PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter8『My art's now a masterful act for profit, charming high society.』 ActⅣ

 一方、その頃。

 

 山田士狼(やまだしろう)は起きていた。

 数時間前、廊下で誰がドタバタされて目を覚ます。

 みんなすやすやと眠っており、こんな時間に、誰が暴れているんだとぼやき、再び眠りにつこうと布団に寝転がり、就寝する。

 そして現在、目を覚ましたのは遠くから物音が原因であった。

 

「⋯⋯騒がしいな」

 と困ったように呟く。

 寝る前にみんなでトランプして遊んでいたのだが、その質問は関係あるのかと言ってきた伊福部(いふくべ)は変わりなく、ぶっきらぼうに接してくれてた。

 木野はみんなポーカーフェイスだからつまらないと、ぼやいていたなと。

 起こさないよう立ち上がると、ぐっすりと寝ている伊福部を見下ろす。

 

(⋯⋯伊福部)

 なんで、俺の質問に答えてくれなかったんだと思いつつ、廊下の様子をスマートフォンのライト機能を使い、見に行く。

(真島に見つかったら、どうしよう)

 音がした方向へ躊躇いなく歩いていく士狼。

 夜闇を覆う狭い廊下は静かで、近衛由成(このえよしなり)がここにいたら、背中から肩をガッチリ掴まれて、怯えていそうな、光景であった。

 

「⋯⋯」

 臆することなく、どんどん進んでいくと、長袖ジャージの塊を見つける。

 体の大きさ的に、黒髪の男子生徒が体操座りで頭を抱えて、丸まっているのを見かける。

(なんで、こんなところに?)

 夢遊病かと士狼は近寄る。

「大丈夫か?」

 しゃがんで肩に触れると、小刻みに震えていた。

 

「どこか具合で⋯⋯」

 そして、具合の悪さを確認する為に、男子生徒の顔を覗き込み声掛けをする。

「っ!?」

 士狼はその異様さに思わず警戒し、後ろに下がってしまった。

 全体的な印象は無気力、虚脱感であった。

 泣き腫らした大きな目元は生気がなく、ただ見開いたままなのが逆に恐怖をそそる。

 口元は踏みにじられるんだしか紡いでおらず、その口調も感情がなく、ただ垂れ流す機械のようになっていた。

 

(なんだ⋯⋯これ⋯⋯)

 まるで三善のシャドウが生んだ、女性の攻撃を食らったような感覚だ。

 体の震え方も鴨沢弘務(かもさわひろむ)とも違う、鴨沢は馴染めない不器用さを感じさせるが、この男子生徒は何か良くないものが、首を絞めてくる苦しさを感じさせる。

 故に、士狼は思わず禍々しいモンスターと、遭遇した気分であった。

 

(ん? コイツ瞳が青かった気が⋯⋯)

 恐る恐ると、もう一度顔を覗き込むと、闇に沈んだ目元は確かに青かった。

(という事は、コイツがコルサコフか⋯⋯眩しくないのかな)

 ライトに当ててもうんともすんとも反応しない。

 日本人離れした肌の白さと、耽美な顔立ちも相まって人形のように感じる。

 

(どこが、俺と同じ臭いがするんだ、近衛⋯⋯)

 確かに友達と踏み込めない恐怖や後ろめたさはあるが、ここまで深刻に考えないぞと、士狼は、近衛評にやや不服だった。

「⋯⋯おーい」

 士狼はもう一度、コルサコフらしき人物に声をかける。

 

「⋯⋯踏みにじられるんだ、踏みにじられるんだ⋯⋯」

 恐怖しているのか、声は届かずブツブツと、同じ言葉を繰り返しているだけである。

(あー、もうどうしよう!)

 関わっていいものなのか、関わったら、こちらに引き込まれそうな、禍々しいオーラで気圧される。

「⋯⋯」

 唸りながらコルサコフの対応に長い間悩ませると、士狼は閃いて実行するために一旦部屋に戻った。

 

 

 異臭が放つ汚れ崩れた、一軒家に向かって、泣き叫ぶ記憶が続いている。

 自分も「違い」に「かわいそう」と近寄られたら、ああなってしまう。

 これが自分の教訓だ。

 自分のような人間は、違いに集られ、踏みにじられる。

 だから、近寄る人が怖い。

 真正面にぶつかってくる、近衛由成の手の差し伸べが怖い。

 落ち着いてきたのか、コルサコフ・和也(かずや)の脳裏からようやく、闇が晴れて海面で呼吸をする。

 すると、大きく釣り上がった目を持つ左分けの短い茶髪の生徒と視線があった。

 

「!」

 和也は声にならない悲鳴をあげ態勢を崩して、後退する。

 恐怖のあまり、心臓を大きく響かせていた。

「⋯⋯せっかく、買ってきたのに⋯⋯」

 生徒は残念そうに視線を落としている先を見ると、緑茶の缶が座り込んでいた場所に置かれていた。

「だ、だれ⋯⋯」

 生徒がしゃがんでその場から見てきたので、思わず名前を聞いてしまった。

 

「山田士狼。本当、近衛の言ったとおり、野良猫みたいな反応するな」

 山田の興味深く伺うような表情も猫っぽいと、和也は思っていた。

「⋯⋯由成君、他の人でも⋯⋯猫って言ってたのか⋯⋯」

 今のところ、交流関係は近衛達しかいない為、名を知った経路は明白だろうが一応確かめる。

 

「ところで⋯⋯君は⋯⋯由成君の友達⋯⋯なの?」

 唇を震わせて床を眺めていると、うーんという唸り声を聞いて、そんなに考える事なのかと和也は不思議な気持ちになる。

「そう見えるの?」

 山田の言葉に思わず、目を合わせてしまった。

 真顔で真っ直ぐとこちらを見ているところ、冗談じゃないらしい。

 

「そう⋯⋯見えるって⋯⋯」

 とても変わった人だなと、士狼の独特な感性は扱いに困ると、表情に出した。

「俺、おかしな事を言った?」

 返答が読めず、おまけに真面目に聞いてくるので、和也の外交スキルでは、山田のコミュニケーションは、非常に困難であった。

 

「⋯⋯ごめん」

 なので一旦、答えられない事に謝罪。

「⋯⋯友達って、みんなと一緒にいる⋯⋯事でしょ? 多分」

 次に和也は精一杯、和也なりの友達論を展開すると、また山田は天井を見つめ考えている。

 

(そ、そんなに⋯⋯考える事なの?)

 和也はきょとんと、山田の横顔を見つめていた。

(もしかして、僕が考えているよりも、友達って⋯⋯深い意味なのかな)

 コルサコフ・和也の『友達』の定義は、”一緒にいられてはしゃげる人”である。

 そう思っていたのだが現実は近衛の友人らしい、山田が長考の間が入る。

 もしかして自分が思っていた以上に、深いものなのかと、衝撃を受けていた。

 

「もしそうだったら、そうなるのかも?」

 山田がどこか寂しそうに返す。

「⋯⋯かもって⋯⋯」

 変わった人だと、和也はなんともいえない気持ちになっていた。

「話⋯⋯変えるけど⋯⋯とても⋯⋯由成君といるの想像⋯⋯つかないよ」

 廊下の奥から足音が聞こえてくるが、恐らくは巡回している教師達だろう。

「なんで?」

 山田は返す。

「⋯⋯落ち着いて⋯⋯いるから」

 昼間の僕みたいに班内の賑やかな雰囲気に浮きそうだなと、思っていた。

「⋯⋯ねえ⋯⋯どうして君は由成君と⋯⋯一緒に⋯⋯いるの?」

 何事も動じなさそうに見える山田は、少し考えたあと、こう話してきた。

 

「俺より、付き合いが多そうで⋯⋯何も悩みなんてなさそうだから誘った。それだけだ」

 その言葉に和也は苦い表情を作った。

「⋯⋯二番目⋯⋯もう少し優しく言ってあげた方が⋯⋯」

 和也はその言い方だと、近衛を軽薄そうって遠回しに言ってるような物だろうと、非常に困ってしまった。

「⋯⋯おい⋯⋯山田?」

 突然入り込む深刻そうな声。

 その声は近衛由成の物だった。

 

 

 部屋から出ていったコルサコフを心配して、追いかけに来た由成。

 遠くから山田もいて、どうして、山田は自分といるのかという話をしてきた。

(それはもちろん、オレが頼りになるから!)

 誇らしげに笑って、由成が山田とコルサコフのいる近くまで来ると。

 山田が少し考えたあと、表情を変えず、こう答えてきた。

 

「俺より、付き合いが多そうで⋯⋯何も悩みなんてなさそうだから誘った。それだけだ」

 その言葉に、由成の心が揺らいだ。

 ぐにゃりと視界が歪みそうになった。

 オレを事件に関わらせたのは、考えなしだからと言うのか。

 

 チャラにして。

 

 桜木が言ってきた言葉が反響する。

 幸恵の邪魔されないようわざわざ、二人っきりで会い、山田達の気持ちを汲んで、自分の浅はかさを本気で謝罪したのは、なんだったんだ──

 歩みを止めて、コルサコフの擁護を聞き終えると。

 由成のふにゃりと、どこか抜けていそうな優男風の顔立ちが、誰かを見下す不良風な表情に変貌する。

 

「⋯⋯おい⋯⋯山田?」

 ふざけるかふざけないかという、切り替えの話じゃない。

 近衛由成という自己にまつわる、ひどく真面目な話であった。

「それ⋯⋯どういう意味?」

 その凄みにコルサコフはあたふたしだし、びくびくと震えこちらを見ている。

 山田も、ほんの少しだけ冷や汗をかいていた。

 ので、由成は静かに山田の元へ歩いていく。

「流石、山田クンはクールでイイね」

 昼間は苛立ちからくる殺気立ってだったが。

 今回は憤怒からくる感情だ。

 

「⋯⋯誘った理由は、本当の事だ」

 ここで包み隠さない態度を取ってくる山田。

 コルサコフは信じられないと言わんばかりに山田を見て、絶望の表情を作っていた。

「それにお前ふざけてただろ、”オレの人生は順風満帆”だって」

 瀧から勧誘経緯を聞いて、そう答えたなと、由成は思い出す。

 

「アレは、みんなから頼ってきたと思ったから」

 どうやら自分の誤解だったようだ。

 自分は軽佻浮薄(けいちょうふはく)な人間、オマケに顔も広いとなれば。

 生徒の不安を嗅ぎつけ、つけ狙う異形の対処に適材適所だと思われた事を由成は理解した。

 事情を知らないコルサコフは、よく分からない表情で、縮こまり話を聞いている。

 

「⋯⋯そうか、オレはできない事ができるからだけで、入れたんだな⋯⋯」

 気圧されていない様子の山田は立ち上がってくる。

「けど、俺はお前と付き合ってきて分かった」

 その目は真っ直ぐと射抜いてくる。

「近衛は悩まなそうだって、思った事自体が間違いだったんだって」

 やっぱ山田は桜木と考え方が違うなと、由成は関心したあと静々と答える。

「そうだよ。見てきただろ、オレだって悩む時もあるって」

 林間学習の準備した日がまさにそれだろうと、由成は語る。

 一発触発の雰囲気に、傍らのコルサコフは泡が吹いて倒れそうな雰囲気になっているが、気遣う程の余裕はない。

 

「浮かれて謝ってきたオレが、バカみたいだ」

 由成は捨て台詞を吐くと、コルサコフに寝るぞと促した。

 

(本当にバカだ。オレはバカだ)

 頬を膨らませずんずんと歩いていると、後ろからついてきたコルサコフが話す。

「よく分からないけど⋯⋯落ちこまないで⋯⋯」

 おどおどと気に掛ける声色だ。

「⋯⋯落ち込んでないよ」

 由成は声を震わせて即答する。

 どこが落ち込んで見えるんだと、コルサコフに不服な感情を抱く。

「⋯⋯じゃあなんで⋯⋯泣いてるの?」

 ポロポロと涙がこぼれ落ちている事に、気づく由成。

 泣いているのか、居心地がいいと思っていた隣のヤツでさえ、自分の事を見てくれなかったのかと。

「⋯⋯オレってバカだよな⋯⋯オレ、なんの為に頑張ってきたんだろ」

 鼻を啜って泣き出す由成。

 空回りというのはこういう事だろうか、最初は頼りにされていなかったなんて。

 しばらく静かな間が入ると、コルサコフが静々と語り出す。

「⋯⋯僕も酷い目にあった時、君と同じ気持ちになって⋯⋯気がつけば⋯⋯人を避けていた⋯⋯」

 泣きながら由成は背中でコルサコフの話を聞く。

 幸恵の言うとおり、青い瞳絡みで酷い目にあっていたのかと、ぼんやりと思った。

「⋯⋯だから⋯⋯その⋯⋯独りぼっちは寂しいから⋯⋯」

 コルサコフが深呼吸したのを聞くと、話を続ける。

 

「賑やかで⋯⋯元気な君にも⋯⋯僕と同じ物をか、か、か、抱えて欲しくないんだ⋯⋯」

 コルサコフの繊細で優しい言葉は荒んでいる心に効く。

「だからさっきは⋯⋯手を弾いちゃってごめん、どうしても⋯⋯君の⋯⋯気持ちを受け取るのが怖かったから⋯⋯」

 この言葉を最後に由成達はそのまま、部屋へと戻った。

 

五月三〇日──

 

 昼休み、体育館裏。

 林間学習は無事に終わり、三善明美(みよしあけみ)芥川要(あくたがわかなめ)は、林間学習の思い出に華を咲かしていると、芥川幸恵(あくたがわゆきえ)は、マスコットのぬいぐるみがたくさんついたスマートフォンを耳にかざして、表情を曇らせた。

 

「出ない。あの、よしりーが珍しい」

 スマートフォンを下げてこちらを見てくると、瀧慈宗(たきちかむね)は険しい表情で返した。

「それにしてもコルサコフくんの言うとおり”何も悩みなんてなさそう”って⋯⋯言い方は良くない気が⋯⋯」

 士狼はしょんぼりと箸を止めていた。

「すまん」

 士狼も士狼で怒らせる気がなかったと、嫌われたかも知れないと落ち込んでいた。

 要はその様子を見て困ったように言ってくる。

 

「由成くんだったら。作戦に必要だったんだって言えば、大抵はなんとかなるよ」

 ふんわりとたおやかな口調で、笑顔で言ってくる要。

 それを見た友人の三善が、苦笑いを浮かべてツッコんだ。

「要ちゃん⋯⋯態度と台詞があってない」

 魔性の女みたいな事をしとやかな態度で言っている強かな姿は、幸恵を彷彿させた。

 士狼は混ぜごはんを眺めていると、幸恵が不安げな表情を作った。

 

「というか、今のよしりーを一人にするとマズくない? 落ち込むと、そーと引きずるよ」

 男の人が別れた未練を女言葉にした歌詞と共感しそうと、言ってきた幼馴染の意見が炸裂する。

「ああ⋯⋯」

 四日も槍野郎の事引きずってたなと、士狼は納得。

 幸恵以外のメンバーはざわついた。

「⋯⋯ねえ、思ったんだけどさ」

 幸恵が真っ直ぐとこちらを見ていた。

 

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