赤龍帝と騎士王の現し身   作:ファブニル

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 今回から第二章のフェニックス編に突入です。

 本当は使い魔編を挟む気でいましたが、仮についていったとして既にグイントが居るのと、カヴァスっぽい犬を使い魔にしたとして、自分だとフェンリルの伴侶ネタくらいしか出番のない死に設定になりそうだったのでそのままフェニックス編に突入させる事にしました。
 皆様のご要望があれば、何処かのタイミングでショートストーリーとして書くかもしれませんが、今はその気は無いですね。

 それでは第九話、どうぞ!


戦闘校舎のフェニックス
『不死鳥』の来訪


 

 堕天使との戦いの末、アーシアが眷属になってからおよそ2週間が経過した。彼女は今、イッセーの家にホームステイという形で暮らしつつ、駒王学園の学生として、そして悪魔稼業に精を出している。

 

 学園においては、当初は美少女転校生としてすぐに注目の的となり、居心地の悪さを感じていたようだ。しかし、ある程度熱狂が冷めるとすぐにクラスにも馴染み、最近はクラスメイトの桐生藍華に、なにやら色々と吹き込まれているようだ。

 悪魔稼業においては金髪少女という恵まれたルックスと、清らかな心、高い魔力量によって、現代社会の闇に精神を日々擦切らせている男性の心身を神器(セイクリッド・ギア)やカウンセリングで癒しているようである。結果として契約取りを始めてからは、イッセーを上回る契約件数を勝ち取っている。

 

 さてアーシアが新しい生活を始めた頃、同時にイッセーの生活も様変わりしていた………

 

 

「ん〜、部長〜」ホラ、アサヨ。オキナサイネボスケサン。

 

 

 イッセー愛用の目覚ましからクーデレ系ヒロインのボイスが流れ出す。時刻は午前4時30分。起きるには余りにも早すぎる時間だが、彼には起きなければいけない理由があった。

 

 

「ぜーはー、ぜーはー、」

「ほら、だらしなく走らないの。あとでダッシュ十本追加するわよ」

 

 

 イッセーは息を切らしながら、早朝の住宅街を走り込んでいた。うしろから自転車に乗ったリアスが遠慮なく気合を入れてくる。

 

 

「ハーレム王に俺はなる……ぜーはー……」

「そうよ、そのためにもまずは日々の基礎鍛錬から。少しずつでも強くならないといけないわ」

 

 

 イッセーの目標たるハーレム王、それを実現するにはまず眷属を持てる上級悪魔を目指す必要がある。悪魔の世界は基本的に腕力がものを言う。単純な力が強ければ強いほど上を目指せる。 無論知力や交渉力、他の能力でも上へ行けるが、あいにくイッセーにはそちらの才能は今のところない。その為まずは体力作りのために、こうして毎日朝練をしているのだ。

 だが、リアスはスパルタだった。曰く

 

「私の下僕が弱いなんてことは許されないわ」

 

と、朝練に関して妥協はない。元々ランニングや筋トレなどは時々していたが、今では朝から二十キロ近くのハーフマラソンに、その後ダッシュを百本以上。各種筋トレを合わせて数十セット以上。

 悪魔は夜に力を発揮する夜の住人だが、より高い負荷を掛けるために、苦手な朝日に照らされながら鍛えている。結果毎日筋肉痛で悩まされるが始めたときほど苦しくもなく、最近ではなんとかこなせてる。確実に日々成長しているのが窺えた。実際に、体育の成績は向上しているのだから効果はあるのだろう。

 

 

「はぁはぁ……」

 

 

 ゴールである公園に到着すると、イッセーは走るのをやめた。汗が滝の如く流れ出る。

 

 

「お疲れ様。5分休憩したら次はダッシュよ。準備なさい」

 

 

 これだけヘトヘトになっても身体が壊れない辺りは、正に人外の肉体と言えるだろう。

 

 

「あなたの能力は基礎が高ければ高いほど意味があるのよ」

「ういっス……六十五……」

 

 

 朝のマラソンとダッシュを終えたイッセーは公園の広場で筋トレメニューとして腕立て伏せに臨んでいた。リアスは重しとして彼の背中に座っている。背中に感じる柔らかい感触と、数十キロの重しが加わった腕の疲労の鬩ぎ合いに耐えながら、腕立てを行う。少しでも尻の感触を堪能しようとすれば……

 

 

 パシンッ!

 

 

「あうっ!」

「邪念が入っているわ。腰の動きがやらしいわよ」

「……そ、そんな……六十八……。ぶ、部長が俺の上に乗っているからだと思うんですけど……」

「言い訳しない。プラス100回よ」

 

 

 こうして、尻を叩かれる。その姿は筋トレというより調教かSMプレイであった。そんなSM筋トレにドキドキしながら耐えているとーーー。

 

 

「すみませーん」

 

 

 と聞きなれた声が耳に届く。腕立て伏せの姿勢のまま、声のしたほうへ顔を向けてみればそこには……

 

 

「イッセーさーん、部長さーん! 遅れてすみませーんーーきゃっ!?」

「っと。いつもながら足元に注意して下さい、アーシア」

「す、すみません……」

 

 

 アーシアとアルトリア。2人の金髪美少女がやって来た。相変わらずの何も無いところで転んだが、今回はアルトリアがしっかりと支えたため顔面ダイブすることは無かった。

 

 

「イッセーさんどうぞ、お茶です」

「ありがとう。いつも悪いな」

「いえ、イッセーさんと部長さんのお力になれるなら、私嬉しいです」

 

 

 アーシアの優しさにイッセーは何度目かの感動を覚えた。アーシアは自分達が朝にトレーニングしている事を知ると、まだまだ暮らしにも慣れていない中、こうしてサポートに来てくれているのだ。

 アルトリアもまた、夜警の帰りにこうして寄っては組み手などでイッセーの面倒を見ている。

 

 

「どうですか、イッセーの様子は」

「ん?そうね。体力と根性は少しついて来たけど、まだまだね。何処かのタイミングでみっちり鍛えられたら良いのだけど………」

 

 

 考え込むリアス。その様子にアルトリアは瞑目しながら問いかける。

 

 

「イッセーの事を真剣に考えて頂けるのは幼馴染としても嬉しい事ですが、貴女はそろそろ男性との付き合い方を考えなくてはいけないのでは?」

「………分かっているわよ、そんな事」

 

 

 そう。いつまでもこうしていられる訳ではない。主人を通して、彼女の家の事情をアルトリアは知っていた。彼女には彼女の使命がある。眷属の、それも男子に深く関わっているのは余り褒められた事では無い。モラトリアムの終わりは刻々と近づいているのだ。

 

 

「どうかしたんですか、部長?」

「ッ、いえ。なんでもないわ。さぁ、休憩も済んだ事だし続きを始めるわよ!」

「は、はい!」

 

 

 結局、学校が始まるギリギリまでトレーニングは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、教会らしき場所にイッセーはいた。周囲には見知った人々。

 

 

「ちくしょう!イッセーがなんで結婚なんて!」

「何かの間違いだ!これは何かの陰謀だ!」

 

 

 坊主頭の松田、眼鏡をかけた元浜。イッセーの悪友二人が恨めしそうな表情で彼に言葉を贈る。

 

 

「イッセー!初孫は女の子だよー!」

「うぅ、立派になって!性欲だけが自慢のどうしようもない子だったのに!」

 

 

 イッセーの両親もまた嬉し涙を流しながら、彼にエールを送る。ふと格好を見れば白のタキシード。さながら結婚式のような場面、否これは結婚式だった。教会内をお約束のファンファーレが流れている。唐突で驚愕的な場面に呆気にとられるが、肝心なお嫁さんは?俺の相手は誰だ?と周りを見回す。

 

 

「イッセー、きょろきょろしてはだめよ」

 

 

 隣から聞き覚えのある声。横を向けば、そこには腰の辺りまである紅の髪をした美少女。彼の主たるリアス・グレモリーがそこにいた。眩しいばかりの純白のウエディングドレス姿がイッセーの眼を焼かんばかりである。

 

 

「リアスお姉さま!お綺麗です!」

「ああ、リアスお姉さま!どうしてそんな男と!」

 

 

 教会の各地から参列者の悲鳴も上がる。皆がリアスを祝福するか、心配する悲鳴を上げている。そう、これはイッセーとリアスの結婚式なのだ。

 いつのまにかそういう関係になっていて、ついにこういう展開に!と興奮を隠せないイッセー。いや、肝心の間はどうした!なんも思い出せない!と過程がすっぽ抜けているが、憧れの部長と結婚できるなら何も問題無し!と割り切る。

 

 

「いついかなるときも……」

 

 

 神父がありがたいお言葉を話し始めているが、イッセーの耳には入らない。彼の脳内はこの後の初夜や、家族計画の事でいっぱいになっていた。

 

 

「それでは、誓いの口づけを」

 

 

 最後の誓いの口づけがイッセーの耳になんとか入った。その瞬間、脳内のエロい妄想は消え去り、今度はリアスにキスをするという考えが頭を支配する。緊張と不安、歓喜と興奮に身を任せ、イッセーは荒い鼻息を何度も出しながら、遂に唇を突き出して徐々にリアスのほうへ……

 

 

「その結婚、断じて認める事は出来ない!!」

「ッ!?」

 

 

 突如開かれる扉。そこには丈の短めなウエディングドレスに身を包んだアルトリアの姿が!

 

 

「あ、アルトリア!?」

「私以外の女性と結婚するなど、許しません!覚悟!!」

 

 

 手には彼女愛用の武器たるエクスカリバーが握られている。しかもリボン付き。それを振りかぶり、一気に距離を詰めてくる。

 

 

「この浮気者ォォォォォッ!!」

「ちょ、待て待て待てぇぇぇぇぇぇっ!?!?」

 

 

 斬られる!そう思い目を閉じるが、いつまで経っても斬撃が来ない。恐る恐る目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。何もなく、上下左右の間隔すら分からない、『無』に近い空間。さっきまでそこにあった式場も、リアスも、参列者も何もない。

 

 

『相変わらず、阿呆な夢ばかりみているな、相棒』

 

 

 俺の頭の中に低い男の声が響いた。低く、迫力のある声、イッセーはその声に聞き覚えがあった。イヤになるくらいに。

 突如周囲が燃え盛り、こちらを大きな目が睨む。血のように赤い瞳。耳まで裂けた口に鋭い牙が何本も生えそろっている。頭部にも太い角が並び、全身を覆う鱗はマグマのように真っ赤だ。巨木のような腕、足。鋭角で凶悪そうな爪。何よりも、バッと広がっている両翼がその体躯を一層大きく見せている。

 その姿は、まさにドラゴン。おとぎ話に出てくるドラゴンそのものだった。

 

 

「んだよドライグ!!また俺の夢の邪魔しやがって!!」

 

 

 そう、そのドラゴンはここ最近イッセーの夢の邪魔をしてくる、彼の相棒だった。『赤龍帝』ア・ドライグ・ゴッホ、イッセーの持つ神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に宿る存在にして、彼の幼馴染アルトリア・ペンドラゴンの先祖であるアーサー王と深い関係のあるドラゴン。

 先日目覚めて以来、ドライグは相棒との交流と称して、こうしてイッセーの夢に干渉してきているのだ。

 

 

『仕方がないだろう。まだまだ弱小なお前では俺の声を自由に聴くこともできない。だからこうして夢の中まで来て交流してやっているのだろうが』

「だからって毎度毎度いいところで邪魔しやがって!嫌がらせか!」

『まあな。お前があの主人にご執心だったから、どうせならアルトリアに邪魔させてやろうと思ったまでだ。中々鬼気迫るものだっただろ?』

「クッソ―!!」

 

 

 ドライグはイッセーの事を相棒とは言っているもののまだその実力を認めたわけではない。今のドライグにとってイッセーは「昔馴染みによく似た娘の、馬鹿な幼馴染」という認識であり、この時間は体のいい暇つぶしであった。

 

 

『まぁ、だが今回は別の目的もある。鈍い相棒に一つアドバイスだ』

「アドバイス?」

『女の覚悟は受け止めてやれ。近いうちにあの紅髪の小娘に転機が訪れる。それによってお前の運命も大きく変わるだろう』

「紅髪?部長に何か起きるのか!?」

『さあな。その辺りは自分で確かめろ。だが覚えておけ、お前が覚悟を決めるなら、俺はいつでも力を貸すぞ?』

 

 

 そういった瞬間、左腕に違和感を感じたイッセー。彼が左腕に視線を移すとその腕は赤い鱗に包まれ、鋭い爪むき出しの異形なものに変貌していた。

 

 

「う……!?」

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 異形に変貌した自分の腕に恐怖した瞬間、イッセーはガバっと目を覚ます。何時の間にか眠っていたようだ。額には脂汗がびっしりと付き、彼の服も汗で湿っていた。

 あんな夢は初めてだった。今までは精々ドライグに揶揄われる程度だったが、まさか自分の腕がドラゴンの様に変貌する夢を見るとは思わなかった。ドライグの助言、あれがただ単に揶揄い目的の出まかせか、本当に意味のあるものかは分からない。だが、あの声は何処か真剣な者に感じた。

 

 

「取り敢えず、シャワーでも浴びてくるか……」

 

 

 時刻は8時、どうやら帰ってから疲れて眠ってしまったようである。流石に疲労が溜まっていたのかと、夢の内容を頭の片隅に置いて、イッセーは風呂場へと向かった。

 

 

「………」

 

 

 出て行った部屋に、誰が来たのかも知らずに。

 

 

 

「ふー、さっぱりしたぁ。今日はアーシアが契約に行ったからかちょっと広く感じなぁ」

 

 

 最近、アーシアは矢鱈と一緒に風呂に入ろうとしてくる。曰く裸の付き合いらしいが、明らかに間違っていた。指摘して止めさせたいと思うが、それはそれとして役得である。

 そんな煩悩に苛まれずに良かったと思う反面、アーシアとの混浴を味わえなかった事を残念に思いながら、イッセーは部屋に入った。そこには、

 

 

「!?ぶ、部長!?」

「来たのね、イッセー……」

 

 

 何故か、リアスの姿があった。何故ここに?どうやって?父さんと母さんは知ってるのか?そんな疑問が頭を巡る。

 そんな思いを知ってか知らずか、リアスは何やら思い詰めた表情を浮かべている。そして、覚悟を決めたようにズンズンと詰め寄り、そして開口一番に衝撃的なことを言う。

 

「イッセー、私を抱きなさい」

「へ?」

「私の処女を貰ってちょうだい。至急頼むわ」

 

 

 

 

 

 リアスが爆弾発言をかましている頃、アルトリアはいつも通り夜警の任に付いていた。堕天使の気配はしない。だが、それでもこの街には様々な異形やエージェントが隠れ潜んでいる。彼らがいつ、こちらにちょっかいを掛けてくるか分からない以上警戒は必要だった。

 

 

「とはいえ、すぐに仕掛けてくるとは思えませんね。今日は早めに切り上げますか……?!」

 

 

 その時、アルトリアの後ろが光る。銀色の光、アルトリアはその光に見覚えがあった。振り返るとそこには、銀髪のメイド。彼女の雇い主の妻が立っていた。

 

 

「お久しぶりで御座います、アルトリア様」

「お久しぶりです、グレイフィア殿。名前で呼ぶという事は、グレモリー家のメイドとしての依頼でしょうか」

 

 

 グレイフィア・ルキフグス。アルトリアが仕える主、魔王サーゼクス・ルシファーの妻にして彼の『女王(クイーン)』。最強の『女王(クイーン)』の名を冠すると同時にグレモリー家の筆頭メイドでもある彼女が、アルトリア卿(サー・アルトリア)ではなくアルトリア様と個人向けの敬称で呼んだという事は、グレモリー家の者として話があるのだろう。

 

 

「お嬢様が姿を消しました」

「リアスが?しかしなぜ……」

「恐らく……」

 

 

 グレイフィアからの説明を聞き、アルトリアは嫌な納得を覚えた。彼女ならやりかねない。普段こそ冷静な彼女であるが、その本質は短気で乙女な我儘娘。自身の身に課せられた使命、それを嫌がってそれくらいはするだろう。

 

 

「…了解しました。ですが貴女一人でも連れ戻すのは容易いのでは?」

「アルトリア様は行き先の方と懇意と伺っております。もし万が一の時は彼を説得し、円滑に対処すべきと」

「なるほど、分かりました。すぐに向かいましょう」

 

 

 アルトリアはグレイフィアの展開した魔法陣に入り、共に転移する。転移した先、兵藤家ではリアスが全裸でイッセーを押し倒していた。絵面は最悪に近いが、絡み合っていないという事はまだ間違いを犯したわけではなさそうである。

 

 

「グレイフィア……」

「こんなことをして破談へ持ち込もうというわけですか?」

 

 

 グレイフィアは呆れた口調で淡々と言う。尤もだ。下級悪魔と交わり処女でなくなれば、不義密通をしたとして婚約も破談になるだろうなど、余りにも短絡に過ぎる。それを聞いたリアスは眉を吊り上げた。

 

 

「こんなことでもしないと、お父さまもお兄さまも私の意見を聞いてはくれないでしょう?」

「このような形で貞操を汚したと知れば旦那さまとサーゼクスさまが悲しまれますよ」

「私の貞操は私のものよ。私が認めた者に捧げて何が悪いのかしら?この子はそれに足る男よ」

 

 

 会話は平行線、全く交わる気配が無い。グレイフィアは嘆息しながら、リアスの上着を拾い、彼女に掛ける。

 

 

「何はともあれ、あなたはグレモリー家の次期当主なのですから、無闇に殿方へ肌を晒すのはお止めください。ただでさえ、事の前なのですから」

「な、なぁアルトリア。この人は一体……」

「申し遅れました。私は、グレモリー家に仕えるメイド、グレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 そう言ってグレイフィアは、イッセーに丁寧な礼を見せた。その姿と見た目の美しさに、イッセーは思わず見惚れてしまう。そんなイッセーの頬をグニっと抓るリアス。

 

 

「グレイフィア、あなたがアルトリアも伴ってまでここへ来たのはあなたの意志?それとも家の総意?……それとも、お兄さまのご意志かしら?」

 

 

 半眼で口をへの字に曲げるリアス。その姿は年相応の女子らしいものだった。かなり素が出ているな。

 

 

「全てです」

 

 

グレイフィアはそう即答した。それを聞いたリアスは諦めたかのように深く息をつく。

 

 

「そう。兄の『女王』であるあなたが直々人間界へ来るのだもの。そういうことよね。わかったわ」

 

 

 リアスは脱ぎっぱなしの服を手にかけ、袖に腕を通していく。その様子に残念そうなイッセーであるが、今の彼女は大事な身だ。そうそう異性が見て良いものでは無い。

 

 

「ゴメンなさい、イッセー。さっきまでのことはなかったことにしてちょうだい。私も少し冷静ではなかったわ。今日のことはお互いに忘れましょう」

「イッセー、という事はこの方があの?」

「ええ、兵藤一誠。私の『兵士』よ。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の使い手の」

「……『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』、龍の帝王に憑かれた者……」

 

 

 リアスの言葉を聞き、グレイフィアがイッセーを異質なものでも見るような目で見つめてくる。古い悪魔からすれば、余り良い存在ではないだろう。

 

 

「グレイフィア、私の根城へ行きましょう。話はそこで聞くわ。朱乃も同伴でいいわよね?」

「『雷の巫女』ですか?私は構いません。上級悪魔たる者、『女王』を傍らに置くのは常ですので」

「よろしい」

「では私は任に戻ります」

「お手数をおかけしました、アルトリア様」

「いえ、事が丸く収まって何よりです」

「イッセー」

 

 

 グレイフィアに着いていく直前、リアスはカツカツとイッセーに歩み寄る。そして………

 

 

 チュッ

 

 

 頬に触れるリアスの唇。一瞬の硬直の後、イッセーの心は舞い上がり、顔を赤らめ、喜びを全身で表す。

 

 

「今夜はこれで許してちょうだい。迷惑をかけたわね。明日、また部室で会いましょう」

 

 

 リアスはそう別れを告げ、グレイフィアとともに魔法陣の放つ光のなかへ消えていった。

 

 

「はぇ〜、エヘヘへ「イッセー」ハッ!?ど、どうしたアルトリア!?」

「舞い上がり過ぎですよ、全く……。それでは私は夜警の任に戻りますので」

「お、おう。って、そうだ!部長が来た理由、なんか破談とかなんとか……」

「……その点についても、明日話があるでしょう。ただ、相応の覚悟を持っておく事をお勧めします。では」

 

 

 そう言ってアルトリアは、夜の街へと飛び出して行った。嵐のような出来事も終わってみれば、静かな部屋のみが残り、残されたイッセーは呆然とベッドに座り込むしか無かった。

 

 

「イッセーさん、ただいま戻りました!…イッセーさん?」

 

 

 

 

 

 次の日、アルトリアは何事も無かったかのように登校した。イッセーは何やら松田と元浜に詰め寄られていたが、関わったところでこちらに利があるとは思えなかったので、そのまま無視することにした。

 

 その後、いつも通りに仮眠室で睡眠時間を確保した後、アルトリアは一足早めに旧校舎へと向かった。午後になってから感じていた謎の強者の気配に警戒しながら向かっていたが、旧校舎周辺で、それがグレイフィアの放つ気配であることが分かったため、胸をなでおろしつつオカルト研究部の部室へ入った。

 

 

「失礼しま、ッ!?」

 

 

 しかし、アルトリアの予想に反し、部室には重苦しい雰囲気が漂っていた。室内にはリアス、朱乃、小猫、そしてグレイフィアの四人がいたが、全員が嫌な雰囲気を纏っていた。明らかに機嫌の悪いリアス、物静かなグレイフィア、いつも通りニコニコ顔だがどこか冷たいオーラを纏う朱乃、関わりたくないという態度で部屋の隅で椅子に静かに座る小猫。

 下手に関われば、此方に余計な飛び火があると考え、アルトリアは壁際に静かに控えた。少しするとイッセー、アーシア、祐斗の三人も到着したが、皆一様にこの部室の空気に気圧されている様子だった。

 リアスがメンバーの一人一人を確認して口を開く。

 

 

「全員そろったわね。では、部活をする前に少し話があるの」

「お嬢様、私がお話ししましょうか?」

 

 

 リアスはグレイフィアの申し出を手を振っていなす。

 

 

「実はね……」

 

 

 リアスが口を開いたその時だった。部室の床に描かれた魔方陣が光出す。オレンジ色の輝き、魔法陣に描かれた紋章はグレモリーのそれとは違う。次の瞬間、魔法陣から炎が一気に燃え盛る。この紋章、そして炎、という事は……

 

 

「フェニックス」

 

 

 近くにいた祐斗がそう呟く。室内を眩い光が覆い、魔方陣から人影が姿を表す。

 

 

 ボワッ!

 

 

 魔法陣から一際強い炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込む。火の粉が飛んで来て周囲に当たる。炎の中で佇む男性のシルエット。彼が腕を横に薙ぐと、周囲の炎が振り払われた。

 

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

 

 そこにいたのは赤いスーツを着た一人の男。スーツを着崩しているせいか、ワイルドな印象を持たせる。二十代前半で整った顔立ちだが、ガラが悪くチンピラ系のホストといった風体をしている。男は部屋を見渡し、リアスを見つけると口元をにやけさせた。

 

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

 

 愛しのリアス、とまるで彼女が己のパートナーだと言わんばかりの口ぶりだがそれもそのはず。アルトリア自身初めて会ったが、コレがリアスのフィアンセとは……

 

 

「さて、リアス。早速だが、式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」

 

 

 男はリアス先輩の腕をつかむ。

 

 

「…放してちょうだい、ライザー」

 

 

 低く迫力のある声でリアスはその手を振り払う。ここまで怒りを露わにするのも珍しい、いや初めてでは無いだろうか?対する男、ライザーは手を振り払われたことなど気にもせずに笑うだけだった。するとイッセーが彼に怒り出す。

 

 

「おい、あんた。部長に対して無礼だぞ。」

 

 

 そうイッセーが物申す。男はイッセーへ顔を向けると道端のゴミを見るような目で見ている。彼からすれば、下級悪魔などまさに掃いて捨てる存在なのだろう。

 

 

「あ?誰だ、おまえ?」

 

 

 あからさまに不機嫌な口調でイッセーを見やる。完全にイッセーを下に見ているが、事実下なのだからさもありなん、という所だ。

 

 

「俺はリアス・グレモリーさまの眷属悪魔!『兵士』の兵藤一誠だ!」

「ふーん。あっそ」

 

 

 言ってやったというイッセーの態度に、男は興味なさそうに返す。

 

 

「つーか、あんたこそ誰だよ」

 

 

 逆に飛んできたイッセーの質問に男は少しだけ驚いていた。自分の存在が知られていないことに驚きを隠せないようだ。

 

 

「…リアス、まさか俺のことを下僕に話してないのか?」

「話す必要がないから話していないだけよ」

「はぁ、相変わらず手厳しいねぇ。ハハハ…」

 

 

 その反応に、相変わらずのじゃじゃ馬だと呆れたような態度で苦笑いする。そこへグレイフィアが介入する。

 

 

「兵藤一誠さま」

「はい」

「この方はライザー・フェニックスさま。純潔の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます」

 

 

 とグレイフィアが紹介してくれる。これだけなら、単なる貴族の三男坊で済むだろう。しかし彼のもう一つの肩書がそうはさせなかった。

 

 

「そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます」

「え、てことは………」

「リアスお嬢様とご婚約されておられるのです」

「ええええええええええええええええええええええッッ‼」

 

 

 受け入れがたい、その事実にイッセーが絶叫した。




 アルトリアは実質グレモリー眷属みたいな扱いを受けているが、実際にはサーゼクスの食客のため名誉ルシファー眷属、といった感じ。その為グレモリー眷属でも知らない情報を一部知っている。

 またアルトリアは女性ではあるものの、本人の希望により扱いは騎士候の為、サーの称号を持っている。
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