれてる感じじゃない』

 

「事実、って言いたい?」

 

『……あるいは、そう“記録された”事実、だね』

 

 霊子の灯がふたりの顔を照らした。

 光の中で、壁画の剣がほんの一瞬だけ、実際に輝いたように見えた。

 紅の光が、地下の闇を照らしていた。

 男の掲げる剣――それは炎そのもののように燃え上がり、壁画の中でも異様な存在感を放っていた。

 刀身は細く、しかし眩しく。

 ひと振りで夜空を裂き、飛行船の群れをひとつ残らず撃ち落としていく。

 

 描かれた光が、霊子の灯りと共鳴するように揺れた。

 まるで今もその熱が残っているかのように。

 地上の民が手を掲げ、男を見上げていた。

 誰もが歓声を上げる――勝利の瞬間。

 運命は、その光景を静かに見つめていた。

 仮面のディスプレイに、紅い輝きが反射している。

 そして、玄鉄が気づかぬほど小さな声で、誰かに向けるように呟いた。

 

『……ねぇ、 ︎︎ ︎︎ ︎︎はどう思う? これは偶然、なのかな』

 

「……? どしたの?」

 

 玄鉄が振り返る。

 運命は小さく首を横に振り、淡く笑った。

 

『なんでもないよ』

 

 彼女は再び壁画へと目を向ける。

 

『きっと、これは魔剣だと思う。――それも、かなり強力な』

 

 壁画は続く。

 光の剣を掲げた男は、ただ戦い続けていた。

 鬼のような角を持つ存在と対峙し、異国の服装をまとう兵をなぎ払い、空を裂く竜を斬り伏せ、戦車や銃火器を備えた軍勢を退けていく。

 戦いは終わらない。

 それでも男は常に中心にいて、剣を掲げていた。

 

「第二軌道人類史に第五、第六らしいのも描かれてる……」

 

 玄鉄が顔をしかめ、肩をすくめる。

 

「うわ、ほんとに面倒なやつじゃん。勘弁しろよー……」

 

 うへぇ、と小さく声を漏らした。

 運命はその横で小さく笑う。

 けれど、その目は笑っていなかった。

 視線はさらに奥へと滑り、壁画の続きへ向かう。

 描かれた剣――その紅の色が、ほんの僅かに薄れていた。

 気のせいとも言えるほどの変化。

 だが運命は、その違和感を確かに覚えていた。

 光は衰えている。

 それでも男は戦いを止めていない。

 

 ――何を斬り続けていたのか。

 ――何のために、まだ立っているのか。

 

 地下の空気が、熱を孕んでわずかに震えた。

 霊子の灯が、まるで鼓動のように明滅していた。

 

 地下の奥へ進むにつれ、霊子の光はどんどん薄くなっていった。

 風は重く、湿った鉄と灰の匂いが漂う。

 それでも壁画の線は途切れず、二人の歩みに合わせるように続いていた。

 やがて、通路が広間へと開けた。

 そこには――壁画の終わりがあった。

 運命が感じていた違和感は、確信へと変わっていた。

 紅く燃えるようだった剣は、戦いを重ねるごとにその色を失っている。

 ひとつの戦いを終えるたびに、刀身の紅が淡くなり、

 男の背後の光も次第に弱まっていた。

 

 そして最後の一枚。

 そこに描かれていたのは、もう“戦い”ではなかった。

 男の姿は、どこにも無い。

 ただ一振り――色を失い、透き通った透明の刀身が台座に突き立てられている。

 剣の前で蹲る人々。

 その周囲を包むのは炎。

 熱だけが残り、希望も形も、描き手の筆跡すら燃え尽きているようだった。

 運命はしばらくその絵を見つめていた。

 静かな声が、闇の中で小さく響く。

 

『……ここで、終わりみたいだね』

 

「だねー」

 

 玄鉄が軽く伸びをして、肩を回した。

 

「ここまで丁寧に描いてあって、最後にコレとは……なんというか、燃え尽きオチってやつ?」

 

 その先には崩れた石扉があった。

 かつては厳重に閉ざされていたのだろう。

 いまは崩落し、瓦礫の隙間から淡い光が漏れている。

 近づくと、扉の破片にもかつての絵が刻まれていた。

 崩れていても分かる。

 透明な魔剣が、台座に突き立てられている――そんな構図だった。

 運命はゆっくりと崩れた隙間を覗き込む。

 地下の奥底に設えられた円形の部屋。

 中心に据えられた台座。

 しかし、そこには何もなかった。

 

『この神域の根幹の魔剣が、これなのかな?』

 

 仮面のディスプレイが淡く光り、霊子の粒子を反射させる。

 その青が、どこか不安げに揺れた。

 

「だとしたら、だいぶヒント貰えたって感じじゃん?」

 

 玄鉄が笑う。

 しかしその笑いは乾いていた。

 

「――まあ、貰えたとしても、どうするよって話ではあるけどね」

 

 ふたりの間に、静かな風が流れた。

 上から吹き下ろしてくるはずの風ではない。

 どこか下の方――空洞の奥から、息をするように吹き上がってくる。

 この神域を形作ったであろう魔剣。

 そして、その魔剣を手にした“魔剣使い”。

 姿はどこにも無い。

 だが、ここに在ったことだけは確かだった。

 

 運命はしばらく黙っていた。

 仮面の奥で、何かを繋ぎ合わせているような沈黙。

 壁画の中で、紅の剣が透明へと変わっていった光景と、消えた男。

 そして今、この神域の中で異形化したリンデン――。

 その輪郭が、脳裏で小さく重なっていた。

 

『――みんなとの合流を急ごうか』

 

 仮面のディスプレイが、わずかに青を強める。

 

『ちょっと……ううん、かなり嫌な感じがする』

 

 玄鉄は頷き、足元の瓦礫を蹴り飛ばした。

 

「同感。……この嫌な予感、外れたことないんだよねー」

 

 二人は崩れた扉を背に、再び闇の通路へと歩き出した。

 霊子の風が彼らの後ろを追うように流れ、

 透明な剣が描かれた最後の壁画だけが、静かに淡く光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神域の風は、血の匂いと鉄の粉を混ぜたような重さを持っていた。

 空は焼けただれたような灰赤色で、ところどころに漂う霊子の粒が、まるで亡者の吐息のようにゆらゆらと揺れている。

 その中を、トロイはひとりで歩いていた。

 瓦礫を踏むたびに足元の砂が音を立て、血の滲む左腕が衣の下で鈍く痛む。

 片割れの少女の放った光の奔流――あれに巻き込まれ、救出班は完全に分断された。

 瞬く間に視界は白に染まり、次に目を開けた時には、仲間の姿はどこにもなかった。

 呼吸を整える間もなく、トロイは自分の身体が裂けていることに気づいた。

 焼けた皮膚、折れかけた肋骨。

 それでも、ここで倒れれば“ただの肉”になるだけ。

 聖槍リタを握り直し、焦げ付く匂いを伴いながら光を流し込む。

 祈術はまともに織れない。

 この神域では、祈りの糸が霊子の濁流に絡まって切れてしまう。

 だから、治癒ではなく“焼灼”。

 痛みを伴う自己再生。聖槍リタの光で傷を灼き血を止め、裂けた筋を繋ぐだけの応急処置。

 

「……これで、まだ動けるかなー」

 

 息の音は、風に混じると消えるほどに小さい。

 けれど、確かに生きていた。

 トロイは、断崖の狭間を進んでいく。

 崩落した地形が幾重にも折り重なり、霊子の霧がそこに滞っていた。

 遠くでは、ナンナリスの砲身を抱えた異形たちが這いずり、肉と鉄を擦り合わせるような音を立てていた。

 その気配を避けるように息を殺し、祈りの代わりに呼吸を数える。

 一歩、また一歩。

 岩の影を縫うようにして、音もなく滑るように進む。

 彼女の胸中にあるのは、はぐれた運命たちでも、この神域の事でもなかった。

 ただ――一人の名前。

 

 リンデン。

 

 霊子の風が頬を撫でるたびに、その名が頭に浮かぶ。

 脳裏に焼き付いた光景。

 彼が笑っていた時の、目元の柔らかさ。

 最後に交わした視線。

 あの時、気づいていれば。

 あの時、手を伸ばしていれば。

 

 “彼が戻れなくなったのは、自分のせいだ”

 

 そう呟くと、胸の奥が痛む。

 リンデンは助けを求められなかったのではない。

 自分が、“助けて”と言わせなかった。

 ――自分が、言わせることを赦さなかった。

 その事実が、喉の奥に棘のように刺さっていた。

 

 あの夕暮れの日を思い出す。

 神域に降りる数日前。

 教会のステンドグラス越しに差し込む光が、長い影を床に落としていた。

 鐘の音が遠くで鳴り、教徒達に囲まれ談笑の声が響く礼拝堂に、気配を感じた。

 扉の隙間から覗いた先に――リンデンがいた。

 開かれた扉の影に身を潜め、こちらを見ていた。

 その瞳には迷いがあり、諦めがあり、そして何より、決意があった。

 彼は何も言わず、逃げるように去っていった。

 

 トロイは追った。

 沈む夕陽の中、路地を抜け、階段に座り込む彼を見つけた。

 項垂れた肩。

 何かを言いかけて、言葉を失った唇。

 トロイは逃げようとする彼を胸に抱き、ただ撫でることしか出来なかった。

 

「言いたい事は言わないとだめだよー」

 

 その言葉を軽く口にした時、自分はそれで十分だと思っていた。

 彼の心はきっと癒えて、また笑ってくれるだろうと。

 彼が自分に向ける想いに、無自覚なまま胡坐をかいていた。

 “この関係は壊れない”と、甘く信じていた。

 

 だが、あのとき彼は――確かに何かを言おうとしていた。

 そしてその言葉を、トロイが奪った。

 ――『私は、大丈夫です』と。

 その一言で、彼は自分の逃げ道を、自らで殺してしまった。

 だから今、彼は戻れない。

 助けを求められない。

 救われる資格を、最愛の姉(トロイ)に奪われたまま。

 

 風が断崖の奥から吹き抜けた。

 霊子の砂が舞い、血と灰が混ざった匂いが鼻を刺す。

 遠くで異形の叫びが響く。

 トロイは目を閉じ、リタを握り直す。

 その金属の冷たさが、かろうじて現実を繋ぎ止めていた。

 

 彼を見つけたら――何を言えばいいのだろう。

 赦しを乞うのか、抱きしめるのか、それとも彼を殺してやるのか。

 その答えはまだ出ていなかった。

 けれど、足は止まらない。

 神域の奥へと進む彼女の背中を、霊子の風が押していた。

 

 

 

 

 

 

 

 勘は、音より先に痛みになった。

 耳でも目でもなく、胸の奥の傷口が、静かにひとつ痙攣する。足が止まる。呼吸が浅くなる。赤黒い空の下、翡翠の粒子が舞い、砂塵の中で微かな振動が累積していく。大地が遠くから脈を刻むように、ひとつ、またひとつ。

 断崖が、砕けた。

 崩落の衝撃が遅れて頬を打ち、こめかみの鼓動と重なる。翡翠の霧が裂け、赤黒い光が柱となって吹き上がった。その中心に――人の形を、名残だけ残した“何か”が降り立つ。

 

 逆関節の二足が地を穿ち、砕けた岩片が雨のように降り注ぐ。

 左右の肩に嵌め込まれた“女性の形”をした肉塊は、まるで祈るように、いや、見せたくない真実を隠すように、異形の目元へ指を添えていた。指先は白く太く、吐息のたびに粘膜がきしむ。

 肥大化した両腕は、剛腕という言葉が追いつかない。筋束が幾重にも巻かれ、伸縮の度に“ぶちぶち”と繊維が結び直される音がする。左の巨腕は、その胸腔から“生えてしまった”誰かの頭部――

 

 ――リンデンというパーツを。

 潰さぬよう、しかし覆い隠すように抱え込んでいた。

 白い胸殻の隙間から覗くのは、まだ侵食を免れた頭と左肩、そして力なく垂れる左腕。血色は悪く、瞼は閉じ、唇は乾いて小刻みに震えている。そこに在るのは“個体”ではなく、“部位”。人だったものの、残余。

 

 女性達の掌に覆われた顔面の奥――見えないはずの視線が、確かにこちらを掴む。

 見られている。

 哀れみでも、怒りでも、飢えでもない、“捜す”目で。

 トロイは一歩、退いた。

 踵が砂を噛む。心は前を向き、足が遅れ、意志が追いつく。恐怖ではない。やらねばならない事への理解と、そのまえに立ちはだかる、人としてのごく小さな躊躇い――その二つが、喉の奥で擦れ合う。

 

 もう、彼は戻れない。

 ――もう、彼は“終わる”という言葉の中にしか、居場所がない。

 

 聖槍リタの表面に翡翠の光が映る。

 砂の上を転がる粒子の反射が槍身を撫で、刃の縁が冷たく呼吸する。

右の掌に汗が滲み、柄の刻み目が皮膚に食い込む。左手は自然に添えられ、肘の角度がいつもより少し低い――謝罪の前に祈る人の、姿勢。

 異形の足が、大地を砕いた。

 ひと踏みごとに翡翠の砂が跳ね、赤い風が巻く。背の重筋がゆっくり膨らみ、内部の液が喉鳴りのような音を立てて移動する。肩の“女性”たちの指が、ほんの僅かに開く。それだけで世界が軋む。

 

 “赦して欲しい、なんて言わない”

 

 声は空へ出ない。胸の中で反響して、骨を通して掌へ沈む。

 赦しは自分のための薬だ。いま必要なのは、薬ではない。

 

 “だけど、この子を終わらせるのならば――私がいい”

 

 言葉の形が、筋肉より先に動作になる。

 槍身がわずかに鳴り、刃の呼気が喉を冷やす。背筋が伸び、踵が地をつかみ、腰が沈む。両手で水平に構えたリタが、赤黒い空と翡翠の地平の間に一本の線を引いた。

 

境界――生と死、罪と願い、まだ続く声と、もう続かない声の、線。

 

 異形が胸殻をひとつ開き、内部の肉が“笑う”みたいに震えた。

 リンデンの左手指が、かすかに動く。助けて、ではない。止めて、でもない。名を呼ぶでもない。そこに含まれた全てを、トロイは勝手に受け取る。勝手に背負い、勝手に約束に変える。

 

「……うん」

 

 喉から零れた息が、肯定の形を取った。

 リタが淡く輝く。

 祈りではない光。だが、祈りの残骸でできた光。

 言葉が織れないこの神域で、唯一まだ自分が動かせる、“終わりのための”術式。刃の内側に編み込まれた微細な紋が、翡翠の粒と相互に干渉し、短い火花を散らす。

 

 引いた足を、一歩、前へ。

 砂が裂け、呼吸が合い、心臓が二回打つ間に、世界が無音になる。

 その無音の中央で、トロイは槍をわずかに捻った。初撃の角度。貫かず、削ぐ。殺しではなく“終い”の軌道。リンデンを殺さず、リンデンでないものを殺す――届かない理想の、最も近い近似。

 異形の巨腕が空気を押し潰しながら迫る。

 肩の“女性”たちの掌が開き、眼窩のない顔が、はっきりとトロイを視た。

 世界が動き出す。

 

「行くよ、リンデンちゃん」

 

 刹那、踏み込み。

 槍身が地平を裂き、翡翠の砂が後光のように散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊子の風が、ようやく止んでいた。

 岩壁に背を預けたプロブレムが、空に向かって大きく息を吐く。

 

「んー……生きてるって感じ!」

 

 その声に、斬が苦笑するように目を細めた。

 

「戦い続きで、生きてる実感が“戦闘”ってのも皮肉な話ですけどね」

 

「いいじゃない。生き延びてるだけで、立派な勝利よ」

 

 アンサーが落ち着いた声で答える。手には血のこびりついたタブレット端末。地図代わりに使うにはもう限界が近い。

 彼女たちは、クリーチャーの発生が少ない岩窟の一角で小休止を取っていた。

 その周囲には濡羽とオラスの姿もある。

 オラスは頬に傷を貼ったまま、隅の岩の上に座り、両足をぶらぶらさせている。

 

「……ねぇ、へーか達、ほんとにまだ生きてるかな……」

 

 ぽつりと漏らした言葉に、スリーが持っていた銃を磨く手を止めた。

 

「信じるしかない。少なくとも、閣下はそう簡単に潰えたりしないさ」

 

 低く、確信に満ちた声だった。

 濡羽は傍らで小さく舌を鳴らす。

 

「学習型のクリーチャーなんて、もう洒落になりませんよ……。

 倒しても倒しても、次はこっちの手を真似してくるなんて。訴えたいくらいです」

 

 その言葉に、プロブレムが軽い調子で笑う。

 

 「訴える相手がいないのが困りもんだねー。てかあれ、沸きすぎなくらい進化してるよね?下手な学習型AIより断然早いっしょ」

 

「脅威の適応速度、ですね」斬が頷き、額の汗を拭った。

 

「オレたちが戦ってる間に、あいつらは“次の戦い方”を覚えてる。

 しかも、個体じゃなく群れで共有してるように見える」

 

 アンサーは黙って槍の穂先を見つめていた。

 

「つまり、“今の私たち”が学習されてるということね」

 

 そう呟くと、全員がわずかに黙り込む。

 霊子の粒子が静かに漂い、空気が一瞬だけ重くなった。

 その沈黙を破ったのは、スリーの端末から鳴った微かな通信音だった。

 ノイズ混じりの声が、わずかに届く。

 

『――こちら、運命。応答できる人、いる?』

 

 全員が一斉に顔を上げた。

 アンサーの槍が小さく光り、濡羽が「きた……!」と息を呑む。

 プロブレムが慌てて手元のデバイスを叩き、ノイズを調整する。

 

「運命くんっ!? あーもう、やっとだよっ!」

 

『……アンサー、スリー、聞こえる? 私たちも合流できそう』

 

 運命の声は落ち着いていたが、その裏に疲労が滲んでいた。

 

『……神域の構造、少しだけ分かったよ。玄鉄と一緒にそっちへ向かうね』

 

 短い沈黙。

 そして、アンサーが小さく頷いた。

 

「了解。こちらも戦線を整え直すわね」

 

 通信が切れたあとも、しばらく誰も口を開かなかった。

 やがて、スリーがゆっくり立ち上がる。

 

「行こう。どうやら、次の戦場が待っているらしい」

 

「ええ、でも焦っちゃダメよ?」アンサーが微笑む。

「二人とも、無事でよかったです……」濡羽が小さく呟く。

「ほんと、それ」オラスが苦笑して肩をすくめた。

 重い空気が、わずかにほぐれた。

 だが誰も気づかない。

 遠く――霊子の風の向こうで、神域全体がかすかに震えたことを。







恐らくここからひたすらボスラッシュばりの連続戦闘(10万字予想)が続くので、息継ぎの為に話の間(1.2.閑話.3.4みたいな感じ)でも閑話を差し込むべきかどうか。

  • ずっと戦闘でもいいよ、あまり気にしない
  • 息継ぎは欲しい、差し込んで欲しい
  • 叡智閑話
  • イベのトロイさんちゃんの掘り下げビビった
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