今回からイッセー達の修学旅行がスタートします。筆者が京都の大学に通っていたのでこの章は色々と思い出深いお話ですね。書く為に原作読んだりアニメ見たりしてますが、特にアニメは馴染み深い景色が出まくってるので感慨深いです。何だかんだ自由な大学時代が懐かしいです。
また今回も型月から英雄派に追加メンバーが出てきます。京都と妖怪と言えばこの英雄を欠かすことは出来ないでしょう。まぁ、とある役割のために生えてきたと言われればそれまでなのですか
よろしければ、今回もお気に入り登録や高評価、感想、それと『ここすき』をお願いします。
それでは第六十八話、どうぞ!
♪~
『ご乗車ありがとうございました。間もなく京都です。お出口は右側です』
アナウンスが流れる。新幹線が京都に到着したのだ。新幹線が駅のホームに停車し、生徒たちは荷物を持って、そのままホームへ出た。
「ついに京都か!思っていたより広いな!」
京都駅の天井は広いアトリウムになっている。改札を抜けた先には10階層ある駅を繋ぐ長大なエスカレーターが伸びており、天井近くには空中廊下が通っている。
「見ろ、アーシア!伊勢丹だ!」
「は、はい、ゼノヴィアさん!伊勢丹です!」
興奮気味のゼノヴィアとアーシア。伊勢丹は関東にもあるのだが、それだけでなくどこにでもあるものでもあれこれと指さして反応し合っている。
「天界にもこんな素敵な駅が欲しいわ!」
イリナは違う方向で京都駅に興味津々のようだ。
「集合場所はホテル一階ホールだったわね。ほーら、男子ぃ、あとアーシア、ゼノヴィアっち、イリナさんも駅に夢中になるのもいいけどが、さっさと集まらないと午後の自由時間が無くなるわよ」
班のまとめ役である桐生が一同に声をかけてくる。全員集まると、桐生はしおりを取り出して集合場所を確認していた。
「さて、ホテルは駅周辺か…。今出てきたのが西改札だから…バス停の方面に出て、右方向ながら……」
桐生の案内で駅の外へ出ようとしたその時だった。
「きゃー!痴漢!」
突如、駅内で女性の悲鳴が聞こえてくる。
「お、おっぱいを…」
「オイ!何やってんだアンタ!」
見ると男性が手をわしゃわしゃさせながら、痴漢行為を行ってたが、周りにいた男性たちに取り押さえられていた。
「京都も物騒だな」
とは元浜の感想。世界的に有名な都市となれば色んな人が集まるなとイッセーも思い、一行は駅を出て数分ほど歩く。すると大きな高級ホテルが姿を現した。その名は『京都サーゼクスホテル』、そのままの名前だが、魔王の名前は京都でも影響力を持っている事の証明ともいえる。因みに今回駒王学園生は泊まらないが、少し離れたところには『京都セラフォルーホテル』が建っている。まさか妹たちの為に立てたとかではないだろうな…とイッセーは有り得そうな事を妄想する。
従業員に案内されて中に入ると、やや落ち着いた外観とは裏腹に内観は豪華絢爛な意匠となっていた。中にいる駒王学園の生徒たちは皆その煌びやかな内装に圧倒されている。しかし、一部メンバーの反応は薄かった。
「うーむ、すごいと思うが部長のお宅に比べると若干見劣りするか」
ゼノヴィアはそういうが、冥界の大貴族の本邸と一高級ホテルでは流石に前者が上回るというものだ。ロビーから少し進んだ先にホールの入り口が見える。入ると、広いホールには既にかなりの数の駒王学園の生徒が集まっていた。時間が来ると各クラス、班ごとに点呼が始まり、いない人の確認などが始まった。
確認が完了すると、引率であるロスヴァイセが注意事項を話すのか、生徒達の前に立った。
「お前ら、ロスヴァイセ先生から注意事項があるそうだ」
「……皆さん、ここから近くの百円均一のショップは京都駅にあります!地下ショッピングセンターです!お金は天下「よし、ロスヴァイセ先生からは以上だ。これから各自、部屋に移動してもらう」の周り物。あれやこれやと使っていたらすぐになくなり………」
まさかの百均ショップの話を始めたロスヴァイセを遮り、同じく引率のアザゼルが各部屋のカードキーを配り始めた。裏ですごい熱弁しているが、全員既に話半分であり皆アザゼルの元へ向かっていった。
ロスヴァイセ。最初こそ品行方正な元ヴァルキリー兼先生としてふるまっていた彼女だが、日本に来てから百均にハマったらしく、隙あらば百均トークを始めてしまう。
ロスヴァイセが話し終わった後、アザゼルから他の先生に交代した、その先生から最終確認が始まる。
「それでは部屋に荷物を置いたら、午後五時半まで自由行動をしていいですが、遠出は控えてください。範囲は京都駅周辺までとします。五時半までには部屋に戻るように」
『はーい』
二年生全員の返事でホールでの点呼及びホテル内の注意諸々、午後の行動についての説明が終了した。各々荷物を持って、ホテル出入り口でホテルの従業員から部屋のキーを受け取る。このホテルは基本洋室の二人部屋らしく、これだけ豪華なホテルだから部屋も期待が出来る。そう誰もが考えていた。
だが、ここに例外が居る!
「はあ!?なんでここだけ和式なんだよ!?」
そこは生徒達の泊まる部屋とは別の階。廊下の隅に一部屋だけ明らかに他と違う和風な引き戸が設置されていた。イッセーが驚きながらも中へ入ると内装を見てさらに驚く。そこには古ぼけたテレビに丸テーブルしかなく、部屋の広さは八畳一間だ。
「ここが、俺の部屋………?」
「あはははははは!マジかよ!この部屋だけ和室じゃん!しかも八畳ぐらいか?いやー、イッセー専用だな!」
「ベットではなく敷布団か。しかも一人だけ。これは……旅行資金のやりくりがこんなところに影響を及ぼしたのか?ま、頑張れ!」
すると部屋を確認して上機嫌らしい松田と元浜が煽りに来た。カメラのフォルダに収まる撮られた洋室との差にイッセーは涙を流す。
「イッセーくん、ここに来てますか?」
「あ、ロスヴァイセ先生!」
そこへロスヴァイセが様子を見に来た。涙を溜めながらイッセーは待遇の差に抗議を入れる。
「ロスヴァイセさん!いくらなんでも俺だけこの部屋ってのは……」
「我慢してください。いちおうこの部屋は私たちが話し合うときに使うようリアスさんが用意してくれた場所でもあります」
「部長が?あぁ、悪魔の」
「京都で何かあったときに話し合いができるところは確保しておいて損なしですよ」
「なるほど、ってそれ俺の部屋でやらなくてもいいじゃないですか!」
「我慢してくださいね、イッセーくん」
小声で諭すようにロスヴァイセがイッセーの肩に手を置くと改めてそこにいた3人に言う。
「というわけで、私は教師の会合があるのであとは任せます。午後は自由行動ができるといってもハメを外さないように。…京都の皆さんに迷惑をかけてはダメですよ?」
「「「はーい」」」
3人は元気よく返事する。それを確認するとロスヴァイセは何やら小声で言いながら歩いていく。「アザゼル」「相談」「グリゴリ」と、文句らしき言葉をつぶやいてる姿にイッセーは早速遊びに回り始めたらしいオカ研顧問の姿を脳裏に浮かべた。
すると、元浜が京都の地図を出しながら声を掛けてくる。
「なあ、イッセー。午後の自由時間、本来の予定にはないけど伏見稲荷にいかないか?」
「伏見稲荷?あー、鳥居がすげー並んでいるところか?」
「そうそう。京都駅から一駅で行けるんだとさ。さっき、他の先生に訊いたらOKが出たんだ」
「へぇ、先生の了承得てるなら行って損ないかもな」
イッセーの意見に松田もカメラのレンズを拭きながら言う。
「行けるところは行ける時に行かないと京都の名所は見て回れないぜ?」
「じゃあ、アーシア達も誘って行くか!」
イッセーの提案に二人が応じる。
「「おーっ!」」
◆
京都駅から一駅進んだところに「稲荷駅」があり、そこから下車することで伏見稲荷への参道に入る事が出来る。イッセー達は電車に数分揺られて稲荷駅へと到着した。
「おーっ、見ろ、アーシア、イリナ。珍しいものが沢山店頭に並んでいるぞ」
「わー、かわいい狐ばかりですね」
「ここでお土産ちょこっと買ってもお小遣い足りるかしら?」
着いて早々教会トリオはさっそく京都の空気を堪能していた。こうして楽しんでいるところを見ると普通の女学生と何ら変わらないなと、アーシアを見て思うイッセー。
「美少女トリオの京都風景。まずは一枚目!」
そんなアーシア達を松田がパシャリと撮影する。
「ちょっと、私は撮らないの?ほらほらぁ」
それに対して桐生が半眼で物申しながら、ポーズを撮る。その姿に松田は露骨に嫌そうにしている。桐生が射線を切っている間に教会トリオはイッセーと共に本殿方向へと向かった。
一番鳥居を抜け、大きな門が現れる。伏見稲荷大社の楼門だ。威厳漂う赤い門の両脇には狛犬の様な狐の像が立っている。
「…魔除けの像だな。本来なら、私達魔なる存在を寄せ付けない力があるのだが、例のパスのおかげで騒ぎは起きないようだ」
と、ゼノヴィアがスカートのポケットからパスを取り出して見る。
「やっぱり、見られているか?」
そう言ってイッセーが楼門を見上げると二階部分の隙間から狐面の神主らしき男が見下ろしていた。駅に降りてから、イッセーたちは常に誰かの視線を感じていた。今の様に監視されているのだ。
「ま、当然だろう。私達は悪魔と天使だ。ここを司る者にとってみれば外部からの異質的存在だ。事前に話は行っているだろうが、それでも一応の監視はするのだろう」
古い歴史を持つ京都には様々な妖怪伝説が残っている、即ち日本の超常的な存在が集まっているという事だ。長い間この地で生きてきた彼らからすれば、西洋由来の悪魔や天使はなわばりに入ってきた部外者にあたる。幾らパスがあるといっても警戒しないわけではない。
そんな目を気にしつつも無事に門を抜け、そこから進むと本殿。さらに歩くと稲荷山に登れる
階段が見えてくる。各々が写真をとりながら進んでいると、ついに千本鳥居を見ながら山登りという挑戦をすることになる。
「…ぜーはー…ま、待ってくれ…。どうしてお前達はそんなに動けるんだ…?」
歩き始めてから数十分後、元浜はすでに息が上がっていた。松田がため息をはきながら階段の上から言う。
「おいおい、元浜。情けないぞ。アーシアちゃん達だってまだ元気だってのに」
松田は運動神経はいい。これぐらいなら問題なく登れる。そしてイッセー達は悪魔、基礎能力は並の人間を大きく上回っている。加えて常日頃から訓練を重ねているため、この程度では音を挙げない。タンニーンとの修行に比べれば、イッセーにとって文字通りの散歩でしかなかった。
途中、休憩所の店を見ながらも伏見山への挑戦は続く。元浜はすでに息切れ状態だった。
「おー、絶景という奴かな」
「はい、素晴らしいです!」
「なら、写真に収めておきましょうか。そういや、この山は地元の学校の走り込みコースでもあるそうよ。今日は走っていない見たいだけど」
ゼノヴィアとアーシアが伏見稲荷の山風景に感動し、桐生が地元の情報を教えてくれながらカメラで風景を収めていた。まだまだ先は長いが、イッセーの体力は余裕で残っている。ふと、このまま一気に頂上まで登りたくなったイッセーは皆に断りをいれた。
「わりぃ、俺、ちょいとお先にてっぺんまで行ってみるわ」
イッセーは他の観光客の邪魔にならないように階段を上がっていく。とにかく上へ上へと、鍛え上げられた能力を活用しながら登っていった。少しすると頂上らしき場所に出た。周りには誰もおらず、そこには古ぼけたお社があるだけ。辺りは木々でうっそうとしていて、まだ日がでているというのに薄暗い。
ザァァァァ…、と風で木々がざわめく。何か気味の悪い物を感じたイッセーはここで参ってから戻ろうと考えた。賽銭を入れ、パンパンと手を合わせて社に祈る
「早くアルトリアが見つかりますように、後ハーレム王になれますように……」
清濁二種類の切実な願いを口にしながら祈りを終え、イッセーはその場を後にしようとする。
「…京の者ではないな?」
「っ」
突然の声。周囲に気を配らせると、いつの間にか周りを囲まれていた。人間の物ではない気配、強さはそこまででもないが数が多い。身構えるイッセーの元に現れたのは、巫女装束を着た小さなかわいらしい少女だった。
「…女の子?」
稲穂の如くキラキラ光る金髪に、金色の双眸。小学校低学年ほどの容姿だ。だが、頭部に生えているもので人ではないと判断できる。それは獣の耳、小猫の猫耳のように狐の耳がピンと立っている。そして腰の辺りにはモフモフとした狐の尻尾が複数本生えそろっている。狐に縁深い伏見稲荷に相応しい、如何にもな見た目の少女だった。
何故囲まれているのか、うっかり立ち入り禁止の場所に入ってしまったのかと考えていると狐の少女はイッセーを激しく睨み、吐き捨てるように叫ぶ。
「余所者め!よくも…ッ!かかれっ!」
少女の掛け声と共に、林から山伏の格好の黒い翼を生やした頭部が鳥の者と狐の面を被った神主の格好をした男達が大量に出現する。
「おおっと!なんだなんだ!か、カラスの、て、天狗…?狐?」
「母上を返してもらうぞ!」
初めての相手に驚くイッセー。そんな動揺の隙を突くように、少女の号令の下、二体の鴉天狗と数人の狐面の男達が襲いかかる!
すかさずイッセーも籠手を出現させ、攻撃を往なしていく。
「は、母上?何を言ってんだ!俺達はお前の母ちゃんなんて知らないぞ!」
イッセーが少女にそう叫ぶ。イッセーたちはつい数時間前に京都に来たばかりで何もしていない。そもそも初対面の少女の母親をさらう動機が無い。そう訴えるが少女は聞く耳を持たない。
「嘘をつくな!私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」
まるで取り付く島もない。こちらから攻撃する訳にもいかず、攻撃を避け続ける。そのまま森の方へ逃げたが、そこへ烏天狗が追い付く。振り下ろされた錫杖の一撃をイッセーはアクロバティックな動きで避ける。が、そこへ追い付いてきた狐面の男の斬撃が迫る!
ギンッ!
隙を突かれたイッセーを守るように、二人の人影が立ちはだかる。
「大丈夫か、イッセー!」
「この人達、妖怪さんよね?」
ゼノヴィアとイリナが駆けつけてくれた。イリナは光の剣を持ち、ゼノヴィアはお土産屋で買ったであろう木刀を手にしている。少し遅れてアーシアも駆け付けた。オカ研メンバーが揃った姿に少女は更に激昂する。
「…そうか、お前達が母上を…もはや許すことはできん!不浄なる魔の存在め!神聖な場所を穢しおって!絶対に許さん!」
相手が悪魔だからか、一方的に犯人と決めつけている少女。話し合いは出来そうにない。一方的に決めつけられ不快に感じるが、とりあえずこの場を凌ぐぐらいはしても問題ないだろうと判断する。
「アーシア!部長から例の物を受け取っているな?」
「はい!」
イッセーの問いにアーシアがスカートのポケットからグレモリーの紋章入りカードを取り出した。
アーシアの手にあるのは代理認証カード。上級悪魔がその場におらずプロモーションの承認を出せない時、このカードがあれば主なしでのプロモーションが可能となる。京都での有事に備えて、リアスがアーシアに託していたのだ。
「よっしゃ、『騎士』にプロモーション!」
選択したのは『騎士』、スピード特化だ。選択した理由は、相手の素早い動きに対応する必要があるからだが、もう一つ理由がある。京都に来る前、イッセーは万が一京都で有事に巻き込まれた際には被害を極力抑えるようにリアスから言われていたのだ。リアスが京都好きというのもあるが、歴史ある町であり他勢力のお膝元である京都でドンパチやるのは政治的にもマズい。
『Boost‼』
イッセーは更に神器の力を発動する。そしてゼノヴィアとイリナに支持を飛ばした。ゼノヴィアは木刀だが、イリナは光の剣。やり過ぎる可能性がある。
「ゼノヴィア、イリナ、ここは京都だ。相手と建物を傷つけるわけにはいかない。できるだけ追い返す程度にしてくれ!」
「「了解!」」
その意見に二人も応じた。そこへ少女の指示が飛ぶ。
「掛かれ!」バッ!
一斉に少女の一味が襲い掛かってきた。ゼノヴィアとイリナはそれぞれの得物で攻撃をいなし、相手の獲物を破壊しながら無力化していく。イッセーは二人が時間を稼いでいるうちに能力を倍加していく。最適なタイミングで終わらせて、速攻で片を付ける!
「今だ!」
『Explosion‼』
力を開放し、アーシアに迫る狐面の男たちを蹴りで制圧する。更に『騎士』の機動力で後方の相手に当て身を食らわせて意識を刈り取った。人間相手なら後遺症が残りかねないが、彼等も人外なので耐えられるだろう。
お供が半分ほど無力化された少女は此方を憎々しげに睨んだ後、手を上げる。
「…撤退じゃ。今の戦力ではこやつらに勝てぬ。おのれ、邪悪な存在め。必ず母上を返してもらうぞ!」
少女はそれだけ言い残すと、突如発生したつむじ風と共に消えて行った。全員構えを解いて、謎の襲撃に困惑を示す。いつの間にか辺りは昼間らしい明るさを取り戻していた。
万が一は想定してた。起きては欲しくなかったが、此方の知らない所でもう何かが起きている事をイッセーは直接感じ取ることになった。
◆
初日の夜。イッセー達はホテルでの夕食を終えていた。湯豆腐に湯葉、京野菜など、京料理を堪能した。
襲撃を受けた後、イッセー達は素早く松田達と合流し、警戒をしながらも伏見稲荷での観光を終えた。更なる襲撃が無いかとピリピリしていたイッセーたちに事情の知らない松田たちは訝し気な様子を浮かべることとなったが、そんな気も京都という町への興奮で薄れていった。
食事の後、イッセーはアザゼルとロスヴァイセに伏見稲荷で起こった事を報告した。二人は困惑した。
「ふぅむ、なぜ京都で襲撃を受ける?」
「分かりません。けど母上を返せって言ってたので、そのことが関係しているのかも」
「この京都で狐といえば……」
「…よし分かった。この件は俺が対処しておく。お前は部屋に戻って休め」
そういってアザゼルはイッセーの肩に手を置いた。
「分かりました。この件、部長に報告した方がいいですかね」
「いや。今はいい。まだ問題が見えてない以上余計な心配をかけることになる。報告する必要があったらこっちから報告しておく」
そういわれたイッセーは大人しく部屋へと戻っていった。主であるリアスに相談したい気持ちもあるが、此処は抑えた方がいいとイッセーも納得していた。
部屋に戻ったイッセーは
そろりと部屋から抜け出すと、非常階段の扉を開けて上を見上げる。その先に見える扉、そこは女子大浴場の近くだ。
そう、覗きである。つい先ほどまでアルトリアの事を考えていたとは思えない程煩悩まみれだが、それが兵藤一誠という男である。脳内に桃源郷を思い浮かべながら階段を登っていくと、一人の女性が立ちはだかった。
「あなたがお風呂場にいくことなんて最初からわかりきっていることですから」
ロスヴァイセだ。赤い芋ジャージを着て、イッセーを睨み付けている。
「教師として、女として、女生徒の裸を死守します!」
構えるロスヴァイセに対し、イッセーは階段をゆっくり下りながら淡々と話す。
「ロスヴァイセさん…。いくら仲間でもこれだけは譲れない。俺は女風呂を覗きに行く!」
お互いの攻撃範囲直前で足を止め、しばし睨み合う。そして。
「とおっ!」ババッ!
覗きを掛けた非常階段での戦いは火蓋を切って落とした!ここはホテルの為、派手な攻撃は出来ない。出来ても打撃合戦と小さな魔力攻撃のみ。禁手の使えないイッセーと得意の大規模魔術の使えないロスヴァイセ、相性はイッセーの方に傾いている。
被害の少ない氷系魔術を放つロスヴァイセに対し、イッセーは小さなドラゴンショットを生み出し放つ。ちょうど真ん中で相殺された事実に驚くロスヴァイセだが、すぐに手数を増やしてきた。が、イッセーはそれらを低威力ドラゴンブレス+『倍加』の熱波攻撃で溶かし切って凌いだ。
相手の出方に合わせて立ち回っている。明らかに戦闘IQの高い行動だ。
「くっ!いつもより攻撃が鋭いですね!性的なものが絡むとここまで力が引きあがるなんて…!あまりに非常識極まりないです!」
「クラス女子の裸を見れるなら、俺は今日ここで貴方と差し違えてもいい!」
「なんたるスケベ根性!あなたね!リアスさんや朱乃さんの裸体を毎日のように拝んで、なおかつ触ったりもしているのだから、それで十分でしょう!というかアルトリアさんとの再会はどうなるんですか!」
「……それはそれです!これはこれなのですよ!」
「んまー!この女ったらしドラゴンはだめだめですね!」
ロスヴァイセからの言葉にイッセーは内心首をかしげる。確かに周りに女子は多いがどちらかと言うと手玉に取られている方だ。
「まぁいいです、私を突破してもシトリー眷属二年女子の方々が貴方を見張ってます。最終手段ですが、匙君とヴリトラさんに結界を張ってもらってイッセー君を止めることも可能なのです。あなたはどちらにしろ、お風呂を覗く事なんてできないのですよ」
その言葉にイッセーは驚く。まさか既に防御態勢が構築されているなんて、然も匙とヴリトラさんのコンビも控えているとは!あの二人の作る隔絶結界の硬さは知っている。アレに閉じ込められたら厄介なことこの上ない。
「少しは見逃してくれよ!ロスヴァイセさんだって、そのぐらい寛容でないと、彼氏なんていつまで経ってもできませんよ!」
そういってイッセーが指を突き付けると、ロスヴァイセはその言葉に突然狼狽し始める。
「かかかかかかかか、彼氏のことは今関係ないじゃないですか!ど、ど、どうせ私なんて処女の元ヴァルキリーですよ!私だって将来有望でカッコイイ彼氏とエッチなことしたいのにぃぃぃぃぃっ!」バチッ!バチッ!
絶叫と共にロスヴァイセは全身から魔力を放ち始めた!同時に放たれるプレッシャー、イッセーは完全にロスヴァイセの地雷を踏み抜いてしまった!
「もう許しませんからね!」
遠慮は無用とばかりにロスヴァイセの手元から放たれた電撃が非常階段を縦横無尽に走る!完全に頭に血が上ってしまっている。
こうなったら仕方がないと、イッセーは『倍加』を進めながら魔術攻撃をかいくぐり、距離を縮めていく!同時に彼女の肢体を妄想していく。
『Explosion‼』
力を開放するとすかさず飛び上がり、羽織っていたジャージを前方へ投げ捨てた。
「この程度で!」
すぐさまロスヴァイセがジャージを雷で細切れにするが、それは罠だった。イッセーはフェイントを織り交ぜてロスヴァイセに近づき服に触れた!
「バラバラになれェェッ!『
イッセーの技が決まり、ロスヴァイセのジャージが豪快に弾け飛んだ!その波動は下着にも及び、ロスヴァイセはすっぽんぽんの状態で放り出されてしまう!服が弾け飛んでしまい、ロスヴァイセは涙を流す。
「う、うぅ…」
「ゴメンなさい。つい」
謝るイッセーにロスヴァイセは泣きながら激怒する。
「ついで済ませるつもりですか!?い、今だと三倍以上するかもしれないのに!ブラジャーやパンツだって、安い時に勝ってきたんだからーっ!」
激怒したが想像していたそれとは違った。裸体を見られた事への怒りではなく、特売で安く手に入れられた服を消し飛ばされた事に怒るとは、流石のイッセーも想像が出来なかった。
「ハッ!やだ!私、お、お嫁にいけなくなっちゃいます!」
ようやく自分の状態に気づいたのかのように体を手で隠すロスヴァイセ。順序が逆である。
「今頃ですか!?」
「今頃ってなんですか!衣類をバラバラにするのがどれだけもったいないことか!貴方のドレス・ブレイクは環境に優しくありません!先生、そういうのは許しませんよ!資源は尊いんですから!」
これまでその変態性ゆえに怒られたことは何度もあった。だが資源の無駄遣いなどの方向で説教されるのは初めてだった。
「俺、そういうことで説教うけたの初めてですよ!いえ、ごめんなさい!謝ります!」
ロスヴァイセの反応に気が抜けたようでイッセーも覗きどころではなくなっていた。そんな彼らに近づく影が一つ。
「あー、楽しんでいるところすまない」
それはアザゼルだった。半眼で呆れるように頭をポリポリかいていた。
「アザゼル先生!ど、どうしてここに?」
「俺とお前達に呼び出しがかかった。近くの料亭に来ているそうだ」
「誰が呼んでいるんですか?」
呼びだし、という事は例の狐少女の件だろうか、とイッセーが訊くとアザゼルは微笑んだ。
「魔王少女様だよ」
◆
グレモリー眷属とイリナは、夜、ホテルを抜け出てアザゼル先導のもと、街の一角にある料亭の前に立っていた。
「…料亭の『
魔王の一人、外交を司る女魔王セラフォルー・レヴィアタン。彼女もまた京都入りしていたのだ。
この街に来ていたオカルト研究部の面々が彼女からの誘いを受けたのだ。中に通され、和の雰囲気漂う通路を抜けると個室が現れる。戸を開けると、着物姿のセラフォルーが座っていた。
「ハーロー!赤龍帝ちゃん、リアスちゃんの眷属の皆、この間以来ね☆」
普段の魔法少女コスではないが、いつも通りテンションの高い挨拶をくれるセラフォルー。
「お、兵藤達か」
既に部屋には匙とシトリー眷属の二年生女子たち、そして楽な姿勢をしたヴリトラがいた。
「よう、匙。京都はどうだ?午後どこか行ったか?」
イッセーが匙に訪ねる。
「こちとら生徒会だ。今日の午後は先生の手伝いで終わったよ。それなのにヴリトラの奴……」
「わえは生徒会ではないからの。わえは少し回ったが、うっすらじゃがあちこちから懐かしい匂いがしてくるわ」
ため息交じりの匙と、いつも通りのヴリトラ。生徒会とはこんなところでもこき使われるのかと憐れに思ったが、災難さで言えばいきなり襲われたこちらもそうかと思った。ヴリトラの方はなにやら訳知り顔だがインドの邪竜と京都にどんな繋がりがあるんだと、イッセーの貧弱な神話知識では分からなかった。
「ここのお料理、とてもおいしいもの。特に鶏料理は絶品なのよ☆赤龍帝ちゃん達も匙君達もたくさん食べてね♪」
イッセー達が席に着くとセラフォルーが料理をどんどん追加してくれる。夕食を食べた後だったが、料亭という事で量より質な構成となっており、一口食べるとホイホイと口の中へと入っていく。他の皆も同じように料理を堪能していた。
「それでレヴィアタン様はどうしてここにいらっしゃったんですか?」
イッセーの問いにセラフォルーは横チェキで答える。
「京都の妖怪さん達と協力態勢を得るために来ました☆」
れっきとした公務であった。普段の様子からは想像しにくいが、彼女もまた真面目に仕事をするのだとイッセーは変な関心をしてしまった。が、セラフォルーは箸を置き、顔を少々陰らせる。
「けれどね…。どうにも大変なことになっているみたいなのよ」
「大変なこと?」
イッセーの問いにセラフォルーが答える。
「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なの」
その一言を聞いて、イッセーは昼間の事を思い出す。
『母上を返せ!』
あの少女の言葉が脳裏に鮮明に蘇る。九尾とは伝説の狐の妖怪だ。そして少女も狐耳を生やしていた。
「っ。それって…」
言いたいことがわかったのか、セラフォルーはうなずく。
「ええ、アザゼルちゃんから、貴方達の報告を耳にしたのよ。おそらくそういうことよね」
アザゼルが盃の酒を呷ると言う。
「ここのドンである妖怪がさらわれたってことだ。関与したのは」
「十中八九『
と、セラフォルーが真剣な面持ちで言った。修学旅行に来てまでテロリスト問題に出くわすとは思わなかった。然も妖怪の大将である九尾を攫うとは。だからあの子は普通京都にいないはずの悪魔を見て、母親を攫った連中と勘違いして襲撃してきたのだ。
「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのにな。やってくれるぜ、テロリストどもが」
アザゼルがそう忌々しそうに吐き捨てる。そうは言っているがロスヴァイセの言が正しければ、すぐにいなくなって遊び惚けていたのではないかと、イッセーは内心呆れる。セラフォルーがアザゼルの杯に酒を注ぎながら言う。
「どちらにしてもまだ公にすることはできないわね。なんとか私達だけで事を収束しなければならないの。私はこのまま協力してくださる妖怪の方々と連携して事に当たるつもりなのよ」
「了解。俺も独自に動こう。ったく、京都に来てまでやってくれるぜ、やっこさんどもよ」
酒を再び呷りながらアザゼルは毒づいていた。この様子、京都で遊べなくなったのが許せないのだろう。
「あ、あの俺達は…?」
何か自分達にも出来ないかと、イッセーが恐る恐る訊くと、アザゼルが息を吐きながら苦笑した。
「とりあえず、旅行を楽しめ」
「え、でも…」
遠慮がちのイッセーの頭をアザゼルが手でわしゃわしゃと掻く。
「何かあったら、呼ぶ。でも、おまえらガキにとっちゃ貴重な修学旅行だろ?俺達大人が出来るだけなんとかするから、今は京都を楽しめよ」
そう言うアザゼルの顔は責任ある大人といった面持ちだった。普段おちゃらけた総督だが、こういうときだけはビシッと決めてくれる。何だかんだで頼れる存在だった。
「そうよ、赤龍帝ちゃん。ソーナちゃんの眷属ちゃん達も。今は京都を楽しんでね。私も楽しんじゃう!」
セラフォルーもその意見に賛同してくれる。が、この場合は自分が一番京都を楽しもうとしているかもしれない。
二人に余計な心配をかけないために、一同はこのまま観光を継続することとなった。それでも万が一の時には動こう。日本生まれとして、京都の町を護りたいと思うイッセーであった。
そこはとある神滅具が作り出した異空間。その中に造られた牢屋、そこには見張りが二人と一人の鎧武者がいた。
「……ふん」
「九尾のようすはどうだ、サー・
そこへ竜を模した全身鎧を纏った騎士、『騎士王』が現れる。声を掛けられたのは黒色の鎧を纏った武者だ。中性的な顔つきと華奢な身体を包むように着こまれた黒鎧、顔にはマスクのような面頬を付けており、切りそろえられた髪と、その隙間から見せる濁った眼が不気味さを醸し出している。
「これはこれは我らが王。捕虜は相変わらずでございます。食事にも手を付けず黙り込んだまま。武士は食わねど高楊枝、というつもりでしょうか。虫風情が生意気な」
「体調には気を配らせておけ。例え卿にとって憎い相手でも、我らの計画を進める上で重要な存在だ」
「御意に」
騎士王が見つめる先、牢屋の中を確認する小窓から見える室内には一人の女性が座っていた。金色の髪と獣耳、胸元の大きく開いた巫女服、腰の辺りから生える尻尾から彼女が九尾の狐であることが分かる。
彼女こそが、攫われた九尾。妖怪達の御大将である。瞳を閉じ、消耗を抑えているらしい彼女を一瞥すると騎士王は元来た道を帰っていった。その姿が見えなくなると、頼光と呼ばれた武者は、牢屋の中を覗き見る。
「……八坂、あぁ八坂殿。ご機嫌は如何か?使命が果たせないというのは辛い物であろう?」
「………」
「……我らが家が、人が担っていた京都鎮護の役目を、貴様如き獣が裏で真に支えていたなどと虫唾が走る!裏京都?神々の啓示?ふざけるな!京都を護ってきたのは古より続く陰陽師と我ら
「………」
突如怒りを爆発させた頼光に対し、九尾『八坂』は瞳を閉じたまま何も答えない。
「フン、まぁいい。どうせ貴様は生贄だ。事が終われば貴様らの勢力は瓦解する。その時こそ我らが
その様子に白けたのか、頼光は身を翻して何処かへと去っていった。残されたのは牢屋に閉じ込められた八坂と見張り二人のみ。
「なぁ、頼光さんってやたらと妖怪、というかこの九尾に当たりキツイよな」
「あぁ、確か先祖があの源頼光らしいからな。妖怪が京都に巣くってたなんて許せないんだろうな。ホラ、酒吞童子とか色々退治してたらしいし、源頼光って」
「あぁ、それで」
そんな雑談が牢屋の中で続く中、八坂はジッと耐えていた。自分を使って彼らは恐ろしい計画を立てている。それを阻止するために間違いなく娘は配下を率いて出てくるだろう。未だに幼い、未熟なあの子では勝てない。だが挑むしかない。
どうか彼女に救いの手を、傷つかないように彼女を救ってくれる存在が現れてくれないものか。そう思わずにはいられない八坂であった。