赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 どうも、ZAにドはまりしているファブニルです。遅れてしまい申し訳ありません。初ポケがXYで舞台がミアレシティってだけあって、懐かしさが止まらない。そしてプレイも止まらない。

 さて今回は女装男子の彼の登場です。吸血鬼と型月とは切っても切り離せない存在。まぁ、この世界は型月ワールドでは無いのでアルテミットワンから違いますが。

 よろしければ今回もお気に入り登録や高評価、感想をお願いします。

 それでは第三十二話、どうぞ!


隠された『僧侶』、『吸血鬼』現る

 あの後、アルトリアは自宅に帰ったが、その後サーゼクスやジオティクスたちは兵藤家を訪れたそうだ。次の日の朝に様子を聞いたのだが、リアスが頑として口を割らず、結局何があったかは分からずじまい。恐らくまたグレモリー家の家族愛に振り回されたのだろうことは想像できる。彼女がああも拒絶反応を見せるとしたらそれしか考えられなかった。

 

 そんな日の放課後。オカルト研究部とアルトリアは旧校舎一階の「空かずの教室」とされていた部屋の前に立っていた。この部屋は外からも厳重に閉められており、中を見ることは叶わない。ここにもう一人の『僧侶』がいる。イッセーよりも前から在籍こそしてはいるが滅多に外に出ず、諸事情により、フェニックスとのレーティングゲームやコカビエルとの戦いでも姿を現さなかった。

 

 何故なら、その能力が強力かつ制御不能であることを危険視されて、上から封印するように言われていたのだ。しかしリアスが四大魔王、大王バアル家、大公アガレス家、その他悪魔の重鎮からフェニックス家との一戦とコカビエルとの一戦が高い評価を受け、今なら扱えるだろうと判断され、解禁となった。

 

 

「ここにもう1人の『僧侶』が……」

 

 

 大型の南京錠に鎖。『KEEP OUT!』のテープが幾重にも貼られており、魔法や呪術的な刻印も刻まれている。

 

 

「えぇ、そうよ。一日中、ここに住んでいるの。いちおう深夜には術が解けて旧校舎内だけなら部屋から出てもいいのだけれど、中に居る子自身がそれを拒否しているの」

 

 

 と、リアスは語る。そして扉に手を突き出して魔法陣を展開した。魔法陣が回転すると、ガチャ!という音とともに扉を遮っていたものが消える。

 

 

「ひ、引きこもりなんですか?」

 

 

 イッセーの質問にリアスはため息を吐きながらうなずく。アルトリアも一度だけその『僧侶』と会ったが、あの引きこもりぶりは筋金入りだ。

 

 

「でも中に居る子は眷属の中では一番の稼ぎ頭だったりするのですよ」

「えぇ!?」

「パソコンを介して、特殊な契約を人間と執り行っているのです。直接私達と会いたくない人間というのもいるのですよ。その手のタイプの人間とは別の形で交渉をして、関係を持つのです。それを、パソコンを介して解決しているのよ。パソコンでの取引率は新鋭悪魔の眷属の中で上位に入る程の数字を出しているのです」

 

 

すごいな、パソコンだけで、そんなこともできるのか。

 

 

「さて、扉を開けるわ」

 

 

扉に刻まれていた呪術的な刻印も消え去り、ただの扉となっていた。リアス先輩が扉を開く。

 

 

「イヤァァァァァァアアアアッッ!」

 

 

 ッ!とんでもない声量の絶叫が中から発せられてくる!思わず耳を塞いだが、リアスは呆れた様に中に入る。朱乃もそれに続いた。

 

 

「ごきげんよう。元気そうで良かったわ」

「な、な、何事なんですかぁぁぁぁ?」

 

 

 中でのやり取りが聞こえてくる。どうやらいきなり封印が外れて酷く狼狽している様だ。

 

 

「あらあら。封印が解けたのですよ?もうお外に出られるのです。さあ、私達と一緒に出ましょう?」

 

 

 朱乃が優しく声を掛けている。しかし

 

 

「やですぅぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅぅ!外に行きたくない!人に会いたくないぃぃぃぃっ!」

 

 

 頑なに外に出たがらない。やはりかとアルトリアは瞑目し、同じく事情を知る祐斗は苦笑し、小猫はため息をついていた。それを知らない新参三人は首を傾げるばかり。気になったイッセーは恐る恐る中を覗いてみた。

 部屋の中はカーテンが全て閉められ薄暗い。テーブルやクッションなどの家具はかわいらしく装飾されていて、女の子の部屋らしいぬいぐるみも置いてある。しかし部屋の奥側に、葬儀で使われるような大きな棺桶が鎮座していた。そこにリアスと朱乃がしゃがみこんでいる。その先に『僧侶(ビショップ)』がいると思ったイッセーが二人の元へ向かう。

 イッセーの眼に飛び込んできたのは金髪の美少女、金髪に赤い眼をしたまるで人形のような可愛さを持っている。駒王学園の女子制服を着たその姿はアーシアとはまた違った庇護欲を抱かせる。

 

 

「おおっ!女の子!しかも外国の!」

 

 

 相手が女の子だと知り喜ぶイッセー。だが、リアスが首を横に振る。

 

 

「見た目女の子だけれど、この子は紛れもない男の子よ」

「へ?いやいやいや、どう見ても女の子ですよ。部長!…え?マジで?」

「女装趣味があるのですよ?」

 

 

 そう。彼女、否彼は紛れもない男だ。骨格が小さい影響か男らしさを感じさせないが紛れもない男子である。

 

 

「えええええええええええええええええええっ!?」

 

 

 イッセーがあまりの衝撃に大声を張り上げてしまう。

 

 

「ヒィィィィィイッッ!ゴメンなさぁぁぁい!」

 

 

 金髪の少年はイッセーの声にビックリして悲鳴をあげていた。確かにその姿を見る限りは女の子に見えてしまう。所作や声は完全に女の子だ。だが男だ。

 

 

「うわぁぁぁぁぁあああああああッッ!」

 

 

 イッセーは頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。彼からすれば好みの子が現れたと思ったら男だったわけだから、ショックは相当だろう。

 

 

「こんな残酷な話があっていいものか…。完全に美少女な姿で…男だなんて…イチモツが付いているなんて…」

「…下品な単語禁止」

 

 

 いつの間にか入ってきていた小猫がイッセーに声を掛ける。イッセーがショックを受けている間にメンバー全員が部屋に入っていた。

 

 

「イッセー、貴方の気持ちは分からなくもありませんが、彼は紛れもない男子です。そろそろ切り替えてください」

「女装趣味ってのがさらに残酷だ!似合っている分、余計に真実を知った時のショックがデカい!引きこもりなのに女装癖かよ!誰に見せる為の女装ですか!?」

 

 

 イッセーの一言に女装少年が反論する。

 

 

「だ、だ、だって、女の子の服のほうがかわいいもん」

「かわいいもん、とか言うなァァァ!クソッ!野郎のクセにぃぃぃ!俺の夢を一瞬で散らしやがってぇぇぇっ!お、俺は、アーシアとお前のダブル金髪美少女『僧侶(ビショップ)』を瞬間的にとはいえ、夢見たんだぞ!?返せよぅ!俺の夢を返せよぅ!」

「…人の夢と書いて、儚い」

「小猫ちゃぁぁぁぁん!洒落にならんから!」

「と、と、と、ところで、この方は誰ですか?」

 

 

 女装少年がリアスに訊く。リアスはイッセー、アーシア、ゼノヴィアを指して言う。

 

 

「貴方がここにいる間に増えた眷属よ。『兵士(ポーン)』の兵藤一誠、『騎士(ナイト)』のゼノヴィア、貴方と同じ『僧侶(ビショップ)』のアーシア」

「ヒィィッ!人が増えてるゥゥゥッ!?」

 

 

 リアスの紹介に挨拶した三人だが、それに対しても怯えるばかり。彼の対人恐怖症は相変わらずのようだ。

 

 

「お願いだから、外に出ましょう?ね?もう貴方は封印されなくてもいいのよ?」

「嫌ですぅぅぅ!僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁぁっ!怖い!お外怖い!どうせ、僕が出てっても迷惑を掛けるだけだよぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 リアスが優しく声を掛けるが、首を振るばかり。すると彼の言動に腹が立ったのか、イッセーが彼に近づき彼の細い腕を引く。

 

 

「ほら、部長が外に出ろって」

 

 

 イッセーは彼を外に引っ張ろうとする。いけないと、イッセーを止めようとするが

 

 

「ヒィィィィ!」

 

 

 彼の叫びと共に目の前が真っ白になる。一瞬視界がラグを起こしたような時間が止まったような感覚を全員が味わった。

 

 

「おかしいです。なにか今一瞬…」

「なにかされたのは確かだね」

「一体何をしたんだ?」

 

 

 謎の現象にイッセーたちは驚いていたが、他のメンバーはため息を付くだけだった。またか、と。

 

 

「怒らないで!怒らないで!ぶたないでくださぁぁぁぁぁいッ!」

 

 

 気づけば彼は棺桶から移動し、部屋の隅で丸くなっていた。まるで瞬間移動、この力こそ彼が今日まで封印されてきた理由である。

 

 

「その子は興奮すると、視界に写した全ての物体の時間を一定の時間停止することができる神器を持っているのです」

 

 

 彼の神器の能力、それは時間停止。見たもの全ての時間を止めることが出来る。彼が瞬間移動したのも、神器によって時間が止まっている間に彼が移動したからそう見えたのだ。

 

 

「彼は神器を制御できない為、大公及び魔王サーゼクス様の命でここに封じられていたのです」

 

 

 朱乃の説明でイッセーたちも理解する。時間を停止する、それは凶悪な能力だ。それを制御できないとなると、敵だけでなく味方にも被害がおよぶ可能性がある。リアスは女装少年を後ろから優しく抱きしめる。

 

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶(ビショップ)』。いちおう、駒王学園の一年生なの。そして、転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」

 

 

 

 

 

 

 

「『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』?」

 

 

 イッセーの問いにリアスが頷く。

 

 

「そう。それがギャスパーの持っている神器の名前。とっても強力なの」

「時間を停めるって、それ、反則に近い力じゃないですか?」

「その通りです。使いこなせば相手の時間を止め、戦いを一方的に進める事すら可能な神器です」

 

 

 どんな力自慢も強力な異能も、時間が止まって動けないのであればは何も出来ない。レーティングゲームなら文字通りのワンサイドゲームすら可能だ。

 

 

「問題は、それを扱えないところ。それゆえギャスパーは今まで封じられてきたのよ。無意識に神器が発動してしまうのが問題視されていたところなの」

「しかし、そんな強力な神器を持った奴をよく部長は下僕に出来ましたね。しかも駒ひとつ消費だけで済むなんて」

「それには『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』側にカラクリがあるようなのです」

 

 

 アルトリアの言葉にリアスは手元に一冊の本を宙に出現させ、ペラペラとページをめくり、開いたままこちらへ差し出す。イッセーが覗き込むと、それは『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』についての説明ページだった。

 

 

「『変異の駒(ミューテーション・ピース)』よ」

「…ミューテーション・ピース?」

「通常の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』とは違い、明らかに駒を複数使うであろう転生体が、ひとつで済んでしまったりする特異な現象を起こす駒のことだよ」

「部長はその駒を有していたのです」

「だいたい上位悪魔の十人に1人はひとつぐらい持っているの。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』のシステムを作り出した時に生まれたイレギュラー、バグの類らしいのだけど、それも一興としてそのままにしたらしいわ。ギャスパーはその駒を使った1人というわけね」

 

 

 イッセーの疑問に祐斗と朱乃、リアスが説明する。

 

 

「因みにもしアルトリアちゃんが悪魔に転生する事が可能だった場合、この『変異の駒(ミューテーション・ピース)』が必要になるという試算が出ていますわ」

「てことは、コイツのポテンシャルはアルトリア並って事すか!」

「逆説的にだけど、その通りよ。でも問題はギャスパーの才能よ」

「どういうことですか?部長」

「彼は類稀な才能の持ち主で、無意識の内に神器の力が強まっていくみたいなの。そのせいか、日々力が増していってるの。上の話では将来的に『禁手(バランス・ブレイカー)』へ至る可能性もあるという話よ」

 

 

 『禁手(バランス・ブレイカー)』、イッセーや祐斗が至った神器の高み。その力は強力無比だが、ギャスパーは神器を制御出来ていない。例えそのポテンシャルがエクスカリバーを振るうアルトリア並だとしても、今のままではその力があらぬ方向へ向かう危険がある。

 

 

「それって滅茶苦茶危ないんじゃ……」

「そう。危うい状態なの。今まではあの部屋と、万が一は同等の力を持つとされるアルトリアに処断させるという事で封印するしかなかった。けれど私の評価が認められたため、今ならギャスパーを制御できるかもしれないと判断されたそうよ。私がイッセーと祐斗を『禁手(バランス・ブレイカー)』に至らせたと上の悪魔達は評価したのでしょうね」

 

 

 祐斗の聖魔剣の覚醒と、代償込みとはいえ上級悪魔のライザーを撃破したイッセーの金星、そして「白い龍(バニシング・ドラゴン)」と『奈落の魔竜(ヴォーディガーン)』の介入があったとはいえ、コカビエルの一件で大きな被害もなく未然に防いだ。これらの功績から今のギャスパーを扱えると判断したのだろう。

 

 

「…うぅ、ぼ、ぼ、僕の話なんてして欲しくないのに…」

 

 

 ソファーの横に大きな段ボールが置かれている。声はそこからしていた。イッセーが無言で軽く小突く。

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 中から悲鳴が聞こえてくる。もちろん、ギャスパーの声だ。あまりに外の世界が怖いのか、大きな段ボールに入り込んでいる。その姿はまるでミミックだ。

 

 

「私の眷属の中で能力的には朱乃についで二番目なんじゃないかしら。ハーフとはいえ、由緒正しい吸血鬼の家柄だし、強力な神器も人間としての部分で手に入れている。吸血鬼の能力も有しているし、人間の魔法使いが扱える魔術にも秀でているわ。とてもじゃないけど、本来『僧侶(ビショップ)』の駒一つで済みそうにないわね」

 

 

 スペックだけ見ればグレモリー眷属でも相当な実力者だ。問題は彼のメンタルが眷属一弱い事だが。

 

 

「そういえば部長、吸血鬼って太陽に弱いんですよね?こいつ大丈夫なんですか?」

 

 

 吸血鬼は太陽に当たると灰になる、有名な弱点だ。太陽光には悪魔以上に弱い、だから段ボールに入っていたのか。イッセーの問いにリアスは頷く。

 

 

「彼はデイウォーカーと呼ばれる日中活動できる特殊な吸血鬼の血を引いてるから問題ないわ。ただ、苦手ではあるでしょうけど」

「日の光嫌いですぅぅぅぅ!太陽なんてなくなっちゃえばいいんだぁぁぁっ!」

 

 

 そんなことになったらサー・ガウェイン最大の強みが消えてしまうな、とついつい下らない事を考えてしまうアルトリア。確かに彼ら闇の住人にとって太陽は無い方がいいだろう。が、ここに居る皆は日本の高校生だ。学生の本分は勉強にある。

 

 

「おまえ、授業でてないだろう?力を克服してクラスと打ち解けなきゃダメだぞ?」

 

 

 猥談まみれでオカ研関係者と松田、元浜以外と馴染めていない貴方がいいますか?というツッコミを心のうちに抑える。イッセーの説得にギャスパーはわめきだした。

 

 

「嫌です!僕はこの段ボールの中で十分です!外界の空気と光は僕にとって外敵なんですぅぅぅッ!箱入り息子ってことで許してくださぁぁぁぁいッ!」

 

 

 まるで外界の全てが毒かのような言い分である。学業自体は通信制で何とかしているとの事だが、コミュニケーション能力が絶望的だ。このままでは社交パーティーに一緒に参加するのは無理だろう。貴族に仕える者としてこれでは封印を解いた意味が無い。

 

 

「部長、こいつは血を吸わないんですか?吸血鬼でしょう?」

「ハーフだから、そこまで血に飢えているわけではないわ。十日に一度、輸血用の血液を補給すれば問題ないの。もともと血を飲むのは苦手みたいだけれど」

「血、嫌いですぅぅぅぅ!生臭いのダメェェェェェ!レバーも嫌いですぅぅぅ!」

「…へたれバンパイア」

 

 

 小猫の吐き捨てるような痛恨の一言。流石は小猫、彼相手でも毒舌に切れ味がある。

 

 

「うわぁぁぁぁん!小猫ちゃんがいじめるぅぅぅぅ!」

 

 

 イッセーなどの上級生相手でも容赦ない毒舌、一年生の同級生なら同い年なので尚更遠慮がない。

 

 

「とりあえず、私が戻ってくるまでの間だけでも、イッセー、アルトリア、アーシア、小猫、ゼノヴィア、貴方達にギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は三すくみトップ会談の会場打合せをしてくるから。それと祐斗、お兄様が貴方の禁手(バランス・ブレイカー)について詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい」

「はい、部長」

 

 

 この地を治めるリアスの仕事は多い。普段の業務に加えて会談のセッティング、祐斗の聖魔剣の報告など、ここしばらくは多忙だ。加えて祐斗の禁手は聖魔のバランスが崩れたが故に起きたイレギュラーな存在、各種機関に引っ張りだこだ。

 

 

「イッセーくん、悪いけど、ギャスパー君のこと、お願いするね」

「ああ、任せろ木場。まあ、皆がいるし、なんとかなると思うぞ。たぶんな」

 

 

 さて、対人恐怖症で引きこもりのヴァンパイアをイッセーはどうするのだろうか。

 

 

「ギャスパー君、そろそろお外になれないといけませんわよ?」

 

 

 段ボール越しに朱乃が話しかける。

 

 

「朱乃お姉さまぁぁぁ!そんな事言わないでくださいぃぃぃ!」

「あらあら。困ったわねイッセーくん、お願いね」

「はい、朱乃さんにお願いされたら、俺も頑張っちゃいます!」

「うん。では、イッセー、こいつを鍛えようか。軟弱な男はダメだぞ。それに私は小さい頃から吸血鬼と相対してきた。扱いは任せてほしいね」

 

 

 と、ゼノヴィアはギャスパーの入った段ボールに括りつけてある紐をひっぱりだした。もっともゼノヴィアの経験というのは滅した経験だが。

 

 

「ヒィィィィッ!せ、せ、せ、聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅぅ!滅ぼされるぅぅぅぅ!」

「悲鳴上げるな、ヴァンパイア。なんなら、十字架と聖水を用いて、さらにニンニクもぶつけてあげようか?」

「ヒィィィィィッ!ガーリック、らめぇぇぇぇぇ!」

 

 

 ヴァンパイアの弱点セットをぶつけようとしているゼノヴィア。恐怖に向き合い、打ち勝たせようとしているのだろうが…………先行きは不安一色だ。

 

 

 

 

「ほら、走れ!デイウォーカーなら日中でも走れるはずだ!」

「ヒィィィィィィ!デュランダルを振り回しながら追いかけて来ないでぇぇぇぇぇ!」

 

 

 夕方に差し掛かった時間帯。旧校舎近くで吸血鬼が聖剣使いに追いかけられていた。傍から見れば完全に吸血鬼狩りだ。デュランダルもブゥゥゥゥンッ!という危険な音を立てながら聖なるオーラを放ち続ける。ギャスパーも逃げるのに必死だ。まあ、追い付かれたら一瞬で滅ぼされるしな。

 そこにアルトリアが止めに入る。剣を振り回すゼノヴィアを背後から羽交い締めにした。

 

 

「ゼノヴィア!?なにをやっているのですか!?」

「なにを?健全な精神は健全な肉体に宿るものだろう?だからこうして走り込みで身体を鍛えているのではないか。まずは体力だ」

「だとしても聖剣を振り回すような馬鹿な真似はやめなさい!そもそも出会った頃の貴方はもっと理性的でした!あの時のクレバーさはどうしたのですか!」

 

 

 確かに最近のゼノヴィアは色々とはっちゃけている。これは悪魔になった事で禁欲生活から解放されたからのもあると思うが、ゼノヴィアは今の生活を楽しんでいるのだ。宗教の色が薄い日本でのやることなすことが新鮮だと語っていたのをイッセーは思い出した。

 

 

「私と同じ『僧侶』さんにお会いして光栄でしたのに、目も合わせてもらえませんでした…ぐすっ」

 

 

 残念そうなアーシア。少し涙目だ。彼女はずっと、もう一人の『僧侶』と会うのを心待ちにしていた。が、実際には極度の対人恐怖症で拒絶されてしまったが。万人受けするアーシアすら無理となると、ギャスパーの改善は至難の業だろう。だが、学園の先輩として後輩の問題を解決せねばとイッセーは奮起する。と件の後輩を見れば、次はニンニクを持った小猫に追いかけまわされていた。

 

 

「…ギャーくん、ニンニクを食べれば健康になれる」

「いやぁぁぁん!小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅ!」

 

 

 一年生同士仲が良い…のか…?イッセーが事前に聞いた話では小猫が唯一、いじれるキャラだと聞いたが…。

 

 

「これはイジメてる…のか?てか、こんな小猫ちゃん初めて見たな」

「小猫!吸血鬼がニンニクなど食べれば逆に不健康です!真面目にやりなさい!」

「…むう」

 

 

 そんな二人の対応にアルトリアは追われていた。真面目な彼女としては二人の様子は我慢ならないのだろう。イッセーには大型犬と気ままな猫の対処に追われる飼い主の様に見えた。

 

 

「大丈夫ですか、ギャスパー?」

「ヒィィィィィッ!!ごめんなさいごめんなさい!」

 

 

 ギャスパーの肩に手を置くが、相変わらずブルブルと震えてこちらを見ない。初めて会った日からそうだが、対人恐怖症である事以上に此方を怖がっている。やはりエクスカリバーに反応しているのだろうか。

 

 

「おーおー、やってるなオカ研」

 

 

 と、そこへ生徒会メンバーの匙が現れる。

 

 

「おっ匙か。どうしたんだ?こんな所まで?」

「よー、兵藤。監禁された引きこもり眷属がいるとかって聞いてちょっと見に来たぜ」

「ああ、あそこだ。アルトリアに庇われているのがそうさ」

 

 

 イッセーはギャスパーを指差し答える。

 

 

「あれかぁ、おっ!てか、女の子か!しかも金髪!」

「残念、あれは女装野郎だ」

 

 

 それを聞き、膝をつき心底落胆した様子の匙。イッセー同様にガッカリしている。

 

 

「そりゃ詐欺だ。てか、女装って誰かに見せたいためにするものだろう?それで引きこもりって矛盾過ぎるぞ。難易度高いなぁ」

「だよな。意味のわからん女装癖だ。似合っているのがまたなんとも言えん。で、そういう匙は何をやっているんだよ」

 

 

イッセーと意気投合する匙の格好はジャージだ。軍手をして、花壇用の小さなシャベルを持っていた。

 

 

「見ての通りだ。花壇の手入れだよ。一週間前から会長の命令でな。ほら、ここ最近学園の行事が多かっただろう?それに今度魔王様方もここへいらっしゃる。学園をキレイに見せるのは生徒会の『兵士』たる俺の仕事だ」

 

 

 要するに雑用係である。まあ、誰もやらない事を進んでやるのも生徒会の仕事なのだろう。

 

 

「へぇ。魔王眷属の悪魔さん方はここで集まってお遊戯してるわけか」

 

 

 突然響く中年男性の声、皆が茂み側に目を向けるとそこには浴衣を着た悪そうな男がいた。

 

 

「「アザゼル…ッ!」」

「よー、赤龍帝に騎士王のお嬢さん。あの夜以来だな」

 

 

 全員が突然現れた男を怪訝そうに見つめていたが、二人の一言で空気が一変する。

 

 

 ギィン!

 

 

 咄嗟にゼノヴィアが剣を構える。空気を察したのか、アーシアがイッセーの後ろに隠れ、それに合わせてイッセーもブーステッドギアを出現させる。アルトリアもまた剣を構えてはいないが警戒する素振りを見せた。匙もまた驚愕しながらも右手の甲に神器を出現させる。

 

 

「おいイッセー、アザゼルって!」

「その名の通り、堕天使の大将だよ!俺達は以前に接触しているんだ!」

 

 

 普段ふざけているイッセーの真剣な反応で理解したのか、匙も戦闘の構えを作り出した。が、当のアザゼルはその様子に苦笑する。そもそも彼は殺気どころか、戦闘をする気配すら出していない。まるで遊びに来たような空気を纏っている。

 

 

「オイオイやる気はねぇよ。ほら、構えを解きな、下僕悪魔くん達。ここにいる連中が集まった所で俺には勝てないのはなんとなくでも分かるだろう?俺だって、下僕悪魔相手にいじめなんかするつもりはない。ちょっと散歩がてら悪魔さんの所に見学だ。聖魔剣使いはいるか?ちょっと見に来たんだが?」

 

 

 手を挙げてプラプラさせるが、誰も構えを解かない。悪魔としては堕天使の言うことを鵜呑みには出来ない、口ぶりからも狙いは祐斗の聖魔剣の様だ。

 

 

「木場ならいないさ!木場を狙ってるならそうはさせない!」

 

 

アザゼルにイッセーが噛みつくが、向こうは呆れた様子で話だす。

 

 

「…ったく、赤龍帝とエクスカリバーの合わせ技が無けりゃコカビエルにも勝てなかったくせに。今の状態で俺と勝負になるわけねぇだろうにさ。そうか、聖魔剣使いは居ないのかよ。つまんねぇな」

 

 

 頭をポリポリかきなから、アザゼルが近寄ってくる。敵意は全くない。それが逆に不気味だ。相手はあのコカビエルよりも強い存在、あの時の様に極限の『倍加』とエクスカリバーの解放があっても勝てるかどうか。アザゼルはとある木を指差す。

 

 

「そこで隠れているヴァンパイア」

 

 

 ビクッと木陰に隠れていたであろうギャスパーが慌てふためく。ギャスパーに近づきながら堕天使の総督は言う。

 

 

 

「『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の持ち主なんだろう?そいつは使いこなせないと害悪になる代物だ。神器の補助具で不足している要素を補えばいいと思うが…。そういや、悪魔は神器の研究が進んでいなかったな。五感から発動する神器は持ち主のキャパシティが足りないと自然に動き出して危険極まりない」

 

 

 ギャスパーの顔、正確には両眼を覗き込むアザゼル。当のギャスパーは堕天使のトップの顔が近づいてきてブルブル震えていた。当然の反応だが、アザゼルから不思議と悪意は感じられない。寧ろ興味津々の様子だった。その様子に皆毒気を抜かれたのか、構えを解く。どう反応すればいいか分からなくなっていた。

 続いてアザゼルが振り向くと匙を指差す。驚きながらも匙は再び身構えた。

 

 

「それ、『黒い龍脈(アブソーブジョン・ライン)』か?練習するなら、それを使ってみろ。このヴァンパイアに接続して神器の余分なパワーを吸い取りつつ発動すれば、暴走も少なく済むだろうさ」

 

 

 アザゼルの説明に匙も複雑な表情を見せる。

 

 

「…お、俺の神器、相手の神器の力も吸えるのか?ただ単に敵のパワーを吸い取って弱らせるだけかと…」

 

 

それを聞き、アザゼルは呆れた様子だった。

 

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は自分の力をろくに知ろうとしない。『黒い龍脈(アブソーブジョン・ライン)』は伝説の五大龍王の一匹、かつて『堰界竜(いかいりゅう)』とも呼ばれたアスラの王『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラの力を宿している。まあ、これは最近の研究で発覚したことだがな。そいつは、どんな物体にも接続することができて、その力を散らせるんだよ。短時間なら、持ち主側のラインを引き離して他の者や物に接続させることも可能だ」

「じゃ、じゃあ、俺側のラインを…たとえばイッセーとかに繋げられるのか?それでイッセーの方にパワーが流れると?」

「ああ、成長すればラインの本数も増える。そうすりゃ吸い取る出力も倍々だ」

「………」

 

 

 匙が黙り込む。なにやら考えを巡らせているようだ。アザゼルの話が本当ならば匙の神器の能力は強力であり、宿すものはドライグ同様神話のドラゴンだ。覚醒させれば相当なものになるだろう。

 

 

「神器の上達で一番てっとり早いのは、強者の血、この場合は赤龍帝の血を飲むことだ。ヴァンパイアには強者の血でも飲ませておけば自然に力が付くのさ。ま、あとは自分達でやってみろ」

 

 

 そう言うとアザゼルはこの場に後にしようとする。聖魔剣が無いなら用はないという事だ。が、突然立ち止まりイッセーとアルトリアの方へ顔を向けた。

 

 

「ヴァーリとロウィーナ、うちの白龍皇と奈落の魔竜が勝手に接触して悪かったな。さぞ驚いただろう?なーに、あいつらは変わった奴等だが悪い奴等じゃないさ。ヴァーリも今すぐ赤白ライバルの完全決着をしようなんて思っちゃいないだろうさ。それにロウィーナも別に先祖の恨みを晴らすとかもないから安心してくれ」

 

 

 とアザゼルは言うが…

 

 

「正体語らずに俺へ度々接触してきたあんたの方は謝らないのかよ?」

 

 

 イッセーが文句を言う。その通りだ、堕天使のトップが悪魔の稼業に干渉など冗談では済まない。が、アザゼルは悪戯な笑みを見せながら一言だけ言う。

 

 

「そりゃ、俺の趣味だ。謝らねぇよ」

 

 

 それだけ言い残すと、隠形で気配を消しながら去っていった。

 

 

「「「……」」」

 

 

 取り残されたイッセーたち。互いに顔を見合わせて反応に困っていたが、匙が息をついたあとに動きだす。

 

 

「…とりあえず、そこの新顔くんに俺の神器を取り付けてみるか。その状態で、神器を使ってもらって練習でもしようぜ。その代わりに今度お前らに俺の花壇を手伝ってもらうからな」

 

 

 匙の提案に皆がうなずき、ギャスパーの神器修行が開始された。

 まず匙が『黒い龍脈(アブソーブジョン・ライン)』の舌をギャスパーに接続し、余分な力を吸い取る。アザゼルの言うように吸引は可能だった。少なくとも神器に関しては信用しても良いかもしれない。

 

 

「よし、行くぞギャスパー!」

「は、はぃぃぃッ!」

 

 

 その後バレーボールを投げて、それをギャスパーが視界に映した瞬間停止させていく。その結果分かった事だが、停止された物体はおよそ数分間だけ動きを完全に停められる。ボールなら、放った状態で宙に停止した。生物ならその動き、格好のまま停止する。停められた者は、その間意識まで完全に停止される為、停められてる間の記憶がない。この停止時間には差があり、強い力を持つ者であればその分抵抗によって早くに解除するようだ。現にうっかり全員を止めた際アルトリア、イッセー、匙は比較的早く解除されていた。

 また視界に写るのが近ければ近いほど停められる時間が長く、遠ければ遠いほど範囲は広くなるが停められる時間は短くなる。そしてギャスパー自身も使いこなせていない為か、視界に写した特定の物を停止することは出来なかった。複数投げたボールの一個を止めようとしたが、まとめて停止してしまう。意識して発動することがまだ出来ず意識に発動してしまうことも多々あり、誰かの体の一部を停止することが何度もあった。流石に不意打ちで来ると驚いてしまうがその度に「ごめんなさぃぃぃ!」と叫んで謝りながら逃げ出そうとしてしまう。結局アルトリアにコートの四方を囲んでもらい、物理的に逃げられないようにすることになったが、ここまで来ると神器の上達云々以前の問題になってきた。

 

 

「どう?練習ははかどっているかしら?」

 

 

 もう間もなく日が沈む頃、リアスがサンドイッチの差し入れを持ってきた。

 

 

「部長、もうお話は良いんですか?」

「えぇ、取り敢えず詰められるところは詰めてきたわ。どう?ギャスパーの様子は」

「いやぁ、それが……」

 

 

 当のギャスパーは力を吸われ続け、ヒィヒィと息を切らしている。流石に休憩が必要だ。全員がリアスの作ったサンドイッチに手を伸ばす。!美味しい、材料は比較的簡素だが、その分活かし方が上手い。

 

 

「部長、うまいっス!」

 

 

 全員が根を詰めていた状況もあいまってなのかイッセーが叫ぶ。

 

 

「ふふふ、ありがとう。材料もそんなに無かったから簡単にしか作れなかったのだけど」

 

 

 リアスは謙遜していたが、簡単な分気を張らず、自然と手が進む。ギャスパーもまた表情を和らげていた。

 一息入れたところで、リアスにアザゼルが来た報告を入れるリアスは驚いてはいたが、同時に納得もしていた。

 

 

「アザゼルは神器について造詣が深いと聞くわ。神器についてアドバイス…。知識を他者に助言するほど余裕ということかしら」

「おそらく、それくらいなら教えても問題ないという判断でしょう」

「となると堕天使側から想定される神器の研究データ、もう少し引き出せるように詰めるべきかしら……」

 

 

 アルトリアの助言を受けて考え込むリアス。すると匙が立ち上がった。

 

 

「リアス先輩が帰ってきたし、俺はそろそろ花壇の作業に戻る」

 

 

 匙がリアスの作ったサンドイッチを二、三個口にした後、そう言う。

 

 

「匙君。わざわざ私の下僕に付き合ってくれてありがとう。お礼を言うわ」

 

 

 匙はリアスに礼を言われて顔を赤くしていた。

 

 

「い、いいっスよ。先輩は会長の大事なお友達ですし、神器についての新たな可能性も見えました。俺としても収穫ありってことで」

 

 

 なんだかんだで匙は良いヒト、いや悪魔だ。違う主に仕えている身でここまで協力してくれたのはありがたい。今度生徒会の仕事を手伝おうと考えるアルトリアだった。

 

 

「じゃあ、兵藤。あとは頑張れや」

「おう、サンキューな」

 

 

 そうして匙はこの場を後にした。匙を見送ったリアスは、体育館端で休んでいたギャスパーに向けて言う。

 

 

「ギャスパー、まだいけるわね?匙君に吸われて、ちょうど力も良い感じに調整されたでしょうし、残りの時間は私も一緒に練習付き合うわ」

「が、がんばりますぅぅぅ」

 

 

 リアスの声にギャスパーもへろへろになりながらも立ち上がったのだった。こうして、夜になるまでギャスパーの神器練習は続いた。




 ヴォーディガーン情報 その5

 彼女の戦闘スタイルは徒手空拳と剣術が中心。最近ある剣を手に入れた。
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