トロイさんメインイベントに現在進行形で震えているので初投稿です……。
短いんですけどエタるよりはマシの精神で……。
最後にアンケート投げます。
《我らは、輪壊者である》
その言葉が、音としてではなく意味そのものとして、第十三層の上層甲板に落ちた。
直後、荒く吹き抜ける風が甲板を薙ぎ払う。
GARDENの防壁に守られているはずの空間で、ありえないほどの乱流が発生し、警告灯が低く唸るような音を立てて点滅した。
空気が、削られている。
正確には、この空間に存在するはずの“余白”が、意図的に剥ぎ取られていく感覚だった。
空に浮かぶ異形は、ひどく歪だった。
白い筋繊維で構成された肉体は、人の形をしていながら人ではない。
関節はすべて逆向きに折れ曲がり、脚は獣のように、あるいは壊れた人形のように、不自然な角度で宙を掻いている。
肩から生えた女形の肉体――それは装飾でも擬態でもなく、明確な“構造物”として存在していた。その手は、あるはずの双眸を覆い隠すように添えられ、視線の所在を意図的に拒絶している。
そして背中。
翼と呼ぶにはあまりに異様なそれは、羽毛でも膜でもなく、
一本一本が“指”の形をした肉の束で構成されていた。
指が、指としての役割を放棄したまま連なり、ぎちぎちと擦れ合い、意味を失った拍動で空を打つ。
飛行能力があるとは思えない。
だが、それでも――確かに異形は、宙に“在った”。
落下でも、浮遊でもない。
まるでそこが、本来立つべき場所であるかのように。
その存在を前に、四人の騎士は自然と散開していた。
最前に立つブルーは、蒼い長髪を荒風に翻しながら、聖弓ベルガンテを強く握りしめている。
その指先には、僅かな震えがあった。恐怖ではない。昂りと、抑えきれない違和感だ。
モノは一歩後方で、すでに演算を開始していた。
視界に展開される数値群が次々と弾かれ、彼女の眉がわずかに寄る。
解析できない。否――前提条件が存在しない。
この敵は、計算式の外側に立っている。
久理は、無意識に胸元を押さえていた。
悪霊たちが、彼女の周囲でざわついている。
恐れているのではない。理解できないものを前に、距離を測りかねているのだ。
久理は唇を噛み、いつもの大仰な口上を封じたまま、ただ目を見開いて空を見つめていた。
そしてカノン。
巨大な聖剣を静かに構え、四人の中でただ一人、呼吸を乱していない。
敵を“見ている”のではなく、戦場そのものを把握している視線だった。
――この場に立つ誰もが、理解していた。
これは、ただの侵入者ではない。
GARDENに現れた“異物”でも、“敵勢力の先兵”でもない。
この存在は、自分たちが立っている世界の在り方そのものを、否定しに来ている。
白い異形が、ゆっくりと翼を畳む。
その動作に合わせるように、風が一段、強くなった。
“輪壊者”。
その名を、誰も口にはしなかった。
だが、四人の騎士はそれぞれの得物を、確かに握り直していた。
――それは、本当に些細な違和感から始まった。
GARDENの下層で、何かが失くなる。
設備が壊れたわけでも、警報が鳴ったわけでもない。
ただ、そこにいたはずのものが、いなくなる。
記録を辿ろうとすれば、最初から存在しなかったかのように、ログが途切れている。
次いで観測されたのが、蒼空防壁の異常だった。
防壁強度そのものは維持されている。
だが位相に、僅かな偏差が生じている。
“破られている”のではない。
繰り下げられている――本来あるべき層が、ひとつ低い段階へと押し込められていくような、不自然な歪み。
その時点では、まだ誰も確信を持てていなかった。
未知の干渉か、観測系の誤差か、あるいは一過性の不具合か。
GARDENほどの規模になれば、些細な異常は常に発生している。
だが、それらの現象が確認されてから、ほとんど間を置かず――明確な脅威が姿を現した。
翡翠色の粒子。
それは破壊的なエネルギーでも、目に見える兵器でもなかった。
光に近い。
いや、もっと正確に言えば、存在の輪郭だけを持った“何か”だった。
蒼空防壁を、抵抗もなくすり抜ける。
貫通したのではない。
まるで最初から、防壁の対象外であるかのように、位相の隙間を滑り抜けていく。
気流に乗るように、翡翠の粒子は漂い、
ランヴィリズマの最下層から、ゆっくりと、しかし確実に上層へと駆け上がっていった。
その軌跡は、あまりにも静かだった。
爆発も、悲鳴も、衝撃波もない。
ただ、通過した先の“命ある物”が、消える。
人間。
動物。
植物。
稼働中の作業員。
避難誘導中だった職員。
消失は平等だった。
善悪も、立場も、年齢も関係ない。
存在していたという事実そのものが、静かに剥ぎ取られる。
警告が上がった時点で、すでに遅かった。
統計が集計され、初めて“数字”として提示された時、それは冷静な報告文の形をしていた。
――GARDEN内人類消失率、約3%。
パーセンテージで見れば、ささやかな数字だ。
致命的とは言い切れない。非常事態ではあるが、壊滅ではない。
だが、それを“数”に換算した瞬間、その現実は、容赦なく牙を剥いた。
数十万人。
名も、顔も、生活も持っていた人間が、
何の痕跡も残さず、この世界から消え去ったという事実。
遺体はない。負傷者もいない。
助けを求める声すら、残っていない。
そこにあったのは、『いたはずの空白』だけだった。
GARDENは、ようやく理解する。
これは事故ではない。
災害でもない。
――侵食だ。
そしてその侵食の根源が、すでに第十三層へ姿を現していた。
「――コード展開。相手方の情報が足りなさ過ぎるのが、癪だけど」
モノの低い声と同時に、肩から下げられた大型デバイス《氷冥桜》が、わずかに唸りを上げた。
次の瞬間、冷気が“音もなく”解き放たれる。
甲板の表面を、白く薄い霜が走り抜けていく。
それは氷結ではない。
温度を下げているのではなく、情報の揺らぎを固定しているかのような、不自然な冷たさだった。
氷冥桜の内部では、0と1――二進数で構成された霊子コードが高速で循環している。
数式。
構文。
論理的に切り出された“否定”の集合。
それらが呪術として再構築され、段階的に展開されていく。
空間の一部が、モノの管理領域へと組み込まれていく感覚。
「存在値固定……第一層。観測補正、第二層。――やっかいね、これ」
モノは視線を一切動かさず、淡々と処理を続ける。
数値は取れない。
だが、“揺れない部分”だけは掴める。
その一瞬の安定を、逃さなかった。
「行きます!ブルー、援護お願いっ!」
声を上げ、最初に踏み込んだのはカノンだった。
純白のコートが大きく翻り、風を切る。
手にした巨大な聖剣が、迷いのない軌道で振り抜かれ、甲板上の空気を一気に切り裂いた。
刃に纏った光が、一直線に輪壊者へと迫る。
だが――輪壊者は、その巨体からは想像もつかない速度で身を捻った。
跳躍ではない。
回避でもない。
“そこに当たらない動き”を、最初から選択しているような挙動だった。
聖剣の光を、なぞるように。あたかも何度も見てきた軌道であるかのように、白い肉体が最短距離で詰めてくる。
「――っ!」
距離が一気に詰まる。
突き出された手刀が、カノンの顔面を正確に捉えようとした、その刹那。
――弾けた。
音速を超えた霊子の矢が、横合いから飛来し、輪壊者の腕に突き刺さる。
直後、圧縮された霊子が内部から爆ぜ、白い筋繊維を強引に引き裂いた。
「させない」
ブルーの声。
蒼い軌跡を残しながら放たれた矢が、的確に“殺しに来た部位”だけを撃ち抜いている。
軌道を逸らされた腕の内側へ、カノンは即座に踏み込んだ。
防御に回る暇を与えず、横薙ぎに聖剣を振るう。
だが、輪壊者は半歩だけ下がった。
それだけで、刃は届かない。
――その瞬間だった。
「くっくっく!待っていたぞ、この刻を!」
甲板の影から、奇妙な霊的反応が弾ける。
鬼とも猫ともつかぬ形状の霊魂が、甲板を蹴るようにして跳躍した。
久理の死霊術だ。
「冥王クウリアンセムの悪霊さん特製!直撃サービスっ!」
霊魂は輪壊者の側面へと衝突し、接触した瞬間に爆散する。
肉体ではない。
存在位相そのものを削る衝撃が、白い身体を歪ませた。
輪壊者の動きが、ほんの一瞬、止まる。
「今!」
カノンが叫び、ブルーが次の矢を番える。
モノの演算が、さらに一段階深く潜る。
甲板の上で、四人の役割が噛み合っていく。
成立している。
確かに、この戦いは――人類側の技術と意思で、成立している戦闘だった。
それでも。
白い異形は、ゆっくりと体勢を立て直した。
削れたはずの腕が、筋繊維を軋ませながら再構築されていく。
まるで、それらはすでに想定内だと、そう告げるかのように。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
運命の展開した限定神域が、震えた。
それは爆発でも、衝撃波でもない。
空間そのものが、「噛み合っていない歯車」を無理やり回されているような、不快な揺れだった。
神域は、本来ならば神や天使といった高位存在の干渉を前提に構築されている。
概念の上書き。
奇跡の定義。
因果の一時的な歪曲。
だが、今この場に存在する異形は、それらとは明確に異なる強度を持っていた。
神でも、天使でもない。
それでいて、人でもない。
“意味の階層”が違う存在が、神域の内側から、その基盤に爪を立てている。
『……っ』
運命は、喉の奥で小さく息を詰めた。
視界に走る神域構築の波が、明らかに不安定化している。
維持はできる。
だが、余裕はない。
その目前で、オラスが輪壊者の剛腕を魔拳で受け止めていた。
白い筋繊維で構成された腕と、装甲に霊子を凝縮した魔拳が拮抗し、ぎちぎちと嫌な音を立てながら、互いに押し合っていた。
「っ……くぅ……!」
オラスの額を、冷や汗が伝う。
歯を食いしばりながらも、視線は決して逸らさない。
「どうする陛下!?
オラスたち、めっちゃ不利どころか……これ、無理ゲーに足突っ込んでるんだけど……!!」
悲鳴に近い声。
だが、それは恐慌ではなかった。
状況を正確に把握した上での、正直な報告だ。
その言葉の横で、他の騎士たちもそれぞれに戦線を維持していた。
斬は、刃を振るい続けながら、クリーチャーの群れを一体ずつ確実に切り伏せている。
濡羽の魔術陣が地面に刻まれ、侵入経路を限定する。
玄鉄は詠唱を短縮し、古典魔術で空間の歪みを押さえ込む。
プロブレムのドローンが空を縫い、敵味方の間を高速で往復する。
アンサーは前線を渡り歩き、最も“正解に近い”位置へと突撃を繰り返す。
スリーは後方から火力を再配分し、無駄撃ちを許さない。
トロイの祈術が、傷ついた者を最低限、戦線に留め続けている。
――全員、役割は完璧だ。
連携も取れている。
判断も早い。
誰一人、手を抜いてはいない。
それでも。
状況は、明らかに不利だった。
相手は輪壊者と名乗る四体。
それぞれが独立した脅威でありながら、連結した思想と最適化を共有している。
加えて、周囲にはナンナリスクリーチャーの群れ。
実質、連戦に近い消耗状態の彼らに対して、これはあまりにも過剰な戦力だった。
撤退はできない。
神域を解除すれば、被害は即座に拡大する。
ここで踏みとどまらなければ、間を置かずすべてが呑み込まれる。
運命は、視界の端で仲間たちの状態を確認しながら、奥歯を噛みしめた。
――分かっている。
――このままでは、持たない。
だが同時に、彼女は理解していた。
これはまだ、終わりではない。
この戦線は、勝つためのものではない。
“何と戦っているのかを、見極めるための場”なのだと。
神域は、再び小さく震えた。
主核個体は、動いていなかった。
神域に展開された限定空間の外縁――その境界近くに立つ“それ”は、
戦場全体をまるで舞台でも眺めるかのように、沈黙のまま佇んでいた。
周囲を包む霊子の流れすら、そこだけ淀むことなく、奇妙な静寂に包まれている。
風も、粒子も、視線も、“それ”に触れることを拒んでいるかのようだった。
それが動かない限り、この戦場はまだ保たれている。
――逆に言えば。
ひとたびあの主核が一歩でも踏み込めば、戦線は即座に崩壊する。
全員が、そのことを理解していた。
誰も、口には出さなかった。
出してしまえば、それが現実になってしまう気がしていた。
その異様な静けさの中で――運命の仮面の奥へ、通信が走った。
『――運命陛下、楽園聖典から通信!』
リーインシアの声だった。
戦闘の喧騒と緊張に満ちた場の中でも、彼女の声は冷静にして明瞭だった。
『付近に展開していた騎士とガーデナー達が、そちらに援護に向かってます!』
一瞬、運命の仮面ディスプレイに情報が走る。
神域の外縁に展開していた“緊急対応部隊”。
恐らく、“何かがあった時”のために、メイズがあえて配置していた布陣だ。
運命は小さく頷いた。
それは、リーインシアへでも、仲間たちへでもなく――自分自身への肯定だった。
『それなら……』
仮面越しに、彼女の声がこぼれる。
『――まだまだ、頑張らないと、だね』
声は震えていなかった。
だが、明確に“支え”を得た者の音色を持っていた。
深呼吸するように、神域がまた一度だけ波打った。
限定された空間の中で、“一歩だけ”未来が延長された音が響いた。
そして、運命は再び前を見た。
主核個体は、まだ動いていない。
だが――見ている。
あらゆる可能性と構造を、ただ観測している。
援軍は間に合うか。
この布陣は、あと何秒耐えられるか。
そのすべてを、何の感情もなく“意味”だけで測ろうとしている瞳の奥。
運命は拳を握り直し、小さく息を吐いた。
『リーインシア、みんなに伝えて。――間に合うって、信じてるって』
その言葉は、戦況を変えるものではない。
だが確かに、その場にいる全員の心を、ほんのわずかに前へ進めた。
――まだだ。
――ここでは終わらせない。
援軍の足音が、遠くの神域霊子の波にかすかに揺れをもたらした。
その振動は、静かに、だが確かに、輪壊者の領域へと近づいていた。
恐らくここからひたすらボスラッシュばりの連続戦闘(10万字予想)が続くので、息継ぎの為に話の間(1.2.閑話.3.4みたいな感じ)でも閑話を差し込むべきかどうか。
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ずっと戦闘でもいいよ、あまり気にしない
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息継ぎは欲しい、差し込んで欲しい
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叡智閑話
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イベのトロイさんちゃんの掘り下げビビった