PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter2『I'm obliged to be diligent』ActⅠ

 仄暗い空間で燦々(さんさん)と輝く青い劇場が見下ろせる席。

 バルコニーの手前に手足が細く鼻の長い老齢男が、腰掛けて丸く小さなテーブルに腕をかけて言われる。

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 しゃがれた声を聞いて山田士狼(しろう)は突然辺りを見渡し、ぼうっと青い空間を眺めていた。

「あなたが契約者様ですね」

 次に語りかけるのは、青いカウチソファーに座った女性。

 胸元が開いたシンプルな青いドレスを纏っており、青いアイシャドウを施した金の目元がこちらを向けてくる。

「……契約者?」

 士狼はきょとんとした表情で鸚鵡返しをすると、ダイアナは真珠の耳飾りを輝かせ微笑む。

「ええ、先程。あなた様のシャドウを通じて我々との契約をしたじゃありませんか」

 士狼は思い出す。契約しても助けられない未来があると、黒い靄が言ってた。

「シャドウ?」

 青いドレスの女性は説明をする。

 

「シャドウというのは、人の未来への陰りから生み落とされた内海の影」

 次に老人。

「そして、思い描いた旋律を遮るいわば未来への不協和音の事ですな。客人は見事に美しい旋律を導き出された」

 老人は細長い腕を動かす。

 その手先には士狼が握っている持ち手が緩い曲線を描く、鍵にも見える大振りな指揮棒が白銀に輝く。

 それに気づいたのか、士狼は持ち上げてじろじろと眺める。

「……よく分からないが、お前達がここに連れてきたのか? それよりも、俺は瀧を探さなきゃいけないんだ」

 黒い廊下のような場所の次は、劇場の席かと薄茶の頭をかく。

 その様子を見た長い鼻の男は、口元を張り付けたような笑顔のまま答える。

「左様。申し遅れましたな、(わたくし)の名前はイゴール、この部屋の主でございます」

 イゴールと名乗った男。

「私は従者のダイアナでございます」

 ダイアナと名乗った女。

「あっどうも」

 士狼は引き返そうと扉のドアノブに手をかけようとする。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間の場所」

 イゴールは目を細めて何か言いたげな顔を作る。

 士狼はその言葉を聞いて、視線だけを向ける。

「そして、契約したあなた様しか来れない特別な場所」

 ダイアナがこう続ける。

「故にあなた様の探し人はこの部屋にはいません」

 彼女は膝下に乗せた分厚い書物を優しく撫でてこちらを見てくる。

「そうか。戻れそうな場所に案内してくれてありがとうな」

 士狼は瀧を助けるのに急いでいるので、ガチャリとドアノブを回した。

「どういたしまして、それとお客様にお渡したいものが」

 ダイアナが長いまつ毛を金目に被すと、ポケットが膨らんだ感覚がしたので士狼はツッコむと仮面の絵がついた鍵を確認する。

「契約した者が持つ鍵でございます、あなた様が困った時は我々がいつでも力になります」

 ドアが開いた。

 

「どうしてそこまで?」

 イゴールは調子変わらず答える。

「我々は見たいのです、絆を結び未来への開拓をする人の心を」

 大きく釣り上がった士狼の瞳は理解していないと語ってくる。

「お客様は『愚者』のアルカナを手にしました。旅の始まりそして未知の可能性を秘めておられます」

 見上げるダイアナも同じく表情と調子を変えず語り続ける。

「その心の力をどうか、正しい未来へと導いてくださいませ」

 士狼はその言葉を背後に急いでドアの向こうへと旅立つ。

「それでは時が来ればまたいずれ、御機嫌よう」

 ダイアナが別れの言葉を紡ぐと、ばたんとドアが閉められた。

 

 

 ピアノの音。

 明るくて天国にいるような賑やかな曲。

 くるくると可憐に舞い上がる展開は、まるで誰かと一緒に踊っているのかと錯覚する。

 士狼が観たホラー映画に出てくる昔ながらの素朴な暮らしをする花に彩られた人々を思い浮かぶ曲であった。

 一つと二つの音が鳴り響いて、音楽が終わったところで目が覚めた。

 士狼は起き上がると、古びた木造建築のオレンジの教室を見る。

 黒板の下には木造の舞台が添えられ、上には音楽家達の肖像画が並べられて飾られていた。

 

「大丈夫?」

 ぎいと椅子の音を立てて、こちらに寄ってくる女子生徒がいた。

 髪を中分けしており、三つ編みを両端に垂らした黒髪は夕焼けに輝いていた。

 彼女の後ろには大きな音楽機材と黒いグランドピアノがあり、それに気づいた士狼は跳ね上がるように驚いた。

「お前は!」

 彼女はセーラー服を着ていた。

 一瞬は校外の生徒だと思ったが、胸には天音高校の校章が縫われていたので瀧が言っていた旧式の制服だと判断する。

「吉田杏奈か?」

 女子制服のリボンと同じ色のスカーフを揺らして、女子生徒は山田が寝かされていた場所へたどり着いた。

「そうだけど、どうして私の名前を?」

 彼女の視線は下から上に戻り、きょとんと不思議そうに見てくる。

「お前が死んで噂になってるからだよ、二十年前ぐらいに旧校舎で死んだって……」

 士狼は疑惑の視線を彼女に向けた。

「……ああ、そっかもうそんなに時間が経過したのね」

 どこか寂しそうな横顔は夕陽に消えてしまいそうな程、儚かった。

 大人びている顔つきだからか、とても()になる光景である。

 

「お前が瀧を連れ去っただろ、どこへやった?」

 意識が取り戻していく中、また違うピアノの曲が聞こえたので士狼は単刀直入に聞いてみる。

「たき? 連れ去るってなんの事かしら」

 士狼は今まで起きた事を簡潔に述べると、杏奈は神妙な顔に変わり口を開いた。

「私はここから出れない地縛霊みたいなものだから、新校舎まではいけないし何よりも、扉を呼び出す力は持っていない」

 杏奈は答えながらピアノに向かって、裾を抑えて座る。

「それに私は、何故かこれしか弾けなくなってしまったの」

 鳴り響く鐘と何かぶつかっているような音を思わせる、ピアノの調べが始まる。

 それが終わると低音部が弦楽器のように奏でられ舞曲が始まったのだと錯覚させられる。

 そして中音域に入ると、まるでフラメンコのような情熱的な旋律から一変、高音部はまた何かがぶつかり合う音を表現する。

 

「俺が最初に聞いた曲だ」

 転校初日に聞こえた曲は、逃げたお陰なのかそれとも無関係だったのか、白い翼を持つ異形は現れなかった。

「けど、さっきの曲とは違う。なんだろう同じ賑やかな曲なのにこれとは違った何かがあるっていうか……その……」

 士狼にはまだ器楽曲の言語化は早かったのか、どう言えばいいのか困惑していた。

 杏奈は演奏を止める。

「士狼くんが聞いてたのはベートーヴェンの『告別』ね。その感じだと三楽章の方かしら」

「……はあ」

 ちらりとベートーヴェンの肖像画を見て、完全に知識が追いついていない状態だった。

「で、私がこれしか弾けなくなったのはサン=サーンスの『死の舞踏』のピアノ編曲。

 死神と骸骨が生きてる人達を巻き込みながら踊るんだけど、朝が来て鶏の声で死神と骸骨達はいなくなってこう終わるの」

 杏奈は自嘲気味にドを鳴らす。

 

「死は平等だって」

 話を聞き終えた士狼は、急いで音楽室の扉を手に掛ける。

「あれ? どこ行くの?」

「瀧を探しに。それと、じゃあなんで『告別』って曲が聞こえたんだ、弾けなくなったのにおかしい」

 一刻も争う時に、悠長に話を聞いて登場人物の気持ちを答えなさいの解答はできない。

 だがその代わり士狼は、瀧を連れ去った犯人という疑いは晴れていないと申し出る。

「プレイヤーで聞いてたの、ほらここは音楽室だし、クラシックのCDがあったから」

 杏奈は先程士狼が見た音楽機材に視線を向けたのを見た、士狼は一理あると納得した。

「……疑って悪かった。じゃあ俺は行く」

 士狼は杏奈に謝罪をすると、そのまま士狼は音楽室を立ち去った。

 

 

黄昏の旧校舎 廊下──

 

「……あ」

 別れてから、わずか数分の出来事だった。

 音楽室の隣の教室を彷彿させる黒い箱にくっついているみたいな黒い重厚な扉が威風堂々と、構えているのを見かけて足を止める。

 そして次に目にするのは、黄金に染まった短い木造の廊下奥には、転校初日で見かけた白い扉が士狼の眼の前にあった。

「どっちに行けば良いんだ?」

 ここで士狼は迷う。

(しまった、助けたいあまりベルベットルームや吉田の話もっと聞けばよかった)

 進む力が強すぎるあまり、情報収集がろくにできてないい自分に頭を抱える。

 とその時、頭から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

 

(旅は急いてはいけませんお客様)

 士狼は目を見開いて驚愕した。

(お前はダイアナ!?)

 青いドレスの派手に着飾った金髪金眼の女性の顔が思い浮かんだ。

(ええ、言ったはずですよ困った時は力になると)

 ダイアナは落ち着いた口調で語りかけてくる。

(……それで俺に何か?)

(思い出してください、あなたは未来を受け入れ、ペルソナの力を手に入れた事を)

 ダイアナは語り、士狼は思い出した。

 金甲冑の男型の異形を呼び出した時はとんでもないものを得た興奮で、背筋がゾクゾクとし顔は引きつって笑っていた事を。

(その、ペルソナって一体なんだ?)

 手元の指揮棒を視線に入れると、ダイアナは答える。

 

(ペルソナは内なる人格をカタチにした存在であり、心の鎧。あなた様が握っていらっしゃる指揮棒を振る事で、実像を現すのです)

 士狼はまた小難しい話を聞かされていると思い、ダイアナに問いかけた。

(つまり、ペルソナがあれば瀧を救えるという事か?)

(もちろんでございます。だから、あなた様は自ら進んで未来を受け入れたのですから)

 士狼はあのシャドウと同じ事を言うなと内心呟く。

 そしてどの扉に行けば瀧へと近づけるのかと考える。

 瀧が連れ去られたのは、ただの教室の扉からだった。

 一方自分が迷い込んだのは、奥にある白い扉。

 そして連れ去られた場所は炎に包まれた真っ黒な場所。

 落ち着いて考えてみれば、答えは簡単だった。

 

(何を難しい事を考えてるんだ俺は、答えは黒い扉!)

 黒い扉の前に立つ。

 そして、深呼吸して兜の緒を締めると、扉を開けて黄金の靄がかかった空間に、士狼は入っていった。

 

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