赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 先日、日刊の一般二次とはいえランキング81位に入れました!

 前はランキングに入れてた記憶が無かったので、嬉しい限りです。まだ3話だけですが、これからも精進してまいります!

 それでは第三話、どうぞ!


『聖女』の来訪と『はぐれ悪魔』

 

 オカルト研究部との邂逅の後、イッセーの日々はルーティン化されていった。早朝に神器の器となる為にランニングと筋トレ、日中の間は悪魔の身体的特徴である太陽からの特効を防ぐために魔術をアルトリアに掛けて貰いながら、日光の影響を半減させ授業に勤しむ。夜からは自転車に乗って契約書チラシ配りや、契約取りに奔走。

 本来ならば日光避けは下級悪魔なら少し練習すれば自前で可能な上、契約に関しては転移魔法を使えばいいのだが、前者は兎も角後者は完全に出来なかった。魔力に反応して光こそすれ、全く転移しなかったのである。仕方なく今は自転車で契約取りに向かっている。

 

 

「ゼェ、ゼェ、まだ一件だけ、もっと頑張らねぇと……」

「大丈夫ですか、イッセー」

 

 

 街の中にある木立の前で休憩していると、木立の中からアルトリアが出てくる。鎧とドレスが一体化したような青い衣装に、紫色の返り血を浴びて。

 

 

「うおッ!?アルトリア!?その汚れ………」

「あぁ、はぐれの悪魔がこの街に侵入しましたので討伐を。そこまで強いわけではなかったのですが、絶命時に血しぶきをあげまして。すぐに身なりを整えますので」

「おう、ってはぐれ?」

「あぁ、いずれリアスがはぐれ悪魔討伐にでも駆り出すでしょう。その時に聞けばよいかと」

 

 

 そういうとアルトリアは魔術を行使し、ドレスに付着した血を綺麗にし、鎧に付着した汚れを払う。今のイッセーには逆立ちしてもできない芸当だ。

 

 

「すっげぇなそれ。俺、魔力の扱いがさっぱりでさぁ。まだ転移の魔法使えないんだよなぁ」

「人には得意不得意があります。それは悪魔とて同じこと。現に日光避けに関しては少しは持つようになったではありませんか、立派な成長であると思いますよ」

「そ、そうかな。へへ………」

「それに先ほど聞こえましたよ。また1件、契約を取ったそうですね」

「あれ、聞こえてた?」

 

 

 そう、イッセーは最近、少しだが契約を取れるようになってきたのだ。今回の相手の要望は「リアスと朱乃の様子」について。どうやらかつてドラグ・ソボール談義で盛り上がったらしい人物の紹介で巨乳好きの駒王学園の大学部の生徒と契約を取れたそうだ。何でもオカルト研究部の二大お姉さまが推しらしく、最近入ったイッセーに二人の様子やその美しさについて教えてほしいとの事である。そのまま巨乳談議で盛り上がり、同志として契約を勝ち取ったとのことだ。

 

 

「な、成程。この調子で頑張ってくださいね」

「応!じゃあ、俺また行ってくるよ!」

「えぇ、気を付けて。何かあったら呼んでください。今度は必ず駆けつけます」

「ありがとなー!おっしゃ!!目指せ!ハーレム王!!」

 

 

 そう言いながら自転車を漕ぐイッセーを見つめるアルトリア。日頃の素行のせいで分からなくなるが、あのひたむきさは彼の美点であるとアルトリアは考えている。同時にこれを前面に出てくれれば……とも思ってしまった。然もあの紹介の後、リアスは如何に悪魔が存亡の危機か、それ故に悪魔社会が実力者を求めており、強くなって偉くなれば様々な事が思い通りになると囁いた。正しい意味での悪魔の囁きである。

 その魅力的な囁きを受けた結果、イッセーの赤とピンクの脳細胞は『ならばハーレムも作れるのではないか』という結論にたどり着いてしまい、最近ではほぼ毎日「目指せ!ハーレム王!」の台詞を吐き続けている。目標がある事は良いことだが不純が過ぎるのではないかと思ってしまうアルトリアであった。

 

 

『(それだけじゃないだろうに、鈍感だねぇ)』

「……なにか邪なことを考えていませんか、エムリス?」

『いいや、別に?』

 

 

 

 

 

 別の日。昨日今日は契約依頼が少ないらしく、リアスたち自身が街のパトロールに出る事になった。その為アルトリアは非番であり、昨夜は久しぶりにぐっすりと眠ることが出来た。エムリス曰くこれこそが本来あるべき生活リズムであり、散々昼夜逆転してここまで健康に成長できたことは奇跡とのこと。

 

 そんなことを考えつつ、頼まれていた剣道部の鍛錬を終え、寮へと向かうアルトリア。すると二つ先の通りからイッセーが姿を現した。丁度帰宅時間が被ったのかと声を掛けようとすると、イッセーの他にもう一人人影が見えた。深緑を基調としたシスター服、白いヴェールの隙間から見える金髪からして、アルトリアと同じヨーロッパ系の人種であろうか。全体的に慎ましさと清楚さを醸し出す、イッセー好みであろう金髪美少女(好みではない美少女の方が少ないであろうが)。

 

 

「でさ~」「フフフ」

 

 

 イッセーが私やミキさん以外にあそこまで自然に会話できるとは。そんな驚きを隠せないアルトリアだったが、不可思議なことに気付く。シスター?この街に?いやそれはあり得ない。なぜならこの街には、もう………

 状況の不審さに、アルトリアは気配を消しながら二人の後を付いていく。

 

 

「痛ッ………う、グス、ウェェェェェン!!」

 

 

 公園の前まで来たところで、偶然にも目の前で男の子が転んだ。石に躓いてしまったのか、膝からは血が流れている。イッセーが慌てて絆創膏か何か無いか探していると、シスターの少女が近づいて、男の子の前にしゃがみ込む。すると傷にかざされた彼女の手が淡い緑色に発光する。光が当たった膝からあっという間に傷が消え去った。魔力、だが魔術や魔法の様に形式化された類ではない。間違いなく、アレは『神器(セイクリッド・ギア)』の力だ。

 目の前で起きた信じ難い現象に、走ってきた男の子の母親もきょとんとしている。

 

 

「Sì, la ferita è scomparsa. Ora va bene」

 

 

 英語ではない。恐らくはイタリア語でシスターは話しかけ、男の子の頭をひとなですると、イッセーのほうへ顔を向け、舌を出して小さく笑う。きょとんとしていた母親は頭を垂れると、子供を連れてその場をそそくさと去ってしまった。

 

 

「ありがとう! お姉ちゃん!」

「?」

「ありがとう、お姉ちゃん。だって」

 

 

 と子供の感謝の言葉。日本語は分からないようなので、イッセーが翻訳する。

 

 

「………その力って………」

「はい、治癒の力です。神様が与えて下さった素敵な力なんですよ」

 

 

 その瞬間、僅かに顔に陰が指したような気がした。常人には持ちえない力、使い方によっては数多の命を救えるであろう。しかし異質な力は人々の中に畏れと迫害の心を生み出す。先ほどの母親の反応がそうだ。もはや朧げにしか覚えていないが、自分も駒王町にたどり着くまでにそういった経験が無かったわけではない。

 

 その後二人は教会への道を進み、山の中腹の教会をハッキリ視認できる距離まで来た。やはりあそこか、とアルトリアが考えていると、途端にイッセーの挙動がおかしくなる。どうやらイッセーの悪魔としての本能が危険だと語り掛けたようである。そこまで鈍感だったなら引っ張ってでも止めに入らなくてはならなかっただろう。

 

 

「俺は兵藤一誠!周りからはイッセーって呼ばれてる」

「私はアーシア・アルジェントと申します。アーシアと呼んでください」

「シスター・アーシア。それじゃあまた」

「はい!またお会いしましょう!」

 

 

 そういって二人は別れた。そろそろか、とアルトリアは能力を解除しイッセーに話しかける。

 

 

「イッセー」

「うわっ!?アルトリア!いつからそこに」

「貴方と、あのシスターが公園に立ち寄る少し前からです。それより、何故教会に近づいたのですか!悪魔にとって神聖な存在は毒でしかないのですよ!シスターを案内して、然も教会に案内されるなど!」

「わ、悪かったよ!でもあの子お人好しなとこあって、危なっかしかったからさぁ……」

「はぁ………今回のことは流石に擁護できません。リアスに説教をして貰いましょう。序でに報告も必要ですし」

 

 

 

 

「二度と、教会に近づいてはダメよ」

 

 

 その日の夜、部室において部長は厳しい声色でイッセーに厳命した。当然である、悪魔がまだ日が照っているうちにシスターと接触、更には教会へ向かうなど死にに行くようなものだからだ。

 

 

「私たち悪魔にとって教会は敵地。そして神聖な場所は毒気の吹き溜まりと同じ。それが分からないとは言わせないわよ。不用意に近づけば、一体いつ天使や神の裁きが落ちるか分からない。そうなったら最後、死ぬことになるのよ」

「人間としての死は悪魔への転生で免れるかもしれない。けれど悪魔の死、それも聖なる力によって祓われた悪魔の死は完全に消滅してしまう。文字通り無に帰すの。何もなく、何も感じず、何も出来ない。それがどれだけ恐ろしいことかあなたはわかる?」

「す、すみませんでした。部長」

 

 

 悪魔は決して最強、万能の種族ではない。高い魔力、長い寿命、人間にはない様々な耐性を持つ代わりに、日の光や十字架、お札などの神聖とされる物には人間以上に弱い。そしてリアスが言ったように聖なるもので命を奪われれば魂ごと消滅し『無』となる。

 

 

「それだけではありません。リアス、天使側からシスターの派遣。若しくは教会の配置に関する通告などは?」

「無いわ、何も。恐らく貴女の考えが正しいでしょうね」

 

 

 イッセーの隣に座り、一緒に話を聞いていたアルトリアがリアスに問いかける。

 

 

「イッセー、貴方は彼女が向かったのは単なる教会で、彼女が海外から派遣されてきたシスターだと思っているようですがそれは違います。何故なら10年前、この街で起きたとある事件の影響で天使側陣営はこの街から完全撤退しているのですよ」

「え!?」

「貴方が向かった教会はその時捨てられた廃墟なの。天使側から新しく教会を配置したり、人員派遣に関する通告は無し。私たちの様子を探る為のエージェントを送るにしても、こちらが探知結界を張っている以上白昼堂々と送る事はまず考えられないわ。そんな中でシスターが送られてきた理由は一つ」

「「彼女は堕天使側の人間」」

 

 

 アルトリアとリアスの意見が一致する。そう、天使側の拠点が無いのに攻撃系神器を持たない非戦闘員のシスターが派遣されてくる理由はただ一つ。この街で巣を張っている堕天使側陣営への派遣、これが一番可能性が高いだろう。

 

 

「そ、そんな。アーシアが、堕天使側の……」

「アルトリア、貴女から見て彼女はどう見えたかしら」

「そうですね。博愛精神に満ちており、人間の中でも魔力量が高く、神器のコントロールも上手い。宿す神器も回復系というサポート型。味方として心強いですが、敵の場合は厄介かと」

「そう、警戒が必要ね。イッセー、二度とあの子に近づいてはダメよ。悪魔側に勧誘したとして、堕天使側に攻撃の口実を作る事になりかねないわ」

「はい、部長………」

 

 

 目に見えて肩を落とすイッセー。しかし彼女がシスターである事を考えればリアスの意見はもっともである。転生前ならいざ知らず、今の彼は悪魔。彼女とは相容れない存在である。

 

 

「ふふふ。二人とも、イッセー君が心配なんですね」

「おわッ!?」

 

 

 いつの間にか背後に立っていた朱乃に驚くイッセー。態々気配を消して立つ辺り、彼女の性質、もとい性癖は今日も快調のようだ。

 

 

「部長、先日この街に侵入したはぐれ悪魔の残りの居所が判明しましたわ。残念ながら、既に被害も出ていると」

「報告ありがとう、朱乃。イッセー、丁度いい機会だわ。貴方も本格的に悪魔の戦闘というものを知る時期ね」

 

 

 

 

 

 先日この街に複数体のはぐれ悪魔が侵入した。はぐれ悪魔とは文字通り主人の下を勝手に離れた、いわば野良化した悪魔である。悪魔の力は強大だ。それ故に容易く他者を傷つけ得る。それ故に悪魔社会は貴族制を導入し、枷を与える事でそういった衝動や欲求のコントロールを行っている。

 しかしそれも完璧ではない。力が理性を押しつぶした結果、仕えていた主を裏切り時に殺して野良化するという。その他にも理由は様々だが、今回は単純に自身に宿った強力な力を振るいたいという欲求を抑えられなくなったらしく、眷属総出で主を殺して逃亡を図ったようである。そのうちの殆どは街の守護を担うアルトリアの手によって葬られたが、その追跡を逃れていた最後の二体の居場所がようやく判明した。

 そんなはぐれ悪魔の潜む廃屋へと今、グレモリー眷属とアルトリアは足を踏み入れた。

 

 

「血の匂い………」

 

 

 小猫が鋭敏な嗅覚で血の臭いを察知する。既に被害者は無くなっているだろう。今回の被害者はヤクザと、そこに借金を作っていた借金崩れのホストや風俗嬢。後は野生動物だったらしく、抗争と行方不明で処理を進めるそうだ。今回はこれで済んだが、もし被害者が何の罪もない一般人なら………そう思った瞬間、自身の思考が命を選別するという傲慢な物になっているのを感じアルトリアは考えを振り払う。自分は何様だ、今の自分は単なる食客でしかないというのに………

 

 

「イッセー。前に悪魔と天使、堕天使の争いの歴史は話したわね。まずはその話の続き、今から数百年以上前に悪魔と天使、堕天使の間で一大戦争があったの。熾烈を極めたその戦争は各勢力に甚大な被害を齎したわ。私と同じ高位の悪魔も何人も消し去られ、20、30と居た大軍団も崩壊した」

「そ、そんな激しい戦いが………」

「その大戦の後、悪魔の下僕はそれまでの軍団方式から少数精鋭の制度へと変わっていったわ。その制度の中核となったのが『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。チェスの駒を基にした特性を眷属に付与し、能力を強化することが出来るの。貴方を蘇らせて悪魔にしたのも悪魔の駒の能力の一つよ」

「へぇ~。てことは、俺の中にもその駒が……」

「そう。駒は『女王(クイーン)』『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』『兵士(ポーン)』の5種類。これらに実際のチェスの駒の特性を落とし込んでいるの」

 

 

 何度聞いても良く出来たシステムだと、アルトリアは思った。今はまだ関係ないからかリアスは話さなかったが、この眷属を駒に置き換えるという考え方を用いて、冥界では『レーティングゲーム』という興行が流行っている。上級悪魔たちが自分を『(キング)』の駒とし、駒となった自身の眷属と共に戦う人間将棋ならぬ悪魔チェス。自身の眷属を自慢し、同時に鍛える場であり、娯楽好きな貴族にとっては自己顕示欲や冥界内での発言権に繋がる。大衆にとっては時に派手な攻撃が飛び、時に緻密な戦略が展開される「レーティングゲーム」は見ていて楽しいため、冥界における一大興行としての地位を確立している。

 

 しかし熱が入り過ぎるのと、傲慢な悪魔の性質が重なり、無理な勧誘から眷属がはぐれ悪魔になる場合もある事を聞かされているアルトリアからすれば、これまた複雑な心境だ。

 

 

「部長!だったら俺の駒にはどういう「静かに、イッセー」ん?」

 

 

 二階に挙がったタイミングで空気が変わる。血の臭いはより濃くなり、辺りには魔力が漏れ出た瘴気が発生している。

 

 

「旨そうな匂いがするぞ、甘いかな?苦いかな?ケタケタケタケタケタケタ………」

 

 

 幾本もの柱が立ち並ぶ二階。その柱の陰からにゅっと裸体の女性が姿を現す。()()()()()()()()()()

 

 

「お、おっぱい!?」

「何を馬鹿なことを言っているのですか。よく下を見てみなさい」

 

 

 そう。一見すると上半分は黒髪の美女の裸体だが、下半分は腹にぱっくりと割れた口の付いた醜悪な化け物と化している。これが力におぼれた場合のはぐれ悪魔の特徴である。力が暴走した結果、元の身体とは似ても似つかない化け物となり、精神も肉体に引っ張られるように汚染される。

 

 

「はぐれ悪魔バイサー、貴女を討伐しに来たわ。主の元を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値する。グレモリー公爵の名において、貴方を消し飛ばしてあげる!」

「ククク………こざかしいぃぃぃぃ!小娘ごときかぁぁぁぁ!その紅の髪のように、おまえの身を鮮血で染め上げてやるわぁぁ」

 

 

 吼えるバイサーだが、リアスは鼻で笑うだけ。直ぐに指令を飛ばす。

 

 

「雑魚ほど洒落のきいた台詞を吐くものね。祐斗!」

「はい!」シュバッ!

 

 

 近くにいた祐斗が主の命を受けて飛び出す。そのスピードは凄まじく、悪魔なり立てのイッセーには目で追うことすら出来なかった。

 

 

「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ。祐斗の役割は、『騎士(ナイト)』、特性はスピード。『騎士』となった者は高い速度で動けるようになるわ」

 

 

 リアスの言うとおり、バイサーの周りを動き回る祐斗の速度は徐々に上がっていく。バイサーも魔力から生み出した槍を振るって応戦するが、まったく当たる気配がない。

 

 

「そして、祐斗の最大の武器は剣」

 

 

 一度足を止めた祐斗は、撹乱中に生成した西洋剣を鞘から抜き放つ。黒い鞘から銀光を放ち、長剣が抜き身となった。再びその場から消えた祐斗。次の瞬間、バイサーの悲鳴が木霊する。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

「先ずはその腕を頂いたよ」

 

 

 見れば、バイサーの両腕が槍と共に切り落とされていた。一瞬の踏み込みから放たれる斬撃によって傷口から血が噴き出す。

 

 

「これが祐斗の力。目では捉えきれない速力と、達人級の剣さばき。ふたつが合わさることで、あの子は最速のナイトとなれるの」

 

 

 悲鳴をあげるバイサーの足元に小柄な人影、塔城小猫である

 

 

「次は小猫。あの子は『戦車(ルーク)』。戦車の特性は……」

「小虫めぇぇぇっっ!」ガッ!バクッ!

 

 

 バイサーの腹から生えた手が小猫を掴んで飲み込む。イッセーは慌てているが、他は皆落ち着いている。あの程度でやられるほど彼女は柔ではない事を知っているのだ。直ぐに内側から打撃音が響き始め、途端に腹の口が無理矢理開かれる。

 

 

「『戦車(ルーク)』の特性はシンプル。バカげた力。そして、屈強なまでの防御力。あの程度の悪魔に呑まれた所で、小猫は噛み砕かれる事も潰される事もないわ」

 

 

 多少服は溶けたが、小猫本人は無傷。直ぐに飛び出た後、バイサーを持ち上げ次の瞬間!

 

 

「…ふっ飛べ」ガガガガガッ!!グシャッ!!

 

 

 小猫はバイサーを軽く放り投げ、その腹にラッシュを鋭く打ち込む。最後に右ストレートで吹き飛ばした。巨大なバイサーの体が後方へ大きく吹き飛ぶ。巨大な口は欠けた櫛の如く歯が折られ、ボロボロになっていた。

 

 

「最後に朱乃ね」

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら。ふふふ」

 

 

 朱乃がうふふと笑いながら、小猫の一撃で倒れこんでいるバイサーのもとへ歩み出す。しかしその瞬間、祐斗に切り落とされ、ピクピクとしていた腕2本がリアスに向けて矢の如く飛び出した!バイサーの四肢はたとえ切られても動く性質を持っていたのだ。

 その瞬間イッセーは神器を展開させ、アルトリアはネックレスを剣に変えて、腕を迎撃する。イッセーに殴られた腕は壁に激突してピクリとも動かなくなり、アルトリアに斬られた腕は斬られた側から消失していった。

 

 

「部長!無事ですか!!」

「え、えぇ……ありがとう」

「油断しました。イカやタコの様に斬られても動くとは……」

「えぇ、少し甘くみていたわね。朱乃!やっておしまいなさい!」

 

 

 一瞬驚きはしたが、直ぐに普段の態度に戻り、朱乃に指示を飛ばす。

 

 

「ふふふ、部長を狙うワルイ子にはお仕置きですわね」バヂチチチッ!!

 

 

 朱乃が右手を掲げると、そこから稲妻が発生する。朱乃が手を振り下ろすと、稲妻はバイサーの元へと走り、その身体を焼き焦がす

 

 

「ギャアァァァァァッ!?」

「朱乃は『女王(クイーン)』。私の次に強い眷属で、『騎士』、『僧侶』、『戦車』、三つの駒全ての性質を兼ね備えた無敵の副部長よ」

「ぐぅぅぅ……」

 

 

 朱乃を睨み付けるバイサー。それを見た朱乃は恍惚とし、口元に不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「あらあら。まだ元気みたいですね?それなら、これならどうでしょうか?」バヂヂチチチチチッ!!

 

 

 再び朱乃が天に向かって、手をかざす。集まる魔力量は先程よりも多い。刹那、天空が光輝き、バイサーに雷が落ちた。

 

 

「ガァァァァッッ!」

 

 

 激しく感電するバイサー。じゅぅ、と肉が焼ける音と煙をあげて、遂には全身丸焦げとなってしまった。

 

 

「あらあら、まだ元気そう。なら、まだいけそうですわね!」カッ!

 

 

 再び雷がバイサーを襲う。最早端々が完全に炭化している。

 

 

「フフフフ……!」

「ギャァァァァッァ!」

 

 

 感電するバイサー。すでに断末魔に近い声をあげている。それにもかかわらず、朱乃は三発目の雷を繰り出していた。

 

 

「フフフフフフフフフ……!!」

「グァァァァッッ!」

 

 

 何度も何度も雷を落とす、その朱乃の表情は恍惚としつつも冷徹で怖いほどの嘲笑を作り出していた。相変わらずの加虐体質、正直敵を必要以上に甚振るのはアルトリアの好みとするところではないが、今回は相手が相手なだけに生半可な情けは不要だろう。そもそも朱乃は一切手を抜いていない。

 

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や水、炎などの自然現象を魔力で起こす力ね。そしてなによりも彼女は究極のSよ」

「普段、あんなに優しいけれど、一旦戦闘となれば相手が敗北を認めても自分の興奮が収まるまで決して手を止めないわ」

「…うぅ、朱乃さん。俺、怖いッス」

 

 

 イッセーは完全に腰が引けている。アルトリアも、初めて手合わせした際のあのギャップには驚いた。エムリスはドン引きしていたが。

 

 

「怯える必要はないわ。朱乃は味方にはとても優しい人だから、問題ないわ。貴方達のこともとてもかわいいと言っていたわ。今度甘えて上げなさい。きっと優しく抱きしめてくれるわよ」

「うふふふふ。どこまで私の雷に耐えられるのかしらね?。あらあら、まだ死んではダメですよ?トドメは私の主なのですから。オホホホホホッ!」

 

 

 その後何発か雷を撃ち、朱乃が一息ついた頃、リアスがそれを確認して頷いた。完全に戦意を失ったバイサーのもとへ、リアスが近づく。半ば黒焦げの地面に突っ伏すバイサーに向かって、リアスは手をかざす。

 

 

「最後に言い残すことはあるかしら?」

「殺せ」

 

 

 バイサーの最期の一言はそれだけであった。

 

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

 

 冷徹な一声。次の瞬間リアスの手のひらから巨大でどす黒い魔力の塊が打ち出される。巨大なバイサーの体を余裕で覆うほどの魔力だ。魔力の塊はバイサーを包み込む。魔力が宙に消えたとき、バイサーの姿も完全に消えていた。あの特殊な魔力こそが、リアスが悪魔社会で『紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)』と呼ばれる由縁である。

 

 

「さて、まずは一体ね。………もう一体も出てらっしゃい!」

「フン、バイサーの奴。一人も倒せずに消えたか、使えんな」

 

 

 リアスが指摘した柱から、一体の悪魔が姿を現す。紫の肌に二本の角、さながら鬼のような見た目をした悪魔がそこには居た。

 

 

「街に侵入した最後のはぐれ悪魔、ジャルダンね。自首でもしに来たのかしら?」

「自首?なにを馬鹿な。貴様らを殺すために決まっているではないか」

 

 

 はぐれ悪魔ジャルダン。バイザーと同じ主に仕えていた悪魔であり、駒は『僧侶』。調査によって、今回の事件において他眷属を洗脳、扇動した黒幕と考えられる悪魔だ。

 

 

「あら、多少消耗しているとはいえこの人数差。貴方に何が出来るというの?」

「馬鹿め、気づかなかったのか?この部屋に充満している瘴気に。貴様らが飛んで跳ね回っている間に瘴気が貴様らの身体を蝕んでいる!すぐに動く事すら出来なくなるぞ、フハハハハ!!」

 

 

 そう、この階層には瘴気が充満していた。並の悪魔であれば吸い続ければ痺れや呼吸困難を起こし、最悪命に関わるだろう。吸っていれば、の話だが。

 

 

「あら、その程度なら対策済みよ」

「何ッ!?」

「生憎ですが、既に瘴気を防ぐ魔術を掛けさせて貰いました。風や水の操作は得意でして」

 

 

 アルトリアは攻撃や能力強化などの実戦的な魔術の他に、生来の素養から流体操作を得意としている。ジャルダンの充満させていた瘴気も、既に皆の呼吸器に防護魔術を掛けて対策済みだ。

 

 

「もしかして、仕込みはその程度かしら。舐められたものね」

「ぐ、ぐぅ………」

「そういえば、まだイッセーに『僧侶(ビショップ)』の特性を見せていなかったわね。アルトリア、貴女なら『僧侶』らしい戦い方で奴を倒せるかしら。」

「無論」

「なら、魔術戦で奴を倒しなさい」

「フッ、オーダー承りました。では魔術を用いて、彼奴を倒してご覧に入れましょう。第一段階、応用展開!」

 

 ジャルダンはその発言に激怒した。ジャルダンも先ほどの戦いを見て、アルトリアが剣士である事は分かっている。そんな彼女が本職の『僧侶』に向かって、魔術のみで勝ってみせると言い放ったのだ。

 

 

「舐めるなよぉ、人間風情が!!」

 

 

 激昂したジャルダンは手から大量の魔力弾を生成し、アルトリアへと射出する。しかしそれをアルトリアは同数の魔力弾で打ち消す。

 

 

「な!?」

「この程度ですか。なら次はこちらから」ブゥン!

 

 

 今度はアルトリアがネックレスを変形させた剣杖を振るい、光の剣を生成する。その数、ジャルダンの魔力弾の倍以上。高速で打ち出されたそれを、ジャルダンはアルトリアと同じ様に魔力弾で防御しようとするが、撃ち落としきれず身体のあちこちに被弾する。光の剣はジャルダンの身体を刺し貫くと内部で爆発し、彼の身体を焼き焦がした。

 

 

「ガアァッ!?グゥゥッ、クソがっ!!」

 

 

 発生した爆風を払い、ジャルダンは辺りを見回す。すると左に杖を持ったアルトリアが、先程と同じ様な光の剣を展開して回り込もうとしている姿が見えた。

 

 

「そこか、食らえ!!」

「ッ!」

 

 

 ジャルダンは右手に魔力を集中させ、階層中の瘴気をアルトリアの周辺に集める。直ぐにアルトリアの周りには濃い瘴気の壁が形成された。アルトリアに対応する暇を与えず、ジャルダンが右手を握った次の瞬間、瘴気は意志を持つかの様にアルトリアに襲いかかった!

 

 

「フハハハハ!捕まえたぞ!さぁ、瘴気に侵されくたばるがいい!!」

 

 

 瘴気に覆われたアルトリア。あれだけ濃い瘴気に侵されれば、アルトリアの身体は次第に腐り落ちてしまうだろう。そしてすぐに、彼女の身体は崩れ落ちた。()()()()()()()()()()()()()

 

「残念ですが、それは不可能です」

「な、何!これは…「幻術ですよ、エムリス頼りですが」ッ!?」

「終わりです」カッ!!

 

 

 ジャルダンが瘴気を差し向けたのとは別方向。そこには魔力を練り終えたアルトリアが立っていた。そしてアルトリアが剣杖を地面に突き刺した瞬間、魔力の波濤がジャルダンの身体を押し流す!

 

 

「ば!?ばギャなぁァァァァァァァ……」

 

 

 そうしてジャルダンの肉体は魔力の波の中へと消えていった。

 

 

「これが『僧侶(ビショップ)』の戦い方の例ね。豊富な魔力を用いた魔法戦。今回は攻撃がメインだったけど、支援魔法による味方の援護に徹する場合もあるの」

「本来の『僧侶』に比べればお粗末かもしれませんが。如何でしたか?イッセー」

「凄かったぜ!剣だけだと思ってたけど、あんな事が出来たなんて」

「他にもアルトリアは、槍や弓、盾での戦闘もこなせるの。手数の多さは一番ね」

 

 

 速度の『騎士』、パワーの『戦車』、魔力の『僧侶』、それらを兼ね備えた『女王』。その全てがイッセーの眼には強力に映った。そう思ったイッセーは改めて問う。

 

 

「それで部長。さっき聞こうと思ってたんですけど、俺の駒は、特性は何ですか?」

「そういえば言ってなかったわね。貴方の駒は『兵士(ポーン)』よ」

「『兵士』?てことは………」

「『兵士』は将棋の『歩』。いうなれば一番の下っ端ですね」

「下っ端!?そ、そんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 自分が一番下っ端の駒であるという事実に衝撃を隠せないイッセーは、膝から崩れ落ちた。最も、彼はそんな『兵士』の駒を全て使い切るほどの才能を秘めているのだが、それを知るのはまだ先の話………

 




 はぐれ悪魔ジャルダンは、本作のオリジナルキャラです。原作で僧侶に関する解説が無かったので、どうせならと加えました。今後も随所にオリキャラを出す予定です。

 因みに本作では、人間などが使う物を魔術、悪魔などが使う物を魔法と区別しています。型月の魔法魔術と違う点についてはあしからず。
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