PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

34 / 55
Chapter10『I must improve the fated ones through my own art.』 ActⅥ

 黒炎が包む、黒の板で作られたような校内の廊下に、騎乗した騎士が、山田士狼(やまだしろう)達に立ち塞がる。

 皆息を呑んで緊迫な空気だが、特に近衛由成(このえよしなり)が口をパクパクと魚のように、開け閉めしている。

 

「役名」

 瀧慈宗(たきちかむね)はポツリと、その騎士の名を呟く。

「──征服の騎士」

 その名を聞いた近衛が体を震わせながら、瀧の方へと向く。

 

「ひょっとして……ここの主、伊福部(いふくべ)じゃね?」

 近衛からしたら、そういう印象か。

 恐怖のあまり女だったら胸に埋まるとかどうとか、よくわからない事を、口走った近衛が過った。

 

「……まさか、あの伊福部だぞ、きっと別の誰かだ」

 士狼はうろたえながら、近衛の意見を否定したかった。

 また、傷つけたかも知れない。

 そんな思いが士狼にのしかかる。

 

「山田くん。僕は近衛くんの意見に同意だ」

 瀧は切羽詰った表情で言ってくる。

 

「また俺の……」

 士狼は近衛と揉めたことを思い出しながら、呟くと瀧は首を横に振る。

「それは違う気がする」

 その言葉を聞いて、士狼は怪訝な態度を示す。

 

「伊福部くんが休んだ次の日に、近衛くんのお母さんが忙しくなった」

 今までの出来事を整理するかのように、瀧は語る。

「もし、急変した患者さんが伊福部くんのお母さんだったら、君が介入しなくても、狙われるのは不思議じゃないよ」

 そうでありたいと願った、士狼はぎゅうっと指揮棒の持ち手を強く握ると、気持ちを切り替える事にした。

「……伊福部」

 深呼吸し、眼前の敵と対峙した。

 

「瀧君、気になるところはあるの?」

 三善明美(みよしあけみ)は前かがみになって、出方を伺うと、瀧はファウストの杖と魔導書を光らせた。

「まだ時間がかかる。コルサコフくんは、何が得意?」

 ここで瀧は真顔になって、瀧の後ろにいるコルサコフに訊く。

 征服の騎士は槍を掲げて突っ込んで来たので、コチョウフジンの番傘が盾となり、受け止める。

 番傘と槍は激しくぶつかったあと、鍔迫り合いに突入する。

 

「……相手を傷つけずに弱らすこと……ペルソナは、僕の心に関係しているって……慈宗くんは言ったよね」

 コルサコフ・和也(かずや)は、先端にS字のような飾りが付いた白銀の指揮棒を眺めながら、話を続ける。

「僕は、今までされた事を……相手にできるんだと思う」

 その言葉に、近衛の顔は固唾を飲むように強張って、真っ青になった。

「つまり……怨念ぶつけちゃうって事? うわー……」

 弱腰になって、コルサコフに畏怖する近衛。

「……」

 頷くコルサコフ。

 

「……そもそも、暴力は……あまり、好きじゃないんだ……だから……支援と慈宗くんの護衛ぐらいなら……」

 まとめるとコルサコフは搦手(からめて)を使った戦法が得意で、裏方を希望していると士狼は理解した。

 

「……で、恨んでいるアイツってやつ、ろくな死に方しなそーだな……俺もイイ子ちゃんでいよう……」

 近衛は暴力は好きじゃない主義のコルサコフを、幽霊になったら祟り殺すと思わせる程、ろくでもない大人だなと感想を述べて、近衛はジョバンニを繰り出す。

 指揮棒を跳ね上がるように振るわせると、ジョバンニは跳び上がり、征服の騎士へと果敢に襲いかかった。

 

 だが、見事な剣戟は盾によって防がれて、近衛は痛みが生じたのか手を振り顔をしかめる。

 それを見届けた瀧はポツリと呟く。

 

「どこまでが君の心の一部としてなのかは、分からないけど『ドン・ジョヴァンニ』は女性に恨まれても、最期は酷い女好きを貫いて地獄に堕ちるが?」

 近衛のペルソナを見たのか、ろくな死に方をしないに反応したのかは分からない。

 が、学級委員長の瀧による近衛由成のペルソナ解説に、近衛はびくんと肩を跳ねる。

 

「……なあ、それ今言う!?」

 近衛は瀧に厳しくツッコむ。

 そして指揮棒をくいっと後ろに倒してジョバンニを引かせると、空いた左手を平手のまま振り下ろすと、ジョバンニはレイピアを掲げて、電気を起こす。

 それに合わせて、士狼は指揮棒を回した。

 

「トート!」

 ガラス片と共に現れたのは、本を持つ白猿だった。

 士狼は指揮棒と左腕を同時に振り下ろして力を増幅させると同時に、ジョバンニと共に雷撃をお見舞いした。

 かなりのダメージなのか、征服の騎士は馬上ごとふらついた。

 あの騎士のように、近衛の言動が動揺していると士狼は思ったのか、訊いてみた。

 

「近衛、何か心当たりがあるのか?」

 真っすぐと士狼は近衛を見てみる。

「……べ、べ、べ、別にーなんでも、アリマセーン!」

 とぼけた表情で口笛を吹かれてしまった。

 

「……慈宗くん。みんなを頑丈にするのって……できる?」

 コルサコフは息を吸うと、指揮棒を視線にやりながら、問いかけてきた。

「できるけど?」

 瀧は頷くと、早速、指揮棒を振り上げる。

「ちょっと制御をおかしくさせるから……巻き添えになったら、ごめん」

 コルサコフが静かに指揮棒を振り下ろすと、ロベールが出現し、手をかざすと足元からルナを作りあげる。

 ルナが一鳴きすると、ぶつくさと何かを呟いている黒い煙を騎士に浴びせた。

 すると征服の騎士は突如荒れ狂い、なりふり構わず暴れ出した。

 

「……これでよし」

 周囲に冷気が漂い、辺り散らすかのように氷柱を次々と咲かしていく。

 暴走する騎士を見た近衛は焦り、犯人のコルサコフを見て叫んだ。

 

「ヨシじゃねえーよ!! オレに氷の攻撃はヤバいんだよ!!」

 そういえば、シャドウでも氷の攻撃が苦手だったなと。

 士狼は、そのやり取りを見て思い出しつつも、コチョウフジンの番傘が盾になる。

 

「見えた!」

 瀧は叫ぶ。

「火と光と氷が気になるところだ! 射抜く攻撃は近衛くんのおかげで、無効だと判明した!」

 三善と一緒に頷くと、士狼は指揮棒を回して名を叫ぶ。

 

「ヴァルター!」

 黄金の鎧を煌めかせ、赤い肩マントをはためかして浮上すると、士狼は指揮棒を勢いよく振り下ろした。

 コチョウフジンの番傘に守られつつも、見境なく氷を放ち続けている騎士に火炎を浴びせた。

 騎士はようやく気づいたのか盾をかざして火炎から守ろうとしたが、盾は破壊され騎士の身体は赤く包み込まれた。

 

 

 騎士を撃破した士狼達はようやく、ポスターが貼られた教室へと辿り着く。

 『ラ・ボエーム』のロドルフォを伊福部(たける)を演じると書いてあった。

 ダイアナは流れているピアノは伴奏(ばんそう)

 このピアノ曲は、カラオケバージョンで流している様ものだと、分かりやすく教えてもらった。

 扉を開けるとそこには、舞台の壁には、ベットに寝ている人と機械のようなもので繋がられた影絵と繋がった、プリマシャドウに、隣に大小二つの人型が漂っていた。

 

「おいおい。結構やばいんじゃあないの」

 近衛は呟くと、一斉に劇場を駆け下り舞台に近づく。

「……お前らなんで来たんだ」

 鎖に繋がれボサボサの黒髪を垂れ下げて、力なく座っている声の主は、伊福部であった。

「……なんでって、今度は俺がお前の力になりたくて、来た」

 士狼はそう本音で話すと、伊福部は掠れた声で呟く。

 

「俺はお前に人に興味がないって、言ったよな……撤回させてくれ」

 覇気がなくじゃららと、首の鎖が虚しく鳴り響く。

 

「とんでもないお人好しだな」

 伊福部は生気を失った三白眼を見せてきて、士狼はこの異常事態に固唾を呑んだ。

 

「おまえだって、お人好しだろうが」

 シャドウは、伊福部を見下ろして語り出す。

「おれの事を知ったら、気を遣われて迷惑かける。だから、わざと遠ざけた」

 伊福部は無言でうなだれている。

 

「これはおれ達の問題だ。おまえらには関係ない、巻き込ませたくない」

 こちらにシャドウは視線を変えてくると、吼えた。

 

「だからほっとけよ!!」

 ゆらりと大小の黒影が、士狼達の前に立ち塞がる。

「巻き込ませたくないだって、福ちゃんお前……良い奴なんだな……」

 近衛は何にときめいているのか、目元を潤ませて伊福部を見つめていた。

 

「……良い奴か」

 伊福部はポツリと俯いて答える。

 

「おれは、良い奴なんかじゃねえよ。おれの自分勝手な理由で、ひばりを怖がらせちまった」

 シャドウがノイズ混じりに答えると、布切れのような輪郭がはためいた。

 

「なんだろう、シャドウが伊福部くんの言葉を、補足しているように見える」

 瀧はシャドウのやり取りに首を傾げると、凛々しい態度で対峙した。

 

「役名。舞台上は優しき苦詩人のプリモシャドウ、目の前のが支えし同居人。そして……」

 瀧は舞台の影絵を真剣そうに見つめて、唱えた。

 

「……壁の影絵は、風前の燭火(しょっか)

 その名を呼び終えると、鎖の音が聞こえた。

「やめろ、母さんは……きっと、目を覚ますつもりだったんだ……死なせたくねえ」

 物騒だと言わんばかりに、伊福部は魂が抜けても尚、反論してきた。

 燭火の意味は士狼には分からないが、風前の言葉の組み合わせでなんとなく察したのは、伊福部も同じようだ。

 

「バレー辞めてまで、とうさんと一緒に頑張って来たのに、全部、無意味だったな」

 伊福部のシャドウは今までのプリマシャドウ達とは違って、冷笑嘲笑などなく、諭すかのように語っているのが印象的だった。

 語り終えたシャドウの頭先から熱波を感じると、赤い炎が天井まで届かせる。

 

「まずい! 火の攻撃来るぞ!」

 瀧は指揮棒を掲げると、ファウストも杖の先端から、冷気を溜め始める。

「三善さんは他のシャドウを頼む! 不得手な相手だ!」

 三善は頷くと別の大小の黒影こと、支えし同居人の方へとペルソナを向かわせた。

 

「火ならオレに任せろ!」

 と近衛が我先一番と乗り込み、指揮棒を投げてくるくると落としてキャッチし、ジョバンニを顕現(けんげん)させる。

 そして、近衛が指揮棒をレイピアの様に構えて、突きのポーズをする。

 

「……派手だね」

 和也が近衛の指揮について、ポツリと呟く。

「いつも通りだ」

 士狼も呟くように返すと、指揮棒を小さく回した。

 

「フラロウス!」

 赤い豹に黒い鉄のような体が合わさった異形を喚ぶ。

 その瞬間、瀧の氷柱とシャドウの火炎がぶつかり合う。

 炎は氷柱に当たって割け、劇場に燃え移し炎上していく。

 

「……すごいパワー」

 三善は冷や汗をかきながらも、ポツリと呟いたの最後に、目前の敵に集中しだしたようだ。

 炎は氷を溶かし、大量の雨を降らし燃えている劇場を消火していく。

 

「追撃!」

 瀧の指揮棒の風切り音が聞こえると、ファウストは氷柱を飛ばし、シャドウに当てる。

「……おまえ、おれが誰だが分かってんのか?」

 黒い布切れのようなものが、シャドウの体を覆い被さり、氷柱を跳ね返した。

 

「なっ!?」

 氷柱がこちらに向かってくると、士狼は焦りだす。

 

「まずいこっちに!」

 今のペルソナは氷が弱点、加えて近衛も氷が弱点。

 三善は別件で忙しく対処できない。

 この攻撃当たれば壊滅的になる。

 士狼はそう思っていたが──

 

「……大丈夫」

 背後からコルサコフの声が聞こえた。

 ロベールが前に立つと、素手を振るい氷柱を砕いた。

 

「すまない! 氷をはじくシャドウだと見切れなかった!」

 瀧は謝罪すると、近衛はポツリと呟く。

「本当、はじく相手って厄介だな……」

 経験者は語ると、コルサコフは追撃と言わんばかりに、ルナを出現させる。

 

「ちょっと待て! また暴走させるつもりか!!」

 またしても経験者の近衛は訴えるが、コルサコフは首を横に振る。

 

「……今度は」

 コルサコフが指揮棒を静かに下を向けると、ルナがひと鳴きして光を浴びせた。

「おれはかあさんの死が怖いんだ……テーブルが空いたままのメシは耐えきれねえよ……」

 シャドウは頭の炎を揺らめかせて、無気力に言葉を紡ぐ。

 

「……うまくいった」

 コルサコフは目を伏せて呟くと、伊福部がじゃらりと激しく揺らしてきた。

「お前ら聞くな!! 忘れてくれ!!」

 叫んで訴えられると、コルサコフは初めて前を向き、首を傾げた

「……あれ? おかしいな……君に光を浴びせたっけ?」

 不思議そうに、きょとんとした表情が無ければ、皮肉にも捉えられる台詞をコルサコフは返す。

 

「シャドウが”動揺”しているうちに!」

 二人の会話を遮るように、瀧の指示が響き渡る。

 士狼は指揮棒を構えると、三善の声がした。

 

「え?」

 大小連なった黒影がこちらにやってきて、手を伸ばして光のオーラで、シャドウを包み込む。

「……おれ達はこうして生きているからこそ、守らなくちゃならねえんだよ!」

 シャドウは吼えまた火炎を大きくして、放射してきた。

 大小の黒影をコチョウフジンは、刃を煌めかせて斬りつけようとした。

 だが、シャドウはばさりとマントのように翻しきいんと金属音が響かせて、コチョウフジンの刀を跳ね返す。

 身を(てい)して側近を守るシャドウに、士狼は驚いた。

 

 そして、シャドウは斬撃を受け流した直後、首元のマフラーみたいなものが真っ直ぐと伸びる。

 それは腹部を直撃させてコチョウフジンを吹き飛ばした──!

 

「っ!」

 三善は声にならない悲鳴を上げて、後ろに引っ張られるように飛んだ。

 

「三善!」

 士狼は後ろに振り返り叫ぶ。

「……うそ……でしょ」

 地面に伏せ、力なく三善は呟くと、プリマシャドウを痛そうに呆然と見つめていた。

 また火炎が放射され、フラロウスで無効にする。

 火炎を防ぎながらも、士狼はこの事態に思わず叫んでしまう。

 

「くそ!」

 ここで動いたら後方にいる三人に、火炎を浴びせてしまう。

 士狼は悩み始め、前を向く。

 その上空にはジョバンニが空高く浮き、レイピアを掲げて、電気によって士狼の薄茶の髪が浮き始める。

 

「礼がしたいんだったらアイスでいいぜ、山田クン♡」

 近衛に焦りを見透かされたのか、話しかけられて生意気そうに不敵に笑ってきた。

 そして、白銀の指揮棒を勢いよく縦に振るわれる。

「クッキーアンドクリームか──チョコミントな!」

 

 閃光。

 けたたましい音と共に、雷撃が走った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。