PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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五月
Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅠ


 ベルベットルーム──劇場にある青いボックス席。

 

 青いタロットがダイアナの本に吸い込まれていく。

「おめでとうございます。あなたは『法王』の絆を手に入れました」

 くるりと回転させると冠を被り指揮杖を持った指揮者が、跪く人々を導いていると思わせる絵柄が見えた。

「悪漢に立ち向かった事により得た絆ですね」

 真珠のイヤリングを輝かせ微笑むダイアナ。

「人間関係も揺らぎを感じさせます」

 法王のタロットカードが本に吸い込まれると、ダイアナは言う。

「鬼が出るか仏が出るか、あなた様の未来に祝福あれ───」

 

 

二〇三〇年 五月十日

 

 芥川邸宅前。

(でかい!)

 山田士狼(やまだしろう)はまたもや、眼の前にあるものに圧倒される。

 それは瀧慈宗(たきちかむねも)同じだった。

 和造りの大きな邸宅で、庭も広く、一般的な自宅というよりもちょっとした旅館のような風貌の家だった。

「二人ともビビってる? 芥川んち、ひい爺ちゃんが地主だったみたいで金持ちなんだよ」

 銀イヤリングを揺らしニタリと生意気そうな笑みを浮かべるは近衛由成(このえよしなり)

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)の幼馴染なのか、威風堂々と佇んでいた。

 いつもだとびっくりしそうなのに。

 

「父さんから聞いていたけど、まさか芥川さんの家だったなんて⋯⋯」

 スクエアの眼鏡をくいっとあげて、右目下の泣きほくろがある切れ長は予想外だと語りかけてきそうだった。

「庶民のオレらからすりゃあ、芥川は雲の上よ」

 由成は躊躇なくドアベルを鳴らす。

「どうして知り合ったんだ?」

 士狼は真顔で疑問をぶつけてきた。

「昔、ゴム飛行機で遊んでたらここの庭に落ちちゃって、そっからだよ」

 二人の馴れ初めを語ると芥川邸ドアが開かれた。

「あら? 由成君?」

 出てきたのは割烹着姿の妙齢の女性だった。

「どーもッス、早苗さん。勉強会にお呼ばれしましたー!」

 玄関がテレビで見た芸能人の家だと士狼は、別世界に来たみたいだとくらりと目をくらませる。

 甘い香りもしてくるのはなんだろうと、士狼は疑問に思っていると、瀧がお辞儀をした。

 

「どうもおじゃまします、同じクラスメイトの瀧慈宗です。芥川さんのお母さんですか?」

 なんかもう脳の処理が追いつかないとぼうっとしていたら、腰を何かに突かれて我に返った。

「山田くん?」

 現実に帰ってきて慌てて挨拶する。

「私はお手伝いさんよ」

「おて⋯⋯!?」

 お手伝いさんがいるとか完全に創作の世界じゃないかと、士狼は雷に打たれたような衝撃だった。

「⋯⋯」

 珍しく瀧と近衛の反応が一緒であった。

「山田。大げさだな」

 近衛がこちらに向いながら冷静に突っ込む。

「緊張しなくていいんだぞ」

 ぽんっと肩を叩かれるとタレ目の視線がこちらを向く。

「幸恵ちゃんもお友達が増えて嬉しいわ」

 おかしそうに早苗さんに笑われた為、照れ臭そうに俯く士狼。

視界は玄関の床になる。

「部屋に案内しますね」

 早苗さんは笑顔で迎い入れ、甘い香りに包まれながら靴を脱いだ。

 

 

 廊下を歩きながらの出来事について綴る。

 近衛が第二の自宅のようにくつろいでおり、なんのおかし作っているのと早苗さんに気さくに話しかける。

瀧は表情はいつもの冷静さは保っているが、大正時代から続く和洋折衷の屋敷造りに興味深いのかきょろきょろと見渡している。

そんな二人の様子を最終列で士狼は人間観察をしながら、内心思った。

(⋯⋯面白いな)

 

 幸恵と描かれたドアプレートを下げたドアまで案内されると、早苗さんは言った。

「それじゃあ私は台所で」

 近衛は素直に返事をし、瀧は分かりましたと返し、士狼はペコリと会釈をした。

「楽しみだな、早苗さんのお菓子」

 機嫌が良いのが伝わってくる近衛の態度を眺めていると、瀧は口を開いた。

「芥川さんと早苗さんは、どういう関係なんだ?」

「幸恵の母ちゃん代わりみたいなモン、芥川んちが作ったコンサートホールの運営会社やってて、顔が見られるのはレアなんだよ」

 近衛の答えを聞きながら瀧はドアノブを握る。

「多忙なんだな、芥川さんのお母さんは」

「因みに父ちゃんも不動産屋の社長をやってて、海外関係で忙しい」

 余談ですがとばかりに聞かれていない情報を明かす、近衛。

「僕とは正反対だ」

 扉を開けると近衛は言った。

「なるほどね」

 そう近衛は口を閉ざすと、悪巧みをひらめいたような表情を作ったのを、士狼は見逃さなかった。

 

「なあ今度それを確かめに、瀧んち行っていい?」

 近衛は後頭部で腕を組んで、軽口を叩くと瀧のツッコミが炸裂した。

「なんでそうなる!?」

「冗談だよ。冗談、ただのボケだよ」

 瀧は呆れている最中、士狼は早く入らないのかなと思って二人を眺めていると、瀧はそれに応えるようにドアを開けた。

 「わーお、女子の自室へGOなのに、躊躇なしかよお前は⋯⋯」

「何を言ってるんだ?」

 また近衛と瀧のショートコントを士狼は、面白いなと蚊帳の外で眺めていたら。

「山田もさー女子の部屋ってときめかねえの」

 まさか、話を振られてきた。

「考えた事が無かった」

 答えは簡単、率直。

「しょっぱいな、うん。実にしょっぱい」

 近衛は納得されたような態度を取ると、駅前広場で案内された感想を思い出した。

「ちょっと男子達、いつまでドア前で喋ってるの」

 芥川のツッコミが聞こえてくると、三人は誘われるように入っていった。

 

 芥川の部屋は、キャラクターもののぬいぐるみがたくさんあり、芥川が好きそうなものが詰まった部屋だと士狼は感じた。

(かなめ)ちゃん久しぶりー、元気してるー?」

 芥川家に入り慣れているであろう、近衛の第一声で士狼が視線を動かすと、士狼は猫目を見開いた。

「!」

 そう瀧のシャドウがいた劇場帰りの時に芥川幸恵と一緒にいた、顔つきがそっくりな女子であった。

「うん。元気だよ、あれ? そっちの二人は前会ったよね」

 その言葉に近衛が絡んできた。

「まじか知り合ってたの、二人とも」

 瀧はあの時疲弊していたので、怪訝な表情を作って首を傾げていた。

「あなたが旧校舎から眼鏡の人を担いで出てきたから、よく覚えているよ」

 ふわりと笑う要ちゃんと呼ばれた女子に微笑まれると、佐藤京子と似たタイプだと士狼は思った。

「はあーなるほど、旧校舎絡みねえ」

 近衛は気だるい表情を作って答えると、表情筋がまた軽やかに戻った。

 

「要ちゃん? 要ちゃん? この綺麗な女子って?」

 前髪は重くおろしてはいるが、芥川幸恵と同じ髪型の要とは真逆の黒髪をハーフで編み込んで後ろにまとめた髪型が特徴。

 ぱっちりとした褐色のどんぐり目は透明感のある少女を演出していた。

 転校してきた士狼の事を可愛い女子だと期待し、近寄った男は見逃す筈は無かった。

「紹介するね」

 要が仕切りだすと、芥川幸恵と同じ大きなツリ目をこちらに向けてくる。

「私は2年A組の芥川要。ゆきねえとは双子の妹だよ」

 要には清涼感、三人の間で空気が浄化されていると士狼は感じた。

 柔らかかい雰囲気に当てられて、瀧はどこかたじろいでいる風にも見える。

「私は同じクラスの三善明美(みよしあけみ)。よろしくね」

 おっとりはしているが、幸恵とはまた違った何かを持っていそうな女子だなと士狼は思いつつ、ふと瀧を見た。

「⋯⋯お似合い?」

 瀧は首を強く振って、視線を向けられると瀧は顔をしかめてきた。

「君も、たまによく分からない事を言うよな」

「そう? お前と似てたとは思ったんだけ⋯⋯」

 どなと続けようとしたら、遮る形で近衛が喋りだす。

「三善って、うちのクラスの男子が可愛いって噂してた例の女子だな」

 キリッと真面目な表情で近衛は話すと、同じ気持ちだったのか瀧と士狼は顔を合わせた。

「そうなの?」

 士狼は問うと近衛は目を伏せて、じとりとこちらを見てきた。

「もしかしてお前らって、他の連中と絡みない感じ?」

 

 

 こちら側の自己紹介が終わったところで、六人は勉強会をしだした。

 仕切りは瀧と幸恵。

 近衛は居眠りした部分だけ教えてと、ノートを写そうと三善に頼んだり、賑やかに過ごしていた。

 それを見た士狼は静かに微笑み会話を楽しんでいた。

「休憩にどうかしら」

 早苗さんが部屋に入り込むと、先程から漂ってい甘い香りの正体が運ばれる。

「すげえ」

 第一声は近衛。

 その正体は瑞々しく大きなマスカットをふんだんに使われたパイと、紅茶が運ばれてきた。

(お嬢様してきた)

 士狼は食器を置かれるのを無言で見つめていると、瀧のありがとうございますという声が耳に届く。

 良い香りがするなと紅茶の匂いを楽しみながら、カップに口をつける。

「本当、綺麗ね。これもしかして、全部シャインマスカット?」

 三善が切られたパイを見つめていると早苗さんは答えた。

「そうですよ。二人とも友達を呼ぶと聞いてはりきっちゃったわ」

 三善は関心深そうに頷く一方、瀧は何故か口を開けて硬直していた。

 

「瀧?」

 尋ねる士狼。

「い、い、いや⋯⋯本当にすごい⋯⋯本当に⋯⋯」

 何かを考え込んでいるのか、士狼の声は聞こえていない。

「おい瀧? 震えてるけど大丈夫か?」

 近衛はどこか楽しそうに笑って、瀧を眺めてるだけ。

幸恵と要は顔を合わせて不思議そうに見てるだけ。

 三善はスマホをパイに向けて、シャッター音を鳴らして気づいていない。

 瀧についての詳細は士狼以外声に出していなかった。

「はっ、ごめん色々と考え事が巡って」

 そんなにやばい品物なのか、確かにテレビでしか見たことがないパイなのは伝わってくるが。

「⋯⋯そうか」

 たかが()()()()()()()()()()()使()()()()()だよなと士狼は、瀧の反応を不思議そうにしていた。

 

 

「ごちそうさま」

 士狼は食べ終えたパイの皿を見て、甘い果肉とさっぱりとした生クリームの組み合わせはよかったなと思った。

「⋯⋯」

 食べ始める前の和やかな空気、とても心地よく感じていたなと思っていた。

 六人は勉強に戻り、手を動かしながら、さっきの心地よさはなんなのかと問いかける。

「なあ、瀧」

 瀧の険しい顔は無くなり元の精悍(せいかん)な顔立ちに戻っていた。

「なんだい?」

 瀧は聞き返す。

「みんなで集まるのって、こういう事なの⋯⋯かな?」

 瀧の手元が止まり、しばらく見つめられると、口は動いた。

「こういう事って?」

 士狼は素直に答えた。

「⋯⋯みんなで喋ったり、勉強をしあう事だよ」

 家庭環境と友達を作るのを控えてしまった為に、勉強会みたいな付き合いはしなかったと精神性がここで出る。

「そうだ。できることなら、今後も続けたいと願うよ」

 二人の間にしんみりとした空気が包まれる。

 士狼は再び勉強に励んでいると、要の声が聞こえた。

 

「士狼くんと慈宗くんって、なんかオトナだね」

 興味深く見ているような口調だった。

「願うよってなんだよ、みんなってなんだよ。はっきりとずっと続くとか友達って言えばいいのに、この二人は!!」

 近衛の渾身の叫びがこだました。

 この反応はネットの動画サイトで見かけた頭を抑えて子猫が鳴いている絵面なのだろうと、安易に想像できてしまった。

「そういうの含めて、オトナじゃんよしりー」

 容赦のない幸恵のツッコミ。

「⋯⋯近衛君ってなんだか、ロマンチストね」

 声色はおかしそうに笑っているだろう、三善が返ってきた。

 

「そーそー! それ! オレはロマンチストなワケ!」

 ああ、また調子⋯⋯

「はじまった」

 幸恵と一緒に呆れの感情が同時に出てしまった。

「なんだか面白い人達が多いね、芥川さん」

 三善の発言に思わずノートから、彼女に視線を向ける。

「由成くんはいつも賑やかだよ」

 要はしとやかに返す。

「⋯⋯賑やかなのは嫌いじゃないが、近衛くんの場合賑やか過ぎるんだよ」

 微かに怒りを抑えている声で呟く瀧。

 一体どこにそんな思いをさせる、言葉を──

(あ、ひょっとして”ずっと続く”か!)

 過去の過ちで人を傷つけた瀧にとってみれば、ずっと続く絆は遠い理想である。

 またしても近衛は人の気持ちをかき回してと、士狼はホルダーの件が浮かんだ。

(⋯⋯ん? そういえば俺。友達って、言えないのか?)

 二つ目”みんなじゃなくて、友達って言えばいい”。

(まさかな?)

 別れを繰り返す家庭環境の影響で友達を作るのが億劫になり、今まで控えめに生きてきた影響で人前で言えなくなっているのか。

 士狼の目元は漫画的に捉えるなら、円がいくつも重なった所謂ぐるぐる目で困惑しだした。

 

「瀧はあんまりだし! 山田はどうしちゃったんだよ!?」

 近衛の困惑と悲痛が混ざった感情が伝わってくる。

「⋯⋯また悪い癖が出てない? よしりー」

 幸恵は鋭く指摘する。

「悪い癖?」

 三善が不思議そうに近衛を見ている。

「由成くんね、昔から人を傷つける言葉を言っちゃうの」

 要が困ったような表情で解説している。

「そそ。ただの感想でも、相手を泣かしたり怒らせたりしちゃう才能があるのよ、あけみっち」

 幸恵が近衛についてそう評する。

「⋯⋯あけみっち?」

 三善は幸恵の洗礼を受けて、ぽかんとその場に座っていた。

 

「嫌な才能だな」

 幸恵の近衛由成評に瀧は冷静にコメントを残す。

「本当、なんでこうなるのがよく分かんねーの、別に誰かを傷つけたくて言ってねーのに⋯⋯」

 肩を落とし、近衛がしわしわになって落ち込んでいた。

 相当苦労しているなと、士狼は不憫な才能だと痛感した。

「⋯⋯そのドンマイ」

 人に心を引っかき回す癖は好きではないが、本人は相当悩んでそうな態度だった。

 ので、士狼は手を動かしながら呟くように近衛を慰めると、熱い視線が近衛から放たれていた。

「おお、ありがとう。ありがとう、山田⋯⋯」

 うるうると目を潤ませてこちらを見てきて、士狼はそんなになのかと、思わず顔がひきつってしまった。

「僕はいいけど、そのうち拒絶される人間が出ても知らないぞ」

 そんな感動話の雰囲気は、この発言によって壊された。

 瀧の目元は厳しく凍りつきそうな程の視線はレンズから発射され、近衛をたちまち凍てつかせ黙らせてしまった。

(これが氷結状態⋯⋯!)

 と瀧のシャドウに凍らされた士狼はそう思った。

 

 

二〇三〇年 五月十三日

 

 今日から中間テストだ。

 勉強してきたから大丈夫だろうと、一週間に及ぶ試験が始まった。

 

 

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