タクティカル・カードゲーム・カノン   作:水無月 驟雨

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カードゲーム(バディファイト)自体のルールは分からなくても読めるよう書いてみましたが、難しそうなら文句を入れてください。


タクティカル・カード・バトル
死火vs有得流我 編


 194■年、五行(ごぎょう)蝎己(かつみ)という祓魔師があるものを生み出した。

 

 その名は『世界結界』。

 

 結界術式で()()()()封印することにより、界異はおろか術式や現象を封じ込めてしまう技術。更にその結界術式を加護術式として三次元物質に刻印し、携帯を可能にした代物だ。

 

 当時の技術力では五行以外に再現・量産できぬ机上の空論だったこと、そして当時の昔の家柄を重んじる風潮もあり、発明当時はあまり日の目を浴びなかった『世界結界』。

 だが、20■■年。かの『七代工房(ななだいこうぼう)』によって理論は実現され、祓串(ペグ)注連亜縄(ワイヤー)などの祭具の開発に使われ、祓魔師の現場死傷率減少に大いに貢献した。

 

 

 

  ──のとは別の世界で。

 

 

 

 これは、『七代工房』が『世界結界』の活用先を、かの三河平輔警部『対祓魔師術式』ではなく、当時世間で流行っていた『カードゲーム』を参考にした世界線(カノン)のお話である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「だーかーらぁ、邪魔すんなって言ってんのよ!」

「だーかーら、そっちが場所変えればいいだろ!」

 

 とある工場地帯にて、今日も仲良く火花を散らし合う極悪呪詛犯罪者の死火(しか)有得(ありえ)流我(るが)

 曰く、有得が界異で混乱を引き起こした場所が、死火が獲物を追い詰め仕留める為の“狩場”付近だったらしく、ターゲットを逃してしまったようだった。

 

「まだ期限じゃないしアタシの姿も見られてないからマシだったけど、これで仕損じたら業務妨害で訴えるわよ」

 

 呪詛犯罪者が法的手段を使………えるはずもなく、もちろん裁くのは死火である。正しくは死火の刀。正義の女神は目を開き天秤を投げ捨てたらしい。

 

「第一、こっちは仕事なのにアンタは趣味なんだから、譲られる道理しか無いでしょうコレ」

「おい、俺の享楽の人生をニートと称すかお前。良いだろ俺が先に動いてたんだからよ」

 

 死火は今、獲物をむざむざ取り逃がしたことでかなり気が立っている。獲物自体は強敵とは言い難いが、報酬にそこそこ珍しい黒不浄が待っていたのだ。

 早いとこ済ませて試し斬り〜♪というのを楽しみに足取りを追っていたのだ。それは機嫌の1つや2つ悪くなるというもの。

 

 一方の有得も、せっかく境界対策課相手に煽り散らかして遊んでいたら横槍を入れられたのだ、もちろん気分は良くない。しかも、死火は一般祓魔師と違ってストレスのはけ口に軽く一蹴できる相手でもないのでそれも地味〜なストレス。

 こうやって口論をしていたらバラ撒いていた界異が祓滅されたので、それもまたストレスに。

 

 獲物には逃げられ、手塩にかけた界異も祓われた。もはや2人はこの場に留まるメリットが欠片もない、はずなのだが。

 

 ……簡潔に言って、お互いが意地になっていた。

 

「──いいわよ。口で言って聞かないならこっちにも考えがあるわ」

 

 『アイカギ(アイテムボックス)』から取り出したのは、一見普通の黒不浄のようで彼用にチューニングされた普段使いの黒不浄『大黒文字(おおくろもじ)』。

 

 暴力装置のお出ましである。

 

 ……いや、むしろ最初の口論の際に抜いていない時点で珍しくはあった。仲間でもないがそこそこ情があるし、刀を納め近づき、話して聞くならまずは対話をと努力したのだ。無駄だったが。

 

「おいおい、暴力に訴えることを『考え』って言うならお前はロダンの『考える人』じゃねぇか」

「ほんっと口が回るわね。やるの? やらないの?」

 

 おそらくは、ここで有得が獲物を取り出した瞬間に、彼の一太刀によって首と胴体が泣き別れるだろう。顔を突き合わせて口論できる距離まで近づいてしまった以上、趨勢は圧倒的なほど死火に有利である。いくら『月人壮士(つきひとをとこ)』があるにしたって限度がある。

 

 もちろん逃げることも容易ではない。最悪なことに、今日の有得は、街に降り立った瞬間に通りがかりの境対課職員(非番)に狙撃されたのだ。騒ぎを起こしすぎて、本人確認すらせず雑にパなす(攻撃する)程目の敵にされていたのだろう。

 

 一応彼は無事だったが、代わりに捕まっていた飛行界異を喪っており、即ち、今いきなり飛び立って逃げることができないと言うことでもある。

 そして陸路で逃げられるほど死火は甘くない。もちろん見逃してくれる可能性もあるが、有得の不死身とも言える性質上、腹いせにと雑に残機を減らされる可能性の方が高そうで。

 

「逃げるってんなら追いはしないわ。わざわざ追わなくても仕留められる距離だもの」

 

 ……大当たりであった。

 

「あぁもう、仕方ねぇなぁ…………」

 

 頭を掻きながら、懐へ手を入れる。

 武器の類にしては浅めなところでそれ(・・)を掴む。

 

「仕方ないからこれでも喰らいなァ!」

 

 1枚のカードを投擲する。トランプ投げの要領で正確に飛ばされたカードは、しかし体を傾けた死火の横を通過していく。

 

「……チッ、迎撃してくれるかと思ったのによ」

「馬鹿おっしゃい、『世界結界(アレ)』の投擲を刀で迎撃なんてしたら死ぬのはこっちよ。……それより、ヤる気アリと見て良いのよね?」

 

 改めて戦闘態勢に入り、身を屈め、その体躯を女豹の如く打ち出そうとしたその瞬間。

 後方から噴出された黒いモヤ(・・)が、死火の体を──そして目の前の有得を包み込んだ。

 

「チィッ! これはッ!?」

「ふははははは!! こうなりゃ自棄(ヤケ)だぜ〜!!!」

 

 

 

   ◇    ◇

 ◆  ◇  ◇  ◆

   ◇    ◇  

(有得お手製『マヨヒガ結界』内部構造)

 

 

 

 モヤが晴れれば2人の姿は先程の工場地帯に無く、石畳で閉ざされた広大なドーム状のスタジアムの中にあった。

 スタジアムの中心には、ちょうど菱形が向かい合うように4×2で計8個のステージがせり上がっており、下手人である有得の姿は、死火から1番離れたステージの上にあった。

 

「これ境対が使うファイト用の『マヨヒガ結界』でしょうが。どこでそんなもの」

「人聞き悪いな、もちろん自前さ。俺の術式も混ぜてあるから、現実での時間は経過してないのがアピールポイント☆」

「……私のいるステージが低くてアンタのステージが高いのもそのせい?」

「もちろん。俺はいつだってチャレンジャーだが、チャレンジ精神と同じくらい他人を見下ろすこと(・・・・・・・・・)を大事にしてんだよ」

 

 腕を組み、それはそれは堂々とした上から目線(物理)をかます有得。ちなみに、境対の使う『マヨヒガ結界』も隊員が上なので、常に(強制的に)チャレンジャー側の死火は高い側に立ったことがない。

 

「……ふぅん」

「え、ちょ」

 

 言うが早いか、携えたままだった『大黒文字』を構え疾走する死火。まるで義経のように間のステージを3回飛び跳ねて一瞬で有得の眼前へ。

 そのまま首を刎ねようと気合いのこもった振り抜きを見舞おうとするが──ハニカムの障壁によって阻まれ、大きく跳ね返されてしまう。

 

「……ふん、そのバリアも再現してあんのね」

「……無かったらお前になんか使うかよ。死ぬかと思ったわ」

 

 吹き飛ばされながらもクルリと回って中央のステージへ着地する死火と、「首ちゃんと繋がってるよね? 一応……」と首筋を撫でる有得が睨み合う。

 

「──さ。顔突き合わすのも飽きたしルミナイズしようぜ」

「は? もう良いわよ。殺る気失せたから出しなさい」

「そんなお前身勝手な!? どっちかが勝つまで出れねーよ!」

 

 数に囲まれてしまえば死火とてファイトを受け入れるが、一対一、しかも相手が丸腰の有得ではさすがに殴り合いの気分であった。しかしそこは境対の『マヨヒガ結界』を完全再現した有得の勝ち(?)。

 

「こうなったら絶対ギャフンと言わせてやるからな!」

 

 嘘だろという表情で怒声を飛ばしつつ、先程カードを取り出したあたりからコアガジェット(デッキケース)を取り出す。

 放り上げると共にそれは発光し、光が止んだ頃、首に巻き付く白狐へと変じていた。その額には核となる青い宝石が埋まっている。

 

「仕方ないわね。──結構本気で潰すわよ」

 

 対す死火もまた、諦めて『大黒文字』の(こじり)を地面へ突き刺す。『アイカギ』からコアガジェットを取り出し握り込めば、そこには、鍔に赤黒い宝石の埋まった愛刀『逢瀬(おうせ)』があった。

 

「準備はいいな? ──行くぞ」

 

 幾度目とも知れず視線を交え、“上”である有得から口を開く。

 

 

 

「正義だなんてクソ喰らえ、一切合切沈んじまいな!

 ──ルミナイズ、『泥沼界異夜行』!!」

 

 

 

「凍てつく切先、滾る剣勢。アタシは最強の剣士よ?

 ──ダークルミナイズ、『愛しい愛しい黒不浄たち(ル・クール・エラ・スパーダ)』♡」

 

 

 

 有得の白狐がコォーンと高く鳴き、死火が『逢瀬』の鍔に添えた右手を振り抜けば、2人の前に手札が展開された。

 手札が6枚、ゲージ(リソース)は2枚、ライフは10。

 

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

 腕を組む有得の頭上に現れる、交差する黒不浄とペグ銃、それらを囲う輪になった形代紙(ヒトガタ)の旗。敬弔旗のように黒く、そして浮かび靡く旗は、これから使用するデッキの内容を示すモノ。

 

「タクティカルW(ワールド)!」

 

 死火が空いた右手を掲げると、そこに竿に繋がれた旗が現れる。こちらも同じ図柄であり、竿を握り締めた死火はそのまま石畳を砕く勢いで突き刺し固定した。

 

「同じくタクティカルW(ワールド)よ」

 

 まるで真似すんなとでも言わんばかりの死火の目線をスルーしつつ有得が己を指差す。

 

「バディは俺自身。『有得流我』だ」

「あら、いつものワンちゃんはどうしたの?」

「『一口狼(いつもの)』じゃない方のデッキだよ。勝つぜ?」

「あらそう」

 

 完全に未知であるため、さすがの死火も警戒心が色濃く出るようだった。さすがに煽るより思案が勝ち、今ばかりは相槌しか返せない。

 

「じゃあ私のバディはいつもの。『打刀(うちがたな)逢瀬(おうせ)』よぉ」

「バリエーション無いな、俺を見習え」

 

 有得は死火が思考を回していることを見抜いていた。塩対応自体は相変わらずだが、明らかに目つきが強者のソレになっていたからだ。

 …………ゆえに(・・・)、相手がそれどころじゃないのを分かった上でガンガン煽っていく。カス。

 

「ハッ、良かったなぁ観客がいなくてよォ。恥晒したって知るものは居ないぜ」

「アンタは普段から恥晒してるから今更失うモノ無いものね」

「そうだよなァ、俺チャンも死火チャンの負けるトコは見たこと無いもんナァ」

「「えっ誰?????????」」

 

 突然舌戦へ割り込んだ男の声。さしもの2人も大焦りで声の出処を探せば、ステージ外の無人だったはずの観客席に、1人の男が……男?そもそも人?な影があった。

 

「アンタ、ミワシ部隊のッ……!?」

「ドーモ、シカ=サン。皆のアイドル第七隊長です」

 

 ただでさえ照明の当たっていない客席で光を吸う真っ黒なフード付きコートにすっぽり包まれた第七隊長=サン──楓呀(ふうが)刎々斬(はばきり)=サンが、黒コートで華麗なカーテシーを決める。

 

「なんだ? 『マヨヒガ結界』は現世から認識不可のはず。どう入った」

「ゑ、なんか来れるから来てみただけだケド」

「理由になってねぇ〜」

 

 如何ようかにして入ってきた(現れた)第七隊長は、またしてもどこからか取り出したポップコーン(キャラメル味)と紙コップのコーラを取り出して3Dメガネを掛けながらふんぞり返る。

 

「まぁまぁ、俺チャンのことは気にせずドンパチしてなよ。ここでゆっくりうぉっ見にくいなこのメガネ」

「……………………」

 

 果てしなく出鼻を挫かれた感を抱きつつ、突っ立ってても仕方がないので、促されるままファイトを開始する。先攻の有得がチャージ&ドローを行うところからだ。

 

 捨てた手札がゲージ(リソース)となり、首元の白狐が身を震えば、額から出てきた(ドローされた)カードが手札へと加わった。

 

「その狐KAWAIIね、あとで撫でていい?」

「俺が勝ったらな! センターにいきなりバディコール(召喚)! 行くぜ『有得流我()』!」

 

 もうヤケな有得が、バディギフトでライフを11に(回復)しながら前のステージへ飛び降りる。

 

「続けてキャスト(使用)! 『底なし沼でバタフライ』!」

「…………」

 

 決して「相変わらずバカみたいな術式の名前だな……」とか思っていないはずです。決して。

 

「デッキから1ドローして、デッキの上から3枚を墓地に送るぜ」

 

 決して「多分“自分から沼底(墓地)に沈んでいく”って意味なんだろうな……」とか呆れていないはずの死火が見守る中、結果的に手札と墓地リソースを潤沢にした有得が、更に手札を1枚掲げて続ける。

 

「《装備》。──『ペヌ』」

「────は?」

「ペヌ???」

 

 一瞬聞き間違いかと耳を疑った死火と第七隊長だったが、実際カードから現れたのは見慣れたあの『ペヌ』である。もはや、先程のやり取りの際よりも何も言えなくなっている。

 ペヌペヌ鳴いて(?)いるそのペヌは、大ジャンプして有得の頭の上で落ち着いてしまう。表情なんぞ分からないが、動きから察するにえらくご機嫌な様子で。

 界異を乗っけるからか(【装備コスト】で)ライフを1支払ったが、髪の上で自由にさせている有得も楽しそうなのでプラマイゼロとする。

 

「更に『有得流我()』の効果発動。ゲージ1を払って、墓地の『黒百足』を『有得流我()』に重ねてコールする」

 

 ゲージの光が1つ有得へ飛んできて、その光と合わさった手札1枚を足下へ投げ捨てる。

 有得がステージの端へ寄れば、カードから出てきた『黒百足』が、まるで有得を守るようにその鎌首(?)をもたげた。

 

「『有得流我()』がソウルにある(下にある)界異(モンスター)の打撃力は+1される。──そのままファイター(死火)にアタック!」

 

 さながら蛇使いのような有得が指を差せば、中型〜大型は確実にあるその巨体が、瞬きの間に死火の眼前へと跳躍する。

 

「GAAAAAAAAAAAAA!!」

「くっ……!」

 

 開幕ダメージ3。先攻は一度しか攻撃できないため、ペヌがこっちに来なかっただけ幸いであった。

 

 正直ペヌを出禁にしてほしい。ダメージがどうとかでなく、あんまり近づいてほしくは……ない。

 

 ペヌ、一応偽祓魔装備シリーズの中では無害な方である。

 

「黒百足ってカッコイイよね、顎とか節とかちょっとメカっぽいし。あと黒いし」

 

 その図体に見合った大きすぎるアギトに喰らいつかれる死火だが、噛みつきをモロに受けてもその傷はほとんど無い。10あったライフが、受けたダメージを軽減したのだ。

 

「何度でも言うけれど、コイツが一号級なの嘘よね」

「図体、俊敏さ、堅さ、麻痺毒。瘴気出力以外に弱点が無いからな。そして人によっては節足動物アレルギーが出る」

 

 その瘴気出力こそが一号級たる理由なのだが、まぁ所詮数字は数字だし気持ち悪いものは気持ち悪い。

 ガチガチと不気味に鳴っているアギトの音量を上回る勢いのカサカサ…の音。綺麗なウェーブなのが逆に見るに堪えない。

 

「ターンエンド。これくらいでいいだろ」

 

 そう言い、元のステージ──有得の元へ帰ってきた黒百足を撫でながらそう言う。

 MOVE END。ようやく死火のターンだ。

 

 ──と死火がドローしようとしたところで、観客席からまたしても声が。

 

「お〜、またこれはイヤーな性能ですナ」

 

 その手には、謎の双眼鏡。

 

「第七隊長さん、それは?」

「効果が見えるやつ。闇市で安かったからポップコーンのついでに買ってきたの」

 

 “ファイト中に限る”という制約で効力を上昇させた、『世界結界』の中身を覗き見る祭具だ。高性能なオリジナルは戦闘の最中にモノクルやコンタクトレンズとして運用する代物だが、廉価版ゆえに、ファイト中という“限られた状況でしか使えないこと”と“覗き込む”という使いにくさによって2重に出力をかさ増ししている。闇市とは言っているが、今どき観戦用にそこそこ出回っている。

 というか闇市でポップコーンを売ってる奴が居てたまるか。

 

「うーん、こ〜〜〜〜れは死火チャンちとキツいかな?」

 

 そうして覗き見たペヌの性能は『自分がアイテムによる攻撃を受けたとき、相手にダメージ1』。モンスターでなくファイターが攻撃するタイプのデッキへ強く出られる性能だ。

 

 と、いうことは死火のスタイルは言うまでもなく────

 

「ドロー、チャージ&ドロー。キャスト『最強への足掛かり』」

 

 設置術式を宣言すると、カードから出でた紫の宝玉が空へ舞い、死火側のフィールドをうっすらと照らす。

 死火がファイタースペースから虚空へ一歩踏み出せば、宝玉と同じ紫の光が足場となってその歩みをしっかり受け止めた。

 

「アタシはモンスターをコールできない代わりに(・・・・・・・・・・・・・・・・・)アイテムを(・・・・・)何枚でも装備できる(・・・・・・・・・)わ。──ペヌごとき何だって言うのよ」

 

 空中を歩き真ん中のステージへと辿り着いた死火はそう宣言する。

 そう、それが死火のファイトスタイル。無数の黒不浄による自在の剣士。

 

「ひゅ〜う、何回見ても殺意高すぎんだろ」

「剣いっぱいってロマンあるよネ」

「ふん。……装備、『アイカギ』」

 

 見た目上の変化は無いが、確かにそこにある異空間。ターン1効果で『アイカギ』から黒不浄を取り出す。

 

「装備。これとこれも装備よ」

 

 アイカギから1枚、手札から2枚の連続装備。

 フラッグの横に刺さっていた『大黒文字』が紙状の光となって砕け散り、他の二振りと共に死火の頭上で再構成。それらは手の中へは行かず、ゲージの光と合わさったまま虚空へと現れ、自由落下で周囲の地面へ突き刺さる。

 

「『大黒文字(おおくろもじ)』!『雨垂(あまだ)れ』!『重刃(かさねば)八梅(やつうめ)』!」

 

 腰に『逢瀬』を提げまるで鎧のない侍のような容姿になりながら、3本の黒不浄に囲まれる死火。

 

「最後に装備。……『鉄形代(てつかたしろ)』!」

「フル装備だなぁオイ」

「運も実力の内よ。──行くわよ! アタックフェイズ!」

「っしゃあ来てみな!」

 

 白狐とペヌをしっかり抱え、有得がファイタースペースへと跳んで戻る。センターには『黒百足』がフンスと鎮座していて、当然むざむざ通してくれそうにはない。

 『黒百足』は攻撃力こそ低めなモンスターだが、このサイズともなると防御力はかなり高い。ソウルの有得のせい(・・)で更に+2000されている。3本しか無い黒不浄でどこまで行けるだろうか。

 

「『大黒文字』と『八梅』で『黒百足』へ連携攻撃!」

 

 傍らの3本の内、いきなり2本を手にして走り出す。『大黒文字』の攻撃時効果でゲージ+1。

 普段はあまりしない二刀流だが、まるで体が扱い方を理解しているかのようにその動きに迷いは無い。

 当然のように虚空を駆け、元々向かいまで移動していた死火はコンマ数秒のうちに『黒百足』の間合いへ踏み込んだ。

 

「GRYAAAAAAAAAAA!」

「まだまだ遅いわよ!」

 

 爆発的な質量に遠心力まで加わった『黒百足』の尻尾の振り抜きだったが、空中を足場として自在に駆ける死火には掠りもしない。躱して飛び越え、逃がすまいと追ってくる食らいつきには『八梅』の花弁型の加護(『飛梅』)をぶつけ仰け反らせる。

 

「隙、ありよ」

 

 尻尾は振り抜き終わり、首ごと大顎を弾き返し、甲殻の薄い腹をさらけ出して死に体。

 否、既に死んでいるも同義。

 

 死火は『八梅』を頭上へ放り投げ、両手でしっかと『大黒文字』を握りこむ。

 

 ────横一閃。

 

 先程のように紙状の光となって爆散する『黒百足』。残心間もなく降ってきた『八梅』を掴むと同時振り返り見上げれば、相変わらず小癪な腕組みとそのツラ。

 

「さぁ、『雨垂れ』と『八梅』でファイターへ連携攻撃よ」

 

 センターはガラ空き。もはや有得への攻撃を阻むものはない。『大黒文字』を先程の場所へ突き刺し、連携攻撃により再攻撃可能となっている『八梅』と、新たに引き抜いた『雨垂れ』を手に、またしても二刀の構え。

 

「ライフ10もあるなら痛くも痒くも無いでしょう、大人しく斬られなさい」

「ちっ、ここは仕方ねぇか…」

 

 忠犬の如き──いいとこトイプードルだが──威嚇をするペヌだったが、有得がそれを丁寧になだめ自分の後ろへと押しやる。空中を踏みしめ跳び上がった死火が二刀を振りかぶるタイミングで有得が向き直った。

 

「ふぅん、案外素敵なトコあるじゃない」

「惚れてもいいぜ。ただし──」

 

 そう零す彼にあら、なんて返そうとしたところではたと気付く。……何かを手札から構えているな? と。

 

 瞬間、『飛梅』が迸る。肉薄するより更に速いスピードで、体を切り刻まんとする。空中で足場を踏みしめ、自由落下ではなく跳躍の速度で繰り出す神速の刺突。

 

 死火の今持ちうる限界の運動能力で繰り出される最速の一撃、だったはずなのだが。有得もまた、そうやすやすと打ち取れる首ではなかった。

 

「俺にダメージ通せたらなァ! キャスト!『七代印(ななだいじるし)の形代紙』!」

「コイツホント……ッ!」

 

 『飛梅』は全て空振り、遅れて貫いた二刀も感触こそあれど有得に傷はない。あまりにもしっかりと防がれたので腹が立ってついでに4、5回首を刎ねるが、『(タクティカル)(・カード・)(バトル)』という儀式のシステム上は1回の攻撃なので、たかだか1枚の形代紙に全てのダメージを吸われてしまった。

 

「あーもう…………ッ!?」

 

 もう3回くらい刻もうかと『雨垂れ』を握り直す死火だったが、ふと右太腿部に痺れを感じて目をやるとペヌが思いっきり噛み付いていた。

 ダメージは1なのでそこまでだが、こちらはダメージを与えられていないことが納得いかない。

 

「だーから俺チャン言ったのよ。『攻撃を無効化』ならともかく、『ダメージをゼロにする』形代使われちゃあ『ペヌ』が発動しちゃうからな。攻撃すればするだけキツいってコトよ」

「ナハハハ、バーカバーカ」

 

 いつの間にかホットドッグを食べている第七隊長の説明に舌打ちしながら跳び下がる。そうならそうで全部言ってほしかった。

 そして有得の煽りに思わず刃を構える。ファイトするならするで言ってほしかった。『マヨヒガ結界』展開する前に殺してたから。

 

「こりゃあ本気出す間もないなオイ。飽きちまうぜ」

「フラグか?( 'ω')ヌッ」

「…………………まぁ、油断しないようにしようかな」

 

 指摘されてから「言わなきゃ良かったな」となった有得がそそくさとペヌを回収する。あの凶悪呪詛犯罪者死火にダメージを与えるというペヌ界の英雄を労いつつ、もう一度頭の上に乗せた。

 ちなみに、危ないからと後ろへ下げた優しさは本物である。

 

「エンドよぉ」

 

 不貞腐れながら自陣に戻り、また黒不浄3本を突き刺す。

 ライフ差の話も確かにフラグチックではあったが、それだけ差は大きい。そりゃあ有得のあの喜色顔も納得というものである。

 

 と、そうこうしてる間に手札交換を終えた有得が動く。

 

「キャスト、『呼ばれてないのに飛び出る男』!」

「そんな自己紹介して恥ずかしくないわけ?」

「事実ゆえ! 続けてキャスト、『その敵、沼底より。』!」

 

 デッキの上から5枚を捨て、デッキと墓地から『有得流我』を1枚ずつ回収する2枚合わせて実質7アド。

 さらに『その敵、沼底より。』は宝玉となって、死火の『最強への足掛かり』のように有得のフィールドに設置される。

 コストでデッキもゲージも失ったが、この戦術の為には不可欠な術式な上、まだ攻撃を食らっていない万全な状態だったのでその顔に焦りはない。というか、『有得流我』を始め墓地リソースを活用するデッキなのでなんてことはない。

 

「センターに再び『有得流我()』を、更にライトに『有得流我()』をコール!」

「うおっ、同じ顔ばっかじゃねーか」

 

 自分自身がステージへと降り立った先程と違い、今度はステージの石畳が唐突に波打ち、見えない水溜りのようなそこから『有得流我』が這い上がってきたのだ。オリジナルと合わせて同じ顔が3つ。第七隊長がそう言うのもさすがに無理はない。

 

「「「さぁてどれが本物かなぁ?」」」

「うへぇ怖い怖い同じ声で微妙にズレて喋るなって」

「それで言うと全員偽物でしょうがアンタたち」

「「「おいやめろそれ言うな怒るぞ」」」

 

 アホの漫才をしつつ、ゲージと墓地から光を2つずつ消費。

 

「ゲージ1×2払い『有得流我(俺たち)』に重ねてコール! 『泥濘より来たるモノ』と『()バカリ』! あとついでに、ゲージ1払ってレフトへ『殺生蜂(せっしょうばち)』」

 

 センターへ不定形の泥の界異、ライトへ翼を持つ大蛇の界異、レフトへ禍々しい危険色の巨大な蜂の界異が連続コールされる。

 異なる生態系、異なるルーツを持つ界異たちの軍団。有得の『泥沼界異夜行』の本領である。

 

 と、そこで違和感を覚えた死火が、自分の記憶を頼りに不満を述べる。仰がれたのはもはやジャッジ代わりの第七隊長。

 

「ちょっとアンタ、屍バカリと殺生蜂は三号級でしょ、明らかにサイズオーバー(キャパ不足)じゃない。なんでそんなにコールできるのよ」

「出来るんだなぁこれが。──隊長! お願いします!」

 

 有得の白狐へ気色わr熱のある視線を送りながら両手をワキワキさせていた第七隊長だったが、正気に戻り双眼鏡を取り出した。

 

「えーどれどれ……、あの『沼底』の効果で、“墓地に属性が《界異》のカードが5種類あれば、レフトとライトの《界異》のサイズ()を1減らせる”と」

 

 先程設置した宝玉は有得の界異育成人生の賜物。それは界異を強化するだけでなく、使役者としての限界すらも引き上げるものだ。

 『世界結界』普及以前は有り得ないほどの術式の同時発動により、今の有得は五号級複数体ですら不安定ながら制御下に置いてみせる。そしてそれはもちろん、彼の界異への歩み寄りあってこそ。

 

「何よそれ、インチキじゃなぁい?」

 

 ……ただ、使われた側は知る由もないしどうでもいいし超大変なことに変わりはないのだが。

 

「お前だって黒不浄何本も持てるのインチキだろうが!」

「はぁ? 気合いよ気合い。……というか、持ってるんじゃなくて装備してるだけだから。装備と使役キャパは全然違うでしょうが。じゃあアンタもペヌ5匹くらい抱えたら良いじゃない」

ペヌ(この子)はオンリーワンでナンバーワンなんですぅ〜〜」

 

 論点が合ってるんだかズレてるんだかな口論をひとしきりしたあと、「やっぱお前いけ好かねーな」と有得が吐き捨てた。

 ちなみにそんな二人を肴にポップコーン(バター醤油味)を食べている1番のインチキ第七隊長。

 

「ファイト再開&アタックフェイズ! お前ら順番にファイターへ攻撃!」

 

 まだ効果を未発動ゆえ泥状態なままの『泥濘』が、その流動的な体から見ると感心すら覚える器用な動きで死火へと飛びかかった。ただ、一応この状態では所詮一号級。打撃力も1だ。

 

「ぐっ……!」

 

 残るライフは5。半分まで減ったからか、さすがに穢れのダメージが身に染みて来た頃だ。もう少し減れば、ファイトが終わり現実へ帰還しても無視できぬダメージだろう。死火ほどの人間なら死ぬほどではなかろうが。

 

 そして続くは『殺生蜂』。

 打撃力には関与しないものの、味方の《界異》全ての攻防を引き上げるパーティの要である。これと『有得流我』の二重の強化で、一号級すら三号級や班長格に手傷を追わせかねない脅威となる。

 

 高速の羽ばたきにより発生した音とほぼ同時ほどで急接近してきた『殺生蜂』だが、対す死火は冷静にカードを掲げる。

 

「キャスト。【対抗(カウンター)】で『(あお)(まと)い』を装備し、効果で攻撃を無効化してゲージ+1するわぁ」

 

 ガラスの如く透明な刀身の黒不浄が死火の頭上で顕現する。

 落ちてくるその柄を器用に掴みひと振りすれば、その綺麗な刀身で乱反射した光が『殺生蜂』を、ついでに有得と第七隊長の目を掠める。『殺生蜂』はその光を嫌がったのか攻撃することなく撤退して行く。

 

「スズメバチのナリして鳩みたいね、お帰りなさい」

「目がァ! 目がァ!」

「あら、事故よ許しなさい」

「俺チャンは3Dメガネのお陰で無事だったぜ。そしてその黒不浄カッコいいからキーホルダー欲しいぜ。屍バカリが巻き付いたヤツ」

 

 召喚主の視力をちょっと気に掛けながら、そして不審者は華麗にスルーしながら『屍バカリ』がその翼を広げ飛び立つ。

 素早さは無いが威圧感溢れる優雅な飛行ののち、少しの溜めのあと、三号級とは思えないほど強力な猛毒瘴気ブレスを上空より浴びせ掛けた。

 

「GRUUAAAAAAAAAA!」

「ッ、効果発動──!!」

 

 ブレスをファイターゾーン全体にぶち撒けられ、さしもの死火も大ダメージ──かに思えたが、紫の奔流が引いたとき、なんとそこに死火はノーダメージで立っていた。

 

「──『鉄形代』よ」

 

 デッキの上から3枚オープン、公開された中にあった『天音叉(あまおしゃ)』が毒素と穢れを引き受け光となって砕け散った。引き当てた黒不浄(アイテム)の打撃力分、受けるダメージを減らす能力だ。そして追加効果で墓地の『重死肉断(おもしにくたち)』を手札へ加える。

 

「ほーん、あの一斉攻撃をよくもまぁ耐え凌いだモンだね」

 

 結果的には泥濘による1ダメージだけで済み、あの盤面を前に最上と言っていい結果でアタックフェイズを終えた。

 

(アイツの手札は残り1枚。センター(邪魔者)が『泥濘』と言うことは、つまり──)

 

 そこまで死火が考えを巡らせたところで、有得がターン終了を宣言した。

 

「ドロー、チャージ&ドロー。………ふふ、行けそうで安心したわぁ」

「……お、何やら面白そうな顔してるな死火チャン」

 

 双眼鏡で死火の手札を覗き見れば……あぁ、なるほど。

 こりゃあ録画機器でも持ち込んであとから繰り返し見たかったな……と思う第七隊長であった。ついでにスクリーンを貸し切ってみんなで見れば、ついでにポップコーンの出店でも出せば儲かったかもしれない。

 

「キャスト、『(■■たち)』」

 

 静かにそう宣言し、2枚ドロー(アイカギ)ライフ+2(鉄形代)ゲージ+2(菫座三色)

 

「『重死肉断(おもしにくたち)』。そして『アイカギ』から『剛力武総(ごうりきむそう)』を装備」

 

 ゲージの光を吸い込みながら、太刀、そして中華包丁の見た目の黒不浄が顕現する。その二振りともが、その凄まじい重量と落下速度で石畳を砕き割った。

 衝撃で近くにあった黒不浄が倒れるほどの重量。これらを振るうのは死火でもギリだ。

 

「そしてバディ装備(・・・・・)。──『打刀・逢瀬(おうせ)』」

 

 これまでの高速機動でも微動だにしなかった刀が、装備することによってようやくその鞘から解放される。

 

 握ることによって精神が高揚して行くのを感じる。実際、その精神デバフは「全黒不浄(装備アイテム)の攻撃力を、黒不浄の数×1000加算」という形で表れている。

 剣の数だけ強くなる。剣の勢いが増す、まさに剣勢。

 

「バディギフトでライフ8。1ターン目の負債は全部返したナ」

 

 そう呟く不審者の声などもはや耳にも無く、ただ熱く、己の心へ喝を入れるかの如く『逢瀬』の瘴気を受け入れる。心を落ち着ける行為とは真逆の行いながらに精神統一のような儀式。長年連れ添った愛刀が死火へそっと寄り添った、ような気がした。

 

「ふぅ……よし、行くわよ。ここからがアタシの全力だわぁ」

 

 一度愛刀を鞘へ納め、再び剣を執る。

 きっかけはアホみたいなファイトだったが、せっかく観衆抜き(第七隊長が居るが無害カウント)に全力を振るえるのだから、ちょっとは有得に感謝しようものである。

 

 ──そして、それはそれとして勝って業務妨害で訴える。

 

 微妙に雑念が入ったが、気持ちを切り替え、もう一度『大黒文字』と『八梅』の二刀流。攻撃時効果でゲージ+1。

 

「アタックフェイズよ!」

「なんだ、やる気出てきたじゃねーか」

 

 最初は面倒だからもう出せとか無茶言っていたクセに、と思う有得。もう彼は出し惜しみ無しだろう。先のターンが手加減していた訳ではないだろうが、ファイトのルールとは別、顔つきや動きの部分での“らしさ”が段違いだから。

 

(まぁ、ここで負けりゃ下手すりゃ死ぬからでもあるんだが……)

 

 厳密には死にはしないが、敗者はすべての加護、穢装を剥がされた状態で現世へ放り出されるからだ。時間経過で回復や補充こそされるものの、ライフを全損し半死半生、まして『鉄形代』も無い死火ならば、通常個体の有得1人ですら殺すには十分だろう。

 

 そういう意味では本気になるのは当たり前なのだが、恐らくは、先程引いたカードで何かを思い出したのだろうなと察する。

 

 『(■■たち)』という、かつての■■たちとの■い■のカードで。

 

「『大黒文字』と『八梅』で『泥濘』へ連携攻撃。そして効果でゲージ+1よ」

 

 1歩、2本…………再び身を投げ出しては宙を駆け、ひとっ跳びで相手センターへ。

 『泥濘(コイツ)』を倒せば有得への道は開くが、わざわざ3体の中では最弱の一号級をセンターに置いたと言うことは──

 

「『泥濘』の効果発動。手札1枚を捨て、ステータスと能力を上書きする! なんか知らねぇが、今さら覚悟決めたって遅ぇんだよ!」

 

 有得が手札を『泥濘』──『泥濘より来たるモノ』へと投げ込む。本来は倒したモンスターの姿を模倣するが、相手が死火なのでこの運用方法で盾とする。

 そして、捨てられたカードは、

 

 

 

 ────五号級界異、『時留め』。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一度愛刀を鞘へ納め、再び剣を執る。

 きっかけはアホみたいなファイトだったが、せっかく観衆抜き(第七隊長が居るが無害カウント)に全力を振るえるのだから、ちょっとは有得に感謝しようものである。

 

 ──そして、それはそれとして勝って業務妨害で訴える。

 

 微妙に雑念が入った上に謎のデジャヴも感じるが、気持ちを切り替え、もう一度『大黒文字』と『八梅』の二刀を引き抜こうとした()、まるで時が止まったかのように(・・・・・・・・・・・)動かなかった(・・・・・・)

 

「なっ……! 何が起きたの!?」

 

 何らかの攻撃、干渉を受けたと考え大きく後退する死火。

が、相手のセンターへと目をやってから遅れて理解する。

 

「……あぁ、そう。何かあるとは思ってたけど、まさかこんなところで……」

 

 有得もまた記憶を巻き戻されていたが、元々手札に『時留め』を抱えていたこと、いつの間にか消えていたことからすぐに察した。自分が使用し『泥濘より来たるモノ』へ喰わせたのだと。

 

「さすがの俺チャンも初めて見たぜ……。いや、見えてる訳じゃないな。存在してる(・・・・・)って知覚はできるが、認識のフィルターとも言うべきか、モヤがかかりすぎて姿形が解りゃしない」

 

 そこには、居る。だが、見えない。

 

「ステータスは……見えるな。攻撃力0、防御力0、打撃力5。でも『有得流我』と『殺生蜂』の二重バフで一応攻防5000の打撃力6か。…………破壊耐性があるから本来は防御力なんざ意味は無いんだが、な」

 

 確かに『時留め』は見えず、また破壊も不可能な怪物。

 だがこの剣士なら、居さえするなら(・・・・・・・)全て斬るまで。

 

 ただ、それだけの話でしかなかった。

 

「想定内よ。『剛力武総』と『雨垂れ』で再びセンターへ連携攻撃!」

 

 刀剣にしてはあまりにも重い『剛力武総』を持つ為に、『雨垂れ』を一度鞘に納め腰に差す。

 さすがにひとっ跳びとは行かず、だが鍛え抜かれたその体で見た目からはその重さを感じさせずに『時留め』と相対する。

 

「さぁ、覚悟なさい」

 

 『剛力武総』を振りかぶり、ある意味泥濘と同じその不定形な界異へ吶喊する。敵対心らしいものを感じていなかった死火だったが、不意に『時留め』が動きを見せた。

 

「────!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「『剛力武総』と『雨垂れ』で再びセンターへ連携攻撃!」

 

 刀剣としてはあまりにも重い『剛力武総』を持つ必要は無(・・・・)()、なぜなら、それは既に死火の手中には存在していなかった。

 

「■■■■■■■■■!」

 

 鳴き声なのか、はたまた衝突音なのかも分からないが、とにかく何らかの音を発生させている『時留め』の肉体。時を戻される寸前に投擲してあった『剛力武総』が、特殊能力の一切合切を無効化しながらその見えざる胴体へと突き刺さるところだった。

 やはり五号級だけあって内包する穢れは凄まじいが、攻略してしまえばあとはステータスの殴り合いのみである。そして、それを可能にする能力が死火と『剛力武総』にはあった、それだけだ。

 

「なッ、『時留め』を!?」

 

 驚く有得には目もくれず、腰へ差していた『雨垂れ』を構えて再攻撃。

 

「邪─────魔ァ!」

 

 ファイトとはいえ死火ほど近接型の人間が、五号級界異を単独討伐するという高揚感に煽られ昂りは最高潮。百を優に超えて切り刻み、自陣までバックステップで距離を取ってそのまま『雨垂れ』をやり投げの要領で投擲。

 

「アンタの時留めを破壊!! そして【貫通】発動!!」

 

 そこに核があったのか、はたまた耐久力が尽きたのか。莫大な量の紙状の光が舞散る中で、貫いたまま勢いを衰えさせない『雨垂れ』が有得の胸元へ突き刺さる。

 

 防御に於いては半ば切札だった『時留め』が破壊されるとは思わず、焦りと驚愕の最中に飛んできた【貫通】2ダメージ。

 

 ライフは8対8────ついに同点。

 

「追いついた…………いえ、すぐに追い抜くわよ!!」

「クソッ、てかなんか火力上がってねぇか!?」

「さっき防がれたときに『雨垂れ』で貴方を微塵切りにしたでしょう? この黒不浄は攻撃するだけ打撃力が増すのよ!」

 

 よくよく自分の体を見てみれば、『雨垂れ』による穢れの残留が首や胴体に見て取れた。なるほど、ペヌたちの穢れとごっちゃになって見落としていたようだ。

 

 ちなみに、【貫通】はあくまで効果ダメージであり、ファイターが攻撃されたわけでは無いため『ペヌ』の反撃ダメージは発動しない。簡単に言えば死火本人が『ペヌ』の届く範囲に居ないのだ。

 

「ペヌヌ…」

「あぁ、大丈夫だ。……『その敵、沼底より。』の効果発動! 墓地の『有得流我(肉壁)』をセンターに蘇生! 【対抗】でゲージ1払って再び『黒百足』に!」

「ねぇ、当たり前のように意思疎通するのやめない?」

 

 1ターン目にも登場した堅牢な『黒百足』が、今度は『殺生蜂』の強化を得て再び立ちはだかった。

 

 死火の残る攻撃札は『蒼の纏い』と『重死肉断』、そしてバディの『逢瀬』だけである。センターの突破だけならともかく、このターンで突破+仕留め切るには手が足りないどころではない。そもそもセンターが空いてたとて仕留められるかも危うい。

 

(けど、それは向こうも同じこと。手札ゼロ、ゲージもゼロ。『時留め』も失った今、多少の猶予はある。あとは……)

 

 今後の展開へ少しでもヒントにならないかと、双眼鏡を持っていて唯一展開を見通せているはずの第七隊長の方へ目を向けてみると、“目線ください”のうちわを振る変態と目が合った。

 

「キャッ///」

「……『蒼の纏い』で『殺生蜂』へアタック」

 

 余計な期待だった、と柄を握り直す。

 

 先程は【対抗】効果で攻撃を防いだ『殺生蜂』への攻撃。この界異が『黒百足』と『屍バカリ』へバフを撒いている以上、あとのターンのことを考えても真っ先に破壊せねばなるまいとの判断。

 

 思えばこのファイトで初めてのカード(黒不浄)1枚による攻撃。それもこれも『八梅』が脇差というかサブウェポンとして便利すぎるのが悪い。実質全黒不浄の攻撃力を+4000しているようなものだ。

 

 ……とにかく、『蒼の纏い』で再び有得の目を焼きつつ『殺生蜂』へ接近する。

 先程は反射させた光で追い払うことができたが、近距離での太刀筋の撹乱などの小細工が、虫の視界を持つ『殺生蜂』にどれだけ有効かが死火には分からない。小回りが利くタイプのスピード型なのもあり一度のミスで針の攻撃を貰いかねない。武器に頼らず自身の技量だけで倒す気で取り掛かる。

 

 すると今度は『殺生蜂』から前後左右、そして上下への高速移動で撹乱を仕掛けてくる。さすがは三号級というだけあり、纏う穢れの量以前に運動性能が段違いだ。

 

「でもアンタの攻撃は所詮近距離。攻撃のタイミングさえ見切れば──」

 

 口の中でそう言い終えるやいなや、浅く構えていた『蒼の纏い』の刀身に映る、人体を簡単に噛み砕きそうな大顎。

 

「おいでませ……──は!?」

 

 完璧にタイミングを把握した振り向きざまの横薙ぎ。

 が、狙ったのか偶然か、『殺生蜂』のハサミ状の大顎に『蒼の纏い』が真剣白刃取りされてしまう。

 横から挟んでいる『殺生蜂』が不利だが、掌と違い点で食い止められているため、業物である『蒼の纏い』とていつ砕かれるか分からない。

 

「『六狩(虫特攻)』、無いんだから、触んじゃ、無いわよ──!!」

 

 三号級とはいえ蜂ごときに太刀を止められたことと、眼前に昆虫のグロテスクな顔があったのとでダブルでお怒りの死火が、直前の刹那の見切りをした人物と同じとは思えないほどパワーのゴリ押しで両断して見せた。さっきはさすがは三号級だみたいなことを思っていたのに。

 

「普段から割とこれ(蒼の纏い)使ってて良かったわぁ。意外と手に馴染んでて……」

 

 今しがた馴染むもクソもない両断をご覧に入れたその右手で、次は馴染みがそんなにない粗野な中華包丁を手に取る。

 

「ふぅ……『重死肉断』で『屍バカリ』へアタックよ」

 

 自分が半分死にかけているからか、いつぞや握ったときより体ごと重く感じるこの黒不浄。

 ファイト中のこの刀は現実の戦闘の時と違い、重すぎて死にそうになるのではなく、死にそうになっているから重いのかもしれない。

 

 漲る力と反比例するように全身を覆う不思議な加重に身を軋ませながら、だが傍目にはいつもと変わらぬコンディションで空を往く。今度は待ちに回る気は無かった。

 

 『屍バカリ』も飛行種であり、その大きな翼が起こす暴風は空という同じ土俵へ立つ者へ絶望的な壁として立ちはだかっていただろう。……が、何と言っても相手は死火である。そもそもその空中移動手段が飛行ではないし、空中で踏ん張れるのだからあまり関係ない。物理攻撃でない毒のブレスだって『鉄形代』があれば先程のご覧の通りであるし。

 そして何より、今の死火には山をも両断する『重死肉断』の力があるのだから。

 

 その威力を理解しているのか、飛んで逃げてともはや防戦一方の屍バカリ。それにこんなドームの中では、最高速はともかく機動力で劣っている『屍バカリ』にまるで勝ち目はなかった。

 自慢のブレスを吐こうにも、さすがに掛かる溜めの数秒が命取り。運良く吐けてもある意味直線的なブレスは簡単に躱され、下手をすれば召喚主(有得)や仲間の界異に当ててしまうことだろう。実際は例のバリアが防いでくれるが、まぁイチ界異には知る由もない。

 

「頑張れ屍バカリ! 一矢報いるんだ!」

「がんばえ〜」

 

 こうも分かりやすく優勢だと中立だったはずの観客すら敵に回るらしい。有得と第七隊長とペヌヌと屍バカリで1対4である。

 

 だが、そんな追いかけっこが長く続くはずがなかった。

 

「やぁーっと隙を見せてくれたわね?」

 

 遂に追いつき片翼を両断する。

 ギリギリステージ上へ不時着した『屍バカリ』の体の上へ降り立ち、サクッと解体する。『殺生蜂』と同じ三号級なのにこうもアッサリ行くと、やはり対人向きの黒不浄を界異に使うモンじゃないわよね……な気持ちになった。

 

「oh屍バカリ………… 」

「『屍バカリ』クンは……あぁ、ダメージを与えたらとファイターが攻撃されたら効果発動なのネ。本当に可哀想」

 

 可哀想すぎて瓦礫で墓を立てた有得と可哀想すぎて双眼鏡から涙を流す第七隊長。

 原因の3割くらいはバフ要因だった『殺生蜂』が先に破壊されたことにあるが、なんにせよ『重死肉断』サマサマなバトルだった。

 

この刀(重死肉断)アレね、ファイト中はライフ4か5くらいで振るうのが一番メリットデメリットのバランスいい感じなのよね」

 

 「ファイト中は死にそうになればなるほど重くなる」という仮説が正しければ、装備するタイミングを見極めるいい指標になりそうだ。使い続けて自分が潰される心配も無いし。

 ちなみに、普段のファイトでは境対課の雑魚を相手にしているので「『重死肉断』を装備しても死火のライフが減ってない」「装備はしても振るう前に勝ってしまう」が今まで気付かなかった理由となっている。

 

「ラストよ。『逢瀬』で『黒百足』へアタック」

 

 『重死肉断』を足元へ放る。そこそこの虚脱感に襲われるが、同時に一気に体が軽くなったのもありウキウキで斬り刻みにかかる。

 このファイト初めての愛刀での攻撃。もちろん馴染み具合はMAXである。そうして鞘から抜き放ち虚空へ足をかけたところで茶々が入った。

 

「情けってないのかー! 2回も斬られる『黒百足』くんの気持ちを! 考えたことが!」

「ペヌペヌ!」

「──よいしょっと」

 

 一瞬で刻まれ光となる『黒百足』。界異の、しかも弱いヤツの気持ちなんて考えたことはない(断言)。

 愛刀を装備した死火に一号級は格が足らなすぎた。役不足(誤用)である。

 

「ターンエンドよ。……そんな墓さっさと退けなさいな」

「まぁ待ってくれよ。興が乗ったしついでに『有得流我()』たちの墓も作るから」

「フン」

「お前ぇ!?」

 

 近づきバリアに防がれるの承知で刀を叩きつける死火。ダメージこそ無くとも発生した衝撃波で墓が砂になった。

 慈悲なんてなかった。

 

 ──と、そうしてターンの回ってきた有得だが、内心では大焦りである。

 なぜなら先程死火も言っていたが、手札ゼロ、ゲージゼロ、今しがた盤面の界異も蹴散らされて、もはや設置術式と『ペヌ』しか残っていない。

 

(このままアレ(・・)を使ってもトドメがさせなきゃ意味がない。墓地から回収して『有得流我()』を出しても、削り切れない時点で7本の黒不浄を持つ死火の攻撃を耐えきれるワケがないし。アレ(・・)の圏内へ行けるようさっきもう少し削っておきたかったんだがな…………)

 

 『鉄形代』の発動と『雨垂れ』の【貫通】が痛かった。

 『鉄形代』のもう1つの能力、デッキの上からの運ゲーでなく装備しているアイテムでの肩代わり。そちらであれば装備を削れていたし、そもそも外れていれば3ダメージと『屍バカリ』のダメージ時効果が発動しもっと有利に立ち回れていたはずだ。

 それと『雨垂れ』の【貫通】。あれが無ければ直接攻撃によって『ペヌ』も発動できたし、『黒百足』がもう少し壁として機能していただろう。

 

 有得のデッキとて毎ターンリソースを溜めていくタイプではあるが、アイテムの破壊手段に乏しい関係上、死火の多刀流が着実に手数を増やしているのはかなり辛いところである。

 

「コォン…」

 

 ふと、突然頬を舐められたので視線を落とすと、有得のコアガジェットである白狐の界異がこちらを見上げていた。

 思索から周りが見えていなかったが、白狐、ペヌ、そして先程一緒に屍バカリを応援した第七隊長も(?)いる。

 

「……うし、まずはドローしてからだよな!」

 

 俺には仲間たちがついてる! と言わんばかりのテンションの上がりっぷりで顔を上げる。本当に意味が分からない茶番やめてほしい。

 

「うおおお! ドロー!!」

「コォーン!」

 

 ノリで人狐一体的なサムシングを発動させた有得が、白狐の額に手を翳して思い切り振り抜く。

 

「チャージ、アンド………うおおドロー!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 突然だが、有得のリスポーンについての豆知識である。

 

 彼は何度殺されようとも、服や祭具ごと何度でも蘇る正体不明のナニカを抱えている。

 

 『ナニカ』の内容に関しては今回はどうでも良いので割愛するが、問題は生み出される有得についてだ。

 およそ20回に1回、百分率にして5%ほどの確率で、霊体強度や瘴気出力の大幅に上昇した『強化個体』が代わりにスポーンするのだ。上記2つはAへ、元々Eだった祭具運用はA+にまで跳ね上がる。界異換算で四号級並の特大脅威だ。

 

 ファイトでも墓地から除去されない限り界異を引き連れ無限に蘇る『有得流我』は、そしてこのデッキは、墓地こそが第二の手札であり墓地こそが沼底。

 そう、裏を返せば墓地の枚数こそが命の残機であり、それ即ちカードを使用すること(・・・・・・・・・・)そのものがリスポーンとなる(・・・・・・・・・・・・・)

 

 そしてここで有得のバトルフィールドを見てみると、場に『ペヌ』と『その敵、沼底より。』で2枚、手札とゲージがゼロ枚、そして墓地に落ちたカードが19枚(・・・)

 

「うおおドロー!!」

 

 あとは、目の前にあった5%の壁を打ち砕くだけ。

 

墓地(『沼底』)から蘇生した『有得流我()』をコストで墓地へ送る。そうして! センターへコール! 

いでよ────『有得流我・強化個体(強い俺)』!!」

 

 先程から何回も見た方の『有得流我』が泥となって崩れたと思えば、有得が手札から投げ込んだ『強化個体』のカードを取り込み旋風を巻き起こす。

 

「こーんなとこでアタリ引くなんて、主人公じゃあないんだから……」

 

 ボヤく死火だが無理もない。有得とて強者相手にこのビルドのデッキを使うのは初めてであり、『強化個体』のことはすっかり忘れていたところだったからだ。

 『強化個体』の性質上初手で引けることは無く、数ターン経過を待った上で完全に運次第なのもその一助になっていた。

 

 死火に破壊され砂となって有得の足元にあった『有得流我』たちの墓の残りが、その風で巻き込み散らされ──るでもなく、むしろ風に乗って中心へと吸い込まれていく。

 

 光が実態を帯び、形成されたのは普通の個体とはそこまで変わったように見えないいつもの有得流我。が、そこに満ちる覇気は先程の軽く4倍。

 あとついでにちゃちな王冠なんて乗っけて”強化個体らしさ”をアピールしている。心なしか服の毛並みも良さそうでなんとも憎たらしい。

 

「我が名はキング・アリエ也……!」

「自我は普通でしょうが。適当言わないの」

「『強化個体(キング・アリエ)』は墓地の『有得流我(俺の屍)』の数だけ強化される。故に今の我は攻防15000の打撃力4也……!」

「ハァ!? とうとう人間辞めたわけねこのバケモノ!」

「フフ、ハハハハ! 好きなだけほざいてなァ!!」

「設定剥がれてるわよキング」

「フハハハ! 何とでも言え! よし行けキング!」

「もう! どっちが喋ってるのか分からないっての!」

 

 多分最後以外キングだったと思う。多分。

 

「ファイターにアタック!」

 

 『強化個体(キング・アリエ)』が足元へ手を振り下ろす。

 石畳を砕くかに思えたが、召喚時のように液状となったそこへ手を突っ込み、引き上げたその腕にはアイアンクロー状態の『有得流我』が。

 

「えぇ、何それ効果なのぉ?」

「いや知らないよ? 式神作成の一種じゃない?」

 

 召喚した本人……というか一応キングも有得本人であるはずなのに投げやりにもほどがある。

 そして「あ、キングに攻撃時に『有得流我』を召喚する効果はないよ」と第七隊長が脳内にテレパシーを送ってくる。

 なんでもアリか。

 

 意識があるんだかないんだか、身じろぎ1つしない吊られっぱなしの式神有得。キングが軽く唸り、まるで円盤投げのように式神有得を死火へ向け投擲する。バカの筋力と遠心力を、無駄に綺麗な投擲フォームでしっかり威力へ転化する攻撃。

 

有得()を相手のゴールにシュゥゥゥーッ! 超! エキs」

「キャスト、『不浄の護封剣』」

「おい!」

 

 短剣型の黒不浄を祓串(ペグ)に見立て前方にバラ撒けば、半球状の簡易的な結界が展開される。そこへ円盤有得が激突し、血肉の代わりに泥水と土くれをぶちまけて死火の視界を茶色に染めた。

 どうやら式神有得はだいぶインスタントな存在のようだ。

 

「汚ったないわねぇ……」

「あのなぁお前人がせっかくよぉ」

 

 有得が何か言いかけたとき、数秒は持ちこたえてくれた結界にヒビが入り、ブチ撒けられた茶色ごと崩れ落ちて視界が晴れる。

 そうして目に入る、明らかにチャージ態勢の(・・・・・・・)強化個体(キング・アリエ)』。

 

「【2回攻撃(・・・・)】」

「なぁッ!?」

 

 全身を前へ丸め、謎のエネルギーをチャージしている『強化個体(キング・アリエ)』。その様はさながら宇宙の戦闘民族の必殺技だ。

 

「『鉄形代』の効果発動!デッキから3枚オープン!」

 

 言うが早いか、キュインキュインキュイン……と聞き覚えのあるチャージ音が響き始め、青白い光球まで現れ始めた。

 全く持ってどんな攻撃かは分からないがとにかくピンチと見て取った死火が『鉄形代』の効果を発動する。まだライフは8あるので流石にデッキトップのオープンを選択。

 

 開かれたのは、形代、修復術式、そして──『神痛(じんつう)』。

 

「ここに来て……ッ!」

 

 打撃力(物理攻撃力)を持たない『神痛』では、『鉄形代』としての身代わり足り得ない。

 

 現在装備しているアイテムを盾にしようかとも考えたが、『強化個体(キング・アリエ)』を突破するために手数は温存しようと考えたのだ。

 だが、確かに死火のデッキには無数に黒不浄が入っているが、よりにもよってこのタイミングでこれを引くとは。

 

 そして、双眼鏡を持つ第七隊長は、あーこれは可哀想だなと察してしまう。

 観客として全部が全部覗いた訳ではなかったので確証は無いが、死火の黒不浄の装備頻度からして欲をかいた訳ではないだろうことは分かっている。ただ、少しの運要素で崩れ叩き込まれるこの1発は何より致命的だと。裏目というより、果てしなく運が悪かったんだな、と。

 

 尋常ではなくキュインキュインうるさいチャージ音と、謎の祭具から刻印からにブーストされまくったソレ(・・)

 

 そうして有得が、今日イチで満足そうに腕を組む。

 

「キング、はかいこうせん」

「嘘ぉ、“かめは○波”じゃな────ッ!!!!!!」

 

 光が溢れ、爆ぜ、そして奔流となって死火へ迫った。

 軽減に失敗したダメージ4。それは死火を瀕死にさせるには充分すぎる威力で。

 

 ファイタースペースと観客席の間の壁へと、その指示にツッコむ間もなく全身を衝撃が襲い、背中から叩きつけられる。

 有得の指示が無くノーモーションでアレを撃たれていたら、最低限の防御姿勢すら取れずファイト続行不可となっていたかもしれない。

 

 ステージ下へ落下することだけは透明な足場で防ぎ、まだ昏倒が癒えぬ脳味噌を回して這うようにファイタースペースへ辿り着く。

 一撃4ダメージを喰らい残りライフ4。先程より更に死に近付き、ファイト後も確実にダメージは残るだろう。

 

 ……ちなみにどうでも良いが、【2回攻撃】ということは、さっきの円盤有得を食らっていても今の死火と同じダメージを負っていたということである。世界の不思議。

 

 なんとか体を起こす。黒不浄を支えに立ち上がる。

 さすがに【3回攻撃】が無いことだけ確認し、有得がアタックフェイズの終わりを宣言したので安堵する。

 

 死火はこの有り様だが、キングの防御力は15000。コールできる数の限られている普通のファイターなら絶望的でも、手数が倍以上ある死火なら破壊するのも難しくはない。有得には手札も残っていないので、追撃も防御術式を警戒する必要も無いからだ。

 

 それでも、──だから(・・・)、第七隊長は「死火チャン運悪かったな?」と思ったのだ。

 

 

 

 

 

「──“ファイナルフェイズ”!!!」

 

 

 

 

 

 ターンの終わり、アタックフェイズのその先(・・・)

 

「はぁ!? アンタの手札は……ッ!」

「場に『有得流我(キング)』が居て、このターンに場の《界異》が相手へダメージを与えているとき墓地から(・・・・)発動する!」

 

 これが、有得流我の真の切り札。運任せな『強化個体』とは違う、本当の隠し玉。

 初めて使うときはもっと勇者ぽい主人公ぽい相手に使うのだとばかり勝手に思っていたが、まさかこんな顔馴染みに使うハメになるとは。

 

 『有得流我(キング)』の強さを散々アピールしておき、これが最後の切り札だと思い込ませたのだ。実際はこんなもの(強化個体)狙って引ける訳がない。

 『有得流我(キング)』で決着が付けば良かったが、ダメだった以上はこちらも泥仕合の構えだ。

 

「『有得流我(キング)』を墓地へと送り、デッキを全て墓地へ送る(・・・・・・・・・・・)

「ハァ!? そんなことしたらデッキアウトで……」

「──した時、『有得流我(キング)』が墓地へ送られた際に効果発動。墓地の他の『有得流我』を全てデッキへ戻す!」

 

 今しがた墓地──沼底へと沈んで行くところだった『有得流我(キング)』が光となって解け、4つの光となって白狐の額へ吸い込まれていく。そして入れ違うように、残っていたおよそ30枚が飛び出しては砕かれて行った。

 

 有得は今、デッキが4枚、ゲージが1枚。そして墓地が脅威の43枚。墓地を手札ともする有得にとって、これ以上ないアドバンテージだ。

 だがこれでは終わらない。

 

「墓地から好きな《界異》3体を、効果を無効化する代わりにコールコスト、サイズ(号級)を全て無視してコールし──もう一度アタックフェイズを行うぜぇ!」

 

 ──そう、これら(墓地肥やし)全ては前座、事前準備に過ぎない。全ての本命はこれからだ。

 

 3つあるステージの上それぞれに“門”が現れる。黒く塗られ金で縁取られた、漆のような重厚感と高級感を兼ね備える“門”が。

 そうして“門”がゆっくりと開帳。開いたとて後ろの景色が見えるはずが、しかしその中は、“門”自体よりも更に黒く暗い闇が広がっている。

 

 硬直する死火の眼前、顕になった闇から出てくる白き獣。

 とても大きく、そして毛皮に包まれた、前足、鼻先、そしてその図体の全てが、強者の足取りで現れる。

 レフトとライトの“門”からも同様に、黒、灰色の個体が現れた。

 

 その名を死火は、そして第七隊長は知っている。

 

「『一口狼(ひとくちおおかみ)』…………! それが3匹も……!」

「このレベルの懐柔技術、下手な国1つぐらいは落とせるんじゃねぇか!? こんなもん一体どこに隠して…………!」

 

 “門”が消え失せ、3匹の『一口狼』が咆哮する。鳴き声だけはただの狼だが、これで1匹1匹が四号級の中でもトップクラスのスペックを持っている。

 ──『一口狼』の群れの討伐。要求されるのは当然五号級規模の対応だ。

 

 さしもの死火も二の句が告げずにいると、ダメ押しと言わんばかりに、有得が少しの笑みを浮かべた。

 

「そして、『一口狼(この子)』たちは効果を無効化されない(・・・・・・・・・・)

 

 脅威の『一口狼』の能力、その一端。

 攻撃力14000、防御力12000、打撃力3。

 手札に戻せず、効果を無効化できず、そして相手にダメージ(・・・・・・・)を与えるまで(・・・・・・)何度でも(・・・・)攻撃できる(・・・・・)

 そんな暴の具現化、それが3匹。

 

「さぁ、行くぜ? 『“偽門開闢(ぎもんかいびゃく)”』────」

 

 いち個人が四号級界異を3体使役する異常事態。だが、もちろん『一口狼』でなくたって良い。五号級の『時留め』だって3体コールできる。第七隊長の言う通り国すら傾ける、そんな有得流我の生の極地。

 

「────『百鬼夜行』ォ!!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「よしみんな、順番にファイターへ攻撃」

 

 2回目のアタックフェイズ。死火のライフは残り4。

 死火は恐らく、黒不浄(アイテム)を不要な方から3枚砕いてライフ1で耐えて来るだろう。だがそれはいい(・・・・・・・)

 

 『鉄形代』を使っても軽減できるのは直接攻撃だけ。残りライフが1なら、死火が有得へ攻撃した瞬間『ペヌ』の反撃でゲームエンドだ。【貫通】だけでは有得の残りライフ8を削り切れず、もちろんその前に『一口狼』の破壊だって待っている。

 確かにこのターンでは決まらないだろうが、トドメの機会はいくらでも待てるのだ。

 

「『鉄形代』! 『蒼の纏い』を身代わりに!」

 

 予想通りの効果発動。3ダメージを2軽減し残りライフ3。

 

 だが、『鉄形代』を使用してもダメージは受けなければいけない以上、当然ダメージ処理だけしてはいおしまい、とは行かない。

 

「BOOOOOOW!」

 

 白い『一口狼』が一足飛びに死火の眼前へ辿り着き、その凶器すぎる爪を振り下ろす。

 即座に抜いた『逢瀬』で受け止めるが、先程のキングから受けたダメージが尾を引き、振り払いも受け流しも出来ないまま膝を付いてしまう。

 すかさず『一口狼』はもう片方の前足で一蹴。軽減が機能し1ダメージで済むが、また1歩死へ近付いた死火は立ち上がることすら怪しい。

 

「……『一口狼』の効果発動」

 

 ファイタースペースから飛び降りた白い『一口狼』は、自陣への帰り道、死火側のセンターへ刺してあった『剛力武総』をその口で器用に掴み────噛み砕く。

 

 そう、先程語らなかったもう1つの能力。

 “相手にダメージを与えたとき、相手の場のカード1枚を裏返し『一口狼』のソウルへ入れる”というもの。相手へダメージを強制し、その上で全てを更地にし、サーチ術式による立て直しすら封じるまさに切り札。普段の有得がバディとしているワケである。

 

 だが、そんなバケモノが、今や1匹だけではない。

 

「『重死肉断』を身代わりに! ──ぐっ!」

「……効果発動」

 

 次に砕かれたのは『雨垂れ』。【貫通】と打撃力のアップは逆転性の塊。さすがに破壊させてもらう。

 

「『大黒文字』を身代わりに! ……がァッ」

「……効果発動」

 

 最後に『八梅』。『逢瀬』は腰に着けているから(対象耐性で)喰えなかったが、逆に『逢瀬』を除く6本は破壊し終えた。いかな死火とて特殊能力の無い黒不浄1本では何もできまい。

 

 余談だが、『最強への足掛かり』と『鉄形代』、『アイカギ』を破壊しないのは、その全てに共通効果として“場に黒不浄がある時”限定の対象耐性を得ているからである。

 『アイカギ』があるため確実に1本は装備されるが、性能以前に手数が足りないのだからどうしようもないはずだ。

 

「あのさぁ、」

「何だ?」

「どうしてさっきから無言なのよ?」

「……あのなぁ」

 

 せっかくの煽りチャンスのはずが、なぜかやたら寡黙な有得。まさか今頃同情するタチでもあるまいに、何をそんな……と問いかけてみれば、呆れたような溜め息。

 

「お前が……お前があんまりにも大人しくボコされてるから、なんかリ○ナみたいな絵面になってんだよ! 俺にそっちのケはねぇよ!!!」

「知らないわよ!!!!!!!!!!」

「うぉうるさっ。ちなみに俺チャンはそっちのケです♂」

「知らないわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「あーいや誤解、そっちのケってのはリ○ナじゃないからね? 可哀想は可愛くないタイプなの俺チャン」

「知らなゲッフォゴッハァ」

 

 残りライフ1、瀕死の状態で叫びまくったせいで血反吐を吐く死火。だがあえて言おう、さすがに知ったこっちゃないわよ。

 

「さすがにこのターンは耐えるの分かってたけど……まさかこの程度で諦めたりするタマじゃねぇよな?」

「はぁ? 誰に口きいてんのよ、当たり前でしょう」

 

 乱雑に口元の血を拭い、ゆっくりと立ち上がる。

 攻撃による物理的な傷は生まれないが、霊体に傷が、そして壁へ叩きつけられたときの衝撃で内臓がいくらかやられたようだった。しかしそういった弱さは全く見せないまま、しっかり己の足のみで立ってみせる。

 悔しいが、有得と第七隊長とのやりとりで空気が弛緩したおかげもあった……かもしれない。

 

「今度こそターンエンド。ほら来いよ」

「……ハッ」

 

 チャージ&ドローまでを終え、手札は3枚。

 場にあるのは設置術式たちと『逢瀬』のみであり、手数が圧倒的に足りないと思われているはず(・・・・・・・・・)だ。

 

「…………………?」

「死火チャン? ダイジョブ?」

「ん、ん? ええ……」

 

 実際その読みは正しい。突破するための手数は足りる(・・・・・・・・・・・・・)が、残りライフ8までは削り切れない。

 ────と思っていたのは死火も同じだ。さっきまでは。

 

 2回目のドローをしたときに引いたカードは『穢製再鍛(えせいさいたん)』。墓地から好きな《黒不浄》を回収するカードである。

 

 という訳で墓地に何が落ちているかを覗いていた死火。ゲージへ送った黒不浄もあるため、全てを有得に知られている訳ではない。何か意表を突く、あわよくば逆転できるカードはあったかと探していると……

 

(なに……? 新しい黒不浄がひと振り増えてる(・・・・・・・・)………!?)

 

 ふと目に止まったある黒不浄。一瞬訝しんだが、効果へ軽く目を通せば、ソレがどういうモノか即座に理解した。

 

「装備、『菫座三色(きんざさんしき)』。そのままアタックフェイズよ」

「……ほう?」

 

 金銭的価値に疎めな有得でも分かる高級品。しかもよく見れば嗜好品ではなくきちんと戦闘に耐え得るほどしっかりとした脇差状の黒不浄。

 『逢瀬』と2本を腰に差し、いよいよ風貌がどこぞの剣客みたいになっている。

 

 だが、有得が反応したのはそこではない。何のキャストも無くアタックフェイズへ移ったことに対してである。

 『アイカギ』の装備効果は【対抗(カウンター)】を持つのでいつでも構わないが、先程まで死火は効果の起動をメインフェイズに行っていた。まさかこれ以上黒不浄がデッキに入っていない訳でもあるまいし、十中八九わざとだろう。

 

(俺がまた『偽門開闢・百鬼夜(さっき)行』のように墓地から何かを発動したら、それを見てから後出しで対応する気だな?)

 

 つまりこのターン、死火は決着ではなく盤面(一口狼たち)の一掃を目指すのだろう。一口狼には防御力12000が備わっているが、もう1本増えるなら一口狼3匹を全滅させられてもおかしくはない。そも、黒不浄が2本ある為、『逢瀬』の攻撃力は+2000されて既にピッタリ12000である。

 

(まぁ、だからといって盤面が(・・・)全滅することも、俺が負けることも無いんだがな……!)

 

 そう内心ほくそ笑む。

 

 ──そうだ。お察しの通り、墓地から出すカード自体はある。あるが……突破した上で盤面を優位にひっくり返す黒不浄など、質より量な死火のデッキには入っていない。

 たとえあの強力な黒不浄である『重死肉断』を4本持とうと、1匹、条件が良くて2匹の『一口狼』を突破するので精々なのだから。“量より質”と、“質より量”の差とはそういうことである。

 

 そして、『百鬼夜行』を発動し“質()量”となった有得(この)デッキとの差も、そういうことだ。

 

「『逢瀬』でセンターの『一口狼』へアタック」

 

 案の定、逢瀬単体で攻撃宣言をする死火。

 手札が無い以上有得がそれを止める手段は無く、まぁ仮にあったとて無抵抗で攻撃を通す。

 

 死火が『逢瀬』を抜き放てば、精神デバフがその身を覆い気分を高揚させる。本来はそのままデバフとなるはずが、ここまでボロボロの死火には逆にアドレナリン代わりになっている。本物のアドレナリンと合わせてまるで痛みを忘れたかのように走り出した。

 

 『一口狼』へ攻撃する。前薙ぎ、噛みつきをひらりと躱し首筋へ刀を突き立て──ようとして、直前に首筋へ現れた大口が迎え撃つ。

 

「……フッ!」

 

 さしもの死火と『逢瀬』も噛みつきを喰らえばお終いである。なので牙の側面へ刃を当てて(・・・・・・・・・・)軌道を逸らし、ズレて目の前に来た犬歯と鍔迫り合う。

 力で押され喰い潰される前に飛び退き、首筋の口が閉じたのを確認してから近付いて縦に両断した。口を両断したということは、無論首を両断したということ。

 

「…………過去イチでノッてるわ、アタシ。今なら“神”でも何でも斬れそう」

「お前もたいがいバケモンじゃねぇか……」

 

 超・エクスタシー・死火が爆誕する。

 

 『時留め』は相性で撃破したところがあるのでまだ分かる。しかし『一口狼』の単独討伐は普通に人外。いかに儀式(ファイト)のシステムがあるからとはいえ、殺生蜂や一口狼の攻撃をポコポコ見切っているのは普通に異常である。

 

「そんなに言うならアンタも斬ればいいじゃない『一口狼』」

「無茶苦茶言ってんじゃねえよ! おら【ソウルガード】!」

 

 屈強な『一口狼』も儀式のシステムに従い破壊される。カード状の光となって砕け散────る前に、飛び散った光が集まって再構成、『一口狼』が復活を遂げる。

 

 『一口狼』の下へ置いてあったカードである『剛力武総』を墓地へ送ることで、場を離れることを肩代わりする。この能力によって、白い個体に食われた『剛力武総』が返ってきた。もちろん、手札ではなく墓地に。

 その代わり今倒した『一口狼』は健在であり、当たり前だが死火へのメリットはほぼ無いカス能力。

 

「さぁ、そのマヨヒガ(アイカギ)で何持ってくんだ?」

「あ、じゃあ『逢瀬』の効果発動。ゲージ3払って墓地の『蒼の纏い』をデッキに戻し、『逢瀬』をスタンド(再攻撃可能に)するわ」

「え何その能力知らない」

 

 有得と違いファイト開始からほとんどゲージを使用していなかった死火には、3ターン目にしてゲージが8貯まっている。

 ズラリと並んでいたゲージが端から3つ刀身へ合わさり、『逢瀬』と、それを握っていた死火に活力が戻ってくる。

 

 もはや何も言わず、空中を歩き『一口狼』へと近付く死火。

 遠からず、有得のセンターはまたしても突破されるだろう。

 

「……いや、いやいやいやいや」

 

 さすがにおかしい、と有得は首を振る。

 確かに『逢瀬』は死火の愛刀だが、性能としては通常の黒不浄と遜色ないはずである。現に見た目もそうだし、特段感じるものもない。例えば透明で光をよく反射していた『蒼の纏い』が攻撃無効化能力を持つのは視覚的にも素材的にもよく分かるが、『逢瀬』にはそういうものが見受けられない。

 

 有得には知る由もなかったが、『逢瀬』は色情系の境界異常の穢れを原料としており、抜いた際の、そして今も『逢瀬』と『菫座三色』を強化しているバフだってそこ由来である。

 そして、長年振り続け、磨き、剣と一心同体となったことで得た第二効果。それがこのスタンド効果だ。

 いわば、穢れの特性を更に引き出した一時的なドーピングとも言える。

 

「と言うわけで、センターへ再攻撃よ」

 

 主人(有得)を守るため、再び『一口狼』が立ちはだかる。先程自分の首を落とした相手だ、攻め手が少し衰える。もちろんそれは恐れではなく、力押しでは通用しないことを理解している賢さの証左である。

 ……が、それでどうにかなるなるなら、死火は既に敗北しているのだ。

 

「……マジかよ」

 

 改めて、その首が落とされた。ソウルを失っている『一口狼』が今度こそ破壊される。

 

 背筋が冷えていくのを感じながら、しかし有得の守り手は揺るがない。

 

「『一口狼』が破壊されたことで『その敵、沼底より。』の効果を発動。墓地の────『強化個体(キング・アリエ)』をセンターへコールする!」

 

 『沼底』の効果は、“場の《界異》が破壊された時、墓地の『有得流我』を召喚する”というもの。

 『百鬼夜行』の発動条件のときもだが、『有得流我』そのものである必要はなく、『有得流我』を含むモンスターのことを指している。つまり先程死火を追い詰めた『強化個体(キング・アリエ)』も『沼底』で墓地から蘇生できるのである。

 

「まぁ『有得流我(普通の俺)』はデッキに埋まってるから攻防の強化は入ってないが……破壊されても墓地のカードをデッキに戻して蘇生できる。お前の攻撃1ターンくらい耐えてやるよ」

 

 死火はレフトとライトの『一口狼』を破壊しないと次のターンに耐えられない。だが、センターの『強化個体(キング・アリエ)』を放置してしまうといずれ『一口狼』以上の壁が完成してしまうし、その前に破壊し尽くさないとセンターが空かず、死火の刃が有得へ届くことは一生ない。

 

 墓地に『有得流我』がゼロ枚の時の『強化個体(キング・アリエ)』は攻撃力3000、防御力3000、打撃力ゼロである。単体性能としては最低限であるが、リスポーン能力を内蔵しているため壁役としては最高だ。

 

「あら、丁度いいわね」

「……えっ、」

 

 攻防3000と聞いて微笑む死火。冷や汗が加速する有得。

 

「キャスト。──『急襲・黒モドキ』よ」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! お前ェ!!!」

「使いどころ無くて困ってたの。助かるわぁ」

「エッチなことするんですか?」

 

 【対抗】で相手の攻撃力3000以下のモンスター1体を破壊する術式を発動させ、その後その『黒モドキ』のデコイをアイテム代わりに装備するカード。

 

 …………術式とは言っているが、要はこういうこと(・・・・・・)である。

 

「よいしょっと…………」

 

 カードを指で挟み、トランプよろしく投擲する。

 

 綺麗なカーブを描きながら飛んで行ったそれは、たった今コールされたばかりの『強化個体(キング・アリエ)』へと向かう。

 

「『キング復活!キング復活!お前もキング復活と言いなs」

「ばかキング避けろー!!!」

「ん?」

 

 言われて目をやると、クルクルと決して速くはない速度で飛んでくるカードが目に入る。

 強化されてないとはいえ、強化個体である以上身体能力は人間のそれを優に超えており、ゆえにキングは、はっきりと視認できたそのカードを手刀で真っ二つにした。

 

「ナハハハハ。なんのこれしき!」

「アホーーーーッ! 知らないからなーッ!!」

 

 そう有得がツッコんだときには、もう遅かった。

 

 ポテッ、と。

 

 黒不浄そのものな見た目の割には力の抜ける音を立てて、実体化した『黒モドキ』がキングの頭の上へ落ちる。「なんで黒不浄がここに?」と首を傾げたのも束の間────

 

 バクンッ。

 

「最ッッッ悪だよ。俺感覚同期切ったから。もう知らないから。

…………効果発動。墓地のカードを10枚デッキに戻して復活するぜ」

「キング三度登場。ちなみに俺も別個体だから急に喘いだりしないぜ!」

 

 またしても無人となってしまったセンターの地面が揺らぎ、即席の沼から飛び出した『強化個体(キング・アリエ)』がそう言って腕を組む。少年少女が読む健全なカードゲーム作品なのでさすがにR18展開はNG。

 

「だからぁ、ファイト前に言ったじゃない。投擲された『世界結界』を迎撃なんてしたら痛い目見るのは自分なのよ」

 

 その場に残った『黒モドキ』の抜け殻──曲がりなりにも刀剣型のソレを死火が拾い装備する。

 

「意外と攻撃力あるわね……」

 

 意外と攻撃力4000あった『黒モドキ』。実は『逢瀬』の装備数比例バフのおかげである。

 どうやら『逢瀬』さんは同じ色情系(?)の『黒モドキ』を黒不浄仲間として認めたらしい。

 

 万が一『黒モドキ』から脱出してくると困るので自陣へ持ち帰りはしつつその辺へポイしておくか……と考える。使うときは布越しにでも持たなきゃ、とか。

 

「あ、ついでに『黒モドキ』でセンターへ攻撃」

 

 布で掴んで拾って、振り返りざまに斬りつける。言うほど切れ味は無かったが、バフのおかげか思いの外に勢いが出て破壊できてしまった。先程復活したばかりのキングが、何ごとかを口にする前にまた光となった。

 

「効果発動! 10枚デッキに戻して復活する!」

「……おい二度とその剣俺に近付けるなよマジで」

 

 復活した『強化個体(キング・アリエ)』が猛抗議。さっき取り込んだキングが出てこない限り定員オーバーで取り込めないので安心してほしいところだが、そんな事実分かった上での猛抗議である。

 

 さて、有得の墓地はあと20枚。つまり『強化個体(キング・アリエ)』をあと3回破壊しなければならないらしい。

 

 ……と、『黒モドキ』からゲージの光が1つ出てきて死火の場へ飛んでいった。

 ゲージ。つまりリソース(エネルギー)。『黒モドキ』からエネルギーが供給されてきたということはつまり…………。

 

「「「………………………………」」」

 

 ファイター2人、そして第七隊長すらも何とも言えない雰囲気になってしまう。異界に取り込んでくれるシステムで本当に良かった。もし目の前でおっぱじめられるのなら、いくら優秀なカードでも流石にデッキには入れてない。

 

「『菫座三色』でセンターへ攻撃」

 

 『黒モドキ』を放り、脇差を抜き放つ。

 実戦ではそうそう抜かないので見ることの少ない綺麗な刃紋を軽く目に焼き付けて、そのまままたセンターへと向かう。

 

(…………ん? そういえばコイツ、『一口狼』じゃあなくてセンターをぶち抜く気か?)

 

 となると、死火には現盤面の『一口狼』たちを対処する算段……『一口狼』4体分の破壊手段か、2以上のライフ回復の手段があることになる。

 

(ライフ3以上回復されたら負けだな…………)

 

 そんな感想を抱く有得。

 つまり、そうでなければ『鉄形代』すら押し切って勝てるヴィジョンがあるということだ。

 

 

 

 つまり実質、このターンが最終ターンということである。

 

 

 

 そうこうしていたら『強化個体(キング・アリエ)』のところへ死火が辿り着いた。

 

 死火が剣を振ろうとする直前、キングが口を開く。

 

「なぁ死火、ここは穏便に暴力以外で解決しよう、そうだな、 ほら、じゃーんけーん、ぽん」

 

 死火はチョキ、キングはグー。

 

「あっち向いてほズバシャアッ

 

「効果発動」

 

 綺麗に首だけ飛ばされた『強化個体(キング・アリエ)』の首の断面が蠢き、噴出した泥で再構成された。

 

「お前たいがいにしろよ!」

「あっち向いてホイだったのね、叩いて被る方かと思って」

「だとしても俺が叩くほうだろ!?」

 

 『菫座三色』の効果が発動したが、有得が手札を持っていない為に不発。

 有得の墓地は残り10枚、そして死火のゲージは残り6枚。

 

「『逢瀬』でセンターへ再攻撃よ!」

「t」

「効果発動!」

 

 今度は何ごとかも言わせず寸断し、『重死肉断』がデッキへ戻る。そして最後の10枚が白狐の額へと吸い込まれていった。

 これでピッタリ墓地がゼロ枚。デッキが増えてᒪО(デッキ切れ)は狙えなくなったが、代わりに有得の第二の手札だった墓地を空っぽにすることに成功した。

 どの道デッキが切れてしまう前に決着は着いていたであろう。ここは倒し得であったということにする。

 

「更に『逢瀬』で再攻撃! いい加減退きなさい!」

「あーもう、マジかよ!」

 

 墓地を枯らし、ゲージを使い果たし、最後に『天音叉』を回収して、ついに不屈の『強化個体(キング・アリエ)』が倒れる。ちなみに最期は一音も声を発させてもらえなかった。

 血液の代わりに散らばった泥が、今度こそ、本当に今度こそ光へと変わった。そうして、久方ぶりに有得のセンターががら空きになる。

 

「キャスト! 『穢製再鍛』よ!」

 

 墓地から呼び出したのは『剛力武総』。

 

 センターの『一口狼』に喰われ、半ばから砕け、柄にも縦にヒビの入っている、見るも無残なその姿のままで死火の足元へ現れた。

 

 武器としてはもう救いようも無いはずのそれを、己の術式である『黒不浄穢製』を発動し、その残骸と穢れから新しく黒不浄を作り出す。

 どうせファイトが終われば戻るのだから悲しみこそ無いが、若干の申し訳無さを覚えつつ穢れを解いて、もう一度太刀の形状へと編んでいく。

 

 物質化しようとも穢れであるため、界異から黒不浄を製作する『黒不浄穢製』は破損した黒不浄の修復にも使えるのだ。

 

「…………よし。改めて『剛力武総』を装備するわ」

 

 ところどころの細かい意匠までは再現出来なかったが、刀身の長さから全ての重心、柄の握り心地までが正確に再現された『剛力武総ver.2』とも言うべき太刀を握りこむ。

 

「うん。だいたいイイ感じね」

 

 相変わらず馬鹿デカくアホ重い黒不浄だが、出来栄えは満足と言う他ない。これならコンディションに支障は無さそうだ。

 『逢瀬』を鞘へ納めたせいで高揚感が少し途切れてまたフラつきだしたが、そんな体でもしっかりと持ち上げ肩へと担ぐ。

 

「それじゃあ、ファイターへアタックね」

「なにっ、こっちだとォ!?」

 

 コイツ、実は勝算なんて無くて全くのヤケなんじゃねぇか、そう思いながら死火の攻撃を受け入れる。有得が勝利するということは死火が満身創痍ということであり、現実へ戻って始末されることを嫌い、こちらをできる限り消耗させておく腹づもりなのでは、と。

 

 久方ぶりに、死火が有得のファイタースペースへと登る。

 隠してはいるが限界が近いのだろう。もはや軽口の1つもなくその大太刀を肩から離して構えた。

 

「さっさとやれよ」

「…………るさいわね」

 

 作り直して無骨な見た目となったがゆえに、余計に武器らしさの増した『剛力武総』。

 『一口狼』への攻撃でも感じたが、死にかけても技術は鈍ることなく。その重量を余すことなく威力に転化し、とても痛いダメージ3。

 そろそろ有得の霊体にもダメージが蓄積してきた。「俺とて無事では帰れないかもしれない」とそう思いながら裾を払う。

 

 ペヌが主人を守ろうと必死なので片手で押し留める。

 『剛力武総』の前では『ペヌ』は発動できない。仕方ないが、次の攻撃の時に噛みつけばいい。

 

 残りライフ5。死火には未だ『アイカギ』が残っているが、あの『蒼の纏い(殴るたびに強化)』や『重死肉断(ライフ反比例強化)』ですら、一撃でライフを5削るには打撃力が足りない。

 

「『アイカギ』発動、『重死肉断』を装備!」

 

 虚空から先ほども振るった中華包丁が現れ、地面へと突き刺さる。

 

 恐らく最後の悪あがきになるだろう。これが最後の攻撃。そう思い有得が両手を広げる。せめて、彼の最期の一太刀だけはその目に焼き付けようと。

 

 そんな有得の眼前、死火が『剛力武総』を『アイカギ』へ放り込む。儀式(システム)上は装備中のままなので、本当にただの収納。同じように腰から『逢瀬』と『菫座三色』を外してそっと収納した。

 

 屈み込み、片膝を突く。

 刀身が下向きになって刺さっている中華包丁を順手に持つ。

 

 ──『重死肉断』は死火のライフが減るほど力を与え、その身体に、装備者が潰れるほどの“重さ”を課す。相手を討つか、自身が死ぬまで。

 この刀を引き抜いたとき、死火の命のカウントダウンが始まる。このあとの有得の行動如何に関わらず。

 

 覚悟を決め、立ち上がると同時に引き抜いた。

 

「なッ……! お前ソレ……!?」

 

 

 

 

 

 『重死肉断(おもしにくたち)』という()から、『刎駆神(はくじん)』という黒不浄を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 刀身から爆発的に溢れる加護が白く輝き、夜空のようなその黒き刀身を光で覆い隠す。まさしく星のように。

 

やっぱりねぇ(・・・・・・)抜けると思ってたわぁ(・・・・・・・・・・)

 

 全く“重さ”を、それこそよく鍛えられた自身の体重や、この地球(ほし)の重力すらも感じないほどに身体が軽い。もはや、どこまででも飛んでいける気がする。

 そんな覚醒状態の中で死火は1人納得する。

 

「なんでこんな黒不浄が生まれたのか分からないケド、とにかく“アタシが極限まで追い詰められるコト”が条件なのには間違い無かったのね……!」

 

 ────『星翔明極(せいしょうめいきょく)刎駆神(はくじん)』。

 

 それこそが『重死肉断』の本来の銘と姿であり、持ち主が真に窮したときにのみ現れる姿。

 

 死火はかつて一度だけこの刀を抜いていたが、以降条件が分からず、デメリットも大きいため普段使いも難しく、もうお目にかかることは無いのではと思っていた黒不浄だ。

 

「いやいやこれは……」

 

 有得はもう何も言えなくなっている。そらそう。

 

 前触れなく『強化個体』を召喚しだした自分が言えた義理ではないが、このタイミングで知らない黒不浄が出てくるのは余りにも無法すぎる。知っていれば真っ先に『一口狼』で喰っていたとも。

 

「なんだこれは……たまげたなぁ……」

 

 眩く輝く刀身へ頑張って双眼鏡を向けて目を凝らす。

 その効果を見て、この勝負の行く末を察した。

 

 なんか来れるから来てみた、暇つぶしにはなるかなぁ、ぐらいで観戦してみた試合だったが、こうまで熱い試合が観られるとは。

 

 いいものを見れた。──もちろん戦力調査の意味でも。

 だが、それ以上に興奮冷めやらぬ第七隊長なのだった。

 

「…………」

 

 自身の胸の前で『刎駆神』を水平に掲げる。柄から手を離し念じれば、ひと際輝いたのち剣の輪郭が揺らぎ、1枚のカードとなって死火の手に収まる。

 

 『重死肉断』としても扱う旨が記してあるが、やはり根本的には別物になってしまっている。

 通常のカードとは違い横向きになっているソレを改めて掲げ、ゆっくりと声を張る。

 

「────“ファイナルフェイズ(・・・・・・・・・)”……ッ!!」

 

 アタックフェイズの終了。

 『刎駆神』が残っているのに終わると言うことは、この黒不浄がもはやアイテム、通常攻撃の域に無いことの証左。

 

「アタシのライフが1で、『重死肉断』を装備していて、お互いのセンターが空いているときのみ発動できる!」

 

 掲げたカードが再び『刎駆神』へと戻り輝きだす。

 

「はぁーあ、納得行かねぇ…………もうひと息にやりなァ!」

 

 頭を掻き、そう言い残す。

 肩の上のペヌ、首元の白狐の頭を軽く撫で、そして目線でレフトとライトの『一口狼』たちを労った。

 

 死火の姿が掻き消え──常人の目には追えない速度で飛び立ち、ドームの中空で紫の光を足場に降り立つ。

 『刎駆神』を腰溜めに、居合の構えを取る。眼下の有得、そして2匹の『一口狼』を見据える。

 

 動く、そう思ったときにはもう残心していた。

 有得とて数々の祓魔師、祓魔師でなくとも剣客を見てきたが、彼らと比べても確実に上位へ入るだろう神速の抜刀。

 

 斬撃の軌跡を加護がなぞり、飛翔する斬撃となって降り注ぐ。その斬撃が有得と『一口狼』の間のスペースに着弾し、ガラスが割れたような音と共に空間へ罅を入れる。

 

「……“開帳”。」

 

 斬撃の痕──空間の罅が大きく開き、何もない暗黒の虚無空間が姿を現す。

 空間の歪みが重力を捻じ曲げ、ブラックホールと言うべき巨大な渦となった。

 

「えっ、ちょっ。こういう終わりなのは聞いてねぇよ!?」

 

 キングと違い普通な身体能力の有得はその引力に逆らえず吸い込まれる。なんとかファイタースペースのへりに捕まったは良いが、石畳すらバキバキ吸い込んでいるのでまぁ時間の問題でしかない。

 

 先に2匹の『一口狼』が呑まれ、召喚主として有得の中にあった繋がりが一瞬で絶たれる。【ソウルガード】があるはずの2匹が、一瞬で破壊される。続けてペヌも吸い込まれていき破壊された。

 コアガジェットたる白狐は首に巻き付いているおかげで耐えているが、そもそも有得が耐えられていないので未来は決まっている。

 

「やぁ有得クン」

 

 ギリギリ耐えている有得の前に降り立った死火。彼はこのブラックホールの影響を受けていないらしい。インチキにも程がある。

 

「なあ、俺の降参でいいから許してくれないか? ほら、お互い良いファイトだったな、うん」

 

 いつもの3倍くらい早口なそれを、死火はハッと吐き捨てた。

 

「次に“狩場”の近くで勝手に騒ぎ起こしたら、今度はこれ(刎駆神)を現実で抜くことになるから気をつけておくことねぇ」

「あ、あぁ。もちろん気をつける! だからッ……」

 

 続く言葉は、神速の剣に腕を切断されて紡げなかった。

 

「ありえないが〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

 

 肘から先を失い、耐えられなくなった有得が白狐もろとも無抵抗で吸い込まれていく。

 

 死火が罅を剣でなぞれば、まるでファスナーのように罅が閉じていく。全てが閉じた瞬間、空間の罅とドーム内を襲っていた引力は消滅した。

 

「……ふん」

 

 そこから顔を背ければ、頭上にある有得のタクティカル(ワールド)のフラッグが、モンスターやアイテムのように光となって消えていくところだった。

 

 握っていた『刎駆神』が光を纏いカードに戻り、次いで光を失い『重死肉断』のカードへと戻る。

 

 “相手の場のカード全てを破壊した上でダメージ5”。

 

 今ここに、ファイトは決着した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

【GAME END. WINNER SHIKA】

 

 多分この『マヨヒガ結界』の飼い主である有得が仕込んだのだろう。そんなアナウンスを聞きながら、観客席に目を向ける。

 

「やぁ死火チャン、おめでとうおめでとう」

 

 そこには、特に動じた様子のない第七隊長の姿が。

 

「まぁどうせ大丈夫だろうなとは思ってたけど、あのブラックホールが暴れる中を本気で生きてたのね」

「あ、やっぱり俺チャンもろとも消し潰そうとした感じ? まぁ双眼鏡やポップコーンとホットドッグのゴミは全部吸い込まれたケドね」

「ゴミ箱代わりにしてんじゃないわよ」

 

 そう言いながら軽く小突こうとして、──そこで死火の意識は暗転した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 死火が目を覚ましたとき、有得と共に2人は最初の工場地帯で横たわっていた。

 ゆっくりと体を起こせば、霊的な傷は完治しているものの、筋肉痛のような怠さが襲いかかる。

 

「反動も凄そうねぇ。……ま、現実じゃ次にいつお目にかかれるのか分かったモンじゃあないけれど」

 

 隣の有得に目をやれば、彼には元々傷は無いので見た目は普通だが、狩衣代わりのその衣服と祭具、懐にある『世界結界(デッキ)』、その全ての加護や瘴気、穢装が失われていた。

 意識も無いこの状況なら、ゲーム機を持った小学生くらいでも彼を殺せるだろう。無論境対が見つければ即刻倒されるだろうし。

 

「………………ねぇ。アンタ(・・・)、どっかに居るんでしょう?」

「──えっすっごい、なんで分かったの?」

「居るだろうなって思ったときにはだいたい居るのがアンタよ。……別に褒めてないわ」

 

 重ねられたコンテナの隙間から| 'ω') ヌッと顔を出す第七隊長。状況から見てどうやら遠巻きに眺めていたらしい。

 

「アンタからしたら私も有得(コイツ)も寝てる間に殺した方が良かったでしょうに。そんなマネして良いの?」

 

 言外に「()に怒られやしないワケ?」と問うてみれば、カカカと笑う黒フード男。

 

「そもそも殺しに来たワケでもねぇし、仕事ってんなら偵察任務ちゃんとこなしたからセーフ、なんじゃねぇかなぁ多分」

「ふぅん、アンタ校長先生みたいなコト言うわねぇ何だか」

「HAHAHA、あんな責任ある立場俺チャンには向いてないよ。……それより、なんか用?」

 

 問い返され、呼んだ理由を思い出す。

 

「アンタがアタシたちを殺すつもり無いってんなら、そこのバカ(有得)の加護と穢装が戻るまで匿ってやってちょうだい」

「あらお優しい。死火チャンは?」

「アタシは疲れたから…………と言いたいケド、今とっても調子が良いの。感覚を忘れない内にちょっと剣振り回してくるわ」

 

 『アイカギ』から適当な黒不浄を抜き、虚空へ打ち込んでみる。実際に人を相手にしてみないと何とも言えないが、先ほどのファイトでの感覚はまだ残っている。今は自己鍛錬に没頭したかった。

 

「良いじゃろう、任された」

「ありがと♡ 手間賃はソイツ(有得)の懐から好きなだけ抜いて良いわよぉ」

 

 好き勝手言い残し踵を返す。

 背中越しに第七隊長へ手を振りながら、死火は姿を消した。

 

 こうして、3人しか知らない呪詛犯罪者たちのファイトはひっそり幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 ──そしてこのあと、今度は有得と第七隊長の5日間の同棲生活が幕を開けるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 





お借りしたやーつ

霧島明さん
 ・死火
 ・黒不浄ほぼ全部
 ・有得 流我
 ・ペヌ始め界異全般

雪山さん
 ・泥濘より来たるモノ
 ・時留め

グレン亜種さん
 ・楓呀 刎々斬(第七隊長)
 ・重死肉断

ヴォーパルのっちさん
 ・黒百足

スペシャルサンクス
フューチャーカード バディファイトさん
 ・タク祓部分を取り除いた全部


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