5/9 シトのフルネームを安堂 シトに決めました。
……私のミスでした。
私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。
結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。
……今更図々しいですが、お願いします。__先生。
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……。
ですから……大事なのは経験ではなく、選択。
あなたにしかできない選択の数々。
責任を負う者について、話したことがありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら理解できます。
大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも。
……。
ですから、先生。
私が信じられる大人である、あなたになら、この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を……。
そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。
だから先生、どうか……。
この、絆を――
私たちとの思い出……過ごしてきたそのすべての日々を……どうか………。
_______。
___その後、世界は暗転し、私は自身の意識が底に着くのを自覚した。
幾ばくかの時が過ぎ、次に目が覚めた時、『神との接触実験』の為に用意した〝サテライト〟に居た私は、それを起動させてキヴォトスの様子を観察した。その時、私は私を苛む。
Vanitas Vanitatum, et omnia Vanitas…。その境地に私が至るなんてね…。
っ、惨状を見て沈んでいる暇は私には無い。サテライトを終了し、直ぐに軌道エレベーターに繋がる扉を潜り抜け、地上へと降りる。地上の惨状をこの目で確かめたかったから…。
地上に着いてまず向かった先は、シャーレの執務室。机の上に休眠状態のシッテムの箱と、私の嘗ての相棒のベレッタM9A1を確認。私から離れた後に使用された様子は…見たところ無い。
続いてシャーレのオフィス。超強化防弾窓は1つ残らず完全に割れ、その破片は内側に散らばっている。机の上に置いてある資料は全て生徒達の固有武器関連のもので………生徒の顔写真や名前、スリーサイズ*1、その他諸々の情報が書かれていたのが分かるが、今となっては固有武器に関する事以外、読み取れる情報がこの資料達には無い。
それ以外の情報が資料から抜け落ちたかのよう…。
・・・、
場所は変わり、今ミレニアム近郊の廃墟の奥深くへと私は足を踏み入れている。ここへは現状を変え得るような協力者を探して来た。まだ何体か使える物…ううん、人がいるといいけど。
と、思っていると、シッテムの箱が急に休眠状態から復帰、周囲の情報が画面に映し出される。丁度夢の世界を通じて見ていたアリスが居た場所の更に奥の奥、更にその地下深くに僅かな、しかし確かな反応があります。
私はその反応に賭けてみる事にしました…。
結果。
-droidという一部の文字が欠けた状態のものが右肩に彫ってあるアリスと似た、しかし短髪のオートマタを発見。鎮座する揺りかごと玉座が組み合わさったような椅子の台座には142103147107という数字が…これはこの子の名前と解釈してもいいのでしょうか?
取り敢えず、このオートマタの呼称を数字を解読して得た…名?〝シト〟とし、シッテムの箱で解析を試みるも…アリスのように鍵があるようなタイプではないのと、作ったはいいものの、〝中身〟が形成されず、起動する見込みが立たずに、打ち捨てられたと推測出来るだけの情報が画面上に表示されました。
この子はここに置いていくしかないでしょう。そう思ったその時、物言わぬ機械人形が一瞬だけ目を開いたように見えた。
………きっと気のせいでしょう。そう思っても気になったので、もう一回シッテムの箱で解析して、画面を見る限りは先程と全く変わらない解析結果。
………やはり気のせいだった。私は踵を返して地上へと戻る階段に足をかけた、その時でした。
「女王………様?、の、ための〝アポストル〟が1人、AN - Droid、起きました」
………やはり気のせいではなかったらしい。けれど、起動するはずの無いこのオートマタが何故今になって………これも今のキヴォトスの惨状と関係があるのでしょうか?
「あの………女王様?ですよね?」
彼女の青白い光を湛えた瞳がこちらを見つめる。それにどう反応していいか分からない私は取り敢えず自らの本名を名乗った。
「じゃあ、女王様ではなかったのですね…」
そう落ち込む彼女の頭には鳥の羽を思わせる形状のヘイローが今し方灯った。他に彼女のヘイローの形状について例えを出すならば、古代ギリシャの船を漕ぐためのオールのような、そんな形状だと言えます。
「ワタクシは………女王様がいなければ、どうしてよいか………」
言ったきり、押し黙り、俯いてしまったので私に着いてくるよう促す。
「え………いいんでしょうか?私、持ち場を離れて………あ、言葉遣いはこれで普段通りです」
敬語を崩しても良いと言ったら、そう答えられたので口調については終い。そして現状のキヴォトスを理解してもらう為に今までのキヴォトスの歩みを彼女に語りながら地上を目指していきました…。
・・・、
「ではそのセンセーなる人物が全ての厄災を生徒と共に解決したんですね?」
今迄のキヴォトスでの出来事の全てを、触りの部分だけを頭に入れてもらおうと語っていたら、彼女がそう言うので、「それは違う」と言っておきます。
流石の先生でも平行世界や、既に居なくなっている生徒を救うことは出来なかったのですから…。
その救えなかった生徒の中には梔子ユメが………思えば彼女程私と対等に接してくれた人は無かった。人と言うには怪しい存在を入れれば彼女以外にも対等な付き合いが出来ていた存在はいたのだけれど、今はいいでしょう。
「梔子ユメ……さん?」
「そう、彼女は買い物に出かけて、アビドス砂漠で遭難し、そのまま………」
「日に焼かれて死んじゃったんですか?」
「………当初はそう思われました。けれど〝救護〟が奇跡的に間に合っていました。彼女は無事に病院へと運ばれました。何事も無くて良かった。そう安堵すれば次の瞬間には………」
「ドキドキ…」
「救護した子からユメが病院で突然消えたとの報告を受けました」
「え………???」
「それを聞いて私が病院に駆けつけることはありませんでしたけど、その後その事に関する報告書が連邦生徒会に届いて、愕然としました」
…彼女は盾だけを残して、一切の痕跡を残さず病院の病室から消えていた。そうとしか言えない状況だったと届いた報告書には書いてあった。流石の私もその内容が信じられなくて、連邦生徒会としての仕事が忙しい中現場を3度訪れもした。
そんな話をして、彼女…安堂 シトに、その消失の原因を一緒に探って欲しいと頼んでみる。多分、彼女が初の事例だから、解決の糸口が見つかれば後は…。
「安堂 シト…それが、私の名前ですか…いいですね、気に入りましたよ。そして協力の申請を受理致します!一緒に頑張っていきましょう!」
「ありがとう…、でもやっぱりまずは、〝服〟だね」
そう、彼女は今の今まで裸だったのだ!
・・・、
シトを見つけてから1ヶ月…全く夜が来ないまま地上でのシッテムの箱を使ったマッピング作業が終わった私は、ミレニアムの居住地区の端っこで船を漕いでいた。…と、そこにピロリーン♪とシッテムの箱から音が鳴りました。
「ん?ん、んんーっ!なんだか長い間眠っていたような気が…って、わたしぃいいい!!?」
「アロナ…ステイ」
「私は犬じゃないですよー!」
何故かこのタイミングでOSが復活…、自分がもう1人いるような妙な気分に包まれます。
マッピングしたデータと今迄のあらましを情報としてシッテムの箱には既に入れていたので、語らなくてもアロナはキヴォトスの現状をすぐに把握、解決策を模索するために情報の海に潜って行きました。
「…何かありましたか?」*2
「あー、いや、何でもないよ」
そこに近づいて来たのはサーバルのメタルバッジ付きの私の私服を着たシト、結構背丈が私といい勝負だったので、着せてみたらサイズがぴったり合っていました。
「進展は何かあったか…な?」
「うーん…強いて言うなら、花が咲きましたよ♪それはもう色とりどりの♪」
「そう…良かったわね」
………実の所、私は話相手が欲しくて彼女のような存在を探していたのだろう。今はアロナも加わって寂しい想いをせずに済みそうです。
それにしても、クズノハ様が言っていた本物の怪異、あの方と繋がることが出来ればまた何か現状を打破できるようなヒントをくださるでしょうか?
クズノハ様は過去、現在、未来を超越して存在している…それとは別に〝
その何方も夢を通してキヴォトスを見ていた私に接触してきました。クズノハ様からは様々な生徒達の過去から現在、未来のことを、コトノハ様からは外の世界*3の〝マイスター〟達や『楽園』のことをお話ししてくださいました…。
『龍の渡り』やヴォイニッチ手稿に書かれていることなど、半信半疑になるような話もありましたね…。
コトノハ様は言霊のお力が強力に働くお方でしたので、筆談をしていた事も思い出します…。彼女がした話の中で印象に残ったものは数多くありますが、特に『色彩』や『黄昏』に関する見識は目から鱗でした。
曰く、あれらが持つ性質の1つにはキヴォトスの『余白』が関わっているのだと…『余白』とは例えるなら本のページとページの間、雪舟の水墨画の墨が塗られていない部分。鳥獣戯画の獣達の語らいを想像できる余白…、そういったものが近いでしょうか。
『余白』はそれらの概念が拡大、成長したもの…と、コトノハ様は筆談で仰られていました。
…話を変えまして、彼女のいる刹那の世界には、クズノハ様と比べても客人が極端に少なく、他の客人については『楽園』の方がお1人来たことがあるとしか聞いたことがありませんでしたから、そんな中彼女の話し相手になれたことはとても幸運なことだったのでしょう。
そんな事を考えながら、窓から身を乗り出し、眼下の花々咲き乱れる景色を少し楽しみ、半壊したサンクトゥムタワーと半分割れた青空を見上げます。
キヴォトスで目立つ要所は全てこのサンクトゥムタワーと同じで、半壊か全壊をしていました。
「も、戻り…(敬語使うのも変かな)戻ったよー!」
「それで、どうだったの?」
「うーん…今までに集めたデータだけだと、生徒、先生、キヴォトス住民全員一斉消失事変の解決に至りそうな何かは見つからなかったよ。わたしとしてはそんな中残ってた彼女が気になる」
「お花、綺麗でしょう♪」
「そうね…」
私、連邦生徒会長を入れてたった3人…だけれど、ここからキヴォトス再興の道を行かなくてはならない。
必ず______必ず皆さんを、元のキヴォトスを取り戻して見せます。
アビドス砂漠 アビドス遺跡
セリカ「な、なんでか生き残れた!?でもこのままだと干からびちゃいそう…」
セリカさんという子はなんとなく生き残りそうだと思った訳でして…はい…贔屓ではありません。
多分この世界線は続きを描きません。