赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 どうも。季節の変わり目で体調崩したファブニルです。急に寒くなってきましたね。いきなり冷え込んで熱出してしまいました。仕事場でも風邪気味の人が居るみたいで、マスクやらが必要な季節だと思い知らされます。

 今回も遅れてしまいましたが、今回はギャスパーの歩み寄りと天使長の登場となります。次回からは本格的に会談が始まりますので、そちらもお楽しみにお待ちください。頑張って投稿頻度も上げていきます。

 よろしければ今回もお気に入り登録や高評価、感想をお願いします。

 それでは第三十三話、どうぞ!


箱入り吸血鬼と『熾天使』

 あの後、ギャスパーの特訓は一先ず終わり、皆それぞれの業務の為にその日は解散となった。なんとか一個だけなら止められるようにはなった。が、まだまだ実戦レベルとはいかないだろう。

 

 

「(ギャスパーのあの様子は過去の経験によって外界の膨大な情報を処理できていない事が原因。であれば少しずつ外界に慣らし、その上で複数の物体を処理できるような)……おや?」

 

 

 翌日、アルトリアがギャスパーの特訓について考えていると、ギャスパーの部屋の前にイッセーとリアスが立っていた。

 

 

「ギャスパー、出てきてちょうだい。イッセーに連れて行かせた私が悪かったわ」

 

 

 ギャスパーの部屋の扉前でリアスが謝っていた。

 

 

「イッセー、リアス、どうしたのですか?」

「あぁ、アルトリア。実は……」

 

 

 どうやらあの日、リアスはギャスパーをイッセーの契約取りに同行させた様だ。そこで顧客を停めてしまったらしく、その事にショックを受けたギャスパーが再び引きこもってしまったようだ。

 

 

「イッセーと仕事をすれば、もしかしたらギャスパーのためになると思って…」

『ふぇえええぇぇぇぇええんっっ!』

 

 

 旧校舎の自室に閉じこもったギャスパーは外にまで聞こえる声量で泣いている。人嫌いで神器を使いこなせず迷惑を掛けていること、こいつは抱えていることがややこしくなっている。自信をつけようと行った依頼者が変態で怖かったらしい。これは、気がつかなかった

 

 

「相手の人がギャスパーみたいな男の娘、あぁ可愛い女装男子が大好きだったみたいで滅茶苦茶興奮して、あぁなって……」

「今までで一番ギャスパーが外に出ていたから、これなら大丈夫と思っていたのだけど、焦ってしまったわ……」

 

 

 リアスからかつてギャスパーと顔見せをした際に聞いたことがある。ギャスパーは名門の吸血鬼を父に持つが、母が人間で妾だったため、純血ではなかった。悪魔以上に純血ではない者を軽視、侮蔑する吸血鬼たちは、たとえ親兄弟であっても扱い方は差別的だという。

 ギャスパーは腹違いの兄弟達に子供の頃からいじめられ、人間界に行ってもバケモノとして扱われて居場所がなかったという。しかし、ギャスパーは類稀なる吸血鬼の才能と、人間としての才能特殊な神器を両方兼ね備えて生まれてきてしまった為、望まなくてもその力は歳を取ると共に大きくなっていったらしい。

 

 仲良くしようとしても、ちょっとした拍子に時間停止の神器が発動してしまい、相手を停めてしまう。

 

 

「ねぇ、二人共、もし時を停められたら、どんな気分?」

 

 

 リアスが尋ねる。

 

 

「…少し、怖いですね」

 

 

 イッセーが正直に答えた。

 

 

「私も。無防備な姿を晒すのは怖いです」

 

 

 ギャスパーにその気が無くても停められている間に何されたかと考えてしまう。今までギャスパーに停められた者たちもそう思ってしまったのだろう。一度生まれた不信感はなかなか消えない。そうなれば彼に付き合うことが出来なくなり、次第にギャスパーを恐怖するようになる。ギャスパーはそれを何度も体験したのだろう。

 神器を得た人間は普通の人生は送れない。イッセーは初恋を最悪な形で終わらせ、アーシアも迫害によって日本に流れ着き、危うく命を落としかけた。神器は神の加護や祝福と言われているが、強すぎる力はただの呪いでしかない。そもそも、もう神はいない。神の遺した神器プログラムが稼働している以上、神器は無くならないそうだが。

 

 

『ぼ、僕は…こんな、神器いらないっ!だ、だって、皆停まっちゃうんだ!怖がる!嫌がる!僕だって嫌だ!と、友達を、な、仲間を停めたくないよ…。大切な人の停まった顔を見るのは…、も、もう嫌だ…』

 

 

 部屋の中ですすり泣くギャスパー。家からも追い出され、どちらの世界でも生きられないギャスパーは路頭に迷った。その時ヴァンパイアハンターに狙われ、一度命を落とした。そこをリアスに拾われたらしい。

 アルトリアも、家を離れて世界を彷徨い、駒王町に流れ着いたところをサーゼクスに拾われた。彷徨う前の記憶は曖昧だが、もしかすると自分もペンドラゴンの家に居られないような、迫害か何かを受けたのだろうか。

 

 

「困ったわ…。この子をまた引きこもらせてしまうなんて…。『王』失格ね、私」

 

 

 落ち込むリアス。確かにギャスパーを通常業務に同行させるのは早計だったが、今回ばかりは相手が悪かったかもしれない。

 

 

「部長、サーゼクス様達との打ち合わせがこれからあるんでしょう?アルトリアも今日も部長と一緒に打ち合わせがあるって」

「ええ、でももう少しだけ時間を延ばしてもらうわ。先にギャスパーを…」

「後は俺に任せてください。何とかしてみせますので」

 

 

 イッセーの申し出にリアスも強く異を唱える事はできなかった、打合せも大事だからだ。今回の会談では三大勢力の首領たちが一堂に会する。なにか落ち度があっては彼女の今後に関わる。何か当日に不都合が起きてしまえば、リアスの評価だけでなく三者の間の溝がより一層深まる可能性もある。

 

 

「大丈夫です。せっかく出来た男子の後輩です!俺がなんとかします!」

「……リアス、ここはイッセーに賭けてみては?男同士、腹を割って話せることもあるでしょうし」

「……わかったわ。イッセー、お願いできる?」

「はい!」

 

 

 イッセーの勢いある返事を聞いて、リアスは微笑んで頷いた。そうして二人は名残惜しそうに心配そうにギャスパーの部屋の扉を一瞥し、その場を後にした。

 

 

 

 

「あぁは言ったけど、イッセー大丈夫かしら?」

「ですが、あの場で我々に出来ることはありません。きっとイッセーならどうにかしてくれます」

「そうね。それじゃアルトリア、急いで会談で出てくる要求への対策を詰めるわよ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 リアスとアルトリアを見送った後、イッセーは深呼吸して座り込んだ。

 

 

「お前が出てくるまで、俺はここを一歩も動かないからな!」

 

 

 ドカッと座り込んだイッセーはジッと待ち続けた。座り込みから三十分が経過した頃、そろそろギャスパーも落ち着いたかと考えたイッセーは意を決して語り掛ける事にした。

 

 

「…怖いか?神器や…俺達が」

『…』

 

 

 イッセーは扉越しに話し続ける。

 

 

「俺も最強のドラゴンが宿った神器を持っている。でも、お前みたいにヴァンパイアとか、木場やアーシア、アルトリアみたいな凄い人生を送ってきたわけじゃない。何処にでもいる普通の男子高校生だよ」

 

 

 何処まで聞いてもらえるか分からない、でも正直な自分の想いを話そう。そう考えたイッセーは口を動かす。

 

 

「俺は…正直、怖い。この力を使うたびに身体が変化していく気がしてならない。悪魔の事だってよくわかってない。だけど、俺は前に進み続けようと思ってる」

『…どうしてですか?も、もしかしたら、大切な何かを失うかもしれないんですよ?せ、先輩はどうして、そこまで真っすぐに生きていられるんですか…?』

 

 

 反応があった。第一関門は突破した。次はこの質問はどう返すか。

 

 

「…そうだな。俺はバカだから難しいことは分かんねぇ。ただ………」

『ただ?』

「部長の涙は見たくねぇ。レーティングゲームをやった時、後もうちょっとって時に身体にガタが来ちまってライザーにボコボコにされてさ。何とかその後立ち上がれたんだけど、そん時部長が泣いてたんだ。あの顔が頭に焼き付いて離れねぇんだ」

『……』

「それに、目標があるんだ。最終目標は別にあるんだけど、アイツと、アルトリアと肩を並べて戦いたい。お前は知ってると思うけど、アイツずっと戦い続けてるんだよな。俺がピンチの時にずっと前に立って俺を護ろうとしてるアイツを、放っておけねぇ。守られてるだけで終わりたくねぇ。コカビエルとの戦いのとき、ようやく一緒に戦えた。いつかアイツと同じ位強くなって、護ってやりたい。そう思うんだ」

 

 

 そういったイッセーの脳裏にはリアスの涙と、アルトリアの小さくて大きな背中が映った。

 

 

 ギィ…

 

 

 鈍い音を立てながら、扉が少しだけ開かれた。

 

 

「…ぼ、僕もそのとき、いませんでした…この前も、ずっとこの部屋で…」

 

 

 扉の奥から姿を現したギャスパーは涙を懸命に堪えている様子だった。そんなギャスパーにイッセーは優しく語り掛けた。

 

 

 

「ああ、分かってる。それを責めやしないさ。でも、これからは違うだろう?」

「…ぼ、僕じゃ、ご、ご迷惑をかけるだけです…。引きこもりだし、人見知り激しいし…。神器はまともに使えないし…」

 

 

俺はギャスパーの顔を押えると、両眼を覗き込む。ここに神器が宿っているのか。時間を停止する能力。

 

 

 

「俺はお前の事を嫌わないぞ。お前は俺の後輩で、悪魔の先輩で、大事な仲間だからな」

「!っ」

 

 

 ギャスパーの眼が見開かれる。

 

 

「力を貸してくれ。俺一人じゃ足りないからさ、俺と一緒にリアス先輩を支えようぜ。お前が何かを怖がるのなら、俺が一緒に吹っ飛ばしてやるさ。なんたって最強のドラゴンの力を宿してるんだからな」

 

 

 ニカッと笑って見せるが、ギャスパーは何を話していいか困っているようだ。イッセーがそんなギャスパーに提案する。

 

 

「そうだ、俺の血、飲むか?アザゼルの野郎の言ったことが真実なら、俺の血を飲めば神器を扱えるかもしれないぞ」

 

 

 しかし、ギャスパーは首を横に振る。

 

 

「怖いんです。生きた者から直接血を吸うのが。ただでさえ、自分の力が怖いのに…。これ以上何かが高まったりしたら…僕は…僕は…」

「うーん。神器に翻弄される自分が嫌か。でも俺はおまえの能力がうらやましいけどな」

「──っ」

 

 

 イッセーの一言に心底驚いた表情をギャスパーは浮かべる。その様子にイッセーもまた不思議な顔をする。

 

 

「俺、変なこと言ったか? だって、時間が停められたら最高じゃないか。俺がその神器を持っていたら、大変だったな。きっと、クラス中、いや、学校中の女子にいかがわしいことしていたに違いない。これは断言できるぜ。廊下を匍匐前進しながら女の子のパンツを覗き見していただろうなぁ。あー、その神器だったら、ぶ、部長を停めて、お、お、おっぱいを……ッ!あ、あのおっぱいを好き放題できるなんて考えただけでよだれが止まらんぞ!そうだ!あ、あ、朱乃さんのおっぱいでもいいなぁ! むしろ、パンツを覗いたっていいし!うあー、妄想が止まらん。いやまて、アルトリアが確か抵抗があるから難しいのか?いやだとしても諦めん!」

 

 

 今までの対応は何処へやら、時間停止能力を悪用する妄想に浸り出した。ひとしきり妄想した後、ハッとしてギャスパーを見る。今の言葉に引いて閉じこもってないか?しかし、ギャスパーは嬉しげな顔を浮かべていた。

 

 

「…イッセー先輩って、優しいんですね。そんな風に思われた事、一度も無かったです。具体的な例まで出して……イッセー先輩って、楽しい方なんですね」

 

 

 極上の笑みでそうイッセーに言う。

 

 

「そうか?いいか、よく聞いてくれ、ギャスパー。──俺は赤龍帝の力を部長のおっぱいに譲渡したいんだ」

 

 

 スケベな、だが真っ直ぐな想いを耳にして、ギャスパーは驚くような表情を見せるが、じんわりと瞳を潤わせる。

 

 

「……す、すごいです、イッセー先輩。強大な神器を持っていながら、そこまで卑猥に前向きに向き合えるなんて……。ぼ、僕にはとうてい及ばない思考回路ですが、なぜだか少しだけ夢と希望を感じました。イッセー先輩の煩悩って勇気に溢れていますね」

「そうだろうそうだろう!強大な神器がなんだ!ようは使いようだ! 俺は俺の性欲を満たすために神器を使うね!籠手に宿ってるドラゴンにも俺は宣言した!俺は部長の乳を吸い!そして、新たな目標としてギフトを部長の乳に譲渡する!いや、朱乃さんのおっぱいに譲渡してもいい!アルトリアも良いかもな!うはっ!夢が広がるなぁぁぁぁぁっ!」 

 

 

 立ち上がり、熱弁しだしたイッセー。余りの熱の入りぶりから、口元からよだれが垂れてしまっている。

 

 

「ぼ、僕もなんだか少しだけ勇気が湧いてきたような気がします。本当に少しだけだけど……」

「よしよし、いい子だ。ほら、俺の右手を見てくれ。俺はこの手で部長の乳を揉んだことがあるんだぞ?」

 

 

 イッセーの発言にギャスパーは驚きの眼で右手を見る。その眼は驚愕と畏れ多い気持ちに満ちていた。

 

 

「ほ、本当ですか? そ、そんな……主である上級悪魔のむ、む、胸に触れられるなんて……。イッセー先輩といると驚くことばかりです……」

「それにおっぱい譲渡の話は魔王さまのアイディアなんだ。俺は一生魔王サーゼクスさまについていこうと思ったね。あの方はスゴい!俺の引き出しを増やしてくれる!」

「お、おっぱい譲渡……『神滅具』の可能性を斜め上に向けるなんて……。や、やはり魔王さまは最強なんですね……」

 

 

 気が付くと、いつの間にかイッセーは部屋に入り、ギャスパーと話し込んでいた。

 

 

「さすがだねイッセー君。ギャスパー君とすぐに談笑できるなんてね」

 

 

 イッセーとギャスパーが打ち解け合いつつあるその場へ現れたのは祐斗だった。興味深げに部屋を覗き込みながら登場する。

 

 

「よう、木場。そうだ。ちょうど男子眷属が全員集まった所で話があるんだ」

「何だい、イッセー君」

「俺達は男だ」

「そうだね。でもそんなこと聞いて、突然どうしたの?」

 

 

 祐斗がイッセーに訊ねると彼は興奮気味に答えた。

 

 

「俺はグレモリー眷属の男子チームで行える連携を考えた」

「それは…興味がそそられるね。どういうのかな?」

「まず、俺がパワーを溜める。そして、それをギャスパーに譲渡して周囲の時を停める。その間、俺は停止した女子を触り放題だ」

「っ。…また、エッチな妄想をしていたんだね。それはそうと、それだけなら僕の役目は無いんじゃないの?」

 

 

 イッセーのプランに祐斗は軽く言葉を失っていたが…。冷静に突っ込んでいた。

 

 

「いや、ある。お前が禁手化(バランス・ブレイカー)して、俺を守れ。もしかしたら、エッチなことをしている間も敵が襲来してくるかもしれない。これは大事な連携だ。俺が溜めて、ギャスパーが停めて、俺が相手を触り、木場が俺を守る。完璧な陣形だ」

「イッセー君、僕はイッセー君の為なら何でもするけど…一度、真剣に今後の事を話そうよ。力の使い方がエッチすぎるよ。ドライグ泣くよ」

 

 

 祐斗の頭の中にはコカビエルを相手にしたとき、部長の胸への執着で異常なまでのパワーアップを果たしたときのアルトリアとドライグの悲痛な叫びが木霊していた。これを聞いているドライグもまた叫びそうだと思ってしまう。

 

 

「木場、てめぇ!そんな眼差しで俺を見るな!イケメンめ!お前はいいさ!女の子を食い放題だろうけどな!俺は食べる事すらままならないんだよ!」

「…君のことだから、気付いたら気付いたでそっちに嵌り込みそうだし、部長達も甘やかしそうだから言うのはやめておくよ…。覚えたては怖いというからね」

「よし。男同士、肚を割って話そう。第一回『女子のこんな所が好きだ選手権』!まずは俺からだな!俺は女子のおっぱいと足をみるね!」

 

 

 イッセーの発言に祐斗とギャスパーは苦笑しているが、嫌がってはいなかった。

 

 

「すみません、段ボールの中でもいいですか?…蓋は閉めないで。ただ、人と話すとき、段ボールの中が落ち着くんです」

 

 

 と、ギャスパーは申し訳なさそうに言う。無理強いしても仕方ないので了承した。いきなり外に出すのではなく徐々に慣れさせて段ボールの中から出していく方が良いだろう。

 

 

「あー、落ち着きますぅ。これですよぉ。段ボールの中だけが僕の心のオアシスなんです…」

 

 

 ダンボールに入った瞬間、ギャスパーの声が明らかにリラックスしたものになる。猫の様に狭い所が落ち着くのか。しかしこれでは段ボール外に慣れるまで人様に会わせる事が出来ない。

 

 

「そんなに人と目を合わせるのが嫌なら、これとかどうだ?」

 

 

 イッセーが部屋にあった紙袋に穴を二つ空けて、ギャスパーの頭に被せた。

 

 

「こ、これは」

 

 

 薄暗い部屋に紙袋を頭に被った女装少年。穴の空いた部分から赤い眼光がギラリと輝く。

 

 

「ど、どうですか~?似合いますか~?」

 

 

 ゾンビのようにのろのろと歩いて近づいてくるその姿は、まるでホラー映画の殺人鬼のようだ。そのハマりっぷりに二人とも恐れおののいた。

 

 

「あ、でも、これ…。いいですねぇ。僕には似合うかも…」

「ギャスパー、お前を初めて凄いって感じたよ」

「ほ、本当ですか…?これを被れば僕も吸血鬼としてのハクが付くかも…」

 

 

 どちらかというと吸血鬼からジャンルがサイコホラーよりに変化したが、ギャスパーも外に出て話せるようになったのは僥倖だ。こうして、男子だけの夜通し猥談が始まってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 次の休日、イッセーとアルトリアはとある場所へ向かっていた。二人そろって朱乃に呼び出されたのだ。本来はイッセーだけの用事らしいのだが、アルトリアにもお声が掛かった。町の外れへと向かう二人。

 目的地に着いた二人の目に映るのは、石で出来た階段と伸びた先に立った赤い鳥居。そう、目的地は神社だった。本来なら悪魔には立ち入る事の出来ない神聖な場所、しかし此処は違う。僅かに尻込みするイッセーが階段を下りてくる人に気がついた。それは見知った顔であった。

 

 

「いらっしゃい、イッセー君、アルトリアちゃん」

「あ、朱乃さん!?」

「お招きありがとうございます、アケノ」

 

 

 そこには巫女衣装を身に纏った朱乃の姿があった。石段を上る3人。先を行く朱乃は歩みを止めないまま言う。

 

 

「ゴメンなさいね、2人とも、急に呼び出してしまって」

「あ、いえ。俺もやる仕事がなくてヒマだったんで。でも、何の用でしょうか?それと、部長はあとから来るそうですけど…」

「ええ、知ってますわ。リアスは会談の件でサーゼクス様と最終的な打ち合わせをしなければいけませんから」

「朱乃さんはリアス先輩と打ち合わせに行かなくていいんですか?『女王』の力が必要なんじゃ?」

「あちらはグレイフィア殿がフォローしてくださるでしょう。それに既に会談の内容もほぼ煮詰まっています。これ以上は上級悪魔以上の領域でしょう」

「えぇ、それよりも私はこの上でお待ちしておられる方をお迎えしなければならなかったものですから」

 

 

 朱乃は石段の遥か先へ顔を向ける。鳥居が目の前に迫っている。普通の神社であれば、これを超えると悪魔はダメージを受けるので、神社へ近づけないが

 

 

「ここは大丈夫ですわ。裏で特別な約定が執り行われていて、悪魔でも入ることができます」

 

 

 言うや否や朱乃は何事もなく鳥居をくぐった。それに続き2人もも鳥居をくぐる。その先には立派な神社の本殿が建っている。古さを感じられるが、壊れている様子は一切無かった。

 

 

「朱乃さんはここに住んでいるんですか?」

 

 

 イッセーが朱乃に訊ねる。

 

 

「ええ、先代の神主が亡くなり、無人になったこの神社をリアスが私のために確保してくれたのです」

「彼らが赤龍帝と現代の騎士王ですか?」

 

 

 第三者の声に気付き、そちらへ振り向くと、そこには輝くまでに金色の羽が宙を舞っていた。端整な顔立ちの青年がこちらに視線を送っている。豪華なローブに身を包み、頭の上に金色の輪っかが漂う。青年が優し気な笑みを浮かべ、握手を求めてくる。

 

 

「初めまして。赤龍帝、兵藤一誠君。そして真なるエクスカリバーの担い手、アルトリア・ペンドラゴンさん」

 

 

 誰だこの人?疑問に感じるイッセー。すかさずアルトリアは礼を取る。その瞬間目の前で青年の背中から金色の十二枚の翼が出現した。

 

 

「私はミカエル。天使の長をしております」

 

 

 目の前の青年の正体は天使のトップ、熾天使ミカエルだった。

 

 

「これはご無礼を。魔王サーゼクス・ルシファーが食客、駒王町守護騎士アルトリア・ペンドラゴンでございます。どうぞお見知り置きを」

「リ、リアス・グレモリーの『兵士』兵藤一誠です!」

 

 

 すかさず挨拶をした後、朱乃の先導の元、イッセー達とミカエルは神社の本殿へ。白い羽と輪っかは天使の証だと以前リアスから聞いていたイッセーだったが、ミカエルの金の羽に得もしれぬ大物感を感じていた。かなり広い本殿内は大きな柱が何本も立っている。中央から、言い知れない力の波動を感じ、イッセーの肌をピリピリと刺激していた。

 

 

「お二人を呼んだのは他でもありません。一つはエクスカリバー使いである貴女の顔を拝見するため。もう一つは赤龍帝である彼にこれを授けようと思いましてね」

 

 

 ミカエルの目の前、そこから突然光が放たれる。余りの眩しさに目を一瞬瞑り、光が収まった後目を開けると、そこには聖なるオーラが滲み出ている一本の剣が浮いていた。これは、聖剣か。エクスカリバーやデュランダルに近しい力を感じる。

 

 

「これはゲオルギウス。聖ジョージと言えば伝わりやすいでしょうか?彼の持っていた龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣『アスカロン』です」

 

 

 !?アスカロン!未だ現存する聖剣の一本。その中でも龍殺しの力を宿した英雄ゲオルギウスの愛剣!それを悪魔であり、ドラゴンを宿すイッセーに渡すのか!?

 

 

「この剣は特殊儀礼を施しているので悪魔の赤龍帝でもドラゴンの力があれば扱えるはずです。貴方が持つというよりは、ブーステッド・ギアに同化させるといった感じでしょうか」

 

 

 と、ミカエルは言っている。名のある聖剣という大切な武器を渡して大丈夫なのか?それも宿敵の悪魔に渡すなんて、何か裏があるとしか考えられない。ミカエルは微笑みながら答える。

 

 

「私は今度の会談、三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思っているのですよ。すでに知っているそうですから話しますが、我らが創造主。神は先の戦争でお亡くなりになりました。敵対していた旧魔王達も戦死。堕天使の幹部たちは沈黙。アザゼルも戦争を起こしたくないと建前上は口にしてます。これは好機なのですよ。無駄な争いを無くすためのチャンスなのです。このまま小規模な争いが断続的に続けば、いずれ三大勢力は滅ぶ。そうでなくても、横合いから他の勢力が攻め込んでくるかもしれません。その聖剣は私から悪魔サイドへのプレゼントです。もちろん、堕天使側にも贈り物をしましたし、悪魔側からも噂の聖魔剣を数本いただきました。こちらとしても有難い限りなのですよ」

 

 

 ミカエルは悪魔と堕天使と和平をしたいという事か?その真意までは読めないが、少なくとも今は和平したいという事だろうか。

 

 

「過去、我々と敵対した『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』が悪魔になったことを知りましてね。ごあいさつと共に悪魔側へ私達の誠意を示すために、プレゼントの一つとして赤龍帝にその剣をお渡しします。貴方はこれから龍王クラスや『白い龍(バニシング・ドラゴン)』に狙われるでしょう。噂の騎士王の末裔たる彼女とエクスカリバーが側にあるとは限らない。『歴代の中でも最も宿主が弱い』と噂の貴方にとって補助武器となるのではないかと思いましてね」

 

 

 自分は兎も角、イッセーにも噂が立っているとは。然も『歴代の中でも最も宿主が弱い』とは……中々に不名誉な称号だ。思わず憐みの眼を向けてしまう。

 

 

「俺でいいんですか?てか、何故俺に?」

「一度だけ三大勢力が手を取り合ったのです。それは赤と白の龍と戦った時です。我々の戦争に乱入してきた二匹のドラゴンは戦場を乱してくれましたからね。あの時のように再び手を取り合う事を願って、あなたに、赤龍帝に願をかけたのですよ。日本的でしょう?」

 

 

 何処か皮肉に聞こえるが、天使のトップが満面の笑みで言うのだから、外交的にも信じるしかないだろう。イッセーが聖剣に身体を向ける。だが、まだ迷いがあるようでなかなか手を出さない。当然だろう、龍殺しの聖剣などイッセーには二重で特効が効く代物だ。そんなイッセーに朱乃が言う。

 

 

「その剣は神社で最終調整をしました。魔王様、アザゼル様、ミカエル様の各陣営の術式を施していますので、悪魔でもドラゴンの力を宿していても触れられますわ」

 

 

 朱乃のその話で勇気が出たのか。イッセーが宙に漂う聖剣を恐る恐る左手に取った。すると、イッセーの左手に『赤龍帝の籠手』が出現する。イッセーが力を籠めるのと同時に聖剣のオーラが籠手に流れ込んでいく、次の瞬間

 

 

 カッ!

 

 

 赤い閃光を走らせると、イッセーの左腕に甲の先端から刃を生やした籠手が存在していた。

 

 

「…マジで合体しやがった」

「これで貴方も聖剣使いですね、イッセー。よければ私から聖剣の扱い方についてレクチャーしましょうか?」

「あぁ、また特訓の時に頼むわ」

 

 

 無事合体出来た事を確認するとミカエルがアルトリアに向く。

 

 

「アルトリアさん。貴女はまだこちらを警戒しているご様子ですね」

「ご無礼を」

「安心してください。カレトヴルッフの件を追求するつもりはありません。確かに真なるエクスカリバーを頂けなかった事は残念ですが、貴女やかの騎士王ほどの使い手はあの当時居なかった。恐らく使いこなせず、戦争の結果も変わらなかったでしょう」

 

 

 ミカエルの目に憂いが浮かぶ。確かに資格無いものがエクスカリバーを振るったとて、さほど威力が出るわけでもない。それでも、少しでも多くの犠牲者を減らせただろうか、そんな考えがミカエルの頭の中には確かにあった。

 

 

「それにカレトヴルッフもまた打ち直した後は、多くの戦士達の支えとなりました。感謝こそすれ、恨む道理はありません」

「ミカエル殿のお慈悲に感謝申し上げます」

「と、時間です。そろそろ私は行かねばなりません」

 

 

 もう帰るのか。天使に会ったら言いたいことが色々あるイッセーが呼び止める。

 

 

「あの、貴方に聞きたいことがあるのですが」

「会談の席か、会談後に聞きましょう。必ず聞きます、ご安心を。それでは」

 

 

 そう言うと、ミカエルの全身を光が包み込み、一瞬の閃光のあと、この場から消え去った。後には不思議な静寂が残る。その後3人は母屋の客間へと移動する。

 

 

「失礼、御手洗はどちらに」

「左手の奥ですわ」

 

 

 アルトリアは一旦その場を後にする。この場は2人きりにしてあげよう。催してしまったのは事実だが、何やら朱乃がイッセーを見て話したげだったのを彼女は感じたからだ。

 

 朱乃に教えられた場所に向かう途中、アルトリアはリアスから聞いた朱乃の出生の秘密を思い出していた。彼女は人間と堕天使のハーフだったという。

 この国でも有数の実力をもつ術士集団の一族である朱乃の母は、ある日負傷した堕天使の幹部たるバラキエルと出会った。2人は看病の中で惹かれ合い、遂には子を宿すまでになった。しかし半ば駆け落ちで結ばれた2人を『姫島』の本家は許さず、バラキエルが留守の間に……

 

 

「アケノは己の堕天使の血を憎んでいる。だからこそイッセーに受け入れて貰えるか悩んでいるのでしょう」

『君の予想はどうだい、アルトリア。私から見て、彼はそういう事はあまり気にしないと思うがね』

「同感です。イッセーは血で人を差別するような男ではありません』

 

 

 その優しさに救われたアルトリアは確証を持っていた。きっとイッセーなら朱乃を受け入れる。例え堕天使の娘だとしても、彼にとって『姫島朱乃』は『姫島朱乃』だ。何の問題も無いだろう。

 問題はその後だ。朱乃はこれまで何度かイッセーにちょっかいを掛けてきた。リアスを揶揄うのが目的だったが、それがもし本気になったら……

 

 

『事に及ぶかもねぇ』

「暢気なことを言っている場合ですか!リアスもじきに来ます。そんな中で2人に会ったら!」

『間違いなく刃傷沙汰になるね。いやぁ、そういうのは趣味じゃないからね。万が一はまた止めに入らなくてはね』

 

 

 何処か暢気な様子のエムリスを叱りつつ、足早に客間に向かう。その時、丁度リアスと鉢合わせた。

 

 

「あら、アルトリア。ミカエルはもう帰ったかしら?」

「え、えぇ。既にアスカロンも受領しています」

「?そう。ならイッセーと朱乃は何処に「ねぇ、イッセーくん。『朱乃』って呼んでくれる?」!?」

 

 

 客間側から聞こえる朱乃の声。すかさずリアスは聞き耳を立てた。

 

 

「あ、朱乃……」

「うれしい、イッセー……」

 

 

 中で感極まる朱乃の声が聞こえる。ま、まさかイッセー!?

 

 

「うふふ、リアスの特権、ひとつ奪ってしまったわ。なんだか、いけないことをしている気分。イッセーくん、気持ちいい?」

「は、はい!最高です!」

「(き、気持ち良い!?)」

 

 

 まさか既に事に及んでしまったのか、そう思いリアスを見やると

 

 

「………!!」

 

 

 案の定怒りで魔力を昂らせているリアスがいた。マズイと思いエムリスを握りしめる。

 

 

「えっと、どうしたものだか……。この場面、部長に見られたら──」「部長が……何かしら?ねぇ、イッセー?」

 

 

 我慢できなくなったリアスが障子を開け放ち、本殿に乗り込む。そこには膝枕をするイッセーと朱乃の姿があった。良かった、最悪の事態になりそうには無い。但し朱乃は巫女服をはだけさせ、100cm超えの爆乳がまろび出ているが。

 

 

「ぶ、ぶ、ぶぶぶぶぶ、部長っ!? こ、これはその!」

 

 

 イッセーを前にして、リアスは大きく息を吐き、自分を落ち着かせる。

 

 

「油断も隙もないわ……。私以外の膝で膝枕だなんて……ッ!」

 

 

 爆発的な怒りは抑え込んだが、それでも怒りは収まらず、ズンズンと進みイッセーの頬を抓る。

 

 

「例の剣は?」

「も、もらいました!」

「ミカエルは?」

「か、帰りました!」

「なら、ここにもう用はないわ!帰るわよ!」

 

 

 そう言いながらリアスは足早に本殿出口へ向かう。全く人騒がせな……

 

 

「一番候補のリアス部長とアルトリアちゃんがうらやましい限りですわ」

「思ってもない事を言わないで下さい……」

「あら、本心ですわよ」

 

 

 そう言う朱乃だが、彼女の事だ。寧ろ一番ではない状況を楽しんでいるに違いない。そう思いながらアルトリアはイッセーとリアスを追いかけた。リアスの足取りは早く、まるで一刻も早くこの場から立ち去りたいと言わんばかりだ。階段を下りたのち、突然リアスが立ち止まる。

 

 

「……ねぇ、イッセー」

「は、はい」

「朱乃は……朱乃なのね」

「はい?」

「朱乃は副部長。けれど、『朱乃』なのね……。……私は?」

 

 

 イッセーは一瞬答えに迷った後に口を開いた。

 

 

「リアス部長ですが、何か?」 

 

 

 その答えにリアスは肩を落とし、息を吐く。まるで分かってたと言わんばかりに。

 

 

「…………そうね。私は部長だわ。──でも、『リアス』なの」

「はい、部長は俺の主で上級悪魔リアス・グレモリー様です」

 

 

 それは主従としては完璧な受け答えだった。だが、それはリアスの望んでいたものでは無かった。幼馴染であるアルトリアと共に朱乃から一番候補と言われたリアスだが、到底そんなものでは無いと深い哀しみに包まれる。

 

 

……何が『一番候補』よ……。私だけ遠いじゃないの……っ!

 

 

 小さな声。リアスの複雑な恋心の発露はイッセーに聞こえる事なく、風に乗って消えていった。




 ヒュオォォ…………

 駒王町のビジネス街、街を見下ろす高層ビルの工事現場に3人の人影がある。『神の子を見張る者』の総督アザゼル、『白龍皇』ヴァーリ、『奈落の魔竜』ロウィーナ。彼らは明日の会談を前に夜の散歩に出ていた。


「アザゼル、明日の会談に俺も出席しなければダメか?」
「当然だ、ヴァーリ。おまえは白龍皇だからな。ロウィーナ、お前もだぞ」
「面倒だな。私には特に語る事などないのだがな」
「ダメだ。お前達は白い龍の関係者だ。悪魔側も赤い龍の2人が来るんだぞ?」


 相変わらずの2人にアザゼルはやれやれといった様子だ。この2人は良く似ている。正確にはヴァーリにロウィーナが似たのだが。


「……なあ、アザゼル。もう、戦争は起こらないのかな?」
「ただ戦いを求める。典型的なドラゴンに憑かれた者だな、おまえは。長生きできないタイプだ」
「いいさ。長生きなんて興味ない。ただ、俺はこの時代に生まれたことを残念に思うよ。神がいない世界。──俺は神を倒してみたかった」


 その眼にはうっすらと虚無の色があった。彼の眼にはいつか来る二天龍の決着を始めとした戦いの光景しかなかった。


「白龍皇らしい限りだ。で、強い奴を全部倒したあと、おまえはどうするんだ?」
「──死ぬよ。そんなつまらない世界に興味ないんだ」
「ならその時は私が殺そう。安心しろ、一緒に虚無に堕ちてやる」
「フッ。なら他の奴らに殺されてくれるなよ、ロウィーナ」
「無論だ、ヴァーリ。私を殺せるのはお前か、或いは……」
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