完全オリジナル回なのと、少し精神を病んでしまい更新が止まっていました。今は多少マシになっているので一先ずは大丈夫です。
今回は遂にアルトリアの秘密が明かされる回となります。説明や開示といった内容が主にになります。同時にこれで今章は終了となります。次回からは修学旅行編へと繋がりますのでお待ちくださいませ。
よろしければ、今回もお気に入り登録や高評価、感想、それと『ここすき』をお願いします。
それでは第六十五話、どうぞ!
夜中の兵藤邸、そのリビングは緊張した雰囲気に包まれていた。
リビングのソファーには、渦中の人物であるアルトリア・ペンドラゴン、そして兵藤一誠、リアス・グレモリーが座り、他のソファーの周りには姫島朱乃を始めとするその他のグレモリー眷属、そして転生天使の紫藤イリナ、オカルト研究部顧問であり堕天使総督アザゼルなどが座っている。更に卓上の立体映像には魔王サーゼクス・ルシファーが映り、皆が一方向を見つめている。
そこには現在『禍の団』の一派閥、ヴァーリチームに所属するアーサー・ペンドラゴン、その妹ルフェイ・ペンドラゴン、更には彼女によって現代によみがえり、今は杖の中に封じられている伝説の魔女モルガン・ル・フェイがいた。
『全員揃ったようだね』
「それじゃあ、始めて貰おうか?」
「では、順を追ってお話ししましょう。我らペンドラゴン家の業、千数百年にも及ぶ妄執の歴史、その全てを」
開かれたアーサーの口に皆が息を呑む。
「全ての始まりは千数百年前、我らが父祖アーサー王が身罷られたときまで遡ります」
ルフェイの持つ杖『
「カムランの戦いにて瀕死の重傷を負った父祖アーサー王は、聖剣エクスカリバーを円卓の騎士の一人ベディヴィエール卿に託し、息を引き取られた。その後王の遺体はとある村に一時保管された後、理想郷アヴァロンへと送られました」
「王が理想郷へと旅立たれ、残された者たちは混乱しました。去る者、後を追って命を落とす者、そして残る者、その中で一部の配下たちはアーサー王の復活を望んでいました」
映像が動き、様々な人が映される。絶望し去る者、自ら首を斬り命を落とす者、そして残った者。
「彼らはアーサー王が最初に運び込まれた村を拠点と定め、アーサー王復活のための計画を練り始めた。理想の王による最高の統治を再び夢見て彼らは動き出したのです」
場面は移り変わる。そこには妙齢の女性の元を離れ、多くの騎士や兵士たちに連れて行かれる金髪の子供が映る。
「アレが私達ペンドラゴン家の始祖、モルガン殿がモードレッドの予備として創り出したクローン、アムル・ペンドラゴンです」
「アレが、貴方たちの……」
「ハイ。生き残った者たちはアムル・ペンドラゴンを当主に据え、再起を図り表舞台から一度姿を消す事になります。その間に彼らは二つの課題に挑むことになりました。一つはアーサー王復活、もう一つはエクスカリバーに変わる新たな王の剣の作成」
森の奥の屋敷の中、多くの者たちがせわしなく動いている。ある者は鉄を打ち、ある者は魔術を研究し、ある者は身体を鍛え、あるものはよりよい肉体を生むための母体の調整に勤しむ。
「これは……」
「聞いてた通り、再起を図る為に色々としていたのね」
リアスの言葉にアーサーは頷く。その執念に皆が注視する。
「えぇ、私の持つ聖王剣コールブランドと、今は分たれた聖虹剣カレトヴルッフを作るべく法儀礼処理や魔術を極めるのと同時に、いずれ復活されるアーサー王の依り代となる者を作り出す研究も行われていました。アムル・ペンドラゴンの子孫たち、彼等に魔術的な調整を積み重ね、少しでもアーサー王の肉体として完璧なものを作ろうとしていたのです。更には残された僅かな赤き龍の因子を保存、活性化させるために時には人の道を外れるような行いもあったとか……」
目の前の景色が変わる。どこかの地下室、そこに敷かれた巨大な魔法陣の中央には金髪の少女が寝かせられ、その周囲には幾人もの子供が寝かされている。
次の瞬間、魔法陣が起動すると周りにいた子供達が消え去り、そこから漏れ出た光が中央の子供に集まる。光が収まるとそこには、先程と顔のパーツなどが細かく異なる少女がいた。
「今のは?」
『顔や身体を弄る術だ。術をかける相手の身体部位を他の者と入れ替える。より健康な臓器、より形のいい目や鼻、口、魔術回路、そして赤龍帝の因子。回りくどい上に無駄が多いが、自分たちで弄るのが怖いから増やした親族から取り寄せたのだ』
「そんな、酷い!」
ギャスパーが声と身体を震わせながら抗議する。それにルフェイは申し訳なさげに答えた。
「ハイ。ですが、昔は今ほどの倫理観や人権意識はありませんでした。当時の魔術師や魔法使い達は今以上に目的のためなら手段を選びません。むしろ崇高な目的に至るための必要な犠牲、名誉だとすら考えていたそうです」
『そしてそういった人間たちを我々悪魔への生贄としても使っていたというわけか』
サーゼクスの言葉にルフェイが頷く。聞いた話だが、今の悪魔召喚システムは戸籍などの現代社会で悪魔の存在を秘匿する為に整えられた制度で、昔は悪魔も平然と命を対価として要求していたらしい。
そういった犠牲を積み重ねていくうちに、時代は流れる。聖王剣コールブランド、聖虹剣カレトヴルッフは遂に完成を見、ペンドラゴン家の血と肉体も最適化が進んでいく。力を蓄えていたペンドラゴン家は次第に表舞台にも顔を出す様になった。
かのアーサー王の末裔、聖剣を保管していた家。そのネームバリューを用いて、ペンドラゴン家は英国貴族としての表の顔を持つことになるが、この頃から計画に歪みが生じ始める。
「計画が進む中、ペンドラゴン家に二つの転機が訪れます。一つ目は悪魔、天使、堕天使の三大勢力による戦争です」
ペンドラゴン家の屋敷を訪れる高位の司祭たち。彼らはペンドラゴン家に聖剣エクスカリバーを手に入れて欲しいと交渉を依頼してきた。
『ペンドラゴン卿、貴殿に頼みがある。エクスカリバー、かの聖剣を手に入れるのに協力して頂きたい』
『エクスカリバーを?ですが、あれは既に湖の乙女に返還されておりますが……』
『それは分かっている。だがにっくき悪魔どもや堕天使どもに勝つにはかの聖剣の力が必要なのだ。無論聖剣をよこせという訳ではない。一時的に、この戦争の間だけでも借り受けたいのだ』
確かにペンドラゴン家は湖の乙女と今もなお交流はある。かつて、重度のアーサー王フリークである
『……分かりました。出来るだけのことは致しましょう』
『おぉ!感謝致します、ペンドラゴン卿。貴方がたにも神のご加護があらん事』
そして当時のペンドラゴン家当主は配下を通じて、湖の乙女と交渉を行った。最初湖の乙女たちは難色を示すと思われていたが、彼女等はあっさりとエクスカリバーを託した。それどころか……
「彼女等は『
「楽園の、妖精?」
「楽園の妖精とはこの星そのものの端末。聖剣を作る使命を帯びた特別な妖精です。残された資料によると、彼らはこの世界を見て回り、人々と世界の在り方を記録、収集します。それを基に星の内海へ戻り、その身を聖剣へと作り変えるとのことです」
『私には湖の乙女たる妖精としての要素も含まれるから何となくは察せる。恐らく湖の乙女たちはかつての聖剣だけでは今の時代に対応できるか疑問に思い、時代に合った新たな聖剣を作ろうとしたのだろう』
「ですが、それがペンドラゴン家を、正確にはその配下であるアーサー王を信奉する者たちを狂わせた」
楽園の妖精。それは
更に彼らはエクスカリバーを渡す事にも疑問を持つようになる。仮に渡して無事に帰って来るのだろうか。もし聖剣に万が一の事があった場合、いずれ復活する我らが王になんと言えばいいのか。
「そこで彼らは既に完成していた聖剣カレトヴルッフをエクスカリバーとして教会側に渡した。その後の結末は皆さんご存じの通りです」
「カレトヴルッフは砕け、その破片は7本のエクスカリバーとなった」
「じゃあ渡されたエクスカリバーと、その楽園の妖精はどうなったの?」
イリナの疑問にアーサーは答える。
「彼らは、彼らは楽園の妖精を新たなアーサー王の肉体としたのです」
「アーサー王の、肉体?」
「えぇ、本来の計画では彼らはアーサー王を復活させるため生命を構成する三要素を作ろうとしていました。アザゼル殿、生命を構成する三要素とは何かご存じですか?」
「肉体、精神、魂だろ?ハードウェアたる肉体、それを動かすプログラムである精神、そしてエネルギーであり基幹となる魂、この三つが揃う事で生命は生命足り得る」
アザゼルは渋い顔のまま、スラスラと答えた。
「その通りです。彼らの既存の計画ではアムル・ペンドラゴンの子孫を調整して器となる肉体を作り、魔術を用いてアーサー王の精神構造を再現し、降霊によってアーサー王の魂を手に入れるというものでした。ですが、楽園の妖精を手に入れた事で計画が狂い始めます」
『楽園の妖精は魔術的に見れば超級の素材、それに対応できる精神は人間には用意できるものではなかった』
このままでは肉体の調整が終わったとしても、それに釣り合うだけの精神が用意できず、三要素のトライアングルに崩れが生じる。
「そこに更なる運命の悪戯が起きました。ペンドラゴン家配下の一人が『
「!?『
「先生、知ってるんですか?」
それまで腕を組みながら静かに話を聞いていたアザゼルが目に見えて驚愕した。
「所有者の理想とする世界を異空間に創り出せる能力を持つと言われる神器だ。生み出した世界の中であれば生命さえも創り出す、疑似的な天地創造すら可能なことから『神を騙る神器』とも呼ばれている。だがそれ以上の事は俺も分からない、実際に見た事もないからな……」
「そう。その神器を手に入れた彼らは、その神器の真価が異空間と生命すらも作り出せる絶大なまでの演算能力にあるとみたのです」
「演算能力?」
「つまりは、超高性能なコンピューターとして捉えたんですね」
祐斗が疑問を感じたイッセーにアーサーの言葉を分かり易く説明する。
「生命すら生み出せるその演算能力は人間の複雑な精神すらも容易に再現が可能。そこで彼らは『
「!?」
ここで一気に話が身近なものに飛んだ。いままでアルトリアを支えてきた礼装、エムリス。その正体が判明したのだ。
「彼らはロゴスリアクトの演算機能を用いてアーサー王の人格を再現するだけでなく、その演算能力で特殊空間を作りエクスカリバーを封印。更にそれを管理する人格としてかの大魔術師マーリンの思考を再現し、エムリスと言う名を与えた」
「なるほど、あの礼装の出来がおかしいとは思っていたがそんなカラクリがあったとはな。しかしどうにも解せねぇ。確かにペンドラゴン家の起源、エクスカリバーが現代にある理由、エムリスの出処と秘密は分かった。やってたことも褒められたもんじゃねぇ。だがそれがアルトリアにどう繋がる?口に出すのも憚られるほどの業とはなんだ?」
アザゼルの言葉にアーサーは冷静に返す。
「我らの業、それはアーサー王復活による世界征服です」
「せ、世界、征服!?」
余りにも脈絡なく出された世界征服という言葉にイッセーは困惑した。
「最高の肉体、ほぼ100%再現可能となった精神、最強の聖剣エクスカリバー、それらを手に入れた研究者や魔術師達の欲望は次第に肥大化し、暴走していきました。この力を使えば世界を手に入れることも容易いと。当時の彼らにかつての忠義や使命のようなものは無く、あるのはアーサー王復活という目的とアーサー王への崇拝、偉大な力をもっているという自尊心のみでした」
「数百年の間に歪んでしまったのですね」
「彼らのアーサー王への崇拝は当時すでに度を越しており、偉大なのはアーサー王のみで配下の円卓の騎士たちは王の期待に応えられなかった無能者、王を裏切った卑怯者としか見ていませんでした」
『だがその力のみは認めていた。故にロゴスリアクトに円卓の騎士共の力を再現する機能を搭載したのだ。我らが崇めるアーサー王ならもっと上手く扱えるとな。くだらない』
そう吐き捨てるモルガン。余りにも身勝手、余りにも露骨なダブルスタンダード。しかしそれを咎める者は居なかった。皆が皆アーサー王という偶像に狂い、そしてそれを為せるだけの力を持っていたのだから。
しかしその目標に年長者たちが疑問を述べた。
「解せねぇな。世界征服?そりゃ無茶じゃねぇか?幾ら楽園の妖精やエクスカリバーを揃えたとしてそれで本気で世界を取れると思ってんのか?」
『世界には各神話体系の神々が存在する。幾ら星の聖剣と騎士王といえど神々を相手取るのは無謀に近い。それこそ『禍の団』のようにオーフィスクラスの力が無ければ』
年長者二人から疑問が投げられる。そうだ、いくら何でも世界征服なんて無謀が過ぎる。
「えぇ、それだけでは世界征服は成し得ない。そこで彼らは赤龍帝の力を頼ることにしました。世界征服をより盤石なものとする為、彼らはアーサー王の肉体に赤龍帝の籠手を宿す事を考えたのです」
「なるほど。確かに赤龍帝の力とエクスカリバーの力が合わされば世界征服というビジョンが見えてくるだろうな」
『赤龍帝の圧倒的パワーとそれを出力するエクスカリバー。二つが揃えば神すらも降しえるか……』
「そもそもペンドラゴン家の御当主さまは許してたのかよ。俺もアーサー王の伝説は読んだけどそんな世界征服なんて望むような王様には見えなかったぞ」
イッセーからの当然の疑問にアーサーは答える。
「この世界征服の計画は歴代の当主たちにも秘密に行われていました。ですが、秘密とはいずれ漏れるもの。計画が最終段階に入ったところでその情報が現当主、つまり私たちの父の耳に入ったのです。父は暴走する計画を良しとはしなかった。そして、その計画を破壊しようと兵を差し向けたのです」
「兵を、ウッ‼」
「あ、アルトリア!?」
その瞬間、今まで黙って話を聞き続けていたアルトリアの頭を鈍い痛みが走った。まるで脳の内側から湧き上がってくるような、濁流が押し寄せてくる感覚に、アルトリアは頭を抑えてうずくまった。
◆
薄暗い部屋の中、試験管の中に少女が浮いている。金色の髪、白磁の肌、ともすれば少年にも見えなくもない凛々しい顔立ち。何処か神々しさすら感じさせる少女は培養液の中で、長い間眠り続けていた。
「………!…げろ!当……の手勢が………!!」
「クソッ!せ……玉体だ………も!!」
周りがうるさい。こんな事は今まで無かったのに。微睡みの中、少女が思案に耽っていると突然、ゴボゴボッ!という音と共に周りが泡立つ。培養槽の栓が抜かれ、培養液が排出されていく。培養槽が90度傾き、扉が開かれると周りの大人たちが少女の身体を中から抱え出す。
「やむを得ない、器たる肉体だけでも逃さなくては……」
「無茶です!まだ戦闘訓練どころか起動実験も碌には!」
「剣にはかの大魔術師の人格を投影した鞘がある!かの御方の現し身ならば、王を導いたように王の肉体を鍛え上げるだろう!今は……」
「!?来たぞ!!」
王?器?魔術師?周りの人間が騒いでいるが、良く聞き取れない。次の瞬間、私は暖かな膜に包まれ、細い管を落ちていった……………
◆
「……今のは、私?」
「大丈夫ですかアルトリアさん!」
心配したアーシアが駆け寄り、回復を試みる。神器の放つ柔らかな緑の光がアルトリアの頭に当てられ、痛みが引いていく。が、それでも頭の奥の方の違和感だけは消せなかった。
「その様子ですと、襲撃時の記憶を僅かですが持っているようですね。父が率いた討伐隊は研究所を襲撃、中にいた研究員や魔術師の殆ど全てを捕らえるか殺しました。但し、最奥の研究室に突入したときには既にもぬけの殻だったと聞いています。それが10年前の出来事です」
『!アルトリアがこの街に来たのは8年前、少し開きはあるが時期は一致する』
「てことは、まさか……」
震えるイッセーの声にアーサーは、ゆっくりと頷いた。誰もが次に出てくるであろう言葉に備え、固唾を呑む。
「そう。彼女こそ、アーサー王復活の為の肉体。楽園の妖精を核として王の精髄を模倣した
「アーサー王の真の名を与えられた我らの罪の証、それが彼女。アルトリア・ペンドラゴンです」
広間が静寂に包まれる。ある者は信じられない様子でアルトリアを見つめ、ある者は話の流れからやはりと目を伏せる。そして当の本人は彼の口から出た言葉に震えていた。
「私が、アーサー王の、器?何を馬鹿な、何を馬鹿なことを!!そもそもアーサー王は男です!私は!」
『女です、アーサー王は。私も言ったでしょう、愚妹の現身と。奴は、アルトリア・ペンドラゴンは女であることを隠し、アーサーと名を変えて玉座に座り続けた。故にその現身たるお前もまた女』
あの時代を生きたモルガンからの言葉がなによりの証拠となる。ここまで来て嘘を言っているとも思えなかった。
「アルトリアさんが、アーサー王の器……」
「だからエクスカリバーを扱えるのね……」
「今思えば、所々感じられたカリスマにも納得がいく……」
かつて聖剣使いとして彼女と出会ったゼノヴィアとイリナ、そしてエクスカリバーを憎んでいた祐斗から納得の声が漏れる。
「彼らの計画ではアーサー王の肉体がエクスカリバーの開放だけでなく、円卓の騎士たちの力を扱えるようになること、そして『赤龍帝の籠手』を得ること。これらをもって肉体は完成と考えていたそうです。そして今、それが完成しつつある。危険な状態です」
「待てよ!『赤龍帝の籠手』は俺が持ってる。なら完成じゃないだろ!」
イッセーが立ち上がってアーサーに問い詰める。
「無いならは奪えばいい。その時代に別の赤龍帝がいるのならその人物に近づき、その力を奪えば済む。そう彼らは考えた。そこで彼らは世界の何処にいても『赤龍帝の籠手』を感知できる能力を与えた。そして所有者と神器の繋がりが弱まるタイミング、命の危機などに反応して奪取する術式を組んだのです」
覇龍の力は絶大であると同時に所有者の命を脅かす。であればその命が失われる時、もしくは直前に不安定になった力を奪いとる。
「だからこそあの時、暴走する赤龍帝の力に彼女は反応したのです。あの時の衝動はそれが原因です」
「な、なら、なら私がこの町に来たのは、イッセーと出会ったのは……全て、全て」
「………」
アーサーは肯定できなかった。その可能性は極めて高い。だがそれを言ってしまえば最後、彼女の心は壊れてしまう。尤もここまで話してしまった以上大差はないが。
「エムリス、貴方は知っていたのですか。私の事を……」
『マイロード、すまない。君を傷つけたくはなかった。この町に来てからの君はそれまでと別人に思えるほど人間味に溢れていた。兵藤一誠を始めとした人々の交流が君の心を育んできた。そんな君が自身の出生の秘密を知れば、君の心は壊れてしまう。だからずっと言い出せなかった……』
「それは!くッ……」
これまでずっと側にいた、師とも言うべき存在の告白にアルトリアは何も言えなかった。噓つきと、裏切り者と罵る事も出来たが、彼女の良心がそれを阻んだ。
「アルトリア……」
「……イッセー、皆さん、少し一人にさせて下さい」
『何処へ行く気だ、アルトリア卿』
「少し、遠駆けです。失礼します」
そう言ったアルトリアはフラフラと立ち上がり、広間を出ていった。そのまま部屋には戻らず、足取りは玄関へと向かっていく。そしてグイントを呼び出すとそのまま空へと駆けあがっていった。
「!アルトリア!」
「行かせてあげなさい、イッセー。今の彼女には、きっと私達の言葉は届かない」
『これは彼女の中で決着をつける問題だ。そしてそれには長い時間を要するだろう』
追おうとするイッセーをリアスとサーゼクスが止めた。彼らの言は正しい。何処まで行ってもこれはアルトリアがどう折り合いを付けるかという問題であり、周りの人間が何か言ったとしても今の彼女にはノイズでしかないだろう。
「我々が彼女について把握している情報はこれで全てです。これを聞いた上で彼女がどう判断するのかは彼女次第。我々にもどうする事も出来ません」
「では、これで失礼させて頂きます」
「おう。くれぐれもバレないようにな。一応お前らは収監中のテロリストって事になってるからよ」
『無論です。探知されるような不手際は起こしません。では』
そういって立ち上がったアーサー達はルフェイの展開した魔法陣によって何処かへと消えていった。
残された者たちの中には嫌な静寂が漂っていた。誰も喋らない、いや喋れない。アーサー達が明かした仲間の真実。千数百年という悪魔から見ても短くない時間の中で蠢いていた陰謀と、その結実。それが今まで肩を並べて戦ってきたアルトリアだったとは。
『……一先ず、聞くべきことは聞けた。皆、ご苦労だったね。今日は解散としよう』
そういってサーゼクスは魔法陣を閉じた。他のオカルト研究部もそれぞれの部屋、自宅へと戻っていく。
イッセーもまた立ち上がろうとしたとき、アーシアが袖をつかんでいる事に気づいた。
「アーシア?」
「私、アルトリアさんの事、何も知りませんでした」
「…あぁ、俺もだ。小学校の時から一緒だったのに、ホントに何も……」
「アルトリアさんは、戻ってくるでしょうか……」
その問いにイッセーはすぐに答える事できなかった。あんな焦燥としたアルトリアは初めて見た。顔を俯かせたまま馬に乗って走り去っていったアルトリアを見た時、イッセーはまるで彼女がこのまま何処かへ行ってしまうのではないかという考えが頭を過っていた。
「………部長、やっぱ俺行ってきます!」
「イッセー、でも…」
「今のアイツは見てられないです!なんか、どっかに行っちまいそうな気がして……すみません!」
そう言ってイッセーはリアスの制止の言葉すら聞かずに飛び出していった。どちらに行ったかは方向を頼りに探してみる。まだまだ未熟だが気配や魔力の流れを感覚で辿り、アルトリアが今どこにいるかを探り出す。
「待ってろ、アルトリア!」
◆
………何処まで来たのだろう。気が付けば私は山の中にポツリと座っていた。グイントはもういない、空気を呼んで帰っていったのだろうか。
周りを見渡すと、少し先に明るいところが見えた。言ってみると、そこは町を見下ろすことの出来る場所だった。眼下には無数の灯りが広がっている。
「(あそこは人間と悪魔の町だ。私は異分子だ……)」
今までずっとあの町で夜警をしてきた。夜の街を飛び、結界を調べ、不審者が居れば話を聞くか取り締まり、町に潜む人外たちがトラブルを起こせばそれを仲裁するかリアスたちに委ねる。そんな生活をずっと続けてきた。それが日常だった。
イッセーや、リアス、オカルト研究部の仲間たち、駒王学園、それら全てが遠く感じる。
「私は、この街にいてよいのでしょうか」
飲み込めきれない。自分の正体がいつか復活するアーサー王、アルトリア・ペンドラゴンの肉体であること。然も人間ですらない、楽園の妖精を核として様々な要素を混ぜられた人造人間、いや合成獣と言ってもいい存在であること。そして自分の存在が世界に禍を齎しかねない事。
ふと、目の前を赤い光が横切った。まるで蛍のような光の玉、それに吸い寄せられるようにアルトリアは立ち上がり、後を追いかけた。何故だかは分からない、ただ無性に光を追いかけたくなったのだ。
光を追って森の中に入っていく。
『ダメだ!アルトリア!あの光は危険だ!追っては・・・まさ・・そん・・・』
エムリスが何か言っているような気がするがそんなことよりあの光だ。突然光球が止まり、輝き出す。薄く、大きく広がりながら、それは門か扉のような姿へと形を変えた。真っ赤に輝くそれは、見覚えのあるあの『赤』だった。
「あぁ、きっとこの先に」
私の望むものが、答えがある。行ってみよう。もう、此処には居られないから。みんなを騙して、人間面して、世界を滅ぼすかもしれない存在として見られるよりも、ずっと………
「アルトリアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
イッセーの声が聞こえる。いやまさか、未練がましいな。さようなら、イッセー。今まで、ありがとうございました。
「ん?此処は………」
「まさか本当に上手くいくとはな」
「えぇ、えぇ。勿論ですとも。何せ『白』の連中が大暴れしてくれましたからね。欠片ではありますが、新鮮な赤き龍の因子が手に入りました。この程度は出来て当然です」
気が付くと、アルトリアは魔法陣の中にいた。周りには様々な装いをした若い男女が数人、此方を取り囲むように立っている。
「お初にお目にかかります。我らが王よ。私の名はベディヴィエール。貴方にお仕えする騎士で御座います。早速ではございますが、儀式に掛からせて頂きます。ゲオルグ卿、準備を」
槍を持った男と話していた銀髪の優男が前に出て挨拶をする。此方が答える間もなく、彼は儀式とやらを始め出した。次の瞬間、地面に描かれた魔法陣が輝き出した!
「これは、一体何を!」
「ご安心ください、王よ。御身に害はございません。ただ、下界での記憶を失っていただくだけで御座います」
「!?」
状況は完全に呑み込めていない。だが、目の前の男が自分の記憶を奪おうとしている事だけは分かった!マズイ!と思って魔法陣からの脱出を試みるが身体が動かない。毒を盛られた?まさかこの魔法陣の影響か!?
あ、あぁ、消えていく。駒王学園の日々が、オカ研の日々が、兵藤家との日々が………
「(そん、な、いや、やめ、て………イッセー……)」
「それで、アルトリアはその光の門の先に消えてしまったのね」
アルトリアが消えた後、オカルト研究部のメンバーとサーゼクスを始めとした各勢力の首脳陣は兵藤邸に集合していた。議題は勿論、突如として消えたアルトリアの行方だ。
「ハイ。アルトリアの気配を追って山の中に入りました。そしたらアルトリアが赤い光の門に入っていくのが見えたんです。大声で呼んだんですけど、アイツまるで反応してませんでした」
『アルトリアの奴、半分以上意識を失っていたな。あの門に入っていったのは半分以上アイツの中に眠る『王』の機構によるものだろう。アーサーたちが言っていた、俺の力に反応する機能だ』
その場に居合わせたイッセーとドライグの証言に一同は考え込む。
『確かか、アザゼル』
「間違いない。アルトリアが消えたっていう地点、そこから赤龍帝の力の残滓を検知した。イッセーたちが見た赤い光の門は間違いなく赤龍帝の力によって生み出された物だ。だが、赤龍帝本人の力って訳でもなさそうだ」
『と、いうと?』
ミカエルからの疑問にアザゼルは手持ちの端末を操作する。すると広間と、魔法陣越しの全員の前に立体映像が映し出された。そこには何かのグラフが書かれている。
「それはイッセーが普段出しているエネルギーの波と、先日のディオドラとの試合で覇龍化した際の波、そしてさっき検出した残滓の記録だ」
『ふむ。赤龍帝の小僧が出している波形よりも、覇龍の波形に近いのぅ。という事は覇龍関係という事か?』
「恐らくな。つーか、オーディンの爺なら『眼』の力で分かるんじゃねぇのか?」
『馬鹿モン、そう易々と儂の眼を当てにするでないわ。そもそも今回の事態、なにやら視える景色に揺らぎがあるようでの。安定しておらんのよ』
オーディンのいう事はイッセーにはよく分からなかった。だが、神クラスでも対処に困るような事態であることは分かった。
「一体何が起きているというの……」
『分からない。だがエクスカリバーの使い手であるアルトリア卿が消えてしまったのは事実だ。大至急各勢力と連絡を取り合い、彼女の捜索を始めよう』
「表向きには、病気って事で通すしかねぇな。取り敢えず俺たち「裏」の系列の病院で面会謝絶、ベットにはダミーを寝かせておくか」
『それしかないでしょう。一刻も早く彼女を探さなくては、彼女の存在はこの世界に必要なものです』
そう言って対策を話し合う首脳陣とは対称的にオカルト研究部のメンバーは沈んだ顔を浮かべていた。先ほど自身の出生の秘密を知り、深く傷ついていた自分達の仲間が突如として行方をくらませたのである。
「アルトリアさん……」
「まさか行方をくらませるなんて」
「…先輩、何処に行ってしまったんでしょう」
「くッ、あの時無理やりにでも引き留めておけば!」
「責めないで、ゼノヴィア。こんな事になるなんて予想出来ないもの……」
イッセーは何も言えなかった。届かなかった、自分の声が。あと少し追いかけるのが早ければ連れ帰る事が出来たかもしれない。そんな後悔だけが彼の心に残っている。
この日、兵藤一誠は初めて、目の前で何かを失う事を知った。
◆
設定公開
アルトリア・ペンドラゴン
当初、自分の両親は亡くなったか、ペンドラゴン家の隠し子か忌子として捨てられたと思っていた。
しかしその正体は、生き残ったペンドラゴン家が1500年近い年月を賭けて生み出したアーサー王の現し身
かつて三大勢力の争いの際に現れた楽園の妖精を捕獲し、それを核に生み出された王の器というべき存在。
アーサー王の臣下の一部が、ブリテンの滅亡を認められず、アーサー王の肉体、精神、魂を再現して、この世に蘇らせ、再びブリテンの繁栄と悪魔を始めとした神秘の否定を成そうとして造られた。
長年の調整の末に完成間近のタイミングで、計画の実態を知ったウーサー・ペンドラゴンによって組織が壊滅、肉体はいつか来る日に備えて逃された。
生まれてから暫くは人格が希薄だったが、エムリスによって人並みの人格を得る。その後、各地の紛争地帯を回りながら戦いの経験を積み、遂に駒王町に流れ着く。
エムリス
かつて神滅具『
普段はネックレスの宝石から話しかけているが、余計なことを言わないように製作者から機能制限を受けている。
聖剣に眠る記憶によって円卓の騎士たちの力を再現する事が可能となっている。
制作した者たちは円卓の騎士をアーサー王を裏切った、見捨てた、守れなかった存在として侮蔑しているが、彼らの力のみは認めており、かの力を王自らが振るえばいいと考えた。
彼らは忠義者を気取っているが、実態はキャメロットの栄光に縋りついているだけであり、究極的には自分達の事しか考えていない。故に彼らは滅びたが、生み出した力が英雄として持て囃されているのは、何とも皮肉な話である。