PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter9『Oh, I share your sorrows and joys with no one.』 ActⅢ

「たまたま姿が違って生まれただけで、踏まれてしまうんだ⋯⋯ぼくらは、何をしたんだ⋯⋯」

 劇場の崩壊と共に紡がれる悲痛と怨嗟。

 声が届かない深く(くら)い場所にいる、コルサコフ・和也(かずや)のシャドウを目にした、三人は何もできずに見るしか無かった。

 

「……苦しい、苦しいよう……生きるのはもう嫌だ……早く……ぼくたちを……倒してくれ……」

 助けを求めている声は、感情がなく淡々と発するだけである。

 

「……コルサコフ、今度は自分ごと、いなくなるつもりか」

 コルサコフと心を通わせたであろう近衛由成(このえよしなり)の眉毛は、悲しげに垂れ下がっていた。

「ああ……顔の下が見えない人間が、ぼくたちに近寄るのが、たまらなく怖い……」

 ノイズ混じりの声は震えていた。

 

「いい顔をして……近づいて……傷つけられると思うと……心が張り裂けそうになる……」

 山田士狼(やまだしろう)は視線を後ろに向けると、それに気づいたのか、瀧慈宗(たきちかむね)は、むむと口をへの字に曲げてきた。

「あと何か一手が欲しい、あの時の黒猫が来て欲しいが……どこかへ消えてしまったからな」

 案内が終えるとランプの黒猫が消えてしまった事を、士狼は思い出した。

 

「コルサコフ君を巻き添えにしたら、大変だよ」

 三善明美(みよしあけみ)は見つからないコルサコフを気遣って、戦意を失いつつあった。

「かといって、下手に触ったら何が起きるか、分からねえし」

 我先一番に雷撃を食らわせ、反射された近衛は険しい表情を作っていた。

「けど、コイツを倒すには、俺達しかできない」

 士狼は床のひび割れを眺めながら、三人に向けて言った。

 

「ひゅう、相変わらずクールだなお前」

 近衛が軽口を叩いてきた。

「まずはコルサコフを起こそうぜ、まだ寝てるかも知れないしな!」

 三善も士狼の言葉で背中を押されたのか、指揮棒を振りコチョウフジンを召喚した。

 

「コルサコフ君! どこなの!」

 三善が声をかけながら、風を起こした。

 それを見た士狼はヴァルターにチェンジすると、炎を吹き出し三善の風に乗せた。

「……ようやく……倒す気に……」

 火の海を防ぐ素振りもしないシャドウを直撃する。

 

(どこだ、どこだ!)

 

 炎の灯りで鮮明になった舞台を目を凝らして探す。

 三人の時は、必ず舞台にいて、シャドウと対峙(たいじ)していた。

 頼む、これだけは例外にしないでくれと、士狼は祈った。

 だが、現実は残酷であった。

 

「いない!?」

 照らされた舞台は空っぽであった。

 その代わり目に映ったのは──

 

「……あれ? 気持ちいい?」

 炎を吸収して、無感情に呟くシャドウの様子であった。

 

「効いてない!?」

 士狼は三善との渾身の攻撃が効かないと知ると、顔を歪ませる。

 それを見たのか、近衛が指揮棒を振るった。

 

「雷も火もダメなら!」

 ジョバンニがシャドウに向って、右腕に鋭い一突きを浴びせた。

「痛い……!」

 シャドウはぐらりと揺れて、悲鳴を上げさせると近衛が言ってきた。

 

「剣でどーよ!」

 反撃してこないと読んだのか、舞台に立つジョバンニが辺りを見渡してくれる。

「いない、コルサコフ!! どこだ!!」

 必死の形相で近衛は叫ぶが、虚しく響くだけであった。

 

「だから……」

 ぽつりとシャドウは呟いて、舞台へと向かい始めていた。

「まずい!」

 士狼はヴァルターに向かわせるよう、指揮棒を振るう。

()()()()()()()()

 事務的に淡々した声で発すると、シャドウの腕がジョバンニに向けて上げられる。

 コチョウフジンが一番に辿りついて(あいだ)に入ると、番傘が拳とぶつかり合う。

 

「!」

 その言葉を聞いたのか、瀧の剣道で鍛えられた声は、大きく劇場に響き渡った。

「シャドウの中に反応がある! シャドウを無闇に傷つけるな!」

 その言葉を聞いた三善がこう言ってきた。

「分かった!」

 コチョウフジンは拳を跳ね上がらせると、ジョバンニを守りの姿勢に移させた。

 

「倒してって言っているのに、倒さないって難しいな」

 士狼はヴァルターの赤い肩マントをひるがえすと、膠着(こうちゃく)状態になる。

「嫌だ! やめてくれ!」

 突如、レイピアで傷つけられ、怯えだすシャドウ。

 

「仕方がないじゃないか……僕だって……嫌だよ……こんな色なんて!!」

 壊れた機械のように支離滅裂な言葉を発すると、取り乱す姿に三人は困惑した。

 

「一体、何が……」

 士狼は理解できない現象に、立ち尽くしていると。

 劇場に小さな鳴き声が響いた。

「にゃあん」

 士狼達の前に現れたのは、あの時のランプを首に下げた黒猫であった。

「お前!? 危ないぞ!」

 黒猫は何事もないように、シャドウに近寄り、士狼もつられて追いかける。

 

「あ……ああ……ルナじゃないか! 一体、どうなっているんだ!?」

 シャドウがまるで長い月日を経た再会のように振る舞うと、泣き出しそうな声で黒猫を迎え入れようとした。

「フーッ!」

 毛を逆立て警戒のポーズを取られると、シャドウはひどく動揺する。

「なんで? ……ぼくたちだよ? 忘れちゃったのかい?」

 一匹と一体の反応を見た、近衛はやれやれという態度を取って、言い放つ。

 

「だから、お前はシャドウだっつーの、気づいていないのか、その姿」

 その言葉を聞いたシャドウは、崩れ落ちひどく取り乱した。

「何を……言って?」

 自分の姿を見ている仕草をとる。

 

「なんだ……これ? 僕はどうなっているんだ?」

 ノイズが取られた声で動揺すると、黒猫が鳴き始めた。

「眩しい」

 ランプの光にシャドウが目をくらませると、瀧が指示を出してきた。

 

「胸の穴! 僕達が指揮棒を差し込むところだ!!」

 その言葉を聞いた三人は頷いた。

 

「二人とも、一曲アガるヤツちょーだい!」

 近衛がにやりと勝ち気に微笑むと、三人は一気に仕掛ける。

 三善が風を起こし、士狼が炎を乗せると、再び直撃する。

 

「嫌だ! もうルナと離れたくない!!」

 シャドウが炎を浴びながら、わめくとランプの黒猫に手を伸ばし始める。

 

「倒されたくない! 倒されたくない! ここにいたい!」

 取り乱した隙に火炎放射をやめると。

 ジョバンニの剣先がシャドウの穴を狙う。

 

「目を覚ましやがれ!!」

 一閃。

 胸の穴を命中させた攻撃を食らわせると、黒い繭のようなモノが、シャドウから排出した。

 

「繭みたいのが⋯⋯」

 三善が呟くと、士狼は無言でそれを眺めていた。

 

「ヤベー……瀧とルナがいなきゃ、丸ごとやるとこだった」

 近衛が青ざめた表情でそうコメントすると、真っ先に繭が落ちたところに向かう。

 

「ああ⋯⋯! ぼくを返せ、『ぼく』を返してくれ⋯⋯! 独りぼっちはもう嫌だ⋯⋯!!」

 シャドウが振り返り、黒い繭を取り返そうと近衛ごと手を伸ばそうとするが、ヴァルターがその腕を掴んだ。

 

「お前だけじゃないよ、俺だってずっと独りだったから」

 転勤族の士狼の言葉に、シャドウはヴァルターを見てくる。

 

「それ言うなら、早苗さんがいなきゃ、オレも芥川も家で独りぼっちだぞ」

 続けて近衛もそう返す。

 

「……けど、ぼくは……」

 シャドウがまだ何か言いたげである。

「本当に面倒くさいな、お前は」

 近衛がそうポツリと呟くと、黒い繭がほどけて、穏やかに眠る和也が姿を現した。

 

 

「⋯⋯ここは」

 コルサコフが目を開けると、辺りを見渡している。

「バカ! 何考えてんだよ! なんで、死のうとしたんだ!」

 由成がいつもよりも増して、青白くなっているコルサコフを叱咤する。

 

「……僕にようになって欲しくない人が……なってしまって……もう生きる希望も⋯⋯ないと思ったんだ」

 静かに語るコルサコフに対して、由成は叩きつけるように叫んだ。

 

「なんだよそれ! いつも反応が地獄にいるなんだよ、お前は⋯⋯!」

 由成はコルサコフの言葉の意味は理解できなかったが、受け取り方が大袈裟だと訴える。

 

「⋯⋯地獄も何も⋯⋯」

 コルサコフが視線を落とす。

 

「僕には⋯⋯何も無い⋯⋯何もできない⋯⋯」

 コルサコフの声が、またおどろおどろしいものになる。

 表情は生気を失い、絶望に染まった青い瞳が向けられる。

 

「全部奪われた⋯⋯ルナを守れなかった僕に、価値なんて⋯⋯ない⋯⋯」

 コルサコフの体から黒い糸が現れると、周囲を編もうと、うごめき始める。

 

「繭がまた!」

 三善がそう叫ぶと、シャドウはヴァルターの中で、暴れ始める。

 

「返してよ……『ぼく』を返してよ……」

 まるで心の拠り所を求めているみたいだった。

 

「返してよ……僕の大切なものを……」

 全てに絶望した少年は、生きる希望すらも無くなっていた。

 そんな闇に触れて、心を痛めた由成のタレ目から雫がこぼれだす。

 その涙はコルサコフの頬を伝い、劇場の床に流れ落ちていく。

 

 なにもない、無価値の人間だって──

 

 あの時、無礼な事を言った桜木を跳び蹴りして、無理やり謝らせたのか。

 あの夜、コルサコフの闇と真剣に向き合い、拒絶されてショックを受けて、心配して後を追ったのか。

 何も伝わっていない、伝わっていないじゃないか。

 だから、思わず由成は口にした。

 

「お前が何もないって……じゃあなんで、オレは泣いてんだよ!!」

 

 由成の落涙を浴びたコルサコフが視線を向けて、きょとんとした表情を見せて、無言で見つめてくる。

 

「⋯⋯ああ、でも⋯⋯嘘かも知れない⋯⋯そうやって⋯⋯ルナを踏みにじったんだ⋯⋯」

 

 ヴァルターに羽交い締めされたシャドウは誘導するかのように、呟いた。

 

「それは違う。由成くんは⋯⋯そういう事をする風には⋯⋯」

 シャドウの甘言にコルサコフが、はっきりと拒否をする。

 その反応を見て、由成は、信頼してくれる嬉しさで笑ってしまった。

 

「コイツは嘘をついている⋯⋯また⋯⋯踏みにじられる⋯⋯」

 無気力な誘い。

 コルサコフを再びあちら側に、引きずり込もうとしているのが、伝わってくる。

 

「何分かった気になってんだ! オレ達はまだ学校どまりじゃん! 本当に、オレとタメかよ!」

 長距離トラックドライバーの父から世界を聞き、人に覚えて欲しくて自分で活路を見出した男は、学校だけで完結するなと説得をする。

 

「⋯⋯まだ⋯⋯学校⋯⋯」

 驚愕した顔でコルサコフは見てくると、シャドウが悶え始める。

 

「違う、違う、違う! コイツに騙されるな! 『ぼく』!!」

 シャドウは抵抗していると、黒猫がコルサコフの元へと走って寄り添う。

 

「……ルナ!」

 青い瞳を小さく丸めて涙を零すと、コルサコフはルナの頭を撫でた。

「ごめん!! ごめんよう!! 僕のせいで!!」

 ルナが鳴くと、シャドウが悶え始めて、ようやくヴァルターの腕をほどくと、背後から襲いかかろうと、手を伸ばした。

 

「嫌だ! 嫌だ! ぼくをひとりにしないで!!」

 その声を聞いた、由成は白銀の指揮棒を振り下ろした。

 

「任せた! ジョバンニ!!」

 ジョバンニは蝶をかたどったレイピアを構えると、カツンとヒール音を鳴らして踏み込み、シャドウに一突き。

 

「仕方がないじゃないか……」

 シャドウは泣き出しそうな声を絞り出す。

 

 二突き。

 

「持って生まれたんだから……」

 

 三突き。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

 

 四突き。

 

「殴らないで……!!」

 

 その言葉を聞いた由成は、コルサコフの罪悪感を軽減させようと、目を腫らしながら叫んだ。

 

「いい加減、顔をあげろ!! コルサコフ!!」

 

 五突き目。

 

「オレがいるだろうが!!」

 由成の怒声と共に、シャドウはジョバンニによって、吹き飛ばされて、地面に伏せると、背中から帯が出てきて拘束されていく。

 

「終わったのか……」

 

 瀧の声がぽつりと、傷だらけの劇場に響き渡った。

 

 

 揺れも収まり、劇場の欠片が零れ出る夕陽に照らされ、キラキラと輝きながら、ジクソーパズルのように欠片が収まっていく。

 

 観客席にいる三人は近衛の名前を呼んで駆け寄ると、十センチぐらい差のあるコルサコフの体を、震えながら支える近衛由成が立っていた。

 

「二人とも大丈夫か!?」

 士狼が駆け寄って手伝うと、ルナもコルサコフの足元に寄り添っていた。

 

「……そういや、言うの忘れてたわ。お前さ。あん時、オレが悩まないと思った事が間違いだったとか、言ったじゃん」

「うっ」

 近衛とコルサコフの救出で、すっかり忘れていた、わだかまりを近衛は掘り返す。

 

 士狼が近衛に嫌われているのではないかと、思った出来事を突かれ、気まずそうに目を反らした。

 

「オレもこうとはいえ、人間よ!! フツーに傷ついたんだがあん時!!」

 

 コルサコフは疲弊しきった顔で、小さく呟いてきた。

「由成くん、泣いてたよね……僕みたいに、人との話すのが、怖くなったと心配しちゃったよ……」

 

 だが近衛はガルルルと唸って、コルサコフにこう言った。

 

「そんな事で、怖くなってたまるか! 大体、楽しくなさそー事は嫌いなんだよオレは」

 士狼は無表情ですまないと謝り、コルサコフは太い眉毛を八の字に寄せる。

 三人はすっかりと怯えて、五線譜が描かれた帯で拘束されれいるシャドウの元へと辿り着く。

 

「アイツは……お金の為に、ルナを殺したんだ……」

 コルサコフは何かを思い出したのかハッとして、シャドウを見下ろした。

 

「……そうだよ」

 コルサコフは静かに返答する。

 

「目の色だけが違うから、体が不自由だから、やって来て、ひどいことをされるんだ……」

 士狼はその言葉を聞いて、俯いた。

 幸い士狼は転校生という好奇心で近寄って来たのが、大半であり、士狼にとって、あり得たかも知れない未来を見た。

 

「……うん。父さんと母さんが先生と話しても、早瀬先生が念入りに調べても、だめだった……」

 コルサコフの横顔は、儚く目を伏せている。

 

「この世界は……ぼくらのような人は、踏みじられてできているんだ……」

 重く深海に沈んでいくような重圧に参ったのか近衛が、空いた片腕で耳を塞いで荒れ狂った。

 

「あー! あー! ゲームの魔王みたいな事を言うな!!」

 その叫びに瀧が乱入してきた。

 

「近衛くん?」

 

 瀧はとても真面目な為、当然この空気で、茶化すことは許されないのであろう。

 隣の三善はきちんと真面目に、聞き入っているというのに。

 

「瀧、頼むから、茶化させてくれ!! アイツが暗い話する時、マジで精神が持たねーんだよ!」

 

 その台詞にコルサコフが、ショックを受けたのか、大きく目を見開いて近衛の顔を見る。

 そして、長い睫毛が真っ直ぐと青い瞳に覆い被せて、眉毛を寄せた表情を、士狼と近衛に見せつける。

 

「……僕の悩みを雑に扱うな」

 

 淡々としているが、圧を感じる声色。

 

 怒っているなと、士狼は事務的に受け止める。

 次に助けを求めて欲しいのか、捨てられた子犬のように見つめてくる近衛から、視線を反らした。

 

 自分は関係ない、巻き込むなの意思表明である。

 

「あ……う……ごめん。けど、オレ、こういうのマジで無理。どこから話せばいいか、分かんねーの!」

 近衛にとっては、よほどコルサコフのネガティブな雰囲気が、苦手だと伝わってくる。

 

「近衛君は、正直者だね」

「三善さんもそう思えてきたか。けど、今回は裏目に出るな」

 瀧と三善が士狼達を見守りながら、談笑をしている。

 

「古参みたいな事を言い出してきたな、コイツら……」

 近衛は苦い顔で二人を見ている。

「こさん?」

 聞き慣れない単語に士狼は首を傾げると、つかさず近衛が解説する。

 

「よーは、先輩風を吹かしてるって事。瀧はともかく三善なんか会って、まだ一ヶ月ぐらいだぜ」

 説明を受けた士狼は、納得がいかない様子である。

「一ヶ月も付き合えば、そうなるものだと思うけど……」

 その言葉を聞いたコルサコフと近衛は顔を見合せて、口を開いた。

「……何、この妙なズレ」

 近衛は冷めた顔。

 

「そういうもの……なのかな?」

 コルサコフは不可解な顔であった。

 

「……ああ……うらやましいな。ぼくも混ざりたかった……」

 加工されたような声が切実そうに響く。

 

「……僕もだよ……こうやって、人と話したかったんだ」

 消え失せそうな声で、シャドウに呼応するコルサコフ。

 すると、天空から白銀の指揮棒が降りてくる。

 

「……ここまでくるのに、長かった。すごく長かったよ……」

 コルサコフが涙目で指揮棒を受け取ると、足をふらつかせながらシャドウに向う。

 

「にゃあ」

 士狼の足元から発する鳴き声に、コルサコフは振り返る。

 

「……ルナ」

 首を傾げて優美に座る、ランプがついた首輪をつけた黒猫のルナ。

 その声は別れを惜しむような悲しい口調だった。

 

「もし、嬉しい事で埋め尽くされても、君をずっと忘れない」

 コルサコフが胸の穴に指揮棒を差し込み、ガチャリと回した。

「ここにずっといたいけど、僕には待っている人がいるから……だから、さようなら……ありがとう……」

 ルナがコルサコフの足元に頭と体を擦り寄せて、ゴロゴロと喉を鳴らすと、コルサコフは体を震わせて泣いていた。

「……ようやく言えた、やっと言えた……っ!!」

 コルサコフの泣き声と共にシャドウの黒靄が晴れる。

 三善と近衛はもらい泣き、瀧と士狼は切なそうに静かに見守っていると。

 赤と白の2つに分かれた肌を持ち、右片方が悪魔の翼がついたマスクをした筋骨隆々の男が姿を現す。

 

「我は汝、汝は我──我は彷徨(ほうこう)せし、半魔人である」

 書き物机にランプと白紙の楽譜とペンが置かれた絵柄が描かれた、青いタロットカードがコルサコフの手元に落ちる。

 

「これは……?」

 コルサコフは目を丸めてこちらを見ると、士狼は答えた。

 

「ペルソナだ」

 

 




〓─〓─〓─ペルソナ解説─〓─〓─〓
『ロベール』
アルカナ:隠者
 ジャコモ・マイアベーアが中世フランス伝説『悪魔ロバート』を元にしたオペラが有名。
 ロベールは、父は悪魔、母は人間の出自により故郷を追い出され、友人に扮した悪魔の父ベルトラムの策略により、母の訃報の悲しみよりも快楽を選んで、賭場で全てを失い、愛され、助けられた、王女の結婚を賭けた槍試合の不参加と、不幸な目に遭う。
 その終幕は、期限が迫り悪魔界に誘惑する父と、母親の遺言を託された乳兄妹のアリスとの争いの結果、期限が切れて、父は地獄の業火に飲まれ、ロベールは救済される。
 
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