PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter10『I must improve the fated ones through my own art.』 ActⅡ

二〇三〇年 六月四日──

 放課後 美術室。

 

 旧校舎の扉を通り過ぎ、美術室の扉に立つ。

 教室から賑やかな声が、聞こえてくる。

 山田士狼(やまだしろう)は教室の引き戸を開けると、視線が一気に向かれる。

 素朴そうな女子グループの中に、佐藤京子(さとうきょうこ)の姿を見つけた。

 

「佐藤ちょっといい?」

 佐藤は顔をこわばらせて立ち上がると、周囲の女子が囃し立てられていた。

 橙色の二本線が入った黒いスカートを翻し、こちらにやってくる。

 佐藤が一呼吸置くと見上げてきた。

「なんで……しょうか?」

伊福部(いふくべ)について、何か知っているかなと思って」

 佐藤は何故か落胆すると、何かを訴えたいのか、もじもじと後ろに手を組んだ。

 

「あ、あの! 立ち話はあれだし……」

 そして背伸びをして、見つめてきた。

「先輩を素描(デッサン)しながら、話したいです!」

 

 

「……うーん、そうですね。相変わらず、変なお客さんの用心棒と、先輩として頼もしい人ですよ」

 士狼はスケッチブック越しに話しかけている、佐藤の話を聞いていた。

 頷きたいのだが、座っている姿を長時間保たないとだめなので、石像のようにたたずむ。

 

「そうか……じゃあ、二人は帰りとか何を話しているんだ?」

 士狼はキャンバスに向かう部員をじいっと見つめながら、仕事を全うする。

 

「それがすぐに帰っちゃうんですよ、伊福部先輩」

 視線を佐藤に向けるとどこか寂しげな表情を浮かべていた。

「なんでだろう?」

 聞き返すと佐藤の手は止まっていた。

「……さあ」

 

 佐藤はお手上げのようだったので、自分も探し始める。

 付き合いの中で、何かヒントはあるのかと士狼は思い返した。

 妹がいて、食事の支度は手際が良い、家の都合で遅刻する事もあり、バレーボールをやっている。

 

「……」

 顎に手を当てたいぐらいだが、それをやったら怒られるだろう。

「……」

 とりあえず自分が知っている情報を話すと、佐藤は何か思い出したのか、顔を見上げてきた。

 

「そういえば、店長が言ってました」

 鉛筆を擦る音が聞こえた。

「詳しくは言えないけど伊福部先輩は、家の事情で一年前から働いているとか」

 その時、士狼は佐藤の言葉で思い出した。

 

「……なあ、お前言ってたよな。”店長は家の都合で困っている学生を助けてくれる”って……」

 バイト終わりに佐藤と話した事を──

 佐藤は顔を強ばらせて、鉛筆を落とした瞬間、二人の空気は緊張に満ちた。

 もしかして、自分達はとんでもない事実に触れようとしているのかも知れない。

 

「妹がいて、家の都合で遅れる事もあって、飯の支度が手際がいい、まさか……」

 士狼は思わず被写体の役目を放棄して、佐藤を見てしまった。

 

「妹の面倒を見ている?」

 佐藤も思い詰めたような表情で見てきた。

 デッサンしながら、談笑する内容では無くなってきた。

 

「……本人に聞くしか……」

 士狼はそう思ったが、背後からあの威圧感が襲いかかってきた。

 バレーボール続けているのかと踏み込んだ結果、どうなったか経験しただろう、山田士狼。

 自分とは関係のない話だって、ばっさり断られそうに違いない。

 

「アイツ、また突っぱねてくるかな……」

 気まずさから、指定されたポーズに戻すと、佐藤は目を伏せて無言で頷いた。

 しばらく美術部の賑やかさが続く。

 これはコルサコフ並みに強敵だぞと、士狼は唇を固く閉じていると、佐藤は挙手をするような態度を見せてきた。

 

「わ、わたし!」

 スケッチブックを抱えて立ち上がっている。

「店長に聞いてみます。私もなんだか気になってしまって……」

「助かる。ありがとう」

 士狼は口角を薄く上げて微笑むと、佐藤の顔が赤くなっていた。

「お、お世話になってます、すすしね!」

 ぷしゅうという擬音を漏らして、スケッチブックを顔に隠して椅子に座る佐藤を不思議そうに見つめる士狼。

 だが、言葉は疑問ではなかった、バイトと林間学習で世話になったのは、確かなのだから。

 

「今度はこっちが、なんとかしてやりたいな」

 成り行きだったとはいえ、転校間もない自分に色々と教えてもらった、瀧慈宗(たきちかむね)以来の動機であった。

 伊福部は、今まで交流してきた感じ、小心者な面もある近衛由成(このえよしなり)とは違って、ちょっとやそっとの事でへこたれなさそうだ。

 なので、自分が原因で、不安を焚きつける心配はないだろう。

 今度は近衛のような事を避けたいと、士狼は思っていた。

 

 その夜、自宅にて。

 まず士狼は、対策部のみんなにアドバイスを求めた。

 近衛の件は意図してはいない。

 が、自分の言い方が原因で槍持つ異形を引き寄せてしまったかも知れない。

 そんな反省から自然とスマートフォンを取り出していた。

 

>対アンナさん対策部


 [伊福部っているだろ? アイツを不安にさせずに、バレーを続けているか聞き出せる? ]▶


 

 まずは一文送ってみる。

 恐らく同じ班だった、瀧と芥川幸恵(あくたがわゆきえ)が一番先に乗ってくるだろう。

 学校からの提出物をやりながら返事を待っていると、スマートフォンが震えた。

 液晶画面に映るアイコンはシルバーアクセサリーの、あの人だった。

>対アンナさん対策部


 ◀[誰だが知らんけど、そんなヤバい相手なのか?]


 

 近衛だった。

 

>対アンナさん対策部


 [なんでお前なんだよ]▶

 ◀[いいじゃん。それより、お前から頼ってくるの珍しいな。あの、クールな山田クンがさ]


 

 話が進まなくなる予感がする、士狼はそう思っていると、入室しましたの文字が表示される。

 その名前は瀧であった。

 

>対アンナさん対策部


 ◀[伊福部君か、僕から言わせてもらうけど。過去に触れても不安にはならないと思うが、こればかりは分からない]

 [瀧でも分からないか]▶

 ◀[当たり前だろ! 見た目と違って、なんかやべえの持ってるかも知れないじゃん。どんなヤツかが知らんけど]


 

 近衛も乱入してくる。

 流石は、その人が触れてはいけないものを、無意識に触れてしまう性質持ちのメッセージは説得力がある。

 ここで幸恵が入室してきた。

 

>対アンナさん対策部


 ◀[ふくっちねー。私が言うのもアレだけど、迫力がヤバくて、かわいくない言い方するけど、色んなことに気が回るのはびっくりしちゃった]

 

三善が入室しました

 

 ◀[こんばんわ。伊福部くん、うちの部活に参加して欲しいわね、気が回る人って細やかな配慮ができるから、きっといいおもてなしができそう]

 

コルサコフが入室しました

 

 ◀[どういう人か知らないけど、僕はなるべくそっとして欲しいよ。誰かに言われて、心が痛むのは嫌だな……]

 ◀[おお。経験者は語るってヤツか? でも、確かにほっといて欲しい時ってあるよな]

 ◀[えー? ふくっちは、そこまで気にするような子じゃなかったよー]


 

 コルサコフ、近衛、幸恵のメッセージに既読をつけた途端、士狼は何かに気づき、液晶画面をタップする。

 色んな考えの人間が集まると、色んなものが見えてきそうだなと、士狼は初めて味わっていた。

 

>対アンナさん対策部


 [むしろ、自分ちの問題だから俺達には関係のないって、答えてくれないとか? ]▶

 ◀[山田君の言う通りかも知れない、自分の問題に巻き込まれたくなくて、あえて話を聞いてくれないとか? ]

 ◀[瀧、それだ! Σ(´◉ᾥ◉`)だったら、都合のいい男こと、この近衛由成サマに任せな!! 明日お前に付き合うぜ! ]

 ◀[……気合い入れてるところごめんだけど、よしりー、大丈夫?]

 ◀[何がだ、幸恵]

 ◀[いやだってさ……]


 

 

二〇三〇年 六月五日──

 放課後、二年C組廊下前。

 

「……」

「なんだよ。この金髪ふわふわ頭」

 伊福部が相変わらず威圧を込めて、二人を見下ろしている。

 対策部男子の中で一番身長が低い小心者の男が、青ざめながら見上げ硬直している。

 そして士狼の背中にしがみつくと、様子をうかがう姿勢に入る。

 

「し、し、身長いくつだコノヤロウ!」

 近衛は威嚇しているのか、大きな声を震わせて抵抗している。

 残念ながら、絵面が完全に、猫に立ち向かうねずみである。

「一八三だったな」

 流石は、ミドルブロッカーのポジションを務める、バレーボール選手なだけはある。

 士狼はその体格に納得しつつも、立ち向かっている近衛が不憫に見えてきた。

 

「ひゃ、ひゃくはち!?」

 声が上ずっている、完全に征服されたなと士狼は呆れた表情を浮かべる。

 

「お、お前がおっぱいがデケー女子だったら、よかったのに!」

 負け惜しみなのか、威嚇なのか知らないがなんか変な事を口走っているこの男。

 その様子を見た伊福部の表情も、薄く呆れた表情になっているのが伝わってくる。

 

「オレの顔が、おっぱいに顔に埋まる位置じゃん!!」

 ちょっと、何を言っているのか分からない。

 呆れた視線が伊福部と士狼の間で交わされた。

 

「で? 俺に何か用か? 無いなら帰らせてくれ、忙しいから」

 計画通りなら、近衛が会話の潤滑油役になる筈だったが、完全に気圧されて士狼の後ろに縮こまっている。

 そんな近衛の様子を役に立たないと、士狼は内心毒ついてしまった。

 

「用ならある」

 士狼は意を決して伊福部に返すと、見下ろされている視線の威圧感に、心が折れそうだと喉を鳴らした。

 

「福ちゃんさ、バスケ部に興味ねえの?」

 近衛は怯えつつも、伊福部に問いかけてきた。

 初対面でちゃん付け呼び。

 近衛の社交術が炸裂するのだが──

 

「誰が福ちゃんだ?」

 上下関係がきっちりしている体育会系に所属している為なのか、軽いノリは礼節がないと判断し、殺気立っているのが分かる。

 

「ひっ! だってよ……そう呼ばねえと精神が持たねえよ」

 近衛の顔を見ると、薄っすらと涙目になっているのが分かる。

 

「はあ……またこの手の勧誘かよ。俺は忙しいから、部活は無理だ」

 伊福部はため息をついてばっさりと断ってくると、士狼は殺気に負けじとその顔を見上げた。

 

「伊福部、どういう事だ?」

 立ち去ろうとする伊福部に立ちふさがり、確認するように聞いた。

()()()()()()()……お前、まさかバレーは──」

 その言葉に、三白眼がピクリと動いたのを、見逃さなかった。

「……お前に関係がな」

 またそうやって誤魔化す気か。

 そうはさせまいと、士狼は追い詰めるように伊福部に問いかけた。

「バレーはやっていないんだな」

 伊福部は無言になると、ちらりと後ろの近衛を見てきた。

 

「もしかして……それを知るために、俺をハメたのか?」

 肩から近衛の怯えが伝わってくる。

 

「山田が、お前の事を相談してきたから。こ、ここは、そういうの得意な、オレの出番だと思って……」

 後頭部に当たりそうな程近衛は頷くと、伊福部は更に近寄ってくる。

 

「で、知って何がしたいんだお前は」

 圧がすごい気圧されるな、士狼は一呼吸置き、いつものように淡々と口を開く。

「お前、バレーの事になるとよく喋るし、飛んでるとこ見せてくれたよな」

「……そうだったな」

 伊福部は腕を組んで、あっさりと認めた。

 

「だから、まだバレーの事、好きだと思って」

 林間学習で士狼はどんなポジションに向いているのかどうかと語っていた事が、走馬灯のように蘇る。

 

「つまり、まだ好きならコートに戻れって言いたいのか?」

 士狼は唇を強く噛み締め、大きく頷いた。

 自分のついていたポジションを説明をする為に、実演もする程だったのにどうして辞めたのか、士狼は理解できなかった。

 

「辞めたのは、俺の意思だ──」

 重みのある言葉が頭に降り落ちる。

 現実というのは酷く残酷なものだと、士狼の思考を停止され何も言えなくなってしまった。

 

 とんと優しく、伊福部の大きく武骨な手が、打ちしがれている士狼の胸を押して、退かされ道を作られた。

 

「関係のないお前まで、背負い込む必要はねえよ」

 ぶっきらぼうに喋ってはいるが、その大きな背中が夕焼けに溶け込んで儚く見えた。

 

「……かなりのワケありそうだぞ、どうすんだ山田?」

 近衛は不安気な表情で二人の心配をしてくる。

「……とりあえず。近衛のお陰で聞き出せた、ありがとう」

 近衛由成の性質。

 人が触れてはいけないものを、無自覚に引き出す性質が、功をなした例だと言えよう。

「いいって事よ!」

 近衛はとても嬉しそうなニヤケ面を見せる。

 

「オレの癖で、人の役に立たつって、かなりレアだからな♡」

 厄介だと自覚していたのかと、士狼は近衛の天国にいるみたいな、とろけ顔を眺めていた。

 

 

 夕方──伊福部家の扉前。

 

「おにいちゃん」

 鍵穴を差し込むと下から、聞き慣れた声が聞こえてくる。

「どうした、ひばり」

 見下ろすとツリ目がちの大きな瞳が、不安そうに自分を見ていた。

「なにがあったの?」

 使い古した黒いランドセルを背負う、妹が自分についてそう問いかけてくる。

「何もない」

 ガチャリと鍵を回すと、誰もいない部屋にただいまと言って、靴を脱ぐ。

 

「オヤジ、まだ帰って来てないみたいだな」

 自分と父親で保たれている綺麗なリビングに入ると、スマートフォンを見る。

 父親のメッセージが一件、新着しているのを確認すると、タップした。

 どうやら、また残業で夜まで働いていると綴られていた。

 夕食は(たける)とひばりで食べろという事なので、メッセージから離れた。

 

「ひばり。何が食いたい?」

 武は冷蔵庫を開けると、作り置きの煮物と食材を眺めながら夕食の献立について聞く。

「んとね、ナポリタン!」

 笑顔のひばりを見て、武はふっと笑みを浮かべると、再び食材を見る。

 

「昨日、煮付けの残りがあるけど、食べるか?」

 ハム、玉ねぎ、ピーマンは彩りに入れたいが嫌がるだろうなと思い除外、ケチャップは、二人分作るには十分な量が残っている。

「たべる!」

 元気いっぱいの声に武は、放課後の出来事について和らいでいた。

 

 コートに戻る気はない。

 自分が頑張らないと、父親に全部、背負わせる羽目になる。

 あの日から家族の為ならば、ユニフォームでも制服でも脱いでやる。

 そう自分の意思で決めたんだ。

 

 だから、俺達の関係に入り込もうとするな──! 

 

 重く左に分けた茶髪の少年の事を、思い浮かべた瞬間。

 冷蔵庫の扉を強く掴んで、思い詰めた。

 

 心配してくれるのはありがたいが、こっちはこっちの事情でバレーボールを捨てたんだ、戻れるわけがないだろう。

 

 だんだんと思考が、苛烈になっていくと、ひばりの小さな手は腰に置かれていた。

 

「おにいちゃん? どこかいたいの?」

 その問いと不安気な表情を見るとどす黒い感情から、一気に引き離されて行く。

「……兄ちゃんなら、大丈夫だ」

 ひばりの頭を置いて、思わず撫でてしまう。

「大丈夫だ。どこも痛くない……ナポリタンと昨日の煮付けな」

 冷蔵庫を閉めると次はパスタが閉まっている、棚の扉を開いた。

 

 

「いただきます」

 テーブルには皿に盛り付けられた人参と里芋とゴボウの煮物に、ナポリタンが二人分置かれている。

 ひばりは小学校の出来事について話すと、武は頷き会話をしながら夕食を楽しむ。

 時計を見ると、気づけば夜の八時になっていた。

 

「……」

 どこか痛いのか。

 と武は美味しそうに食べる、ひばりをじいっと見つめた。

(俺、バレーの事をまだ引きずってんのか?)

 

 小学生の頃、バレーボールと出会い、コート上を跳び、チーム一丸となって活躍する姿に惹かれて始めた。

 元々身長は高い方で性格も相まって、すんなり一軍入り。

 中学生になると、ミドルブロッカーとしてチームの守護として活躍し、家族総出で地区予選の応援もされた。

 リビングには、その時を映し出した家族写真が飾られている。

 

(仕方がねえだろ、今はそんな暇はねえ)

 くるくるとパスタをフォークで巻いて、口に運ぶと。

 しばし思考に浸る。

 こんな身になってから、初めてだ。

 踏み込んで、自分の身を案じた人間は。

 西森店長は武みたいな子どもを、ほっとけないとよく心配してくれるが、あれは大人としての立場だろう。

 

 だが今回は、バイトと林間学習と同じ班になった、クラスメイトに心配された。

 

 まだ好きなら、何故続けないのか。

 捨てざる得なかった武からすれば、えらく単純な疑問と思った。

 バレーボールに関しては、未練を感じる程痛くはない。

 ひばりの為に、あっさりと捨てたからだ。

 

「なあ、ひばり」

「なに、おにいちゃん?」

 首を傾げるひばりを見て、武は訊いてみた。

 

「どうして、兄ちゃんが痛そうに見えたんだ?」

 武は優しく問いかけて見ると、ひばりはフォークを置いて視線を落とす。

「よくわかんないけど、おにいちゃん、すごくこわいかおをしていたから……」

 ひばりは、泣き出しそうな表情で見上げる。

「だから、どこかいたいのかなっておもって……」

 

 あの野郎、余計な事を言ってひばりを心配させるんじゃねえ。

 武は自分の心をかき乱した、山田士狼に敵意を向けると、ガチャリとドアの扉が開く音が聞こえた。

 

「ただいま」

 父親の声だ。

「おかえりなさい、おとうさん!」

 明るい表情で、スーツ姿の父親を迎える。

「おー、ひばり! 今日も学校楽しかったか!」

 ビニール袋を掲げて、満面の笑みを浮かべる父親を武は静かに見守っていると、父親はすすっと近寄ってくる。

「武も学校は楽しかったか!」

 

 距離が近いと武は避けると、豪快に笑い出した。

 

「武は冷たいなー」

 口をとがらせて、ひばりに寄ると、武はくだらないと無愛想に食事を続けた。

「知ってるかひばり? 兄ちゃんはな、ひばりと同じ小学生だった時は、とーちゃん、とーちゃんって可愛かったんだぞ!」

 ひばりは不思議そうに父親を見ると、絶賛、思春期真っ盛りな武はフォークを握っている拳を震わせた。

 

「いつの話してんだ」

 武はギロりと睨むと、父親は怯まずに陽気に言葉を綴る。

 

「ところが、今はムキムキのハートマン軍曹だ!」

 おどけて返されると、一瞬山田に隠れていた、金髪ふわふわ頭がよぎった。

 

「わかんない」

 ひばりは首を傾げて返す。

 もちろん武もそこは同意した。

 父親は兄妹の反応を無視すると、香ばしい匂いがするビニール袋をテーブルに置いて、開封していく。

 

「そうさせちゃったのは、父さんの責任だからなあ。バレー辞めてまで、家の事も稼ぎも、やらなくてもいいのに」

 出てきたのは豚串だ。

 父親がよく買ってくるそれは、甘じょっぱいタレをつけられ、店内にある炭火で焼かれたものだ。

 コンビニなのに、なんで焼き鳥を焼くスペースがあるんだと、武は疑問に思っていた。

 

「オヤジ言っただろ。”俺達で頑張ろうな”って、本当は高校に入らないで、すぐに働きたかったぐらいだ」

 ひばりが父親の土産に目を輝かせて眺めていると、二人の会話に首を傾げていた。

 

「よく覚えてたな……けど、そこまでするなって、受験の時に言っただろ」

 父親は困ったような表情で叱咤(しった)してくると思わず、武は立ち上がった。

「オヤジが世話できない時、一体誰がひばりを見るんだ?」

 ギロリと父親を睨んで凄むと、父親は負けじと言い返してきた。

 

「そりゃあお前だけど、何も家の為に、中卒を選ぶのは、少しもったいないと思うぞ」

 今後を考えたら高校に行った方がいいと、天音(あまね)高校の受験を推し進められた事を思い出す。

 

「もったいなくねえよ、俺はひばりの為なら、なんでもやってやる! だからバレーを辞めたんだ!」

 ダンとテーブルを叩きつけて父親に反論すると、親子喧嘩に怯えてしまったのか、ひばりが泣き出しそうな声で言ってくる。

 

「おにいちゃん、おとうさんと……けんかしないで、きょうは、へんだよ、おにいちゃん……」

 ひばりの声でまたしても、平常心に引き戻されると、武は黙って着席した。

 

「ごめんな、ひばり。今日は兄ちゃん疲れてるみたいだ」

 武は夕食を眺めていると、父親は無言で立ち去っていった。

 笑顔を浮かべる四人家族の写真が、冷え切った食卓を黙って見つめていた。

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