「三善と同じ風景だ」
と山田士狼は、切り絵の学校廊下の風景を眺めて、呟く。
士狼はどこか落ち着きがない表情で、廊下の風景を見ていた。
「そうなの? けど、近衛君の心の中の世界だったら……」
三善は、天井を見上げながらこう言ってきた。
「ミラーボールぐらいは、ありそうだと私も思った」
と三善は誇らしげな表情で士狼達を見ていると、
「二人とも近衛くんの事、なんだと思っているんだ……」
士狼は近衛と過ごしてきた、日々を思い返してみる。
出会いは女子だと期待されて、わざわざ会いに来たが瀧を見て逃げた事から始まる。
たまたま玄関で出会って、芥川幸恵の平手打ちで、赤く顔を染めていた。
振る舞いの印象から、危険度が低そうだから誘う。
そこから、駅広場で案内してもらい、自分にもう少し素直になりと言われた。
事件を楽天的に構えてたせいで、ホルダーの用意とペルソナ使いになりたいの件は、流石に呑気過ぎると、一時期好感が下がったこともある。
「……祭り男?」
これが士狼が出した答えだった。
「え?」
瀧は思わず苦い顔をされた。
「会ったばっかりだから、まだよく分からないけど……賑やかな感じ、カラオケと一緒に行くと楽しそう」
「……賑やか以外で他はないのか? 例えば、聞き分けがよくて、良くも悪くも正直者とか……」
士狼は三善と見合わせて、その視点は無かったという反応を示した。
「……だから、近衛くんの不安として狙われたのか」
三善と一緒に瀧の方を不思議そうに見る。
「君達は、
士狼はその指摘に答えた。
「あ、でも俺……怒られた事はある」
林間学習で、事実を知った近衛と睨み合いした事があると、士狼は説明する。
「それだよ。君は適材適所な人材でしか、見ていなかった」
瀧はこちらに鋭い視線を送ってきた。
「色々言いたいところはあるけど、僕らに期待されていたと思ってたんじゃないかな」
と語り終えた時に、後ろから弓を持った天使達が瀧を囲んできた。
「ヴァルター!」
士狼は指揮棒を振るい、弓を放つ前に斬りつけた。
「……いきなり!?」
瀧がジャケットのテール部分をそよがせて、後ろを向く。
それが引き金だったのか、一斉に天使と男女一組のダンサーが、大量に襲いかかる。
「いっぱい来た!」
三善が顔をしかめると、指揮棒を抜く。
指揮棒を構え、足元に青い炎と五線の輪が湧き上がると、指揮者のように構える。
「来て!」
そして、オーケストラの開演を告げる指揮者のように振り下ろした。
「コチョウフジン!」
ガラスが割る音をさせると、鳥の翼を彷彿させる長い振り袖の白無垢を纏った、女性型のパーピー風のペルソナが出現する。
コチョウフジンは和傘を掲げ、舞うように回ると風を生む。
その風で三善の黒髪を激しく揺らした。
風は男女の団体を一掃したが、天使はあまり効いていないようだ。
「天使は風はあまり効果はないみたいだ、第二の攻撃来るぞ!」
矢は天から降り注ぐと、瀧は指揮棒を振りかざすと、氷で盾を作る。
「……山田くん、氷の技を打ってくれ!」
山田はコクリと頷くと指揮棒を回して
「サラスヴァティ!」
光るシャープとフラットの記号とガラスの音と共に、現れたのは、シタールを持った天女を繰り出すと、瀧は指揮棒を振り下ろした。
天使達は一斉に消え失せ、瀧は眼鏡を光らす。
「ソウルダンサーは風が弱点、狂愛のクビドは氷が弱点」
メモを取りながら瀧は言う。
「そっちのペルソナは治療にも優れている」
瀧の分析は本当に助かるなと思いつつも、士狼は言う。
「瀧に負担かけないようにした。二人とも、チェンジはできないだろうし」
淡々と士狼は語ると、瀧は頷いていると、三善が右手の指揮棒を振るい、左手を上げるとコチョウフジンは飛び上がって、行進してくる敵に風を浴びせた。
「……なんか数が」
天井からも地面からも、狂愛のクビドと手袋とソウルダンサー達が大勢出現し、士狼達は囲まれた。
「多いな」
瀧は頷く。
「えっそうなの?」
初めての任務に三善はきょとんとこちらを見て、瀧を見る。
「ああ、ここのシャドウは、近衛くんの心の中が、生み出した防衛システム。それが三善さんの時は少なかった」
士狼はなんとなく理解する。
「つまり、私達の事来て欲しくないって事?」
瀧と三善の言葉を聞いたダイアナの声が脳内に響いた。
「正解です。ここは、コノエ様の
士狼は内心呆れながらダイアナに物申した。
(本当に頼む、もう少し分かりやすくできないか!?)
敵に囲まれ二人と一緒に警戒する士狼は簡単な説明を求めた。
「かしこまりました。つまり──あなた方の事をとても嫌っているか、誰かの発言をとても拒絶している状態です」
ダイアナは詩吟するかのように語り終えると、士狼は真っ先に林間学習の事を思い出した。
(だとしたら、俺だ!!)
三人同時に指揮棒でペルソナに合図し、風と氷と時々仕込み刀と杖で蹴散らしていく。
ダンサー達は氷が効かず、レイピアで攻撃を繰り出し、それをコチョウフジンが防ぎ、刀で薙ぐ。
クピド達の矢は弱点が突ける瀧に集中しているので、右手でスキルを、挙手した左手で回避強化の合図を送る。
瀧は剣道をやっているので、士狼よりは反射神経はいい。
なので、幾百の矢を素早くファウストの杖を竹刀に見立てて防ぐ、だが杖は全て防ぎきれずファウストの肩にいくつか刺さった。
瀧の苦痛に歪み声が聞こえた。
だがファウストが矢を防いでいる間、コチョウフジンは番傘の刀を抜き、クビド達に一太刀を浴びせた。
ファウストとサラスヴァティの冷気で作った白い息を士狼は吐く。
辺りを見渡すと、手袋をはめた仮面がついた手型のシャドウが一体、士狼と対面する。
動きがない、だったら──
指揮棒を横に小さく振って、瀧を回復に専念した。
その動きを見られたのか突然、手袋型のシャドウは士狼に向かってくる。
ドンッと床を叩いて、鳴らされる衝撃音。
その音で、士狼はびっくりした。
「!?」
不意討ちだったので、思考が一瞬停止する。
攻撃に気づいたのか瀧は氷柱を飛ばしてきて、シャドウを滅しようとする。
だが、手袋型のシャドウはあまり効いておらず、瀧の方へと向いた。
「……なんだろう、敵の編成、ほぼ僕と相性が悪いな……」
確かに、氷の技が三体中二体が効かない編成である。
瀧が不利になりがちな面子を見た士狼は呟く。
「……まるで、瀧に嫌がらせしているみたいだ」
その呟きに、何か気づいたのか瀧は目を見開いてきた。
「そうか……! 近衛くんの 苦手意識は、簡単に消えないわけか!」
瀧は活を入れるように叫ぶ。
沸いてくるシャドウ達を一緒に睨んで、三人は連帯しながら、連戦をくぐり抜けていった。
※
オレはほとんどは、一人で家を過ごしていた。
幼稚園の頃に幸恵と
そこで覚えたのは自分が行かなきゃ、誰も覚えて貰えないし、誰とも遊べないという事だった。
幸いにもオレは馴染める才能があったらしく、親も学童も好かれる様に努力をして、居場所を勝ち取った。
その努力を
うるせえよ、オレはオレなりに楽しくやってんだ。
なのに──
オレは……オレは……
なんであの時──泣いたんだ?
「……」
由成は意識を取り戻し、巨大な黒い靄と対面する。
「お前が……シャドウってヤツか?」
ノイズかかり五線が書かれた帯で束縛されて、佇んでいる。
「おい何か喋れよ。オレの不安クン」
黒影は何も言わないので、拗ねた口調で訊く。
「はあ……あいつら、ここまで来ちゃって……随分とご苦労様だな」
ノイズ混じる気怠くアンニュイな声色を聞いた、由成は背筋を凍らせる。
「ほ、本当にオレの声で喋るんだな……」
息を呑み声を震わせながら、せり上がってくる恐怖を抑え込もうとする。
「そうだよ。だって、おまえはおれの創造主だからサ、あんたの声で喋って、何が悪い?」
どこか威圧的に喋ってくるので、由成は「ひいっ」と悲鳴を上げて、後退し舞台の袖に隠れる。
「いい加減。良い子ぶるのはやめろよ、人に話しかけるのをやめろよ」
黒影は気怠く語ってくると、由成はぎゅっと赤いカーテンを握りしめ、体を震わせながらも反論する。
「だって、そうしないと、オレは誰にも覚えてくれない! つるんでくれない!」
足が震えて歩けない。
恐怖で肺が凍りそうだ。
「だからおまえは、かまちょって言われるんだよ」
コルサコフと初めて会った時の井上が発したいじり。
「ウザくない! オレの優しさだ!」
あの時と同じ様に返すと、由成をバカにするように言い放ってきた。
「ハハハ! そうやってふざけて誤魔化すのは、強がりなんだろ?」
「違う! オレは! 強がってない!」
由成は首を横に振り、必死に応戦する。
「じゃあ幼稚園の頃、司令官だって言い聞かせてた、おれは? 一体、なんなの?」
刹那、瀧が過去の事をよく知っているという、言葉が雷電のようにほとばしる。
それを言われたら、否定ができない。
由成の額から大量の汗が吹き出て、黙り込んでしまった。
「そう振る舞えば誰からでも嫌われない、良い子だって褒められる……けど──おれは……」
由成は、黒影が何を言われるのかを察した。
「言うな!」
心がひしゃげて、泣き出しそうになる。
言わないでくれ、頼む。
でないとオレの心が──
「ただの都合の良い人間なんだよ! おまえの事は誰もマジで見てくれない!!」
シャドウの声も、泣き出しそうに叫んでいた。
「おまえは独りぼっちだ!」
由成の心はここで折れて、
床に膝と手をつくと、鼻水を垂らしながら、泣き出した。
「タイトルロールは決まった!」
黒帯が外れて、解放された右腕にレイピアらしき物を出現させて握る。
床からは騎士らしき姿をした男性の黒影と、中世のシャツとベストを纏った女性の黒影が出現した。
「さあ、おれとおまえで、