PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter8『My art's now a masterful act for profit, charming high society.』 ActⅠ

 白い照明は薄暗い青いボックス席を照らす。

「⋯⋯彼女は彼の愛を信じ待った結果、彼の正式な妻と出会い絶望し、最愛の息子を託し散った⋯⋯これが『蝶々婦人』のペルソナ」

 ダイアナの本の上でくるくると回る青いタロットカード。

「ミヨシ様も危うく夢を託して、自刃するところでしたね」

 とダイアナは目玉の飛び出た鼻と手足が長い男に視線を送る。

「彼女の心の在り様は、優美さの中に三年も待ち続けた一途さと、身内の愛深さ同士として目覚めたのでしょうな」

 イゴールは口元を釣り上げて笑うと、タロットカードは消滅する。

 

「女教皇のアルカナを手に入れましたね、おめでとうございます」

 紫のアイシャドウを伏せて、ダイアナは微笑む。

「えっ? ”難しい説明の上に、いきなり大量のペルソナの情報を流しやがって”ですか?」

 山田士狼(やまだしろう)は不機嫌そうに話しかけられたので、きょとんとダイアナは作る。

「嬉しくないのですか?」

 士狼は頭を掻いてため息をついて、目をじとりと伏せた。

「ってきり、外の皆様は”ちーとのうりょく”に憧れるモノかと思いまして⋯⋯特にあなたの年頃は⋯⋯」

 士狼は口をきゅっと結んで、ダイアナに返答する。

 

「使い方が分からないモノを急に渡されても、扱いきれなかった、しかも、大量にですか⋯⋯」

 ダイアナは考える仕草を見せ、隣のイゴールはどこか呆れている表情でダイアナを見ている。

「あなた様にとって、ワイルドの力は過ぎた力でしたか⋯⋯大変、失礼致しました」

 ダイアナは白金の眉毛を八の字に作り丁寧に謝罪すると、話を続ける。

「おかしいですね、他のワイルド持ちはすぐに受け入れ、扱いきれたと⋯⋯仲間内から聞いていたのですが⋯⋯」

 その言葉に士狼は呟く。

 

「俺とえらい違いだ⋯⋯ご謙遜を、結果的に自分で考え扱えたので、善しとしましょう」

 すうと視界は青いボックス席から見慣れた天井に切り替わる。

 

 しばしの沈黙の後、士狼は叫ぶ。

「何がよしだ!! 頼むから能力周りは、分かりやすく説明しろよ!!」

 ダイアナの難解な言い回しはなんとかならないのかと思いつつ、ベットから勢いよく起き上がる。

 なんとかなったし、闇に囚われ時も助かったのは感謝はするが。

 こっちは命がかかっているのだ、説明が伝わらないと意味がない。

 まだ瀧慈宗(たきちかむね)伊福部(いふくべ)の説明の方が分かりやすく、仕事が捗った。

 

 士狼は灰色のフリースを乱暴に脱ぎ捨てた。

 すると、スマートフォンが通知音と共に振動した。

近衛(このえ)かー⋯⋯)

 士狼から彼の好感度は低くなってしまっているので、若干話したくない気分だ。

 と選択肢出るまでもなく、即通話を拒否した。

「⋯⋯」

 さてと着替えて朝ごはんでも食べるかと、ズボンを履き替えると、また鳴り響く。

「⋯⋯」

 さてリビングへ行こうとするが、まだ通知音は鳴り響いており、とうとう士狼のストレスゾーンはピークに達する。

 構ってちゃんかと士狼はスマートフォンを取り、無言で通話に応じた。

 

「無視すんな!!」

 近衛由成(このえよしなり)叫び声が、耳を突き刺す。

「何?」

 ダイアナ関連で荒んでいるのも相まって、思わず圧をかける低音で答えた士狼。

「アッハイ」

 怯えたのか察したのかよく分からないが、いつもの恐怖に平伏した態度をまず取られる。

「ちょっと、サシで話そうぜ⋯⋯林間学習の準備もしながらな」

 次に仕切り直しにか、本題らしき話になるといつもの軽い声色ではない。

 真剣な態度だと伝わる声だ。

 近衛の通話は以上だった。

 

 

二〇三〇年 五月二十五日

 昼、リオンにて──

「へえ、お前の班、幸恵いるのか」

 士狼はずっと困惑していた、何せあの言動も思考も軽い近衛由成のテンションが低いのだから。

 いつもの様子は出会って挨拶された時だけで、後はずっと気だるそうな態度で接している。

 なにかおかしいと、士狼は疑心でいっぱいになっていた。

「これだけは言っとく、幸恵のセンスはちょい変わってるから、メシはあんまし期待しねえ方がいいぞ」

 一体、どうしてしまったのだろうかと、金髪ふわふわ内巻き頭を、士狼は見下ろしていた。

 

「⋯⋯なんかゴミでもついてんのか、オレ?」

 視線に気づいたのか、近衛は問いかける。

 言ったほうが、良いのだろうか。

 悩んだ末出した言葉は。

「今日のお前は、なんか⋯⋯」

 近衛は首を傾げて見上げてくる。

 

「変だ」

 士狼はそう宣言すると、近衛はおどけた顔を見せる。

 きゃるんという擬音が似合いそうだ。

「そうー!? オレはいつもどおりよ♡」

 で、すんとまた冷めた表情に戻っている。

「今のは冗談、今日はマジだから封印してるワケ」

 躁鬱(そううつ)の落差が激しくて、ついていけないと士狼は困惑しだす。

 カラカラとスーパーの車輪の音が、やけに大きく聞こえた。

 

「⋯⋯オレさ、ペルソナ出したいってのは、本当」

 それぞれのカゴには、班の食材を入れていく。

「だって、マンガみてえでカッコいいもん」

 士狼は真顔で、近衛の話を聞いている。

「で、ホルダーを買っちゃたりさ、舞い上がってたところに、槍のヤツだろ?」

 

 もう四日も経過しているにも関わらず、顔を青ざめて吐きそうな表情を見せてくる。

 追いかけられた事に、相当応えたらしい。

「オレこんなんだから、ああいうのに立ち向かえたのは、正直びっくりしてる」

 近衛はカートの持ちを強く握りしめる。

「⋯⋯山田や瀧の刺されて、誰かに助けられたい気持ち⋯⋯もうちと、考えときゃあよかったなって」

 その表情は今にも泣き出しそうであった。

「オレ、本当に最低だ」

 瞳が潤んで、こちらに視線を向けていない。

 

 士狼は思った。

 本当に反省していると。

 それに、近衛の事だったら会った瞬間、槍に刺さりたいとか言い出しそうだ。

 目撃しただけで、こんなに萎えているのならば──

 

「⋯⋯分かった、もう言わないな?」

 近衛に対する士狼の態度が氷解してきた。

(けど、うっかりするからなコイツは⋯⋯)

 過ちを犯しそうと士狼は判断したのか、近衛の前に契約書に判を押すよう促す作業に入る。

 すると近衛の口元が上がり、晴れやかな表情を浮かべた。

「言わねえよ!」

 

 ここから先は二人で楽しく話しながら、食材やらを買っていく。

 近衛は初めて他人から誘われて入ったグループだが、居心地がいいらしく、事件解決後もここにいたいと語っていた。

 それに対して、陰が差す表情を士狼はしたので、近衛は気を遣うが、士狼はもう慣れたと返した。

 

「近衛」

 士狼は精肉コーナーである物を見つけ、共有をしようと名前を呼ぶ。

「おっなんだ」

 士狼はくるりと振り返ると、無表情で近衛に見せびらかした。

 

「これは良いな」

 ずしりと重い感触を感じながら、両手に持ったそれは──

 お徳用ソーセージだった。

 量があれば、ある程いいと士狼は思った。

 ただ、その嬉しさが表情に出ていないのだが。

 

「お前さては、林間学習にめちゃくちゃ、ワクワクしてんだろ」

 近衛はお得意の察しの良さなのか、それを見抜いてくる。

 不思議だと士狼は猫がきょとんしている風な顔を作る。

「男だけなら食いきれるけど、女子がいるのお忘れか、幸恵は食べる方だが⋯⋯」

 冷静な指摘に士狼はしょんぼりとする。

「⋯⋯そうか」

 と、俺楽しみにしているのかと、ソーセージを物悲しく見つめて、無意識の感情と向き合った。

「⋯⋯同じ班じゃないのが、残念だな」

 と慰めるように肩を置かれた。

 フードコーナーにて。

 買い物を終わらせた士狼はアイスコーヒーと、近衛はコーラースラッシーを手にし、二人は相席となり座る。

 

「そういえば、コルサ⋯⋯コルサ⋯⋯」

「コルサコフな」

 背もたれに腕をかけて座る近衛は、名前をあっさりと訂正をする。

 黒茶色のどろりとした飲み物を、近衛は啜っている。

「コルサコフとの進展はどう?」

 ストローでプラスチックのコップかき混ぜ、士狼は聞く。

 

「アイツは、野良猫かって、ぐらい逃げる」

 テーブルに顎を乗せてお手上げと訴えるかのように、乾いた笑みを浮かべた。

「⋯⋯そのぐらい、顔について嫌な思い出があるわけか」

 士狼は容姿にコンプレックスを持った事はないので、コルサコフの行動に、首を傾げてコーヒーを飲む。

 近衛はぴっと鼻先を向けてきた。

 

「幸恵は目の色が違うから、いじめられたんじゃないかって、言ってた」

 コルサコフという名前からして、どう聞いても外国人な彼だ、余所者の疎外感は士狼も想像できる。

「どういう感じのヤツ?」

 近衛にだらしなく飲まれていく、清水飲料。

 

「髪色以外は外国人ってヤツ、後ろから見たら、デカいだけで見分けがつかねえと思う」

 まずは容姿の説明に入る近衛。

「で、話しかけるうち分かった事は⋯⋯」

 たるんでいる体を起き上がらせると、近衛は拳を作る。

 

「一、お前と同じ匂いがする」

 立つ、人差し指。

 

「二、お前は人とちゃんと話せるけど、コルサコフは⋯⋯みんなと話すのを怖がっているっぽいな」

 立つ、中指。

 

「三、話すのを怖がってる癖に、オレ達が絡んでるところを寂しそうに見ていた」

 立つ、薬指。

 

「四、ワケアリだからか、話しかけても喋らねえ」

 立つ、小指。

 

「まーこんなもん」

 パッと指輪をたくさんはめた手のひらを開く。

 

「お前は転校しまくってんだろ、オレよりも顔が広いってワケじゃん?」

 次に近衛は何気なく、士狼の禁域にするりと入ってくる。

「なんか、そういうヤツ見たことがある?」

 近衛のタレ目は、真剣な眼差しを向ける。

 おふざけはなし、真面目に向き合っているのが伝わってくる。

 

「⋯⋯」

 士狼は考える。

 自分が教室の片隅で見てきた、様々な人達。

 もう名前すらも覚えていない人達の中から、コルサコフと似た境遇の生徒を探し始める。

 いた、ある同級生だ。

 後から知ったがいじめられていたらしい、気弱そうな同級生。

 中学生の頃──

 その同級生が「触っても平気なのか」と聞かれて、「よく分からない」と答えた記憶が蘇る。

 

「⋯⋯よく分からないけど、誰かに言われて、傷ついたぐらいしか思い出せない」

 ずるりと力が抜けたように、近衛は椅子に体を預ける。

「振り出しに戻るなっての」

 前髪を上げて顔をしかめてくる、近衛。

 その表情はどこかもどかしさを感じさせる。

 どうやらご期待にそえなかったらしいと、士狼は下を向いてストローをくわえた。

 結局、答えは分からずじまいであった。

 

 

 夕方。

 山田士狼と別れた近衛由成は、マンションの階段を上がる。

 部屋がある反対方向の景色には芥川邸があり、相変わらずでかいなと、首から下げたシルバーアクセサリーは夕焼けに反射させた。

 ドアに掲げられた近衛の表札見ると、ポケットから鍵を取り出す。

 由成の好きな五人組アイドルPUFF CUTES(パフキューティーズ)の一人、上原真奈(うえはらまな)の顔写真のキーホルダーが、寂しく揺れる。

 

「⋯⋯ただいまー」

 扉の音が大きく響いた。

 薄暗く狭い廊下に夕日が差し込む。

「っていないか」

 目を閉じて悟った表情を作り、武骨で大きな靴を脱ぐと、台所に向う。

 林間学習の食材を入れるために、冷蔵庫を開けた。

 

 そこにはラップで包まれた、大きなおにぎり二個と味噌汁がまず目に留まった後、買ってきた食材を入れる。

 そして、おにぎりと味噌汁を取り出し冷蔵庫を閉じる。

 帰りの途中に、コンビニで買ってきた、明太ポテサラのパッケージを取り出すと、小鉢に移し替える。

 

(オヤジはいつ帰ってくんだか)

 由成は夕食を用意しつつ、そう呟くように思う。

 おにぎりと味噌汁と明太子ポテトサラダを、テーブルに置き箸とコップを用意した。

 そして、カラフルなペンキが幾重も重なり塗りつぶしている絵柄のカバーをされたスマートフォンを取り出す。

(⋯⋯十九時か、オッケーな)

 

 液晶画面にはPUFF CUTESの公式アカウント。

 音楽番組に出演するらしく、由成も当然向かいの液晶型テレビで見ると決めた。

 ラップと指輪を外して、おにぎりを掴んでかぶりついて、咀嚼しながら飾られた写真を見る。

 

 ゴテゴテした飾りが目を引く、アートトラックを背にした三人の家族写真だ。

 そこには角刈りをした父親。

 茶髪の穏やかな雰囲気を持つ色白い母親。

 そしてその間にいるのは、元気よく笑っている黒髪の小さな頃の自分が写っている。

 

「⋯⋯」

 今日も一人で夕飯を食べている由成。

 母親は夜勤の看護師であり、学校に帰る時は大抵家にはいない。

 父親は長距離トラックドライバーなので、いつ帰れるか分からない。

 一週間のうち、家族が揃って食事をするのは、ほんの数日しかない。

 それが近衛家の日常であった。

 そして、これが近衛由成がフットワークが軽い理由でもあった。

 

 基本的に、家には誰もいないのである。

 だから、時々芥川の家に遊びに行くのだ。

 両親が常にいない環境は同じだが、あそこなら、早苗さんもいるし、遊び相手もいる。

 

 なんなら、早苗さんは家の事情を知り、小さな頃は面倒も見てくれた。

 お陰で今では、母親と仲のいいご近所付き合いになっている。

 もしも、自分がゴム飛行船で遊んでいなかったら、もっと違った未来があったのだろう。

 

「はあ⋯⋯今日は、幸恵レッスンの日だしな⋯⋯ヒマ⋯⋯」

 十九時まで、まだ時間はある。

 アがる曲を聞くか、スマホゲームをやるか、電子書籍の漫画を読むか。

 ゲームセンターに行って、ギターの音楽ゲームをやるか、矢印を踏んで体を動かすゲームをやるか。

 

 遊びの選択肢はあるが、ホルダー代がえらく響いて、お金を使う遊びは控えたいのが心情。

 

「⋯⋯あー、コルサコフの事マジでどうしよう⋯⋯」

 またテーブルに寝伏せる。

 今度はおにぎりを持ったままだ。

 脳裏にこびりつく、コルサコフのあの瞳。

 寂しそうにこちら見てきたあの目、由成の心にずっと囚われている。

 

(⋯⋯なんだろうな、この気持ち⋯⋯ほっとけねえっての)

 なんで、ほっとけないんだオレと、もやもやとした衝動から、頭をわしゃわしゃとかきむしった。

 そして、襲いかかる謎の疲労感。

(わかんねえよ、山田と芥川達と会ったのとは違う⋯⋯)

 由成しかいない賃貸のリビングで、由成は底無し沼に嵌り、耳にはめたピアスをきらめかせるだけ。

 そして、コルサコフといえばと貼られたカレンダーを見る。

 

 今日は二〇三〇年、五月二十五日で土曜日。

 林間学習まであと三日まで迫っていた。

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