赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 最近熱くて仕事から帰っても全然原稿書く気になれない。マジで眠りたい……

 前回週1投稿ギリギリ出来ず。割とダイジェスト風も不評でしたかね、感想少なかったですし……この失敗を糧に次に観客席に立つ場合はもっと描写を盛ろうと思います。

 よろしければ、お気に入り登録や感想をお願いします。

 それでは第十五話、どうぞ!


赤き龍をその身に纏いて

 時は少し遡る。まだイッセーたちがライザー眷属たちと戦いを繰り広げていた頃。『女王』同士の戦いは朱乃優位で進んでいた。両者の実力差は少ない、だが魔術師タイプで近距離戦を苦手とするユーベルーナと遠距離戦に加えて、近接戦を身に着けた朱乃では手札の差が有った。

 

 

「ガハッ!?」

「ふぅ、終わりですわね」

 

 

 雷から作った薙刀によって地面に叩きつけられたユーベルーナ。蜘蛛の巣状に割れた地面に横たわるその身体は雷と薙刀によってボロボロになっていた。無論朱乃も無傷ではない、ユーベルーナ程ではないが、身体に傷を負い息も上がっている。自慢の巫女服は脚や胸の谷間が丸見えになるほどボロボロになっていた。

 最早ユーベルーナのリタイヤは時間の問題、そう思い朱乃はイッセーたちに戦っている方角を見やる

 

 

「(イッセーくん、もう少しでそちらの救援に……)」

「クッ……」

 

 

 ユーベルーナはその懐から赤い小瓶を取り出し、それを飲み干そ「させませんわ」バチッ!

 

 

「何ッ!?」

 

 

 朱乃の指から放たれた一筋の電光。それは今まで放ってきた雷に比べれば細く弱いものだったが、彼女の手の中の小瓶を割るには十分だった。

 

 

「やはり、油断大敵ですわね。まさか『フェニックスの涙』を隠し持っているとは……」

 

 

 フェニックスの涙。フェニックス家の悪魔のみが精製できる万能薬。飲めばたちまちに重傷も癒え、体力魔力も回復する夢のような薬。本家レーティングゲームにも使われる貴重なものであるため、なかなか手に入らないのだが製造元であるフェニックス家なら自由に使うことが出来る。

 ライザーがもしものためにと渡していたが、朱乃には見破られていた。

 

 

「何故だ…何故分かった!!」

「あらあら、ごめんあそばせ。貴女が私の攻撃を唯々諾々と受けてくれる良い子とは思えませんでしたの。それにこの婚約は両家にとって何としても成立させたい物、であれば多少グレーな手を使ってきてもおかしくはないでしょう?」

 

 

 朱乃自身、やられたと見せかけての反撃には経験がある。合宿中のアルトリアとの戦いの際、一度雷で戦闘不能にしたと思っていたら、こっそりと回復魔術を掛けていたアルトリアに手痛い反撃をうけたことがあった。騎士らしくない戦い方ではあったが、アルトリアは職務の為ならそこまでこだわるタイプではない。そしてその経験は今こうして生きていた。

 

 

「……ですが、貴女の魔力も底を尽き掛けているでしょう。そんな身でこれを受けられるかしら!」

 

 

 そう言ったユーベルーナは残された魔力と生命力を全力でかき集めて、一つの巨大な爆発魔法を練り上げた。

 

 

「ッ?!」

「自然回復される前に、ここで倒すッ!!」

 

 

 杖から魔法陣が放たれると同時に、ユーベルーナねや身体は光の粒になって消え始めた。朱乃は全力で防御魔法陣を展開するが雀の涙ほどの魔力では防ぎ切る事は出来ない。そこで朱乃は爆発の威力流されて、それを推進力に使うことにした。

 踏み止まる事は出来ない。なら少しでも威力を受け流す事に集中すべき。そう考えた朱乃は爆発の威力によって吹き飛ぶ事を選んだ。

 

 朱乃の目論見は成功した。彼女は上手く爆発魔法を推進剤に新校舎まで飛ぶ事が出来た。が、爆発の威力を殺し切れた訳ではない。爆炎と衝撃は朱乃の残り少ない体力を大きく削った。そして朱乃はイッセー達のいるグラウンドまでたどり着いたのである。

 

 

 

 

 

「朱乃さん!?」

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名、リタイヤ』

 

 

 傷付き、へたり込む朱乃にイッセーは駆け寄った。グレイフィアのアナウンスがユーベルーナのリタイヤを通告するが、彼の耳には入らない

 

 

「ふふふ、ごめんなさいイッセーくん。私はここまでのようです。部長を、皆をお願いしますね」

「!……ハイ!」

 

 

 そう言い残し、朱乃は光の粒となって消えた。

 

 

『リアス・グレモリー様の『女王』一名、リタイヤ』

「まさかユーベルーナがやられるなんて……フェニックスの涙まで渡したというのになんて事ですの…」

「フェニックスの、涙?」

「ご存知ありませんの?我がフェニックス家の者のみが生み出せる万能薬。その効能は如何なる傷をも癒すんですのよ」

 

 

 イッセーは耳を疑った。確かにフェニックスの事は合宿中に聞いたが、そんな薬があるとは知らなかった。それ以上に、そんなのアリかと思ってしまう。

 

 

「卑怯とおっしゃらないでくださるかしら。そちらだって、『聖母の微笑』を持つ者がいるでしょう?」

 

 

 イッセーの心中を把握したようにレイヴェルは言う。

 

 

「それにちゃんとルールに記載されてますわ。『フェニックスの涙はゲームに参加する悪魔二名までしか所持できない』と。あまりに強力なので規制されてしまいましたの。まあ、当然ですわね。私達の場合は私と『女王』が持っていましたの。だというのに……」

 

 

 レイヴェルは心底悔しげに爪を噛む。行儀が悪いが、それほどまでに彼女は苛立っていた。

 

 

「ユーベルーナが倒れた以上、私がやるしかありませんわ。リアス様の『兵士』さん、貴方の存在は危険ですの。お兄様の元へ向かわれる前に私が……」

 

 

 そう言ってレイヴェルが手に炎を集め出した瞬間、彼女の身体を無数の魔剣が刺し貫いた。

 

 

「!?木場!」

「どうやらこのゲームでの最後の役目はこれらしい。イッセーくん、ここは僕が抑える。君は早く部長の所へ!」

「木場……頼んだ!」

 

 

 そう言ってイッセーは新校舎へと走った。やや覚束ない足取りを心配げに見つめつつ、魔剣の剣山に目を向ける。既にレイヴェルの再生は殆ど終わっていた。

 

 

「さて、君もフェニックスならこの程度ではやられないのだろう?」

「当然ですわ。私とてフェニックスの女。貴方を倒して、お兄様の元へ向かいます」

「行かせないよ。不死だとしても、動けなければ意味が無い!」

 

 

 イッセーの背後で炎と氷が爆発した。しかしイッセーは振り向くこともなく、新校舎へと走る。祐斗の覚悟を無駄にしない為に。

 

 

 

 

 その頃、VIP席では、やや重苦しい空気が漂っていた。非公式のレーティングゲームで『フェニックスの涙』、それもフェニックス陣営のみが二つも持ち、リアス側には無い。明らかに不公平であった。

 

 

「フェニックス卿、これはどういう事ですか……幾ら婚約を進めたいからといってこのような、このような卑劣な真似を!」

「アルトリア、控えなさい」

「ですが!「控えなさい」ッ!ハッ、申し訳ございません……」

 

 

 思わず声を荒げてフェニックス卿に抗議するアルトリアだが、サーゼクスがそれを遮る。

 

 

「さてフェニックス卿、確かにこのゲームにおいて『フェニックスの涙』の禁止は定めていない。これは些か性善的なルールだったが、それを分かった上で持たせましたか?」

「いえ、私も妻も今初めて知りました。恐らくは私物を独断で持ち込んだのでしょう」

 

 

 その言葉が嘘か真かはこの際どうでもいい。結果的に使われなかったとはいえ、フェニックス家の大人げなさが擁護し切れないほど露呈した。勝っても負けてもしばらくは風当たりが強くなるだろう。

 

 

「申し訳ございません、サーゼクス様。私がボディチェックをしていれば……」

「過ぎた事を言っても始まらない。幸い、というべきか。一本は既に壊され、もう一本もレイヴェル嬢の手の中、ライザー卿側で残っているのはフェニックス兄妹のみ。であれば『涙』は無用の長物だろう。それに魔王の私があれこれ口を出すのもはばかられるしね」

「ハッ……」

 

 

 結論として、ゲームはこのまま続行となった。別に不正を犯したわけではない。それに中止となれば双方に遺恨が残る上に、皆納得しないだろう。アルトリアは映像内で『女王』にプロモーションしたイッセーの無事を祈るしか出来なかった。

 

 

 

 

 新校舎を駆け上がり、最上階の窓を開ける。その眼前には対峙するリアスとライザー。アーシアは二人を少し離れた場所からオロオロとしながら見守っている。 

 ライザーの顔からは余裕の色がやや失せ、対するリアスは紅髪がはね、制服にも破けが出来ている。

 

 

「部長ォォォォォォォッッ!兵藤一誠!ただいま参上しましたぁぁぁぁぁッ!」

 

 

 屋上全体に聞こえるような声を張り上げる。全員の視線がイッセーへ集中した。

 

 

「イッセー!」

「イッセーさん!」

 

 

 リアスとアーシアが歓喜の声をあげる。対するライザーは舌打ちし忌々しに顔を見た。

 

 

「ドラゴンの小僧か?ついにここまで登って来たか。まさかレイヴェル以外が全員やられるとはな。よかろう、そろそろ本気を出すとしよう」

「手を抜いていたというの?ふざけないでライザー!」

 

 

 ライザーの舐めた態度に怒ったリアスが、魔力の弾をライザーの顔面を撃ち放つ。それを避けもしないで直撃を食らうライザー。

 頭部が消し飛んだが、すぐに炎が立ち昇り、形を成していく。炎はしだいに顔となり、髪となり、ライザーの頭部は元の状態に戻ってしまった。ライザーは何事もなかったかのようにコキコキと音を鳴らすだけだ。

 

 

「リアス、投了(リザイン)するんだ。君は俺を詰めたと考えているようだが、それは違う。俺だけでも残った4人全員を焼き尽くす事が出来る。君は最初から詰んでいるんだ。大事な妻の肌をこれ以上焼かせないでくれ」

 

 

 諭すようにライザーは言う。だが、リアスは睨むだけだった。

 

 

「私達を舐めるのもいい加減になさい、ライザー。そういうセリフは私たちを叩きのめした後に吐くものよ。まだ私も、イッセーも、アーシアも祐斗も立ってる。あなたこそ、消し飛ばされる前に投了(リザイン)なさい!」

 

 

 不敵に笑うリアス。彼女の闘志は未だに衰えていなかった。そしてそんな彼女を護るように間に割って立つイッセー。

 

 

「アーシア!」

 

 

 イッセーに呼ばれ、リアスとイッセーの治療を始めるアーシア。アーシアの手が触れると、緑色の淡い光がやさしく2人を覆う。イッセーは体から痛みが嘘のように消えていくのを感じた。顔の腫れが引いていき、ローキックの連発で感覚を失っていた足にも少しずつ感覚が戻ってくる。

 だが疲れだけは取れなかった。傷が癒えても体力は戻らない。それは『聖母の微笑』の効果にはなかった。

 

 

「俺を治療したらアーシアは下がっていろ」

「!」

 

 

 驚いた顔のアーシア。

 

 

「そんな……私だけ何もしないなんて、私だって魔法で戦えます!いざとなればアレで……」

「アーシアが残っていれば、俺と部長を癒すことができる。アーシアは俺達の生命線なんだ」

 

 

 沈痛な面持ちで何かを言いたげなアーシアだったが、すぐに口を閉ざして後ろに下がった。これでいい。別に足手まといという訳ではない。だがアーシアが無事なら半ばゾンビ戦法じみた事も出来る。戦いにおいては後方支援が大事という事をイッセーは合宿で学んでいた。

 

 

「キャッ!」

 

 

 アーシアの悲鳴が耳に届く。イッセーが目にしたのは足元に出現した魔法陣に囚われるアーシアだった。いつの間に仕掛けたのか。

 

 

「それは前々からウチの『女王』と『僧侶』が仕掛けていたものだ。罠など使わなくても勝てると思っていたが、どうやらそうもいかないらしい」

 

 

 ライザーが淡々と言う。アーシアが封じられた以上、回復は難しい。しかし、それでもまだ二人は戦える状態だ。

 

 

「部長。勝負は続行ですよね?」

「ええ!」

 

 

 リアスの声音に諦めの色は無かった。ボロボロになっても気丈に振る舞うその姿はイッセーの眼に鮮烈に映った。

 

 

「ほう、向かってくるか。諦めず不死鳥たるこの俺に向かってくるというのか、小僧」

「諦めねぇよ。俺はバカだから、チェスの『読み』とか『詰み』とかよく分かんねぇ。でも、まだ俺は戦える。拳が握れるかぎり最後まで戦ってみせる!」

「よく言ったわ!イッセー、一緒にライザーを倒すわよ!」

「はい、部長!」

 

 

 リアスは、愛しい下僕に高らかに命令を下す。内容は単純、目の前の敵を殴り飛ばす。それだけだ。リアス直々の命令に、イッセーは再度奮起し、突撃した。

 

 

「行くぜ!」

『Burst』

 

 

 それは、一番聞きたくない音声だった。その音声が宝玉から発せられた瞬間、イッセーの体から一気に力が抜ける。全身の機能が停止したような感覚の後、意識が飛びかける。突撃した勢いのまま、イッセーは四つん這いに崩れ落ち、腹からこみ上げてくる物を吐き出してしまった。

 

 

「ゲホッ」

 

 

 それは血反吐だった。それを目にして彼は理解してしまった。既に肉体は限界なのだと。籠手の宝玉の光が弱まる。その弱弱しい光は、まるでイッセーの命の火のようだった。倒れるイッセーにライザーが声を掛ける。

 

 

 

「ブーステッド・ギアの能力はな、想像以上に宿主を疲弊させるんだよ。力を無理やり倍加させていくこと自体、異常すぎることなのさ。体への負担は他の神器に比べると段違いに高い。この戦場を駆け廻り、俺の下僕達と戦いながら、ブーステッド・ギアを使い続けた。リアスの『兵士』、お前はとっくに限界だったんだよ」

 

 

 ライザーに諭されて尚、イッセーは立ち上がろうとした。身体が悲鳴をあげているが、そんなことは知った事ではなかった。憧れの部長を護る為、10日間の特訓に付き合い自分のパワーアップに腐心してくれたアルトリアの為、ここまでに託された仲間たちの為。震える膝に鞭をいれ、立ち上がる。

 

 

「部長、行きましょう!」

 

 

 イッセーはライザーへ向かって突っ込んでいった。

 

 

「ぐほっ!」

 

 

 しかし緩慢なその動きは、ライザーには止まって見えていた。眠りそうなその動きを悠々と見切り、鋭い蹴りを入れる。蹴り飛ばされたイッセーは、石ころのようにゴロゴロと屋上から、下の屋根を転がり落ちた。

 

 

「イッセー!」

「ッ…大丈、夫っすよ。部長、俺、どんな事をしたって、勝ちますから……」ドゴンッ!

 

 

 立ち上がらんとしたイッセー。しかしライザーの拳がイッセーの腹に深く突き刺さり、さらに抉り込ませるように拳を回転させる。ゴボッっと、口から血が吐き出される。

 足元に血の池が出来るかと思えるほどの量にイッセーは他人事のように思いながら、霞む意識を保たんとする。

 

 

「イッセー、もういいわ。退きなさいイッセー……」

「大丈夫っすよ…勝ちますから…このライザーをぶっ倒して…。部長に勝利をプレゼントします…」

「ッチ、死に損ないが!」

 

 

 余りのタフさ、生き汚なさに舌打ちし、ライザーは更に腹に膝蹴りを加える。そして追い打ちにと、更に拳による連打を加えた。火の粉を纏いながらの連続攻撃、それでもなおイッセーは倒れない。

 

 

「イッセー!私の命令が聞けないの!?」

「勝ったら、部長は笑ってくれますよね…?俺、勝ちます。…俺は『兵士』……最強の『兵士』になるんです。そう最強の……」ズドン!

 

 

 瞬間、スローモーションになる世界。イッセーがそれを知覚した時には、拳が顔面にめり込んでいた。

 

 

「!?イッセー!!」

「 (やべ、意識が……部長……わりぃな、アルトリア……) 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、俺やられちまったのか……クソ。アルトリアにあんなこと言っておいて情けねぇな……

 

 

『よう、相棒。惜しかったな』

「ドライグ……」

『俺の第二の能力『譲渡』を開花させたまでは良かったが、流石にまだ連戦はキツかったか』

 

 

 うるせぇ、という言葉が出かかったが、実際連戦がきつかったのは事実だ。

 

 

『お前は俺というドラゴンを宿した異常な存在、情けない姿なんぞ見せるな。そんな弱っちいままじゃ、いつか出会う今代の白龍皇に笑われちまうぞ』

「今代の?」

『そうさアルトリアが言ってただろ、俺とあいつの因縁を。それは今でも続いてる。あんな不死鳥如きにやられてはいられないぞ』

 

 

 不死鳥をごときと吐き捨てるドライグには強者の矜持が満ちていた。そうだ、いま俺はライザーにボコボコにされて、負けちまったのか……クソ!

 

 

『安心しろ。まだお前はリタイヤ扱いにはなってない。それに別に負けるのはいい、次の勝利の糧になるならな。だが、今回は負けるわけにはいかないのだろう?』

 

 

 あぁ、そうだ。負けるわけにはいかねぇ。ライザーをぶっ飛ばして、部長を笑顔にして、アルトリアに胸を張って自慢してやるんだ!お前に守られるばっかじゃない、お前と一緒に戦える男だってな!

 

 

『その意気だ、相棒。お前は新たなステージに進んだ、まだちと早いが俺の力の本来の使い方を教えてやる。ただし、代償は貰うがな。安心しろ、それに見合うだけの価値は与えてやるさ』

「本来の力の使い方……まさかバランス・ブレイクの事か!」

『そうだ。だが今のお前では完全な姿にはなれない。あくまでも疑似的な姿に留まる。それに代償も払ってもらう。だが得られる力は今までの比じゃあない。さぁ、どうする?』

 

 

 試すように問いかけるドライグ。だが、イッセーの答えは決まっていた。

 

 

「いいさ、俺の身体をくれてやる。腕の一本でも二本でも構わねぇ。アイツに、ライザーに勝てる力が、部長が悲しまなくなる力が欲しい!」

『良い答えだ!ならばその身に、赤龍帝の威を纏うが良い!!』

 

 

 イッセーは力強く左腕を突き出す。そこへ周囲の炎が集まると、左腕を覆うように炎が纏わりついていった。熱いが、不快感は無い。そんな不思議な炎が消えた後、イッセーの腕は人ならざるモノに変化していた。赤い、真っ赤な鱗が肩口辺りまで生えそろい、指はゴツゴツした間接と鋭い鉤爪を備えている。その腕は正に龍の腕だった。

 

 

『さぁて、お前と俺を嘲笑った連中に見せつけてやろうか。『ドラゴン』って存在をな!』

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライザーの拳がイッセーの顔面に突き刺さった瞬間、リアスは無我夢中で飛び出した。最早なりふりは構っていられない。大切な、愛しい下僕が目の前でぼろ雑巾の様にされているのを彼女は見過ごせなかった。

 二人の間に割って入り、すかさずイッセーの身体を抱き寄せる。イッセーは、既に意識を失っていた。眼は虚ろで、口も開いたまま。それでも無意識に前へ出ようとしている。震える拳を握りしめたまま……

 

 

「…あなた、こんなになってまで…」

 

 

 リアスの頬をいつの間にか涙が伝っていた。すっかり晴れ上がったイッセーの頬へ手を伸ばす。そこへアーシアが罠を振りほどいて駆けつける。すかさず治療を始めたが、意識は戻らない。

 

 

「イッセーさん!イッセーさん!!」

「…バカね」

 

 

 前へ出ようとするイッセーをリアスは抱きしめた。優しく、その苦労を労わるように。

 

 

「お疲れ様、イッセー。ありがとう、不甲斐ない私の為に、よく頑張ってくれたわ」

 

 

 そっと、イッセーの頭を撫でた後、ライザーに言う。

 

 

「私のm「まだです、部長……」!イッセー!?」

 

 

 先程まで意識を失っていたはずのイッセーが目覚めた。

 

 

「よう、ライザー。俺はまだ倒れてねぇぞ……」

「ふん、死にぞこないが。せっかく主がお前の為に投了しようとしていたというのに…」

「あいにく、こっちにはまだ奥の手があるもんでな。それにてめぇは触れちまったぜ。赤龍帝の逆鱗に!!」

 

 

 そういうと、イッセーの神器が光り輝く。その光は今日一番のものだった。

 

 

「部長、十秒でケリをつけます。それとアーシア、例のモノを」

「…イッセー?」

「イッセーさん……分かりました。どうぞ」

 

 

 イッセーの言葉にリアスは怪訝な表情を浮かべ、アーシアは小包を渡す。

 

 

「ふん、死にぞこないの雑魚が十秒とは大きく出たな。ならば、俺はお前を五秒で片付けよう。死にかけ一人片付けるには丁度いいわ!来い、リアスの『兵士』!」

 

 

 再度、ライザーはその炎を高ぶらせる。アレだけ恐れていたフェニックスの炎が、今のイッセーにはマッチの火程度に感じられた。

 

 

「部長、俺は木場みたいな剣の才能はありません。朱乃さんみたいな魔力の天才でもないし、小猫ちゃんみたいなバカ力もないし、アーシアの治癒の力もありません。そしてアルトリアには何もかもが及ばない……それでも最強の『兵士』になりますッ!」

 

 

 それは静かな、そして力強いイッセーの誓いだった。

 

 

「その為なら、俺は神様だってぶっ倒してみせますッ!このブーステッド・ギアでッ!俺の唯一の武器でッ!俺は貴方を、みんなを守って見せますッ!」

 

 

 イッセーは、必ず強くなるとこの場にいるリアスに、この場にいないアルトリアに誓った。

 

 

「見てろよ、アルトリア……輝きやがれ、オーバーブーストォッ‼」

Welsh Dragon over booster(ウェルシュドラゴンオーバーブースター)!!!!

 

 

 籠手の宝玉が音声と共に赤い閃光を解き放つ。その赤い光が一帯を覆い、イッセーの体が真紅のオーラに包まれる。ドラゴンの姿を模した全身鎧(プレートアーマー)。全体的に鋭角なフォルムを持ち、いつもの籠手は左だけでなく、右腕にも装着されている。籠手にあった宝玉が両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも出現していた。そして背中にはロケットブースターの様な推進装置もついている。まるで小型のドラゴンである。

 その威容はその場にいた者だけでなく、フィールドの外にいる者たちにも伝わっていた。

 

 

 

 

 

 

「あれは、まさか!!」

禁手(バランス・ブレイク)。それも神滅具のとは……」

「神を殺し世界のバランスを崩す、禁じられた忌々しい外法の力。まさかこの目で見ることなるとは……」

 

 

 その場にいる誰もが驚愕し、口をふさぎ、眼を見開いていた。かつて、自分達に牙をむいた龍帝。その力の一端が解放されたのだから。

 そしてアルトリアは得も言われぬ感覚に包まれていた。力が、ドラゴンの力が流れ込んでくる。イッセーとのパスを通じてとてつもないエネルギーが彼女の身体を駆け巡っていた。まるで長い間使われていなかった全身の各所に力が流れ込むような、本来あるべき機能を稼働させることが出来たかのような快感が彼女の身体を駆け巡っていた。

 

 

「サーゼクス様、勝ちます。リアス様は、イッセーは必ず勝てます」

「アルトリア……フフフ、そうだね」

 

 

 

 

 

 

「す、すげぇ力だ……」

『ああ、使ってみろよ。ただし、十秒だ。それ以上はお前の体が保たない』

「分かってるよ、十秒だけだろ」

『そうだ。だが、十秒あれば、おまえは』

「俺達は奴を殴り飛ばせるッッ!!」

 

 

 赤いオーラを放ちながら、イッセーは前へ飛び出す。

 

 

「鎧⁉赤龍帝の力を鎧に具現化させたのか⁉」

 

 

 驚愕しているライザー。彼の見解は概ね正しい。この姿は文字通り小型赤龍帝なのだから。

 

 

「これが龍帝の力!禁手(バランスブレイカー)、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』!!俺を止めたきゃ魔王様にでも頼み込め!何しろ、世界のバランスを壊す力らしいからな!」

 

 

 この鎧の能力は、十秒の間、爆発的な力を解放する事。一度解放されたら、十秒間無敵になる。だが、リスクも大きい。能力解放の十秒後、丸三日は神器が使えなくなる。力を渡された後ドライグの思念が教えてくれた。つまり、一か八かの十秒だけの無敵モードだ。

 

 

(テン)!』

 

 

 カウントが開始された。イッセーは両の手のひらを少し開けるように合わせ、手のひらの間に魔力の塊を生み出し、それを一気にライザーの方へ放出する。手のひらから生み出された魔力は、巨大な帯となってライザーに襲い掛かった!

 

 

「ッ!?」

 

 

 ライザーの予想に反する大きさの魔力砲だったためか、受け止めることをやめて避ける体勢を作り出していた。

 

 

「ここだ!」

(ナイン)

 

 

 イッセーはライザーが避けるであろう先に向かって飛び出した。鎧の背部にある噴出口から魔力が噴き出す。刹那、爆発的な速度が生み出された!体にかかるGの影響でまともな動きができないままライザーとの距離が近づいていく。避ける先に猛スピードで迫ってきたせいか、ライザーは驚き、対応もできない状態で身構えていた。そしてそのままライザーにタックルをかます!

 

 

 チュドォォォォォォンッ!

 

 

「ッ!お兄様!!」

「イッセー君!」

 

 

 ジェット噴射の勢いのまま地面に激突した二人。ゆっくりと立ち上がるライザーは全身を打ちボロボロになっていたがすぐに再生を始める。対するイッセーの鎧には傷一つない。龍の身体は地面に激突した位では掠り傷も付かない。正に鉄壁である。

 

 

(エイト)

 

 

 残り八秒。ライザーは自身の認識を改めていた。目の前にいるのはただの眷属悪魔ではない。

 

 

「赤龍帝のクソガキ!認識を改めよう!認めたくないが、今のお前はバケモノだ!ここで散れェェェェッ!」

 

 

 咆哮を上げるライザーの背中に巨大な炎の翼が出現した。奴の全身を炎が渦巻き、フィールドを激しい熱気が包み込む。その場にいた木場とレイヴェルは巻き込まれまいと距離を取る。

 

 

「火の鳥と鳳凰!そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火!その身に受けて燃え尽きろッッ!」

 

 

 火炎に包まれたライザーが高速で迫ってくる。眼前に広がるあり得ない質量の炎。その姿は巨大な火の鳥そのものだった。翼から生み出される業火の塊。触れれば火傷ではすまないだろう。

 

 

 

不死鳥(フェニックス)の炎はドラゴンの鱗にも傷を残す。食らい続けるのは得策じゃない』

 

 

 ドライグからの助言、しかし引くわけにはいかなかった。こんな力を持ったというのに、リアスがアルトリアが見ているというのに引くという事は、イッセーには出来なかった。

 

 

「てめぇのチンケな炎で俺が消えるわけねぇだろォォォォォォォッ!」

 

 

 吼えながら突っ込むイッセー。背中の噴出口から魔力の火をふかしながら突っ込む。ドゴンッ!と音を立ててお互いの拳がお互いの顔面にぶつかり合った瞬間、力の衝突が波動となってフィールド全体を振動させる。運動場のど真ん中で二人は力比べを始める。

 

 

「(熱ッ!やべぇな……この鎧を脱いだら間違いなく()られる!)」

「怖いか!俺が怖いか!当たり前だ!お前はブーステッド・ギアが無ければ唯のクズだ!その鎧が無ければ、俺の拳が届く以前に業火の熱でお前は消失している!そう!お前からその籠手を取ったら、お前は何の価値もない!」

 

 

 ライザーからの指摘は当たっている。イッセーの力の源はこの神器だ。これが無ければイッセーのポテンシャルは精々『兵士』一個であろう。

 

 

(セブン)

 

 

 イッセーは籠手の一部に隠していたものを手のひらにセットした。ガゴッ!彼の拳がクロスカウンターの要領でライザーの顔面に鋭く入り込んだ。大きく仰け反るライザー。

 

 

「そんなもの!効く―」ゴバッ!

 

 

 ライザーの口から大量の血が吐き出される。その一撃はライザーにとって致命的だった。困惑するライザーに向かって手のひらを開き、持っているものを見せつける。

 

 

「十字架!十字架だと⁉」

 

 

 驚愕するライザー。そう、悪魔にとって十字架は禁断のアイテム。触れるだけで大ダメージは免れない。これはアーシアがもしもの時にと持ってきていたものだ。半ば自爆覚悟の技だが、悪魔には有効という事で持ってきていたのだ。

 

 

(シックス)

「十字架の効果を神器で増大させて、あんたを殴った。高めた聖なる攻撃は上級悪魔にだって効果抜群だろ。たとえ不死身のフェニックスでもこのダメージはそうそう癒せないんじゃないか?」

「バカな!十字架は悪魔の身を激しく痛めつける!いかにドラゴンの鎧を身に着けようと手にすること自体不可能なはずだ!」

 

 

「いや、可能だよ」

「というと?」

「彼は左腕をドラゴンに捧げたんだ」

 

 

 ライザーの疑問に答えるかのようにサーゼクスが漏らす。

 

 

「ドラゴンは悪魔と同一視されることがあるが、実際には違う。ドラゴンは本来超自然的な生物だ。いや概念といっても言い。純粋な力であるドラゴンには聖も魔も関係ない、だから彼は十字架を持っていられる」

「イッセー……」

 

 

 

 

「!?貴様!ドラゴンに腕を捧げるなど!そんなことすれば二度と元の腕には戻らない!お前はそれが分かっているのか⁉」

「それがどうした?」

(ファイブ)

 

 

 話している間にもカウントは刻まれている。

 

 

「俺みたいな奴の腕一本で部長が自由になれるんだ。こんなに安い取引は無いだろう?」

 

 

 その言葉を聞いてライザーの目元を引きつらせた。目の前の男は一人の女の為なら我が身をいとわない狂人だ。

 

 

「イカレているな。だからこそ、迷いのない一撃を放てるのか…。怖いな。初めて俺はお前に心底畏怖した。だから!」

 

 

ライザーの両翼がいっそう大きく燃え上がる。

 

 

「俺は全力でお前を倒すッ!」

 

 

 その姿はまさに火の鳥。周囲を炎に包みながら、こちらを消しにかかるライザーに負けじとイッセーも拳を構える。

 

 

(フォー)

「うおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 

 

 手に握る十字架に力を込める!互いが渾身の力を込めた一撃を放つ。そしてお互いの拳が重なり合った!

 

 

 カッ!

 

 

 激しい力と力のぶつかり合い。その衝撃に閃光が走り、イッセーの視界を覆う!それと同時に彼は包んでいたものが消失した感覚を感じた。続いて熱気が全身を包み込む!

 視界が元に戻った時、イッセーは自分の変化に気が付いた。彼の前身を覆っていた鎧がなくなっていた!今はドラゴンの腕と化した左腕だけが残され、手の中の十字架もさっきの衝撃で弾かれたのか、少し離れた場所の床に転がっている。早すぎる解除にイッセーは困惑を隠せない。

 

 

「おい、ドライグ!なんで鎧が解除されてんだ!?代償が足りなかったのか!?」

『いや、お前がこの力を得る為、俺に支払った物は十分だ。だがお前に蓄積したダメージが大きすぎる。発動前に仕切り直していれば話は別だっただろうが』

 

 

 あの状況でそんなことできるはずもない。今の肉体では再展開も不可能だろう。イッセーは間の悪さを恨んだ。

 

 

『鎧の力が解除される瞬間、ドラゴンの力を少しだけ宝玉に移せた。込めた力でライザー・フェニックスを一時的に圧倒できるだろうが、それで終わりだ。再生能力の高いフェニックス一族を倒すには―』

「何度も倒すか、絶対の力で屠るか、だけ」

『そうだ。残念ながら、今の籠手の力では何度も倒せない。倍増した状態も「絶対の力」とは程遠い。倒す条件をどちらも満たしてはいない事になる』

 

 

グイッ!

 

 

 イッセーは襟元を強く掴まれた。ライザーだ。首を絞められたまま、宙に浮かされる。ライザーが苦笑しながら、さらにその首を絞める。

 

 

「『兵士』の力でよくやったと褒めてやろう。本当によくやったよ。正直、ここまでやれるとは思わなかった。貴様と神器を侮辱した事を謝罪しよう。その力、この身で十分に体験できた。お前さんがあと一年いや、半年、ドラゴンの力に慣れていたら俺は負けていただろうな」

 

 

 その言葉は冗談ではなかった。ライザー自身既に体力も精神もガリガリに削られていた。現にさっきまで綺麗に再生していた服から体までボロボロだった。やはり再生能力の高いライザーでも、強化された聖なる攻撃を喰らえばダメージの回復が遅くなるようだ。炎の両翼も先程よりもかなり小さくなっていた。

 

 

「なに、引け目に感じる事はない。俺がリアスの婿になったら、俺がお前さんを鍛えまくってやる。強い悪魔になるぜ、お前」

 

 

 ライザー自身の若き才能に対する純粋な敬意。しかしイッセーにとっては余計なお世話だった。

 

 

「さて、ゲームも終わりだ。レイヴェルも助けてやらんといかんし、そろそろ眠って貰おうか。なに、少し意識がなくなるだけだ。お前もこれ以上心身共に苦しむのは嫌だろう。俺もサドじゃないんでね、一気に決めさせてもらう」

 

 

 ライザーの勝利を確信する表情。しかしイッセーは諦めていなかった。リアス、アーシア、祐斗、朱乃、小猫、そしてアルトリア。仲間たちの顔が脳裏をよぎり、イッセーは懐から小さな物体を取り出した。それはアーシアから十字架とともに託されたものだった。

 

 

「火を消すなら、水だよな!」

 

 

 イッセーが手にしていたのは聖水の入った小瓶だった。十字架と並んで聖なるアイテムの代表だが、耐性の高い上級悪魔には余り効果が無い。だが、ライザーの表情が一気に青ざめる。だが今のイッセーが持てばそれは上級悪魔すら脅かす毒液となり果てる。

 

 

「貴様ァ!」

 

 

 イッセーの首を締め上げるライザーの手が強まる。窒息する前にイッセーは瓶の蓋を開き、中の聖水をライザーの全身にふりかけた。イッセーの手に掛かれば聖水の効果を倍増する、上級悪魔が無視できないほどに!

 

 

「ブーステッド・ギア!ギフト!」

『Transfer‼︎』

 

 

 倍増された力が籠手から流れ出し、ライザーにふりかかった聖水へ譲渡される。

 

 

「しまっ」

 

 

 ライザーがその攻め手に気がついた時はもう遅い。『譲渡』された籠手の力が聖水の効果を倍増させる。

 

 

 ジュワァァァァッ!

 

 

 水が熱で蒸発する時に出る音を最大にしたようなものが会場に響き渡る。ライザーの炎の翼がぐにゃぐにゃとうねり始め、翼の形を成せなくなってきた。イッセーは緩んだ手から逃れ、喉元を押さえながら距離を取る。

 

 

「うがぁぁぁぁぁああああああッッ!」

 

 

 聖水の効果にのたうち回るライザー。聖水を浴びた体からは煙が立ち上る。今ライザーは全身が焼け爛れる痛みを味わっていた。

 

 

「…死ぬのか?」

『いや、いくら効果を強めた聖水でもフェニックス一族を容易に殺す事は出来ない』

 

 

 冷静に告げるドライグ。フェニックスの耐性の高さは尋常ではない。例え聖水のプールに落ちても死ぬことは無いだろう。

 

 

『だが、聖水の力が体力と精神を激しく消耗させる。いくら灰の中からでも再生するフェニックスでも一度に大量の体力と精神を失えば精神だけは瞬時に回復出来ないからな』

 

 

 シュゥゥゥゥ…。

 

 

 ライザーを包む煙が徐々に弱まっていった。後に残ったのは先ほどよりも服も体もボロボロになったライザーのみ。イッセーは床に転がっていた十字架をドラゴンと化している左手で拾った。ぎゅっと握りしめて力を込める。ついでに懐にしまっていた二つ目の聖水も拳へふりかけた。

 

 

「アーシアが言っていた。十字架と聖水は悪魔が苦手だって。それを同時に強化して、同時に使ったら、悪魔には相当なダメージだよな」

「くっ…」

 

 

 聖水の効果に苦しむライザーがイッセーの次の手を理解し、顔を強張らせていた。イッセーはライザーとその周囲を見渡す。リアスとアーシアは遠くで見守り、祐斗はレイヴェルを氷の魔剣で作った檻に閉じ込めている。トドメを邪魔する者は誰もいない。

 

 

「木場が言っていた。視野を広げて相手と周囲も見ろと」

 

 

 体中に流れている魔力のオーラを一点に集中。さらにそれをドラゴンの力に変化させて、十字架と聖水に譲渡する。

 

 

『Transfer‼』

 

 

 これよって聖なる力が圧倒的なパワーを得た。

 

 

「朱乃さんが言っていた。魔力は全体を覆うオーラから流れるように集める。意識を集中させて、魔力の波動を感じればいいと。ああ、ダメな俺でも感じられましたよ、朱乃さん」

 

 

 さらに体制を整えて、相手へ打撃を繰り出すために拳を構える。

 

 

「小猫ちゃんが言っていた。打撃は体の中心線を狙って、的確に抉り込むように打つんだと!」

 

 

 全部、修行で習ったことだった。合宿の成果は確かにイッセーの血肉となり、力となった。部員全員の力で部長を取り返すんだ!とイッセーがライザーに狙いを定めた時、ライザーが慌てふためく。しかしイッセーの殺意は揺るがない。

 

 

「アルトリアが教えてくれた。俺の身に宿っているのは二天龍と呼ばれるドラゴン、赤龍帝だと!てめぇはドラゴンを怒らせた!」

 

 

 その時ライザーは見た。誇り高き不死鳥すら歯牙にもかけない威圧感を放つ、赤いドラゴンの幻影を。ライザーは自分が何を敵に回したのかを理解した。

 

 

「ま、待て!わ、分かっているのか!この婚約は悪魔の未来のために必要で大事なものなんだぞ⁉お前のような何も知らない小僧悪魔がどうこうするようなことじゃないんだ!」

「知らねぇよ、悪魔の未来なんて俺は分からねぇ。でも部長が苦しんでた、悲しんでた!部長の自由を邪魔する奴は、俺がこの手でぶん殴る!!」

 

 

ドゴンッッ!!

 

 

 十字架と聖水付きの真っ赤な拳がライザーの腹に深く正確に抉り込む!

 

 

「ガハッ!」

 

 

 血反吐を吐きながら、数歩後ずさるライザー。

 

 

「こ、こんなことで、俺が…」

 

 

 そう一言漏らすと、ライザーは床へ前のめりに突っ伏す。そしてその場で二度と立ち上がることはなかった。




 イッセーの拳が決まった瞬間、アルトリアは歓声をあげてガッツポーズを取ったそうな。

 因みに婚約式すっ飛ばしましたが、ちゃんとレイヴェルちゃんは惚れます。
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