前回の言葉の意味。なぜこんな縁談が進んでいるのか。選手じゃないからこそ見えてくる景色というものを、皆さんにお送りできればと思います。
それでは第十三話、どうぞ!
イッセーが思わぬ力を見せたその日も、特訓は続いた。レーティングゲーム当日まで、後数日しか時間が無い。それだけあって皆、特訓に熱が入っていた。特にイッセーの張り切りぶりは凄まじく、果敢に、それでいて冷静に祐斗や小猫に挑みかかっていった。相変わらず勝ち星は挙げられていないが、自信が付いたお陰で、眼に見えて特訓に身が入っていた。
「後数日。そろそろ、イッセーもアルトリアとの組み手を経験するべきね」
「え、って事は!」
「そう、基礎特訓はここまで。明日からは実践面の特訓よ。アーシアにも護身術位は身につけて貰うわ。覚悟は良いかしら、2人とも」
「ハイ、部長!」
「は、ハイ!」
イッセーは元気よく返事をし、アーシアもまた釣られて返事をする。
「よろしい。今日はここまで。みんな、ゆっくり寝て明日に備えて頂戴」
「「「ハイ、部長!」」」
リアスの言葉に部員達は元気に返事をする。そこから少し離れたところに居たアルトリアは、いまだに暗い顔を浮かべていたが、決心しイッセーに声をかける。
「………イッセー、少し良いでしょうか?」
「ん?どうしたんだ、アルトリア」
「貴方に大事な話があります。今夜、2人きりで逢いませんか?」
「!?」
その誘い方は、まるで夜に2人で逢引きしようと言っているようにも聞こえた。その発言に目を白黒させたイッセーだが、理解した瞬間に彼の鼓動はドクドクと早くなった。
「言っておきますが、特訓に関する話です。逢引きなどではありませんからね」
「わ、分かってるよ!」
「それでは、今夜この地図の原っぱまで……」
そのまま皆は何事もなく、食事と風呂を済ませて眠りにつく。その夜、アルトリアに呼び出されたイッセーだけは、ジャージに身を包み山の中を進んでいた。なにやら大事な話があるらしく屋敷から少し離れた原っぱに来るように言われたイッセーは期待半分困惑半分で向かう。
「来ましたね、イッセー」
「おう。で、どうしたんだ?こんなところに呼び出して」
「まずはイッセー、今朝の一撃は見事でした。あの威力なら並みの上級悪魔を一撃で消し飛ばせるでしょう。流石は今代の赤龍帝です」
「そ、そうか?初めてだな、アルトリアからこんなに褒められるなんて……」
手放しの称賛に驚くイッセー。自他共に厳しく、基本的に何でも出来るアルトリアに褒められ、ついつい浮かれてしまう。しかし、アルトリアの顔は暗い。
「ですが、それでは足りない。今のままではライザーに肉薄する事は出来ても、勝つことは難しいでしょう」
「へへ、へ?どういう事だよ、それ!?」
『簡単なことだよ。あの一撃は確かに威力こそあるけど、『騎士』の彼に簡単に避けられていた。フェニックスは不死鳥の家、即ち空中戦も得意としている。あの程度の攻撃なら躱されておしまいさ。それに後隙も大きい。連発出来なければ、躱されて隙を晒したところを焼かれるだけだよ』
エムリスから容赦のない指摘が入る。そう、威力は申し分ない。しかし、本番においてライザー相手にあの遅さは弱点となるだろう。それにあの一撃を出すには十二回の強化が必要であり、それは二分間何もできなくなることを意味している。
「で、でも!その辺りは特訓でどうにかすればいいだろ。それに、部長や木場が上手い事追い込んでそこにぶち当たれば……」
「当たれば、ですか。では試してみましょう」
そういってアルトリアはイッセーから少し離れると、自慢のバトルドレスを身に纏う。
「イッセー。『赤龍帝の籠手』を使ってください。そして今朝の一撃を私にぶつけるのです」
「ハァ!?」
イッセーは耳を疑った。今朝の一撃、即ち山を削り取ったあの技をぶつけろと目の前の幼馴染は言い出したのだ。アルトリアは確かに上級悪魔クラスの実力があるとリアスが言っていた。だが、リアスは今朝、あの一撃は大抵の上級悪魔を消し飛ばすとも言った。そんな技をぶつけたら、怪我どころか、最悪死ぬ可能性もある。
「ご安心を。私も、『
『偽・全て遠き理想郷』。それはあの堕天使との戦いでアーシアの命を繋ぎ止めていたアルトリアの力だ。後で聞いた話だが、あれはアーサー王伝説に登場するエクスカリバーの鞘を再現しようとしたものらしい。イッセーもアーサー王伝説を少し勉強した程度だか、その鞘は持ち主を護り、その傷を癒す、不老不死のような力を持っていたと本には書いてあった。
そこでイッセーは気づく。これはフェニックスの再生能力を再現だ。自分の一撃がフェニックスに届きうるかどうか、それを試そうとしている。
「手加減は無し。私を殺す気で撃ってください」
「………分かった、行くぞ!ブーステッド・ギア!!」
『Boost!!』
「スゥ、ハアァァァァァァッ!!」
覚悟を決め、籠手を出現させるイッセー。それを迎え撃つように、アルトリアはエムリスを握りしめた。そして、籠手の『倍加』と競い合うかのように魔力を全力で高ぶらせる。先に溜め切ったのはアルトリアだった。
『擬似人格停止。魔力供給量、規定値を突破。第二段階、応用限定解除を開始』
その掛け声とともに、エムリスは金色の輝きを放ち変形する。あの時と同じ、機械的な意匠を持った鞘へとその形を変えていく。それに続いて、イッセーも十二回目の『倍加』を終わらせた。
『Explosion!!』
「溜まった!行くぞ、アルトリア!」
「来なさい、イッセー!」
「オォラッ!!」
気合の入った掛け声とともに拳を突き出し、手のひらに出来た赤い光球を飛ばす。今朝と同じように加速度的に大きくなる魔力の弾。それに対しアルトリアは逃げる事もなく、その一撃に向かい合う。
「真名、再演。今一時、彼方の奇跡をここに。
アルトリアは鞘を前に構える。手に持つ鞘にはアーシアの時とは違い一本の剣が納められていた。鞘とは剣を納めてこそ真価を発揮する。これこそが『偽・全て遠き理想郷』のあるべき姿。
次の瞬間、まばゆい光と衝撃が辺り一帯を照らし出す!光球は鞘に激突した瞬間爆発し、辺りの木々をなぎ倒した。暴力的なまでの光と音、爆風が収まった後、その爆心地には――――
「ハァ、ハァ、ウッ。防ぎ、きりました、よ」
ドレスが破け、全身に傷を負い、足を震わせながらも立つアルトリアの姿があった。
「アルトリア!!」
堪らずイッセーが駆け寄る。駆け寄る間に、彼女が追った傷は癒え、イッセーが側まで来た時には既に彼女の美しい白い肌が見えていた。
その体を支えようとイッセーが手を伸ばすと、アルトリアはその頭を叩いた。
「痛っ、何するんだよ!」
「攻撃を加えた相手の傷が癒えているのに、駆け寄るなど死にたいのですか。ライザー卿が相手なら燃やされていましたよ」
そう、これはあくまでもイッセーの攻撃が再生能力を持つ敵を相手にした際、必殺の一撃足り得ない事を証明するためのもの。これで、イッセーの新技の絶対性は半減した。
「これで分かったでしょう。貴方の一撃は当たればライザー卿に少なくない傷を与えます。ですが、油断すればすぐに再生されて手痛い反撃を受けますよ」
それに当日はライザー一人と戦う訳ではない。強力なフェニックス眷属たちとの戦いが予想される以上、ライザーと対峙する際のコンディションは間違いなく万全ではないだろう。眷属の仲間たちのサポートがあると言っても、彼らにも彼らの戦いがある。
「そんな……」
「だからこそ、私は貴方にドライグ殿と対話して貰いたい。そして、かの禁じ手へと覚醒してほしいのです。ライザー卿を相手に確実に勝つには、それしか方法はありません」
「禁じ手、もしかしてドライグから力を貸すって言われた奴か?」
「!?そうですか、既にドライグ殿から触り程度は聞かされていたのですね。それを含めて、話しましょうか」
そう言ってアルトリアは、イッセーの左手を取り、力を込める。次の瞬間、2人の意識は神器に吸い込まれていった
『よう、相棒。見ていたぞ、自慢の一撃を防がれていたな』
「う、うるせぇ!」
相変わらずの態度に思わず言い返すイッセー。アルトリアはすかさず前に出て、ドライグに一礼する。
「お久しぶりです、ドライグ殿。今回は折り入ってご相談したい事があり、参りました」
『アルトリア、随分と無茶をしたな。お前の言いたい事は分かる。『
「!はい、その通りです」
「バランス、ブレイク?」
聞いたことの無い言葉にイッセーは困惑する。
「バランス・ブレイク。それは神器の力、その極致に当たる存在です。神器を理解し、その扱いを極めた者が至る高み。文字通り世界のバランスを破壊するとも言われています」
「世界の、バランスを……そんなにやべぇ物なのか」
「はい。
そういってアルトリアはドライグに頭を下げた。赤龍帝の力を解放すれば、イッセーは確実に勝てる。余計な傷を、苦しみを、これ以上追う事も無い。
『……確かに、俺はそう言った。いずれ来る『白いの』との戦いの為にも、相棒にはもっともっと強くなってくれなきゃ困る』
「!という事は『だが断る』え、」
ドライグからの拒絶の言葉。まさかの反応に思わずアルトリアから困惑の声が漏れる。
『アルトリア、お前が相棒を大事に思う気持ちは分かる。だがな、これは俺と相棒の問題だ。相棒が力を求めるのも、俺が力を貸すのも、互いが自ら選択する事だ。お前が口を挟む話ではない。それに、女におんぶにだっこで力を手に入れるような事を、相棒が望んでいると思っているのか?それで赤龍帝が力を貸すとでも思っているのか?
舐めるなよ、小娘』
「ッ!?」
ドライグの低い、威圧的な声が空間に響き渡り、周囲の炎がより猛り狂う。彼は目に見えて怒っていた。そもそも神器の覚醒とは所有者自らの研鑽と変革が鍵となる。いくら千数百年前から繋がりがあり、神器にアクセスする力を持った相棒のバディだとしても、アルトリアの行いは相手を舐めた、余りにも出過ぎた行為だった。
そんなドライグの怒りに、アルトリアは何も言い返せなかった。アルトリアはイッセーを大事に思うばかりに、イッセーのプライドにも赤龍帝の誇りにも泥を塗っていたのだ。
「わ、私は……「アルトリア」!イッセー……」
「……アルトリア。お前が俺の事思ってくれてるのはすっげー嬉しいよ。でもさ、俺はいつまでもお前に守られてたくない。部長を、みんなを護れる力は欲しい。でもこの力を手にするのは、俺の意志で、俺自身が覚悟を決めてやりたいんだ。だから……」
「イッセー……すみませんでした、イッセー。貴方の思いも知らずに。ドライグ殿も、大変な無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした。」
アルトリアは、僅かに瞳を潤わせながら、イッセーとドライグに深々と頭を下げる。
『わかればいい。アルトリア、最近のお前はイッセーの事になると途端に自他を
ドライグの指摘は正しい物だ。アルトリアはイッセーの為と考えると途端に周りが見えなくなる。いままでは彼の面倒を見たり、問題を起こした際にある程度庇ったりと多少おせっかいな程度だったが、イッセーがレイナーレの手に掛かった時以来、それは潜在的に悪化していたのだ。
『なにより、この戦いは相棒の戦いだ。どんな結果になろうと、お前は相棒を抱きしめて、労わってやれ。お前は騎士だが、年頃の娘だ。戦いから帰った男を癒し慰めるのも立派な役目だぞ』
「……それが赤龍帝の御意思なら。イッセー、出過ぎた事しまいました。貴方自らの意志で強くならなければ意味がない。そんなことにも気づけないとは、我が身の浅慮を悔いるばかりです……」
「いやぁ、いいんだよ別に。それ、俺自身が望むならお前は力を貸してくれるんだろ、ドライグ」
『あぁ、それは変わらん。お前自身が更なる力、より上の強さを求めるなら俺はそれに応えよう。だがこれも言っておく、一線を越えるのもお前の選択次第だ。後悔するなよ、相棒……』
そうして二人は神器内の空間から意識を戻した。辺りは相変わらずの荒れ放題である。
「戻ってきた、のか?」
「ですね「イッセー!アルトリア!」!」
藪の向こうからリアスたちがやってくる。全員あの音と光で目が覚めたのだ。
「イッセーさん!アルトリアさん!無事ですか!」
「あらあら、荒れ放題……」
「凄い轟音と光がしたから来てみたのだけど、一体何があったの?」
「すみません、リアス。これは「すみません部長!俺がアルトリアに無理言って連れてきたんです。自分の力がアルトリアに通じるかどうか、確かめたくて…」イッセー……」
立ち上がり、訳を説明しようとするアルトリアを庇うようにイッセーが部長に謝罪する。その様子をジッと見つめるリアスだが、すぐに息を吐く。
「はぁ、そういう事にしてあげる。でも許可なくあの一撃を放ったことは許されないわ。罰として、アルトリアとイッセーはこの辺り一帯の片づけよ。いいわね」
「は、ハイ!」
「謹んでお受けします」
そのままリアスたちは屋敷へと引き返し、イッセーとアルトリアは原っぱの壊れた自然を魔術と手作業で直していった。
翌朝も特訓は続く。あの一件以来、イッセーへの過保護さを自覚したアルトリアはその気持ちを振り払わんとイッセーと剣を振るい、激しい戦闘を繰り広げた。イッセーもまた負けじとアルトリアに食らいついていく。アーシアもまた、回復だけではなく的に襲われた時の逃げ方、反撃の仕方などのレクチャーを受けた。皆が皆、残り少ない時間を自己の強化や連携強化に努め、そして遂に合宿は終了したのだった。
◆
コツコツコツコツ……
荘厳な装飾が施された広間をアルトリアは歩いている。その姿は学生服でも、いつものバトルドレスでもない。戦闘用ではない、社交界向きの青いドレスを身に纏い、黒いオペラグローブとハイヒール、目立たないが程よく煌きを与える宝石類を身に着け、エムリスは見えないように胸元に隠している。
ここは亜空間に存在するレーティングゲームの会場。この一戦は単なる催しではなく、悪魔の社交界にも少なからず影響を与えるので多くの悪魔が観戦に訪れていた。会場に居る多くはグレモリー、フェニックス両家に関わりの深い悪魔たちだが、一部アルトリアの主と懇意になりたい野心的な貴族も混じっている。
「おい、あそこにいるのって……」
「サーゼクス様の食客の……」
「ということは、あれが謀叛を起こした貴族を屋敷ごと消失させたという……」
「聖剣使い、なんと恐ろしい……」
遠巻きに見やり、ヒソヒソと話し合う貴族階級の悪魔達。そんな話を無視しながら、アルトリアは会場の一室に向かう。
「失礼します。アルトリア・ペンドラゴン、参りました」
「おぉ、アルトリア。待っていたよ」
「お久しぶりでございます。グレモリー卿、フェニックス卿、両夫人もご機嫌麗しゅう」
部屋にいたのは、男女合わせて4人。リアスよりも色の濃い紅髪と髭を蓄えた紳士と、幼なげな印象すら感じる亜麻髪の婦人。彼らこそリアスの両親であるグレモリー家現当主、ジオティクス・グレモリーと、妻のヴェネラナ・グレモリーである。反対側のソファーに座る金髪の男女はフェニックス家の当主とその夫人。ここは会場の中でも最VIP席、今から戦うリアスとライザーの家族の為の席だ。
本来なら入る事は出来ないが、アルトリアは彼女の主の護衛という形で特例で入ることが出来た。
「アルトリアさん。リアスの為に10日間もありがとうございました」
「いえ、リアスは私にとっても良き友人です。それに私にとっても、今回の特訓は大変貴重な体験でした」
穏やかに問いかけるヴェネラナに、笑顔で返す。一見するとリアスと大差ない年頃の少女に見えるが、元72柱の第一位バアル家の生まれであり、『
「アルトリア卿、息子は、ライザーは何か失礼を働かなかったでしょうか?あの子は少々傲慢なところがあります。悪魔としては傲慢さは構わないのですが、個人としてのあの子の態度は些か目に余るのではなかったでしょうか」
「ご安心を、夫人。私に対しては常に礼を持って接していただきました。ですが、ご心配はもっともかと。率直に申し上げますと、ライザー卿の過ごされ方は些か品に欠けるものでした」
「そうですか、やはり………」
アルトリアからの正直な評価にフェニックス侯爵夫人は目を伏せる。母親として、息子の不始末を残念に思っているのだろう。
「……フェニックス卿、一つよろしいでしょうか。何故このタイミングで急に婚約話を進めているのですか?フェニックス家にも、グレモリー家にも既に別々の跡取り候補がいるというのに……」
「アルトリア卿、貴方の言いたい事は分かる。リアス嬢との約束を破って婚約を無理矢理進めた事、君も怒っているのだろう?」
フェニックス卿からの問いかけにアルトリアは否定するように首を振る。
「いえ、そのような事は……」
「いや、分かっているのだ。正式な書類を交わしたわけではないとはいえ、悪魔が契約を反故にするなどあってはならぬ事。だが、そうも言ってられなくなってきたのだ」
なにやら深刻な顔を浮かべるフェニックス卿。
「アルトリア卿、貴殿はこの縁談の目的を知っているかな?」
「……表向きは魔王を輩出したグレモリー家に取り入る為、裏の目的は万能薬『フェニックスの涙』の利権を我が主が欲したため、と聞いております」
フェニックス卿からの質問にアルトリアは忌憚なく、自分が聞いた情報を述べる。ここまであっけらかんに話すと顰蹙を買いそうだが、彼はそのような人物ではないしここで下手にはぐらかすよりはよっぽどいいだろう。
「そうだな、二つとも理由の一つだ。だがもう一つある。我が息子ライザーと、リアス嬢。それぞれに腰を落ち着けて欲しいのだよ」
フェニックス卿は苦笑を浮かべたのち、三つ目の理由を語った。
「腰を?」
「そもそもこの縁談はそこまで火急という訳ではない。我が家には長男ルヴァルが、グレモリー家にはサーゼクス殿の息子ミリキャス殿が居る。グレモリー家はリアス嬢が第一候補だが、彼女の性格を考えれば、ミリキャス殿の可能性も大いにある。だがそれでもルヴァルとミリキャス殿、どちらにも
「!?それは、まさか」
「そのまさかだよ、アルトリア。フェニックス卿には『眠りの病』の初期症状が出ている」
眠りの病。それは悪魔のみが発症する特別な病気。原因は未だ解明されておらず、ある日突然深い眠りに陥り、そのまま目覚めることなく、人工的に生命を維持しなければ徐々に衰弱して死に至る不治の病である。
「もしもの事態に備えるための保険としての縁談だが自己中心的なライザー、自由奔放なリアス嬢。二人を置いて眠りにつくわけにも行かん。今のうちに二人を結び合わせ、家庭に落ち着かせてあわよくば二人の子が見たいと思ったのだ。ライザーは快く受けてくれたが、リアス嬢には悪いことをした。すまない、グレモリー卿」
「いえ、私としてもそろそろリアスには身の振り方を考えて欲しいと思っていました。あの子ももう18、大人として扱ってもいい頃合いです。そろそろ大人として腰を落ち着けて欲しいと思っていました。好きな人と結婚する、あの子はそう言った。だが実際のところはリアスは高嶺の花として、恋慕ではなく尊敬と崇拝の対象になっている。そのせいか今では告白してくる人間は1人もいないそうなのです」
実際に一年生、二年生のころには告白してくる男子も大勢いたそうだが、その誰もがリアスの求めるレベルに達しておらず、振られて撃沈した。結果今となっては男子間で半ば冷戦状態で、遠巻きに興奮したり崇拝する程度の収まってしまっている。
「このままでは無為に4年を過ごすか、大学で何処の馬の骨ともしれん男の毒牙に掛かるかもしれない。それならいっそライザー卿との予てからの縁談を進めた方がいいと思ったのだが、あの子は分かってはくれないだろうな……」
「ご安心を、父上。あの子は自らの意思で選択しました。それはあの子の責任です」
突然、室内に魔法陣が展開され、一組の男女が転移してきた。片方はグレイフィア、もう片方は紅い髪を持つ青年だった。力を抑えていても分かる、圧倒的なオーラ。アルトリアはすかさず頭を下げて、礼を尽くす。
「サーゼクス……」
「遅れてしまい申し訳ありません、父上、母上。フェニックス卿御夫妻も」
「いえ、お気遣いなさらずとも」
サーゼクス・ルシファー。リアスの実の兄にして、悪魔を統べる四大魔王の1人、『
「お久しぶりでございます、サーゼクス様」
「やぁ、アルトリア。いつもリアスが世話になっているね。ありがとう」
「いえ、これも騎士の務めでございます」
サーゼクスが礼を解くように手を振り、アルトリアは面を上げる。そして、サーゼクスの為に用意されていた豪奢な椅子にサーゼクスが座ると、グレイフィアが右後ろ、アルトリアが反対の左後ろに控えた。両家が座っていたソファも浮きながら移動し、空中に映し出された映像を見せるように移動する。
映像には、リアスとライザー、そして両眷属が映し出される。遂に、運命の一戦の幕が切って落とされる!
イッセーに傷付いてほしくない、辛い目に遭って欲しくない、惨めな思いをしないで欲しい、とその為に暴走しかけたアルトリア。ドライグからの警告が無ければ、何処かで壊れるか、レベリング不足で致命的なミスを引き起こすところでした。
両家の言い訳タイム。こういう理由があったのではないかなぁと自分は思っています。因みに眠りの病の初期症状は完全にオリジナル。