GWということで実家に帰って書き切りました。これとあと一、二話で第5章終了となります。
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それでは第五十二話、どうぞ!
ミョルニル。それは北欧の戦神、トールの持つ戦槌。資格ある者が振るえば無数の雷が使用者の敵を打ち砕く絶対の力。
無論この空間に降臨したのは模造品、本物は今も所有者であるトールと共に北欧にある。しかし模造品であっても、性能そのものは遜色ない。劣化品ではなくあくまでもコピーなのだ。
「本来であれば専用の籠手である『ヤールングレイプル』と力を増幅する帯『メギンギョルズ』を身につける必要がありますが、その二つを『
「なるほど。トール神の装備の代わりに神器の装甲と『倍化』の力で扱える様に調整したと言う事ですか」
「ハイ。ですが実際に力を振るえるかは……」
「どちらにせよロキが本気を出した以上使わない手はないわ。イッセー!」
「ハイ!」
リアスの命を受け、すかさずイッセーは槌の下へ急ぐ。
「行かせるものか!」
「させない!」
作戦を覚ったロキがイッセーを撃ち落とさんとするが、リアスが滅びの魔力で迎撃する。更にアルトリアもグィントを駆り、ロキへと斬りかかった。魔力でオーラが強化された刀身の一撃を避けられないと判断したロキは、すかさず防御魔法を発動させて斬撃を堪える
「悪神ロキよ、これで貴方も終わりです!」
「チィッ!人形風情が神の最期を決めるか!」
「!?人形?何のことだ!」
「人形であろう。望まれて生まれ、望まれた道を辿り、今では魔王の操り人形ではないか」
「なんだと!「ロキ!」!イッセー!」
イッセーの声に後方を見やると、そこにはミョルニルを構え大きく振りかぶる『赤龍帝の鎧』の姿があった。その姿はやや不格好で、ハンマーの重さで姿勢が崩れていたが、振ることは出来そうだ。
次に来る一撃を察し、アルトリアはロキを押し出して離脱する。
「「いっけぇぇぇぇッ!!」」ブォンッ!!
大きく振りかぶられたミョルニルが動き出し、ロキへと叩きつけられる!
ガギィィ……ン!
「「「!?」」」
空を裂きながら振り下ろされたミョルニルの一撃は、ロキの繰り出した防御魔法に阻まれた。障壁に阻まれたミョルニルからは本来放たれる筈の雷神の電撃も、悉くを打ち砕く破壊も巻き起こらない。ただ、槌を振り下ろしただけだった。
「なんで防がれてんだ……!」
「……フフフ、馬鹿め。私が何の考えも無しに挑んだとでも?既にミョルニルもグングニル、北欧の如何なる武器も阻めるように術式は強化済みだ」
「何ですって!?」
「それに、使い手側にも問題がある。そもそもその槌は、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴様には邪な心があるのだろう。だから、雷が生まれないのだ。本来ならば、重さすらも無く、羽のように軽いと聞くぞ?」
イッセーほど純粋と無縁な男も居ないだろう。イッセーとミョルニルは相性が悪かったか。こうなれば仕方ない。エクスカリバーの第三段階でロキを……
「ミョルニルがダメならエクスカリバー。それも読める」
「!?危ない!!」
「!キャッ!」
突き飛ばされた、誰に?イッセーだ、なぜ?突然の出来事に驚く間もなく、アルトリアは浮遊感を感じながら落ちていく。
その眼の先では、さっきまでアルトリアが居た場所にフェンリルの顎があり、その中でイッセーとグィントが神殺しの牙の餌食となっていた。
「ガアァァァァッ!?」
「ヒヒィィィイイン!?」
「!?」
「「「イッセー!!」」」
フェンリルの牙に砕かれたグィントは粒子となって消える。グィント自体は『
だが、イッセーは生身の悪魔だ。そんな彼がフェンリルに食われてしまえばどうなるか。その結果は牙の隙間からあふれ出す血が何よりの答えだろう
「アルトリア!」
落下するアルトリアをリアスがキャッチし、共に地面に降りる。イッセーを咥えたまま地面に降り立ったフェンリルは怒れるグレモリー眷属たちの攻撃に晒され、堪らずイッセーを放り出した。
乱雑に地面に放り落とされ、イッセーを覆っていた『赤龍帝の鎧』が崩壊する。駆け寄るリアスとアルトリア、そこには牙を身体を貫かれ瀕死のイッセーが横たわっていた。
「い、イッセー?」
「そんな、イッセー、眼を開けなさい!イッセー!」
イッセーの身体を見れば、フェンリルの咬み跡が痛々しい傷を残していた。左胸と腹部にはぽっかりと穴が開き、脚の一部が削り取られたように無くなっている。アルトリアの治療魔術では神殺しの牙の傷など到底治せず、アーシアもフェニックスの涙もない今では打つ手が無かった。
「……ウッ。無事か、アルトリア」
「イッセー、そんな。私を庇って!」
「へへ、無事みたいだな……部長、すみません。俺、欲望塗れでハンマーにそっぽ向かれちゃいました……」
「喋らないでイッセー!血がこんなに……」
「イッセー、私の、私のせいで……」
アルトリアは自分を責めた。ロキの言葉に惑わされ、ロキが対策をしているという可能性を見落とし、フェンリルの奇襲に気付けず、結果イッセーが瀕死の重傷を負ってしまった。
情けない、何が『現代の騎士王』だ。一度ならず、二度も大切な人を危険に晒して、傷つけてしまった。
「そんな顔、すんなよ。ハァハァ、いつもみたいに、凛々しい顔しとけよな……その方が、似合うんだから……」
「イッセー……」
「そんな、イッセー死んじゃダメよ!貴方が居なくちゃ、私……」
「大丈夫です、部長……まだ、ハァまだエクスカリバーがあります……アルトリア、部長を……」
リアスとアルトリア、二人に伸ばされた手が、だらんと落ちた。
「「ッ!?」」
「そんな……」
「イッセー先輩が……グッ!」
イッセーが、死んだ。誰の目にも明らかな出来事にグレモリー眷属の怒りは頂点に達した。まず小猫が先陣を切り、渾身の力を込めた火の玉をフェンリルに浴びせる!更に青い炎を纏わせ、猛烈なラッシュを叩きこんだ!
「「ウアァァァァッ!!」」
祐斗とゼノヴィアが怒りの雄たけびを挙げ、剣を叩きつける。鋭さも正確さも無いが、覇気と怒りに満ちた斬撃がフェンリルを襲う!
「よくも、よくもイッセー君を!悪しき狼よ、滅せよ!アァァメン!!」
イリナもまた光の力をロベーラに纏わせ、幼馴染を嚙み殺した憎き狼を滅せんと聖剣を振り下ろす!
「イッセー君……くッ!!」
朱乃もまた全力の雷光を模造ミドガルズオルムに叩きつけた。繰り返し魔法と自身の火炎に焼き焦がされた結果、遂に大蛇はその巨体を地面に横たえ、二度と起き上がる事は無かった。
模造ミドガルズオルムを倒し終えた朱乃はリアスとアルトリアの元へ向かう。朱乃の眼には先ほどと同じくイッセーを膝に乗せたまま動かないリアルと、立ち尽くすアルトリアの姿があった。
「リアス……」
「…………許さない。悪神ロキ!」
突如地響きが起こる。朱乃は一瞬地震かと思ったが、その発生源はリアスからだった。
「イッセーを、私の可愛いイッセーをよくも!」
「!いけない、リアス!そんなに魔力を高めては貴方の命も!アルトリアちゃん、リアスを止めて「イッセー、後は任せてください」?!」
イッセーを奪われた哀しみが、怒りが、リアスに凄まじい力を齎す。赤い、紅い魔力は命すらも燃料としているのかと思うほどに猛り狂っていた。危険を感じた朱乃は側にいるアルトリアに助力を求めたが、アルトリアの様子もまたおかしかった。
顔を俯かせたまま、ゆっくりとロキの元へと歩み出す。その魔力はリアスとは反対に、不気味なほどに静かで、全てがエクスカリバーへと注がれている。ちらりと僅かに見えた目には、普段の彼女からは想像できない程に光が失せていた。
「エムリス、第三段階を」
『ダメだ。今の君は正気じゃない。そんな状態でエクスカリバーを解放でもしたら』
「解放します。これは決定事項です」
『アルトリア……』
「これ以上の犠牲を出さないため、世界の崩壊を防ぐために、悪神ロキを討滅します」
普段の凛とした声とは違う、冷徹な、機械的な声。彼女を補佐し、助言を施すエムリスの声にすら耳を貸さないその姿はまるで部下の意見を無視する冷徹な独裁者だ。
グレモリー眷属たちの怒りの猛攻を見下ろしていたロキもまた、リアスとアルトリアの異変に気付いた
「 (ほう、これは興味深い。一方は激しくも強い思念、もう一方は無機質なまでに冷徹な思考。相反するが、共に愛する者を奪われた結果起きている。これが魔王サーゼクス・ルシファーの妹と、騎士王の現し身の力か)」
それまでフェンリルに猛攻を加えていたメンバーたちもリアスの猛り狂った魔力と、静かすぎるアルトリアに思わず振り向いてしまう。
「リアス、まさか刺し違える気ですか!そんなことは無意味です!」
「部長だけじゃない、アルトリアさんも様子がおかしい……」
「アルトリアさんの周囲だけ、リアスさんの魔力が無い?」
「あぁ、まるでアルトリアがリアスの溢れた魔力を打ち消す、いや吸っているような……」
過剰放出されたリアスの魔力で真っ赤に輝く空間の中で、アルトリアの周りだけがぽっかりとしている。そんな奇妙な光景が戦場に出現していた。
「 (むぅ、呼吸と同時に魔力を吸っているのか。心臓までオリジナルに近づいているとはな……)さてエクスカリバーの方は私の全力を持って防ぐとして、オーディンめ。まさかミョルニルの
父の声に反応して、フェンリルがグレモリー眷属たちの囲いを突破する。それまで様々な猛攻に成すがままだったとは思えない程にその動きは俊敏だった。
「何ッ!?」
「あれだけ攻撃されてまだ動けるのか!」
フェンリルは落下したミョルニルに向かって、一目散に走る。突然の事に誰もが反応できず、ミョルニルがフェンリルによってかみ砕かれると、誰もが思った。しかし
「『モルゴース』」
戦場にその言葉が響く。次の瞬間、地面から青黒い波が発生し、フェンリルを吞み込んだ。突如として発生した大波に驚き、フェンリルはミョルニルを前に立ち止まってしまう。発生した波はそのまま大きな水たまりとなり、更にそこから白い鎖がフェンリルに巻き付いていく。
フェンリルも抵抗しようと藻掻くが、水たまりに足を取られているのか上手く動けない。そしてあっという間に鎖はフェンリルを雁字搦めにしてしまった。
「あれは、魔法の鎖『グレイプニル』!しかし、いったい誰が?」
「私たちが用意したにゃん♪」
『ロキが外して放置されていたものを利用させて貰いました』
声がした方へ皆が振り向くと、そこには『禍の団』ヴァーリチームの面々である黒歌、アーサー・ペンドラゴン、ルフェイ・ペンドラゴン、そして礼装『
ルフェイの手に握られている十文字槍のような長杖が恐らく『
「姉さま…!」
「白音、その姿……ようやく自分の力を認めたのね。お姉ちゃん嬉しいわ」
「私は姉さまのようにはなりません…」
「さてどうかしら……」
「貴様ら、何のつもりだ!」
彼等とレセプション襲撃時に協力関係にあったロキからすれば、これは紛れもない裏切りであった。
「ロキさまごめんなさい、私達の目的は最初からその子なんです」
「神殺しの牙を我らのリーダーが欲しがっているものでして」
青黒い水たまりが、底なし沼のようにフェンリルを呑み込む。そしてヴァーリチームの背後に鎖に縛られたフェンリルが出現した。
「魔女モルガンの魔術、『水鏡』か」
『えぇ、私の魔術をダウンサイジングし自分に合うように最適化している。優秀ですよ、この子は』
「えへへ、それ程でも……」
師匠に褒められ、顔を赤くするルフェイの後ろでアーサーは聖王剣ではないもう一つの剣を抜き放つ。それは砕けた聖虹剣の欠片の一つ、『
そんな彼らにアルトリアは無機質な目を向ける
「……何をしに来た、モルガン・ル・フェイ」
『全く、男一人が瀕死になった程度で我を忘れるとは情けない』
「黙れ魔女め。何を企んでいるか知らないが、貴様も今ここで……」
『そんなことをしている暇があるなら、頭を冷やして周りをみなさい。そら、お前が執心している男が目覚めるぞ』
そう言い残し、ヴァーリチーム一行は『水鏡』による転移で姿を消した。
「何を言って……!?あぁ、そうか。そういう事か……」
◆
「ん、んぅ……ハッ!部長!アルトリア!ってあれ、此処は……」
『起きたか、相棒』
イッセーが目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。何処か、ドライグと会うあの空間を思わせる。
「ドライグ、てことは此処は神器の中?」
『いや、ここはお前の中だ。しかし、流石にフェンリルの牙は効いたな。全盛期の俺でも危うくなる一撃だった』
「!そうだ。俺、アルトリアを庇って……まさかこんなに早く二回目の死を迎えるなんてな……」
『相棒……』
「……もっと、もっとおっぱいを見たかった!触りたかった!吸いたかった!スイッチしたかったヨォォォォォ!!」
『そんなことだと思ったぜ』
『目覚めましたか、兵藤一誠』
「!誰だ!」
突如真っ暗な空間に女性の声が響く。いや正確には女性らしい声と言うべきか、声色や高さから女性と判断したが、何処か性別を超越したようなものをイッセーは感じ取った。
気付けば彼らの頭上から薄桃色の光が差しこんだ。どうやら声の主はあの光らしい。
『初めまして、私はおっぱいの精霊です』
「『…………ハ?』」
イッセーとドライグは耳を疑った。おっぱいの、精霊。あの光は確かにそう言った。
『……相棒、俺はとうとうおかしくなったのか?おっぱいの精霊とはな、どうやらお前の性癖が俺に深刻な精神汚染を引き起こしたらしい』
「いや、ドライグ。俺も確かに聞いたぜ。おっぱいの精霊って。そんな精霊がこの世界に存在するなんて!」
『嘘だ噓だ噓だ!そんなふざけた精霊なんぞ俺は知らん!聞いた事もない!』
『私はすべてのおっぱいを司りし神──乳神さまに仕える精霊です。兵藤一誠、あなたの頑ななまでのおっぱいへの渇望が私を呼びだしたのです』
「乳神様だって!そんな素晴らしい神様がいるだなんて!ハァ~、ありがたやありがたや!」
『うおおおおん!そんな神なんぞ知らん!どこの神話体系の神だ!ってその力、この世界の者ではないな!?』
頭痛に苛まれてはいるが、仮にも竜種の最高位であり、長い時を生きたドライグは気づいた。このおっぱいの精霊とかいう頭の痛くなる存在を取り巻く力は、この世界の神性とは違ったものだと。
『はい。我が主、乳神さまはこの世界の悪神ロキが起こさんとしている時空破断を阻止したいとお考えです。そこで乳神さまのお力を最も強く発揮できる人物である兵藤一誠に私を派遣されたのです』
『良く聞きなさい、兵藤一誠。今貴方の側にいる紅髪の少女のおっぱいの声を聴き、乳神さまの
お力を降臨させるのです。おっぱいを求める者に乳神さまは慈悲深いご加護を与えます。きっと役に立つことでしょう』
おっぱいの声、胸の内に秘める言葉ってことか?そんな疑問を感じつつ、なんとなく目を閉じて意識を集中させていると、声が聞こえてきた。
〈許さない〉
怒りに満ちた、噴火寸前の火山のような燃え滾る声が聞こえてくる。その声は何度も聞きなれたご主人様、リアス・グレモリーの声だった。閉じた瞼の裏に、風景が映し出されていく。
そこは、文字通りの地獄の具現だった。枯れ果て、ひび割れた大地。草木の類は焼き尽くされたか、炭化した枯れ木が残るばかり。あちこちにクレーターが発生したそれは凡そ人の生きられるような世界ではなかった。
〈イッセーを、私の可愛い可愛い、愛する下僕を……〉
〈あの神は殺した!!〉
焼き尽くされた大地に一人たたずむリアスからは、時折赤い波動が発生している。触れるだけでイッセーの肌を焼き焦がすような痛みが襲う。近づけば、更に痛みは増すだろう。
だがイッセーは足を進めた。髪を逆立て、顔を俯かせるリアスの姿は恐ろしいというより、悲しいものだった。あんな姿は彼女には似合わない。自信家で、有能で、時に厳しく、時に優しい。そしてたまに見せる年相応の我儘っぷりやお茶目な一面。なにより自分たち眷属を優しく見守る笑顔。そんな姿こそがリアス・グレモリーには似合っていた。
「部長、大丈夫です。俺は、ちゃんとここにいます。だから、そんな顔しないで下さい。俺、部長の笑顔、大好きですから!」
次の瞬間、世界は眩いばかりの光に包まれた。
◆
怒りに震えるリアス。しかし、突然どこからかイッセーの声が聞こえた。その時、真っ赤に染まっていた視界がクリアになり、イッセーの懐から落ちたものに目が入った。
黒い万年筆のような小物、そこに刻まれている紋章はフェニックス家のものだった。もしかして、と思いリアスはそれを手に取る。確証は無かったが、仮にもフェニックス家からの贈り物だ。中に入っているのは……
「『フェニックスの涙』!イッセー、貴方って子は……」
彼とフェニックス家の令嬢が話しているのは遠くから見ていた。最初はイッセーと話す姿にもやもやしていたが、今は彼女に感謝しかなかった。
すかさず小瓶の中身を振りかける。すると瀕死の重傷はみるみるうちに回復していった。体に空いた穴や、抉れた脚は巻き戻るかのように再生していき、あっという間にイッセーの身体は元通りになった。
「……ッ!部長、泣いてるんですか」
「!当たり前よ!てっきりあなたが死んだと思って私……」
「すみません、でももう大丈夫です。そうだ、ハンマー!ミョルニルは何処に」
「え?ミョルニルならあそこに落ちているけど、でも貴方には」
リアスが言い掛けた指摘は真っ当なものだ。先程ミョルニルを振るった時、イッセーはその力を発揮することが出来なかった。
「大丈夫です、俺には乳神さまが付いてますから」
「ちち、え?乳神さま?イッセー、まさかフェンリルにやられて脳に障害が……」
リアスの呟きを聞こえないふりでごまかしながら、イッセーはミョルニルを手に取る。先ほどは見た目相応の重さを感じた戦鎚は、いまや羽根のような軽さを持っている。これがおっぱいの精霊が与えた乳神の加護の力か。
「ロキ!!」
『Boost!』
「「「イッセー!(くん!)(先輩!)」」」
「馬鹿な……フェンリルにかみ砕かれたはず。いやそれより、その力はなんだ!?」
ロキは信じられない物を見る目でイッセーを睨んだ。愛息フェンリルにかみ砕かれた筈の赤龍帝が復活したこと、ミョルニルを担いでいること、赤龍帝の中に感じた事のない神気を感じる事、全てが理解不能な現象だった。
「だが、忘れたか!此方は本来のミョルニルを防ぐつもりで魔法を強化している!例え振るえるようになっても結果は変わらんぞ!」
「確かに俺一人じゃキツいかもな、けど忘れてないか?この場にお前を倒せる武器がもう一つあるのを」
そう。ロキの魔法はミョルニルやグングニルなど北欧の武器を防げる様に調整されている。この魔法の前ではオーディンやトール、バルドルなども苦戦を強いられるだろう。無論、生半可な力では突破出来ない
しかし、此処にその条件に当てはまらない武器がある。
「北欧の武器では自分を倒せない。そう貴方は言いましたね」
「だがッ!この剣はブリテン島より脈々と受け継がれし星の聖剣。悪神ロキ、何するものぞ!」
エクスカリバー。本来それは星の内海で鍛え上げられた、神話体系に依存しない武器だ。
「アルトリア・ペンドラゴンッ!」
「エムリス!」
『マイロード、もう一度聞くよ。本当に使うんだね』
「えぇ。悪神を倒し、世界を、仲間を、大切な人を守るために今、この剣を抜き放つ!」
『我が王よ、その願い確かに受け取った!』
『擬似人格停止。魔力供給量、規定値を突破。第三段階限定解除を開始。
それはかつて込められた祈り。聖剣が正しき目的の為に振るわれる事を願った誇り高き円卓の騎士達の祈りが、想いが凝縮されている。悪神を前に、世界の危機を前にその祈りが果たされる時が来た。
是は、生きるための戦いである―――〈ケイ〉承認
是は、己より強大な者との戦いである―――〈ベディヴィエール〉承認
是は、人道に背かぬ戦いである―――〈ガヘリス〉承認
是は、精霊との戦いではない―――〈ランスロット〉承認
是は、邪悪との戦いである―――〈モードレッド〉承認
是は、世界を救う戦いである―――〈アーサー〉承認
外された封印は6つ。エクスカリバーがその真髄を露わにするには足りないが、それでも神を撃ち落とすには十分であった。
「聖剣、抜刀。束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。悪しき神よ、地に堕ちよ!『
抜き放たれた金色の光がロキに襲い掛かる!ロキは咄嗟に5重の防御障壁を展開したが、更に強化された星光の輝きは容易くその守りを打ち破り、悪神の身体を焼き焦がした!
「ぐ、ォォォォオオオォォッ!?」
聖剣の光に焼き焦がされて尚、ロキは神気と魔力を全稼働させて耐えた。しかし、もはや宙に浮く事も叶わず、フラフラと地面に降り立った。
「はぁ、はぁ、ぐうっ。おのれ、聖剣使いめ……」
「仕留めきれませんでしたか。ですが魔力はほぼ枯らしました、イッセー!」
大地から聖剣を振るったアルトリアは、空へと声を掛ける。そこには既に『赤龍帝の鎧』を纏い、ミョルニルを振りかぶるイッセーの姿があった。
その身体からは魔力、オーラに加えて、不可思議な神気が放たれ、鎧各所の宝玉からは眩い光が放たれている。
『赤龍帝よ。聞こえますか、赤龍帝よ。あなたは紅髪の娘の心を、この娘のおっぱいが修羅に墜ちるのを救ったのです。乳神さまの加護をいまこそ、あなたへ──』
「ありがとうございます。おっぱいの精霊さま!!」
イッセーがとんでもないことを口走った。正体不明の声におっぱいの精霊と答え、あの謎の神気は乳神という聞いた事のない神の力のようだ。
「行くぜ!ドライグッ!」
『応ッ!もうどうにでもなれだ!』
『Transfer!!』
ミョルニルの表面を『赤龍帝の籠手』と同じ金色の紋様が走り、力が譲渡される。赤龍帝のオーラと謎の神気を纏い、何倍にも巨大化していく。そして今度こそ、雷を放ちながらミョルニルは振り落とされた!
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!『
「おのれ赤龍帝!おのれ、オォォォディィィン!!!」
阻むものなく、ミョルニルはロキへと打ち据えられた!ロキの身体を雷と神気が貫き、ロキの意識を刈り取っていく。強大な一撃を受け、ロキの体が大きく煙をあげた。既に白い装束は黒く焦げ付き、もはや力は欠片も残っていない。
「……聖書に記されし神が、なぜ禁手という現象と……神滅具などという神を殺せるだけの道具を消さずに残したのか……。こういうことが起きると想定していたのか……? なぜ、人間に神殺しの術を持たせようとした……?」
それだけ言い残し、悪神ロキは完全に気を失った。すかさずロスヴァイセが魔法陣を展開し、ロキの身体を封印した。
『赤龍帝、兵藤一誠よ。見事でした。またいつか会える日を楽しみに──』
謎の声、おっぱいの精霊の声が遠ざかっていく。一体彼女は何者なのか。疑問は残るが、少なくともロキの唱えた『神々の黄昏』は起きず、イッセーはまたおっぱい好きの称号を確かなものとしていくだろう。
ドライグの心労は増える一方だが。
第三段階解放エクスカリバー+ミョルニルを食らってますが、ロキはちゃんと生きています。
彼には未来で一仕事残ってますからね。