超人アクターvs視聴者 編 解説パート
「ご機嫌よう親愛なる観衆諸君!
君達の良き俳優の登場だ!」
○月△日、超人アクターchのライブが今日も始まる。
老若男女問わず全国の観客が、各々のスクリーンの前で今か今かと開演を待っている。1分経ったか経ってないかののち、待機画面から一転、聞き慣れた主演俳優の口上が始まった。
……だが、そうして始まった第一声は、いつもと比べ少し沈んでいた。
「……さて、ツイッ○ーとコミュニティ欄では事前に投稿したのだが、本日の予定だった著名なカードファイターの方をお呼びしての対談、対戦配信が、先方の急な
『そんなー』
『どんまい』
『まあ仕方ないね』
1拍遅れて、コメント欄が悲哀でいっぱいとなる。それらを眺めつつ「申し訳ないが、ご理解の程よろしく頼む」と付け加えた。
謝罪を済ませ、画面いっぱいに映っていたアクターが画面右下へスルスルと縮小していく。空白にはまだ何も映されてないものの、ゲーム実況動画でよく見るレイアウトになったところで右下のワイプのアクターが口を開いた。
「ただ、せっかく配信告知をして枠を設けたのだからと、雑談配信へと予定を変更し代わりの話題をマシ○マロにて募集したのだ。唐突にも関わらず送ってくれた皆には感謝してもしきれない」
『ええんやで』
『雑談すきだぞ』
アクターへの励ましで埋まるコメント欄。ただでさえアクターのこの姿勢な上に、この界隈の中でも飛び抜けて治安の良いチャンネルである。責める声や貶す声は微塵も見られなかったが、それらが総意と鵜呑みにするアクターでも無かった。
だが暗くなってばかりでもいられない。リスケは仕方ないし、代わりに観客を盛り上げる算段は既に用意してきたのだから。
その有り余る向上心がフル展開されたものがこちらですと言わんばかりに、空白だった画面が切り替わる。
「寄せられたコメントを拝見したところ、どうやら、そもそもカード自体にあまり詳しくない観客の方が多いように見受けられた。確かに、我が舞台でカードの話題を主題に取り上げたことは4回程だったからな、無理もない話だ」
それは簡単に言えばパワポだった。ただし、タイトルが書かれた1枚を見るだけでも尋常ではない手間が掛かっている。
おかしい。確かリスケするという投稿から2時間も経ってないはずだが……?
「──と言う訳で、来たる対談・対戦配信を十全に楽しめるよう、今回は【突発解説シリーズ】として、『
『と言う訳でじゃないが』
『そうはならんやろ』
『配信社畜たすかる』
『準備時間2時間無いはずなんですがそれは』
『解説シリーズきちゃあああ』
この世界の『カード』には、2つの意味がある。
1つは、世間で流行している遊戯であり、各店舗などで販売されている『
そしてもう1つは、
そこでチャンネルページが更新され、サムネイルとタイトルが切り替わる。
【解説シリーズ#■6】タクティカルカードバトルについて
「10分ほど使ってしまったが、ここまではプロローグだ。……本編スタートとさせていただく!」
◇
「さて。とはいえ、TCGについては普通のカードゲームなので特段に語ることも無い。……解説ではないが、新弾のシークレットパックが出なさすぎていつまで経ってもデッキが組めないことだけお伝えしておこう」
『草』
『それな封入率おかしい』
『あれないと組めないのホンマ』
『2回当てた民、高みの見物』
「そして本題のTCBだが、そもそも境界異常や呪詛犯罪者と縁遠い地域では知らない者も多いだろう。どうしてカードゲームが儀式となっているのか、そこの解説から始めさせていただく」
TCGについて簡潔に書かれたパワポ1枚目をスライドさせると、本題であるTCB──その大元である技術の説明が記されていた。
「『世界結界』。それがTCBの根幹となる技術、いや結界術だ。こんなふうに──」
言いながら、右下のアクターが懐から何かを取り出す。それは1枚の紙切れ──カードであった。
それを横目に見つつ視聴者がよく見えるようワイプを拡大すれば、そのカードには何の変哲もない黒不浄のイラストが描かれている。まるで写真かのように鮮明だ。
言葉を切ったアクターがそのカードを両手に持ち替え…………真っ二つに引き裂いてしまう。
すると、紙を破ったにも関わらずパキンという破砕音が響き、直後、アクターの手の中に突然
「このカードは何かを封印した『世界結界』の結界術式を、霊的処理を施した特別な紙に刻印することで作られる。故に破れば式が壊れ、封印していたモノが現れる。そういう仕組みの祭具だ。『世界結界』とはあくまで術式の名称なので、この紙は端的に『カード』とだけ呼ばれている印象だな」
アクターとしては『世界結界』の優れている点を滔々と語りたいところだが、もちろんそこに興味のある観衆諸君の割合は少ないことだろう。そもそも専門的な話なので伝わるかも怪しい。
自分だけ楽しむ訳には行かないので、いかに分かりやすく伝わるかを考えながら説明を続ける。
「主に祓魔隊員の祭具の携帯や、界異や呪詛犯罪者の移送なんかに使われる技術だ。これの優れている点は、『結界を発生させる術式』ではなく、『既に発動しモノを収めた状態の結界』を刻印し持ち運べる点だ」
例えば、よくある火属性の術式を刻印したところで、その術式を発動させるには加護を流す必要がある。刻印という技術上至極当たり前だが、使用者の加護が足りなければ発動することはできず、もちろん使用者の加護との相性にも左右される。
そしてもう1つ、今回のように黒不浄を封印した結界術式があったとして、本来それを何かに刻印することはできない。何故ならその式は『結界を発生させる式』であり、決して発動済の結界を取り出したり収めたりするようなアイテムボックスのような代物ではないからだ。
だが、この2つの常識を『世界結界』は覆した。
火の術式や黒不浄といった対象を取らずにその周囲の空間ごと封印する世界結界では、まるで時間停止のアイテムボックスのように発動済の術式を封印することが可能となる。発動済の結界を解くだけなら必要な加護は最低限で済むし、何なら刻印した紙ごと破いてしまえば加護や霊的素養すら必要ない。
言いながらもう一枚を取り出して破れば、マッチ大の簡単な浄火の術式が現れ、すぐさまアクターが近付けた燭台に火が乗り移った。
家庭用の簡易結界セットに含まれている使い捨てのカードであるが、これも収められていた発動済の火を取り出しただけなので、アクター自身は何も消耗していない。
…………と、ここまでジェスチャーとイラストを交え説明してきたアクターだが、チラリとコメント欄を覗けばこんな様子。
『すまん普通の結界知らんから分からん』
『人も入れられるのか』
『モンス〇ーボールみたいだな』
『銀行の現金輸送にも使うらしいね』
なんとなくは伝わったようだが、黒不浄なんかと違い衆目に触れることは少ない技術の話だ。あまり発展も浸透もしていない技術だし、簡易結界セットも家庭用とはいえタダではないし安くもない。
だがまぁ、そこまでして知ってほしい技術という訳でもないので良いか、と妥協できそうな塩梅のコメント欄だ。
名伏なんかと違い、明確に生死に直結するかと言われると微妙ではある。この動画を見たから助かりました、なんてことはほぼ無いだろう。
「うむ。まぁこの際カードの仕組みはどうでも良くてだな、問題は、あまりに革新的すぎて、これを活用した悪事が増えたという話だ。「革新的な技術には悪用がつきもので〜」というやつだな。……これを使い、街中でいきなり界異を放つ輩が現れだしたのだ」
『一応企業秘密らしいんだけどね』
『祓カスほんま』
『まぁしゃーなし』
『悪知恵ばっかはたらくよな』
隊員を殺して奪って解析などいくらでもルートが思いつく以上なんとも言えないが、祓魔師や祓魔術に疎い世間では、スパイとか技術持ち出しとかそういう噂が当たり前になりつつある。もちろんそれに付随したキョータイ叩きも。
アクター自身がどう思うかはともかく、配信者である以上あまりこういった黒い話題には正直触れたくないのだが…………説明すると決めた以上、無意識にポップめに仕上がったページを映しながらサクサク進める。
「──以前より遙かに無関係な民間人が巻き込まれやすくなったことを受け、境界対策課が
要は問答無用で狙った他者だけを封印することと同義である。できなくはないが、テロが起きてからの対応としては果てしなく遅い。
現在進行系で被害が起きている最中に、テロリストを無力化して長ったらしい儀式を行って〜なんて待っていては一体死体がいくつ増えるか分かったものではないし、そういう技術を持った人間ばかり出動させてはいつ死なせてしまうかも分からず、それは組織としても許容できなかった。
「これは技術や倫理など様々な理由で長い間手付かずの案件だったが、ようやく技術が追いつき、考案され、20■■年に境界対策課が発表したのが『隊員とテロリストのタイマンに持ち込む結界』と、その結界内で行う用の『人命を賭さない儀式』だ」
またしてもパワポのページが切り替わる。
そこにはデカデカと、名前くらいなら誰もが知るあのカードゲームの商品ロゴが。ちゃんと©も付いている。
「その中核を担っているのが先程の『世界結界』であり、その儀式とはズバリ────『世界結界』の
バァァァァンと効果音が鳴る。「そこで世界結界に繋がるんですねぇ!」と言いたげである。心なしか、普段からよく見えないアクターの目元もキリッとしている。
『いや……そうはならんやろ……』
『うわぁ急にホビーアニメ脳になるな』
『まぁ…キョータイほどの方たちがそう言うのなら……』
「あ、これは余談だが、四号級以上の『世界結界』は闇市で億超えで取引されてるらしく、言い換えれば金さえあればいくらでも武力として扱えてしまうようだな!」
『ガチでカードで世界征服するのは禁止ッスよね』
『うわぁ現実側がホビアニ世界に擦り寄るな』
「呪詛犯罪者とのタイマン──つまり行使者本人も内部に入る縛りを設けてある程度格上にも通じやすくしている訳だな。それだけではなく、『囲まれたくない』という犯罪者心理を逆手に取り、それをタイマンへの同意として確実に結界へ取り込めるようにしているらしい。『
入りたくないと願おうが、実際は余程の実力差がない限り拒めないこのマヨヒガ結界。
別空間でタイマン、つまり自身を生贄に捧げるも等しい制約で得られる出力アップはそれだけ大きいのだ。
……企業秘密ほどでは無いが、ちゃっかり伏せられている秘密だったりする。祓魔術に精通していれば勘付けるだろうが、知ったところでどうしようもないことではある。あくまで無知な素人テロリストを嵌めるだけの罠である。
「大筋の解説はこんなところだ。以上、境界対策課公式チャンネル及び職場見学した際に頂いたパンフレットから引用し説明させていただいた」
パワポの終わりには引用元のURLと写真が添えられている。いちいち読み上げ紹介することはしないが、しばらく映しておく気だろうか。
『あんた職場見学行ったんか???』
『カモが自分から来てネギ貰って帰ってるやん』
ざわつくコメ欄。それも当然。
アクターはこれでも呪詛犯罪者。一応境界対策課に追われる身ではある。
その素顔も素性も流出していないので配信者活動中に凸られない限りは割と大丈夫なのだが、いかんせんライブ配信が主なアクターなので、凸ってきて
そんな彼が職場見学とか普通に自殺モノである。よく行こうと思ったな逆に。
まぁ、実際は境対内にもアクターファンがゴロゴロいるので、その人たちにならバレたところでスルーされるだろうが。
「──と、そんな感じで『世界結界』が孕む危険性と、『
パンフレットなどの画面はそのままに、配信画面の端に『コメント読み』と付け加える。まるで職場見学自体は微塵も悪いと思ってないくらいアッサリ流されて視聴者が無量空処されるが、直後にコメント読みと聞きワッと盛り上がる。
アクターがコメントを取り上げることは、珍しくはないがそう多くもない。拾ったとて全体の流れに言及することが主なので、特定のコメントを読み上げてもらえる機会はこういう解説シリーズの質問コーナーくらいである。
分かりやすく流れが爆速になったコメント欄へ目を向け、たまたま目に留まった質問を読み上げていく。
『アクター様はどうやってカード手に入れたの?』
「カード自体は結界や『世界結界』の術式を紙に刻印するだけなので、ある程度の技術があれば容易に作れるぞ。問題は無機物以外──生き物や界異、術式を封じた『世界結界』を作る方で、そちらは『世界結界』が完全トップシークレットな以上多少知識があろうと無理だ。故に俺のデッキにはそういったカードは入っていない」
『無認可で界異のカード使ったら捕まるもんな』
「……まぁ、そういう問題もあるからな」
『まるで今は捕まる理由が無いみたいに言うのやめろ』
「おいよせあまり言うんじゃない」
いつものやり取りを繰り広げながら回答を続ける。
「また、縁起使いなら正式な手順を踏んで界異をデッキに入れることもできるが、性質上祓魔師と界異のカードは相性が悪い。余程の信頼関係や有用性がない限りは、界異のカードを使うのは界異テロを起こすような者に限られるだろうな」
そう言いながら脳裏に浮かぶのは某呪詛犯罪者。
呪詛犯罪者は公的機関の用いる汎用祭具を手に入れづらいのでデッキも組みにくいはずなのだが、彼は逆に界異と界異サポートのカードのみでデッキを作り上げていた。広い呪詛犯罪者界を見渡しても、あそこまで異端なデッキは彼のみだろう。
さて、少し間を開けつつ次のコメントを見繕う。
『世界結界使うメリットって何なの?』
「ふむ、これは境界対策課の祓魔師のような正しい者達から見て、で良いのだよな?」
穢れに触れずに界異を輸送できるため長距離の輸送にも向いているし、呪詛犯罪者にバレずに輸送できるなら襲撃のリスクも遥かに少ない。が、裏を返せば祓魔師にバレずに街中までカードを持ってきて界異テロを起こせることにも触れてしまいかねないので、なんとなく避けて解説する。
さすがに犯罪を助長する発言はしたくない。したくないし、そんな意図が無くとも切り取られでっち上げられたら困る配信者事情である。なんと世知辛い。
「祓魔隊員にしてみれば、まずは装備の軽量化が1番大きいだろう。すぐ取り出せることも大事ではあるが、必須祭具である
祓魔隊員とて公務員。ありがちな「税金返せ」系のクレームの格好の的である為、制服を着ている以上、その振る舞いにも市民という監視の目が常につきまとっている。命を賭けて戦うので市役所なんかに比べれば世間からの風当たりはマシだと思うが、あまり楽をしすぎても色々言われてしまうのだ。
なんと世知辛い。
「黒不浄やカラビナはもちろんだが、極端なことを言えば歩行祭具などの強力かつ取り回しの難しい装備すら手ぶらで携帯しつつ有事に即召喚できるのも大変なメリットと言えるな」
もちろんこれは呪詛犯罪者目線でもそうなのだが、衆目に触れる機会が多いのはさすがに呪詛犯罪者より界異である。だからここで言う有事とはあくまで偶発的に遭遇した界異でぇ……という建前をしれっと付け加えるアクター。
なんかずっと世知辛いことやってるな……と虚ろな目になるのもやむなし。
ちなみに、コメント欄も若干察し始めてきたので、仮に変に切り取られて炎上したりしても彼ら彼女らが庇ってくれることであろう。
フォロワーの数は自分に向けられた銃口の数とはよく言ったものだが、アクターのように真摯に向き合っていれば身を守る盾の数と言っても良いのかもしれない。
「先ほどコメントでも言ってくれていたが、銀行への現金移送や、展覧会を開催するための美術品の移送など、強奪や襲撃などのリスクの高い配達業務を、一般人に紛れノーリスクで行うこともできる」
もちろんここには「存在は見過ごせないが諸事情で浄化も破壊もできない祭具・呪具」の類いの輸送なんかも含まれている。それら『災具』が集められている○県の龍紋堂への輸送任務は、歴戦の祓魔師を以てしても過酷なものである。
『世界結界』に収納すれば穢れも遮断されるため、不意の暴発を除き失敗のリスクが激減され、唯一残った外的要因すら、人員をケチらなければ余裕な任務の仲間入りだ。
…………まぁ、例によってアクターの口からは言わないが。
「また反対に、野球や音楽ライブなんかの人が多く集まる場所でのゲートでは、『世界結界』とその中身を透視する祭具が設置されていることが多く、利便性の陰に潜んだ悪用を許さないシステム作りが進められている。……この辺は警察や民間警備会社との合同だがな」
『Switch2もカードで配達すればよかったのに』
『Amazonにパクられた民もいますと』
さて、ここまでは一般人にも分かりやすいメリット。
次はちょっと難しいので、慎重に言葉を選ばねばならない。
なんだかずっと慎重かもな、と内心苦笑するアクター。『カード』だけ見ればカードゲームの道具だが、『世界結界』から説明を始めたばかりに、治安の悪い話題スレスレを駆けている気分だ。
質問自体は観衆から募ったものだが、もちろんこの解説枠をやると決めたのは自分なので、萎れかけた心に鞭を入れていく。
「そしてもう1つ無視できないものがある。祓魔隊員目線で装備の軽量化がメリットだと言ったが、諸君らは忘れていないかな? ……そう。界異の祓滅に用いる術式なんかも『世界結界』に収め取り出せる対象だ」
ワイプの隅ギリギリに置いていた、浄火を移した燭台をもう一度手前に持ってくる。そして先ほど千切った、浄火の術式が入っていたカードの残骸もヒラヒラとカメラに映りこませた。
「このカードから分かる通り、カードがあれば、素養の無い者でも他人の
『まあせやな』
『多分理解』
『物理極めたら魔法と両刀できるやん』
『っぱ手数か』
「いまいちピンと来ていない諸君には……そうだな、レベル10とかのピ○チュウがいきなり『りゅうせいぐん』や『はかいこうせん』を使ってきたらとてもヤバい。それが伝われば充分だろう」
『完璧に理解した』
『なるほどそれはヤバい』
『タケシ高速移動だ!』
「あくまで外付けのわざマシンではあるが、どんなカードを所持しているかは使うまで分からない。相手に有効な攻撃を、不意を突いて行える。弱い訳が無いな」
『弱いはずがありませんね、擦りまくっていきましょう』
『ケツがアッパー使ってきたらそりゃ嫌だわ』
超人アクターのス○ブラ配信、独特の衣装+レイピア使いということで剣術Miiを選択したのだが、一部観衆に刺さったらしくたまに変な盛り上がり方を見せる。
なんとなく察して疾風突きに変えた。
「──要約すれば、装備の軽量化と運搬コストの低減だな。そして戦闘で取れる選択肢と奇襲性能。これが主なメリットとなる。こんなところでいかがだろうか」
そんな調子でもう数個の疑問に回答したのち、映していた境対パンフレットを退けて新しいパワポを開く。
「次は『マヨヒガ結界』と『
よく考えたら、元々はいきなりTCBコラボする予定だったのだ。一応、対戦中にくどくない程度に説明を挟みながら実践していく予定だったが、『
コアな客向けの演劇などいくらでも出来る。真に良い舞台とは、老若男女問わず楽しめるものであるべきなのだから。
「まず、『マヨヒガ結界』に入った時点でほぼ全ての直接攻撃は無効化される。その代わりにカードで決着をつける訳だが、儀式が始まればお互いの加護や穢装は分割されて10のライフに換装される。儀式における相手の攻撃はライフが防いでくれるが、同時に、減りすぎると儀式終了後に弱体化してしまう。ゼロになれば界異に対する抵抗力を完全に失うことになる」
人間なら加護、界異なら穢装の全てを喪失するということは、極めて脆弱な状態で現世へ放り出されるということ。
狩衣を着ようと黒不浄の1本すら持てぬようになり、五号級の界異であろうとペグ銃の一撃で祓滅できる状態になってしまう。平たく言えば敗北=死に等しい。人死にが出ないと保障されているのはあくまで儀式の間だけである。
失われたそれらは時間経過で回復していくが、とはいえマトモに活動できるまでに1週間は掛かる。その間は当然術式も使えないし顕現も不安定なので、仮に逃したとて捜索網から逃れることは易くはない。
逆に祓魔隊員1人が戦えなくなっても(良い意味で)代わりがいくらでもいるのが組織のメリット。儀式中に駆けつけた他の隊員が包囲するので、無防備となった隊員を殺させることはまず無い。まさに最高の捕縛システムであると言える。
『実質デメリット踏み倒しの集団リンチ結界ね理解』
「…………………まぁ、」
何も言い返せないというか、ほぼ満点の理解度なのが何とも言えない。
肯定も否定もしないアクターだったが、その表情(というか態度?)を見ただいたいのリスナーが充分すぎるほどに察したことだろう。
今の日本において、祓魔師関連の話題だけなら環境庁のお偉方に次いで言葉を選ばなければならない影響力を持つ……かもしれないアクターである。「言葉を選ばないってこんなにも伝わりやすいんだなぁ」と感激で涙が出そうだ。
これでアクターが境対側の人間なら笑ってネタに出来たのだろうが……あまり罪を重ねたくないので、開きかけた口をそっと噤むしかなかった。
「……そういう訳で、現代ではテロの被害が大規模になる前に事前に解決することが容易になった。モンスターボックスを抱えた呪詛犯罪者ごと『マヨヒガ結界』に隔離できるのもとても便利だな」
とここで、ある質問コメントを見つける。
『それ、呪詛犯罪者が不利すぎるように聞こえるんだけど、逆に撲滅できない理由は何かあるの?』
「うむ、大きな声では言えないが、他の隊員が集まる前に速攻で勝利すれば撒いて逃げることは出来なくないだろう。そんなに実力のある呪詛犯罪者なら、結界外での捕縛にはリスクが高すぎるだろうからな」
以前配信に乱入された某不浄狩りが良い例である。上の下までの呪詛犯罪者をほぼ完封できる『マヨヒガ結界』と『
「そんなところだ。──さて、次に『
センター、レフト、ライトの3つのゾーンに隊員や界異、式神などを召喚してお互いを攻撃し合う形式のものだ。
相手センターが空いているなら相手プレイヤーに攻撃ができる。その代わり、自身のセンターが空いているなら、祭具や呪具などのアイテムカードを装備し、
それ以外にも術式カードや必殺技カードがある。『鉄形代』のようなアイテムとして装備する術式があれば、『百鬼夜行』のようにただの術式の域にない、大規模儀式級の術式もあるのだ。
戦い方は無限大で、だがこの辺もオモチャ版のカードゲームと変わりは無い。概ねそんな感じ。
「そして、普通のカードゲームと違う点として、『バディ』と『
言いながらアクターがカードを1枚取り出し、光らせる。
顕現したのは、BOOTHで絶賛販売中のミニアクター人形(¥3990)だ。お求めの方は超人アクターの に貼ってあるリンクから飛べます。
『あらかわいい』
『買ったよ〜』
『ハッシュタグ投稿したー』
デフォルメされたアクターが手の上に乗ったかと思えば──なんと、ただのぬいぐるみのはずのソレがひとりでに起き上がり、まるで挨拶をするようにカメラへ向かってお辞儀したではないか。
『!?!?』
『シャベッタァァァ!?』
『落ち着け喋ってはない』
「我輩の『バディ』の『めいあしすたんとアクターくん』だ。分類としては式神の一種だが、形代紙のような俺の分身に近い。
原寸大アクターくんがそう紹介し、それを受けたアクターくんが再度お辞儀をする。一応言うが販売されているアクター人形は動かないぞ。
「バディはその名の通り相棒となるカードのことだ。基本的には界異や式神だな。たまに俺のように人間をバディとしている者もいる。バディがファイトにもたらす恩恵は多いとは言えないが、契約を結ぶことで『バディスキル』という能力が授かれるぞ」
アクターくんが両手(指はないドラえもんハンド)をポンポンと叩けば、原寸大アクターの頭上から、くす玉を割ったかのような紙テープの雨が降り注いだ。
そして鳴り響くドンドンパフパフ。
「アクターくんのバディスキルは『SE』。ご覧の通りの、動画撮影お役立ちスキルだな」
『草』
『SE草』
『自分で自分の活動を楽にすな』
『これもうマッチポンプだろ』
『
降って湧いた……いや、湧いて降ってきた紙テープを帽子の上からどける原寸大アクター。つまみ上げるたびにヒョイッヒョイッと聞き馴染みのある音が鳴っている。
アクターの投稿速度とクオリティの両立の秘訣はこういうところにもあったという訳だ。後付けではなく現地でサウンドエフェクトが入っていたとは誰も思うまいて。
「諸君にとって相棒と言えば切り札のイメージがあるかもしれないが、召喚しやすい低号級の界異をバディにすれば序盤から活躍させやすいし、その辺も自由だろう。ファイターの性格が出るところだ。…………ちなみに、アクターくんもご覧の通りの軽量カードだな」
『アメコジキをバディにしてみたい』
『自力で捕まえるところからだぞ』
『俺……無事捕まえたらコイツとファイトするんだ……』
『捕まえられないフラグがすごい』
アメコジキニキのお墓をアクターくんが建てたところで、次の説明のために原寸大アクターがまた新しいカードを取り出す……ことはなく、代わりにアクター2人が退いて、10分ぶりくらいに画面にパワポが出てくる。
「次は
『固有術式みたいな?』
「むぅ、確かにある程度の祓魔術を修めた者からすればバディと並んで
強者……例えば某不浄狩りお兄さんなら、『カードを召喚出来なくなる代わりにアイテムを何枚でも装備できる』効果を持つ術式を用いて多刀流で戦うスタイルをとる。
先述したバフのようなオマケ術式もあれば、ファイトのルールを根本から変える術式もあるので、本当に千差万別といったところ。
ボカされてはいるがどう見ても某不浄狩りお兄さんの手配書をパワポに出しつつそう締める。
ちなみに、呪詛犯罪者のファイトの中でネットに出回っている量ランキングは圧倒的1位が有得流我である。かなり空けて2位が死火。
とにかく、ワールドに関する具体例はYou○ubeに転がっている他の人──班長クラスとかの対戦動画の方を見てね!(投げやり)
『今何か面倒になった気配を感じた』
『うわぁ急に変なものを受信するな』
「……さて」
おもむろにアクターが立ち上がる。肩に乗っていたので急に動かれて落ちかけるアクターくん。
パワポがお役御免して、テロップとコメント欄も画面から消える。カメラを自宅撮影用の定点カメラからスマホに切り替えて、改めてアクターの顔(まぁ暗くてよく見えないが……)が画面の中心に映った。
「……お、よし。映ってるな。では移動するぞ」
『は?』
『移動?』
『野外ロケ?』
混乱する視聴者をよそに、膝を曲げ身を屈めるアクター。その肩にアクターくんが乗り直し、今度はしっかと捕まる。
「ライブ配信だが、まあいいだろう。────せーのっ!」
部屋の中でとうっと跳ぶアクター。合わせて上へとブレるカメラ。そうしてブレたピントがまた下に振れて正面を向けば────某ショッピングモール内に入っているカードショップの入口でスタっと着地するアクターとアクターくん。
「っと。到着だ。次はこちらのカードショップで実際に対戦させて頂く」
『ちょちょちょちょっと待て』
『テレビのその編集生身でやるんか??』
『それ本当にSEの範疇か?なぁ』
『平然とテレポートするな』
「ハハハ、もう隠すことは無いかと思ってな。それと、あくまで動画の
要は移動や開封など情報量の少ない過程だけすっ飛ばす編集。当然移動先は配信開始前から決めてあるし、もちろん店にアポも取ってある。
空間系、特に
「失礼する」
ドアを押して店内に入る。お待ちしてましたと店員が出迎え、アクターが改めて自己紹介と撮影の旨を説明した。
アクターファンであるらしく少し声が上擦った店員に案内される。カメラは回っているが床を向いていて、あくまで貸し切りではないらしい。
『あ、ここやっぱ○○店か』
あまり内装が映らないようにはなっているが、分かる者にはどこの店かすぐ分かるようだ。まぁアクターとてプライバシー配慮でカメラを下に向けているだけだし隠している訳では無いのでセーフ。
何も言わない限り、リア凸してくるマナーの悪い観衆もいないだろうと信じる。遠巻きには見に来るだろうが。
『アクターの配信始まるからって帰っちゃったんだけど、そういえば「配信者が配信しに来るから配慮ヨロ」みたいに書いてあったわ』
『はえー』
『帰っちゃったか、ドンマイ』
「まぁそういうことだ。どうせ解説するなら実践を見るのが一番だと思ってな。……分かってはいると思うが、ここからは有志の方々に参加してもらう。各々コメントの仕方はよく考えるように」
『『『はーい』』』
◇
────と、なんだかんだ対戦会が始まったは良いのだが。
「えぇと……本当に誰か居ないのか?」
現在アクターは対戦スペースの一角に座っている。カメラは相変わらず斜め下を向いているが、彼が困惑げに辺りを見渡している理由は、そんな客たちの顔を見なくても分かる。
……シンプルに緊張して誰も参加できないのだ。
それはそうだろう。グレーな立ち位置であるとはいえ、アクターは超の付く人気配信者。これが完全な合法活動者なら、22時くらいの酒を飲むトーク番組あたりで地上波デビューしていてもおかしくない規模だ。
ましてやここはカードショップ。そんな人気者に絡んで行き、あまつさえ配信に載りたがるような勇気のある者は居なかった。
もちろん皆興味はあるのだろうが……簡単に言えばファーストペンギンを待っている状態である。
「君は……そうか、すまない。では君は……ああ、大丈夫だ」
通りかかる人物に声をかけてみるものの、そそくさと逃げられること5回目。
アクターとて謙虚だが、それはそれとして自身の数字の伸び方は把握しているつもりだ。対戦待ちの行列が出来ているとまではいかずとも、そもそも対戦相手を得ることに苦労するとは思ってもみなかったのだった。
「ふぅ、弱ったな……」
『バカクソ困ってて草』
『アクターくんが頭撫でて慰めてて草』
『アクターの配信がこんなに膠着してるの初めて見た』
以前あった迷惑リスナーのリア凸で配信がグダった回や、境界異常の発生現場に居合わせてしまい急遽祓滅に参加した回も、動揺こそしつつもしっかり対処し、会話のネタにまでして上手く調理したアクター。だが今回はアクターの努力でどうにかなるものでもない。あくまで相手の意思が大事なので、割と真面目に困っているアクターなのだった。
ちなみに、唯一参加するパッションのあった店員さんが見かねて参加表明をしたのだが、突然ヌッと現れた強面店長(アクターの友人)が勤務中なのでーと却下しアイアンクローで裏へと連れ去った。今頃血涙を流しながら補充作業なんかをしてるんじゃなかろうか。
『¥5000 アクター様が困ってるし対戦もしたいから私行きます。待っててアクター様』
『草』
『スパチャ草』
『俺も行くかぁ』
『ほなワイも』
「こら諸君、無理して来なくていいんだぞ」
口ではそう言うが内心結構助かったアクターである。配信もパワポ解説タイム含め30分経過し、そろそろ人が配信から離れだす頃合い。
なんか結果的にリア凸歓迎配信みたいになってしまったが、優しい有志のおかげでこのまま配信終了にはならなさそうだ。…………ただ、ニキネキが到着するまで5分10分の手隙は避けられなさそうだ。
「もう1人くらい話しかけてみるか」
ぐるっともう一度店内を見回す。パチっと目が合った客たちに軒並み目を逸らされる中で後ろまで首を巡らせば、さっきは空いていたはずの後ろのテーブルにいつの間にか人が座っていた。
多分男性。成人もしていそうだが…………不思議とそれ以外の情報が目から入ってこない。
(話しかけていいものか……)
アクターもまたその違和感を感じ、更に『違和感を感じていること』にも気付けないほどの認識阻害。明らかにただものでは無いのだが、認識阻害されていることにすら気付けないアクターが気になったのはそこではなく、彼がテーブルに数十枚のカードを広げて吟味しているところだったからだ。十中八九デッキの調整中だろう。
(うむ。まぁ、断られたら大人しく引けば良いか)
ガラが悪そうには見えないから絡んでも大丈夫だろうとアクターは判断した。まぁ顔がよく分からないが。
それに、パッと見店内には学生が多く、変にワーキャー騒がれるよりかは大人の方が良いかな、みたいな考えも少しある。まぁ本当に成人してるかもよく分からないが。
謎にセミを捕まえる小学生のような心境でそっと席を立った。もちろんカメラは置いたままだ。
「失礼、そこの御仁、少し良いだろうか」
手を伸ばしたら届くか届かないかの距離で声をかけた。片膝をついて見上げ、見下ろさないようにする。
処世術。
問われた男がカードを捲る手を止めた。さっきから色々声を出していたつもりのアクターだったが、かなり没頭していたのか、今気付いたかのような軽い驚きの気配と共に顔を上げる。
「ん、なんダ」
低い声。やはり男性ではあったらしい。
相変わらず年齢はよく分からないが、落ち着いた声なので精神年齢は高そう(偏見)。
聴く人が聴けば1発で分かる日本語の辿々しさだったその喋り方は、しかし意味自体はしっかり通るので視聴者含め誰も疑問を抱けない。
「我輩、超人アクターchという名で配信活動を(中略)、良ければ一戦お願い「おお、ヨいぞ」したく……って、え? 良いんですか!?」
配信がどうたら辺りは怪訝顔の男だったが、話の本題がファイトのお誘いと気付いた途端食い気味に了承する。思わず素のリアクションが出てしまったアクターだが、遅れて意味を飲み込み一転、満面の喜色を浮かべた。
「要はファイトすればいいのダろう? それがシ、ちょうどコレを試したかったところダ」
コレ、と言いながら持ち上げられた束は、今しがた調整していたデッキだ。何かしているとは思っていたが、既に完成して1人回しを始めていたところらしい。
話が早い人だと理解したアクター、早いところファイトしようぜ!と誘いにかかる。あともう一押しだ。
「カメラを回してのファイトなのだが良いだろうか? もちろん謝礼はさせていただく。貴方もデッキを試せて丁度いいだろう? 足りないカードがあるならそれで補うと良い」
「ん? あア? ……ああ」
歯切れの悪すぎる返答であった、が、理解不能を全身で訴えながらも首を縦に振る。あまりにもよく伝わってなさすぎて「これ傍から見たら騙してるように見えないか…?」とアクターが思うのもやむなし。
ただ別に、アクターが述べたことに対して悪い気はしていないようでもあるようだ。
「とにかく、座ってよイぞ」
対面の椅子を勧められる。
配信の出演をお願いしているのだからアクターが
「有難う。だが大丈夫です。──こっちでやりましょう」
「…………こッち?」
店の壁側を手で示すアクター。もちろん壁……の向こうでやるということである。
「なんダ? 外?」
アクターが店長に目配せする。レジ付近にいた店長が頷き、鍵を持って移動する。席に置きっぱなしだった手持ちカメラを回収して店長に渡し、相変わらずカメラは下に向けたままに2人を先導する。どうやら店の裏口へ向かうようだ。
「こ、レ、は…………なンだ…………?」
何の為か分厚い扉を抜ければ、そこには開けた空間があった。
人の立つ台が向かい合って2つ、そしてその間に更に広い台が3つずつ計6つ配置されている。
ファイトに使用するファイタースペースと、モンスターを召喚するモンスターゾーン。──カードゲームの公式プレイマットそのままなステージ。
「おや、知らなかったのか。だが、テレビとかで見たことはあるだろう?」
そこにはテレビ中継などで見る境対の『マヨヒガ結界』に酷似した、原寸大のファイトスペースが広がっていた。外壁はガラスでグルッと囲われており、ショッピングモールに来ている一般客が雑多にこちらを見ていた。遠いのでまだアクターとはバレてないぽいが……時間の問題だろう。
「ここは、使用するカードを機械が読み取って3Dモデルとして投影してくれる、さながら
『貸し切り!?』
『そんなこと出来んのか』
『撮影許可だけかと思ったらそっちもかよ』
ここの店長が友人だから実現したことではあるが、ガラス張りのせいで色々映り込んでしまうためショッピングモール側にも撮影許可を取らなきゃいけないハメに。まぁどこで撮影しようがこの問題は付きものなのでどっちでも変わらないのだが。
『ごめん何回も言うようで悪いんだけど、さっき配信中止のお知らせ出たんだったよね??そっからパワポ作成と許可取りとしたんだよね????』
『【朗報】ショッピングモールの偉い人、アクター視聴者』
なおアクターは今画面を見れていないのでコメントはスルーされた模様。
「カード、出セるヤツか?」
「そうだとも。貴方のデッキを実際に出せるやつだ」
「ほウ…………ほウ! それはヨい。それがシ、腕が鳴ル」
「そうか、初めて来たのか。それなら目一杯楽しんでくれると嬉しい。────いや、すまない。予告していたからか少々観衆が多いな……」
吹き抜けとなっているファイトスペースを男と共にグルッと見回して視聴者と一緒に説明しようとしたところ、上の階の方に、通りすがりの観戦客以外に一般通過アクターファンがチラホラ集まっているのが見えた。見えてしまった。
『こっち見て』のうちわくらいなら可愛いもので、普通にアクターコスだか概念コーデだかしている輩がいるのは推される側として不甲斐ないと言わざるを得ないが。
他所様に迷惑かけんなって言ってんだろうがと。赤だから目立つんですわ。
「ニンゲン、人気者か?」
「多少は。不愉快ではないだろうか」
「問題ナい。(周りが自分のことを)気にシなイぞ」
「そうか、それは良かった」
男の発言の真の意味にアクターが気付くことは無いものの、実際、男としてもマジのマジで話に付いて行けてない訳ではない。
……のだが、ただそもそも配信者というものをよく分かっていないのでテレビの撮影だと勘違いしてしまっていた。何なら今はアクターが人気者らしいと知って
「さぁ、位置につこうではないか」
そう言ってアクターが向かって奥のファイタースペースへと歩き出す。促された男は、店長に案内されて手前のファイタースペースへの階段へ向かった。
このファイトスペースはマヨヒガと違い、両者の高さが対等である。代わりにと言ってはなんだが、儀式術式によって展開された空間ではないので直接戦闘を禁じる結界も無い。まぁ別に大した問題ではないが。
それに、ガラスの向こうから誰でも見れる&その気になればいつでも退出できるのはシュミレーターならではである。デスゲーム(デス抜き)状態の『マヨヒガ結界』には降参も無いので、本当に遊びの為の空間である。
『いいなーマジ羨ましい、1回やってみたい』
『飛び込み参加ほぼ無理なくらいには人気だもんな、あとちょっと恥ずかしいし』
『庭にマイシュミレーターを建てるまで死ねない』
『不老不死になれたじゃん良かったね』
それぞれ位置についたアクターと男が向かい合う。カメラを持ったままの店長が一度店内に戻り、関係者用通路を通ってレフェリーの審判台みたいなところへ腰掛け、カメラを固定した。これでファイトを余すことなく上から撮影できる。
配信画面でアクターと男がよく見えて撮影準備はバッチリ。ちゃんと男は顔が映らず、アクターの顔がよく映る角度にしてあるぞ。
「そういえば貴方の名を聞いて居なかった。なんとお呼びすれば良いかな?」
アクターが反対側から話しかける。防音はしっかりしているので、ショッピングモールの喧騒の中でも問題なく声は通った。
問われた男は少し考える。自分が自己紹介をしていないことを失念していた。
どうせ何も思われないのでフルネームを言おうと口を開きかけ、アクターが「なんとお呼びすれば良いか」と聞いたことを思い出す。
「──そうダな、エンヴァだ。エンヴァと呼ぶとヨい」
「了解した、エンヴァ君。この度は快くお受けしてくださり感謝する」
少し考え込んだ間と、エンヴァという明らかなカタカナネーム。アクターと視聴者たちはハンドルネームなんだろうと思ったに違いない。まぁそう思う根拠が無くとも、彼の
「
店長が渡していた専用のデッキケースに、エンヴァがデッキを装填する。こうすることでシュミレーターにデッキが登録され、仮想空間にカードたちが投影されるようになるのだ。
説明も済ませ準備も万端。オーディエンスたちが始まる時を今か今かと待っているのがアクターとエンヴァにもよく伝わる。
カードショップにテレポートし10分。ようやく一戦目が始まる。
「では始めようか。……
「ルミ、ナイズ……? なんダ、それハ?」
……と思ったが、普通に出鼻を挫かれる。
ルミナイズを知らないらしいエンヴァ。ズコーと視聴者がコケたような気配がする。
「それも知らなかったのか。まぁ知らなくても仕方ない……か?」
ルミナイズとはTCBにおける儀式術式の展開及び、ファイトフィールドにおけるシュミレーター起動の合図である。ついでにデッキ名を名乗るタイム。
お察しの通りカッコつけタイムでもあるので、ファイトフィールドを使うカードゲーマーや『マヨヒガ結界』を使う境対職員的には常識なのだが…………確かに机で普通のカードゲームとして遊ぶ分には必要ないので、なんかアクターがただの中二病みたいになってしまった。可哀想に。
「ん゙ん゙ん゙!(咳払い) まあ、今考えるのも難しいことだろう。我輩がやるから、今後機会があったら考えてみてくれ。気合いを入れて名乗ればよく映えるぞ」
「分かっタ」
懐からマイコアガジェットを取り出し握り込む。光り輝いたソレを、某心臓を捧げる兵団のように左胸にトンと当てれば、そこに大きめのブローチが現れる。キラリと光ったソレは白い羽根の意匠で、よく見るとアクターの帽子の羽根飾りとお揃いだ。
そのまま綺麗な一礼を決め、全ての観衆へ向け声を張り上げる。
「
──
開演を知らせるブザー、せり上がるステージ。アクターの立つファイタースペースがさながら舞台へと変貌した。必然エンヴァよりアクターの位置が高くなる。
ブローチから飛び出したカード状の光は8枚。6枚が手札としてアクターの身体の前に展開され、2枚が初期
カードが光になって浮いているのを見てエンヴァが「おぉ」と感嘆の息を漏らす。魔法や術式での演出としては簡素なものだが、これを加護やら色々抜きにキカイで行っているのだから大したものだ、と。
「我輩の
『うおおアクターのルミナイズ!』
『相変わらずシャレてる』
『いやお前も固有
『「一般人なら無難な効果だな」(なお自分)』
『逸般人なんだよなぁ』
ステージのサイドがひな壇に変形し、音響機械や照明などの機器が登場し完成する。これでアクターのファイトスペースは演劇舞台そのものだ。どこで何をしようが彼を1番に輝かせる最高の舞台。
バディとして再び現れたアクターくんが原寸大アクターの肩に乗ってお辞儀をする。彼もまたダブル主演のひとりである。
「…………なるホど」
それらを見届けてルミナイズというものを理解したエンヴァ。ステージの変貌っぷりと観衆の盛り上がりを見て羨ましいなと思い出したものの、即興で考えても良いものはできないと感じ、何も言わず普通にデッキをルミナイズする。
挑戦することも大事だが、こういうところでは変にチョケないことも大事だと彼は既に学んでいた。
「──
バディは『
エンヴァのコアガジェットはデフォルト品なので、浮遊する緑色のオーブという簡素な変身となる。アクター同様に手札とゲージを展開し、バディと
「……ほう。穢耳デッキとは素晴らしいセンスだ」
しかし界異の性質としてはイメージ通りの植物性(!?)であり、聞くところによると、人間やその他動物のことを肉脂とかボロカス言っているらしい。もっとも、人間側からも「もっと脳に太陽光当てたら?笑」とかいうテクニカル悪口をたまに聞くのであまり反論はできない。
どっちが先に言い出したのかは知らない。
話を戻して
無難とは言うが、実質的な種族縛り以外にデメリットが無く、元々種族内シナジーのあるデッキなら無理なくメリットだけを受けられるので弱いとも言えない。ソシャゲに重課金しても必ず強いとは言いきれないのと似たような感じである。
エンヴァの背後からニョキニョキと一本の大樹が芽吹く。それこそが『森』の象徴にして、彼のバディの『ディアエヴロン』だ。
もちろんただの大樹ではなく、幹には穢耳の顔のような模様がチラホラ見える。ちょっとしたホラーだが、幸運にも葉っぱが邪魔して視聴者には見えない。
「固有
「……そうだな。我輩、そこそこ強いと自負している」
自身の背後の『森』と、アクターの舞台を見比べながらエンヴァが問うた。それにアクターが肯定する。
本来市販されているカードゲームでは割とあってはならないのだが、TCBは祓魔術や加護の扱いの上手さによっては自分だけのオリジナルカードを作ることができるアクロバティックレギュレーションである。アクターのバディであるアクターくんや、
「無難=弱くはない、固有=強くはないのだが、初見の適切な対処を迫ることもあり、どうしたって有利になることは間違いない。……まぁ、我輩のはそんな理不尽なものではないので安心してくれたまえ」
『いや全然安心できる要素は無いんだけれども』
『自分でそこそこ強いって言ったやんけ』
『それ聞いて安心できるのはもう逆にエアプだろ』
アクターのことを知らない人と話すのが久しぶりなので色々質問された結果、人気者なのも強いのも認めた自己肯定感高め男になってしまっている。視聴者的にちょっとおもろい。
あと今更ながら補足するが、エンヴァの「ニンゲン」呼びは普通にスルーされている。
「さて、先攻後攻は如何しようか」
「じゃア先攻を貰おう。手札がヨい」
「ははは、良いとも」
エンヴァの先攻。先攻はドロー無しのチャージ&ドロー。
「光のカード、楽シいな」
「そうだろうそうだろう」
触ろうと思えば触れるし、逆に触るつもりがないときは身振りに干渉せずすり抜ける。いやはや本当にすごい。紙とはまた別の没入感があった。
「センターに
「ふむ、やはり引いているか」
手札からカードを1枚選び、正面のスペース向けて掲げる。連動するように、シャキーンと音鳴らしながら穢耳の低級種が召喚された。
「本当に出テきた」
感心しているエンヴァにアクターが頷いていると、続けざまにカードが行使される。
「もう1体の『低級種』をライトにコール。ソして『太陽の恵み』でデッキからカードを手札ニ加える」
『太陽の恵み』は進化可能な植物系のカードをサーチしゲージ+2する汎用術式である。ストレージに1枚10円であるようなやつ。
加えるカードを吟味するべくデッキを捲るエンヴァ。
そして進化という言葉からお察しの通り、エンヴァの使う穢耳デッキとは数ターンかけて『低級種』を『上級種』へと育成する戦法を取るテーマである。
デッキに何枚でも入れられる『低級種』、ちょっとした効果しかない『中級種』を経て、別のテーマならフィニッシャー2体分の性能をした『上級種』を出すデッキである。上手く行けば2体以上並ぶのもつよつよポイントだ。
いわゆる「ハマれば強い」タイプのデッキであるが、『上級種』の進化までに引き運を要求されたり、回す側も一筋縄ではいかないかなり難儀なテーマとも言える。
「エンヴァ殿は穢耳デッキをどれくらい使っておられるのだ?」
「ずっと。最初にこれ使イたいとなって、半年くらイ」
「ずっと穢耳に向き合っておられるのだな! 素晴らしい!」
実のところエンヴァは「自身が
エンヴァはサーチ先を探しながら話しているため、そんな感じでちょっとなぁなぁに返す。反対にアクターは、初めて生で使い手を見たので少し興奮気味である。
アクターは穢耳にどんなカードがあるのかあまり知らない。理由としては「シンプルに環境に存在しない」&「難しいと評判なので手を出す気が無い」というのがあるのだが、難しいというのにはいくつか理由がある。
「各種『上級種』の固有効果は独自性が強い。メタや初見殺しに特化していてハマれば強いが、サーチしてしまうと相手に持っていることを悟られてしまい対処の猶予を与えてしまう。また低級種も脆弱で破壊されやすく、ターンを跨いで生存させられなければ進化もままならない非常に
『うーんこれは変態デッキ』
『実質育成ゲームだからな。“た○ごっちを親に預けた上で最後まで育てれるか”っていう運ゲー』
『ハマれば強い(いつもの)』
『対処法が特定のメタ行動じゃなくて“低級種全滅させればいい”っていう、殴れるデッキ全部に不利取られる悲しいデッキ』
『ドMデッキじゃん』
「使い手によって戦法が千差万別で、先人を参考にしづらいのも手を出しづらい理由の1つでな……なので彼がどう戦うのか非常に見物だな」
突発的なただのシングル戦の割に結構なハードルの上がりようだが、実際世間では穢耳デッキはそういう扱いである。わざわざ好きで使ってるとなれば、アクターはじめ視聴者たちのハードルが上がるのもやむなしである。
……と、ようやくお目当てのカードを見つけたらしい。初シュミレーターでモタモタしてしまうのもまたやむなしだ。
「『中級種 ライ』、手札に加えル」
『中級種』からは簡単な名前が付く。所詮能力は大したことないが、個体名を持つくらいには成長したのだとフレーバーテキストからも分かるようになっている。
「『低級種』で攻撃してターンエンド」
指でピッとアクターを指差してターン終了を宣言するが、もちろん宣言しただけでハイ次と進む訳ではない。
指示された穢耳がギャギャと鳴く。オーディエンスたちは怖いとかリアルとか思っているのだろうが、エンヴァから見れば文字通り赤子同然なその叫び。
見た目も相まってオランウータンのような半四足歩行で駆けていく。大ジャンプしてアクター側のセンターへ、もうひとジャンプしてアクターの眼前へと躍り出る。
「さぁ来い。俺はこのステージ上から逃げはしない!」
アクターの立つステージに上がる穢耳。暴走状態ではないが知能は低いため、さすがにアクターの演劇ロールプレイに付き合うことをしない。
ノンストップで吶喊。芸のない突進かと思いきや、走りながら振り上げた右腕が突如として鞭のようにしなやかに変貌する。一瞬頬をヒクつかせたアクターの胸へ異形となった腕を叩きつけた。
「GYAGYAGYA!」
「う、ぐっ……」
対すアクターは仁王立ちのノーガードにてそれを受け入れ、さすがの名俳優も数歩よろめく。しかし膝を突くこともステージの中央からズレることもなく、まるでよろめいたことさえステップの一部かのようにしっかり耐えてみせた。
ダメージは1。鞭で打たれると聞けば下手な祓魔術を食らうより痛そうに聞こえるが、それはあくまで現実の話。ファイト上ではどれだけ痛そうでもダメージ1だ。逆に言えばデコピンだろうが10回受ければ敗北するのでファイトフィールド側の演出の問題。
実際アクターにも痛覚は無いのだが、一応当たり判定はあるので攻撃される際はよく踏ん張るべきである。
そういう意味では、まるで本物の鞭にぶたれたかのようによろめいて見えたのはアクターの演技力の賜物だろう。さすがは名俳優だ。
「しっかり攻撃もスるのか、すマナい」
「なぁに問題ない。……それよりも自分の心配をするのだな!」
特に傷はないがシャツの胸元をパタと払い、大仰にマントを翻して、気持ちカメラへ向けて高らかに宣言する。
「我輩のターン!」
お借りしたもの
Apilman さん
・超人アクターch
・穢耳
・エンヴァ(エンヴァジェリク)
某尊厳をブレイクする代表取締役
・某呪詛犯罪者×2
フューチャーカード バディファイト さん
・カードゲーム部分根幹
続きは書け次第。
感想等々お待ちしています!