PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅡ

二〇三〇年 五月十四日

 中間テスト二日目──

 放課後。

 廊下は談笑で賑やかだ。

 雑踏に混ざって「用事があるから無理だ」とどこかで聞き覚えのある声が耳に届いた。

(もしかして)

 まさか同じ学年かと思いながら、士郎は声がした方へと向かった。

「きゃっ!」

 それは阻止され、誰かにぶつかった。

「ごめん大丈夫?」

 士郎は咄嗟に支えると、そこにいたのは薄い物と高い物を風呂敷で包んだ物を持つ女学生がいた。

「だ、大丈夫⋯⋯って山田君!?」

 そこにいたのは制服姿の三善明美(みよしあけみ)がいた。

 髪型は勉強会の物ではなく、一つのお団子にまとめた髪型になっていた。

 

「三善? どうしたんだこの荷物」

「部活動に使うの」

 と三善は姿勢を正して、高い方の風呂敷を見る。

「⋯⋯お菓子が崩れてないといいけど」

「お菓子?」

 士郎が聞き返すと、三善はしとやかに微笑んだ。

「私、茶道部なんだ」

 なるほどだからあのパイの見映えを褒めたり、写真を撮ってたのかと士狼は思っていた。

「荷物を持とうか?」

 高い物の風呂敷を軽々しく持つと、三善は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、お願いしようかしら」

 

 

 夕方の中廊下を歩く、山田と三善。

 途中で変な視線を感じたが、特に気にしなかった。

「小学校の頃からなんだ」

 士狼は三善の過去を聞きながら、荷物を運んでいる。

 途中で旧校舎の扉を過ぎるが、十七時のチャイムは鳴らなかったので何も起きなかった。

 

「小学校に来た茶道家の人がかっこよくて、高校でようやく茶道部がある学校に入学したの」

 三善は嬉しそうに風呂敷をぎゅっと抱く。

「どういう風に、かっこよかった?」

 夕焼けに溶け込む三善の横顔。

 その顔は儚くも見えた。

「綺麗な仕草でお客さんをもてなす姿がすごくかっこよくて、その人の教室に行きたかったけど⋯⋯」

 すっとこちらを見て消えゆきそうな微笑みを浮かべた。

「家の都合で引っ越したの」

 その言葉に士狼は目を反らして、表情も申し訳なくなってきた。

 

「そのごめん」

 引っ越しで自分の願いが叶わなくなった気持ちは、よく分かるからこその謝罪だった。

「なんで謝るの? そのおかげで茶道部に入れたからさ」

 襖の扉が特徴的な教室に辿り着くと、三善は不思議そうにこちらを見てくる。

「⋯⋯てっきり、気にしていると思って」

 目を反らす士狼。

「変な事を気にするのね、山田君は」

 おかしそうに笑う三善を見て、心の中で何かが渦巻いた。

 俺は気にし過ぎなのかと。

「荷物ありがとうね、後は自分でやれるから」

 三善は高い風呂敷を持つと、片手で襖の扉を開く。

 書院造の和室が見える。

「じゃあ、幸恵ちゃんによろしくね!」

 朗らかに別れの挨拶をする。

「またな」

 襖は閉ざされた。

 

 

二〇三〇年 五月十九日

 

 中間テストが終わり、日曜日。

 天候は朝から雨が降り続いていた。

 着物姿の明美はカランコロンと下駄を鳴らして、習い事の茶道教室から帰ってきた。

「ただいまー」

 電気をつけ、傘を閉じ雨露を払うと空気がいつもよりも重く、どんよりしていた。

 何があったのだろうかと明美はリビングに向かう。

 そこにいたのは、頭を抱えていた両親の姿だった。

「⋯⋯ああ、あけみ?」

 父親は疲れた表情で見てきたので、明美はまさかと思い聞いた。

「嘘だよね?」

 テーブルに置かれたのは医学科の大学のパンフレットの荷物と一通の手紙であった。

 それに気づいた明美は駆け寄り、追い詰められた表情で両親に問う。

 

「どうして、()()()()()()から⋯⋯」

 青ざめた表情で明美はパンフレットに目を通した。

 オープンスクールの文字が明美の瞳に映り、拳を強く握りしめた。

「ごめんね! 明美! お義母(かあ)さんを甘く見ていた私が悪かったの!」

 泣きじゃくる母親に三善は呆然と立ち尽くしていると、雷が鳴り響く。

 

「実は⋯⋯」

 明美は母親を宥めながら、父親からの衝撃的な一言が放たれる。

「母さんの親戚に住所を聞き回っていたんだ」

 父親の話によると、祖母の実態を知らない母親側の親戚づてで、住所を聞いていたと同封の手紙に綴られていた。

 

「音信不通にしても、まだ諦めていなかったか⋯⋯あの婆さんは!」

 父親は怒りを露わに叫ぶと、明美は母親の手元に握られた手紙も読む。

「⋯⋯え、お祖母ちゃん一緒に住むつもりなの?」

 目の前が真っ暗になりそうだった。

「ごめんね。明美⋯⋯私のせいで茶道家の夢を叶えてあげられなくて」

 泣きじゃくる母親は懺悔しているかのようである。

 明美は突然の絶望にどうしたらいいのか分からず、そのまま家を飛び出した。

 

 

 一方変わって芥川邸。

「中間テスト、手応えあったね!」

 ドライヤーで髪を乾かしながら寝間着姿で、リビングにいる妹の(かなめ)に話し掛ける幸恵(ゆきえ)

「ふふ、ゆきねえはいつも勉強方面は楽勝だよね」

 たおやかに笑って勝ち誇る幸恵を見てくる。

「あたぼーよ!」

 ピースも作ったりしてみると、強く鳴り響く窓を見る幸恵。

「うわあ雨すごいじゃん、明日止むといいねー」

 髪を乾かし終わると、脇を挟んで持ってきた化粧水を取り出し手のひらに浸す。

「本当にね」

 要は穏やかに返すとチャイムが鳴り響く。

 早苗さんの返事が聞こえてくる。

 

「んーこんな時間に? 誰?」

 思いついたのは弟分の近衛由成(このえよしなり)

 だがRE:LINK(リリンク)の内容は山田が三善と一緒に廊下を歩いていたものであり、一緒に映画を見ようという突撃系の予兆ではないので、候補から外れる。

 映画好きのお祖父ちゃんが遺した、大きなスクリーンと高価な音響機材の存在を知られてから、度々遊びに来る。

 

 まったく図々しいったらありゃしない。

 と、幸恵は生意気そうに笑う腐れ縁を思い出すと、早苗さんが切羽詰まったような声を出して足音が騒がしく大きく響く。

 ただ事じゃないなと幸恵は、悪い予感を抱いてソファーから立ち上がると、早苗さんと共に現れたのだが。

 

「ど、ど、どうしたの!? 明美ちゃん!!」

 ずぶ濡れで憔悴しきった三善明美がいた。

 真っ先に声を上げたのは友人の要、幸恵はその様子を見て真っ直ぐと明美の方へ歩く。

「あけみっち! なにがあった!? 誰かにひどいことされた!?」

 女子が好きな由成が意識するほどの明美だ、悪さを働く男子もいるだろう。

 由成も言っていた「お前はただ近寄りにくいだけで、男子にとっちゃあ誰かの天使なの、お前の場合、遊んでそーって勘違いするヤツいるから気をつけろよ」って。

 だから、要みたいな子は声も上げられないのだろうと思っていた。

 

「⋯⋯どうしよう要ちゃん、幸恵さん。お祖母ちゃんが⋯⋯お祖母ちゃんが⋯⋯」

 声が途絶え途絶えに紡がれる台詞を聞いた幸恵は、顔をしかめた。

「お祖母ちゃんだね! 分かった今すぐぶん殴ってやる!」

 そう叫んだ後、要は悲しそうに言う。

「まずはお風呂だね。せっかくの綺麗な着物が⋯⋯」

 要はびしょ濡れになった着物と泥に染まった白足袋を見て、もったいないという表情を見せた。

 

 

「ハア!? 祖母ちゃんが医者になれって!!」

「⋯⋯声が大きいよゆきねえ」

 サイズは小さいのか、つるんてんとなった姉妹の寝間着姿で告白する明美。

 その告白を聞いて、正義感に触れたのか幸恵は激情に駆られ叫び、要は耳を抑える。

 

「⋯⋯いやー引くわー、あけみっちの祖母ちゃん」

 マグカップが割れそうな程強く握る幸恵。

「明美ちゃんが引っ越した理由ってそれだったのね、お祖母ちゃんから逃げる為に」

 要は悲しそうな表情をしつつも、冷静に明美の出来事をまとめる。

 

「⋯⋯うん」

 明美がカップに口をつけて飲む。

 姿勢は相変わらず綺麗なまま。

「しかも家に住むって、絶対見張りじゃんそれ。ストーカーじゃんそれ、本当サイテーね!」

 怒っている幸恵。

「⋯⋯どうして、そこまでしてお医者さんにしようとするのかな」

 要は聞き役に回っていた。

「父さんによると病院を継いで欲しいみたい。だけど、お父さんは受験に失敗して⋯⋯サラリーマンになったから、今度は私みたい」

 幸恵も要も落ち込んでいる様子の明美を見る。

 

「てかなんで、あけみっちにこだわるのよ!」

「昔の考えなのかな?」

 要と一緒にあーだーこーだと、真逆の方針で言い争っていたら。

 「気を悪くしたらごめんだけど」

 明美の声が遮ったので視線をそちらに変える。

 きょとんとした少し微笑んだ。

「二人とも双子でしょう? 一卵性双生児だったよね? 息はぴったりなのに、反応は違うね」

 幸恵はその言葉を聞いて、要と見つめ合った後、幸恵はカラッとこう返した。

 

「よく言われる。ぶっちゃけウザいと思うけど、あけみっちが笑ってくれるならチャラにするー!」

 要は微笑んで返す。

「私も考えが似てるって思っていないから困るけど、元気が出たらなら⋯⋯」

 幸恵はカップを持ってココアを持ってぐいっと飲むと、ふと気づいてしまった。

 

(⋯⋯もしかしてあけみっち、このまま行くとヤバいんじゃあ)

 瀧慈宗(たきちかむね)の言葉を思い出す。

 将来の不安を抱えると狙われると。

(けど、どうしよう。今は大丈夫そうだけど、もし不安のままだったら⋯⋯)

 幸恵の頭を回転させる、明美の不安の払拭は女子高生にはどうにもできない。

 警察に通報するか。

 だが、解決方法は引っ越ししかなかったという事は頼れないに近い。

 なので結論。

 

「ねえ、あけみっち。落ち着くまでうちにいる?」

 側に置く作戦。

 もし、十七時になってピアノの曲が聞こえたら、開けるのを止めればいい。

 士狼の場所だと旧校舎の扉に来ると、一旦ピアノが止まった後声がして刺されたと言っていた。

 瀧の場合だと「過去」の失敗について、陰口を言われ不安を抱いて、ピアノが鳴っているドアを開こうとしたら刺された。

 つまりドアを開けさせなければいいのでは。

(あー! 情報が足りない!!)

 そんな単純な出来事ではない筈だ。

(一つでも、正解があるなら実行すっきゃないよ)

 幸恵の秘密の作戦、ステップ・ワンを決めると、二人が寝静まったら、ステップ・ツーに移行しようと思った。

 

 

二〇三〇年 五月二十日

 

 二年C組の授業中、担当の真島辰彦は話していた。

 士狼はそれを聞きながら、昨夜急遽送られた、偽アンナさん対策部のトーク内容を思い出す。

(三善の家の都合って、祖母ちゃんから逃げ出す為か)

 だから、消えそうな笑顔だったのかと士狼は思っていた。

 士狼も三善から聞いた情報を共有すると瀧も心配していた。

 

 ”自分の思いを考えもしないで強要すると、人を傷つける時もある。だから、今の三善さんはすごく辛い思いをしている”

 ”だからもし芥川さんの励ましも効かない場合、ヤツはきっと現れる”

 と読みやすいように二つに分けてそう送られていた。

 それに対して近衛は返ってきた。

 

 ”オレも三善と幸恵と要と行動するわ、万が一婆さんが来たら、男子のオレがいねえとな”

 珍しくふざけていない、絵文字すらも無い。

 近衛でも真面目になる時があるんだなと、士狼は思った。

 

 ”すまない、僕は部活があるから助かるよ近衛くん”

 文章からも月曜日、水曜日、金曜日は剣道部に勤しむ瀧の申し訳なさが伝わってくる。

(どうしよう。俺も護衛に行った方がいいのか⋯⋯)

 真島先生の話が耳に入らない。

 

 ペルソナは常世(とこよ)であり、心裡(しんり)世界でもある場所でしか召喚できない事は実証済みだ。

 校内でも召喚できたなら、あの白い翼の異形と戦えるのに⋯⋯!

 いつもは控えめで行動をする士狼であるが、この時ばかりは闘志がめらめらと燃え盛っていた。

「おーい、山田?」

 真島先生が異変を察知したのか、名前を呼ばれると思わずぴしっと士狼は姿勢をよくしてうわづって返事をしてしまった。

 その様子を見たクラスメイトはくすくすと笑いに満ちていた、ただ三人を除いて。

 

「山田くん。らしくないじゃないか」

 隣の席の瀧はノートでそう筆談をしてきた。

「ごめん、どうしてここではペルソナは喚べないんだろうって」

 初めて先生の前で私語に近い行動をしてきた瀧に驚きつつ、書き返す。

「⋯⋯ペルソナは自分に潜む心の力。君はヴァルターを出した時どんな感じだった?」

 そうか瀧は目覚めただけで、まだ召喚していなかったのか。

「⋯⋯なんていうかその⋯⋯」

 指揮棒を振るい、ペルソナと共闘する時の興奮。

 とてつもない力を開放したような全能。

 

「すごく気持ちよかった、やべえのが来たってゾクゾクした」

 あの快感を思い出すと大きな猫目が瞳孔を見開いて、口元が緩やかに上がる。

「⋯⋯目が据わってるぞ」

 そんな士狼の表情を見て、何故か瀧は引いていたので、不思議そうに見る士狼。

「そうか?」

 瀧は一呼吸を置く。

「自分達の心というのは取り出せない。けどあの劇場は、そんな心の形を劇として露わにするんだと思う」

 と締めくくられると、瀧は先生の方へと視線を変える。

 瀧は召喚する時違うんだろうなと、士狼も先生の方へと向いた。

 

「あー知ってのとおり、二十八日は林間学習です。なので、一限目は班決めの為自習です」

 チャイムが鳴り響く。

「以上でホームルーム終わり!」

 こうしてホームルームは終わりを告げた。

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