今回はオリジナルの特訓回となります。トレーニングメニューとしては短編集などを参考にさせていただきました。次回もまたトレーニングかも?
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それでは第四十六話、どうぞ!
タンニーンに連れさられたイッセーを見送り、オカルト研究部は各々のトレーニングへと向かった。ある者はグレモリー本邸近くで、ある者は山の中や岩山へ。
そしてアルトリアはグレモリー領を離れ、悪魔の支配地域を抜けて、堕天使の支配領域へと向かった。
「着いたぜ。ここが俺たち『神の子を見張る者』の研究施設だ」
アザゼルに連れられ、やってきたのは正しく研究施設!といった外観の建物。コンクリート製でガラス張り、敷地内には謎の煙突やガスドームらしき建物などが立ち並んでいる。アザゼルの先導で中に入ると、まるで大企業の一階フロアの様な内装に驚いた。
「かなり現代的な建物ですね」
「此処は比較的新しい施設だからな。他の施設はもうちょい古かったりするところもある」
そんな説明を聞きながら渡されたカードキーを翳すとピッ、と音が鳴りゲートが開く。やはり技術を扱っているところらしく、セキュリティには気を配っているのだろう。
「改めて言うが、此処でお前にはトレーニングに並行してデータ取りを行って貰う。聖剣の出力、各形態の違い、第二段階の破壊力、そして扱うお前自身の健康状態等々な。一応この契約書にサインしてくれ」
振り返ったアザゼルから渡されたのは一枚の契約書。単なる書類ではなく、魔術的な契約がなされる様に作られている。
「本来契約は悪魔の十八番だが、此処ではまだ外には出せない研究もあるからな。お前自身は口が固いから心配は無いんだが、サインしねぇとシェムハザが煩いから「誰が煩いですか?」ゲ」
ベレー帽を被った男性が向こうから歩いてくる。銀髪おかっぱ頭に、鋭い視線を持つ如何にもな苦労性の空気。漂わせるオーラはアザゼルに継ぐものがある。
「シェムハザ、聞いてたのか」
「えぇ。噂の聖剣使いへの挨拶がてら、貴方や他のメンバーが無茶苦茶やらないか見届けに来たのですよ」
「お初にお目にかかります、シェムハザ殿。魔王サーゼクス・ルシファーが食客、アルトリア・ペンドラゴンと申します。短い間ですが、お世話になります」
「これはご丁寧に。『
契約書を読み込み、サインしたアルトリアの挨拶にシェムハザも丁寧に頭を下げる。そしてアルトリアが書いた契約書を回収した。
「確かに。では私はこれにて。アザゼル、アルマロス達には釘を刺しましたが、くれぐれも無茶はしないように」
「わぁーてるよ。ほら、嫁さんのところに早く行ってやれ」
「えぇ、では失礼します」
そう言ってシェムハザは足早にアルトリアが来た道を遡っていった。
「シェムハザ殿の奥様に何か?」
「ん?あぁ、もうすぐ子供が産まれるんだとよ。本当ならこんなとこじゃなくて側に寄り添ってやらせたいんだが、今はそうもいかないからな」
アザゼルは申し訳無さそうな顔を浮かべつつ、先へ進む。暫くして廊下の突き当たりまで行くと、何もない様に見えた壁に扉が出現する!
「ウチの奴か、さっきの契約書を書いたやつしか進めない研究エリアだ。見て驚け、これが堕天使の技術力だ!」
ごくりと生唾を飲み、一歩足を踏み入れたときだった。
「ぐわぁぁぁっ!」
「ぬぐわぁぁぁぁっ!」
突然、苦悶に満ちた悲鳴の数々がアルトリアの耳に飛びこんでくる!
「な、何事ですか……?」
いきなりの悲鳴にわけもわからずビックリしているが、通されたのは広い通路。その横のガラス張りの壁から部屋の様子がうかがえる。
「ぐおおおっ!まだまだぁぁぁっ!」
とある部屋では男性が磔にされたまま、巨大な鉄球クレーンの一撃を受けていた。
「俺をどうするつもりだ、グリゴリィ!ぶっ殺すぞぉ!」
また違う部屋では手術台に拘束された男性が怪しげな医師団に囲まれて必死に抵抗の叫びを発していた。昔兵藤家で見た特撮番組を思い出す。通路を進むたびに各部屋の様子を見かけるわけだが……
先ほどの鉄球だったり、謎の手術室だったり、他にも重りを付けたまま水中に沈められた者の部屋やドリルとノコギリが用意された手術室も見えた。こ、こんなバイオレンスな空間が堕天使の技術力なのか?
「あ、アザゼル、殿。これが堕天使の技術の粋なのですか……?」
「スゥ……すまん!此処は精神力を鍛えるトレーニングエリアだ。技術系はこの先だ」
「えぇ……」
うっかりしていたという感じでアザゼルは謝っていた。てっきり様々な機械の立ち並ぶエリアを想定していただけに面食らってしまった
「ウォォォォォッ!会長見ていて下さいィィィィィィッ!!」
何やら匙らしき叫び声が聞こえていたが、深くは考えないようにしよう。下手に見て、それをイッセー達に漏らせば契約違反で多額の賠償金を払う羽目になる。一体彼がどんな目に遭っているかは気になるが、それは試合でのお楽しみだろう。
「着いたぜ、ここがお前のトレーニングルームだ」
アザゼルに通された部屋はかなり無機質な空間だった。白い壁面の、何もない広いだけの部屋。上を見上げれば何やらコンソールを触っている人影が見える。
「まずお前にはアンチマジックを施したエネミーと戦って貰う」
「アンチマジック?」
「その名の通り、魔法や魔術に対する技術である!」
グワハハハハ!と豪快な笑い声が響き渡る。振り返るとアルトリア達が来た扉に一人の男が立っていた。鎧と兜を装着してマントを羽織り、顔には眼帯と野性的なヒゲ、そして左手に盾、右手には斧を持っている。その姿はさながらヴァイキングのようであり、兜と盾には鷹か鷲のレリーフがされていた。
「おぉ、アルマロス。紹介するぜ、コイツが噂の現代の騎士王、アルトリア・ペンドラゴンだ」
「アルトリア・ペンドラゴンです。どうか宜しくお願いします」
シェムハザの時と同様、ペコリと頭を下げるアルトリア。しかしアルマロスの反応は想像の斜め上を行っていた。
「フフフ、騎士王よ愚か也!我らグリゴリの秘密基地にノコノコと入ってくるとはな!良いだろう!我らの恐るべき科学力をその身で味わうと良い!」
まるで特撮作品の悪役の様なセリフを吐くアルマロスにアルトリアは何度目かの困惑を抱いた。
「アルマロスは日本の特撮ヒーロー、特に悪役にハマっててな。格好やキャラだけじゃなく、研究やらにもそれが反映されてるんだよ。ま、成果は折り紙付きだから安心しろ」
「グワハハハハ!先ずはこ奴らが相手だ!」
そう云いながらアルマロスが指差すと、途端に床がせり上がり、ゴーレムが出現した!茶色に表面に、ゴツゴツした見た目。その大きさはアルトリアの2倍はあり、体のあちこちに宝石らしきものが埋め込まれている。
「アレこそ我らグゥリゴリの技術力が生み出したアンチマジックゴーレム!その名を『グリゴーレム21号 』だ!」
グゥゥリゴォォォリ……!とうなり声をあげてゴーレムが起動する。その威容にアルトリアは警戒を強めた
「アルトリア、試しに応用展開で魔力斬を放ってみろ」
アルトリアはアザゼルに勧められるままに、エムリスを構える。選ぶのは大剣形態、恐らくサー・ガウェインやサー・ランスロットの力を模した形態を取り、魔力を高める。
「ハアッ!」
一閃。振るわれた剣から放たれた魔力の刃がゴーレムに突き進む。今放てる最高の一撃を放った、破壊は出来なくても傷を与えるくらいは出来るだろう。
ドガァァァン……!
着弾した瞬間、魔力が弾けて煙幕を作り出す。ゴーレムの姿を一瞬隠した煙が晴れると、そこには傷一つないゴーレムの姿があった。
「!?」
「グワッハハハハハハハ!!アンチマジックの力、畏れ入ったか!貴様の攻撃など、我がグリゴーレムの足元にも及ばんわ!」
まさか、傷一つないとは。ダメージ位は負わせられるだろう。そう思っていたアルトリアの淡い希望は容易く打ち破られた。
「このゴーレムは身体の各所の宝石で魔力を打ち消している。コイツの処理能力を超えるには第二段階に至るしかない。このゴーレムを応用展開の大剣形態だけで打ち破る、そいつがトレーニングメニューその一だ。まずは現状確認、次に行くぞ」
◆
アザゼルとアルマロスはアルトリアを連れて次なるトレーニングルームへと向かう。そこは先ほど通った精神トレーニングルーム。
「グワァァァァァッ!!」
「アバーーーッ!!」
そこでは何人もの人間が迫りくる鉄球に吹き飛ばされていた。あるものは耐えようと踏ん張り、ある者は迎え撃たんとするがクレーンでつるされた巨大鉄球は容赦なく彼らを叩きのめす。
「トレーニングメニューその二、こいつらを護れ。お前ら、ちょっとこっちにこーい」
アザゼルの呼び出しに、グリゴリ怪人や『
「こいつはアルトリア・ペンドラゴン。お前らも知っていると思うが、ロウィーナのライバルたる『現代の騎士王』だ。そして俺の教え子、言うなれば『アザゼル教室』のメンバーでもある。お前ら、毎日鉄球に吹っ飛ばされてキツいだろ?だからボーナスタイムだ」
ギギギギ……、と音を立てて鉄球が引かれる。
「これからしばらく、アルトリアがアレからお前たちを護る。アルトリア、お前は大楯形態で障壁を張り、こいつ等を護れ。無論、あの鉄球もアンチマジック仕様だ。下手な障壁はすぐに割られるぞ?」
ブゥンッ!!鈍く風を裂く音と共に鉄球が迫りくる。すかさずアルトリアは大楯形態を展開して全力の障壁を張った。さっきのグリゴーレムでアンチマジックの凄さは分かった。ならば次はそれを踏まえて障壁を張る!二重、いや三重四重に張って防ぐ!
ゴギャバリィィン!
鉄球は容赦なく障壁を破壊した。一枚、二枚、三枚と割り進め、四枚目に大きな罅を入れ、盾を押しながらようやく止まった。
「フゥ、「甘い。障壁でしっかり防げ」ッ!ハイ!」
アザゼルからの一言にアルトリアは身体を強張らせる。先程と同じならコレは初日の慣らしだ。先程がアルトリアの通常攻撃の限界なら、此方は通常防御の限界だ。この結果を踏まえて、アルトリアは自分を鍛えていく必要がある。
「第二段階まで行ければアンチマジックの鉄球クレーン程度、跳ね返すなんざ訳ねぇ。実際にキャメロットの防御は傍から見てもそれくらい凄い物だった。これまでの傾向から見るにその形態は円卓の騎士ギャラハッドの力、そして白亜城キャメロットの城壁を模した形態を到達点としている筈だ」
実際に見てきたような、いや実際に見た事があるであろうアザゼルの話には不思議な説得力があった。
その後アルトリアは基本トレーニングのためのルームまで案内された。ジムのような内装に様々なトレーニング器具が揃っていた。サウナやプロテインバーなども揃っており、どうやら『神の子を見張る者』の武闘派たちの為に造られたらしく、ジムの壁には複数の堕天使たちが並んで撮られた写真が飾られていた。アザゼル、アルマロスの他にも髭面の糸目の堕天使、女性堕天使、そしてコカビエルも映っていた。
暑苦しい周りの男たちに囲まれながらも、「しょうがないな」と苦笑を浮かべているコカビエルの姿に、彼もまた『神の子を見張る者』の仲間であった事をアルトリアは察した。
「さて、ここが最後のトレーニングエリアだ。ここでは実戦形式のトレーニングを積んでもらう」
最初のトレーニングエリアにも似た無機質な部屋。しかし違いもあった、アルトリアの身体の各所になにやらパッチが貼られていた。
「お前に付けたそのパッチを使って戦闘中の身体能力の変化や、魔力の流れを測る。それを使って間接的にではあるがエクスカリバーの性能も測るって訳だ」
「なるほど。ですがそれなら最初のエリアと何が違うのでしょうか?あちらでも出来そうな事ですが……」
「確かにそうだが、今回は先とは違う。実戦だ、剣でも槍でも弓でもいい。とにかくお前の戦闘経験を積む。お前の経験値は他の部活メンバーよりも高い、伊達にあの街の夜警をしてたって訳じゃないのは分かる。だが、格上との戦闘経験がお前には足りない」
次の瞬間、アザゼルは光の槍を出現させ、アルトリアに穂先を向けた。
「トレーニングメニューその四。俺と戦え。ロウィーナを始め、『禍の団』にはお前より強い奴がゴロゴロいる。そんな奴らと戦うための経験をここで積んでもらう。目標は『堕天龍の鎧』を俺に使わせて、手傷を負わせる事だ。それくらい強くなって貰わなきゃ困る。何、俺も運動しなきゃ身体が鈍っちまうからな」
自分をスパーリング相手としか見ていない発言。しかしそれもまたアルトリアとアザゼルの、ひいてはこの世界の強者たちとアルトリアの力の差だった。
「分かりました。ならば新調したであろうあの鎧に新たな傷を刻んで差し上げます。覚悟なさい、アザゼル!」
「フッ、その意気だ。お手並み拝見だ、可愛い騎士王さん」
エムリスを槍形態に変えたアルトリアは穂先を振るい、アザゼルに向ける。それに対してアザゼルもまた挑発するように手招きをした。自分が今、どれだけ通用するか。決死の覚悟を持ってアルトリアは突貫した!
◆
結論から言えば、初日はまるで歯が立たなかった。当然と云えば当然のことだが、アルトリアの攻撃をアザゼルは難なく躱していった。槍の刺突も、剣による斬撃も、弓から奏でる音の刃も通じなかった。アザゼルもただ避けているだけではなく、アルトリアの隙に遠慮なく光の槍を突き入れてきた。
咄嗟に新形態「籠手形態」を発動させ、レンジの内側からの攻撃に対処できるようにはなったが、それでも付け焼刃では大した成果は得られず、ただただ実力差を痛感しただけだった。
しかしそこで終わるアルトリアではない。アザゼルに言われたトレーニングをこなしながら、アザゼルと組み手を行い、彼の動きから盗める物はなんでも盗んだ。
トレーニングの合間には当時のブリテンやキャメロットを知る古参の堕天使たちに話を聞きに行き、円卓がどういったものだったのか理解を深めることにした。もっとも有意義な話ばかりではなく、円卓メンバーの恥ずかしい過去も聞かされたり、全く関係のない技術の説明をされたこともあったが、それもまた経験の一つとなるだろう。
「ハァッ!フッ!」
「お、重心を利用した連続攻撃か。悪くねぇが、まだバレバレだぜ」
五日間のトレーニングの結果、アザゼルの動きを目で追うのは止めた。テクニック型のアザゼルは平気で二重三重のフェイントを入れてくる。それに目を奪われるのは非効率だ。感覚で追う、自分の中の感覚を頼りに次の攻撃を予測し、相手の隙を伺う。無いなら無理やりにでも作り出す。
ここに来てからアルトリアの剣は執行者としての剣から、挑む者として無駄を削ぎ落とした剣へと変化しつつある。アザゼルもまたアルトリアの成長を感じつつ、もう一週間もすれば『鎧』出すかと考え始めていた。
「グアッ!?」
「ふぅ、まだまだだな。目で追うのを止めるようにしたのは良い事だが、直感がまだまだ鈍いぜ。それじゃあアーサー王には届かないな」
アザゼルの足払いに崩され、しりもちを付いてしまう。ここに来てから彼にまともに攻撃を当てられていない。着た頃より、メニューの達成度は上がってきているが、このトレーニングメニューだけは先が見えない。
「ふぅ、ふぅ、御指導ありがとうございます。先生」
「おう、漸くお前も先生呼びしてくれるようになったか。取り敢えず、今日はここまでだな。お前も他のトレーニングメニューを……ん?どうした?」
トレーニングを終わらせ、他の仕事に戻ろうとするアザゼルだったが、堕天使の一人がこちらにやってきて耳打ちをする。何かあったのだろうか。
「……そうか、分かった」
「なにがあったのですか?」
「……小猫が倒れたらしい。グレモリー家からの報告ではオーバーワークでの疲労とのことだが……チッ」
「コネコが……!」
アルトリアはアザゼルの用意した魔法陣で共に飛ぶ。アルトリアはグレモリー家のメイドに案内され、急いで小猫が運ばれた部屋へと向かう。そこには屋敷に居る他のメンバーも集まっていた。
「来たのねアルトリア」
リアスがこちらに気が付き声を掛けてくれる。
「コネコがオーバーワークで倒れたと」
「えぇ、アザゼルから与えられたメニューを過剰に取り組んで今朝倒れたのよ。修行での傷はアーシアが治せるけれど、体力の方は無理ね。あの子もそれは分かってはいるけれど、自分の存在と力に向き合おうと必死になってるのでしょうね」
「部長!子猫ちゃんが倒れたって本当ですか!」
そこへイッセーも駆けつける。リアスはイッセーとの再会を喜びつつも、小猫の状態を説明する。
「そうね、イッセーにはまだ話して無かったわね。それじゃあ。少し話をしましょうか」
リアスはとある話を語りだした。それは二匹の姉妹猫の話だった。姉妹の猫はいつも一緒だった。寝るときも食べるときも遊ぶ時も。親と死別し、帰る家もなく、頼る者もなく、二匹の猫はお互いを頼りに懸命に一日一日を生きていった。
「二匹はある日、とある悪魔に拾われたの。姉の方が眷属になることで妹も一緒に住めるようになった。やっとまともな生活を手に入れた二匹は幸せな時を暮らせると信じていたの」
ところが、異変は起こった。姉猫は、力を得てから急速なまでに成長を遂げていった。隠れていた才能が転生悪魔となったことで一気にあふれ出た。
「その猫は元々妖術の類に秀でた種族でした。その上、魔力の才能にも開花し、あげく仙人のみが使えるという仙術まで発動したの」
短期間で主をも超えてしまった姉猫は力に吞み込まれ、血と戦闘だけを求める邪悪な存在へと変貌していったそうだ。
「力の増大が止まらない姉猫はついに主である悪魔を殺害し、『はぐれ』となり果てた。しかも『はぐれ』の中でも最大級に危険なものと化したの。追撃部隊をことごとく壊滅するほどの…」
悪魔達はその姉猫の追撃を一旦取りやめたという。
「残った妹猫。悪魔達はそこに責任を追及したの」
『この猫もいずれ暴走するかもしれない。今のうちに始末した方がいい』と。
「処分される予定だったその猫を助けたのがお兄様なの。お兄様は妹猫にまで罪は無いと上級悪魔の面々を説得したの。結局、お兄様の監視する事で事態は収拾したの」
だが、信頼していた姉に裏切られ、他の悪魔達に責め立てられた小さな妹猫の精神は崩壊寸前だったそうだ…。
「お兄様は、笑顔と生きる意志を失った妹猫を私に預けてくれたの。妹猫は私達と出会って、少しずつ少しずつ感情を取り戻していったの。そして私はあの子に名前を与えたの小猫と言う名を」
そう、これはグレモリー眷属の『戦車』の物語。塔城小猫の過去の話だ。
「あの子は元妖怪。猫又は知ってる?猫の妖怪。その中でも最も強い種族、猫魈の生き残り。妖術だけでなく、仙術をも使いこなす上級妖怪の一種なの」
◆
居ても経っても居られなかったイッセーはリアスに連れられて、小猫の部屋へ向かうことにした。アルトリアもこのまま帰るわけにはいかないと着いていくことにした。
小猫の部屋の前まで来ると、ゆっくりと、起こさない様にイッセーは扉を開ける。広い部屋。寝室のほうへ足を向けると、朱乃がベッド脇で待機しており、そのベッドには小猫が横になっていた。
「──っ」
イッセーは小猫の頭部に生えていたものを見て驚いた。猫耳だ。白い三角形の耳が彼女の頭から生えている。
「イッセーくん、これは──」
イッセーが小猫の猫耳に反応していたせいか、朱乃が事情を説明しようとする。
「いえ、だいたいは聞きました」
そう朱乃に答えた。そのままベッド脇に移動して、様子をうかがう。特にこれといったケガは見受けられない。ケガならアーシアがいれば問題ないだろう。やはり、体力的なところで疲弊したのか。
「やあ、体はだいじょうぶ?」
イッセーは笑顔で訊く。すると、小猫は半眼でつぶやいた。
「……何をしに来たんですか?」
今までにないほど、不機嫌な声音だ。
「……心配だから、って言ったらダメかな?」
「…………」
「小猫ちゃん、聞いたよ。いろいろとね。とにかく、オーバーワークはダメだ。体を大事にしなきゃ……って、地獄のしごきを受けてる俺が言えた義理じゃないけどさ」
「…なりたい」
「え?なに?」
小猫の呟きにイッセーが訊き返すと、小猫は真っすぐとイッセーを見つめ、ハッキリとした口調で言った。目に涙を溜めながら。
「強くなりたいんです。裕斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん…そしてイッセー先輩やアルトリア先輩の様に心と体を強くしていきたいんです。ギャー君も強くなってきてます。アーシア先輩のように回復の力もありません。このままでは私は役立たずになってしまいます…。『戦車』なのに、私が一番…弱いから…。お役に立てないのはイヤです…」
「小猫ちゃん…」
なるほど、最近小猫の様子が可笑しかったのはそれを気にしてたからか。確かに最近、裕斗もギャスパーも強くなった。さらに聖剣を持ったゼノヴィア、回復能力に特化したアーシアも加入し、伝説のドラゴンを宿したイッセーや眷属ではないが伝説の聖剣を持つアルトリアも居る。
そして、あの会談の席で小猫は動けなかった。それが重なってこうなってしまったのか。小猫はボロボロと涙をこぼしながらも続ける。
「…けれど、うちに眠る力を…猫又の力は使いたくない…。使えば私は…姉さまのように…。もうイヤです…もうあんなのはイヤ…」
いつも感情をあまり表に出さない小猫のこんな泣き顔をイッセーは始めて見た。そしてアルトリアは昔聞いたリアスの話を思い出していた。彼女の姉が力を暴走させ、主である悪魔を殺した。そして、そのまま自分の元を去った。そのすべてを見せられたと昔リアスは言っていた。
自分にも主を殺せるだけの危険な力が眠っているのだと、もしかしたら自分もリアスをと。その恐怖が常に小猫の中にはある。けれども、これからの事情を考えると猫又の力が欲しい。その矛盾した気持ちを抱えながら、彼女は冥界に来た。オーバーワークは自分に眠る力を使わずに強くしようとしたからか。
その時、部屋の入り口に居たアルトリアが小猫のところまてやって来た。
「コネコ、貴方の力への恐怖は分かります。ですがいつまでも逃げる事は出来ません」
「!アルトリア、先輩……」
「私も今、自分の中に眠る力と戦っています。そしてそれは危険な力の可能性があります。ロウィーナ・ヴォーディガーンの言葉を信じるなら、ですが」
別にロウィーナの言葉を信じているわけではない。だが、今目覚めつつある力は確かに強大な物で、使い方次第で多くの命を奪う物になるだろう。だが……
「強くならなければこの先の世界では生きていけません。特に今の世の中では。そして貴女にはそんな世界を生きていけるだけの力がある。その身に眠る力を使うか使わないか、貴女次第なのですよ」
厳しい事を、偉そうな事を言っている自覚はある。だが、アザゼルの様な強者と短い間でも戦ってきたアルトリアの中に力を怖がる余裕は無かった。ヴォーティガーンを倒すのに、手段は選んでいられない。彼女に勝つには聖剣の秘められた力が必要だ。
「最後に一つ、力は使う者の心次第です。貴女の心の強さを私は信じます。それでは」
そう言いながらアルトリアは部屋を出ていく。彼女を傷つけたかもしれない、だが言わずにはいられなかった。今の小猫は見ていられない。同じ部活のメンバーとして、彼女の成長に期待するしかアルトリアには出来なかった。
そのままアルトリアはアザゼルの下へ向かう。小猫の状態は確認出来た。ケアはリアス達に任せよう。今はただ、第二段階に至る事が最優先だった。
ずっと言わせたかった。アザゼルにこの台詞を言わせたかった。小山ボイスでアルトリアとの絡みを作りたかった。
今回はアルマロスでしたが、次回は外伝から『彼等』を呼ぶ予定です。白に関わりの深い彼等をちゃんと書けるか不安ですが、お楽しみにお待ち下さい。
設定
籠手形態
アルトリアがアザゼルの義手に着想を経て、隻腕の騎士ベディヴィエールを模して生み出した形態。右腕に金と青の籠手が装着される。
今のところこれと言った強みはないが、無手の格闘戦や内側に回り込まれた際の咄嗟の迎撃に使える。良くも悪くも発展途上の形態である。