PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅥ

 なるべく救出を急ぐために、休憩は最低限に抑え、しばらくは戦いを控える事にした。

 休憩を挟みながら、ついに劇の告知ポスターが貼ってある掲示板もどきの場所に辿り着く。

 瀧はなんとか余力を取り戻したらしく、以降支援の技は頻繁に使わないように約束した。

「蝶々夫人を三善明美(みよしあけみ)が演じるか」

 瀧は扉に向かって、ポスターの宣伝文句を復唱していた。

「なあ⋯⋯(かなめ)によると死ぬんだよな蝶々夫人」

 スマートフォン越しで聞いた要の解説を思い出す士狼。

「らしいな。願わくば、劇の結末と同じにならないで欲しいが⋯⋯」

 瀧は頷くと、黒い教室のドアを引いて一緒に入っていった。

 

 

 風景は瀧の時と変わらず、豪華な造りの劇場だった。

 今回は早く救出しに来た為か赤い緞帳(だんちょう)が降ろされたままだった。

「瀧は適当に座って、俺が三善を探してくる」

 赤いビロード生地のふかふかと座り心地が良さそうなたくさんの客席を瀧に座らせると、士狼は舞台に向かって降りていく。

 静かで薄暗い歌劇場。

 制服のテール部分を揺らしながら辺りを見渡して、三善明美(みよしあけみ)の居場所を探していた。

(瀧は確か舞台にいた筈だから、三善もきっと⋯⋯)

 三段目付近まで足を動かしていると、ブザー音がなり始めた。

 その音を聞いて士狼はびっくりすると、緞帳が上がっていく。

 舞台にいたのは、胸に穴が空いた黒い五線靄とノイズを纏った巨大な異形。

 そして、横たわる三善がそこにいた。

 

「三善!」

 瀧も一緒に彼女の名前を叫ぶと、ぴくりとも動かない。

 その代わり黒い影がこちらを向いた。

「これはこれはお客様。本日はお日柄もよく」

 ペコリと挨拶をした黒い影に指揮棒を向けて、ヴァルターを召喚した。

 指揮棒の動きに合わせて、金のガイコツマイク風の両刃の剣を振りかざし、斬りにかかるが黒い影は男性の影を出現させて、攻撃を防ぐ。

「最近、舞台でも礼儀がなっていないお客様が増えた事⋯⋯!」

 三善の声を加工したような声で喋り、ヴァルターの剣を弾き返す。

「まだだ!」

 士狼は指揮棒を振るうと、火炎攻撃を繰り出すが、男性の影により吸収されてしまった。

「効かない!?」

 士狼は焦りを見せると、黒い影は嘲笑うかのように話しかけた。

「開演を待たない、お客様は嫌いよ!」

 男性は剣を防いだ銃を構える様子を見た、士狼は防御を指揮した。

 弾丸を剣で弾かせ、舞台のどこかに着弾し破壊音が耳を切り裂く。

 その音で気づいたのか、三善が起き始めている。

「⋯⋯あれ? ここは⋯⋯山田君!? 何その金ピカ?」

 ヴァルターを見て驚く三善に対して、士狼はさらりと返す。

「ペルソナだ」

 またしても直球返答。

 三善の反応は首傾げであった。

「⋯⋯よくわからないけど、素敵な帽子」

 出した答えは、ヴァルターのつばが広い大ぶりの羽根飾りがついた黒い帽子についての感想であった。

 

「ようやく起きたわね」

 黒影が三善に話しかける。

「またお化け⋯⋯なの?」

 三善は息が詰まりそうな表情と口調で黒影に問いかけた。

「お化け? 失礼ね。わたしはあなたに助言しにきたのよ」

 三善の加工されたような声はさぞかし困惑するであろうと、士狼は男性を睨み剣と銃がぶつかりあう。

「助言?」

 三善は聞き返すと、士狼は瀧の戦いを思い出す。

「やめろ、話すな!」

 今の三善は祖母について相当傷ついている筈だと、そんな精神状態でアレを聞かせてしまったら、三善の心は折れる。

 それが隙になったのか、ヴァルターの鎧ではない左肩に銃弾が通った。

「っ!」

 士狼は左肩を抑えて痛みに悶えると、大きな手のひらに乗せられた。

 ファウストだ。

 士狼は振り返ると、立ち上がった瀧を見た。

 瀧は指揮棒をクイッと寄せるように振るうと、ファウストの手のひらに乗せられたまま後退されていく。

「瀧!」

 士狼は痛みに顔をしかめながら彼の名を叫ぶ。

「君も休憩だな、左肩の治療ぐらいはできるようになったから」

 茶髪頭を揺らして瀧の元に寄せられながら、黒影と三善のやり取りを聞くしか無かった。

 

「山田君!?」

 三善の切羽詰まった声が響き渡る。

「ははは、とうさんもかあさんも、ああいう風に苦しんでいるよね」

 黒影は語り出すと、舞台以外の照明が落とされた。

「どういう意味?」

 三善の詰まった声が聞こえる。

「とぼけてるんじゃないわよ、おばあちゃんの事よ!」

 そこは芥川姉妹から聞かされた。

 医者になれと強要してくる祖母だと。

 だから引っ越して音信不通状態にした。

 だが、祖母は思ったよりもしつこかった。

 執着、執念、束縛。

 まるでそこに座れと強制的に座らせようと、肩を掴まれた気持ちであろう。

 

「そうだった。お化けさん、実は私はどっちを選べばいいか分からないの」

 あろう事か黒影に相談しだす三善に、士狼は目を見開いた。

 何、相談しているんだと。

「なんか色々と強いなアイツ⋯⋯」

 士狼は呟いた時ゆっくりと降ろされると、瀧はその様子を見ながら治癒をかけてくる。

「未来の不安だって、前もって明かされているからもあるのかもな」

 瀧慈宗の時は、狙いすらも明らかになっていない状態であったのも大きいのであろうと、瀧は推測をする。

「つまり、覚悟決めたって事かよ」

 勉強会で瀧とお似合いそうだと思った事が、当たってしまったらしいと士狼は思った。

 

「どのみちシャドウの助言は、煽りにしか聞こえない。早く口を閉ざさないと、三善さんが傷つく可能性がある」

 瀧は凛々しい表情で黒影を睨むと、士狼はふとアイディアが舞い降りてきた。

「そういえば。お前のペルソナ、敵の情報分かるんだっけ、分析できるか?」

 治癒を終えると瀧は頷くと、指揮棒を振るう。

「⋯⋯話せる方の詳細は分からないが、君を攻撃した方は”愛した夫”という役名で火の攻撃を弾くだそうだ」

 瀧の分析結果を聞くと、士狼はハッとした表情で瀧を見ると、同じ反応だった。

「蝶々夫人も()がいる」

 士狼が最初に口に出すと続けて瀧の見解が始まる。

「そもそも蝶々夫人は歌うお芝居だ。ひょっとして、敵の名前も内容になぞらえているのか?」

 士狼は肩を回して調子を見ながら返す。

「行くぞ!」

「ああ!」

 士狼の声掛けに瀧は応じ、二人は劇場を駆け下がっていった。

 

 

 三善明美は五線が書かれた帯に束縛された黒いヒトガタを息を呑んで、向き合っている。

「どっちを選べばいい? 決まってるでしょ、あなたが医者になれば全部丸く収まるの」

 歪んだ明美の声が舞台に響き渡る。

 その台詞に合わせて照明は別の黒影が舞台の上に現れる。

 シルエットからして女の人だ。

「明美が医者になればきっと未来は安泰になるよ、お父さんは失敗しちゃったから、次は明美の番」

 しゃがれた老女の声。

 明美は思い出せなかったが、台詞の内容でその声の主が誰なのか分かった。

 

「おばあ⋯⋯ちゃん」

 銃撃音と剣戟と打撃音と冷気を背後に、舞台はドラマチックな展開が繰り出される。

「だからアンタは医者にならないといけないの、失敗しないようにね」

 女は黒影の元へ行くと、黒影は鳥の脚を思わせる肉塊は、強く床を踏んだ。

「わたしは、おとうさんの代わりなの!」

 ノイズかかった声はヒステリック。耳が痛くなりそうだと、明美は顔をしかめた。

 隣に寄り添ってきた女をなんと黒影は風を巻き起こして、吹き飛ばす。

 そしてそのまま、山田達が率いるペルソナに向かわせた。

「な!」

「え!?」

 その様子を見た明美は、開けた口元を手のひらに添えてしまった。

 

「二人とも!」

 舞台から降りようと、明美は駆け寄ろうとしたが前に黒影は立ち塞がる。

「まだ、まだ終わっていない!!」

 照明は明美と黒影に焦点を当てる。

「だからあなたがおとうさんの代わりになれば、いいの全部、解決するよ」

 歪だが優しく甘い声。

 明美は目を見開き、視線は左右行ったり来たりを繰り返していた。

 その言葉を聞いた瀧慈宗は言い返してきた。

「乗るな! 三善さん!!」

 真っ直ぐな言葉。

 明美の心は定まらない。

 すると黒影は明美の耳元まで屈んで、こう囁いた。

 

「いいの? おとうさんとおかあさんを捨てていいのかな?」

 あの土砂降りの日を思い出す。

 自分の親戚筋までも使ってと泣き崩れる母。

 執念を燃やす母親に対して、毒づき苦しそうにしていた父。

 明美の心はそちらに向いていく。

 

「おかあさん泣いてたよね、おとうさん悲しんでいたよね? あんな思いをさせたくないよね?」

 明美の表情はみるみる青ざめて絶望に染まっていく。

「私は⋯⋯私は⋯⋯」

 祖母に向き合うつもりで悟ったのに、それを言われると何もできなくなる。

 自分の夢を全力で応援してくれた大事な家族。

 その家族が自分の犠牲で助かるというならば、三善明美は───

 

「私は⋯⋯させたくない」

 明美を当てていたスポットライトが消えて、黒影だけがスポットライトを浴びた。

「はははは!! タイトルロールはわたしよ!!」

 五線が書かれた帯は解かれて、腕が解放されながら黒影はそう宣言した。

 暴風が吹き荒れる。

 項垂れ膝をつく明美。

 彼女の編み込みハープアップの黒髪と、規定丈の橙色のラインが描かれた黒いスカートが激しくはためいた。

 

 

 黒影の解放を機に黒い男女が舞台へと戻っていく。

 吹き荒れる風に身動きが取れない間、ファウストの本が光りだす。

「喋る方に名前が⋯⋯」

 瀧はファウストが送られているであろう状況を呟いておた。

「⋯⋯芸者夫人のプリマシャドウ」

 瀧はそう読み上げると、士狼は思い出す。

「⋯⋯そういや、瀧のシャドウも”劇の一番手(プリマ)”って言っていなかったか?」

 その言葉に瀧は頷いた。

「言ってたな」

 士狼は風に煽られながらも話を続ける。

「プリマシャドウってそういう意味なのか?」

 瀧は返した。

「帰ったら調べるか」

 制服のテール部分は揺れは徐々に大雑把になっていく。

「そうだな」

 士狼は舞台を睨んで白銀の指揮棒を真っ直ぐと向けた。

 

「瀧! 敵の情報は!?」

 瀧は小さく指揮棒を振るうと、

「判明しているのは、夫が炎の攻撃を吸ってしまうところだな。飛んできた方の役名は老女。弱点判明は時間がいる!」

 銃弾が飛んできたので、瀧は氷結の壁で防ぐと、士狼は指揮棒を薙ぐ。

「分かった! ヴァルター!!」

 一閃、黄金の剣は男に振るわれる。

 斬撃は効いてはいるがまだ足りないようだ。

(っ! 他に決定打になるのはないのか)

 男を睨むと、プリマシャドウと言われた黒影は鍔がない刀のようなものを掲げ、風を起こす。

 幸いヴァルターは耐性があるので大事には至らなかったが、じわじわと削られて瀧の負担が増す。

(どうすれば⋯⋯!)

 何か方法はないかと考えると、女が黒い息を士狼を襲う。

 

「⋯⋯あ」

 ヴァルターは消滅し、士狼は膝をついて床を見る。

 虚脱感が士狼の心を支配する。

 もう慣れた。

 慌ただしく移り変わる情景を眺めながら、ポツリと呟く自分がそこにいた。

「お⋯⋯し⋯⋯ん!!」

 瀧の声が聞こえる。

 何を言っているのかかすれて、聞き取れない。

「ゔぁ⋯⋯は⋯⋯くら⋯⋯に⋯⋯よ⋯⋯のか!」

 三善のシャドウの言うとおりだ、自分が適応すれば辛い思いはしない。

 欲しいものは得はしないが、誰も悩まないし苦労もしない。

 だから、いつもの事だと済ませるのだ。

 そう暗闇にたゆたっていると、カツンとヒールの音が聞こえた。

「お客様。どうやら暗闇に囚われてしまいましたね」

 ダイアナの声だ。

 

「⋯⋯くらやみ?」

 士狼はぽつりと呟く。

「ええ、でも今のお客様は大丈夫ですよ」

 青いドレスのレースをあしらった袖はふわりと舞う。

「お客様には今まで築いた絆がありますから」

 三枚のタロットカードが士狼の手元に落ちていく。

「ワイルド。それは無限の可能性を持つ、未知数の力。流転(るてん)の身のあなた様なら、使いこなせる筈」

 ヒビが割れる。

 

「きょうふ⋯⋯も⋯⋯やっか⋯⋯だな」

 瀧の声が鮮明になって黒い破片が崩れ落ちていく。

調(ちょう)が切り替わるようにと、指揮棒で呼びかけをするのです」

 ダイアナの言葉に士狼は困惑する。

「相変わらず意味が⋯⋯」

 掌のタロットカードが消滅すると、脳内には選択肢が広がって士狼は思わず呆然としてしまった。

 いきなり高級品を貰ったような感覚であり、戸惑いの表情をダイアナに見せると、ダイアナは微笑んだ。

「それではいってらっしゃいませ、お客様」

 ダイアナの声を聞いてようやく現実に戻ってきた。

 

「っ! 俺何かして⋯⋯」

 正気を取り戻すと瀧が庇う形で立っていた。

「⋯⋯大丈夫か? 一対三は流石にキツ⋯⋯イ⋯⋯」

 瀧が息を荒げて膝をつくと、士狼は焦りだす。

「瀧! ごめん! 俺なんかぼおっとしていて!」

 自分のせいだと謝ると瀧は眼鏡を上げる。

「敵の攻撃で弱点と恐怖を突かれて身動き取れなくなっていたんだ、仕方がないよ」

 冷静に返せる瀧を見て、本当に大人だなと感心しつつも、先程のダイアナの言葉を思い出す。

 

(切り替わるようにって⋯⋯言われてもな)

 士狼は置かれた高級品を眺めながら、瀧に聞く。

「瀧。情報はどのぐらい集まった?」

 瀧は汗を拭って一呼吸置くと凛々しく答えた。

「まずあの老女は暗闇攻撃をしてくるが、君のペルソナだと不利だ。オマケに恐怖にさせる効果もある」

 そうかと士狼は頷くと集中する。

 

「切り替わるように⋯⋯切り替わるように⋯⋯」

 士狼は小さく唱えていると、足元に青い炎とシャープとフラットの粒子が輝き舞い始める。

「それとシャドウの方は風攻撃を使ってくる」

 老女の攻撃が再び繰り出してきたので、瀧は杖を振るわせ老女の脳天に食らわせた。

「まずい! 山田くん!」

 瀧の声が響き渡る。

 呼び出すイメージが湧いてきた。

 指揮棒を小さく掲げると、持った右手をくるりと回して打開策(ペルソナ)を繰り広げた。

 

「カハク!」

 割れたガラスの音と共に、赤肌の白いチャイナ服を纏った蝶の羽根を持つ妖精が現れ、黒い霧を無効にしていく。

「違うペルソナ!?」

 瀧とシャドウは驚愕すると、じいっとカハクを見つめてきた。

「あれ、闇対策はいいけど僕の攻撃に弱い上に⋯⋯炎攻撃⋯⋯」

 瀧は首を傾げると、士狼は威風堂々で返した。

「いるにはいるけど、今の俺にはこれしか無理みたいだ⋯⋯」

 相応しいペルソナが浮かび呼びかけようとしたら、却下されてしまったと士狼は困った表情を浮かべると、瀧は返した。

「だったら夫の方は僕が引き受けよう、老女の方は炎について気になる点はない!」

 氷の粒子が照明に当てられてキラキラと輝かせる瀧に合わせて、士狼は老女の方へと標的を変えた。

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