赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 皆さんお疲れ様です。

 遂に、遂にこの時が来ました。セイバーと言えば、アルトリアといえばこのシーンは欠かせないでしょう。真名解放の時間で御座います。

 よろしければ今回も、お気に入り登録や高評価、感想をお願いします。

 それでは第二十七話、どうぞ!


『約束された勝利の剣』

 フリードが倒れ込み、肩口から横腹まで祐斗がつけた傷から、鮮血を滴らせる。今この時、木場祐斗は過去に決着を付けた。当の本人はやり切ったかの様に天を仰ぎ、聖魔剣を強く握り締めている。

 

 

「やったな!木場!」

 

 

 イッセーが祐斗に駆け寄り、肩を叩く。

 

 

「見事でした、ユウト。聖魔剣、聖と魔、二つの属性を両立させた剣ですか。この様な逸品は父祖アーサー王の蔵にも無かったでしょう。仲間として、同じ剣士として誇りに思います」

 

 

 アルトリアも彼の元へ歩み寄り、惜しみない賛辞を送る。

 

 

「ありがとうイッセー君、アルトリアさん。あの剣を超えられたのは皆んなのおかげだよ」

「……アルトリア・ペンドラゴン」

 

 

 デュランダルを肩に担ぎ、ゼノヴィアが歩を進めて来た。咄嗟に三人は警戒する。エクスカリバーとされた物は偽物であり、真のエクスカリバーはアルトリアの手にある。彼女からすれば散々に謀られたものだ。

 

 

「その聖剣こそが、本物のエクスカリバーとはね」

「…エクスカリバーの回収が貴方の目的、とすればこれも「いや、いい」」

 

 

 アルトリアの問いに被さる形でゼノヴィアは強く否定する。

 

 

「その聖剣が君を選んでいる事は明らかだ、デュランダルが教えている。そもそも私の目的は奪われたカレトヴルッフの回収だ。君のそれは含まれてはいないよ」

「……賢明な判断に感謝します。デュランダルの担い手ゼノヴィア」

「こちらこそ、エクスカリバーの担い手アルトリア・ペンドラゴン」

 

 

 同じ天然モノの聖剣使いのシンパシーからか、(おもむろ)に握手を交わす。そんなやり取りを他所にバルパーは発狂しかけながら、頭を掻きむしっていた。

 

 

「馬鹿な、馬鹿なバカなバカなバカなバカナバカナバカナァッ!?聖剣が!?カレトヴルッフが負ける!?いやそれよりも、聖魔剣?聖と魔、反発する二つの力が混じり合うなど……」

 

 

 古の時代から、聖と邪、神と魔は混じり合う事はない。何故なら多くの場合、超常の存在がそれらを管理し混沌を生まない様にしてきたからだ。混じり合う混沌の先にあるのは往々にして破滅だ。

 

 

「……そうか!わかったぞ!聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく!つまり、魔王だけではなく、神も──」ズン!

 

 

 何かに思い至ったバルパーであったが、直後に彼の身体を光の槍が貫いた。ごぷっと血の塊を吹き出し倒れ伏すバルパーに祐斗が駆け寄る。詳しく見るまでもなく即死だった。

 

 

 

「バルパー。おまえは優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているがゆえだろうな。──だが、ここまで来た以上お前は必要無い。それにやろうと思えば、俺1人でもやれるんだよ」

 

 

 この場で光の槍を放てるのは彼のみ。コカビエルはカレトヴルッフが砕けた瞬間にバルパーに見切りをつけたのだ。

 

 

「後は貴方だけよ、コカビエル。聖剣は破壊した。エクスカリバーの光を吸収する魔術も、大地崩壊の術式も破壊された。後は貴方を倒すだけ!」

「……ハハハハ!カァーハッハッハハハハハッ!」

 

 

 コカビエルは高笑いを上げ、宙から降りて地に足をつける。圧倒的な重圧。凄まじいまでの自信とオーラを纏いながら、堕天使の幹部がついに重い腰を上げたのだ。不敵な笑みを浮かべ、奴は言う。

 

 

「倒す?ハハハ、貴様ら程度で俺を倒せると思っているのか?」

 

 

 コカビエルの鋭い眼光で凄まれるだけで、その場の全員が見えない力に射抜かれる感覚を味わった。身体中を恐怖が支配していく。これが、聖書に乗る堕天使のプレッシャーか、と剣を握る手が震えてくる。その震えはアルトリアの今までの戦いとは比べられないものだ。

 死線。今まで経験してきた戦場、悪魔、魔獣、その全てを塗り替えんとするほどの死の感覚。恐ろしいが、その恐ろしさから心を切り替えなければ即死だ。一つのミスで自分の命は消し飛ぶ。その次は仲間の命が消し飛ぶだろう。

 

 

『Boost!』

「!溜まった!部長!」

 

 

 まず動いたのはイッセーだった。彼は前回の『譲渡』から今に至るまで裏で着実に『倍加』を重ね続けてきた。自分に出来る事は何か、それを彼なりに考えた結果である。

 

 

「イッセー!力を私に!」

「させると思うか?」

 

 

 『譲渡』の為にイッセーに近づくリアスを阻止せんと、コカビエルの手から光の槍が射出される。しかしその攻撃はアルトリアの大盾とゼノヴィアのデュランダルの刀身によって防がれた。

 

 

「アルトリア、私も加勢しよう。ここまでくれば後はコカビエルも打倒してみせる!」

「感謝します、ゼノヴィア。イッセー!リアス!今です!」

 

 

 二人のアシストによってリアスはイッセーの元へとたどり着いた。

 

 

「イッセー!」

「はい!」

 

 

 リアスの呼びかけにイッセーが譲渡を始める。お互いに手を握り合う二人。宝玉からの光がリアスへ渡り、彼女の体を覆う紅い魔力のオーラが膨れ上がった。絶大な魔力の波を肌にピリピリ感じると、強大な力がリアスの手の中に生まれていた。滅びの魔力弾、それも食らえば塵一つ残さないであろうと思えるほどの質量だ。

 あれなら大概のものは消し飛ばせる。しかし相手は。

 

 

「フハハハハハ!いいぞ!その魔力の波!その波動は最上級悪魔の魔力だ!もう少しで魔王クラスの魔力だぞ!リアス・グレモリー!お前も兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

 

 心底嬉しそうに堕天使の幹部は笑っている。妨害が不発だったにも関わらず、その顔は狂気に彩られた表情をしていた。奴は戦う事に喜びを感じている、どんな展開になろうとも自分が楽しければそれでいいのだ。

 

 

「消し飛べェェェェェッッ!」

 

 

リアスの手から、最大級の魔力の塊が滅びの力を帯びて撃ちだされる!

 

 

ゴォォォォオオオオオンッッ!

 

 

 地の底まで響き渡るような振動を周囲に撒き散らし、強大な一撃がコカビエルに向かっていく。コカビエルは両手を前に突き出して、迎え撃とうとしていた。

 

 

「おもしろい!おもしろいぞ、魔王の妹!サーゼクスの妹!」

 

 

 コカビエルの両手に堕天使のオーラの源である光力があつまっていく。避けずに受け止める気だ!

 

 

 ドウゥウゥウゥゥゥンッッ!

 

 

 轟音を挙げて、コカビエルはリアスの放った最大の一撃を真正面から受ける。その表情は常軌を逸した鬼気迫るものだった。

 

 

「ぬぅぅぅぅううううううんッッ!」

 

 

 リアスの一撃が、徐々に勢いを殺され、カタチも崩されていく!あれほどの魔力でも倒せないのは目を疑いたくなる。しかし、コカビエルも無傷では無かった。身にまとう黒いローブの端が破れ、魔力を受け止める手も皮が破け、プシュプシュッと血が噴き出している。確実にダメージは与えている。だが、魔力の塊は徐々に確実に縮小している。

 リアスも先程の一発で疲弊したのか肩で激しく息をしていた。流石にあれほどの攻撃は連発出来ないだろう。体に掛かる負荷も尋常ではないはずだ。しかも魔力の消費量からいっても同じ威力は無理だろう。

 

 

「雷よ!」

 

 

 だが皆その事実に崩れ落ちる事はない。朱乃がリアスの魔力に対処するコカビエルに雷を向ける。しかし、彼女の雷はコカビエルの黒き翼の羽ばたき一つで儚く消失した。

 

 

「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿す者よ!」

「…私をあの者と一緒にするなッ!」

 

 

 朱乃は目を見開き激昂し、雷を連発するが、全てコカビエルの翼に薙ぎ払われてしまい、その余波が朱乃に当たってしまう。墜落していく彼女だったが、激突する寸前でイッセーが体で受け止めた。

 バラキエル。コカビエルと同じ『神の子を見張る者』の幹部の名だ。「雷光」の二つ名を持つ、雷の使い手だったはず。サーゼクスからの情報では単純な戦闘能力では、堕天使の総督でもあるアザゼルに匹敵すると聞いた事がある。そういえば朱乃は頑なに自身の出生を明かそうとはしなかったが、まさか……

 そんなことを考えている間にリアスの魔力を完全に手の中で消滅させたコカビエルは哄笑をあげる。

 

 

「ハハハハハ!悪魔に落ちるとは、バラキエルめ。子育てに失敗しておるではないか。しかし、愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ!赤龍帝、バラキエルの娘、禁手(バランス・ブレイカー)に至った聖剣計画の成れの果て、加えて食客には騎士王の現し身!おまえも兄に負けず劣らずのゲテモノ好きのようだ!」

「兄の、我らが魔王への暴言は許さないっ!何よりも私の下僕と友人への侮辱は万死に値するわっ!」

 

 

 リアスの怒りの叫びをコカビエルは鼻で笑い、挑発的な物言いをする。

 

 

「ならば滅ぼしてみろッ!魔王の妹!『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』の飼い主!紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)よっ!お前が対峙しているのは、貴様ら悪魔にとって長年の宿敵なのだぞ!?これを好機と見なければお前の程度が知れるというものだ!」

 

 

 コカビエル。自分達の力がどれだけ通じるかは分からないが、今は少しでもダメージを与えるしか無い。ダッ!っと後方にいたゼノヴィアが駆け出した。アルトリアと祐斗の間を通り過ぎるとき、つぶやく。

 

 

「同時に仕掛けるぞ」

 

 

 その言葉を聞き、剣士達もその場から駆け出す。剣を強く握り締め、コカビエルを斬りつけんとする。先に斬りかかったゼノヴィアに対して、コカビエルは光の剣を創り出し、片手で迎え撃った。

 

 

「フン!デュランダルか!一度壊れたカレトヴルッフとは違い、こちらの輝きは本物か!しかぁぁぁし!」ブゥゥゥゥン!

「ッッ!」

 

 

 空気が震え、耳鳴りが襲う。コカビエルは空いている手から波動を放ち、ゼノヴィアの体を宙に浮かせた。そこへコカビエルの蹴りが彼女の腹に放たれる。

 

 

「がっ!」

 

 

 苦悶の声を発し、ゼノヴィアが吹き飛ばされていく。

 

 

「所詮は使い手次第。娘!お前ではまだまだデュランダルは使いこなせんよ!先代の使い手はそれはそれは常軌を逸するほどの強さだったぞ!アレほどの使い手はあのローランだけと思わせるほどにな!」

 

 

 ゼノヴィアは空中で体制を立て直し、地面にうまく着地すると、そのまま一気に切り込んでいく。アルトリア達もそれに合わせて同時に斬りかかった!

 

 

「コカビエル、僕の聖魔剣であなたを滅ぼす!もう誰も失うわけにはいかないんだ!」

「コカビエル!真なるエクスカリバーの威力をその身で味わえ!」

「ほう!三人がかりの同時攻撃か!面白い!実にいいぞ!来いッッ!そのぐらいでなければ俺は倒せんッッ!」

 

 

 コカビエルはもう片方の手にも光の剣を生み出し、3人の剣をさばいていく!アルトリアのエクスカリバー、祐斗の聖魔剣、ゼノヴィアのデュランダル、それら全ての斬戟をコカビエルは難なくいなしていった。

 3人がかりでもコカビエルに対処される事実にアルトリアは歯噛みした。

 

 

「そこ!」

 

 

 コカビエルの後方から小猫が拳を打ち込んでくるが。

 

 

「甘いわ!」

 

 

 黒い翼が硬化し鋭い刃物と化すと、小猫の体を容赦なく斬り刻んだ。地面に叩きつけられた彼女の体からは鮮血を噴き出していた。

 

 

「小猫ちゃん!」

「コネコ!」

「ほら、余所見は死ぬぞ!」

 

 

 小猫がやられた事に一瞬の隙を作ってしまったアルトリア達にコカビエルの光の剣が襲いかかる。三人は咄嗟に剣でガードするが

 

 

「なっ!」ギィィィン!

 

 

 光の剣を受け止めた祐斗の聖魔剣にヒビが入る!破壊不可能のデュランダルや、本体が破壊不可能かつ外装にも保護が掛けられたエクスカリバーと違い、聖魔剣は耐久力だけならただの剣だ。

 ひび割れによって聖魔剣の攻め手が弱まった瞬間、

 

 

 ドンッ!

 

 

 コカビエルの全身から発生した衝撃波にアルトリアと祐斗、ゼノヴィアはなす術もなく吹き飛ばされていく。アルトリアはエムリスを弓形態へと変化させ、空中から音の刃を飛ばす。しかし、不可視の攻撃すらもコカビエルは難なく凌いでみせた。その隙になんとか体勢を整える事は出来たが…、全員肩で息をしていた。

 …勝てない。そんな考えが脳裏に過っていた。実力の差が圧倒的だった。新たな力に目覚めても、秘密兵器を解放しても、三人がかりでも簡単にあしらわれている。これが堕天使の幹部、伊達にサーゼクス達と張り合っているわけではないのだ。

 重傷を負った小猫の元へイッセーとアーシアが駆け寄り、すかさず『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で回復させる。

 

 

「コカビエル!まだだ」

 

 

 祐斗が聖魔剣を修復してコカビエルに斬りかかる。

 

 

「ハハハ!まだ来るか!いいぞ、来い!」

「聖魔剣よ!」

 

 

 ザンッ!

 

  

 コカビエルの周囲に聖と魔のオーラを放つ刃を出現させ、堕天使を包囲する。これで相手をその場に固定出来た。あとは一気に攻めれば!

 

 

「これで囲ったつもりか?」

 

 

 不敵に笑うコカビエルの十の黒き翼が全て幾重にも重ねられた剣のようになって、周囲の聖魔剣を難なく砕いた。祐斗は構わず真正面からコカビエルに斬りかかるが、堕天使の幹部は動じずに聖魔剣を右手の人差し指と中指だけで受け止めた。

 

 

「フン、目覚めたてならこんなものか」

 

 

 嘆息するコカビエル。受け止められた聖魔剣は微動だに出来ないようだ、祐斗は聖魔剣をもう一本創り出し、二刀目でコカビエルを狙うが、それも左手の指で受け止められた。だが、そんな状況でも祐斗の目は諦めていなかった。口元に剣を創造し、三刀流で首を勢いよく横に振った!流石にこの攻撃は予想できなかったのか、コカビエルは押さえていた聖魔剣を放し、後方に退いた。

 顔を抑えるコカビエル、見れば頬に横一文字の薄い切り口。血が少しだけ滲み出していた。傷を付けられた事に歓喜するように大玉サイズの光弾を放つ。

 

 

「ハアッ!」

 

 

 しかし、ゼノヴィアが寸でのところで防御に入り光弾を抑える。その隙にアルトリアは飛び出すと獲物を突き入れた。コカビエルは余裕そうに避けようとするが、彼の予想に反した早さで体に痛みが走る。見れば彼女の手にあったのは剣ではなく槍。エムリスを槍形態に変化させたものを幻術で剣として見せていたのである。間合いを誤認させた結果、コカビエルは避けきれず刃先がコカビエルの脇腹を抉った。

 

 

「クッ!騎士王の使っていた魔術に、その槍はまるでロンギヌスのようだな。あの弓といい、一人で円卓を演じているようではないか。お前もまた面白い!」

 

 

 不意打ちにコカビエルは反応できずダメージを負ったが、手を振るいアルトリアを吹き飛ばす。聖剣を内包したエムリスの攻撃は堕天使たるコカビエルに少なからぬダメージを与えたはずだが、そのような様子は見られない。強がりか、本当に問題ないのか。厄介なことには変わりがないが。

 

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、お前達神の信者と悪魔はよく戦う」

 

 

 突然、コカビエルは謎の話を始めた。仕えるべき主が、いない?

 

 

「…どういうこと?」

「おっと口が滑ったな」

「どういう事だ、どういう事だ!コカビエル!」

 

 

 リアスが怪訝そうな口調で訊き、ゼノヴィアが驚愕の声を上げる。コカビエルは心底おかしそうに大笑いした。まるで何も知らない事をあざ笑うかのように。

 

 

「フハハ、フハハハハハハハ!そうだったな!そうだった!お前達下々まであれの真相は語られていなかったな!まぁいい、戦争が始まる前に教えてやるよ。先の三つ巴戦争で四大魔王だけでなく神も死んだのさ!」

 

 

 神が、死んだ!?それはつまり聖書の信仰する父なる存在、主が死んだという事なのか?アルトリアは耳を疑った。そして彼女と同じように信じられない様子なのはこの場にいる全員がそうだった。

 

 

「知らなくて当然だ。神が死んだ等と、誰が言える?人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な者の集まりだぞ?我ら堕天使、悪魔さえも下々にそれらを教えるわけにはいかなかった。どこから神が死んだと漏れるかわからなかったからな。三大勢力でもこの真相を知っているのはトップと一部の者達だけだ」

 

 

 だとすればアーシアや、ゼノヴィア、世界中の信徒たちの思いは無駄だったのか!?そんな、事が……

 

 

「戦後残されたのは、神を失った天使。当時の魔王全員と数多くの上級悪魔を失った悪魔、幹部以外のほとんどを失った堕天使。もはや、疲弊状態どころじゃなかった。どこの勢力も人間に頼らねば種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば数は増えるが、純粋な天使は神を失った今では増える事などできない。悪魔も純血種が希少だろう?」

「…ウソだ。…ウソだ」

 

 

 少し離れた所で、力が抜けうなだれるゼノヴィアの姿があった。その表情は見ていられないほど、狼狽していた。現役の信仰者。神の下僕。神に仕える事を使命として生きてきた存在。いまここで神の存在を否定されれば、信仰を、生き甲斐を失えば、そうなるのも当然か。

 

 

「正直に言えば、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り、再び起きない。それだけ、どこの勢力も先の戦争で泣きを見た。お互い争い合う大元である神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しやがった。アザゼルの野郎も戦争で部下を大半亡くしちまったせいか、『二度目の戦争は無い』と宣言するしまつだ!耐え難い!耐え難いんだよ!一度振り上げた拳を収めるだと!?ふざけるな。ふざけるなッ!あのまま継続すれば、俺達が勝てたかもしれないのだ!それを奴はッ!人間の神器所有者を招き入れねば生きていけぬ堕天使共なぞ何の価値がある!?」

 

 

 強く持論を語るコカビエル。憤怒の形相となっていた。彼からすればかつて導いてやった存在に依存しなければならないのは耐えがたい苦痛だろう。が、そんな怒りがこれが事実であることを強調していた。事の真相は想像以上の衝撃を与えている。

 アーシアは口元を手で押さえ、目を大きく見開いて、全身を震わせていた。アーシアは悪魔になった後も毎日神に祈ることを欠かさない程、強い信仰心を持っていた。

 

 

「…主がいないのですか?主は…死んでいる?では、私達に与えられる愛は…」

 

 

 アーシアの疑問にコカビエルはおかしそうに答える。

 

 

「そうだ。神の守護、愛が無くて当然なんだよ。神は既にいないのだからな。ミカエルはよくやっている。神の代わりをして天使と人間をまとめているのだからな。まあ、神が使用していた『システム』が機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度動作する。ただ、神がいる頃に比べ、切られる信徒の数が格段に増えたがね。そこの聖魔剣の小僧が聖魔剣を創り出せたのも神と魔王のバランスが崩れているからだ。本来なら、聖と魔は混じり合わない。聖と魔のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば、様々な所で特異な現象も起こる」

 

 

 コカビエルの言葉を聞き、アーシアがその場で崩れ落ちた。彼女の想像する神の愛が『システム』として片付けられてしまったのだ。それはただ単に信仰を否定されるより辛いだろう。

 

 

「アーシア!しっかりしろ!」

「アーシア!……コカビエル!何という事を!」

 

 

 崩れ落ちたアーシアをイッセーが抱える。呼び掛けるが、返事がない。アーシアは人生の大半を神に捧げてきた。神は必ず居ると信じ、どんな辛い目に合っても必ず救いがあると願ってきた。そんな彼女には今の話はショックが大きすぎる。そんな彼女等を無視してコカビエルは拳を天にかざす。

 

 

「俺は戦争を始める、これを機に!お前達の首を土産に!俺だけでもあの時の続きをしてやる!我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 

 

 サーゼクス。ミカエル。どちらも各陣営のトップの存在だ。コカビエルはその二人を相手にしようとしている。それだけの力もある。自分達はそんな存在と戦っていたんだ。勝てるはずがない。スケールが俺達とは違い過ぎる。最初から負けるのは決まっていたのかもしれない…。そんな考えがリアスたちの頭を支配する。その時、視界に眩しいほどの赤い閃光が映り込む。それは、イッセーだった。

 

 

「ふざけんな!お前の勝手な言い分で俺の町を、俺の仲間を、部長を消されてたまるかッッ!それに俺はハーレム王になるんだぜ、てめえに俺の計画を邪魔されちゃ困るんだよ!」

 

 

 イッセーの啖呵は本音半分、かっこつけて半分といったものだった。内容だって最後の部分で台無しになっている。しかし、それはリアスたちの心に勇気の火を灯し、アルトリアに一つの決断をさせた。

 

 

「くくく。ハーレム王?ハハハ、赤龍帝はそれがお望みか。なら俺と来るか?すぐにハーレム王になれるぞ?行く先々で美女を見繕ってやる。好きなだけ抱けばいい」

 

 

 コカビエルがイッセーを甘い言葉で勧誘する。そんな見え透いた冗談、イッセーが乗るとでも……

 

 

「………」

 

 

 イッセーはその場でかっこつけた姿勢のままフリーズしていた。噓でしょ、イッセー……

 

 

「そ、そんな甘い言葉で俺が騙されるかよ」

「イッセー!もう!よだれを拭きなさい!貴方どうしてこんな時まで!」

「ち、違いますよ部長!そんなそれもアリかなぁなんて思ってません!」

「だったらその間はなんですか、全く……コカビエル。それが本気にしろ、冗談にしろ一つ言っておきます。余り彼を舐めるな」

「ほう?」

 

 

 イッセーの隣にアルトリアが立ち、コカビエルに啖呵を切る。コカビエルは興味深げに眉を上げた。

 

 

「彼がそんな人から与えられたハーレムに満足するとでも?そんなものは仮初、幻に過ぎません。彼はいずれ己が手で王への道を切り開き、その力と魅力をもってして数多の女性を堕としハーレムを作るでしょう。いずれは自身の主すら堕とさんとする男が敵の甘言に乗るとでも?ねぇ?」

「お、おう!」

 

 

 アルトリアの言葉を渡りに船と感じたのか、改めて格好つけるイッセー。が、敵前で甘言に惑わされた姿にリアスはお怒りだった。

 

 

「今更カッコつけも遅いわよ!全く、そんなに女の子がいいなら、この場から生きて帰ったら私がいろいろしてあげるわよ!」

「マジですか!?じゃ、じゃあ、おっぱいを吸ったり!」

「ええ!それで勝てるなら安いものだわ!」

 

 

 カァァァァアアアアアアアアアアアッッ!

 

 

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の宝玉がかつてないほどの輝きを放つ!宝玉から幾重もの魔法陣が発生している!?

 

 

「ふふふ。吸う。吸える。吸えるんだ!」

 

 

 イッセーが不敵な笑みを浮かべていた。そう言えばリアスの胸を吸うのが夢だといっていましたね、思い出したくないですが。

 

 

「今の俺は神すらも殴り飛ばせるぜ。あ、神様いないんだっけ。ハハハハ!」

 

 

 眩いほどの赤と緑の光!とてつもない力がイッセーの神器とイッセーとのパスから伝わってくる。

 

 

「よっしゃぁぁぁぁぁあああ!部長の乳首を吸う為、やられてもらうぜ、コカビエルゥゥゥゥゥ!今の俺は負ける気がしねぇぇぇぇッッ!」

「神器は宿主の想いに応えて力を増すと言いますが、それでいいのですか?そんな願いにブーステッド・ギアが、赤龍帝が応えようとしているのですか!?我らが守護神『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』よ!それが貴方のお望みですか!?」

『そんな訳あるかぁァァァァァァッ!だが相棒の願いがソレな以上神器は力を貸してしまうんだ!!』

 

 

 ドライグの悲痛な叫びが木霊する。その叫びにアルトリアは安堵した、良かった。赤龍帝までおっぱいフェチになったらどうしようかと思っていた。当のリアスも大声で叫ばれて、気恥ずかしいのか頬を赤く染めていた。

 

 

「…女の乳首を吸う思いだけで力を解き放つ赤龍帝は初めてだ。…なんだ、お前は?何処の誰だ?」

 

 

 目元を引きつらせながらコカビエルが訊ねる。それに対して、イッセーは胸を張って答えた。

 

 

「リアス・グレモリー眷属の『兵士』!兵藤一誠さ!覚えとけ、コカビエル!俺はエロと熱血で生きるブーステッド・ギアの宿主さ!」

 

 

 先程まで実力差に絶望感が漂っていた周囲の空気がイッセーの活き活きとした叫びで吹き飛んだ。不思議と皆に活力を与えていた。イッセーの熱血が皆に波及し、リアス、朱乃、アーシア、小猫、祐斗、更にはゼノヴィアすらも満身創痍にも関わらずコカビエルに立ち向かう姿勢になっていた。皆の心に希望が満ちているのを感じる。

 今なら、いける。

 

 

「…イッセー。その昂ぶりに昂った力を私に託してくれませんか?」

「へ?アルトリア?何する気なんだ?」

「聖剣を、エクスカリバーを解放します。その力と私の剣が合わさればコカビエルを打倒出来るかもしれない。いえ、してみせます。貴方の勢いに水を差すようですがどうか「分かった」イッセー?」

「ホントは俺があの野郎をぶん殴ってやりたかったけど、お前もさっきまで何もできなくて鬱憤溜まってただろうしさ。それにお前がそこまで言うって事は勝つ見込みがあるんだろ?だったら俺はお前に全てを賭ける。だからお前も俺の夢を叶える手伝いをしてくれ!」

 

 

 本当に、この人は……その夢がリアスの乳首を吸う事ということすら今のアルトリアにはどうでも良かった。自分の覚悟に彼が応えてくれる。それだけで今は十分だった。

 

 

「行きますよ。イッセー!」

「応!やっちまえ、アルトリア!」

Transfer!!

 

 

 エクスカリバーを持つアルトリアの右手と、赤龍帝の籠手を装備したイッセーの左手。二人の拳が繋がり、膨大な力がアルトリアへと『譲渡』される!その瞬間アルトリアの身体を凄まじい熱が襲った!

 

 

「くッ、アァッ//……!!」

 

 

 熱い、凄まじい熱を感じる。心臓が高鳴り、全身の隈なくを赤龍帝の力が巡る。まるで体の内側から力が溢れるような。まるでそれがあるべき姿かの様な。そんな途轍もない熱と快感が彼女の中を満たす。

 

 

「これなら……いけます!エムリィィィィスッ!!」

『久しぶりに第二段階を解放するんだねマイロード!流石にここまでの魔力は初めてだ!拘束を解除する事は出来ないが、これなら奴を倒せる!!』

 

 

 普段は穏やかなエムリスすらもその力に舞い上がっているようだ。これだけの魔力があれば第三段階すらも解放出来るかもしれない、そう思わせるほどに、彼女の魔力はドラゴンの如く猛っていた。

 

 

『擬似人格停止。魔力供給量、規定値を突破。第二段階限定解除を開始』

 

 

 直後、彼女の持つ聖剣エクスカリバーを金色の光が包む。機械的な意匠を持つその剣が見た目に違わぬように変形していく。剣全体の大小様々なパーツが展開、解放、再配置されていった。鍔の意匠が変わり、刀身が真っ二つに分かれ、スライドし、中から細身の刀身が出現する。変形が完了すると聖剣から、その中に格納されていた銀色の刀身が露わになった。

 

 

「あれは、まさか!」

「聖剣、エクスカリバー……」

「この感覚、眼ではない、聖剣使いとしての魂が訴えている!あれが、あれこそが!!」

「ハハハハハ!!!フハハハハハハハハハハ!!!それが、それが見たかった!!あの大戦では見る事が叶わなかった聖剣の光!!ヒトと星の願いを載せた希望の結晶!!そうだ、これと殺り合いたかったんだ!!」

 

 

 コカビエルもまた猛っていた。あの大戦ではかの聖剣エクスカリバーと相まみえるかもしれないと思っていたからだ。星を司る天使だった身としては是非死合いたいと思った。しかし戦場に投入されたのはエクスカリバーとは名ばかりの全く別の聖剣。それをエクスカリバーと信じて当時の使い手は振るっていたのだから滑稽極まりなかった。

 結局虹の聖剣は砕け、大戦も不完全燃焼で終了し、もはやかの聖剣とまみえる事は無いと諦めかけていた。

 

 が、今。その聖剣と自分は相まみえている。使い手はかつての常勝の王にそっくりな娘。然も側にはあの忌々しい赤い龍がいる。いまこの瞬間、コカビエルは久方ぶりの充足感に満たされていた。

 

 

「この灯りは星の希望。地を照らす命の証。未だ未熟の身なれど、彼方の王よ。今一時、その極光を借り受ける!」

「ブチかませェ!アルトリアァァァァァッ!!」

 

 

輝けるかの剣こそは

過去現在未来を通じ、戦場に散っていく全ての兵達が、

今際の際に懐く悲しくも尊きユメ―――『栄光』という名の祈りの結晶。

その意思を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し

今、常勝の王の現し身は高らかに、

手に執る奇跡の真名を謳う。

其は――

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ァァァァァッ!!!

 

 

 金色の光がエクスカリバーから立ち昇る。噴き出す極光が駒王学園全体を照らし出し、振り降ろした刹那、光の波濤がコカビエルを襲う!

 対するコカビエルも負けてはいない。今自分に撃てる最高火力の光の槍を生成し、アルトリアへ向けて全力で投げつけた!

 

 聖剣の一撃と光の槍の衝突。誰もがその先にある激突と勝利を信じて疑わなかった。しかし

 

 

 ガシャァァァァァアアアン!!

 

 

 刹那、何者かが結界を破壊し、学園へと飛び込んでくる!降り立つ先にあるのは今まさに衝突が起こらんとしている真っ只中。誰もがその侵入者に反応できないまま人影は光の中へと吞まれていく。

 

 

『Divied!』『Divied!』『Divied!』『Divied!』『Divied!』『Divied!』『Divied!』『Divied!』

 

 

 まるで赤龍帝の『倍加』の音声のような物が響き渡り、次第に光が収まっていく。すると飛び込んできた人影が次第に露わになっていく。

 

 そこにいたのは白き全身鎧(プレートアーマー)を纏う者と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 ハイ、遂に出せました。『約束された勝利の剣』発動シーンと、白龍皇コンビの登場シーン。これが書きたくてここまで描いてきたといっても過言じゃない。ホントはエクスカリバーで決めて欲しかったけど、こっちも登場させたかったのでね。

 さて、現れた全身鎧と少女は何者なのか!

 次回、皆さんおまちかねのヴォーティガーンの登場でございます。お楽しみに!
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