PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅣ

二〇三〇年 五月二十一日

 

 昼休み、体育館裏。

 

「とりあえず、あけみっちの部活は休ませたよ」

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)は話を切り出す。

「ありがとう。変化は?」

 瀧慈宗(たきちかむね)は聞く。

「よしりー以外は特に変化はないよー、強いて言うならあけみっちが聞いた曲が気になってたぐらい」

「⋯⋯分かった。今日も帰りお願いするよ」

 瀧は何かを考えた素振りを見せると、三善明美についての報告が終わったので芥川は話題を変える。

 

「そういやさ、よしりー今日はどうなったの?」

 リンゴジュースのストローから離すと、今日の事を聞き出していた。

「⋯⋯アヤマロウト、シタラ、サケラレテマス」

 えらい落ち込み様で、弁当の中身がなかなか減っていないのが証拠だ。

 ショックのあまりカタゴトで喋る近衛由成(このえよしなり)を見た瀧は、深刻そうな雰囲気を醸し出していた。

 

「よく分からないけど、君も謝罪を拒絶されたのだけは伝わって

くる」

 経験者は語るよなと山田士狼(やまだしろう)が箸を動かしていると、近衛が素早く反応した。

「”も”って、ひょっとしてお前にとっては鴨沢レベルって事か!?」

 鴨沢レベルという事は、人を傷つけた事をやらかしたのかと、口を動かしながら士狼は推測していた。

 くわっと口を大きく開けて吠える近衛に対して、瀧は冷静に対処する。

「その察しの良さ。なんで、人の会話方面に適応されないのか⋯⋯不思議だよ」

 ペットボトルのお茶を飲む瀧。

「だよねー褒めたつもりが、人を怒らす泣かす才能さえ無ければ、本当完璧」

 芥川は目を真っ直ぐと伏せて、近衛をジトりと見ていた。

「俺もたまに友達の事を言われると、頭がぐるぐるする」

 近衛の発言すると。

 たちまち布に覆われて目先真っ暗にされて、思考がおかしくなる。

 と士狼は気持ちを明かす。

 

「⋯⋯泣いていい?」

 三人の発言に近衛はプルプルと口を結んで震えている。

「あ、ひょっとしてようやく凝りた?」

 近衛と幼馴染の芥川は目を丸めて見ていた。

「なんてたって、今回は一緒に楽しもうと思ったやつだからな⋯⋯林間学校、どういう顔をすりゃあいいんだよ!!」

 仰け反り天空まで響き渡る近衛の声。

 相当ショックだと伝わってくる。

「え、同じ班なの⋯⋯」

 芥川は引きつり笑いをしたまま硬直してしまった。

「そうだよ! オレ達の事を楽しそうだって寂しそうに見るからついな⋯⋯で、オレの事見た目で怖がるタイプだったから」

「失言したわけか」

 瀧がトドメの一撃と言わんばかりに終わらせると、近衛は瀧の足元に縋った。

「そーだよー! 助けてくれよー!! 委員長サマー!!」

 借金取りに返済延期を求めるドラマのシーンだなと、観た事があると士狼は思った。

 というか滝の事、苦手じゃなかったのかと士狼は近衛の距離感について、よくわからなくなってきた。

 

「頼まれてもな⋯⋯僕はそれについて勉強しているんだ」

 瀧は優しく近衛を押しのけて、眉毛が困っている様に見えた。

 瀧に対して芥川はこうコメントした。

「ちかりん、ストイックだね」

 その言葉に瀧は照れ臭そうに、眼鏡を上げて一呼吸。

「⋯⋯どんな事を言ったかは知らないが、不登校にさせていない時点で和解の余地はあるんじゃないのか?」

 その言葉に士狼は豆鉄砲に撃たれた鳩のような表情をする。

 過去の失敗を話すと具合が悪くなっていた瀧が、若干どんよりと見える顔ではあるが、アドバイスとして話せている事態ゆえの士狼の表情である。

 みるみると晴れやかになっていく、近衛の顔。

「分かった。アイツは顔を褒めるのは止める」

 うんうんと真剣そうに近衛は頷く。

 

「⋯⋯注意した時から思っていたけど、今ので確信した」

 その態度を見てふと瀧は言い出してきた。

「えっ? なになに、ちょっと怖い⋯⋯」

 なので、近衛は身構えた。

 顔を引きつっているのは、何か注意されるのではという警戒を感じさせる。

「君のこういう素直なところは、良いところだと思うよ」

 反応は薄めだが驚いているのが分かる表情を士狼は作り、箸を落としてしまった。

 

「⋯⋯山田くん? 僕はそこまで冷たくは⋯⋯」

 士狼は我に返ると今度は遅れて、嬉し過ぎたのか、壊れたらしい近衛が瀧に抱きつこうとしているのを目撃する。

「瀧ーーー!!」

 弁当を持ち上げて軽々と近衛を避け、近衛の腕は虚無を抱き、瀧が見下ろす形となった。

「近衛くん、僕はまだ弁当食べてるんだけど! こぼすって」

 そんな様子を見た士狼は不思議に思いながら、芥川に視線を送る。

 

「⋯⋯なあ、今日の近衛の距離感、おかしくないか?」

 眉毛をむむと寄せて、呆れているような表情を見せた。

「めちゃくちゃ落ち込んだ反動と見た」

「なるほど」

 士狼は頷くと、近衛にまとわりつかれて困り果てたような表情の瀧がこちらを見てくる。

「芥川さん少しお願いがあるんだけど、いいかな?」

 今日の集会は瀧の言葉で終わった。

 

 

 放課後。

「⋯⋯」

 三善明美(みよしあけみ)は今日も三人と一緒に玄関まで向かっていた。

 近衛由成(このえよしなり)は、コルサコフというロシア人の生徒に再び話しかけても、避けられてばかりであり、トボトボと肩を落として歩いている。

 幸恵はなぜか顔が強ばっており、妹の(かなめ)の呼びかけで知っている幸恵になった。

「⋯⋯要ちゃん。昨日私が聞いた曲なんだけれども」

 明美の友人でもある要は、ピアノを習っているので、きっと鼻歌で通じるだろうと試す。

 

「多分、オペラ『蝶々夫人』で『ある晴れた日に』だ」

「チョウチョフジン?」

 要以外のみんなは首を傾げている。

「芸者の蝶々さんがアメリカの海兵さんと結婚するんだけど、アメリカに行っちゃって、その気持ちを歌にした曲なのよ」

 幸恵が何か考えている仕草を見せると、代わりに近衛が喋る。

「その海兵ってやつなんで一緒に連れて行かなかったんだ、結婚してんだぜ! かわいそうだろうが」

 腕を組んでムッとした表情で、恐らく蝶々さんに気をかけているのであろう。

「由成くん鋭い。お手伝いさんも同じ事を言ってたの」

 要は笑って話を続ける。

「外国人の旦那さんが故郷に戻るって、あまりない事だって」

 二人のやり取りを聞いてそういうお話なのねと、明美は思う。

「たく⋯⋯この二人さ、ハッピーエンドでいてくれよ」

 その言葉を聞いて、要の表情が曇り出す。

「⋯⋯そのね⋯⋯蝶々さんは──」

 近衛はその反応を見てみるみる青ざめた。

「ひょっとして、またオレ()()()ヤツ?」

「うん」

 要の頷きと同時に両腕を抑えて体をのけぞり始める近衛に、三人も驚いた様子だった。

 

「⋯⋯まさか死んだ?」

 体を戻すと近衛は真っ直ぐと要を見る。

「蝶々さんがね」

 ようやく話の輪に入ってくる幸恵。

「びっくりした。よしりー、すごいリアクション芸だったよ。

 Chirp(チャープ)CUCCOC(クックコック)に投稿したらバズりそう」

 幸恵が少しよそよそしく見えるのは気のせいだろうかと、明美は感じていた。

「⋯⋯もう一回やってみっか?」

 したり顔で近衛は幸恵に対して返すと、幸恵は気だるそうに応答してきた。

「イイデスヨ⋯⋯」

 様子がおかしいと明美は思っていたら、もっと幸恵と隣りにいる友人が口を挟んできた。

「今日のゆきねえ、変だね。どうしたの?」

「あははーなんでもない」

 強ばった表情を見て怪しいと明美は思うと近衛が割り込んできた。

 

「もしかして、弁当食った時に話した怪談話が効いてんの?」

 思わず幸恵に視線を向けてしまった。

「えっ幸恵さん、ホラー駄目なの?」

 要は不思議そうな表情だ。

「え、ホラー映画なら由成くんとよく見るけど? 私は血とか苦手だから⋯⋯」

 すると幸恵はいつもの調子で近衛につっこんだ。

「違う、違う。アンタがPUFF CUTES(パフ・キューティーズ)について熱弁してたの思い出しちゃったの」

「そんなにテンション下がる事を言ったかオレ!?」

「言ったというより、話す態度がすごい顔をしてたから呆れてたトコロ」

 まるで打ち合わせしたかのような夫婦漫才に、明美は目を輝かせ拍手をしてしまった。

「見てて仲が良いとは思ってたけど、ここまで息ぴったりなのすごいよ」

 視線が二人に向けられる。

 

「二言目には付き合ってんのって、友達によく言われる」

 幸恵は苦笑いを浮かべて近衛に視線を向けている。

「いや、オレだって付き合ったら、尻敷かれそうでお断りだね」

 腕を組んで、嫌そうな表情を作る近衛。

 そんな二人を要はあらあらうふふと伝わってくる、笑顔で見守っていた。

「そうなの? 残念」

 明美は残念そうな表情を作る。

「もしもし、芥川さん」

 凛とした瀧の声が響き渡った。

 それと同時にチャイムまで鳴る。

「うわ! ちかりん!」

 幸恵が胸ポケットからスマートフォンを取り出して、何故か緊張が伝わってくる表情で液晶画面を眺めていると、ピアノの音が聞こえた。

 

「この曲は⋯⋯」

 息を呑む美しくも胸を締め付けられる曲調に明美は教室のドアを見つめる。

「ある⋯⋯晴れた日に⋯⋯」

 要も似たような感覚に陥っているのか、曲名を紡ぐ。

「聞いているのは誰?」

 明美がドアに近寄ろうとした途端、近衛の声が背後から聞こえた。

「あー三善。オレの犬コレクションの写真でも見る?」

 その言葉に明美は振り返ると、にこりと微笑んだ。

「え、見たい!」

 明美は目を輝かせて近衛の元へと歩いていると、夕闇に溶け込みそうな程の繊細な旋律に混じって、幸恵は思い詰めた表情でこちらに向かって走っていく。

「みんな?」

 要は青ざめて立ち尽くしているし、幸恵を追うように近衛はカバンを持ったまま走っている。

 一体、何があったのかと明美は思った。

 そして、ピアノよりも幸恵の叫び声が耳に届いた。

「後ろ!! 伏せて!!」

 明美が肩まで垂らした艷やかな黒髪を揺らすと、そこにいたのは──

 槍盾を持ち顔らしきものを白い羽で覆った、無機質な異形が明美の目に映った。

 

「え、なにこ⋯⋯」

 明美は突然の出来事に思考が停止していると、幸恵のタックルで槍を避けさせてもらい、近衛はカバンを振り回して、槍を当てて床につかせた。

「おお、おお。あ、当たったーー!!」

 近衛は声を震わせて顔を青ざめている様子が思い浮かぶ口調で叫んだ。

「よ、よ、よしなりくん!! だ、だ、だ、だっ!」

 スプラッターホラーが苦手な要からすれば、過呼吸ものだろう。

「由成! やるじゃん!」

 幸恵に立ち上がらせて貰うと、急いで明美も要の元へ合流する。

 そして後ろを振り向くと、異形はゆらりと炎をモチーフにした服らしきものを揺らす。

 次に黄金の輪をあしらった逆三角錐の脚と背中の白い翼を動かし、こちらに向かってくる。

 

「やべ、逃げるぞ! 要ちゃんも!」

 近衛は恐怖で動けなくなった要の手を掴むと、逃げるように促すのを明美は見た。

「アレがちかりんとろうちんを、襲った奴なのー!!」

 幸恵は信じがたい真実を叫びながら走っている。

「し、白い大きな翼とな、なんか。『白鳥の湖』みたいだ、だ、だねねねね!」

 口調から伝わる動揺している要。

「あんなのオデット姫じゃなーい!」

 幸恵は異形の正体についてそう否定する。

 何かバレエの作品なのかと明美は疑問に思い、近衛も顔を青ざめる。

「オレは二度と槍に刺さりたい、なんて思わねーからなー!!」

 その言葉に幸恵はしかめっ面で返した。

「はあ!? なんの為にろうちんに呼ばれたと思ってんの!」

「オレだって最低野郎って思ったんだ! 気の迷いだったんだ!! だから許してーッ!!」

 二人の言い合いを聞きながら明美は後ろを見ると、閉じた教室のドアをすり抜け、姿を眩ませていた。

 

「色々と聞きたい事はあるけど、あのお化けは⋯⋯私に何をするの?」

 明美も唇を震わせ恐怖でいっぱいになっていた。

「将来の不安を持った子を変なところに連れて行って、殺される」

 幸恵の言葉に明美の表情は曇った。

「⋯⋯今の私だね」

 そして明美は思った。

 自分を貫き茶道家になるか、両親を救う為に祖母の操り人形になるか。

 みなは前者を勧め擁護するが、答えは霧中のまま。

 自分はどちらの道へ選べばいいのだろうか。

「階段だ! とりあえずあそこに逃げるぞ!」

 

 近衛の指示で、四人は急いで階段を下り踊り場で息を整える。

「⋯⋯たく、ホラーゲームかよ」

 よくわからない例えをする近衛を見ながら、明美は息を荒くしていた。

「芥川さん! 近衛くん! 聞こえているか!? すごい叫び声だったけど」

 瀧の声が響き渡る。

「ち、ちかりん。アンタ達を連れ込んだヤツに追いかけられてたの」

 スマートフォンの液晶画面に向かって幸恵は話している。

「近衛。槍に刺されたいってどういう事だ」

 山田の声が聞こえた。

 口調は淡々としているが、微かに熱が籠もっているのが伝わる。

「先に言った通りのまんまだ、本当にごめんなさい⋯⋯思った時はこれ言ったら絶交するだろうなと思って⋯⋯」

 軽い口調はどこへ行ったのだろうかというぐらい、近衛の表情は重く泣き出しそうだった。

「⋯⋯自覚はあるみたいだな」

 圧を感じる山田の口調に近衛の小さな体はビクンと震える。

「許して、許して」

 ネットで見かけた可愛らしい動物のキャラが、震えながら泣いている一コマを近衛は再現する。

 

「もう良いだろ。今回は僕達に向けてじゃなくて、かつて思った事を口走っただけだから」

 つかさず瀧がフォローし出すと、近衛の顔は晴れやかになる。

「瀧ィ⋯⋯カミサマか?」

 勉強会で思っていたけど、リーダーシップがすごいなと明美は微笑を

 

 微笑を

 

 

 

 浮かべれなかった──

 

 ドクンと心臓が跳ね上がり、意識がぐにゃりと朦朧しだす。

 視線を胸元に向けるとそこには伸びた槍があった。

 

 真っ先に駆けつけたのは、幸恵でも近衛でもなく、友人の要だった。

 後ろを振り向くと、壁から異形が持つ槍が貫いていた。

 槍に貫かれたのに痛みも血も出ないのは不思議な感覚だと、明美は思ってしまった。

 そして串刺しのまま引っ張られていく。

 垂れ下がった腕を要が掴むと、泣きじゃくりながら引っ張っているのを見た。

 

「嫌だ! 明美を連れて行かないで!!」

 抵抗虚しく、要も一緒に引っ張られていく。

 その時、三善明美は悟った。

「⋯⋯そうか、私もお祖母ちゃんと向き合わないと駄目なのね⋯⋯」

 意識が遠のいていく。

「何言ってるの、明美ちゃん! 一緒に帰ろうよ! ねえ!」

 幸恵と近衛も必死な表情になって、こちらに向かってくる。

 その様子と両親の事と勉強会からの出来事を思い返す。

「⋯⋯私は独りじゃないのね」

 明美の閉じた双眸(そぼう)に涙を浮かべて微笑むと、夕闇に大泣きする友人の表情を見ながら意識を失った。

 

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