扉の前で、風が頬をなでた。
少しだけ冷たくて、でも痛くはない。季節が変わったことを知らせるような、優しい風だった。
「いってらっしゃい、リンデン」
背中にかけられた声に、彼はふり返る。
黒いディスプレイ付きの仮面をつけたままの久条運命が、ほんの少し首をかしげて手を振っていた。
リンデンはこくんと頷いて、何も言わずに歩き出す。
言葉はなくても、ちゃんと伝わっていると思えた。いつもそうだった。
通路は、よく磨かれていて静かだった。
子供用に設定された足音の反響は、控えめに調整されている。それでも、ひとりで歩くには広すぎて、何となく落ち着かない。
けれど今日は、その先に「声」がある。自分に向けられるかもしれない声。輪の中に混ざってもいいと思える声。
――最初は、怖かった。
初めてあの子たちを見かけたとき、リンデンは影の中から、じっと見ているだけだった。
走る音、笑う声、呼びかけあう名前。
それらは全部、彼にとって“遠い世界の音”だった。触れたら壊れてしまいそうな、きらきらとしたもの。
「おはよう、きみもあそぶ?」
だから、声をかけられたとき、夢みたいだった。
振り返ると、そこにいたのは、自分より少しだけ背の高い女の子。
ユナ――その名前を名乗った彼女は、迷いなくリンデンの手を取ってくれた。
手のひらは小さいのに、なぜかとても安心する温度をしていた。
「だいじょうぶだよ。みんな、やさしいよ」
そう言われたとき、本当にそうかはわからなかったけど、
ユナの顔がやさしくて、強くて、怖くなかった。
だから、頷いた。
それが、はじまりだった。
あの子たちの輪の中に入るのは、まだ少し緊張するけど、もう怖くはない。
カイはちょっとうるさいけど面白いし、ユナはいつでも気づいてくれる。
だから今日は、自分から行ってみる。
そう思って、少しだけ早足になる。
広場が見えてきた。人工の木々の枝が、ほんのりと赤みを帯びて揺れている。実はついていないけれど、リンデンはそれを“秋の木”と呼ぶようになった。
音が近づく。声が、名前が、笑いが。
リンデンは、小さく深呼吸して、一歩踏み出した。
広場の端まで来たところで、彼女が気づいた。
「あ、リンデン!」
ユナが手を挙げて駆け寄ってくる。
その動きは軽やかで、どこか風のように自然だった。
リンデンは少しだけ立ち止まった。
けれど、ユナが迷いなく伸ばした手を見て、そっとその手を取る。
「今日も来てくれてうれしい。ほら、みんなあっちー」
柔らかい指に引かれて歩き出すと、すぐにカイの声が響いてきた。
「お、リンデン! 来た来たー!」
彼は手を振るでもなく、何となく得意げな顔で立っていた。
その周りでは、もうひとりの女の子が何かの絵を描いていて、双子のようにそっくりな男の子たちは拾った棒で地面を叩いていた。
「じゃあさ、リンデンも入れて、また鬼ごっこやろーぜ!」
「こんどはカイが鬼だよ!」
「えっ、また!? 昨日もオレだったのに!」
そんな声が交錯するなかで、リンデンは黙って首を振った。
「自分が鬼でもいい」と言いたかったのかもしれない。でも、うまく言葉にならなかった。
「じゃあ、リンデンが鬼なー!」
「えー、だめだよ、まだ慣れてないんだから。ユナが鬼ね!」
「えぇー!? わたしー!?」
笑い声が響く。
誰も彼を置いていかない。
その事実だけで、心が少しあたたかくなる。
広場の空は、人工の天井越しに金色の光を注いでいた。
風は心地よく、季節の区切りを知らせる演出が、肌をほんのり撫でていく。
誰かが転んで、誰かが笑って、誰かがそれを助け起こして。
そんなありふれたやりとりの中に、リンデンは混ざっていた。
最初は足元ばかり見ていたが、気づけば視線が上がっていた。
そして一度だけ、笑った。
それは小さな笑みだったけれど、確かに本物だった。
──陽が傾き始めたのは、それからしばらくしてからだった。
遠くで呼びかける声が聞こえた。
名前を呼ぶ母親の声。誰かの手を引く父親の影。
空調システムの音が少しだけ変わり、人工の夕方が始まる。
「あっ、もう帰る時間だー」
「お母さーん!」
「じゃあ、また明日ね!」
ぱたぱたと走り出す小さな背中。
親の元へ向かう足音が、広場から少しずつ減っていく。
ユナも振り返って、小さく手を振った。
「リンデン、ばいばーい!」
カイも口の中で何か言いながら、後ろ手にぶんぶんと手を振る。
リンデンはその場に立ったまま、そっと手を挙げた。
声にはならなかったけれど、指先がゆっくりと揺れる。
それだけで、充分だった。
彼は、今日、友達と遊んだ。
名前を呼ばれた。笑った。手をつないだ。
──それは、きっと忘れてはいけない時間だった。
部屋の扉が静かに開いた。
足音は小さく、けれど急ぎ足だった。
柔らかな照明が差し込む中、リンデンは息を吐くように歩を進める。
奥のソファに座っていたのは、いつもの少女――久条運命だった。
彼女は仮面を外していない。いつも通り、黒いディスプレイ付きの面が顔を隠している。
けれどその静かな佇まいは、見慣れた安心を含んでいた。
『おかえり、リンデン』
やさしい声だった。
リンデンは小さく頷き、いつもの場所に座る。
運命は軽く身体を傾け、ソファの端をぽん、と叩いて見せた。
少年は少し躊躇ってから、遠慮がちにその隣に腰を下ろす。
背中には疲れがあったけれど、それよりも、どこか満たされた感覚の方が強かった。
しばらくの静寂のあと、運命が口を開いた。
『リンデン、今日は楽しかった?』
仮面から発されたその声には、どこか眠たげな優しさが滲んでいた。
リンデンは、すぐには答えなかった。
けれど、やがてぽつりと、言葉がこぼれる。
「……うん、楽しかった」
それは、たしかな実感だった。
ユナの手の感触も、カイの笑い声も、まだ耳の奥に残っている。
「明日も、また遊ぼうって……言われたよ」
言葉を口にした瞬間、ディスプレイに光が灯った。
淡い青の線が滑らかに曲がり、微笑みのかたちを描き出す。
『そっか。それは、よかった』
運命はゆっくりと、彼の頭に手を乗せた。
いつも付けている手袋の手ではなく、素肌の指先。
その温もりは、今日の太陽と同じように、確かだった。
リンデンは、少しだけ目を閉じた。
まぶたの裏に、秋の広場が残っていた。
食器の音が、控えめに響いていた。
朝の光は白く、カーテン越しに差し込んで床を染める。
GARDEN第六層、運命の私室。
その一角、整えられたダイニングの椅子に、リンデンがちょこんと座っている。
テーブルには食べ終えた皿と、まだ温かい湯のみ。
今日の朝食も変わり映えはない。でも、昨日より少しだけ味を感じたような気がした。
『リンデン』
声に顔を上げると、運命が仮面ごしにこちらを見ていた。
今日も相変わらずの無機質な仮面。でも、そこから発される声にはちゃんと“日差し”があった。
『今日はトロイがこっちに来てくれるみたいだよ』
その言葉に、リンデンは少しだけ目を見開く。
そして、静かにこくんと頷いた。
「うん。……今日は、早く、戻るね」
それは、昨日が“帰ってきた場所”として記憶された証だった。
外に出ることが“戻ること”に変わった。たったそれだけで、少しだけ世界が広がる。
『うん。気をつけてね』
仮面のディスプレイが、またゆるやかに笑う。
運命の手がゆっくりと上がり、扉の前まで見送る姿勢をとる。
リンデンは、きちんと靴を履いて、いつものように背筋を伸ばして立つ。
そして、振り返らずに「行ってきます」と、心の中でだけ呟いて、扉をくぐった。
扉が閉まると、部屋の中には静寂だけが残る。
けれど運命の仮面には、しばらくの間、微笑が灯ったままだった。
広場への道は、もう怖くなかった。
朝の風は昨日よりも少しひんやりしていて、足元をすり抜けるたびに、秋が深まっていくのがわかった。
リンデンは足を止めずに歩いた。
遠くから聞こえる子供たちの声が、まるで灯りのように彼を導いていた。
「リンデンー!」
広場の端で、ユナが大きく手を振った。
今日も変わらず、彼女の笑顔はあたたかい。
駆け寄ってくると、ユナはいつものように手を取ってくれた。
まるで昨日と何も変わっていないことを、指先の温度で確かめるように。
「今日はね、みんなで何しようか決めてるところだよ!」
リンデンはこくんと頷いて、引かれるままに歩く。
輪の中心では、カイが腕を組んで何やら考え込んでいた。
「おっ、リンデン! 来たなー!」
「今日はさー、ちょっと面白いことしたいって話してたとこ!」
もうひとりの男の子が、昨日より一回り大きな棒切れを抱えていて、女の子の一人が地面に丸を描いている。
「昨日ね、うちのお父さんがガーデナー特集見ててさー!」
最初に話し出したのは、双子のうちの兄の方だった。
目をきらきらさせながら、ガーデナーがどうやって戦ってるか、どんな装備を使ってるかを早口で話す。
「ガーデナーってかっこいいよな! 本物の剣とか、爆発とか、めちゃくちゃ強い!」
「ねー、それで遊ぶってどう?」
「でもガーデナーって、大変なんだって。わたしのママが言ってたよ、すごく危ないんだって」
「ほんとは“ならないほうがいい”って、パパ言ってた……」
話題が少し沈んだそのとき、ひとりがふとリンデンの方を向いた。
「ねぇ、リンデンはどう思う? お兄ちゃんとか、ガーデナーでしょ?」
全員の視線が、自然と彼に向いた。
急に静かになった空気の中で、リンデンは少しだけ戸惑った顔をした。
けれど、やがて小さく頷いて、静かに答える。
「……うん。お兄ちゃんと……お姉ちゃんが、言ってたよ。すごく、強くて……でも、こわいって……」
その言葉に、少しだけ空気が変わった。
ユナは隣で小さく頷きながら、そっと手を握ってくれる。
カイは腕を組みなおして、ふむ……と唸る。
「……よし、決めた。今日の遊び、ガーデナーごっこな!」
カイの声が響いた瞬間、広場の空気がぱっと明るくなる。
昨日と同じ笑い声。昨日と同じ顔ぶれ。
でも、何かが少しだけ違っていた。
「でも、どうやってやるの? ガーデナーって戦ってばっかりだよ?」
「うーん、じゃあさ、やっぱ“悪い天使”と戦うってのが一番それっぽくね?」
「たしかに! 天使って、人間にひどいことするんだよね!」
「わたし、テレビで見た。お城みたいな場所がぐしゃってなってたの」
「お兄ちゃんが言ってた。羽があって、空から降りてくるって」
子供たちは、それぞれの“ガーデナーの知識”を口々に話しはじめる。
断片的で、曖昧で、それでも確かに“戦いごっこ”にふさわしい興奮がそこにはあった。
「じゃあさ、だれが“悪い天使”やるの?」
その言葉に、ぴたりと場が止まった。
「えー……やだよ、天使役なんてー」
「こわいもん。ガーデナーにやられるし……」
「やったふりでも負けたくないよ」
皆が目を伏せる中、カイがふと、リンデンの方を見た。
「……なあ、リンデン。おまえ、お兄ちゃんもお姉ちゃんもガーデナーなんだろ?」
リンデンは、少しだけ身体を縮こまらせる。
それでも、頷いた。
「じゃあさ、“悪い天使”ってどういうのか、知ってるよな?」
──知ってる。
どこまでが知識で、どこまでが刷り込みかわからないけど“人間を傷つける敵”という言葉だけは、何度も聞いた。
リンデンはゆっくりと顔を上げて、言葉にはせず、でもはっきりと──頷いた。
「よっし、じゃあ決まり!」
「リンデン、天使役ね!」
「こわーい天使になってね!」
「ちゃんと、悪い天使やるんだぞ!」
カイの言葉が、どこか無邪気に、そして強く響いた。
その瞬間、リンデンの中で、何かが“正しく”噛み合った。
“ちゃんと、悪い天使をやらなきゃ”。
それが“自分に求められている役割”だと、彼は確かに思った。
そして、その期待に応えることこそが、“輪の中にいられる条件”なのだと、信じた。
だから、もう一度頷いた。
そして、ほんの数秒ののち。
リンデンは、本当に“悪い天使”になった。
空気が歪んだ。
風が止んだ。
音が、消えた。
広場の中心で、リンデンの周囲に、何かが現れた。
法則も、形も、秩序もない。
ただ、幼い想像と、無垢な従順が、空間そのものを侵した。
神域が、発生した。
柔らかな人工光が、静かに揺れていた。
第六層、運命の私室。
空調は微かに動き、機械音のような静けさが室内を包んでいる。
リンデンが外に出てから、まだそれほど時間は経っていない。
ぴ、と控えめな音がして、スライドドアが横に開いた。
「運命ちゃん、お邪魔するよー」
薄桃色の髪を編み込んだシスター服の少女が、部屋の隙間からひょっこりと顔をのぞかせる。
彼女の声は、いつものように気だるげで、けれどどこか気楽な明るさを帯びていた。
ソファに腰を下ろしていた運命が、静かに顔を向ける。
仮面のディスプレイには変化はないが、その視線には親しみがあった。
『トロイ。いらっしゃい』
その一言に、トロイはにこっと笑って、遠慮もなく室内へと入ってくる。
靴音も柔らかく、空気を乱さないような足取りで、ソファの近くまで歩いてきた。
「リンデンちゃんは今日もお友達のところかなー?」
問いかけながら、空いた席に腰を下ろす。
膝の上に手を乗せ、くるくると指先で帯を巻き取るような仕草をしながら、続けた。
「ほんと、ちゃんと良い子に育ったねー。トロイさん、ちょっとだけ感動してて草ー」
冗談めかした口調だったが、そこには本当に――少しの、誇りのようなものが滲んでいた。
『そうだね』
運命は、仮面越しに小さく頷いた。
『みんな、良い子になるように……ちゃんと、頑張ったから』
その言葉は、どこか遠くを見ているようだった。
過去の記憶に触れているのか、それともまだ先の未来を見ているのか。
トロイは何も言わずに、ただふわっと微笑んで頷いた。
「……あーあ、でもこれでリンデンちゃんも、お姉ちゃん離れかなー」
トロイがふいに天井を仰ぎ、溜息まじりにそう言った。
その声音には、わざとらしい芝居が混じっていて、どこか楽しげでもあった。
「トロイさん、悲しくて涙の雨が降って、川ができちゃいそうー……」
袖口で目元をこすりながら、“よよよ”と肩を揺らして泣き真似をする。
その動きはどこまでも誇張されていて、見ている方が笑ってしまいそうなほどだった。
ソファに座る運命は、口元をほんの僅かに緩める。
仮面のディスプレイに浮かんだ線が、かすかな苦笑を描いた。
『それは、ないよ』
言葉は静かだったが、その裏にある確信は揺るぎなかった。
『だって、リンデンがいちばん懐いてるのは、トロイだから』
その瞬間、トロイは泣き真似の手をぱっと降ろして顔を上げる。
仰々しかった芝居が一瞬で霧散し、代わりに、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
「……そうー?」
声にはケロッとした軽さが戻っていた。
瞳が細まり、目尻がふにっと柔らかくなる。
「ふふん、まあトロイさん、顔も性格も良いからねー。リンデンちゃんが懐くのも無理ないかー」
おどけるようなその口調には、少しだけ照れ隠しが混じっていた。
それが分かるから、運命は仮面の奥で目を細める。
『……うん。そうかもね』
小さく息を吐くようにそう返すと、彼女は手元のカップを両手で包み込んだ。
仮面越しの沈黙に、湯気が一筋、揺れる。
『リンデンには、今日はトロイが来てくれるって伝えたから……たぶん、すぐ帰ってくると思うよ』
部屋の中に微かな振動が走る。
誰かが戻ってくる、という小さな期待が、ふたりの間に仄かに灯った。
「ほんとに慕われてて草ー……リンデンちゃん、トロイさんのこと好きすぎて森ー……そーゆーとこが可愛らしくって花ー」
トロイはそう言って、ふわりと足を組み直した。
椅子の背に軽く身体を預け、天井を見上げる。
彼女の表情は、まるで“すぐそこにある未来”を思い描くように、穏やかだった。
時間は、ゆっくりと流れていた。
ふたりの会話を包む空気は、どこまでも穏やかだった。
けれど、その静けさの奥で、目に見えない歪みが、ゆっくりと広がっていた。
トロイが天井を見上げて足を揺らしていたそのとき、テーブルに置かれたカップの水面が、ほんのわずかに揺れた。
空調の風が変わったわけでもない。音も、気温も、何も変わってはいない。
けれど、確かに“何か”が動いた気配があった。
「……ん?」
トロイが目を細める。けれど、すぐに視線を戻した。
気のせいかもしれない。そう思えるほど、揺れは小さく、一瞬だった。
その瞬間、運命の仮面にオレンジ色の小さなアラートが浮かぶ。
無音の通知。簡易コード。座標・値・揺らぎ。
《第六層、局所位相歪曲を感知。評価:未確定》
仮面越しにそれを読み取った運命は、そっと指を動かし、通知を閉じる。
『……小規模な観測異常。誤報の可能性が高いみたい』
「またー? 最近ほんと多くて草ー。どうせまた空間制御がアメーバ起こしてるんでしょー?」
トロイは苦笑まじりにそう言って、ソファに背を預ける。
けれどその顔には、ほんのわずかに緊張の影が混じっていた。
再び訪れる、沈黙。
窓の外には何の異変もなかった。
でも、部屋の中の空気が少しだけ重たく感じられた。
「……ねえ、運命ちゃん。さっきの、ほんとに誤報?」
トロイが少し真面目な声で尋ねる。
その問いに答える前に――それは、起きた。
ごう、という風のような音。
けれど、それは風ではなかった。
“空間そのものがきしむような音”だった。
ほんの一拍の間を置いて、機械音声が空間に割り込んでくる。
『非常警戒通達。第六層居住区内、局所空間異常を検知。関係部隊は直ちに……』
警報が遅れて鳴り出す。
照明が一度だけ短く明滅し、テーブルの上にあるカップの湯面が明確に波打った。
ソファにいたふたりの視線が、ぴたりと交差する。
遅すぎる反応。あまりにも小さかったはずの揺らぎが、いま確かに“異常”へと変わっていた。
警報が響き続けていた。
それはいつもの訓練用のサイレンではない。
冷たく、切迫した“実際の音”だった。
運命の仮面に表示された座標情報が、赤く更新される。
第六層、居住区画。誤報ではなかった。
ソファに座っていたふたりは、ほぼ同時に立ち上がる。
トロイの表情からは、冗談の色が消えていた。
編み込まれた薄桃色の髪が揺れ、足元の影がすっと伸びる。
「……陛下。ブレイドライン、何時でも呼び出せるよー」
その言葉には、明確な切り替えがあった。
普段は“運命ちゃん”と呼ぶ彼女が、“陛下”と名を変える。
それはトロイメライが《第一騎士団》としての戦闘体制に入った証だった。
運命は仮面のまま、正面を見据える。
『うん。いざという時に、お願い』
その言葉だけで、すべては通じた。
二人の動きは迷いなく、無駄もなかった。
足音が床に響き、スライドドアが音を立てて開く。
少女たちは、もう“平穏”には戻らない。
駆け出す背中の先に待つものが何かを、まだ知らないままに。
湿気「やあ」
恐らくここからひたすらボスラッシュばりの連続戦闘(10万字予想)が続くので、息継ぎの為に話の間(1.2.閑話.3.4みたいな感じ)でも閑話を差し込むべきかどうか。
-
ずっと戦闘でもいいよ、あまり気にしない
-
息継ぎは欲しい、差し込んで欲しい
-
叡智閑話
-
イベのトロイさんちゃんの掘り下げビビった