赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 先日評価10を頂きました。数の限られる10を頂ける事、大変嬉しく思います。
 毎回コメントして下さる皆さん、見てくれる皆さんの為にも益々頑張っていきたいと思います。

 それでは第十一話、どうぞ!


僅か十日の強化合宿

「ひーひー…」

 

 

 とある山の中、イッセーは尋常ならざる量の荷物を背負って歩いていた。

 

 

「やっほー」

『やっほー』

 

 

 誰かのやまびこが聞こえてくるような、山奥に来た理由はただ一つ。特訓の為の合宿である。ライザーから言い渡された十日の猶予期間。その間に少しでも強くなるため、グレモリー眷属とアルトリアは山奥にあるグレモリー家の別荘を目指していた。

 

 

「…あの私も手伝いますから」

「いいのよ、イッセーはあれぐらいこなさないと強くなれないわ」

 

 

 アーシアの心配をリアスは制する。確かに少しでも体力を付けなくてはいけない。坂を登るイッセーを二人の隣で見下ろしながら、アルトリアはそう思った。

 

 

「部長、山菜を積んできました。夜の食材にしましょう」

 

 

 そう言いながら、涼しい顔で祐斗が通り過ぎていく。彼もまた背中に巨大なリュックサックを背負っている。しかもイッセーと違い、苦も無くすいすいと山道を登っていく姿にイッセーの先輩悪魔としての底力をアルトリアは感じた。途中で山菜を摘みだすほどの余裕が彼にはあるのだ。

 

 

「…お先に」

 

 

 さらに後方からイッセーの三倍以上の体積の荷物を背負った小猫が通り過ぎていく。あの中には一体どれだけの荷物があるのだろうか。

 

 

「うぉぉぉぉ!!負けてられるかぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 二人に触発され、スピードを上げるイッセー。この程度でへばっていてはライザーに勝つなど夢のまた夢だろう。この合宿で少しでも強くする、そう決意を新たにしたアルトリアは、リアスと同じ表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 山奥に似つかわしくないお屋敷。周囲一帯に人除けの結界を張ったこの地こそ、グレモリー家の避暑地にある別荘であり、今回の合宿の舞台だ。リビングに一旦荷物を置くと女性陣は動きやすい服装に着替えるため二階へと向かう。山登りの際は目立たないよう私服で来たため、全員ジャージに着替える。

 

 

「さて、早速修行開始よ」

 

 

 

レッスン1 佑斗との剣術修行

 

 

「よっ、はっ」

「おりゃ!おりゃぁぁ!」

 

 

 第一の修業は剣術。イッセーが木刀を振り回し、祐斗がそれを受ける。軽やかにイッセーの攻撃をいなす祐斗。イッセーは剣を力任せに振るっているだけなので、当たる気配はない。流石に実力差がありすぎるとアルトリアは思った。これなら無理やりにでも剣道部に……、そこまで考えたところで

 

 

 バシッ!

 

 

 木刀を祐斗が落とし、終了となる。これで7回目の勝負ありだ。

 

 

「そうじゃないよ。剣の動きを見るだけじゃなく、視野を広げて相手と周囲を見るんだ」

「ユウトの言う通りです。それに構えも良くありません。威力がありそうだからと無意識に大上段を振るうはお勧めしませんよ」

 

 

 説明されて簡単に出来ることではない。まだ慣れていないのかついつい大降りになってしまう。そして目の前の敵だけに集中していた為に、二試合前では魔法を食らってしまった。周囲をちゃんと見れていれば、あの攻撃は避けれたのだろう。イッセーは改めて祐斗の技量に感心した。最小限の動きだけでいなされ、隙を突いてやられてしまう。練習量、実戦での経験量が違うのだ。

 

 

「でもこれ、俺の修行にはなるけれど、木場の修行にはならないよな?せっかくの時間を使ってもらって、申し訳ないな」

「大丈夫だよ、ここまではウォーミングアップで僕自身の修行はこれから始めるから」

「その通りです」

 

 

 そういってアルトリアはエムリスを剣形態に変え、何やら魔術を剣に掛けた。祐斗もまた神器を取り出して構えを取る。次の瞬間祐斗が切り込み、アルトリアがそれを受けた。先ほどとは比べ物にならないスピードで祐斗が攻め込み、アルトリアもまた上手くいなしている。

 

 

「な、なんつースピード……ってあの剣って聖剣エクスカリバーですよね!?木場の奴大丈夫なんですか!?」

「大丈夫よ、さっきアルトリアが掛けた魔術。あれで剣の聖なる力や切断力を一時的に無力化しているの、ほら」

 

 

 リアスが指さした瞬間、エクスカリバーが祐斗の腕に叩き付けられ、魔剣を取り落とした事で勝負がつく。腕が飛んでいないという事は、魔術の効き目はバッチリのようだ。

 

 

「っ!容赦ないね……」

「そうでなければ修行になりません。それよりも前より早く、鋭くなりましたね。初めて会った時とは大違いです」

「はは、あの頃はまだまだ荒れてたからね。今はそれなりに折り合いを付けているよ。君の聖剣(エクスカリバー)あの聖剣(■■■■■■■)は別物だからね」

 

 

 何やら意味深な発言をしている祐斗に疑問が生じるとともに、別の疑問が浮かぶ。人間である彼女がどうしてあそこまで強いのか

 

 

「部長、なんでアルトリアってあんなに強いんですか?」

「そうね。聖剣の力も有るけど、それ以上に場数を踏んでいるからかしらね。彼女は11歳で駒王町に流れ着いたわ。それからずっと、あの子は街を護るために戦い続けている。時にはお兄様の眷属に指南も受けて、今や本気を出せば上級悪魔にすら匹敵するわ」

 

 

 その言葉にイッセーは驚いた。部長やライザー、あの二人に並ぶ強さを持っているのかと。そして自分たちが出会ったあの頃から、彼女はずっと戦い続けている。その事実にイッセーは、益々幼馴染との距離感を感じてしまった。

 

 

「アルトリアには、貴方以外の眷属の戦闘訓練をして貰うわ。それだけの力を彼女は持っているもの」

「マジですか……」

「ほら、貴方も次の修行に移りなさい!」

「は、はい!」

 

 

 

レッスン2 朱乃さんと魔力修行

 

 

 

「そうじゃないありませんわ。魔力は体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

 

 イッセーは集中し、手のひらに何かを生み出すイメージで魔力を集める。

 

 

「出来ました!」

 

 

 隣で白いジャージを着たアーシアが魔力の塊を手のひらに作り出していた。緑色の淡い魔力。アーシアの魔力は彼女の神器が放つものと同じ、キレイな緑色をしていた。

 

 

「あらあら。やっぱり、アーシアちゃんは魔力の才能があるかもしれませんね」

 

 

 朱乃に褒められ、頬を染めるアーシア。

 

 

「ぐぬぬぬぬ…」

 

 

 イッセーも魔力を集めているが米粒程の赤い魔力の塊があるだけで、それ以上大きくならない。

 

 

「では、その魔力を炎や水、雷に変化させます。これはイメージから生み出すこともできますが、初心者は実際の火や水を魔力で動かす方がうまくいくでしょう」

 

 

 朱乃がペットボトルの水に魔力を送る。次の瞬間、ザシュ!と音を立てて、魔力を得た水が鋭い棘と化し、ペットボトルを内側から破っていた。

 

 

「アーシアちゃんはこれを真似して下さいね。イッセーくんは引き続き魔力を集中させる練習をするんですよ。魔力の源流はイメージ。とにかく頭に思い浮かんだものを具現化させることこそが大事なのです。得意なもの、いつも想像しているものならば、比較的早く具象化できるかもしれませんわ、っと」

 

 

 咄嗟に朱乃は生み出した雷を鞭のように形成して振るう。次の瞬間、周りに光の剣が落ちた。

 

 

「おや、気づきましたか。リアスから、『朱乃はドSな分、狩人としての気分に酔う事があるから隙を見せたら攻撃なさい』と言われていましたが、意外と警戒しているのですね」

「あらあら、リアスったらそんなことを。確かに一方的にやられてくれるような良い子ばかりではないですものねぇ、うふふ」

 

 

 アルトリアの特訓。それは講義中に隙を見せたら攻撃しろ、というものだった。彼女は究極のS、故に狩る側の気持ちばかりが先行して油断しないようにするための特訓が必要とリアスは考えたのだ。

 

 

「朱乃さん、ちょっといいですか?」

 

 

 イッセーは何か思いついたようで、朱乃に相談していた。耳元で囁いたためアルトリアに内容は分からなかったが朱乃はポカンとした後、

 

 

「うふふ、イッセーくんらしいですわ」

 

 

 と微笑んでいた。そして、何か準備があるのか一度建物の中に戻る朱乃。少しして何かを持ってくるとイッセーの前に置いた。そこにあったのは大量のタマネギ、人参、ジャガイモ。いったい何をする気だと、アルトリアは疑問に思った。

 

 

「では、イッセーくん。合宿中、これを全部魔力でお願いしますね」

 

 

 魔力で、という事は魔力制御の一環なのだろうが、イッセーがどうしてこれが自分に合うトレーニングだと思ったのだろうか。そんな疑問が解消できないまま、アルトリアはアーシアを見つつ、朱乃の隙を伺い続けた。

 

 

 

レッスン3 小猫との組手

 

 

 

「ぬががあああああ」

 

 

 ドゴッ!

 

 

 イッセーが小猫のパンチで、吹き飛び今日十回目の巨木との抱擁を交わす。

 

 

「…弱っ」

 

 

 黄色のジャージを着た小猫がぼそりと呟いた。イッセーは心身にダメージを負った。小猫は立ち技、寝技、その他様々な格闘技を得意とする。それらに『戦車』の特性、バカげた腕力と強固な防御力も相まって相当強い。その上体躯も小さく俊敏なため、少しでも目を離せば懐に潜られてボディに一撃をもらう。

 手加減こそしているが、そんなことはイッセーには慰めどころか余計ショックを受けるだろう。

 

 

「…打撃は体の中心線を狙って、的確かつ抉り込むように打つんです」

「そ、そんなこと言ったって……」

「イッセー、貴方が一番使ってきた武器は拳なのですから、コネコの話はしっかり聞いた方が良いですよ。ではコネコ、次は貴女です。向かってきなさい」

 

 

 そういってアルトリアは大楯を展開する。小猫は果敢にラッシュを決めるが全て盾に弾かれ、いなされる。ストライカースタイルから切り替わり、グラップリングで武器を奪おうとするが、大楯もアルトリアもビクともしない。小猫は完全に攻め手を欠いた。

 

 

「コネコ、話に聞く例の能力を使えば、もう少し戦えるのでは?」

「……いいえ、無しでやります…!」

 

 

 小猫は足払いで盾を弾き飛ばそうとするが、その勢いを利用され回転する盾に吹き飛ばされる。

 

 

「こ、小猫ちゃん!?」

「……けほ、問題ありません」

 

 

 『戦車』の防御力でなんともなかったが、今度は小猫が心身に傷を負っただろう。その後もアルトリア>小猫>イッセーの構図が変わる事は無かった。

 

 

 

 

レッスン4 リアスと修行

 

 

「ほーら、気張るのよ!」

「おおっす!」

 

 

 眷属3人との特訓の後、イッセーはいつも以上の体力トレーニングを課されていた。背中には岩、体に縄で巻き付けていた。坂を駆け上っては降りての繰り返し。重りを付けてこの長さの往復は修行を超えて、体に悪いとさえ感じる。何十往復もして足がガクガク状態になったころで、「はい、OK」と終了許可が出た。

 

 

「次は筋トレね。腕立て伏せいくわよ」

「…へ、へーい…」

 

 

 イッセーは改めて思った。この人は鬼だ。いや悪魔か。基礎能力が俺達には絶対的に不足している。俺は鍛えていたつもりだが、悪魔からしたらそこまで変わらないからな。俺達は、他の部員と比べると練習量がハンパじゃない。特に戦場を一番駆け巡るであろう『兵士』のため、筋力、体力を高めるのは必要条件だった。

 

 

「ぐわっ!」

 

 

 腕立てをしているイッセーの背中に、リアスは容赦なく岩を載せてくる。魔力で岩を軽々と持ち上げているが、それならそれで荷物も運べばいいのに。そう思うイッセーだが、無論それでは修行ならないためナシだ。

 

 

「さーて、腕立て伏せ三百回。行ってみましょうか」

「オースッ!」

 

 

悪魔じゃなかったら俺は何回死んでいるだろうか。そう思いつつ、今日も肉体を虐めぬくのだった。

 

 

 

 

「うおおお!うめぇぇぇ!マジで美味い!」

 

 

 一日目の修行を終え、一同は夕食をいただいていた。テーブルに豪華な食事が盛られている。祐斗が採ってきた先ほどの山菜はおひたしにされていた。そしてメインの肉料理はリアスが狩って来た猪肉。初めて食べる牡丹肉に驚きと興奮が隠せない。魚料理はアルトリアが湖で採ってきた川魚の塩焼き、シンプルだがそれが美味い。小猫曰く、「潜水時間が以上に長かった」そうだがイッセーは気にしなかった。その他にも各種色とりどりの料理がずらりと並んでいる。

 

 

「あらあら。おかわりもあるからたくさん食べてくださいね」

「イッセーさん、私の作ったスープ美味しいですか」

 

 

 この料理は朱乃とアーシアが作ってくれたようだ。

 

 

「お見事です。二人の料理の腕は天下一品ですね」

 

 

 実際二人の料理の腕は高く、皆も箸を止めずに食べている。冥界で何度か会食会に誘われていたアルトリアからしても、2人の腕はそれらの高級料理に比肩するものだった。

 現に、割と味にうるさい小猫が静かにそして豪快にパクパク食べている。

 

 

「朱乃さん、最高っス!アーシアも!2人とも嫁に欲しいぐらいです!」

「うふふ、困っちゃいますね」

「イッセーさんの、お嫁さん……あぅぅ」

 

 

 イッセーに褒められて、朱乃は頬に手を当ててニコニコ微笑み、アーシアはイッセーとの結婚を想像し顔を赤らめる。

 

 

「さて、イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」

 

 

 リアスがお茶で喉を潤し、イッセーに尋ねる。イッセーが箸を一旦おいて今日の感想を口にした。

 

 

「…俺が一番弱かったです」

「そうね。それは確実ね」

「みんなからのトレーニングを受けて、俺とみんなの実力差がはっきりわかりました。俺は能力的に得意分野がないので、総合的に能力の引き上げをしないと『兵士』として強くなれないと感じました」

「そうね、その為の「プロモーション」が存在するわ、でもね、各駒の特性を引き出せてもそれを扱えるだけの力が今のあなたには無いわね」

 

 

 ハッキリ言われると流石に傷つくのだが、

 

 

「朱乃、祐斗、小猫はゲームの経験が無くても実戦経験が豊富だから、感じをつかめば戦えるでしょう。貴方とアーシアは実戦経験が皆無に等しいわ。それでもアーシアの回復、イッセーのブーステッド・ギアは無視できない。相手もそれは理解しているはず。最低でも相手から逃げられるぐらいの力は欲しいわ」

「逃げるって…アリなんですか?」

 

 

 イッセーの質問にリアスはうなずく。

 

 

「逃げるのも戦術のひとつよ。一旦退いて態勢を直すのは立派な戦い方。そうやって勝つ方法もあるの。けれど、相手に背を向けて逃げるというのは実はかなり難しいものよ」

「そんなに難しいんですか」

「えぇ。実力が拮抗している相手ならともかく、差が開いている強敵に背を向けて逃げ出すという事は隙を晒し、殺してくださいと言っているようなもの。そういう相手から無事に逃げられるのも実力の一つ。退き時の見極めが名将の条件とも言われています」

 

 

 リアスに続くようにアルトリアも諭す。

 

 

「もちろん、面と向かって戦う術も教えるわ。覚悟なさい、2人とも」

「了解っス」

「はい」

 

 

 イッセーとアーシアは同時に返事をする。アーシアをこちらに引き込んだのは自分だ。弱くても、せめてアーシアを守れる位にはならないと、とイッセーは決意を新たにする。

 

 

「食事を終えたらお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 

 お屋敷だけではなく、温泉まで。至れり尽くせりであるが、公爵家ならば容易いのだろうか。

 

 

「僕は覗かないよ。イッセーくん」

 

 

 祐斗が温泉と聞いてニヤついているイッセーに先制を入れる。

 

 

「バッカ!お、おまえな!」

「否定しても顔に書いていますよ、イッセー」

「あら、イッセー。私たちの入浴を覗きたいの?」

 

 

 リアスの言葉に全員の視線がイッセーに集中する。さて此処からどう弁明するのかと見ていると、リアスはクスッと笑う。

 

 

「なら、一緒に入る?私は構わないわ」

「なっ、リアス!?」

「朱乃はどう?」

「イッセーくんなら別に構いませんわ。うふふ。殿方の背中を流してみたいかもしれません」

 

 

 満面の笑みで朱乃が肯定する。2人とも羞恥心が無いのか!?アルトリアは目に見えて狼狽える。

 

 

「アーシアは?イッセーなら大丈夫よね?」

 

 

 リアスの問いかけにアーシアは顔を真っ赤にして、うつむいてしまったが、小さくこくりと頷いた。アーシア、貴女もですか………

 

 

「最後に小猫。どう?」

 

 

 小猫は両手でバッテン印を作る。良かった……と、アルトリアは安心する。

 

 

「…嫌です」

「じゃ、なしね。残念、イッセー。因みにアルトリアは「無論反対です」あらやっぱり、お堅いのね」

 

 

 クスクスと悪戯っぽい笑みでリアスが言う。当然だ、主人と下僕、主従の仲以前に、男女の慎みは守らなければならない。が、この流れは予想してたのだろう。小猫とアルトリアが反対するのが分かっていたからこそ、リアスはあんな事を言ったのだ。

 

 

「覗いたら、恨みます」

 

 

 小猫にも先制を食らっている。覗いたら、湯船に叩き落そうか。そんな考えが頭を過ぎる。

 

 

「イッセーくん。僕と裸の付き合いをしよう。背中、流すよ」

「うっせぇぇぇぇぇッ!マジで殺すぞ、木場ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 イッセーの怒りの怒声が建物内に響き渡った。

 

 

 

 

 修行二日目。昨日は風呂の後に夜中まで練習があった為、朝からイッセーは筋肉痛に悩んでいた。リアス曰く、

 

 

「夜には夜の練習があるわ。元々夜の住民だものね、私達」

 

 

との事。因みアルトリアは今後の合宿における負担を鑑み、夜は寝ている。

 二日目の午前中は勉強会。リビングに集まり、イッセーとアーシアに悪魔の知識を教える事になったらしい。各勢力の大体の構図や主な家などを徹底的に詰め込んだ。

 ある程度教えてもらった後、祐斗が改めて問題を出してくる。

 

 

「ではイッセーくん。僕らの仇敵、神が率いる天使。その天使の最高位の名は?さらにそのメンバーは?」

「えっと『熾天使(セラフ)』だろ。メンバーは…ミカエル、ラファエル。ガブリエル…うーん。ウリエルだっけか」

「正解」

 

 

 天使は見事正解。基本的には〇〇エルで覚えると良いだろう。サンダルフォンやメタトロンなど例外が居るには居るが。

 

 

「次に僕らの王、魔王さま。四大魔王様を答えてもらおうかな」

「おう!任せておけ!いずれ、出世してお会いする予定だ!バッチリ覚えてるぜ!ルシファーさま、ベルゼブブさま、アスモデウスさま!そして憧れの女性魔王さまであらせられるレヴィアタンさま!」

「正解」

 

 

 悪魔側も正解。流石に自分が所属している勢力のトップは覚えているのだろう。

 

 

「絶対にレヴィアタンさまにあってみせるぜ!」

 

 

 そう宣言したイッセーは、顔がニヤついているので、レヴィアタン様の姿を想像しているのだろう。会ったらそのギャップに目を疑うだろうな、とアルトリアは心の中で思った。

 

 

「では、イッセーくんが一番苦手な堕天使の幹部を全部言ってもらおうかな」

 

 

 堕天使幹部は他の勢力と比べて数も多く、法則性も無い為名前も覚えにくい。果たしてイッセーは覚えているか

 

 

「堕天使の中枢組織を『神の子を見張る者(グリゴリ)』と言って、総督がアザゼル、副総監がシェムハザ。ここまでは完璧だ。で、幹部連中は…。アルマロス…、バラキエル…、タミエル…。あー、えーと、えーと、アレ?ベネなんとか、コ、コ、コ、コカイン…?」

「ベネムネ、コカビエル、サハリエルですね」

「アルトリアさん、正解。イッセーくんちゃんと覚えないと。一応、これは基本だから。日本の首相や各大臣、近隣諸国の首相のお名前を覚えておくようなものだよ」

 

 

 堕天使だけが中々覚えられていない。今のイッセーに円卓の騎士クイズはまだ早いだろう。数が多いのもそうだが、恐らくはやる気が起きにくいのが1番の原因だ。自陣営である魔王と、人類を守護するという大義を掲げる天使と違い、堕天使には良い記憶が無い。自分の命を一度は奪い、アーシアの神器を狙う堕天使に良い感情が沸かないが故に覚えられないのだろう。

 次はアーシアが授業を始める。

 

 

「コホン。では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓いの基本をお教えします」

 

 

 パチパチ。みんなの前に出て話を始めるアーシアに拍手でエールを送る。すると、途端に赤面してしまう。その様子にはアルトリアも庇護欲が湧き上がった。

 

 

「え、えっとですね。以前、私が属していた所では、二種類の悪魔祓いがありました」

「二種類?」

 

 

 イッセーの問いにアーシアは頷く。

 

 

「一つはテレビや映画でも出てくる悪魔祓いです。神父様が聖書の一節を読み、聖水を使い、人々の体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして、『裏』が悪魔の皆さんにとって脅威となっています」

 

 

 アーシアの言葉にリアスが静かに頷く。

 

 

「イッセーも出会っているけれど、私達にとって最悪な敵は神、あるいは堕天使に祝福された悪魔祓い師よ。彼らとは歴史の裏舞台で長年に渡って争ってきたわ。天使の持つ光の力を借り、常人離れした身体能力を駆使して全力で私達を滅ぼしに来る」

 

 

 イッセーの脳裏に、フリード・セルゼンが浮かび上がる。白髪のイカレたエクソシストで、悪魔だけでなく、関わった人間さえ切り捨てる。正直二度と会いたくないが、生きている以上は会う可能性がある。しかもアルトリアと並んで標的にされているのだから、可能性は高いだろう。

 イッセーがエクソシストについて考えていると、アーシアはバッグからたくさんの道具を取り出す。リアスは汚いものに触れるような様子で液体の入った小瓶を指でつまんでいる。

 

 

「では、聖水や聖書の特徴をお教えします。まずは聖水。悪魔が触れると大変なことになります」

「そうね、アーシアも触れちゃダメよ。お肌が大変なことになるわ」

「うぅ、そうでした…。私、もう聖水を直に触れられません…」

 

 

 リアスの言葉にアーシアはショックを受けている。まるで効果の強い洗剤か何かのように言っているが、悪魔が聖水に触れれば、肌どころか肉や骨にもダメージを与えるだろう。

 

 

「作り方もあとで、お教えします。役に立つかどうかわかりませんけど……」

「いえ、相手がフェニックスである以上、聖水は二重に有効でしょう。取り扱いにさえ注意すれば強力な武器になります。是非私にも作り方を教えてください」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 その後も得意分野なのか、ハキハキと楽しそうにアーシアは講義を続ける。

 

 

「次は聖書です。小さい頃から毎日読んでいました。今は一節でも読むと頭痛が凄まじいので困っています」

「悪魔だもの」

「悪魔ですもんね」

「…悪魔」

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

「うぅぅ、私、もう聖書も読めません!」

 

 

 部員から総ツッコミされて、涙目のアーシア。リアスから聞いたことがある。悪魔に敵対する勢力や悪魔社会の暗部では、悪魔への拷問として、聖書をヘッドホンでツラツラと聞かせるというものがあるらしい。眉唾だがありそうだな、とアルトリアは内心で苦笑いした。

 

 

「でもでも、この一節は私の好きな部分なんですよ…。ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私をお許し、あう!」

 

 

 また祈り捧げてダメージを受けている。彼女も懲りないが、神も狭量が過ぎるのでは?とアルトリアは思った。

 

 

「では次は私ですね。イッセー、前に話した赤い竜と白い竜の伝説は覚えていますね」

「おう、昔のイギリス、ブリテン島でとある王様が城を作ろうとしたけど中々完成しなくて、その原因を調べたら2体の龍が城の地下の洞窟で戦ってたんだよな。その2体の龍の名前が『赤龍帝』ア・ドライグ・ゴッホと、『白龍皇』アルビオン・グウィバー」

「正解です。この2体はその強さから後に二天龍と呼ばれるようになります。2体のうち赤龍帝はブリテン人の、白龍皇はアングロ・サクソン人の守り神のような存在でした」

 

 

 アルトリアが話すのは二天龍とアーサー王の伝承について。仮にも赤龍帝を宿すのなら、そのぐらいの知識は持っていた方がいいだろうと、リアスに頼んで入れてもらった。要は息抜きである。

 

 

「二天龍にはそれぞれに眷属とも言うべき代行者がいました。赤龍帝側が私の先祖、コーンウォールの猪と呼ばれたアーサー王。白龍皇側が卑王ヴォーティガーンという王です」

 

 

 卑王ヴォーティガーン。アーサー王の叔父にして、白龍皇の加護を受けた男。かつてのブリテン島ではその姿を魔竜に変えて、アーサー王や円卓の騎士達を苦しめたという。

 

 

「ヴォーティガーンかぁ、アルトリアみたいに子孫とかいるのか?」

「流石にそこまでは分かりません。ただ、私と貴方が出会ったように、白龍皇側も出会いを果たしているかもしれませんね」

「そうなれば、赤龍帝と騎士王対白龍皇と卑王の対決が見られるかもしれないわね」

「1500年前の因縁再びか、ちょっとした物語が出来そうだね」

 

 

 リアスや祐斗が囃し立てるが、当の本人からすれば微妙な気持ちになる。

 

 

「ヴォーティガーンの事は置いておきましょう。イッセー、貴方にとって問題なのは白龍皇の方です。赤龍帝が神器に封じられたように、白龍皇もまた神器に封じられました。その名を『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。10秒ごとに対象の力を半減させる力を持つとされています」

「『倍化』の赤龍帝と『半減』の白龍皇ですわね」

「……文字通りの、対」

「貴方が強くなれば、いずれ白龍皇と戦う日も来るでしょうね。その時負けない為にも、さぁ、特訓再開よ!」

「「「はい、部長」」」

 

 

 こうして、午前の勉強会を終え、一同は午後の修行へと移っていった。ヴォーティガーンの子孫、そんな言葉だけがアルトリアの心に小さな棘となって残った。




 感想で予想されてた方がいた通り、アルトリアがコーチ役です。てか原作は眷属以外のコーチ役がいないんですよね………

 アルトリアの介入で、ゲームの過程や結果が変わる、かも?お楽しみに!
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