前回に引き続き、遅れてしまい申し訳ありません。もしかすると今後はこれくらいの更新ペースになってしまうかもしれませんが、エタらず続けていこうと思います。調子が良ければペースも上がるかもしれませんのでなるべく早めに書ければと思います。
今回から修学旅行編となります。ここから数章に渡ってイッセーとアルトリアにとって重要な章になっていきますので精一杯書いていこうと思います。
よろしければ、今回もお気に入り登録や高評価、感想、それと『ここすき』をお願いします。
それでは第六十六話、どうぞ!
若手最強という『壁』
アルトリアが行方をくらませた翌日。イッセーたちはリアスの呼び出しによってオカルト研究部に集まっていた。
「部長、何かあったんですか?まさかアルトリアが見つかったとか!」
「残念だけど、彼女の行方はまだ分からないわ」
「そう、ですか……」
昨晩、オカルト研究部の部員が1人行方不明となった。彼女の名はアルトリア・ペンドラゴン。
8年前に突然駒王町に現れた彼女は、その手に伝説の聖剣エクスカリバーを携えていた。その特異性故に魔王サーゼクス・ルシファーは彼女を食客として迎え入れ、以来駒王町を守り続けてきた。そんな彼女が、消えたのだ。
兵藤一誠を始め、彼女と仲の良かったものたちは皆安否を心配し、今日一日学業に身が入っていなかった。
「みんなに新しい眷属を紹介するわ。入ってきて頂戴」
そういってリアスが呼ぶと、部室の扉から一人の女性が入ってきた。長く美しい銀色の髪、灰色のスーツを纏うその姿は正にデキるOLと呼ぶべきものだった。
「お久しぶりです、皆さん」
「ろ、ロスヴァイセさん!?」
そう。彼女の名はロスヴァイセ。かつて北欧神話の悪神ロキが聖書勢力との調印式を破壊しようとした際に共闘し、更に先日のディオドラとの戦いでもイリナ達と共に戦った北欧のヴァルキリーだ。
「どうしてロスヴァイセさんがここに?」
「まさか新しい眷属と言うのは」
「はい。この度、リアス・グレモリー様の『戦車』となりました。皆さん、よろしくお願いします」
そう言った彼女の背から悪魔の翼が飛び出す。あの時には無かったものだ。然も『戦車』、これでリアスの眷属は全て埋まった事になる。
「実はオーディン様から北欧との窓口を仰せつかったのですが、リアス様から勧誘を受けまして……こちらに転職しました!」
「て、転職!?」
「元々、彼女の持つ幅広い魔術の知識や高い火力には目を付けていたの。それでウチの魔術砲台として彼女をスカウトしたのよ。勿論北欧神話、天使堕天使側の許可は取り付けてるわ」
何時の間にそんなことを……主の手際の良さに、皆の沈んでいた空気は何処かへと吹っ飛んでいた。ロスヴァイセは前職で不満が溜まっていたのか保険金がどうの、基本給がどうのとニマニマしながら語っている。
「なにより私たちオカルト研究部は直ぐにでも戦力の穴を埋めなければならないわ。これまで高火力の切り札として頼ってきたアルトリアが居なくなってしまったんですもの」
「ッ!」
「アルトリアが何処に行ったのか、生きているのかどうかも分からないわ。でももし彼女が戻ってきたとき、私たちはいなくなってしまった負い目を感じさせないほどの笑顔で迎えてあげる必要がある。そのためには彼女が守ってきたこの町を私達で守り抜くことが先決よ」
リアスの眼には固い決意の色があった。いつまでも落ち込んではいられない。もし自分たちが沈んだままでは戻ってきた彼女に要らぬ心配をかけてしまう。そういう瞳だった。
「そうっすね。俺も落ち込むのは一旦止めます!ロスヴァイセさん、これからよろしくお願いします!」
「こちらこそお願いします」
イッセーが手を差し出すと、ロスヴァイセも握手する。
「ロスヴァイセには近いうちに駒王学園の教師になるなら、生徒会長のソーナさんへの挨拶も済ませないといけないわね。それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
◆
アルトリアが消え、ロスヴァイセが新たに加入した後も日々は過ぎていく。体育祭は無事に開催する事が出来た。前を向くことにしたイッセーはアーシアと共に二人三脚で見事一着を取ることが出来た。その後アーシアもまた思いを伝えたのだが、それはまた別のお話。
匙もまたパン食い競争で一着を飾った。アルトリアという壁がなくなった事によるところが大きいが、特訓自体はしていたようで本人は何やら疲れ切った顔をしていたが。
そうして日々が過ぎていき、その間にも大小様々な事件が起きたがここでは割愛させていただく。そうしているうちに季節は夏から秋へと移り変わり、駒王学園は修学旅行の季節へと移っていった。
皆は修学旅行の計画を立て始め、何処へ行きたい、どう回るべきか、と高校生活を彩る一大イベントに思いをはせていた。
そんな中、グレモリー眷属とイリナは冥界のグレモリー家に御呼ばれを受けていた。
「ほう、そこまでのビジョンを」
「はい、将来的にはグレモリー領に北欧魔術の学び舎を設立したり、悪魔の女性からヴァルキリーを輩出したりと新しい事業をしてみたいと思っております」
「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔できるなんて光栄の限りです!これも主と…魔王様のおかげですね!」
ロスヴァイセが自身のビジョンをグレモリー家当主ジオティクスに語り、イリナも楽しそうな様子である。修学旅行間近、グレモリー眷属とイリナはリアスの両親と共にグレモリー家のダイニングルームでお茶会をしていた。
リアスの眷属が揃ったので、記念として改めてのご両親に紹介することになったのだ。優雅に紅茶を楽しみながらの世間話。これも上流階級にとって嗜みの一つなのかね、とイッセーは使用人たちに囲まれてのお茶という環境にまだまだ慣れていない様子だった。
「ハハハ、ロスヴァイセさんは産業に関心をお持ちの様で、グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだ」
ジオティクスが朗らかに笑われていた。お茶を飲んでいたリアス先輩のお母さんがカップを置くと話題を切り替える。
「そういえば、一誠さん達二年生の皆さんは修学旅行間近でしたわね。日本の京都だったかしら?」
「は、はい。もうすぐ京都に行く予定です」
と、イッセーが答える。その言葉には緊張の色が見えるが、彼の中では夏休みの礼儀作法のレクチャーが頭に残っているらしい。礼儀に厳しい女性故、気が抜けないのだ。
「去年、リアスがお土産で買ってくれた京野菜のお漬物がとても美味しかったわね」
「あ、俺…自分が旅行先で購入してきます」
「あら…そういうつもりで言ったのではなかったのだけれど…。ごめんなさいね、気を遣わなくてもよろしいのよ?」
「気を遣ったわけではないですよ。お土産はどちみち買ってくるつもりだったので、喜んで貰える物がわかって良かったです」
イッセーの言葉を聞き、リアスの母ヴェネラナが口元を手で隠しながら頬を赤く染めた。悪魔にも漬物好きが居るのか、とイッセーはまた一つ覚えた。そのあとも他愛もない会話を続け、眷属勢揃いの記念お茶会は無事に終えていく。
お茶会を終えた一同は転移用魔方陣で家に帰ろうとしていた。が、その前に魔王サーゼクスがグレモリー本邸に戻っているというので、帰り際に挨拶だけでもということになった。
「僕も一緒に行きます!」
ミリキャスもまた父に会いたいということでリアスたちに同伴することに。一同はサーゼクスがグレモリー領に戻ってきた時に使われている区画へと向かう。すると通路でサーゼクスと黒髪の客人らしき人物と鉢合わせた。
「お邪魔している。元気そうだな、リアス、赤龍帝」
それは貴族服に身を包んだサイラオーグ・バアルであった。戦闘時ではない普通の状態でも覇気が全身からにじみ出ており、紫色の双眸はギラギラした闘志に満ちていた。
「ええ、来ていたのなら一言言ってくれても良かったのに。けれど、そちらも元気そうで何よりだわ。と、あいさつが遅れました。お兄様、ごきげんよう。こちらにお帰りになられているとうかがったものですから挨拶だけでもと思いまして」
「気を遣わなくても良かったのだが、すまないね。ありがとう」
サーゼクスは駆け寄って来た息子ミリキャスを抱きかかえながら微笑む。グレモリー領へと戻ってきたのはサイラオーグが関係してるのか?近く行われるゲームについてだろうか?そこで、リアスがサーゼクスに問いかける。
「お兄様、サイラオーグがここに来ていたのは…?」
「うむ。バアル領の特産である果物などをわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせてしまって悪いと思っていたところだ。今度是非共リアスをバアル家のお屋敷に向かわせようと話していたのだよ」
リアスの問いにサーゼクスが答えた。
「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールを一切除外してほしいとのことだ」
「―っ」
サーゼクスの言葉を聞き、リアスは驚き、そして目元を厳しくした。
「サイラオーグ。それはつまり、こちらの不確定要素も全て受け入れる、ということかしら?」
リアスの真剣な問いにサイラオーグは不敵に笑む。
「ああ、そういう事だ。時間を止めるヴァンパイアも女の服を弾き飛ばし、心の内を読む赤龍帝の技も、俺は全部許容したい。お前達の全力を受け止めずに大王家の次期当主を名乗れるはずがないからな」
『―っ!』
サイラオーグの告白にグレモリー眷属達は息を呑んだ。それがこの人の覚悟か…、こちらの全力を望んでいる。サイラオーグの眼力高い視線がリアスを捉え、そしてイッセーへと移る。
全身が冷え込むほど、凄まじい威圧感。悪意はない。邪悪なものも一切感じない。感じるのは純粋なまでの戦意だった。ヴァーリのように戦いを好むタイプでありながら、邪気をまるで感じさせない。戦闘狂のヴァーリに対して、此方は武闘家といった感じだった。
「…怖いですぅ。ぼ、僕の力を前向きに受け止める方がいるなんて…逆に怖いですよぉぉっ」
イッセーの後ろでガクガクしているギャスパー。彼からすれば自身の強力な時間停止を受け入れる度量そのものが強さの表れと言える。逆にイッセーはサイラオーグの女性眷属に自分の技を使えることに一種の喜びを感じていた。
「うむ、ちょうどいい。サイラオーグ、赤龍帝―――イッセー君と少し拳を交えたいと言っていたね?」
「ええ、確かに以前そう申し上げましたが…」
「軽くやってみたらいい。天龍の拳、その身で味わいたいのではないかな?」
まさかの展開にイッセーは驚いた。いきなり若手最強のサイラオーグさんと闘うなんて!?そんなイッセーをよそにサーゼクスはリアスに問う。
「リアス、どうだろうか?」
リアスはしばし考え込み、意を決したように答えた。
「…お兄様…いえ、魔王様がそうおっしゃるのでしたら、断る理由がありませんわ。イッセー、やれるわね?」
そう聞かれて、イッセーに断るという選択肢はなかった。敬愛する主の前で、朱乃さんやアーシアたちの前で格好悪い姿は見せられない。なによりいずれはぶつかる相手だ。今のうちから実力を知れるのはありがたい。
「……はい、俺でよかったら!」
「いいわ。イッセー、貴方の実力を彼に見せてあげなさい!」
イッセーとサイラオーグが視線を交わす中、サーゼクスがうなずく。
「では、私の前で若手ナンバーワンの拳と赤龍帝の拳、見せてくれ」
「これは良い機会をいただきました。存分にお見せしましょう、我が拳を…ッ!」
サーゼクスからの言葉にサイラオーグは気迫溢れる笑みを浮かべていた。そして一同はグレモリー邸の敷地内にあるトレーニング場へと向かった。古代ローマの闘技場を模したようなバトルフィールドにイッセーとサイラオーグが向かい合う。
リアスたちは観客席らしきところに座り、ミリキャスは母グレイフィアに連れられて他の場所で待機することになった。
眼前でサイラオーグは貴族服を脱ぎ、グレーのアンダーウェア姿を晒す。アンダーウェアの上からでもわかる、見事なまでの肉体。盛り上がる程に鍛え上げられた筋肉はまるで鎧の様だ。
「では双方、始めてくれたまえ」
「ハイ!行くぞドライグ!」
『任せろ』
イッセーは籠手を出現させると素早く禁手のカウントを始めた。アルトリアが居なくなってからもイッセーは修行を欠かした事は無い。それによって『禁手』を発動するまでの時間を減らし、鎧姿でいられる時間を大きく伸ばす事ができた。
が、溜めの無い状態だとこうしてカウントを行う必要があるのだが、その間サイラオーグは特に何もしてこない。
「 (……余裕ってわけじゃないな。単に俺の全力が見たいから、余計なことをしたくないんだろう。) 」
そのことはここにいる全員が理解していた。眷属の皆、部長が見ている前で無様な姿は見せられない。勝てないまでもいい線まではいきたいところだね──そんなことを考えている間にカウントが終わった!
『
音声と共に赤い閃光が籠手から発生し、イッセーの体を包み込む。赤いオーラが鎧を形作っていき、背中にドラゴンの翼を大きく広げた。
イッセーがサイラオーグの戦いを見たのは一度、グラシャラボラス家との試合ビデオを見たときだけだ。あの時点で彼は『騎士』の祐斗すら舌を巻くスピードを有していた。彼にスピードで劣るイッセーよりも、間違いなくサイラオーグは素早い。
それが分かっているイッセーは玉砕覚悟でと初手の一撃を繰りだす!
ゴォォォオオオオオッ!!
背中のブーストを最大に噴かし、一気に距離を詰める。右拳を引き、全力のストレートを放とうとする。
が、サイラオーグは避けない。真っ正面から拳を放とうとしているなか、彼は避ける素振りすら見せない。真正面から受け止めるつもりだ。その挑発とも取れる行動にもひるまず、イッセーは拳を放つ!
ゴンッ!
盛大な打突音を鳴り響かせて、真っ赤な右ストレートがサイラオーグの顔面に食い込む!完璧なクリーンヒット、サイラオーグの身体が数m下がる。
「ッ!」
攻撃を当てた瞬間、イッセーは言い知れない不気味な寒気を感じた。渾身の一撃を与えたにも拘わらず、改めて攻撃の態勢になる。
「いい拳だ。真っ直ぐで、強い想いが込められた純粋な拳打。並みの悪魔ならこれで終わる」
首を鳴らしながら、サイラオーグは殴られた部分を指でさすり、笑みを見せた。サイラオーグには傷一つなかった。『倍加』で強化していなかったとはいえ渾身の一撃を放った。防御術式も何もない、純粋な肉体強度で受けたのだ。
「だが…」フッ。
眼前のサイラオーグが消え。
「俺は別だ」
次に聞こえたのはイッセーの背後だった!
ドッ!ガギァンッ!
サイラオーグの拳がイッセーに放たれる!咄嗟に腕をクロスして攻撃を受け止めた!だが、今の衝撃で腕の感覚が無い!腕を見れば、鎧の籠手部分が大きくひしゃげていた。なんというスピード、なんという重さ。汗が噴き出す感覚をイッセーは覚えた。
「 (イッテェ………けど、指の感覚が戻ってきた)ドライグ、籠手の再形成を頼む」
『ああ、わかった』
赤いオーラが両腕を包み、再び籠手を形作る。すぐ立て直した様子にサイラオーグが感心するように笑んだ。
「ほう、吹っ飛びはしなかったか。まあ、今のはあいさつ代わりだ」
その発言にイッセーはゾッとした。今のがあいさつ代わり!?今まで様々な強敵と相対してきた。だが、ただのパンチで鎧を壊せるほどの一撃を放つ相手は初めてだった。
「俺の武器は三つだ。頑丈な体、動ける足、体術。いくぞッ!」スッ!
また目の前から消えた!横か!?瞬時に横から現れたサイラオーグのボディブローに、イッセーは身を捻って避けるが。
ブゥゥゥゥンッ!
風を殴り切る音が響く。ジェット機の騒音にも聞こえるそれは拳圧の音だった。驚く間もなく、ミシッ…と鈍い音と共にイッセーの脇腹に痛みが走る。今の一撃を僅かだが受けていたのだ。それでも掠った程度、だというのに痛みを感じている。
「クソ!」
イッセーは毒づきながらも、拳を打ち出す!
ゴッ!
対するサイラオーグはまた避けずに顔面で受けた。目立ったダメージはない。すかさずカウンターが来ると感じ、イッセーは後ろに飛び退いた。
ズァァァァアアッ!
サイラオーグの蹴りが空振りする。が、空振りした蹴りの威力は舗装されたトレーニング場の床を中央から端まで割き、大きな亀裂を生み出すほどだった。もしあれが直撃してたら、と考えると冷たい物が背中を駆け抜けていく。
強い。とんでもなく。本当に部長やディオドラ・アスタロトと同じ世代の悪魔なのかよ!?と、余りの強さにイッセーは心の中でつぶやく。
『ああ、こいつは驚いた。このバアル家の男はパワーを極限にまで高めたようだ。攻撃力を伸ばしに伸ばしたパワータイプだな。これはおもしろい。単純な破壊力を腕力に求めた男。あまりに極端すぎて興味が湧くぞ』
あまりの例外っぷりにドライグも興が乗り始めていた。サイラオーグ・バアル、滅びの魔力を持って生まれなかった大王家の悪魔。残されたのは体のみ。それをただひたすらに鍛えて次期当主となった、そこに至るまでの鍛え方が尋常な物ではない事は誰の目にも明らかだった。
「凄いですね。その強さになるまで、全部、鍛えたんですか?」
イッセーの問いにサイラオーグさんは言う。
「己の身体を信じてきただけだ」
ただ一言、その一言だけでイッセーはサイラオーグへの畏敬の念を強くした。強い人だ、だからこそ、どこまで戦えるか試したくなった!
そう感じたイッセーは先日、現魔王たちの仕掛けたトンチキに巻き込まれた際にアジュカ・ベルゼブブから言われた事を思い出していた。イッセーに埋め込まれた『悪魔の駒』、それが『覇龍』の影響で変質していると、そしてそれは今後の自分の選択によって新たな力を齎す扉となると。その後も様々なアドバイスを貰ったのだが、今回思いついたのはイッセー自身と駒の役割の相性について。
「『戦車』にプロモーションッ!」
イッセーは宣言し、『戦車』にプロモーションした。
「『戦車』だと?」
その昇格に怪訝な表情を浮かべるサイラオーグ。『兵士』は普通強敵と相対した場合、『女王』になるのが常識的な行動だからだ。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
そして増加したドラゴンのパワーを防御に回す。更に、右の拳に力を込める──。
ゴッ!
真っ正面に現れたサイラオーグが、イッセーの腹部に強烈なブローを放つ!強烈な衝撃と拳圧が腹から背中を貫いた!
……ごふっ。
全身のすべてをごっそり持っていかれるような感覚と共に激痛がイッセーの体内を駆け巡る!衝撃で足がガクガクと震えるが、どっしりと構えていたイッセーはそのまま立ち続けていた。なんとか意識を繋ぎとめたイッセーは瞬時に状況を確認する。
「(鎧の腹部は破損しているが、完全に打ち砕かれたわけじゃない!サイラオーグさんも今の一撃は手ごたえを感じている筈!)」
サイラオーグが拳を引く瞬間、イッセーは相手の顔面に右ストレートを鋭く打ち込む!
ガンッ!
ぶ厚い巨岩に拳を打ち込んだような感触、だが小さく打ち砕く感覚も手には生まれていた。
ブッ!
サイラオーグの鼻と口から少しだが血が噴き出た。が、同時に――
「ガハッ!」
イッセーもまた兜のマスクから血を噴き出させていた。殴られた腹から血が上がってきたのだ。間違いなく臓器にダメージがいっているが、『戦車』の耐久力と気合で持ちこたえている。
イッセーが試したかったもの、それは『禁手』とプロモーションの組み合わせ。アジュカは、駒の変質が神器に寄るものという点から二つは密接に関係しているのでは考えていた。神器が駒に影響を与えるなら、駒がプロモーションすれば神器にも影響を与えるのではないかと。それで試したのが『戦車』による攻撃と防御の上昇を鎧にも影響させられないかというものだった。
「(結果は成功!さっきはすぐ修復しなきゃいけない位ボロボロだったけど、耐えれてる!攻撃もサイラオーグさんに血を出させるくらいまで上がってる!) 」
圧倒的強さを誇るサイラオーグを出血させた。届く、自分の拳は若手最強の悪魔に届く!その自信はイッセーの身体に活力を齎していた。今は勝てないかもしれない、それでも腕の一本は持っていく!そう考えていると、鼻血を拭ったサイラオーグが笑みを浮かべた。
「……『戦車』への昇格か、誤った判断でもなさそうだ。こちらも力を込めて拳を放ったのだがな。おまえの『戦車』としての攻撃と防御は見事だった。やることとやれることが多くなる『女王』よりも攻守のみが高まる『戦車』のほうがパワータイプのおまえには似合っているのかもしれないな…………どうした?体から疑問が見られる。俺が相手では問題か?」
「いえ、なんていうか……。上級悪魔の方で、俺のことを……その、バカにする人が多かったので……。サイラオーグさんは最初からマジできているから驚いているんです」
これまでイッセーは悪魔社会に根付く階級意識とそれによる嘲笑を上級悪魔から受け続けていた。そんな中で彼らと同じ上級悪魔であるサイラオーグは、真正面からイッセーと向き合っている。それが不思議だった。
「そうか。おまえは、いままで過小評価を受けてきたのか。安心しろ。俺はおまえを過小評価などしない。旧魔王派の幹部、北欧の悪神ロキと真っ正面から戦い、生き残ったおまえをどうして過小評価などできようか!」
その一言は、全身が震えるほどにうれしいものだった。サイラオーグが不敵に笑む。
「俺はおまえと戦うのが楽しいぞ。いい拳を放ってくれるからな。鼻血を流したのは久しぶりだ。何より同じタイプと相対した喜びは大きい。その拳、鍛え込んでいるのだろう?一発食らえばわかる。──遠慮するな。俺を全力で殴り倒しに来い。そのためにこの場に立っているのだろう?」
サイラオーグが浮かべる男気溢れる笑みにイッセーは引き込まれていた。ここまで認めてくれる悪魔は初めてだった。いずれは倒さなければいけない相手であるにもかかわらず、イッセーは同じパワータイプとして色々話してみたいと感じていた。
イッセーは拳を突きだし、構える。既に鎧の修復も済んでいる。さっきは腕の一本と考えていた目標は両腕へと変わっていた。ここまでの誠意を見せてくれた相手には此方も精一杯の戦果で報いるのが筋だと考えたのだ。
「来い! 兵藤一誠!俺を打倒することだけ考えろッ!赤龍帝の力を俺に見せてみろッッ!」
「ええ、いきますよッ!」
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
吶喊してくるサイラオーグ。それに対してイッセーはドラゴンショットの弾幕で迎え撃った。が、サイラオーグはそれらを拳打で薙ぎ払い距離を詰めてくる。
今のイッセーは『戦車』、魔力のブーストが掛かっていない状態だ。『僧侶』に変われば話も違うのだろうが、サイラオーグ相手には悪手だろう。切り替えて、再び肉弾戦に持ち込む構えを取った。
「!やはりそう来るか。来いッ!打ち込んでみろ!」
「ハイッ!」
イッセーの狙いを察したサイラオーグもまた反撃の構えを取った。その時
「イッセーさん!」
突然、アーシアが叫んだ。何事かとイッセーが視線を送ると、アーシアが続ける。
「パ、パワーアップです! お、お、お、お、おっぱいを触ればイッセーさんはもっと強くなるんです!」
「…………へ?」
アーシアの叫びに全員が間の抜けた顔になっていた。イッセーもサイラオーグも拳を止めてしまう。しかし、ゼノヴィアがハッと気づいてアーシアに続く。
「そ、そうか!イッセーはおっぱいドラゴンだ!私たちの胸を触れば力が増す!部長!どうか、ここでスイッチ姫のお役目を披露していただきたい!」
「リアスお姉さま!わ、私でもかまいません!どうか、イッセーさんにお、お、おっぱいの力を!このままでは負けちゃいます!」
ゼノヴィアが、アーシアがリアスに懇願していた。スイッチ姫、それはイッセーがモデル兼主役の特撮番組『おっぱいドラゴン』に登場するヒロインだ。当然というべきかモデル兼女優をリアスが務めており、元々の人気も相まって冥界において絶大なブームを巻き起こしている。
そんなスイッチ姫だが、元ネタ準拠ともいうべきか随所におっぱい要素がある。強化もまたおっぱいを触ってなされているのだ。そんな理由を知ってか知らずか、リアスは二人の突然の申し出に困惑している様子だった。
「そ、そうですぅぅっ!先輩は部長のおっぱいでいくらでも強くなれるんですから!」
「そうね!イッセーくんの性欲はパワーの源だわ!」
ギャスパーやイリナもそうだそうだ、と加わりだす。
「……乳を触ると本当に強くなるのか?噂ばかりだと思っていたのだが」
「……本当です」
まさかの事態にサイラオーグも困惑を隠せないでいるが、小猫がきっぱりと肯定した。ここ最近で乳龍帝の名は冥界に轟きつつある。
「うふふ、それでどうするの?リアス?」
「……さ、触る……の?あ、あなたが強くなりたいなら、わ、私は……」
頬を赤らめるリアス。従兄弟もいるこの場で、それで良いのですか!?と、アルトリアが居ればツッコミそうなカオスな場面だ。
「毎度こういうノリなのですか?うーん、アースガルドにはない文化ですね……」
ロスヴァイセも呆れつつ、悪魔に対して壮絶に勘違いをしていた。裕斗も苦笑し、やれやれといったような様子だ。
「ふ。ふはははははははははっ!」
サイラオーグが豪快に笑う。従姉妹が辱めを受けてるとも見えかねない状況で、とても愉快そうだった。
「なるほど、リアスの胸で強くなれるのか。ふふふ、それは覚えておこう。──赤龍帝、ここまでにしようか」
「!?俺はまだ戦えますよ!」
サイラオーグからの提案に反論する。イッセーからすれば、先ほどのダメージが足に来てるがまだ立てている。なら戦えると考えていた。しかし、サイラオーグは首を横に振る。
「いい覇気を放ってくれる。だろうな。俺もまだまだ戦える。──だが、これ以上やると、俺の歯止めが利かなくなる。最後の一撃まで味わってしまう。それではあまりにもったいない。おまえはいま何かに目覚めようとしている最中なのだろう?」
サイラオーグは分かっていた。あの『戦車』へのプロモーション、あれは自分に対抗する為の試行錯誤の一つだと。サイラオーグさんは貴族服を拾い、イッセーに歩み寄って、肩に手を置いた。
「ならばそれを得てからだ。最高の状態で殴り合う。それこそが、俺の求める赤龍帝との戦闘だ。俺達の勝負は、後日のレーティングゲームで決めるべきだ。上役の方々と大衆の前で拳を交わしてこそ、俺達の評価が決まる。俺にもお前にも夢があるのだから、そこで再び見えよう。リアス、リアスの眷属達、次に出会うのは夢に繋げるための舞台でだ。来い。俺は全力でお前達を打ち倒す」
サイラオーグはそれだけ言い残し、サーゼクスに挨拶した後、この場を去っていった。戦いの緊張感がすっかり解けて、イッセーは変身を解除する。そこへ、サーゼクスが近づき、訊いてきた。
「どうだったかな?彼の一撃は?」
「…似てました。俺の拳にそっくりで驚きましたよ」
サーゼクスは頷き微笑んだ。
「うむ、君と同じだよ。足りないものを補おうと必死で練り上げられたものだ。それゆえに力強い。全てがストレートな攻撃。それは悪魔にないものだ」
魔力という悪魔にとっての当たり前の才に恵まれなかったが故の鍛錬された肉体。
「ちなみに彼は両手両足に負荷のかかる封印を施して先ほど戦っていた」
サーゼクスからの衝撃の告白にイッセーは驚きつつも、納得していた。やはり彼は自分の先に立っているのだと。距離が遠のいたというのにイッセーはワクワクを抑えられないでいた。
「彼はもうプロの『王』と比べてもなんら遜色はない。『禍の団』のテロも何度か防止し、悪魔側に勝利をもたらしている。しかし、イッセーくん。大したものだよ。あのサイラオーグと拳を交えてなおも戦闘意識を失わないとは。彼と相対した者のなかには軽い手合わせでも戦意を喪失した者が出たほどだ。自慢の魔力が通じず、肉体のみで圧倒されれば、高い魔力こそがステータスの悪魔では心が折れてしまう。上級──位が高い家の者ほどプライドが高く、一度折れたら再起が難しい」
「俺は……もう負けたくない、失いたくないだけです。レーティングゲームで負けたくない、もう二度と誰かを失いたくないんです。だから、次こそは──」
そういってイッセーは拳を握りしめた。アルトリア・ペンドラゴン、バディともいうべき幼馴染の行方は依然として分かっていない。
これまで様々な戦いを経てきたイッセーだが、その多くで何かを守ることが出来ていた。アーシアの命は二度の脅威から救われ、敬愛するリアスもライザーから守れた。駒王町を堕天使の幹部から守り、黒歌を始めとする『禍の団』も退け、神が相手であっても皆の力で乗り越えてきた。
だが、今回のアルトリアの件は明確に取りこぼしてしまった。救いの手は届かなかった。その経験はイッセーの心の底に暗い影を残し続けている。
「お兄様、アルトリアの件はやはり…」
「あぁ、依然として行方は分かっていない。セラフォルーやミカエルを通じて各神話体系に確認を取っているが……」
サーゼクス達もまた消えたアルトリアの行方を追っているが、彼女の目撃情報は入ってこない。
「だが、気になる情報もある。彼女の行方不明と前後してだが、『禍の団』の一派閥『英雄派』がここ最近世界各地で活発にテロを起こしている」
「『英雄派』、確か駒王町にも先日侵入してきましたよね」
「えぇ、その全員が神器持ちだったわね。英雄、嫌な繋がり方ね……」
英雄派と騎士王の写し身であるアルトリア、関連があるように感じてしまう。
「旧魔王派が弱体化した今、彼等の動きには注視せざるを得ない。君たちも用心してくれ」
そういってサーゼクスはトレーニング場を後にした。『禍の団』、サイラオーグ、イッセーたちの前に立ちはだかる物は様々ある。しかし立ち止まることは出来ない。いつか帰ってくる仲間の為にも彼等はもっともっと強くならなければならないのだ。
決意を胸に、オカルト研究部もまたトレーニング場を後にするのであった。
◆
これはグレモリー家でのサイラオーグとの戦いから少し前の出来事。グレモリー眷属とイリナのオカルト研究部一行は『禍の団』の侵入を検知し、討伐へと赴いていた。
場所はとある廃工場。そこには三人の衣装の異なる男たちと、それを囲う様にして並ぶ百を超える異形たちがいた。
ディオドラ・アスタロトの件以降、旧魔王派が壊滅的な被害を負ったことで『禍の団』の中の別派閥であり、人間の英雄、勇者の末裔、神器所有者で構成された『英雄派』という者たちが、リアスやソーナの縄張りである駒王町や各勢力の拠点に襲撃を仕掛けてきていたのだ。今回もそういった小規模な襲撃の一つである。そして、襲撃者たちも当然神器所有者であった。
黒いコートの男は、両手から出る白い炎を操る『
とは言っても、神器使いが三人揃おうと百の異形を従えていようと今の一誠たちを相手にするには戦力不足。
イッセーが禁手化し、『赤龍帝の鎧』を纏って加速し突っ込めばそれだけで二十近い異形たちが粉砕される。ゼノヴィアがデュランダルを一閃すれば、同じく二十の異形たちが両断される。ギャスパーがその眼で異形たちを見れば、瞬く間にそれらは時間停止され、リアスの魔力と朱乃の雷光、ロスヴァイセの魔術によって跡形も無く消し飛ばされる。
単純な戦闘力ならば中級の悪魔に匹敵する異形たちを軽々と薙ぎ倒していく。
しかし、神器使いも異形たちを目晦まし程度にしか考えておらず、隙を狙って神器を使ってくるが、最前線で戦うイッセーとゼノヴィアは自身らが最上級の武具を扱っている為、禁手に至っていない神器を恐れる道理など無い。仮に負傷したとしてもアーシアの治癒系神器『聖母の微笑』によって治すことが出来る。しかも、神器使いとして成長した彼女は直接触れなくても離れた場所にいる相手すら傷を癒すことが可能。
そのアーシアを守るはイリナと小猫。光の剣と、一撃で相手を戦闘不能状態にまで追い込める猫魈の仙術が彼女を守護する壁となる。
何重もの矛と盾が勝ち目を奪う。無論、英雄派の神器使いたちも過去に戦った者たちの情報を基にして戦い方を変えたり工夫などしているが、実力差を埋めるに至らない。結果からすれば危な気なく一誠たちは英雄派たちに勝った。しかし、快勝という訳でなく幾つか問題も残った。
黒いコートの男と民族衣装の男を捕縛することが出来たが、サングラスの男には逃げられてしまっていた。
そのサングラスの男、魔法陣で逃走する直前に不穏な動きを見せていた。影から別の影へ転送させるサポート用の神器だったが、自らに影を纏い始め、廃工場を浸食する様に影を広げていた。
その変化に全員が悪寒を覚えた。神器が別の領域へと入っていく感覚。即ち禁手への予兆である。
こうしてオカルト研究部は一抹の不安を残しながらも、アルトリア抜きでの戦闘経験を積んでいった。
◆
そこは何処とも知れぬ秘密基地、『禍の団』の一派閥、英雄派拠点である。その一室、転送室に先ほど撤退した影使いの男が転移してきた。戦闘によって消耗してきた彼は、極度の緊張からの解放でその場にへたり込んでしまう。
「ハァッ、ハァッ………」
「戻りましたか、我が騎士。サー・コンラよ」
先程イッセーに倒された影使いの男、コンラの前に1人の騎士が立つ。全身を赤い竜の如き意匠の鎧に身を包んだその騎士は、威厳を漂わせる声でそう告げた。
「騎士王、様……」
「卿がその身に纏う影、恐らく卿の盾のあり方が形を変えたのだろう。卿の守りはサー・ギャラハットを思わせる硬さを持つ」
「ハァッ、光栄、です……」
「その硬き守りで魔を飲み込む盾となる事を期待する。下がれ、今は身体を休めよ」
「!ハッ!」
そう言って、騎士王と呼ばれた騎士は
「
「やったな!陛下から誉められたぞ!」
「あぁ、けどまだまだだ。あの赤龍帝の纏ってた鎧には及ばない。けどいつかは超えてやる。そして曹操さんと、騎士王様の為にこの力を奮ってみせるさ」
「陛下、御自らがお褒めにならずとも……」
「ベディヴィエール。サー・コンラは力を示した。それに直言をもって報いるのは王として当然の事だ」
「ハッ、出過ぎた事を申しました」
「よい。それで、サー・
「ハイ。王をお待ちです」
「すぐ向かおう。狐狩りの計画を詰めねばならないからな」
「御意に」