PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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内容参考元:https://w.atwiki.jp/oper/


Chapter7『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago.』 ActⅦ

 赤肌の妖精を繰り出した山田士狼(やまだしろう)を、明美がぼんやりと眺めている。

 タイトルロールは決まったと宣言した黒い影の腕は解放される。

 そして、番傘のシルエットをしたモノを握りしめた。

「⋯⋯なに、これ⋯⋯」

 苦しむ両親を出され、向き合う覚悟をねじ伏せられたそれは、明美を見下ろしてくる。

「さあ、本番よ!」

 舞台に黒影よりも小さな男女を引き寄せ、仕切り直すと瀧慈宗(たきちかむね)と山田が対峙する。

「反抗する子は嫌いだね」

 女は瀧に向けて闇を吹きかけるが妖精がそれを打ち消していく。

 

「な!?」

 女が攻撃を効かないと狼狽えると、山田がいつものよいうに返した。

「無駄」

 三善が息を呑んでその戦いを見つめていると、黒影は番傘をくるりと回す。

「大人しくいれば、苦しまないで済むのにね」

 火炎が上がり、女は苦しむ。

「ヴァルターの時に比べて威力が⋯⋯なるほど、火炎ブースターか!」

 瀧が指揮棒を動かすと、氷の盾が明美の瞳に捉えた。

「ちょっと! あなたはここでしか役に立たないのに!」

 火達磨になった女は黒影に近寄ってきたので、山田達はペルソナと共に追いかけると男が援護射撃を繰り出してきた。

「スライム!」

 赤い妖精は指揮棒の動作と共に消えると今度は、緑のヘドロ状の魔物が二人の盾となる。

 

「地味に痛い⋯⋯」

 困ったように山田が呟く。

「ここでしか役に立たないか、三善さん」

 瀧はそう話しかけてくると、氷の壁を作り上げて杖で壊し、数多の破片を降らせて男を怯ませる。

「え?」

 明美は困惑する。

 一体何が言いたいのだろうか。

 スライムは男に触り、銃を落とさせると続いて瀧は指揮棒を振るうと、凍らせようと冷気を襲わせた。

 

「こいつらは三善の不安から生まれたヤツらだ。だったら、アンタに心当たりがある筈だ!」

 指揮棒を小さく回す山田の台詞に、黒影は両腕を羽ばたかせ風を放つ。

「黙れ!」

 ノイズ混じりのつんざく声は響き、明美の前髪は揺れる。

「⋯⋯心当たり」

 ヴァルターが肩鎧の赤いマントをきらびやかに舞い、風の中を突っ切る。

 金の両刃剣はもう一度黒影に斬りかかる。

 ガキンと金属と金属がぶつかり合う音が劇場に響く。

 どうやら、黒影は番傘に刀を仕込んでいるらしい。

 二体の鍔迫り合いの最中、明美は灰になった女を馳せる。

 

(⋯⋯ひょっとして、私はお祖母ちゃんの事を邪魔だと思っているの?)

 十年前に遠ざけられた事もあってか、恐怖や呪詛の対象だけで済まされていた。

 だからなのか、先程まで向き合うべき相手だと認識していた。

 

「なんで! 苦しめる方へ行こうとするんだ! あなたが諦めればみんな幸せに!」

 黒影は弾き返すと、刀をこちらに向けて襲いかからんとする。

「させるか!」

 瀧の声でファウストは氷の壁を三善の前に作り盾となる。

 私が諦めれば全てが解決する。

 そうすればお父さんもお母さんも私も苦しみから逃れられる。

 明美は目を伏せていると、黒影は悔しそうに観客席の二人を見た。

 

「そうだ。()()()()()()()()苦しまない」

 山田士狼は黒影に同意した言葉を吐く。

「何を言ってるんだ山田くん!?」

 瀧は慌てふためいた表情を作っていた。

「けど⋯⋯そうしたら、欲しいものは手に入らない」

 その言葉に明美は目を見開く。

「私の欲しいもの⋯⋯」

 

 脳裏に浮かぶのは夢のきっかけの茶道家であった。

 明美の呟きで黒影はもがきはじめる。

「違う、違う! わたしの欲しいものは平穏なんだよ!!」

 明美はそれも頷けた。

 もし近衛や芥川達の交流を知ったら、付き合う相手を選べとか言ってくるのかも知れない不安を抱いたのは嘘ではないからだ。

 

「⋯⋯僕は人を傷つけた。その人と向き合うのは、苦しいよ」

 ファウストの杖をひっくり返すと、素早く強く黒影の喉元に突いた。

「ぐあっ!」

 渾身の一撃だったのか、黒影はよろけてふらつき膝をつかせた。

「けど、平穏を選んだらもっと苦しいと思う」

 瀧は諭すような口調で指揮棒を黒影に向けていた。

「今の技こわ⋯⋯」

 山田が引いているらしい声色が聞こえた。

 それは明美も同感する。

 自分達を諭す穏やかな語りと裏腹に苛烈な技を繰り出すのは、恐怖を感じる。

 

「突き打ちだ。防具が無いとできない技だから、絶対に真似をするな、ああいう風に大怪我を負わせる」

 瀧は淡々と返すと、こちらを見てきた。

「山田くんが言っていたとおり、三善さんは欲しいものはあるのかい?」

 明美は勿論と頷いた。

 自分が欲しいものは──

 先程、脳裏に過った。

 自分が諦めれば本当に欲しいものは手に入らず、みんなと一緒に諦めず立ち向かわなかったのだろうと後悔するだろう。

 そんなのは⋯⋯

「やめ⋯⋯かひゅっ」

 喉元を突かれたのか掠れた声で抵抗し、そのまま三人に襲いかかる。

「⋯⋯山田くん! 炎の攻撃で気になる事が分かった! やってくれ!」

 瀧の号令で山田は指揮棒を掲げたのを見た黒影は、首を横に振りやめてくれという仕草をする。

 

()()()()()なんて──」

 気のせいだろうか、山田の大きく猫のように釣った瞳に、怒りが宿っている風に明美は見えた。

「言わせんな!!」

 白銀の指揮棒は降ろされると同時に、ヴァルターは歌う仕草をすると火炎の柱が黒影を包んだ。

 燃え盛る黒影はこちらに向かってくると、手を伸ばされる。

「あ、あ、あ⋯⋯わたしが、わたしが⋯⋯あきらめれ⋯⋯」

 炎の攻撃は相当苦しいらしく、弱々しく言葉を紡いでいる。

 山田士狼の欲しいもの。

 瀧慈宗の逃避すればもっと苦しむ。

 二人の発言で三善明美の出した(コタエ)は──

 明美は黒影に寄り添うと、慈悲深く微笑みを浮かべた。

 

「優しいね⋯⋯あなたは」

 苦しまない一つの選択肢を用意してきた事に、明美は感謝の意を込める。

「けど、ごめんなさい」

 茶道家の憧れまで捨てたら、かすかに望んでいた平穏を手にする。

 だが、二人の語ったとおりの苦しみが待ち受けるのならば。

 三善明美はこう宣言した。

「私はどうしても欲しいものがあるから、あなたの意見は反対する」

 その言葉に黒影の背中から五線の帯が生えて、黒影を拘束しだす。

「ああ⋯⋯自由を⋯⋯選ぶのね⋯⋯」

 火が消え失せうなだれる黒影の言葉と共に、鍵にも見える白銀の指揮棒が明美の頭上に降りてくる。

 

「三善。それをアイツの胸の穴に」

 山田がそう教えて貰うと、S字型の飾りを下に向けて、その穴に突っ込んで回した。

 ガチャリと音がすると、黒影の靄が晴れる。

 長い袖は翼のように枝分かれした、角隠しに豪奢なかんざしをつけた白無垢の女性が姿を見せた。

 

「我は汝、汝は我。誉れと愛に殉じた芸者夫人なり」

 明美の前に女性の横顔が書かれた青いタロットカードが降りてきて、消滅すると、明美はガクリと倒れた。

「三善!」

 山田の声が聞こえた。

 いや、それよりも受け取った名前を噛み締めながら二人に言った。

「⋯⋯これが私の⋯⋯二人ともなんで、隠して⋯⋯」

 明美はそのまま意識を失った。

 

 

二〇三〇年 五月二十一日

 夜、三善明美の家。

 両親をリビングに呼びつけた明美。

 極々平凡な内装は、とても家族を苦しませている存在がいるとは思えないぐらいだ。

「話って」

 父がかしこまってこちらを見てくると、明美は送られたオープンキャンパスの紙を両親に見せつける。

「⋯⋯お父さん、お母さん。私決めたの」

 その言葉に両親はざわつきよそよそしい態度を取る。

 祖母の被害者は私だけではない、私の欲しいものの為に尽力を出してくれた人達だ。

 きっと出した答えに理解をしてもらえる。

「あ、もしかして決めたの? 進路先」

 母は青ざめてこちらを見てくる。

 自分の心の中の芸者夫人は言う。

 

 ”名誉に生きられぬならば、名誉のある内に死ね”

 

「⋯⋯うん」

 芸者夫人が短刀を持ち喉を突くように、オープンキャンパスの紙を縦に破った。

「私は医者になるのは絶対に嫌だ、お祖母ちゃんに伝えて欲しい」

 凛とした表情で両親に宣言すると、両親達の顔色は安堵に染まっていく。

「⋯⋯ごめん、父さんが役に立たなくて」

 父親がぽつりと呟くと、明美は苦々しく微笑む。

「そんな事はないよ、私の為に引っ越しして」

 山田士狼は引っ越しの過去について謝っていたが、明美は気にしていなかった。

「なるべく、お祖母ちゃんから遠ざけてくれてありがとう」

 劇場で祖母のような影に対して、乱雑だったのは無意識に、祖母の事を邪魔者だと思っていた現れなのだろう。

 娘の意思表明に促されたのか、両親の表情にしまりができた。

 

「効くかどうか分からないが、父さんは母さんに強く断っておくよ」

 父親は力強く返してきた。

 

 

 

二〇三〇年 五月二十二日

 

 昼休み、体育館裏。

「というわけで、三善明美さんが偽アンナさん対策部入りした」

 瀧がそう紹介すると、近衛由成(このえよしなり)が呟く。

「死ななくてよかったなー」

 そのテンションはいつもよりも低い。

 なので、芥川幸恵(あくたがわゆきえ)がきょとんとしたような表情を作る。

「あれ? よしりー、ここは”女子だー! やったー! ”って言う筈よね」

 士狼は複雑な表情で近衛を見ると、近衛は珍しく気だるそうな表情と態度を見せてくる。

 

「あれを見せられたら、素直に喜べねえよバカ。おまえん中のオレって、どうなってんだ?」

 と顔はみるみる青ざめていく。

「やべえ、思い出しゲ⋯⋯」

 口元を抑えると、後ろを向いて口から水を出す、ライオンみたいな石像になった。

 

「ぎゃあ──────!! 汚い! 汚い!」

 芥川が飛び上がるほど仰天し、悲鳴をあげた。

 血は出ていないものの、串刺しにされ壁に吸い込まれていく様子は近衛由成にとって、かなりの精神ダメージだったのだろうと、予測できる。

 また思い出しという単語から、現場でも吐いたなと安易に想像できた。

 

「もし、近衛くんが三善さんの加入に喜ぶ反応をしていたら、今度は僕が君に幻滅していたところだよ」

 瀧が口元に微笑みを作った顔を近衛に見せている。

 だが、口元にご飯粒がついた近衛が気持ち悪そうな表情でびくっと体を震わせた。

 

「や、ヤダナー⋯⋯メガワラッテ、ナイジャナイデスカ」

 この後、芥川の妹(かなめ)は情報提供はするが、荒事は苦手なので現場には向かえない話やらで盛り上がっている。

 その最中、士狼はふと黄昏の音楽室で三善の話を聞いた吉田杏奈(よしだあんな)の反応を思い出す。

(私とどこか似ている気がする⋯⋯か⋯⋯)

 士狼は木に留まっている駒鳥を眺めながら、そうぼんやりと思っていた。

 

ChapterⅦ『If I weren't born a lady, I'd have quit piano long ago』

FIN

 




〓─〓─〓─ペルソナ解説─〓─〓─〓
『コチョウフジン』
アルカナ:女教皇
 マダムバタフライとも。
 作者が宣教師を聞いた話を基にしたとされている小説が原作のオペラや戯曲に登場する、武家生まれの少女芸者。
 ここではジャコモ・プッチーニの『蝶々夫人』を指す 。
 アメリカ海軍士官と結婚するが、夫はアメリカに帰ってしまう。
 「駒鳥が来るまで帰る」という言葉を信じ帰りを待ち続けたが現地妻扱いにされ、絶望し子供の為に自刃した。
 
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