PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter8『My art's now a masterful act for profit, charming high society.』 ActⅦ

 氷、風、炎。

 斬る、打つ。

 三人は体に負担かけないように、湧くほど出てくるシャドウと戦いつつ、休み休み進んでいく。

 貼られたポスターによると、素朴で華やかな曲の正体は『ドン・ジョヴァンニ』からの出典だと教えられる。

 ダイアナ曰く流れている曲は、仮面舞踏会でドン・ジョヴァンニに復讐を企む二人の女性と踊る、変拍子のエヌットだと教えてくれた。

 扉を引くと、そこには既に拘束から解放されていた、シャドウと幕の陰に隠れている、近衛由成(このえよしなり)を遠目で確認する。

 近づく為見つからないように、屈んで三人は席を移動すると、座席からひょっこりと顔を覗かせた。

 

 シャドウの傍らには二人の黒影がいる。

 一人は眼鏡をかけた前髪を中分けしている騎士。

 もう一人は男装をしたオールバックのボブヘアーが特徴の女性がいた。

「⋯⋯あの騎士、瀧君によく似ているね」

 三善明美(みよしあけみ)は小声で話しかける。

 顔立ちが確かに似ている気がすると、山田士狼(やまだしろう)はじっと騎士を見つめる。

「そうなのか?」

 名指しされた瀧慈宗(たきちかむね)は、眼鏡のフレームを掴み、観察する。

「もう一体は芥川さんに似ていないか?」

 髪型とシルエットが一致しており、士狼は頷く。

 

「本当ね。これも、近衛君の心の中の影響?」

 祖母らしき人物を見かけた三善がそう問うと、瀧は頷いた。

「だろうな」

 ここで士狼はある事に気づく。

 あんなに交流をしていた筈の自分らしき存在が、いないということに。

「⋯⋯俺がいない。嫌われたのかな……」

 林間学習の件で仲違いを起こした件からだろうと、士狼はまた落ち込む。

 切り絵の廊下に踏み入れた時も、同じ気持ちであった。

 

「きっと、嫌われていないと思うよ」

 三善が困ったような表情で返す。

「むしろ、この世界のシャドウを見ると……僕の方が、歓迎されていないと思う」

 続けて瀧も何かと、気を遣ってくる。

「……そうだといいな」

 と士狼は苦々しい顔で視線を落とすと、ある事を思い出す。

(そういえば、瀧のシャドウが俺の事を鴨沢の代わりだと思っていたと言われた時も、こんなんだったな……)

 瀧のシャドウ戦の時、瀧の親切に裏があると、拒んだ。

 林間学習の時、自分の不用意な発言で、近衛を怒らせてしまった。

 そこで、士狼はようやく気づいた。

 

「……そうか、これが今まで世話になったヤツに、裏切られたくない、嫌われたくないって事か……」

 瀧慈宗も近衛由成も、転校してきた自分にも関わらず、手を差し伸べてきた二人。

 彼らと過ごしていくうちに、できれば残りの学生生活も、一緒にいたいと思えるようになったのかと。

「……」

 士狼の心に、一筋の光が差したような気がした。

 けれども──

 士狼の言葉を聞いた、瀧は何やら言いたげそうな顔で見ていた。

 その視線に士狼は疑問に思っていると、三善が入り込んでくる。

 

「そこは、世話になった人じゃなくて、友達って言った方が分かりやすいと思うよ、山田君」

 士狼の表情は目を見開いたまま、絶句した。

(また、友達と言えなかったのか……)

 士狼は衝撃を受けていると、瀧は咳払いをする。

「……三善さん。あとで、山田くんについて詳しく、教えるから」

「え? いいけど? 何かマズイこと言った?」

 三善は瀧の顔を見て、首を傾げていた。

 

 

「情けねえな、おまえは……」

 一方、近衛由成(このえよしなり)と黒影は対峙したままだった。

 いかんせん、近衛が泣きじゃくるだけなので、話が進まず悪態はついてはいるが、おろおろしだしている。

「ひぐっ……オレは……何やっても、マジになってくれねえ……ひぐっ」

 顔面をぐちょぐちょにしながら、由成は泣いていると、黒影の声が背中に反響する。

「……はあ、これがおれの根っこかよ、張り合いが無くてつまんねえな」

 盛り上げ隊長をよく務める由成にとって、つまらない男呼ばわりは、都合の良い人間発言よりも、ダメージが大きかった。

「……喋んなバカ! アンタなんか、嫌いだバーカ!!」

 泣きながらそう由成は悪口を放つと、由成の扱いに困惑している黒影と側近をその目で見た。

「おまえは、恋愛ドラマに出てくる女子高生か!?」

 と黒影は思わず、叫んでしまった。

 その切れ味は、近衛由成から生まれた存在(ふあん)だけの事はあった。

「”人生(しゅじんこう)の席を賭けた決闘初めようか”って、カッコつけたおれが、ダサくなるじゃん?」

 黒影のノイズ混じりの声色は、由成に呆れ返っている事がよく伝わる。

「……まったく、どうしてくれんだよ!」

 

 (いかづち)──

 黒影の駄々が召雷となり、ピシャリと雷撃が黒影の周りに落ちて、床を焦がす。

「……ひっ雷!? 無理無理無理無理!!」

 なぜ由成に攻撃しない理由は黒影しか知らないし、由成にも伝わらなかった。

 仮に攻撃をしなくとも、こうして勝手に怯えて逃げ隠れるので、簡単に袋の鼠ができあがるのも、時間の問題であった。

「本当に()()()()()。まるでおれがいじめているみてえ……」

 その発言を聞いた、由成は泣きながら抵抗している。

「オレの声を使って、オレみたいに喋んなバーカ!!」

 黒影はレイピアを握る手を震わせて、剣先をこちらに向けられた。

「……だから、いっちゃっん最初におまえが創造主だからって、言ったじゃねえか!!」

 黒影が苛立ち叫んでいると、観客席側から暴風が吹き荒れて、由成と黒影の間を奔った。

 

「近衛君!」

 由成が声の方へ振り返ると、三善明美の白いペルソナが番傘を振るっていた。

「……ああ、ようやく来たな。コイツの面倒見るのは疲れたよ」

 黒影はレイピアを掲げて、観客席の方へと向いていた。

「近衛くん無事か!」

 瀧が安否を確認してきた。

「……大丈夫か、近衛」

 山田がどこか気まずい表情で、こちらを見て心配していた。

 三人の必死の形相を見て、由成は安堵からか、大粒の涙をこぼす。

「み゛ん゛な゛! ぐすっ……」

 腕を顔に当て肩を震わせて由成がぐずると、瀧にこう言われてしまった。

「近衛くんの自己肯定感が、シャドウに折られてる!!」

 続けて山田が申し訳ない表情をされる。

 

「ガチ泣きなの、余程効いたんだな。こうなったのは俺のせいだ⋯⋯ごめん」

 三善は出会ってまだ間もないので、こうしか言えなかったのだろう。

「⋯⋯すごくかわいそう」

 三人が銀の指揮棒を持って駆けていく姿を見て、心が折られた由成は優しさを感じてこう零した。

「こんな最悪な男でも助けてくれるの⋯⋯マジで⋯⋯カミサマ⋯⋯」

 なんだかもう解決しそうな雰囲気と、とても素直な創造主に対して黒影は怒りだす。

 

「おい!! 何、普通に受け入れちゃってんの!?」

 レイピアを掲げると、側近が観客席に向かっていく。

 

「ここは空気を読んで──」

 続けて、バチバチと肌を刺す感覚。

 雷撃が来ると由成は気づき、勇気を振り絞って、観客席に向かって走り出す。

 

「コイツらを拒否った方が、カッコイイだろーが!!」

 黒影が叫ぶと、一斉に男性と男装は剣を山田達に向けられた。

 

 すぐさま三人は白銀の指揮棒を振るって、指示をする。

 山田の金のペルソナはマイクが柄の細剣を巧みに操り、受け止める。

 三善も白のペルソナは番傘から仕込み刀を抜き、防ぎきった。

 そして、瀧のペルソナは杖を掲げて、本の文字を光らせ何かをしているようであった。

 

(あれが……ペルソナ……)

 三人のお陰で少し余裕ができた。

 ペルソナを召喚する事に憧れていた由成は、この景色を見て、ゲームや漫画の世界に迷い込んだような感覚に陥っていた。

(スゲー、カッコイイ……)

 顔面をずぶ濡れにして、見とれて走っていると、山田がいつもの涼し気な顔で、黒影の言葉を返した。

 

「えっ? 近衛は俺と違うけど?」

 多分、これは瀧が鴨沢弘務(かもざわひろむ)の代わりとして近づいて、拒絶した話であろう。

 

(確かに、オレは山田みてえに、クールじゃねえし)

 山田なりのフォローだと感じる。

 だが、なぜだろう──胸がチクリとする文章である。

 

「芥川さんの言うとおり、彼は繊細だが、そこまでじゃないが?」

 瀧は眼鏡を上げて、指揮棒を振るっていた。

 

(アイツあんな事、言ってたの!?)

 芥川は言い方からして、幸恵の方だろうと、白ギャル風の幼馴染が浮かぶ。

 

(オレって、繊細なの?)

 由成は、初めての評価に驚愕する。

 

「うん。じゃないと、瀧君を怒らせようとした事はしないよ、多分」

 三善は穏やかな顔で、瀧の言葉に頷いてはいる。

 

(いや、怒られたけどサ……え? 繊細のわりには、空気が読めねえって言いたいワケ!? お二人さん!?)

 三善と瀧が一番キツく感じる。

 しかも山田は、由成のような拗ね方はしないと、答えられた。

 由成は、黒影の暴言も含めて要約してまとめる。

 

(……つまりオレは、友達に助けられたら、意地張らねえ男って事か?)

 泣きながら三人の危機を知らせるよりも、人間関係の方が先に口に出てしまった。

 

「信頼されてコレ!? お前ら、フォローになってねえよ!!」

 意気地なしと言われていると由成は感じて、三人にシャウトした。

 あ──しまったと由成は顔を青ざめて、黒影が雷を放つ合図をしていた。

 

「そうだ! おまえは都合が良いんだ! 人伝も! 盛り上がり役も全部! 誰もおまえを見てくれねえ!」

 雷撃は三人に放たれ、由成は、手を伸ばして絶望の表情を浮かべた。

 

 

 近衛のシャドウの攻撃で三人は雷撃を食らい、痛みに顔を歪ませた。

 ビリビリとした感覚が士狼を襲い、とてもつらかった。

 この痛みで特につらそうなのは瀧であり、息切れをして膝についている。

 

「瀧! しっかりしろ!」

 士狼は駆け寄ると、瀧は苦しげな表情でこちらを見上げていた。

「どうやら、僕のペルソナだと、雷は打ち込みが重いようだ⋯⋯」

 駆け寄ってくる、三善も足を運ぶのが、とてもつらそうだった。

「っ! プリマシャドウはの役名は……『放蕩(ほうとう)騎士』……男は『石像の騎士』……芥川さん風は『怯える従者』っ!」

 言葉を紡ぐ姿に、三善が最初に言ってきた。

 

「……無理しなくていいから、山田君の治療を受けて」

 士狼は悪い癖が出たなと思いつつ、三善の言葉に頷くと指揮棒を小さくくるりと回す。

 サラスヴァティを出現させると、みんなを回復させていく。

 

「気になるところは、『プリマ』は氷と火。『石像』は打ち技と電気。『従者』は氷と風と突き技……」

 瀧の分析結果を聞いた士狼は、これまでの道中を含めて考察する。

 

「やっぱり氷か……どんだけ、瀧の事を引きずってんだ……」

 氷の攻撃は、道中のシャドウの傾向から考えて、無効にしてくるか耐性がついているのだろうと、士狼は考える。

 

「氷の攻撃は、控えた方がいいかもね」

 三善は言いながら従者の方へコチョウフジンを舞わせると、指揮棒を向ける。

 

「瀧はしばらく休んでいろ、石像の方は俺がやる」

 よほど効いたのか瀧はまだ、だるそうにしていたので、代わりに士狼が石像に相手をすると宣言する。

 

「二人ともありがとう。体調が良くなったら、サポートに回る」

 瀧は頷くと、その場に座っていた。

「話は終わったか?」

 とシャドウは話しかけてくる。

 

「なんで、そんな事を聞くんだ」

 いつでも攻撃できただろうにと、士狼は石像と向き合うと、真顔で聞き返す。

「その方が、ボスらしいジャン?」

 ノイズ混じりのチャラついた声が響き渡る。

 氷属性に関する構成、調子に乗っている時のような台詞運びで、士狼は確信した。

 

(……本当に、近衛から生まれたんだな)

 カッコつけたがる言葉も本人を思わす口ぶりに、士狼はじとりとした目で見た。

「なんだよその目……」

 あ、動揺している。

 本当に未来の不安を体現した存在なのかと思うほど、近衛由成との言動が似通っている。

 

「頼む! オレはどうなってもいいけど、みんなを傷つけるな!!」

 近衛はシャドウに乞う。

「ああ、もううるせえな!」

 シャドウが苛立つと、電撃を放ち、近衛の方へ向かっていく。

 

「オモイカネ!」

 士狼は慌てて指揮棒を回すと、サラスヴァティから、脳髄に触手がついたオモイカネに変えて盾となる。

 その影響で、静電気が継続したような痛みに蝕んでいる。

 チャンスと言わんばかりに、石像が氷を放ってきた。

 

「あっ」

 攻撃を食らいそうになったが、コチョウフジンの番傘が盾となってくれた。

 従者はその隙を見て、コチョウフジンに雷を放とうしたので、指揮棒で合図し二発目の雷撃──

「……地味に痛い」

 感電耐性があるとはいえ、じわじわと痛む。

 士狼はお返しと言わんばかりに、石像と従者に雷撃を食らわせた。

 

 石像はお構いなしに、こちらに向かって黒靄を纏った手で触ろうとしてくる。

(この技は!)

 スライムの『デビルタッチ』と似ている気がする。

 指揮棒で躱す合図を送る。

 石像は電撃は効かず、氷を使ってくるだったらこちらも──

 士狼は指揮棒を回すと、名を呼ぶ。

 

「ユニコーン!」

 オモイカネから一転。

 純白の一角馬を呼び出すと、金色の光が石像を囲い、攻撃した。

 

(よし、普通に効く!)

 石像はぐらつくと、その隙に三善の様子を見た。

 仕込み刀を日本舞踊のように振り回しては、風を浴びせると効いているように見えた。

 三善が従者を抑えているうちに、士狼は石像を睨む。

 

 すると瀧のペルソナファウストが、横切り杖で打ち込みをしていた。

「待たせた、今から復帰する!」

 ファウストの攻撃を食らった石像は涼しい顔で、冷気を集約させている。

 

「なるほど、打技は効かないのか……」

 瀧は冷静に分析し、その言葉を聞いた士狼はぽつりと呟いた。

「魔法で攻めろってか?」

 瀧は眼鏡を上げてレンズを光らせる。

「そういう事だ!」

 ファウストが後ろに下がって、三善と士狼を守る立ち位置にすると、指揮棒と左手が正確無比に振られる。

「おお」

 力がみなぎってくるようだと、士狼は関心していると、瀧は叫んだ。

「効果は短いが、力を増幅させた! 思う存分叩き込め!!」

 瀧がファウストに冷気を集めさせる間、シャドウが舞台から降りて、レイピアの刃先を瀧に向ける。

 そして、ピリピリと肌を刺激する、感覚が士狼に走る。

「電がくるぞ!」

 士狼が叫ぶと、瀧は何を思ったのか静かに語り始める。

 

「……誰も見てくれないって?」

 ユニコーンは光の攻撃を石像に叩き込ませて、いななきをあげる。

「そうだよ! おれはただの盛り上げ役だけなんだ!」

 シャドウが瀧の語りに返すと、瀧は静々と答える。

 

「……僕は、君の事を羨ましいと思うよ」

 近衛の目元を赤く腫らしたタレ目は、見開いている。

「なんだよ! いきなり! ツンデレか? ツンデレなの?」

 突然の褒め言葉に、近衛は照れて動揺しているのが伝わってくる。

 

「ツンデレの意味はわからないけど、君は都合の良い人間じゃなくて、人の輪に入れる器用な人だなと気づいた」

 瀧の言葉は、シャドウはえらく動揺し、体を揺らしていた。

 

「やめろ! おまえも! いい加減、こいつらを拒否れってば!!」

 瀧が言っていた良くも悪くも正直者というのは、こういうところなのだろうか。

 真っ直ぐと人の感情を受け止める性格の生みの親に、シャドウが苦しみ始めている。

 

「僕はどうやら、人を寄せつけないらしくて……」

 林間学習の班決めの時。

 班を組もうと声をかけたのは、自分と芥川幸恵(あくたがわゆきえ)木野正(きのただし)ぐらいで、後は誰も来なかった。

 実際どれだけいるかはわからないが、近衛と比べたら確かに瀧は人を寄せつけない。

 

 士狼はそう納得していると、ファウストの杖先から、一矢、二矢の氷柱がシャドウに向かって、放たれた。

 士狼も三善もそれを壊されないように、側近を追い詰めていく。

 

「人を寄せる親しみやすさは、僕には持っていない」

 瀧は三善や士狼と違って、一年の時のクラスメイトだったと、士狼は思い出す。

 この場にいるメンバーで近衛由成をよく知り諭せるのは、瀧慈宗(たきちかむね)だけであった。

 

「えっ!? マジで言ってんのそれ?」

 近衛の表情が気恥ずかしさを感じられる。

(本当に正直だな……)

 ようやく石像を倒すと、力の増幅の効果が切れる前に、次は三善のフォローに回る。

 

「僕がふざけると思うのか?」

 瀧が爽やかに微笑んだのを見届けると、従者にユニコーンに光の攻撃を浴びさせた。

 

「シシッ、あり得ねえよな、だってお前は──」

 いつもよく聞く近衛の声だ。

 どうやら完全に立ち直ったらしいと、士狼は察すると、シャドウの悲痛な叫びが聞こえた。

 

「受け入れるな! おまえはそうやって、ほだされていいように使われ──」

 声は虚しく近衛は瀧を見て、生意気そうに笑った。

 

「いじめを許さねえ、委員長サマだもんな♡」

 近衛の言葉と共にシャドウが氷の攻撃を受けたのか、痛ましい叫びが劇場に木霊した。

 

「一か八かだったが、シャドウには、効果てきめんだったようだな!」

 瀧の叫び声と、パキパキと何かが凍りつくような音を聞きながら、三善と一緒に従者を倒し、振り返る。

 

 そこには氷漬けになったシャドウが、もがきあがいている光景だった。

「やーい! 不安クン! 瀧にやられてやがるの!」

 舌を出し近衛が煽りながら近寄ろうとしたので、士狼は指揮棒を動かそうとするが、ファウストが先に止めに入る。

 

「近衛くん、危ない!」

 瀧が制止すると唇を尖らせて拗ねる近衛。

 

「いやだってもうこいつ、ノックアウトじゃん、襲いかからねえって」

 ヘラヘラと近衛は笑っているが、瀧は逆に青筋が浮かび上がっていた。

 

()()()()()()()()()()!」

 みんなの髪の毛を逆立てながら士狼は指揮棒を回して、ヴァルターに変えると、シャドウに火炎を浴びさせた。

「ぎゃ!」

 シャドウは悲鳴をあげると、士狼の髪の毛が降り立った。

 士狼の熱で氷は割れて、背中から帯状のものが出てきて拘束された。

 調子に乗っていた近衛は顔を青ざめ、左腕を直角に右腕を掲げ、左足は浮いたままの姿勢で硬直してた。

 

「しぶといな」

 士狼は呟くと、ヘトヘトになっている三善がこちらにやってきた。

「……連発しすぎた」

 傍らの三善は呟いて、劇場の席に座ると、近衛はおろおろとこちらを見てくる。

 

「えっと? オレ、どうしたらいいの?」

 近衛の不安はどうやら瀧の指摘通り、自己肯定感をあげるみたいだったらしい。

 

 未来を打破する力を欲した山田士狼。

 過ちを繰り返さないよう、誓う自罰の瀧慈宗。

 家族を犠牲に、夢を諦める三善明美。

 シャドウの言葉から推測できるのは、近衛由成の不安とは。

 都合の良い人間として扱われ、自分の事を誰も見てくれない道化。

 他者の表明で解消できる不安故に、他の三人と違って実感があまりないだろう。

 

「……なんだよ、チクショウ……どうせ、瀧もおれの事を見てくれないんだろう……」

 シャドウの泣きじゃくる声が寂しく響く。

 

「それはねえよ、だって、瀧は嘘つかねえモン」

 近衛がシャドウと向き合い、優しく対話している。

 

「……おれを拒否れは言っていない、おれは独りぼっちだ、寂しい……寂しいよう……」

 泣き声を聞きながら、近衛はどこか気まずそうな表情を作る。

 

「……だから、オレはコルサコフを、ほっとけなかったんだな」

 近衛は中腰でしゃがみ、膝を腕に置く。

「はー今のでようやく分かったわ、早苗さんがいい子って言ってた意味」

 頭を掻きながら近衛は語る。

 

「寂しいから()()がいるんだな」

 近衛が目を伏せて呟くように唱えると、指揮棒が出現した。

「たく、回りくどいやり方しちゃって」

 近衛は立ち上がると指揮棒を受け取り、胸の穴に突っ込んだ。

 

「おまえいいのか、これからも都合の良いヤツのままで……」

 シャドウがか細い声で、投げかけてきた。

 

「それがオレの売りって事で」

 近衛は続けてこう言う。

 

「オレの事をマジで見てくれるヤツは、いるんだなって瀧で気づいた」

 シャドウの靄が晴れていく。

「オレはオレのままで良いんだよな──」

 銀のピアスが照明に光らせると、頭部は三角帽子に蝶の仮面をあしらい、下半身はたくさんの仮面がついた籠のようなものを付けたファッションアイテムを纏い、特徴的なフリルを胸元にあしらった怪人貴族風な異形が姿を現す。

 

「我は汝、汝は我。汝の心の海より出でし者。我は放蕩と好色の貴族なり──」

 

 大きなハートマークを背に、二人の女性がピアノ奏者を挟んで向き合っている絵が描かれたタロットカードが、近衛の頭上に落ちてくる。

「なんだこのカード? ろく……」

 近衛が倒れ込んだ時、ファウストが優しく受け止めた。

 

「まずは近衛くんだな」

 瀧はそう呟き、次は和也と呼ばれた少年の救出だなと士狼は思った。




〓─〓─〓─ペルソナ解説─〓─〓─〓
『ジョヴァンニ』
 アルカナ:恋愛
 スペインの伝説『ドン・ファン』を基にした登場人物。
 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのオペラが有名。
 壊滅的なほどの女たらしな貴族ドン・ジョバンニは、騎士長の娘を巡って決闘をし殺してしまう。
 正体を隠すため顔がよく似ているという従者レッポロに自分の恰好をさせてまで、女遊びにふけていると騎士長の石像が現れるが、彼は食事会に招待する。
 その際、生き方を悔い改めよと石像は彼に詰めたが彼は「改めない」と答えると、地獄に堕とされて終幕する。
 
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