赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 前回の『偽・全て遠き理想郷』のタグ付けめちゃくちゃ苦労しました。

 アルトリアなら青と金だよな。よぉし、青文字に金縁なららしくなるだろ!!
 ↓
 おい……なんでルビが縁に埋もれてる……?然も文字縁太くて、文字色見えないし!?普通に青にしよ……
 ↓
………やっぱアヴァロンなら金かな?金にしよ!

 結構迷走しました。特殊タグ付けって、難しいですね。何か良い案ありましたら、コメントまでお願いします!

 それでは、第八話どうぞ!


『赤龍帝』と『騎士王』

 堕天使レイナーレを殴り飛ばし、一矢報いる事は出来た。

 しかし堕天使を殴り飛ばし、完全に力を使い果たしたイッセーと、アーシアの治療に魔力を使い過ぎたアルトリアの2人は緊張状態から解放され、意識を手放しかけてしまう。

 

 

 とん

 

 

 しかし2人が倒れ込む前に、その肩を抱いた者がいた。それは祐斗と、いつの間にか到着していた朱乃であった。

 

 

「お疲れ。まさか堕天使を倒しちゃうなんてね」

「あらあら、こんなに魔力を使うだなんて。随分と無茶をしましたね」

 

 

 笑顔でイッセーの肩を持ち、体を支えている。朱乃もアルトリアの身体を支えながら、水薬らしき物を飲ませている。

 よく見れば祐斗もボロボロだった。地下はかなりの激戦だったのだろう。朱乃も本気を出す時に着る巫女服を着用している。皆それぞれの戦場を戦ってきたのだ。

 

 

「よー。遅ぇよ、色男」

「すみません、アケノ。慣れない作業でしたので……」

「その様ですわね。ですがそのおかげである程度は持ち直した様ですが……」

「2人ともお疲れ様。無事に堕天使を打倒出来たわね」

 

 

 声のする方へ振り向けば、紅の髪を揺らしながらリアスが笑顔で歩いてくる。

 

 

「リアス、一体どちらから?」

「地下よ。用事が済んだから、魔法陣でここへ転移してきたの。教会に転移なんて初めてだから緊張したわ」

 

 

 リアスはそう言いながら息をつく。祐斗達と共に上がってきたという事は、下の方は片付いたのだろう。恐らく死体など残りはしないほど、文字通り片付けたのだ。最後に出てきた小猫がスタスタと横切っていく。

 

 

「それで無事に勝ったようね」

「ぶ、部長…。ハハハ、なんとか勝ちました」

「フフフ、よくやったわ。流石私の下僕くん」

 

 

 そう言うと、リアスはイッセーの鼻先を小突く。

 

 

「アルトリアもご苦労さま。シスターを救うのに、随分と消耗したみたいね」

「処罰は甘んじて受けます。ですが私は騎士として、最善の選択をしたと考えております」

「別に罰を与える気は無いわ。貴女の行動の自由は、お兄様の名の下に許されたこと。それに結果として堕天使側の勢力を削れたのだもの、良しとするわ」

「寛大な処置、痛み入ります」

 

 

 片膝を付け、アルトリアは頭を下げる。イッセーと違い外傷は負っていないため、既に綺麗な騎士の礼を取れる迄には回復済みである。

 

 

「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいのですか?」

 

 

 ひと息付き、周りの惨状を見て朱乃は困り顔を浮かべる。

 

 

「…なんか、ヤバイんすか?」

 

 

 イッセーが恐る恐るリアスに尋ねた。

 

 

「教会は神もしくはそれに属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合があるでしょ?そのケースだと、私達悪魔が教会をボロボロにすると、あとで他の刺客から付け狙われることがあるの。恨みと報復ね。でも、今回それは無いでしょうね」

「どうしてですか?」

「簡単な事です、イッセー。ここは捨てられた教会。公的には廃墟であり、あくまでリアスは不法占拠者を誅しただけの事。相手の公式な陣地へ戦争を仕掛けた訳ではありません」

「あくまで、いち悪魔といち堕天使の野良試合の小競り合い。そんなのどこでも年中起こっているわ。ただそれだけのことよ。貴方が飛び出した後、別の報告と一緒にあの堕天使達が上の命令で動いていない事が分かったの。だから私もこうして来れた、という訳ね」

 

 

 無論堕天使側の個人的な報復はあるかもしれない。しかし、幹部でも無い下っ端の暴走である以上、悪魔と堕天使の戦争が起きる可能性は低いだろう。切り捨てられるのがオチだ。

 

 

「部長。持ってきました」

 

 

 ズルズルと何かを引きずる音と共に現れたのは小猫だ。壊れた壁から姿を現したが、引きずっているのは堕天使レイナーレ。小猫はイッセーが殴り飛ばし、気絶したレイナーレを引きずってきたのだ。

 

 

「ありがとう小猫。さて、起きてもらいましょうか。朱乃」

「はい」

 

 

 朱乃が手を上へかざす。すると、宙に水らしきものが生まれてくる。宙に生まれた水の塊を倒れているレイナーレへ被せる。

 

 

 バシャッ!

 

 

 水音のあと、ゴホッゴホッ!と咳き込むレイナーレ。気がついたのか、ゆっくりと目を開ける。それをリアスが見下ろす。今から始まるのは処刑だ。

 

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

「…グレモリー一族の娘か…」

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけど、お見知りおきを」

 

 

 笑顔で言い渡すリアスをレイナーレはにらみつける。と、途端に彼女を嘲笑い始めた。

 

 

「…してやったりと思っているんでしょうけど、残念。今回の計画は上に内緒であるけれど、私に同調し、協力をしてくれている堕天使もいるわ。私が危うくなったとき、彼らは私を…」

「彼らは助けに来ないわ」

 

 

 レイナーレの言葉を遮り、リアスははっきりとそう言った。

 

 

「堕天使カラワーナ、堕天使ドーナシーク、堕天使ミッテルト。彼らは私が消し飛ばしたから」

「嘘よ!」

 

 

 そういえばイッセーを待つために外にいた時、僅かながら堕天使の気配を感じた。やはりあの時、堕天使が偵察監視に来ていたのだ。アルトリアは自身の感覚が正しかったことを確認した。

 レイナーレは上半身だけ起こし、リアスの言葉を強く否定する。するとリアスは懐から、証拠と言わんばかりに三枚の黒い羽根を取り出した。

 

 

「これは彼らの羽。同族のあなたなら見ただけでわかるわね?」

 

 

 羽根を見て、レイナーレの表情が一気に曇る。どうやら、リアスの言った事は真実だったようだ。

 

 

「アルトリアから街で複数の堕天使の気配を感じたという報告を受けて、この街であなた達が何らかの計画を進めているのは察していたわ。けれど、それは堕天使全体の計画だと思って、私は上に確認を取った。いくら私でも堕天使全体を敵に回すなんて愚は冒さないわ」

「でも、上の方から堕天使側に大きな動きが見られないと回答を貰ったから、私は朱乃を連れて少しだけお話をしに行ったの。彼らに実際会ってみたらすんなり独自の計画だと吐いてくれたわ。あなたに協力すると、地位を約束してくれるとか言っていたかしら。裏でコソコソくだらない計画をしている下賎なものほど、自分たちのやっていることを喋りたくなるものよね」

 

 

 リアスが嘲笑する。レイナーレは悔しそうに歯噛みしていた。

 

 

「未成年の、それも女2人が近づいてきただけだから、甘く見ていたのでしょうね。冥土の土産に教えてもらったの。フフフ、どちらが冥土に近いかもわからないお馬鹿な堕天使さんだったわ。あなたのくだらない計画に同調する位だから、程度は低かったのでしょうね」

 

 

 裏でしっかりと動いていた事実を知り、イッセーは自分の不見識を恥じた。てっきり彼はリアスが光や戦争の畏れ、体面ばかりを気にして、何もしていないと思っていたのだ。

 

 

「その一撃を喰らえばどんなものでも消し飛ばされる。滅亡の力を有した公爵家のご令嬢。部長は若い悪魔の中でも天才と呼ばれるほどの実力の持ち主ですからね」

 

 

 主をほめたたえるように祐斗は言う。

 

 

「別名『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルインプリンセス)』と呼ばれるほどの方なのですよ?」

 

 

 続くようにうふふと笑う朱乃さん。そんなすごい物騒な二つ名を持った人の眷属なのか、と驚きと苦笑を隠せないイッセー。そしてリアスがイッセーの左腕に視線を向ける。

 

 

「…赤い龍?この間までこんな紋章はなかったはず……。そう、そういうことなのね。アルトリアが気にするのも、これで納得がいったわ」

 

 

 少しだけリアスの目元が驚いているように見開かれる。やはり彼女も気付いたようだ。

 

 

「イッセーが堕天使に勝てた最大の理由が分かったわ」

 

 

 リアスはこの場の全員に語り聞かせるように、静かに述べる。

 

 

「堕天使レイナーレ。この子、兵藤一誠の神器(セイクリッド・ギア)はただの神器(セイクリッド・ギア)じゃないわ。それがあなたの敗因よ」

 

 

 リアスの言葉に、レイナーレは怪訝そうに片方の眉を吊り上げる。

 

 

「かつてブリテン島に君臨した赤き龍の帝王、『赤龍帝』ア・ドライグ・ゴッホを宿した神器、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。籠手に浮かんでいる赤い龍の紋章がその証拠。あなたでも名前ぐらいは知っているでしょ?」

 

 

 その言葉を聞いて、レイナーレは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「ブ、ブーステッド・ギア……13個存在すると云われる『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ…。一時的にとは言え、魔王や神すらも超える力が得られると言う…あの忌まわしき神器(セイクリッド・ギア)がこんな子供の手に宿っていたと言うの!?」

「言い伝えの通りなら、人間界の時間で10秒ごとに持ち主の力を倍にしてくれるのが『赤龍帝の籠手』の能力。最初が一で10秒ごとに力が倍になっていけば、いずれ上級悪魔や堕天使の幹部クラスの力になるわ。そして、極めれば神すらも屠れる」

 

 

 神をも滅ぼす武具。一見すると強力無比かつ万能に思えるが、強化には時間を要する為、圧倒的な格上には強化前にやられてしまう。その辺りは今後のイッセーの研鑽に掛かっているだろう。

 

 

「そしてアルトリア、彼女の持つ力も赤龍帝に関係しているわ。彼女の名前は、アルトリア・ペンドラゴン。ここまで言えば分かるでしょ?」

「ペンドラゴン?……!?まさか、まさかそんな!?」

 

 

 レイナーレは一つの結論にたどり着く。しかし俄かには信じられなかった。なぜならその力は、今この場にある筈のものではないからだ。

 

 

「そのまさかよ。彼女の持つネックレス、その中には伝説の聖剣エクスカリバーが封印されている。そして彼女こそかのブリテンの騎士王、アーサー王の末裔にして真のエクスカリバーの担い手よ」

「そんな、そんなことありえないわ!だって、エクスカリバーは、エクスカリバーは天使共が!」

「そういう事になっているわね。でも本物はここにあるわ。でなければ、未完成な力でもアーシア・アルジェントの容体を回復させるなんて事出来ないもの。アナタも不運な事ね、赤龍帝と騎士王。かつてブリテン島を守護した伝説のバディを敵に回したのだから」

『伝説のバディとは、随分と持ち上げてくれるな?グレモリーの娘よ』

 

 

 突然、建物の中に聞き覚えの無い声が響く。低く、威厳を感じさせるその声は、イッセーの持つ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から響いていた。

 

 

「その声、もしかして……」

 

 

 リアスが驚く暇もなくアルトリアが片膝を付き、胸に手を当ててイッセーに、正確に言えば籠手に向かって頭を下げた。

 

 

「お初にお眼にかかります、赤龍帝ア・ドライグ・ゴッホ殿。私の名はアルトリア・ペンドラゴン。かつて始祖アーサーを守護せし御方にようやくの拝謁が叶った事、大変嬉しく思います」

『 (……なるほど、似ているな)そう畏るな、ドライグで良い。寧ろ、眠っていた俺を呼び起こし、相棒を守ってきたお前にこそ、俺が礼を言いたいくらいだ。これからも相棒をよろしく頼む』

「この剣と、始祖アーサーに誓って」

 

 

 幼馴染の対応に面食らいつつ、イッセーはリアスに向き直る。

 

 

「部長、その」

「何?」

「すみません。あの時、俺がアーシアを助けに行くって言った時に部長が手を貸してくれないからって、すごく失礼なことばかり言って…。でも、部長は裏で動いてくれていたのに」

 

 

 謝らずには居られない。そんなイッセーの頭をリアスは優しく、慈しむように撫でる。

 

 

「いいのよ。貴方はまだ悪魔としての勉強が足りなかっただけ。ただ、それだけよ。申し訳ないと思うのなら、強くなりなさい。これからもこき使うから覚悟しなさい。私の兵士、イッセー」

「はい!」

 

 

 もうみんなを悲しませない、笑顔に出来るくらい強くなろう。そうイッセーは心の中で強く誓った。

 

 

「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね」

 

 

 途端にリアスの目が鋭くなり、冷酷さを帯びる。主従の戯れはこれでおしまい、今から始まるのは処刑だ。リアスがレイナーレに近づく。怯えるレイナーレ。

 

 

「消えてもらうわ、堕天使さん。良かったわね、貴重な話を聞けて。冥土のお仲間に良いお土産が出来たじゃない」

 

 

 リアスに手のひらを向けられ、ガクガクと震えるレイナーレ。その時、レイナーレの視線がイッセーに移る。

 

 

「イッセーくん!私を助けて!」

 

 

 その声は今までの声と違っていた。この甲高く、男に媚びたような声。間違いなくあの時、天野夕麻に扮していたころの声だろう。

 

 

「この悪魔が私を殺そうとしているの!私、あなたのことが大好きよ!愛している!だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」

 

 

 アルトリアは心底困惑した。何言ってるのだ、この堕天使は?レイナーレは夕麻を再び演じ、涙を浮かべながらイッセーへ懇願している。散々貶し、痛めつけ、殺そうとまでしておいてそんな道理が通じると思っているのか?思っているなら都合がよすぎる、思っていないなら最早自棄なのだろう。

 

 

「……グッバイ、俺の恋。部長、もう限界っす…。後は、頼みます…」

 

 

 それを聞いた途端、堕天使は表情凍らせていた。当然である、今更愛を囁かれても耳障りなだけだ。

 

 

「ま、待って!」

「…私のかわいい下僕に言い寄るな。消し飛べ」

 

 

 ドンッ!

 

 

 リアスの手から放たれた滅びの魔力の一撃は、堕天使を跡形もなく吹き飛ばした。悲鳴もなく、暴れる事もなく、レイナーレは滅びの魔力の中に散っていった。

 レイナーレが消し飛んだ後、聖堂の宙に淡い緑色の光が浮かぶ。アーシアの神器(セイクリッド・ギア)だ。レイナーレを倒したことで、解放されたようだ。温かい光が構内を照らす。リアスがその光を手に取った。

 

 

「さて、これをアーシア・アルジェントさんに返しましょうか」

「はい。でもアーシアは……」

「安心して下さい、アーシアさんの容体は安定しています。アルトリアちゃんのお陰ですわね、うふふ」

 

 

 そう、アルトリアの必死の治療によって、アーシアは一時的に容体を安定させている。しかし神器(セイクリッド・ギア)が抜かれている以上、それも長くはない。

 早速リアスは神器(セイクリッド・ギア)をアーシアの胸元に置く。すると神器は胸の中へと吸い込まれていった。

 

 

「う、うぅん……あれ?」

「あ、アーシア!!」

 

 

 目を覚ましたアーシアに、イッセーは思わず抱き着く。

 

 

「きゃ!?い、イッセーさん?」

「良かった、もう会えないかと……」

「えっと、私は………」

 

 

 復活したアーシアは目の前の状況に混乱しているようだった。そこでリアスは今の状況を簡単にアーシアに説明する。

 

 

「そう、でしたか。私の癒しの力を……」

「……アーシア・アルジェント。貴女には今、二つの選択肢があるわ。一つはこのままこの街を離れる事。もう一つは私の下僕として、眷属に名を連ねる事」

 

 

 前者の場合は人間でいられる代わりに、彼女を庇護する者がいなくなる。後者の場合はグレモリーの庇護を得られる代わりに、人間として、信徒としての自分を捨てる事になる。

 

 

「そんな!部長、アルトリアみたいに食客ってことには出来ないんですか!」

「残念だけど、アルトリアと彼女は違うわ。アルトリアの持つ力は強力無比であると同時に悪魔には扱えない代物、そして自分の身を護れる力を持つからこそ、彼女は人間のままでいる事を許されている。でもこの子では価値は兎も角、力が低いのが問題。残念だけど、誰かの庇護下に置かないと」

 

 

 そう、アルトリアが食客という立場に居られるのは彼女の価値と同時に、いざという時に悪意から自身を護るだけの力を彼女自身が持っているからだ。だからこそ魔王から一定の裁量を貰い、自由で居られている。しかし、アーシアにはそれだけの力はない。すぐにレイナーレの様に彼女の力を狙う輩に付きまとわれるだろう。

 

 

「……分かりました。私、悪魔になります」

「アーシア!?」

「アーシア・アルジェント、良いのですか。貴女の人生は悪魔によって狂ったのですよ」

「でも、この異国の地で助けてくださったイッセーさんも悪魔です。私を救うため、命を()してくれたイッセーさんを、今度は私が癒します。これは、私の意志です!」

 

 

 ハッキリと、そう宣言したアーシア。その瞳には強い意志が宿っていた。

 

 

「良い答えね。なら、始めましょうか」

 

 

 そういってリアスはポケットから取り出した『僧侶』の駒をアーシアに渡し、自身の身に紅い魔力を纏う。アーシアはまるで祈るように、駒を胸に当てる。

 

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ。今我の下僕となるため、その魂を捧げ悪魔として転生せよ。汝、我が『僧侶』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 

 駒が紅い光を発して、アーシアの胸へ沈んでいく。その瞬間、彼女の纏う気配が一気に変わる。『人』から『魔』へ。少しして彼女の背から悪魔の翼が生えると、リアスは魔力の波動を止めた。そして「ふぅ」と息を吐く。

 ここに、アーシア・アルジェントはリアス・グレモリーの『僧侶』となった。

 

 

「悪魔をも回復させるその力、私の為に振るいなさい。ふふふ、イッセー、あとはあなたが守ってあげるのよ。貴方は先輩悪魔なのだから」

「はい、それじゃあアーシア」

「はい」

「帰ろうか」

「!はい!」

 

 

 

 

 

 

 翌日、イッセーとアルトリアは朝早く部室へ向かっていた。今日はアーシアとの正式な顔合わせの日だ。

 

 

「……なあ、アルトリア」

「どうかしましたか、イッセー」

「お前ってずっと俺の中に、ドライグが居るのわかってたのか?」

「えぇ。未覚醒だったのでなんとなく、という程度ですが」

「もしかして、お前って……」

 

 

 レイナーレみたいに俺の神器が目当てでずっと一緒にいたのか。思わずそう言おうとして、口をつぐむ。その様子に、アルトリアは若干ため息を吐いた。

 

 

「はぁ、確かに何処かでは力に惹かれていたのかもしれません。ですが、あの日からこうして貴方と共にいるのは、紛れもない私自らの意志です。この剣と、始祖アーサー、赤龍帝、そして貴方に誓って」

「!そう、だよな。そうだよな!わりぃな、変なこと聞いちまって」

「いいえ、あのような事があれば仕方がありません。それに私と貴方の仲ではありませんか」

「それなら折檻の時は、もう少し優しく竹刀を振るってもらえると「それとこれとは別です」ですよね……」

 

 

 傍から見れば恋人のような会話をしつつ、二人はオカルト研究部の部室に到着した。

 

 

「あら、ちゃんときたわね」

 

 

 部室にたどり着くと、そこにはリアスだけしかいなかった。リアスはソファーに座り、優雅にお茶を飲んでいる。

 

 

「おはようございます、部長」

「おはようございます。リアス」

「ええ、おはよう。二人共もう大丈夫のようね」

「はい、おかげさまで」

 

 

 リアスの視線がイッセーの足に移る。

 

 

「堕天使にやられた傷は?」

 

 

 アルトリアは魔力の使い過ぎによる体調悪化程度だったが、イッセーは先日の戦いにおいて、光の槍で太ももを貫かれた。

 

 

「はい、例の治療パワーで完治です!」

 

 

 と、イッセーは笑顔で答える。

 

 

「そう、やはりあの子の治癒能力は無視できないもののようね。いち堕天使が上に黙ってまで欲するのも頷けるわ」

 

 

 二人は対面の席へ腰を下ろした。どうやらイッセーがリアスに聞きたい事があるらしい。

 

 

「あの部長。チェスの駒と『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』って深い関係があるじゃないですか。あれから俺、チェスについて調べたんですけど、『兵士(ポーン)』の駒は八つあるんですよね。てことはまだ『兵士(ポーン)』があと七人存在できるんですよね?いつか俺と同じ『兵士』仲間が増えるんですか?」

 

 

 鋭い指摘だ。確かに、『悪魔の駒』の数とチェスの駒の数は同じだ。主を『王』として『女王』が一つ、『騎士』『戦車』『僧侶』が二つ、そして『兵士』が八つ。リアスの場合、既に大体の駒を使っている。『僧侶』はイッセーの会っていない()がいるため、アーシアと合わせて席は埋まっている。そんなイッセーの質問にリアスは首を横に振った。

 

 

「いえ、私の『兵士』は貴方だけよ」

「え?」

「人間を悪魔へ転生させる時、『悪魔の駒』を用いるのだけれど、その時転生者の能力次第で駒を通常よりも多く消費しなくてはいけなくなるの」

 

 

 実際そういった事は多い。特に数があり、駒の価値が低い『兵士』には多いと聞く。

 

 

「チェスの世界ではこういう格言があるわ。女王の価値は兵士九つ分。戦車の価値は兵士五つ分。騎士と僧侶の価値は兵士三つ分。そんなふうに価値基準があるのだけれど、悪魔の駒においてもそれは同様。転生者においてもこれに似たような現象が適用されるの」

「騎士の駒を二つ使わないと転生させられない者もいれば、戦車の駒を二つ消費しないといけない者もいる。駒との相性もあるわ。二つ以上の異なる駒の役割は与えられないから、駒の使い方は慎重になるのよ。一度消費したら、二度と悪魔に駒は持たせてはくれないから」

「それと俺にどういう関係にあるんですか?」

 

 

 どうやらイッセーはまだわかってないようだ。

 

 

「貴方を転生させる時、私は『兵士』の駒を全部使用したのよ。そうしないと貴方を悪魔にすることは出来なかったの」

「ぜ、全部!?」

 

 

 驚きを隠せないイッセー。だがアルトリアからすれば、あの結果は当然と言える物だった。その名も高き二天龍の片割れ、始祖たるアーサー王に加護を与えし赤龍帝が『兵士』一個や二、三個で収まるとは到底思えない。

 

 

「それがわかった時、私はイッセーを絶対に下僕にしようと思ったの。でも、長らくその理由が判明しなかったわ。アルトリアは訳知りだったけど。でも、今なら納得できる。至高の神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる。『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持つイッセーだからこそ、その価値があったとね」

 

 

 そう言われてイッセーは左腕へ視線を動かした。自分に宿った赤い籠手。十秒毎に能力が倍になっていく、尋常ならざる力の結晶。使い方次第では神すらも倒せる力が、自身の身に宿っている事実にイッセーは改めて慄いた。その瞬間《俺の相棒がその程度で慄いてどうする》そんな風にドライグに言われた感覚を、イッセーは味わった。

 

 

「貴方を転生させようとした時、私の残りの駒は騎士、戦車、僧侶が一つずつ、兵士が八つしか無かったわ。イッセーを下僕にするには、兵士を八つ消費するしかなかったの。あなた自身兵士の駒と相性も良かったし。それに他の駒では転生できるだけの力はなかった。でも、元々兵士の価値は未知数、プロモーションなども含めてね。私はその可能性にかけた。結果、貴方は最高だったわ」

 

 

 そう言ってリアスはイッセーの側に歩み寄り、彼の持つ龍の如き茶色の髪をなでる。

 

 

「『紅髪(べにかみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。紅と赤で相性はバッチリね。イッセー、とりあえず最強の『兵士』を目指しなさい。貴方ならそれが出来るはず。だって私のかわいい下僕なんだもの」

 

 

 最強の『兵士』。その言葉にイッセーの心は燃え上がった。最強、そうすればあんな思いもせず、アーシアやみんなを護れると。その瞬間、彼の額にリアスの唇が触れる。

 

 

「!?!?!」

「なっ……」

「これはお(まじな)い。強くおなりなさい」

 

 

 額とは言えキスを貰い、顔を真っ赤にして慌てるイッセーと、私ですらした事が無いのに!?という顔を浮かべるアルトリア。二人を見ながらクスクスと笑うリアス。

 

 

「と、イッセーを可愛がるのはここまでにしないとね。アルトリアだけじゃなく、新人の子に嫉妬されてしまうかも知れないもの」

「イ、イッセーさん…?」

 

 

 背後から声。振り返るとそこには金髪の少女。アーシアが笑顔をひきつらせていた。

 

 

「アーシア?」

「そ、そうですよね…。リ、リアス部長は綺麗ですから、そ、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね…。いえ、ダメダメ。こんなことを思ってはいけません!ああ、主よ。私の罪深い心をお許しください」

 

 

 手を組み、祈りを捧げるアーシア。だが、「あうっ!」と途端に痛みを訴える。

 

 

「うぅぅ、頭痛がします……」

「当たり前よ。悪魔が神に祈ればダメージぐらい受けるわ」

 

 

 さらりとリアスが言う。因みにアルトリアのネックレス『エムリス』は一見すると十字架のような形をしているため、普段は見えないようにしている。彼女自身悪魔側の人間かつ日本の宗教観に影響されてか、そこまで信心深いわけでもないため、お祈りで周りにダメージを与えたという事は無い。

 

 

「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした。神様に顔向け出来ません」

 

 

 複雑そうな表情を浮かべるアーシア。習慣化した祈りが出来ないというのは不便だろう。

 

 

「後悔してる?」

 

 

 リアスがアーシアに訊く。アーシアは首を横に振った。

 

 

「いいえ、私が決めた事です。それに、どんな形でもこうしてイッセーさん達と一緒に居られるのが幸せです」

 

 

 っ。恥ずかしい台詞にイッセーだけでなく、アルトリアの顔も僅かに紅潮する。これは嬉しいな、助けに行った甲斐があった、と。それを聞いて、リアスも微笑む。

 

 

「そう、それならいいわ。今日からあなたも私の下僕悪魔としてイッセーと同じ様に走り回ってもらうから」

「はい!頑張ります!」

 

 

 元気よく返事をするアーシア。最初はチラシ配りからのスタートだが、彼女の見た目なら高い効果が期待できるだろう。イッセーの側で行う為、ナンパなどにかどわかされる可能性も低い。いざという時はアルトリアも介入する。

 

 

「ところでアーシア、その格好は」

 

 

 アルトリアの言葉にイッセーも気が付いた様だが、彼女は駒王学園の女子制服を着ていた。そう、彼女は眷属になるのと同時に駒王学園に転校してきたのだ。

 

 

「に、似合いますか…?」

 

 

 恥ずかしそうに彼女は訪ねてくる。

 

 

「ああ、似合ってるよ!」

「ええ、よく似合っていますよ」

 

 

 イッセーはアーシアの質問にサムズアップで答える。アルトリアも微笑を浮かべながら頷いた。二人の反応にアーシアは頬を染め、喜びを露わにする。

 

 

「最高だよ最高!なぁ、後で俺と写真を撮ろう!」

「え、は、はい」

「イッセー、流石に興奮し過ぎです……」

 

 

 興奮したイッセーを見て、反応に困るアーシアだった。アルトリアは幼馴染の相変わらずの様子に呆れる。

 

 

「アーシアにもこの学園へ通ってもらうことになったわ。貴方達と同い年みたいだから、二年生ね。クラスもイッセーたちと同じところにしたわ。転校初日ということになっているから、二人共彼女のフォローをよろしくね」

「よろしくお願いします、イッセーさん、アルトリアさん」

 

 

 ぺこりと頭を下げるアーシア。

 

 

「ああ、あとで俺の悪友二人も紹介するからな」

「なら私はカタセとムラヤマの二人でしょうか。二人とも、良い人ですよ」

「はい、楽しみです」

 

 

 すると部室に祐斗、小猫、朱乃が入ってくる。

 

 

「おはようございます、部長、アルトリアさん、イッセーくん、アーシアさん」

「…おはようございます、部長、アルトリア先輩、イッセー先輩、アーシア先輩」

「ごきげんよう、部長、アルトリアちゃん、イッセーくん、アーシアちゃん」

 

 

 それぞれが挨拶をしてくれた。そして皆がケーキや飲み物などを持参しており、朱乃の押す台車に乗るケーキはかなりのサイズを誇る。

 

 

「それじゃあ、堕天使に勝利した祝勝祝いを兼ねて、新しい眷属の歓迎会を始めましょうか」

 

 

 こうして、物語は動き出す。赤き龍は目覚め、役者は揃った。これからの世界の中心となる少年少女は、自身に待ち受ける運命を知らず、今はただ仲間と共に同じ食に舌鼓を打つだけであった。




 設定

 封印礼装『エムリス』
 アルトリアの持つネックレスに宿る疑似人格であると同時に、ネックレスの名前そのもの。アルトリアの意思に応じて様々な形態に形を変え、戦闘をサポートする。
 その正体は、『とある神滅具』の機能を限定的かつ発展させた封印礼装に、星そのものが生み出した最強の聖剣『エクスカリバー』を封印した物。内包する力は神滅具にも匹敵するが、未だに完全開放されたことはない。


 剣形態(片手剣)
 アルトリアが最も多用する形態であり基礎形態。第一段階、限定解除の掛け声とともに解放される。全体的に機械的な意匠が見られる取り回しの良いサイズの直剣である。一般的な聖剣を凌ぐ程度の力を秘めるが、錬金術由来の聖剣と比較してそこまで悪魔に悪影響を与えるわけではないらしい。


 剣形態(両手剣)
 応用限定解除によって発現する形態の一つ。基礎形態よりも大型化した刃を持つ為、基本は両手で運用する。これを使用している間は力と防御が挙がり、炎属性や水属性、雷属性付与、日中における能力向上のアビリティが付く『戦車(ルーク)』に近い形態。


 弓形態
 応用限定解除によって発現する形態の一つ。剣中央のフラーを境に剣が真っ二つになったかのような弓に、竪琴のような弦が張られた、武器というより楽器に近い形の形態。矢を飛ばす普通の弓のような攻撃も可能だが、主に弦を弾いた時に出る空気の振動を真空の刃とし、それを飛ばして攻撃する。
 この状態では空気に強く干渉する為かスピードが上がり、『騎士(ナイト)』に近い運用が出来る。


 槍形態
 応用限定解除によって発現する形態の一つ。長い柄と刀身を備えた馬上槍であり、広い間合いに対応できる。また全形態の中で最も強く聖なる力を発しており、魔獣や大型のはぐれ悪魔相手によく使う形態でもある。
 徒士(かち)のような運用だけでなく、妖精馬ヒルフィギュア・スタリオンと共に騎兵としてランスチャージを放つなどの運用が出来る為、こちらの方がより『騎士(ナイト)』らしいといえる。


 剣杖形態
 応用限定解除によって発現する形態の一つ。剣をそのまま杖にした様な形状をしており、現に刃が付いている為近接格闘も可能。運用としては、攻撃、防御の補助魔術の行使や、魔力を剣や波の形にして放つ攻撃、擬似人格のエムリスが演算する事で高度な幻術を行使できる。正に『僧侶(ビショップ)』形態。
 (形状イメージは、ゴブスレの剣の乙女の杖から天秤を外した形)


 盾形態
 応用限定解除によって発現する形態の一つ。アルトリアの身長を超す大きさの大楯を振るい、攻撃や味方を守護する。より防御に特化した形態であり、この状態で行使する防御魔術の規模はさながら城壁というべき堅牢さを誇るより『戦車(ルーク)』らしい形態。他にも円卓として利用するなど、全形態で一番幅広い運用が可能。


 偽・全て遠き理想郷(イミテーション・アヴァロン)
 エムリスに施されたロックを一部解除し、かつての奇跡を再現した形態の一つ。アルトリアが、大量の魔力を注ぎ込む事で発動が可能であり、使用時には一時的なトランス状態に入る。この形態では対象に高い再生能力と治癒の力を行使でき、神器を抜かれた危篤状態でも一時的に容体を安定させる事が出来る。
 但しまだまだ完成度が低い為、出力が不安定でその制御にもまた大量の魔力を使う為、使用後は昏倒しかけるレベルの魔力切れを起こす。



 未だ聖剣はその奇跡の一端を示さず。それが示されしとき、赤と白の因縁が再び始まる。
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