美少女Vtuber(男)はじめました!スキル「世界一可愛い声」で借金2億男子高校生、V界を駆け上がります!   作:流石ユユシタ

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第5話 推し

ワタシ……、姫乃光(ひめのひかり)は推しがいる。

 

 

 

 それは、

 

『──やっぱり冒険者は凄いですね。しかもライトセイバーさんはBランクの迷宮にも行っているだなんて』

 

 勝利の女神ヴィクトルナ、という名前のVチューバーだ。うん、めっちゃ可愛い。とんでもなく可愛い。

 しかし、これほどの逸材がなぜ同接2で燻っているのかは、ワタシには理解できない。まぁ、そのうち人気になるだろうけど。

 

「可愛い、やはり可愛い。可愛いだなんてレベルじゃない。これは肩書きが女神でも納得する」

 

 ──ヴィクトルナ。彼女は圧倒的な美声を持っている。

 

 

 

 その声を初めて耳にした瞬間、ワタシは思わず息を呑んだ。まるで天界から舞い降りた女神が、銀の鐘を指先で優しく鳴らしたかのような──そんな奇跡が、この現実に起きてしまったのだ。

 

 そして、その人の声は、高く、透き通っていて、まるで空の高みから降り注ぐ純白の光そのもの。ひとたび発せられれば、空気が震えるように澄み渡り、耳の奥に心地よい震えを残す。明るく軽やかでありながら、決して軽薄ではない。

 

 さらに、その一音一音に宿るのは、慈しみと優しさ、そして何より生まれながらの品格だった。

 

 その高音は、まるで春の空を舞う小鳥のさえずりのようでありながら、それ以上に繊細で、どこか切なさを帯びている。それは、ただ聴くだけで心をほどき、頬を緩ませ、気づけば誰もがその人の虜になってしまうという、不思議な魔法を秘めていた。

 

 言葉を紡ぐたびに、まるで宝石の粒が空中で弾け、きらきらと舞って音となり、私たちの世界に降り注ぐ。高く澄んだ声は、まさしく希望の鐘。孤独や不安といった影を、たった一言で払ってしまうほどだ。

 

 その声が笑えば、どんなに遠く離れていても心が躍り、悲しみの中にあっても、ふと顔を上げてしまう。そんな力が、確かにそこにはある。

 

 あの人の声は、天が与えし宝であり、あの人自身こそが音を愛し音に愛された存在──まさしく声の女神だ。

 

 

 

 でも、彼女は声だけの人ではないのだ。内面も素晴らしかった。ワタシは初めて、人に惚れるという感覚になったのかもしれない。

 

 性格、というより考え方や言葉遣いが好きになったのだ。発せられた言葉に心が動かされる。

 なんて言うんだろうか。優しさだけで片づけられるものではない気がする。とにかく、一言一言に重みがある印象なのだ。

 

 

 

 彼女はワタシが欲しかった言葉をくれた。ヒーローに私は慣れた、と言ってくれた。

 

 ただ、それが嬉しかったのだ。

 

 

 

「また、ヴィクトルナちゃんの配信みよう……」

 

 

 

 まるで人形のように美しく、人形のように表情が動かないと言われたワタシでも、これにはニッコリしてしまう。

 

 口角が無意識に釣り上がるのを感じてしまうほどに、彼女は可愛いのだ。

 

「女神……はぁー、可愛いー。画面を舐めてもいい……」

 

 

 

 アーカイブを見れば見るほど、その可愛さが分かる。ところが、そんな至福の時間を過ごしているときにスマホが鳴った。

 

 ──それは、ワタシが卒業後に入社するダンジョン開拓会社【ハードコア】からの電話だった。

 

 

 

「もしもし」

「もしもし! Sランク冒険者の姫乃光さんですか?! マネージャーの錦部です!!」

「どうも」

「今、ダンジョン庁より我が社に任務が発注されました。Aランクダンジョン焦熱の火廟(しょうねつのかびょう)にて、イレギュラーモンスターが発生しています。そこでSランク冒険者、姫乃光に出勤を願います」

「わかった」

「すいません、姫乃さんはSランクとは言ってもアルバイト扱いなのに」

 

 

 

 高校生は就職が難しい。だから謝る必要なんてないと思うけど……それに、ワタシは報酬はたくさんもらっているし。

 

 ただ、イレギュラーモンスター。最近出現が増えているとは聞いているけれど……。

 

「それと、この件はオフレコでお願いします。国からは国民の不安を煽るため、イレギュラーモンスターの発生などは口外禁止と言われてますので」

「分かった。昨日の地震は、もしかして」

「お察しの通り、イレギュラーモンスターの発生に伴い、そのモンスターがダンジョンを暴れたためです。今は落ち着いてるようですが、また暴れ始めるかもしれません」

「分かった。すぐ行く」

 

 

 

 ──行かなくてはならない。ワタシは……

 

 

 

 焦熱の火廟──

 

 深く、赤く、燃えている。

 溶岩の音。焦げる空気。剣を握る手の感覚さえ、熱に溶けて消えそうだった。

 

 ワタシは、ひとりでこのダンジョンに来た。Aランク。Sランクのワタシにとっては、本来ならさほど脅威ではないはずの場所だ。

 

 ……だが、今日は違う。微かに感じる底知れぬ魔力が、まるで肌が直接焼かれているような恐怖を、ほんの少しだけワタシに抱かせた。

 

「……うん、やれる」

 

 自分にそう言い聞かせながら、最下層へ踏み込んだ。

 

 

 

 そこにいたのは、一体のイレギュラーモンスター。すでに名前がつけられているらしく、焔帝バロヴェルグと言うらしい。

 

 最下層の溶岩湖から出現した全長15m超の、黒炎をまとった巨人型モンスター。その体内には「焔の王核」という純粋な魔力核を宿している。しかも鐘のような振動を鳴らしながら移動し、近づくだけで呪炎に包まれてしまう。

 

 これで、すでにAランク冒険者32人が敗れているらしい。本来AランクダンジョンならAランク冒険者が攻略できるはずなのに……。

 

 その事実だけでも、常軌を逸した敵なのは明らかだった。だからこそ、その巨体を見た瞬間、ワタシは──息を飲んだ。

 

 これは……今まで戦ってきたどの相手よりも強い。だけど、剣を抜くことに迷いはなかった。

 

「《絶領域》──展開」

 

 範囲内、すべてがワタシのものになる。

 いつも通り。そう、これまではそうだったはずなのに。

 

 ──それでも、足りなかった。

 

「《冥界の剣》」

 

 そう呟くと紫炎によって生まれた剣を、ワタシは掴んだ。

 

 そして、そのまま斬る。斬れた。けれど──

 

 バロヴェルグは止まらなかった。

 身体に切れた跡があるのに、燃え上がるように膨れ上がる魔力。黒炎を宿したその体がワタシに突進してくる。

 

 ワタシの視界が、黒い炎に埋め尽くされた。

 

「……っく」

 

 刹那、音が消えた。いや、聴覚が焼けたのかもしれない。

 炎が身体を包み、足が溶けていく感覚をおぼえる。

 

 ああ、これ、ダメだ。

 

 思ったよりも冷静だった。すぐさま剣を引き、領域を畳む。そして退路を確認。ワタシは逃げた。

 

 

 

 ──初めての、完全な敗北だった。

 

 

 

 ダンジョンから脱出し、隠れるようにして地上の一角にある避難所へ入った。

 身体はもう、《絶対生命》で回復していたけど……胸の奥のざらつきだけは、拭いきれなかった。

 

「……ワタシ、弱い」

 

 ぽつりと呟いた声が、誰にも届かない部屋に響く。

 

 手持ちのスマホを開く。

 意識もせず、指が配信アプリをタップしていた。そして、

 

──【ライトセイバー(男):勇気が欲しい。応援してください】

 

 そう、アーカイブにコメントを残した。そのタイミングでスマホに電話がかかってくる。

 

 

 

「姫乃さん!? 大丈夫ですか!!」

「うん……あれはとんでもなく強い」

「……姫乃さんの戦う様子はこちらでも確認していました。恐らくSランクダンジョンとして焦熱の火廟(しょうねつのかびょう)は格上げされるかと」

「……そう」

 

 

 

 確かに、あれはAランクダンジョンではないだろう。イレギュラーモンスター。最近まれにダンジョンに現れる、他とは違う強力なモンスター。しかし、ここまで強大なのは初めてではないだろうか。

 

「他のSランクは?」

「……現在、国外にいたり連絡がつかなかったり、別のイレギュラー対応や他の任務を遂行しているなどで……」

「そう」

 

 

 

 まぁ、だからワタシに頼んだのだろう。一応学生に頼るより、正式に雇っている冒険者をあたった方がいいからね。

 

「……今、モンスターは?」

「隠しカメラだと、少しずつ地上に向かっております」

「……緊急連絡はしてる? 一般人を避難誘導させないと」

「それについてはこれからさせてもらいます! 姫乃さんでも敵わないとなると、もう、口外禁止とか言ってる場合ではありません!!」

 

 

 

 ──ワタシは……

 

 

 

 強くなりたい。ヒーローになりたかった。だから、ワタシが戦わないといけない。父が望んだヒーローなら、ここで逃げるはずがない。

 

 でも……初めて、身体が恐怖で震えている。ワタシが戦った方がいいのは分かってるのに。

 

 ヒーローになれたと思っていた。けれど、今こうして動けないワタシは、果たしてヒーローなのだろうか。

 

 

 

「姫乃さん、今すぐ避難誘導を開始します。付近に一切人間を近づけさせないようにするので、他の冒険者を協力させてモンスターが地上に来ないように──」

 

 

 

──ピコン

 

 

 

 その時、静寂を切り裂くようにスマホが鳴った。そして、

 

『女神ヴィクトルナさんが配信を開始しました』

 

 思わず、通話を切って配信を見てしまった。まるで大人にすがる子供のように、迷いなくワタシは画面をタップする。

 

 

 

『えっと、今日も配信開始しますー。今日は土曜日なので午前中に……あ、もうライトセイバーさん来てるんですね。どうも、おはようございますー』

 

 

 

 いつも通りの可愛い声がワタシを包む。だけど、心の焦りは消えなくて……気づけばコメントを投稿していた。

 

 

 

【ライトセイバー(男):ダンジョンに挑んでたのですが、すごく強い敵が出てきて……どうやったら、また、立ち向かえますか?】

『え!? だ、ダンジョンに行ってるんですね! やっぱり凄いですね! で、でも、私Eランクなんですけど……アドバイスするほどの存在でもないっていうか』

【ライトセイバー(男):それでも……何か欲しい。ヒーローだから、立ち向かわないといけない】

『そうですか……あの、モンスターが怖いんですよね?』

 

 

 

 そう、ワタシはモンスターが怖い。これがワタシの本音だった。そしてその恐怖に打ち勝てる心を、今のワタシは持っていない。

 

 

 

【ライトセイバー(男):怖いんだ。怖くて、動けない……だから、勇気が欲しくて】

『だから、勇気が欲しいとコメントしてたんですね……で、でも、私にそんな大層なこと……出来ないですよ……』

【ライトセイバー(男):そうだよね、急に困るよね……】

『……いや、そんなことない! 全然困ってない!! 本当に困ってるのはライトセイバーさんですよ!! ごめんなさい!! ちょっと待ってください! 考えを改めます!!』

 

 

 

 急に考え込むような声をした後、彼女は大きな声でワタシに語りかけた。

 

 

 

『私は画面の外から、ダンジョンを見ることしかできない……安全圏で見ているだけだ。だから、私のできることは微々たるものかもしれない。でも、私は今、私にできることをしたい。ライトセイバーさん、貴方を応援します!』

【ライトセイバー(男):応援してくれるの?】

『はい!! 応援します! 頑張れ! ヒーロー!! ずっと応援してます!!! だけど、怖かったらまたここに来てください!! 私がここに居ます!! また絶対配信します!!

 

『──貴方が勇気をまた、貯めてくれるまで!!!』

 

『──頑張ることに疲れたら、また来てください!! 私がいる!!』

 

 

 

 ──ワタシは

 

 

 

 画面越しの笑顔が胸に刺さる。でも、どこか力強いその笑顔に、ワタシは……。

 

 ワタシは……動く勇気をもらった。

 

 

 

「……ワタシ、もう一度、行ってくる」

 

 

 

 端末を閉じ、立ち上がる。

 心臓の奥に、かすかな火が戻ってくるのを感じた。

 

 

 

 再び、焦熱の火廟。

 空気は変わっていない。だけど、今度はワタシが違う。

 

「……《冥界の剣》、《絶領域》──展開」

 

 そして、魔力が流れ出す。前回よりも明確に、ワタシの領域を感じた。

 

 また、最下層。あの場所。まだ、奴はいる。

 黒い巨体が、こちらを見た。

 

 けれど今度は、ワタシも見返す。

 

「……うん、また来たよ」

 

 再び剣を向ける。震えはない。【勇気】が、ワタシの内側にあるからだ。彼女が与えてくれたものが。

 

 一歩。

 さらに一歩。大きく踏み出せる。

 

 すると次の瞬間、バロヴェルグの右腕が斬り落とされる。

 

「……見えてる、今はちゃんと」

 

 

 

 瞳がはっきりと見開くのを感じる。敵の反応を読み、足を滑らせ、切り込む。

 剣が音を立てるたびに、敵の装甲が剥がれていく。

 

「ワタシは……勝つ」

 

 黒焔が炸裂した。視界が焼かれる。

 

 でも、前とは違う。

 ワタシはあの言葉を思い出す。

 

『──頑張ることに疲れたら、また来てください!! 私がいる!!』

 

「うん、また行くよ。ヴィクトルナ」

 

 

 

 また、剣を掲げ、跳び込む。

 そして、魔力が限界を超え、刀身がさらにまぶしく輝く。紫炎の剣は、いっそう鮮やかな光を帯びた。

 

「終わりだよ、焔帝」

 

 ワタシの冥界の剣が、黒炎の心臓を貫く。

 

 それと同時に巨体が崩れ落ちる音。静かに、そして確かに、敵は沈んでいった。

 

 

 

 ワタシは剣を収めて、少しだけ笑った。

 

「……うん、やっぱり、勝つって気持ちいいね」

 

 

 

 ──そして、イレギュラーモンスターを討伐したワタシは、日曜日まで爆睡をかました。

 結局、避難誘導などは出ず、今回の件は伏せられることになる。

 

 だから、ワタシの功績は一部しか知られないままだ。ホントはヴィクトルナちゃんに伝えたいけど、口外禁止なので言えない。

 

 

 

 そして、月曜日がやってきた。ワタシは高校に向かう。本当なら配信アーカイブを見たくて休みたかったが、学業も大事。苦渋の思いでやめた。

 

「あ、おはよう」

「うん、おはよう」

 

 

 

 クラスに着くと、隣の席の幸木勝利が挨拶を交わしてくる。ワタシはスキルの影響で、生物が近づきにくいはずなのだけど、彼は普通に話しかけてくるのだ。

 

 彼は冒険者について色々と聞いてくる不思議な子。才能がないと言われているのは知っている。でも、それでも努力しているところは素直に好ましいと思った。もっとも、最近は冒険者を諦めたとか、隣で誰かに話していたようだけど。

 

 彼もヴィクトルナちゃんに応援されたら、もう一度頑張ろうと思うかもしれない。

 

 

 

 まぁ、でも彼には必要ないかもしれない。ワタシはそこまで交流が深いわけではないけれど、彼はかなり我が強いタイプだと知っている。

 

 まだ冒険者の本を読んでいるみたいだし、実際は諦めていないのだろう。ふふ、まぁ、本当に落ち込んだらヴィクトルナちゃんを紹介してあげてもいいかもしれない。

 

 いや、でも本当に良い推しはやっぱり教えたくない。だって、ワタシが話せなくなってしまうかもしれないから。

 

 秘密にしよう、うん。

 

 

 

 

 次の配信で必ずまたお礼を言おう

 

 

 

 

 




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