PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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P5Xの前にP5をね


Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅢ

二〇三〇年 五月二十日

 

 一限目、二年C組自習。

 木野正(きのただし)の記録。

 

 俺は芥川さんが好きだ!

 派手だけど楽しそうに女子や男子と話している、明るいところが好きだ!

 おっぱいがないから物足りないって川上は言うけど、むしろすらりとしたスタイルは唯一無二だと俺は思う。

 オタクのグループはオタクに優しいギャルとか言われてるが、多分そうだと思う。

 話したら優しいと俺は信じたいんだけど。

 芥川狙いのやつは一つ難点があると語る、それは──

 

「ねーちかりん、ろうちん一緒に生活班組も!」

 C組のクラス委員長瀧慈宗(たきちかむね)のグループな事である!

 アイツ、クラスのやつを不登校に追い詰めたって噂だが、今のところ本性を現していない。

「いいのか? 君は友達と」

「いいの! 生活班はアンタ達と一緒にいた方が楽しそーだからさ!」

 ああ、この笑顔が俺は好きなんだ。

「そうなってくると、後二人だな」

 で、そう言ってるこの茶髪頭は確か⋯⋯

 そーそ、山田だ、さっきせんこーが怒っていなかったら、名前が出てこなかった。

 とにかく、あのグループは瀧がラスボスなんだが、俺は違う。

 

「はい! 俺もお前らの班入っていいか?」

 三人の班に俺は寄る。

「もちろん、君は木野正くんだね」

 瀧は堅そうに挨拶する。

「ただっちよろしくねー」

 ああ、あだ名を早速を頂きました!! 嬉しいですねえ。

「よろ、よろしく」

 って俺の表情筋耐えろ! 瀧に勘付かれたらまずい!

「そんなに緊張しなくてもいいよ、とって食べないから」

 あれ? 意外。もっとちゃんとしろとか言われるかと。

 まさか気づいてないのか、瀧

「⋯⋯ただっち。そういえばずっと思ってたけど、芥川のあだ名ってどういう風に付けるんだ?」

 復唱するんじゃねえおめーには呼ばれたくないんだよ、地味男くん!

「こう呼んだら、かわいいかなって思ったらだよ、ろうちん」

 あ、そうなんだ。

 地味男って言って悪かった、お前のお陰でいいことを知れたわ。

 

「後一人か⋯⋯」

 瀧はそう呟く。

「気のせいだと思うけど、瀧避けられていないか?」

 辺りを見渡している、山田の言うとおり。

 瀧と一緒だとつまんなそうだから、思う存分エンジョイしたいやつは当然避けられる。

「⋯⋯俺、そんなに人望がないのかな」

 何やら落ち込んでいるが。

 いやいや瀧。

 お前と一緒なら必然的に、芥川さん狙いのヤツが弾かれるから、こっちはありがてーの。

 んで、ツレの山田に至ってはあのA組の三善さんといても、顔色一つ変えなかったって話。

 つまり女に興味がない、さっきも芥川さんと男子と一緒に話してるみたいな態度だったわけだし。

 これで俺は心置きなく芥川さんに近づける!

 

「あっ」

 ん、どうしたの山田。

 窓際奥の席に行っちゃって。

 アイツの知り合いは、さえない連中ばかりだろうし、どの道、俺の勝ち。

 悪いな俺は芥川さんとイチャイチャできて。

 山田がこっちに戻ってくる。

 ん、隣のやつなんかどんどんデカくなってねえか?

 「伊福部(いふくべ)もいいかな」

 山田が伊福部持ってきた!?

 おいおいおいよりにもよって、一番ヤバいヤツをチョイスしてんじゃんねえぞ、バカヤロー!!

 

「構わないよ。伊福部さんよろしく」

 瀧!? コイツ絶対ヤンキーだよ、風紀乱すやつだって!

「うおお、すごい迫力ある人だねー! よろしくね、ふくっち」

「⋯⋯よろしく。ふくっち?」

 芥川さんもビビってねーかこれ。

 で、ハムスターみたいに首傾げても怖えよ伊福部。

「ところでなんで俺を誘ったんだ、山田」

「誘う人がいなさそうだと思って」

 なんつー、人選理由だ!

 ってかオブラートに包もうぜ! ボッチだぜって言ってるようなもんだぞ!

「余計なお世話だ」

 ねえ、本当に何してくれちゃってんの!?

 何してくれちゃってんの!? 山田は安全圏だと見込んだ俺がバカだったよ!?

 こえよー瀧よりヤバいヤツ来ちゃったよ、チビリそうだよ。

 

「それに⋯⋯世話になったからそのお礼」

「⋯⋯もしかして、バ先の事を言ってんのか? 真に受けるなよ、あれは仕事だからやったんだ」

 なんのバイト!? ヤバい薬!?

 てか山田、もしかして実は中身はヤベーやつなんじゃ⋯⋯

「バイトでお世話になったのか、まったく君の人脈は驚かされるよ」

 つか伊福部に怯まないで、会話できる瀧もすげえな。

 よく山田に頷けるよな。

「別に⋯⋯たまたま知り合っただけだって」

 たまたまってなんのバイトしてるんですか、この二人!?

 

「しかし良い鍛え方をしているな。スポーツとかやってたのかい?」

 注目するとこそこなの瀧。

 言われてみれば、肩と胸の辺りがしっかりしてるよな。

「中学はバレーボールをやってた。ポジションはミドルブロッカー」

 ミドルブロッカーって確か、守備役だったけな。

 やだなー俺、デカくて目つきが悪いやつに立ち向かいたくない。

「みどるぶろっかー?」

 芥川さんは首を傾げている。

「ネット近くの真ん中にいるポジション。ボールを防いだり、攻撃する」

 睨んでるみたいな顔で、両腕を天上に向けて襲いかかるような構えをする伊福部。

 

 さっき、すげえ音がした。

 ポーズ取ってくれるのは分かりやすいけど、圧がやばいよ。

 守りますよじゃなくて、襲いかかりますだよ。

⋯⋯敵チームどんまい。

「その迫力。剣道にも役に立てそうだな、二人ともそう思うよな、山田くんと芥川さん」

 瀧もやりたくねー、一撃が高ダメージって感じで。

 

「⋯⋯」

 山田と芥川さんがビビってんだけど。

「二人とも?」

 瀧は気づいていないみたいだから、ここは俺の出番か。

「伊福部だったけ、お前のオーラやばいよな」

 ってなんで俺は伊福部をフォローしてるんだ、俺は芥川さんと話に来たのに!

「大抵は、山田や芥川みたいな反応されるのは、知っている」

「へえ、すごいなそりゃ」

 しかめ顔、自覚あったんか。

「けど、瀧は俺の事⋯⋯ビビんなかった」

 伊福部は瀧を見下ろして、なんか褒めてるし。

「そうかな? 君はただ屈強な人だなと思った」

 ナニコレ、少年週刊ダイビング!?

 なんか強えキャラが目で語って、二人でしか分からないオーラが出てんだけど! この二人。

 相性悪いところか、相性がいいのかよ。

 ああ⋯⋯俺の林間学習。最悪だ⋯⋯

「木野? どうしたんだ」

 山田が気に掛けてきた。

 お前の気遣いよりも、お前が元凶だからな!

 

 

 一限目、二年B組自習。

 近衛由成(このえよしなり)の記録。

 

 さてと、林間学習か。

 オレは誰と組もうかな。

 三善の事も心配だがとりあえず、目の前の課題を片付ける事にした。

 大抵は仲の良い奴らが先に取られる。

 まず定番の連中が別クラスにいるんだよな、幸恵と同じだったら同じ班になるんだけど。

⋯⋯B組はいないんだよな、話す相手はいるんだが、いざって時のヤツがいない。

 なので、オレが探すっきゃあない。

 そういうのは昔から得意だからな。

 例外は山田達のグループ。

 

 そもそも人から誘われたのは、山田が初めてだった。

 騙し討ちだったけれど、頼られてグループに入った。

 だから、三善の件は手が空いているオレが立候補したワケ。

⋯⋯本当はオレだって、ペルソナを使いたいよ。

 けど、オレには瀧みたいなやらかしからの不安を抱いた事はない。

 なんなら、オレも瀧のシャドウを作った要因だって言われてたらしいし。

 なんでオレはこう、人を傷つけちゃうんだろう。

 正直に言ってるだけなのに。

 

 だめだ、だめ。

 これを膨らませて不安にしたら、オレにもやってくる。

 けど、やってきたから山田と瀧はペルソナに目覚めた──

 ああ、オレって最悪だな、そういうのとは無縁だからって山田に頼られたんだ。

 あぶねーこれは本当に言ったら、アイツらに絶交される。

 絶対嫌だな⋯⋯ホルダー眺めて想像だけで済ませよ。

 

 で、瀧は相変わらず苦手だが、可愛いとこもあるなと思い始めている。

 あのパイにキョドってたのは傑作だったな。

 思わず笑っちゃったよ。

 ノリが合わねえけど、アイツらといると居心地はいい。

 アイツらと同じクラスだったらな⋯⋯

 

 オレは教室を見渡すと、まずは一番ノリが合いそうな空気のグループに近づく。

「よー、お前ら! オレも仲間に入れてもいいか?」

 メンツは井上健人、角野信彦、桜木譲介。

 よく女子について話す連中だ。

 こいつらなら、オレの女子についてのネタにノれるしな!

 山田と瀧はダメだアイツら。

 この手のネタは通じなさ過ぎる。

 てか、山田はよく三善と二人っきりで緊張しないのかよ。

 何かの修行してんのかってぐらい。

 

「いいぜ! ノッチがいれば」

 井上は承諾する。

「おお、ノッチがいりゃあ百人力よ」

 角野は親指を立てられた。

「なあ、なあノッチ。オメー女子を呼べるか? オメーはそういうの取り柄じゃん」

 桜木がとろけた顔でオレに言ってきた。

「何が取り柄だー! お前らスケベ目的で、女子に近づくと痛い目遭うぞー!」

 オレん中の幸恵が背後に怒っていると察知したので、オレはふざけてコイツらを怒った。

 マジな話。サイテー! って平手打ちされるのがオチだぞお前ら。

 

「それ、ゆきえちゃんの場合じゃね」

 井上が口を結ぶと、桜木はきょとんとしている。

「ゆきえちゃん?」

 井上は語ってくる。

「C組の芥川幸恵(あくたがわゆきえ)。金持ちなんだけど、白ギャルなやつ。ある意味ノッチとお似合いだよな、タイプ近そうだし」

 桜木はむすっとした表情でこっちを見てくる。

「ずりぃー! ノッチに女子が! 紹介してくれよー!!」

 桜木が飛びかかって襲いかかってきた。

 

 ちょっ! オレ身長百六十四なんッスけど!!

 百七十六野郎のプレスは、重いンすけど!! 

「冗談だろ!? アイツめちゃくちゃ気ィ強いぞ! お前なんかすぐ尻敷かれるぞ!!」

 押し倒してきた桜木をなんとか押しのけると、後ろにいたやつがオレの顔を覗き込んでいた。

 

「だ、大丈夫⋯⋯?」

 そいつは暗そうだった。

 なんかじめっとしている感じ、文学の本とか似合いそう。

 名前は──

 

 あれ? そもそも、こんなやついたか?

 山田から情報通って、紹介されたこのオレが?

 髪は黒いけど光に当たると茶髪にも見える色で、地毛なのか染めてるのかも分からん、なんもいじってないショートボブ。

 顔立ちはなんつーかその、明らかに日本人じゃなかった。

 肌も白くてゴツいけど、眉毛は太くて鼻も高くてデカい、つけましてんのかぐらいにまつ毛が長い。

 オマケに涙袋がはっきりしてる。

 

 つかノーメイクだよなそれ、幸恵が泣くぞ!

 で、特に目立ってたのは丸くて大きな目の色。

 綺麗な青だった。

 

「へーき、へーき! っと!」

 イテテ、ピアスのところ大丈夫だよな。

 オレは立ち上がって踊らかせてしまうと、小さな声で言ってくる。

「⋯⋯よかった」

 そいつは怯えながら一言言ってきた。

 なんだろうコイツ、山田と同じ匂いがする。

 自分が前に出ないそんな感じ。

 尻の埃を払うと、なんで後ろを見てたのか気になった。

「オレらになんか用? ええっと⋯⋯」

 困ったオレは井上、角野、桜木の輪に戻る。

 

「すまん、誰だっけアイツ?」

「おれも初めてみた」

「俺も俺も!」

 角野と桜木はダメ、井上はどうだ。

「⋯⋯なんか苗字が変わってる感じのやつ、こ⋯⋯こる⋯⋯」

「コルサコフ」

 

 声ちっさいな。山田は正々堂々って感じなんだけど、こいつは目を合わせなくて、ビビってるって感じ。

 もったいねーな、宝石みたいな色なのに。

「何語?」

 桜木は理解できてないらしい。

「オレも分からんさっぱり。で、コルサコフ、オレらに何か用?」

 オレはコルサコフに近寄ると、すすすと後ろに退がられた。

「いやなんで、避けるんだよ!」

 うわ、山田よりもわかんねーやつだ。

「⋯⋯その怖くて⋯⋯金髪でピアス⋯⋯だし」

 ん、なんで苗字を聞くと外国人なのに、そういう台詞言えるんだこいつ。

 あ、もしかして、オレが話しかけると逃げちゃうタイプのやつかこいつ。

「オレは怖くないから、早く用件を言っちゃえ♡」

 笑顔を作ってコルサコフを恐がらせない作戦を決行する。

 

「⋯⋯ただ、楽しそうだなって⋯⋯じゃあ⋯⋯ね」

 なんか寂しそうな顔してくるな⋯⋯

 てかまずは目を合わせろ! 山田はちゃんと目を見て話すぞ!

 ノリが合わない班に入れるのは気が進まないが、ここは一発。

 

「なあ、コルサコフって班決めまだか?」

 コルサコフは足を止めた。

 おお! なんかいい感じに!

 コルサコフは振り向くと首を横に振る。

「じゃあ、オレらの班に入れ! 楽しくしてやるよ!」

 と腕を掴んでぐいぐいと引っ張り、三人のいる場所へと引き込む。

「いいねー!」

 桜木は盛り上げ。

「なんかついていけなそうな感じだから、おれらと無理に合わせる事ないぜ!」

 角野は宣言し。

「ノッチはかまちょしてくるから、ウザかったら無視していいぞ」

 井上はいじってくる。

「ウザくないですー! オレの優しさですー!」

 オレは井上のいじりにつっこむ。

 で、コルサコフの顔を見上げるとなんか困っているような表情で呟いてた。

 

「ええ⋯⋯?」

 あれま浮かない顔してんだな。

 なんかオレらに警戒してるっぽいな。

 あ、そうだ!

 オレっち閃いちゃったもんね!

「お前さー目すごい綺麗だよね、これカラコンじゃあないんだよな⋯⋯すげーなナマの外国人」

 褒める作戦、よっしゃこれで行こう。

 果たして効果はと、オレは見上げると。

 何故か顔を歪ませて、泣き出しそうな、苦しんでいそうな顔をしていた。

「⋯⋯っ!」

 そして腕を振り払われて、そのまま自分の席へ帰っていった。

 この様子を見たオレと三人は、よく分かんない状況に置いてけぼりだった。

 

「⋯⋯オレ、なんか言った?」

 いやいや、普通に褒め言葉だったよね!!

 そうだよなお前ら!!

「確かに悪い要素がないな」

 井上は淡々と評価する。

「変なやつだな」

 桜木の言葉でこの騒動は終わった。

 

 

 一限目、二年A組自習。

 三善明美(みよしあけみ)の記録。

 

 母さんは私を生んだ後、子どもが産めない体になったと聞いた。

 そこからだ、父さんの方のお祖母ちゃんが強要してきたのは。

 もう弟と妹ができないから、お祖母ちゃんは私に父さんと似たような事をしてくる。

 呪いのように医者になれ、医者になれとうちに来て撫でていたらしいの。

 小学校の頃から将来の夢の作文や成績表を見ようとしてきたり、誕生日プレゼントは体のしくみが分かる図鑑と、お医者さんの職業紹介の本だった。

 父さんと母さんは大変困って、ある決断をしたの。

 それが引っ越しだった。

 

 ここに来たら、父さんの方の親戚の年賀状は書かなくなった。

 母さんしか親戚付き合いはしていなかった。

 全部お祖母ちゃんから逃れる為、徹底しているつもりだった。

 だけど、お父さんの言うとおりお祖母ちゃんは、まだ諦めていなかった。

 こっちに来たら私は茶道家じゃなくて、お医者さんに決めつけられる事になる。

 

 それはいやだ!!

 私は茶道家になりたい!

 だけど、それを選んだら母さんと父さんは───

 

「明美ちゃん? 大丈夫?」

 考えすぎてみたい。

 |芥川さんが、心配してきた。

「⋯⋯大丈夫、ちょっと考え事してたから」

 追い詰めちゃだめ、私。

 私には友達がいるから。

「もしかして、またおうちのこと? 本当に明美ちゃんのお祖母ちゃん、すごく嫌な人ね! なんとかできないのかな」

 芥川さんは珍しく怒って、私を励ましてくれる。

 

「⋯⋯音信不通になればと解決すると思ってたみたいだけど、無理だったみたい」

 お母さんの親戚から住所を聞くなんて、思いもしなかった。

「私達じゃあどうにもできなくて、本当にごめん⋯⋯ごめん⋯⋯」

 芥川さんが泣き出しそうな声で謝ると、私も涙がこぼれてきた。

(かなめ)も悪くないよ⋯⋯」

 私はどうしたら良いんだろうか。

 茶道家の夢を諦めた方がいいのかな、そしたら⋯⋯みんな⋯⋯

 

 放課後。

 

 職員室から出ると私は、待っていた芥川さん達と一緒に帰った。

「家の荷物ありがとうね」

 芥川さん達が薄茶のふわふわの髪を揺らして歩いていると、芥川さんが笑顔で答える。

「良いのよ、良いのよ。うち広いから!」

 芥川さんの笑顔は、お日様みたいで元気になれる。

 もしもお祖母ちゃんが引き離そうとしたら、私は離れたくないと思った。

「⋯⋯」

 あれ、近衛(このえ)君は勉強会に比べてすごく静か。

 警戒してくれているのかな。

 

「うわ、よしりー⋯⋯アンタ本当によしりー?」

 付き合いが長い芥川さんも私と同じ反応をしているという事は、こういう表情は珍しいのね。

「ホ・ン・モ・ノ・だ・よ!」

 近衛君が訂正すると、口はまだ動かしているみたい。

「実はさあコルサコフってやつに、瞳が綺麗って言ったらすげえ辛そうな顔をしたからなんでだろって考えてた」

 こるさこふ? 近衛君はひどく真面目な顔で言ってくる。

 

「あ、リムスキーと同じ名字だ!」

 要が珍しく嬉しそうに話に乗ってきた。

「なんて?」

 近衛君が返す。

「ニコライ・リムスキー=コルサコフ! ロシア五人組の作曲家だよ!」

 ぱちくりと近衛君は目を丸めている。

「ってことは⋯⋯アイツ、ロシア人?」

 何かハッとしたような表情を見せてくる近衛くんに、芥川さんは首を傾げている。

 

「アンタがそこまで把握していないなんて、珍しいし、なんで辛そうな顔を

したんだろうね」

「多分⋯⋯なんだけど」

 要が手を挙げて話に入ってきた。

「目の色が嫌いとか?」

 私も同じ思いだと思っていたら。

「いやいや、まさか。生まれつきの色を嫌うやついるか?」

 近衛君が口に出していた。

 それを聞いた芥川さんは、すごくむすっとした顔で拳を握って、何かの構えをした。

 

「アンタはねえ? もし、瞳の色でいじめられたとか、そういうのもあるのかも知れないんだよ」

 そう芥川さんが近衛君に言い聞かすと、近衛君はみるみる縮こまった。

「オレらの班のメンツに緊張してたから、少しでもほぐそうとしたのに!」

 すごく落ち込む近衛君に要が間に入ってきた。

「また悪気は無かったんでしょう?」

 優しく要は近衛君に言うと、近衛君はぐずりながら返してきた。

「うん。マジできれーな宝石みたいな青い色だったからさ⋯⋯褒めたんだよオレは!」

 まるでお母さんと子どもみたい。

「⋯⋯本当にアンタの才能は⋯⋯」

 芥川さんが乾いたような表情で落ち込んでいると、十七時を告げるチャイムが鳴った。

 

 私はただ黙って三人のやり取りをしばらく見ていると、誰かが聞いているのか教室からピアノの曲が聞こえた。

 綺麗だけどどこか寂しい曲。

 なんだか他人事じゃない曲調。

 今の私は綺麗に着飾っているけど、お祖母ちゃんがやってきたらこの勉強会で会った、みんなとも離されるのかな。

 そういう寂しさを感じる曲だった。

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