赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 ドーモ、ファブニルです。明けましておめでとうございます!本年も『赤龍帝と騎士王の現し身』をよろしくお願いいたします。

 今年最初の投稿、そして第五章、特訓編となります。前回申し上げた通りここから原作と違う展開を加えていこうと思います。皆さまの機体に答えられるように努めて参ります。

 よろしければ今回もお気に入り登録や高評価、感想をお願いします。

 それでは第四十一話、どうぞ!


冥界合宿のヘルキャット/ラグナロク
いざ、冥界へ


 駒王学園は夏休みに突入した。ある者は長期休みに羽を伸ばし、ある者はそんな者を横目に宿題の計画を立て、ある者は大人の階段を登る。

 

 

「まぁ私は相も変わらずパトロールですが」

 

 

 空が白み出す頃、兵藤家への道のりを歩きながらアルトリア・ペンドラゴンは独りごちた。この街は変わった、今までは悪魔の支配地域としてリアス、ソーナ、アルトリアの3人が中心となって裏の治安を司っていたが、此処に天使と堕天使も加わった。

 まだ正式に赴任している訳ではないが、今後は人員が派遣されるだろう。

 

 

「しかしまさかメタトロン殿が居たとは、この街で忍者にでもあったのでしょ、う、か………え?」

 

 

 言葉を失った。目の前に六階建ての豪邸が出現していた。おかしい。家を出る前は此処にごく普通の二階建て一軒家が建っていた。こんな高層建築物は無かった筈だ。

 

 

「!!まさか!」

 

 

 表札を確認する。間違いなく『兵藤』だ。スマホアプリから地図を確認する。住所に間違いはない。という事はこの豪邸は兵藤家という事だ。確かに改築するとは聞いていた。だがこんな速く、こんな豪邸が出来るとは思わなかった。

 

 急いで家に駆け込む。咄嗟に鍵を出そうとしたが、ドアが自動で開く。魔術的なものだ。特定の魔力に反応して開く仕組みが使われている。家に入ってすぐに現れたのは豪華なエントランスホール。華美にならない程度のシャンデリア、厚手の絨毯、格式高い装飾。それはまるで名門貴族の邸宅のようだ。

 

 

「ど、どういう事ですか……」

 

 

 

 

「いやー、リフォームしたんだよ。父さんも朝起きてビックリだ。寝ている間に家ってリフォーム出来るんだな」

 

 

 朝食の席。以前の五倍は広くなった食卓で兵藤五郎が満面の笑みを浮かべながらそう言った。食卓にはイッセー、彼の両親、リアス、アーシア、朱乃、小猫、ゼノヴィア、そしてアルトリアと新しい家族も含めて全員集合していた。

 

 

「どういう事だよこれ?」

 

 

 イッセーの質問に、同じく五倍以上広くなったキッチンから三希が朝食の味噌汁を運びながら答える。

 

 

「リアスさんのお父様がね、建築関連のお仕事もされているそうで、モデルハウスの一環でここを無料でリフォームしてくれるっておっしゃったのよ。なんと地上六階地下三階!」

 

 

 上だけでなく下にも伸びていた。いやモデルハウスだとしても一晩でこんな豪邸は建たないだろう。これは二人が抜けているのだろうか?それとも、魔法でそう思わされてるだけか?だがやったのがリアスの父、ジオティクス卿だというならリアスの反応も分かる。イッセーの隣の席のリアスが平然と黙々とご飯を食べているのも全部知っているからだろう。

 しかしこれはリフォームの域を超えている。原型何処にもないし、敷地面積が縦横に倍以上に広がっている。周りの家の人たちはどうなったのだろうか。

 

 

「そういえば、お隣の鈴木さんや田村さんは引っ越ししたそうだ。なんでも急に好条件の土地が入手出来たって話だ、そっちに移り住んだそうだぞ」

 

 

 絶対にグレモリー家に買収されている。これが悪魔の交渉術か、流石は取引と契約の種族だ……とアルトリアは戦慄を覚えた。すると三希が家の図面を持ってくる。それは新・兵藤家の見取り図だった。

 

 

「一階は客間とリビング、キッチン、和室。二階はイッセーとリアスさんとアーシアちゃんとアルトリアちゃんのお部屋ね。三方からイッセーの部屋が挟まれる形よ。お隣同士で部屋内を行き来できる作りの様よ」

 

 

 いつの間にか自分の部屋割りが決まっている事に静かに驚くが、イッセーと同じ階に居られることは嬉しかった。これでいつでも彼を護れる、『禍の団』から、同居人たちの手から。

 

 

「三階は私と父さんの部屋と、書斎、物置など。四階は朱乃さんとゼノヴィアちゃんと小猫ちゃんの部屋があるわよ。五階と六階は全体的に空き部屋ばかりね。今のところはゲストルームとするつもりよ。リアスさんに聞いたら、二階以外はどうしてくれても構わないと言うものですから」

「はい。ここはお父様とお母さまの御家ですもの。私やアーシア達はあくまでホームステイの身の上ですわ」

 

 

 気品溢れる言動でリアスが返す。

 

 

「屋上には空中庭園もあるんだ。父さん、野菜作るぞ~」

 

 

 目を輝かせながら五郎が言う。完全にリフォームの喜びに浮かれている。だがこれは劇的ビフォーアフターどころではないだろう。

 

 

「頑丈に建ててありますので、戦争になっても崩れませんわ」

「ハハハハ、リアスさんは冗談がお上手だなぁ」

 

 

 というリアスと五郎の会話。だがこれは冗談ではない。この邸宅を軽く探索してみたが、あちこちにトラップが仕込まれている。物理的魔術的にも要塞に等しいが、有事の際は前線基地にでもする気だろうか?あり得る話だ。

 

 

「地下一階は広いスペースのお部屋。トレーニングルームにもできるし、映画観賞会もできますし大浴場も設備してます。地下二階は丸々室内プールです。温水も可能ですわ。地下三階は書庫と倉庫です」

 

 

 リアスが追加の図面を取り出しながら説明する。これではもはやリゾートホテルと変わらない。幾ら騎士王の血を継ぎ、冥界の貴族位を持っていたとしても、日本で育ったアルトリアにはその豪華さに驚く事しかなかった。

 

 

「エレベーターもありますので、地上六階から地下三階までスムーズに乗り降りできます」

 

 

 エレベーター付きとは至れり尽くせりである。もはや兵藤家ではなく兵藤邸と呼んだ方が良いかもしれない。しかしこれだけの広さがあれば一室を工房として使う事も可能かもしれない。

 

 

 

 

 

「冥界に帰る!?」

 

 

 朝食が終わり、自室でまったりしていたイッセーにリアスが頷く。今イッセーの部屋には新たに加わったアルトリア、同居していない祐斗やギャスパーを含めたオカルト研究部のメンバー全員集合していた。同居のメンバーは皆、ラフな格好をしている。祐斗とギャスパーもまた普段着だが、ギャスパーの服装は女物だった。徹底されている。

 これだけの人数がいても、部屋には余裕のスペースがあった。リフォーム前の時点で揃った際にはゼノヴィアとギャスパーが居ない状態でもベッドに座るなどギチギチだったが、今は皆高級ソファーに座り込んでいた。ギャスパーのみ段ボールの中に座り込んでいたが。

 

 

「夏休みだし、故郷へ帰るの。毎年のことなのよ。って、どうしたの、イッセー。涙目よ?」

 

 

 リアスの言葉にイッセーは涙を流していた。

 

 

「うぅ、部長が冥界に帰ると突然言い出したから、俺を置いて帰っちゃうのかと思いましたよぉ…」

「まったくそんなことあるわけ無いでしょう?貴方と私はこれから百年、千年単位で付き合うのだから、安心なさい。貴方を置いてなんかいかないわ」

 

 

 と、リアスはイッセーの頬をさすりながら苦笑する。そうだ、イッセーたちは悪魔だ。悪魔の寿命は千年とも万年とも言われている。彼らはこれからも共に生きていくだろう。

 だが、アルトリアは人間だ。いくら悪魔の地位を持っても悪魔を上回る力を持っていても寿命だけはどうにもならない。その事実がアルトリアの心に靄をかける。

 

 

「そういうわけでもうすぐここに居る皆で冥界に行くわ。長期旅行の準備をしておいてちょうだいね」

 

 

 リアスはそう言うと紅茶を優雅に飲んでいた。

 

 

「え!?俺たちも冥界ですか!?」

「そうよ。貴方たちは私の眷属で下僕の悪魔なのだから、主に同伴は当然。一緒に私の故郷に行くの。そういえば貴方たちは冥界に行くのは初めてだったわね」

「は、はい!生きているのに冥府に行くなんて緊張します!し、死んだつもりで行きたいと思います!」

 

 

 アーシアはよく分からない決心を固めていた。

 

 

「うん。冥界、地獄には前々から興味あったんだ。でも、私は天国に行くため、主に仕えていたわけなのだけれど…。悪魔になった以上天国に行けるはずもなく…。天罰として地獄に送った者達と同じ世界に足を踏み入れるとは、皮肉を感じるよ。ふふふふ、地獄か。悪魔になった元信者にはお似合いだね」

 

 

 今度はゼノヴィアが何やら自虐気味な皮肉を口にしている。

 

 

「八月の二十日過ぎまで残りの夏休みをあちらで過ごすわ。こちらに帰ってくるのは八月の終わりになりそうね。それまでの間に修行やそれらの諸々の行事を冥界で行うから、そのつもりでね」

 

 

 リアスはそういって夏のスケジュールを申し渡した。冥界か、あの世界は文字通り地上とは『世界』が違う。生態系、文明、自然現象、何もかもがイッセーには新鮮に映るだろう。

 

 

「あー、でも、俺、夏休みやりたいことあったんですけどねぇ」

 

 

 イッセーがポツリとそう漏らした。なにか予定があったのだろうか?

 

 

「あら、イッセー。どこか行く予定でもあったの?」

「はい。海やプールに行こうかなーって」

「海は冥界に無いけれど、大きな湖ならあるわ。プールだって、この家や私の実家にもあるのよ?温泉もあるし、それではダメなの?」

 

 

 確かに泳ぐのが目的ならそれでもいいだろう。だがイッセーの真の目的はナンパやひと夏のアバンチュールだろう。恐らく三人組で海に繰り出し、ビキニウォッチングやら覗きやら考えていたに違いない。若しくはオカ研メンバー相手に男子の考える夏のハプニングでも期待していたのだろうか。

 

 

「…いやらしい妄想禁止」

 

 

 案の定やらしいほどに顔に出ていたイッセーが小猫に半眼で突っ込まれた。が、突っ込んだ後、小猫は深いため息をついて、何やら遠い目をしていた。何か様子がおかしい。何か悩みを抱えているのだろうか?

 

 

「イッセー君、想像以上にスケベな顔だったよ」

「外だったら通報されていますよ」

「先輩は想像が豊かで楽しそうです…うらやましいなぁ…」

 

 

 祐斗が爽やかに言い、アルトリアは冷静に指摘し、ギャスパーは心底羨ましそうに呟いた。

 

 

「お前らはこの夏は女の子とデートしないのかよ?」

「僕は修行があるからね」

「僕はいいです。…ひ、引きこもり何で、インドア派だし、お家でネットしながらかわいい服をきられればいいんで…」

 

 

 祐斗は相変わらずストイック、ギャスパーはいつも通りの引きこもりだ。だがヴァンパイアにとって夏の日差し照りつける水場など死地に等しいだろう。

 

 

「じゃあ、イッセー。冥界で私とデートしましよう。デートをするだけの時間があればいいのだけれど…」

 

 

 リアスの提案にイッセーはボロボロと泣いた。

 

 

「部長ォォォォッ!行きます!全力で付いていきます!」

「あらあら。でしたら、私はイッセーくんとお部屋で過ごしますわ。部長にも出来ないようなエッチなことでもしながら」

 

 

 そういうと朱乃は自分の胸を艶かしくなぞる。その色気にイッセーは再び鼻血を出した。そのままリアスと朱乃で取り合いが発生する。全く最近ずっとこうだ。朱乃が神社の一件で本気になったらしく、揶揄い目的のスキンシップではなくなってきている。………ん?この感じは

 

 

「俺も冥界に行くぜ」

『ッ!?』

 

 

 いつの間にか、席の一角に黒髪男性が座っていた。先日オカルト研究部の顧問となった堕天使総督アザゼルことアザゼル先生だ。全員が彼の突然の登場に面を食らっていた。

 彼は悪魔と敵対していた堕天使の総督で、先日の悪魔、天使、堕天使の和平会談に出席し、その後駒王学園に残り、教師を始めた。しかもオカルト研究部の顧問にもなってる。奇特だが優秀な男だ。しかし今、何処から入ってきた?アルトリアは直前に気配を感じることが出来たが、恐らく隠形をわざと緩めたのだろう。

 

 

「ど、どこから入ってきたの?」

 

 

 リアスが目をパチクリさせながら先生に訊く。

 

 

「うん?普通に玄関からだぜ?」

 

 

 と、平然とアザゼルは答える。確かに魔法陣が展開された痕跡はない。だがだとしてもこの邸宅のセキュリティに引っかからないとは恐ろしい技術だ。

 

 

「…気配すら感じませんでした」

「そりゃ修行不足だな。俺は普通に来ただけだ。セキュリティをちょちょいと避けながらな?もっと強化した方がいいぜ?それより冥界に帰るんだろう?なら、俺も行く。俺はお前らの『先生』だからな」

 

 

 そうこの人は学校だけでなく戦闘面でも「先生」役を引き受けた。豊富な神器の知識と経験から、今後の戦闘スタイルまで教えるとのことだ。まだ教えを受けて間もないが、イッセー達神器所有者は何かを掴んでいる様子だった。この人は力の使い方や導き方、教え方がうまかった。研究職として高い実力を持つからか人に説明するのが達者だった。彼は懐からメモ帳を取り出すと開きながら読み上げる。

 

 

「冥界でのスケジュールは…リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、例の新鋭若手悪魔達の会合。それとあっちでお前らの修行だ。俺は主に修行に付き合うわけだがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクス達と会合か。ったく、面倒くさいもんだ」

 

 

 ため息を吐く先生。面倒そうな姿を隠そうとしない。組織のトップがそれはどうなんだと思うが、これでも堕天使からの支持は高い。時々名も知らない堕天使が

 

 

「秘書にしてください!」

「人間界にいる間、身の回りの世話を!」

「身辺警備は絶対に必要です!」

 

 

と訪問してくることがあった。皆アザゼルを心配してきているらしく、中にはかつて戦ったフレギアス並の上位堕天使もいた。それら全てをあしらい「いいから帰れ。命令だ」の一言で送り返している。

 しかしそれだけのカリスマと実力を持った男が協力してくれているというのは心強い。彼は神器持ちだけでなくオカルト研究部全員を強くするといった。彼の力を借り、今度こそロウィーナ・ヴォーティガーンを倒さなくては。

 

 

「ではアザゼル、先生はあちらまでは同行するのね?行きの予約はこちらでしておいていいのかしら?」

 

 

 リアスの問いに先生は頷く。

 

 

「ああ、宜しく頼む。悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだ。楽しみだぜ。いつものは堕天使のルートだからな」

 

 

 堕天使のルートか、どんなルートなのだろうか。此方も毎年魔法陣か悪魔側のルートで冥界に向かっているので、そちらも気になる。

 そんな考えをしつつ、アルトリアは荷物の準備に取り掛かるかと考えるのだった。

 

 

 

 

 旅立ちの日。オカルト研究部のメンバーは最寄りの駅にやってきていた。皆服装は駒王学園の制服姿。学生にとって正装といえば制服姿だろう。

 イッセー達新規の眷属は冥界に行くのに駅に用事があるのか?と疑問を顔に出しながらリアスについて行く。リアスはツカツカと迷いなく駅に設置されているエレベーターの方へ向かう。

 

 

「じゃあ、まずはイッセーとアーシアとゼノヴィア来てちょうだい。先に降りるわ」

「降りる?」

 

 

 先に乗ったリアスの言葉を怪訝に思うイッセー。なぜなら、この駅に地下はないからだ。そう人間世界の基準では。

 

 

「ほら、目をパチクリしてないで入りなさい」

 

 

 リアスは苦笑しながら手招きする。イッセー達新人悪魔組はお互い顔を見合わせながらもリアスに応じた。

 

 

 

「慣れてる祐斗達は後から来てちょうだいね」

「はい、部長」

 

 

 と、祐斗がリアスに言うとエレベーターの扉は閉まる。そのままエレベーターは下へと降りていった。

 

 

「イッセーも思いもよらなかったでしょうね。まさかこの駅の地下に秘密の階層があるとは」

「そうだね。此処は数少ない冥界と人間界が繋がる場所。だからこそ領地として此処を確保している訳だけど」

 

 

 普通の悪魔が魔法陣で地上に出るには、転移に関するかなりの量の手続きが必要になる。だからこそ、この様なルートはあまり面倒な手続きをせずに通れる一般的ルートとなっている。因みにサーゼクスを始めとした貴族以上の悪魔達はある程度手続きが省略されるらしい。

 

 このような悪魔専用の地域がこの街にはかなり隠れているのだが、そんな事を考えている内にリフトがやってきた。朱乃が懐から取り出したカードを翳すと、エレベーターが下へ下へと降りて行く。少しするとエレベーターが止まり、外へ出るとそこには広大な人工的な空間が広がっている。その造りは駅のホームに似ていた。

 

 

 

「全員揃ったところで、三番ホームまで歩くわよ」

 

 

 リアスと朱乃の先導の元、一行は歩き出した。しかし、広い改めて見る空間だ。普段使っている地上の駅の数倍も規模がある。高身長の悪魔のために天井も高く作られている。これだけの広さにも関わらず気配が見られないのは、やはり地上に行く悪魔の数が少ないからだろう。空間を照らす壁の灯りは魔力的な怪しい輝きを放っている。

 

 通路を進んでいくと、目の前に列車らしきものが現れた。新幹線も特急列車とも違う、鋭角な独特のフォルムを持ち、側面にはグレモリーとルシファーの紋様が多く刻まれている。

 

 

「これって……」

「グレモリー家所有の列車よ」

「ほう、こいつがねぇ」

 

 

 リアスが堂々と答える。流石は魔王を輩出した七十二柱の悪魔、8両編成の列車丸々を保有しているとは。聞いた話では、これは人間世界の列車を基に開発されたもので、嘘かホントか変形するらしい。アザゼルがニヤリと笑った。何か擽られるものがあるのだろうか。

 

 

 プシュー

 

 

 イッセー達が驚いている間にも列車の自動ドアが開く。リアス先導の元、オカルト研究部は列車の中へと足を踏み入れたのだった。外装と同じく内装も格調高いものとなっており、人間界の観光特急を凌ぐ豪華さを誇っている。

 

 

 リィィィィィィイイイイィィン

 

 

 発車の汽笛が鳴らされ、列車は動き出す。イッセー達は列車の中央に座ることになった。リアスは列車の一番前の車両で、眷属や客人は中央からうしろの車両になるそうだ。貴族の車両だからが細かいしきたりがあるのだろう。

 車両のコの字型ソファーの一つにイッセー、朱乃、アーシア、ゼノヴィアが座り、もう一つのソファーに小猫、ギャスパーが座る。祐斗とアルトリアは壁側にあるカウンターチェアに座り、更に端っこの座席でアザゼルが既に眠っていた。

 

 

「どのくらいで着くんですか?」

 

 

 イッセーが朱乃さんに訊く。

 

 

「一時間程で着きますわ。この列車は次元の壁を正式な方法で通過して冥界にたどり着けるようになってますから」

「魔法陣でジャンプして冥界入りだとてっきり思ってました」

「通常はそれでもいいのですけれど、魔法陣での転移には様々な手続きが居るんです。それにイッセー君達新眷属の悪魔は正式なルートで一度入国しないと違法入国として罰せられるのです。だから、イッセー君達はちゃんと正式な入国手続きを済ませないといけませんわ」

「い、違法入国ですか……具体的にはどんな罰が?」

「そうですわね。冥界下りには激しい罰が付き物ですけど……部長の眷属で赤龍帝の貴方を牢に閉じ込めることはないでしょうね。でも、こうして女性の身体に触れることは禁じられてしまうかもしれませんわね♪」

 

 

 すると、朱乃がイッセーの手を取り自身の体に誘導する。なるほどそれは牢に閉じ込められるより辛いだろう。まぁ、その辺りはしっかりと裁かれるだろう。ふと、いつもならこの辺りで乳繰り合うイッセーに小猫からの鋭い突っ込みが来るはずだが…。

 視線をそちらへ送ってみれば、窓の方を見ている小猫の姿。そういえば最近ぼんやりしたり、考え込む事が多い気がする。何かあったのだろうか?

 

 

「まったく、油断も隙も無いわね朱乃。だいたい、主と下僕のスキンシップはごく自然なことよ」

 

 

 怒気を含んだ声が響く。声の方を向けば、紅いオーラを全身から放っているリアスの姿が。大分怒っているようだ。

 

 

「主から奪うっていうのも燃えますわね」

 

 

 挑戦的な視線で朱乃はリアスへ微笑む。今日もバチバチで見ていて飽きない。

 

 

「あ、朱乃、いい加減に」

「リアス姫。下僕とのコミュニケーションもよろしいですが、例の手続きはよろしいですかな?」

 

 

 リアスの怒りの声を遮って、第三者がひょっこりと現れた。

 

 

「ゴ、ゴメンなさい…」

「ホッホッホッ。あの小さな姫が男女の話とは。長生きはするものですな」

 

 

 車掌服を着た初老の男性の楽しそうな笑いにリアスは顔を真っ赤にしていた。彼は帽子を取ると、イッセー達に頭を下げる。

 

 

「初めまして、姫の新たな眷属悪魔の皆さん。私はこのグレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 丁寧な挨拶にイッセー達も立ち上がり、一礼した。

 

 

「こ、こちらこそ、初めまして!部長、リアス・グレモリー様の『兵士』、兵藤一誠です!宜しくお願いします!」

「アーシア・アルジェントです!『僧侶』です!よろしくお願いします!」

「ゼノヴィアです。『騎士』、今後もどうぞお願いします」

 

 

 新人悪魔全員が挨拶した。全員が挨拶を済ませると満足気なレイナルドは腰から機器を取り出し、モニターらしきものでイッセー達を捉える。

 

 

「あ、あの…?」

 

 

 反応に困るイッセー達だが、これは冥界入りの為の正式な手続きだ。

 

 

「これは貴方方を確認、照合する悪魔世界の機械です。この列車は正式に冥界へ入国する重要かつ厳重を要する移動手段です。もし、偽りがあった場合、大変なことになりますもので。今のご時世、列車を占拠されたら大変なのです」

「貴方達の登録は駒を与え、転生した時冥界にデータとして記載されたわ。だからそれをその機械で照合させるのよ。アザゼルに関しては事前にデータを送っておいたは問題ないわ。皆、本物だから」

 

 

 ゼノヴィア、アーシアと続いて、最後にイッセーの前にレイナルドが来る。額に機器を翳すと「ピコーン」と軽快な音が鳴り、三人の照合はパスされた。

 

 

「姫、これで照合と同時にニューフェイスの皆さんの入国手続きも済みました。あとは到着予定駅までゆるりとお休みできますぞ。寝台車両やお食事を取れるところもありますので目的地までご利用ください」

 

 

 レイナルドはニッコリと微笑む。

 

 

「ありがとう、レイナルド。あとはアザゼルかしら?」

 

 

 リアスがアザゼルのほうに視線を向けるが、彼はぐっすり眠りこけていた。

 

 

「…よくもまあ、ついこの間まで敵対していた種族の移動列車で眠れるものね」

 

 

 リアスはあきれ顔だったけど、少し笑ってた。

 

 

「ホッホッホッ。堕天使の総督様は平和ですな」

 

 

 レイナルドも愉快そうに笑っている。今自分を殺すメリットが無い上に自分たちはそんなことはしないと考えているからこその熟睡だろうか。本当に剛胆というか、大胆不敵だ。

 レイナルドがそのまま寝ているアザゼルの照合を行い、全員無事に入国手続きを済ませるのだった。

 

 

 

 

 発車から四十分ほど過ぎた頃、トランプなどで時間を潰していたイッセー達にアナウンスが聞こえてくる。

 

 

『間もなく次元の壁を突破します。間もなく次元の壁を突破します』

 

 

 車掌であるレイナルドの声だ。もうそろそろか。

 

 

「外を見てごらんなさい」

 

 

 と、リアスはイッセー、アーシア、ゼノヴィアに言う。本来、上級悪魔で主たるリアスは前方車両にいなければならないが一人では寂しいらしく後部車両で過ごしていた。イッセーと一緒に過ごしたかったことは目に見えているが。

 三人はリアスに言われるまま、窓に張り付いた。次の瞬間、トンネルのような暗がり一色から一変し、風景が出現する。

 

 

「山だ!木もある!ハハハハッ!すげぇ!すげぇぇぇぇっ!」

「すごい!すごいです!」

 

 

 目の前に広がる景色にイッセーとアーシアははしゃぎにはしゃいでいる。ややオーバーにも感じるが、冥界という不気味なワードから切り立った岩山や不毛の大地、マグマがあちこちから噴出するような景色を想像していたのだろう。その予想を裏切るかのように幻想的な世界が広がっていればこうなるのも頷ける。

 

 

「もう窓を開けてもいいわよ」

 

 

 リアスの許しも出て、イッセーは窓を上げた。すると、風が入り込んでくる。人間界とは違ったぬるりとした感触を持つ、独特な感覚。この冥界の空気は普通の人間には良くないだろうなと本能的に感じた。だが気温は良いものだと思う。寒くもなく、暑くもなく、過ごしやすい温度だ。

 席から改めて冥界の風景を見る。山があり、川があり、木々も生い茂り、森だって存在している。下に目を向ければ六角形の都市が連なって街を形成している。あそこで多くの悪魔たちが暮らしているのだ。

 

 

「ここはすでにグレモリー領よ」

 

 

 リアスが自慢気に口にする。

 

 

「じゃあ、今走ってるこの線路も含めて全部部長の御家の土地ですか!?」

 

 

 驚くイッセーの問いにリアスは頷いた。そう眼前に広がるこの街や山の向こうなど、広大な領地を持つのがグレモリー家だ。

 

 

「グレモリーの領土ってどれぐらいあるんですか?」

「確か、日本で言う所の本州ぐらいだったかな」

 

 

 イッセーの質問に祐斗が答えた。その答えにイッセーは自分の耳を疑った。

 

 

「ほ、本州ぅぅぅぅぅ!?」

 

 

 大声を張り上げるイッセー。

 

 

「冥界は人間界、地球と同程度の面積があるけれど、人間界ほど入口はないわ。悪魔と堕天使、それ以外の種族を含めてもそれほど多くもないし。それと海もないからさらに土地が広いのよ」

 

 

 リアスがそう説明する。実際の所、グレモリー家の領土は冥界全土に比べればちっぽけなものだ。だがそれは全体から見たものであって、貴族の中で見れば七十二柱の公爵に相応しい領地と言えるだろう。

 

 

「本州ぐらいと言ってもほとんど手付かずなのよ?ほぼ森林と山ばかりよ」

 

 

 その通り、あくまでも広さだけで開拓されているのは一部に限られる。他の貴族も同様であり、だからこそ凶暴な魔獣や圧倒的な力を持つ存在が周りに迷惑を掛けずに生きられている。イッセーはまだ解ってないようで、隣のアーシアも「?????」状態だった。ゼノヴィアに至っては考えるのを止めたのか、祐斗と冥界の刀剣について話し始めたぐらいだ。

 ふと、リアスは何かを思い出したのかポンと手を叩く。

 

 

「そうだわ。イッセー、アーシア、ゼノヴィア。あとで貴方達に領土の一部を与えるから、欲しい所を言ってちょうだいね」

「りょ、領土、もらえるんですか!?」

「貴方達は次期党首の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として領土に住むことが許されるわ。朱乃や祐斗、小猫、ギャスパーだって自分の敷地を領土内に持っているのよ」

 

 

 リアスは魔力で宙に地図を出現させるとイッセー達に広げて見せる。それはグレモリー領の地図だった。地図上のいくつかは赤く染まっている。

 

 

「赤い所は既に手が入っている土地だからダメだけれど、それ以外の所はOKよ。さあ、好きな土地を指で刺してちょうだい。貴方達にあげるわ」

 

 

 地図を見るイッセー達だがどこの領地を選べばいいか悩んでいる様子だ。

 

 

「えぇ~と、どれを選べばいいんでしょうか」

「分からん……」

 

 

 悩んでいるがアルトリアに口出しは出来ない。彼女はあくまでも食客、サーゼクスに仕えてはいるものの領地を拝領しているわけではない。報酬は金銭がメインになる為、彼女もまた領地経営という面では素人に近いのだ。

 

 

「でしたら、私たちが一緒に選んであげますわ」

 

 

 朱乃達が悩む三人に助言を入れる。領地持ちの先輩として地図内の土地をピックアップしていった。最終的に三人とも領地を選ぶことが出来、三人は晴れて領主となった。

 そうこうしている間に列車は高度を落としていく。目的地にグレモリー領の駅まではもうすぐだ。




 新年鯖はロードログレスでしたね。設定、モーション、見た目、全て素晴らしい。

 皆様の期待通り、今後の展開に活用出来そうですので、お楽しみにお待ち下さい。
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