PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter13『And your reports have set the murder on.』actⅠ

二〇三〇年 七月四日──

 

 昼休み 和室。

 

 近衛由成(このえよしなり)は、カラフルなカバーが着けられたスマートフォンを眺めながらニヤついていた。

 山田士狼(やまだしろう)は、おかずを頬張りながらその様子を静かに眺めている。

「嬉しそうだな。近衛」

 士狼は飲み込むと、ニヤケ面の近衛はこちらを見てくる。

「ライブに行けるからな!! しかも、地元で! こづかい貯めたかいあったなー!」

 くーっと、唸り握った拳を震わせて答える近衛。

 彼はスマートフォンをしまい、購買で売られているたまごサンドのラップを外す。

 

「あれ? 今日はよしりーママ、お疲れ様?」

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)は、牛乳パックのストローを口から離して、訊く。

「そうだよ。オレが起きたら、母ちゃん寝てた」

 近衛は頷きながら、たまごサンドにかぶりつく。

 そこで、伊福部武(いふくべたける)は不思議そうに近衛を見ていた。

 

「オヤジはやらねえのか?」

 士狼は思った。

(……そうか、伊福部は父さんと協力しているもんな)

 と、無表情でブロッコリーを口に入れた。

 伊福部の問いに対して、近衛は一旦空を見上げて考える仕草をすると、ごくりと喉の音が聞こえた。

「やらねえつーか、家にいねえんだよ。今回だって、もう二週間以上も帰ってねえな」

 その言葉に、伊福部は驚きの表情を浮かべていた。

「二週間以上!? お前のオヤジは一体何してんだ!!」

 伊福部が近衛に詰めて、強面の表情を更に強くすると、近衛は青ざめて縮こまってしまった。

 

「な、何ってトラクター! お前らのおうちにお届けするヤツ!」

 伊福部の迫力に怯えながらも、近衛は答えた。

「……そうか、悪りィ……」

 伊福部は元の表情と定位置に戻ると、気まずそうに弁当を食べていた。

「ふ、福ちゃん。オレんちは心配しなくても大丈夫、大丈夫」

 力が抜けたような満面の笑みを浮かべて、近衛は軽く返すと伊福部は納得いかなそうな雰囲気である。

 

「親が働かねえと、()()()が困るジャン。だから、オレが家を護ってるワケ♡」

 近衛はウィンクをしてピアスを輝かせると、幸恵は何かを思い出した表情を見せる。

 

「あ……だから、フェザーマンの司令官」

 その言葉に近衛と双子の妹芥川要(あくたがわかなめ)が反応し、それ以外の人間は首を傾げる。

 

「……小一で言った事をよく覚えてんな、オレが家にいなきゃあ、親が心配すんだろ?」

 したり顔で近衛は話し終えると、瀧慈宗(たきちかむね)三善明美(みよしあけみ)が反応してきた。

 

「……小学生の頃からか……家でひとりぼっちの近衛君、想像できないな」

 どこか悲しげな表情で俯く三善。

「そりゃあ誰もいねえ家は寂しいけど、もう慣れたから!」

 遠慮がちに近衛は三善に言う。

 

「……山田くんと同じ事を言っているよ。君も慣れるしかなかったんだろう?」

 跳ね上がる近衛の肩。

 及び腰になりながらも近衛は瀧の指摘に、困り眉で笑顔を作る。

 

「あはー……だって、仕方がないだろ?」

 声色は段々と暗くなっていき、士狼以外の人間はどよめきの空気を作る。

 この声色はかつて、二人っきりでコルサコフ・和也(かずや)の相談した時に聞いた声色である。

 

(マジの近衛、芥川も見るの初めてなのか……)

 士狼は淡々と思いながら弁当を舌鼓(したづつみ)していく。

(そういえば、近衛のシャドウもこんな感じの喋り方だったけ)

 テンションが急に上がったり下がったりしていた、近衛のシャドウ。

 恐らく、あれは根底にあるもう一つの近衛の仮面(ペルソナ)なのだろうか──

 

「ただでさえ、親は仕事でぶっ倒れてる事が多いのに、ワガママ言ったらマズイだろ?」

 その低いテンションと気だるい態度で瀧の質問に答える近衛由成。

 いつも近衛を圧している瀧は、初めて近衛に圧されていた。

 

「……それは立派な事だけど、なんだろう君の態度。どこかで……見たことあるような……」

 瀧は顔を俯かせて眼鏡を上げている。

 感覚で真実に近づいているのは流石、分析役だなと士狼は思いつつも呟いた。

 

「近衛のシャドウ。マジになった時の近衛と同じ態度だった」

 瀧は切れ長の目と口を大きく開く。

「そうだったのか!?」

 鼓膜が破れそうな程の声量に、思わず顔をしかめて両耳を塞ぐ士狼。

 

「声が大きい」

 瀧は我に返って弁当を食べていると、三善が何か察した表情でこちらを見てきた。

「近衛君が親に気を遣って、フェザーマンの司令官って思い込んだり」

 全員頷く。

 

「シャドウが助けに来た私達を、拒絶した方がかっこいいって言ったり……」

 

「言ってたな」と瀧は呟き。

 

 幸恵は「助けに来た事が嬉しかったって、よしりー言ってた」と肩をすくめて、どこか嬉しそうである。

 

「つまり、近衛君はみんなの様子を見て明るい顔をしている?」

 その言葉に幸恵は柔らかく描くツリ目は見開き、感歎な態度を取った。

 

「あけみっち! よく気づいたね! よしりーは昔から、泣き虫で寂しがり屋のクセに、強がってんのよ!」

 その時、士狼の記憶が蘇った。

 

 ”よしりーさ。あれ絶対、寂しいの誤魔化してるよ”

 

「長い付き合いなだけあるな」

 瀧は関心していると、近衛は突然の告白に驚いたのか、硬直していた。

「おい、フリーズしてるぞコイツ」

 伊福部がため息を吐く。

 

「……隠し事、バレちゃったね由成くん」

 コルサコフは、遠くから感想を述べてきた。

「別に隠してねえよ! バカ!」

 近衛は目を泳がせて否定しているが、幸恵の双子の妹芥川要(あくたがわかなめ)は見逃さなかった。

 明らかに態度でバレているのが、伝わってくる。

 

「ほら隠している。溜め込んだら、また白鳥さんがやってくるよ!」

 言い方と台詞運びが、早く寝ない息子を寝つかせる母親そのものであった。

 

「二度も襲われたらヤダ! 山田の話だと、こっちでペルソナ出せねえって聞いたぞ!」

 甲高い悲鳴を上げて近衛は訴えると、不安と言えば少し気になる事を思い出す士狼。

 

「……話が変わるけど。昨日、一人で飲み物をたくさん買ってたヤツがいて、手伝おうとしたら怯えていた」

 離れた場所で弁当を食べているコルサコフを一瞥(いちべつ)する。

 

「受け答えがコルサコフと鴨沢みたいな、態度だった」

 瀧は深刻そうにこちらを見た。

「……何が言いたいのかい?」

 瀧の言葉に皆が肯定する中、士狼は喋りだす。

「アイツも、二人と同じように」

 困惑している空気の中、士狼は澄ました顔で結論を述べた。

 

「いじめを受けたせいで、人が怖い怯え方をしていた」

 その言葉は周囲の空気を一気に、どよめかせた。

「それで、お前はどうしたいんだ?」

 伊福部の問いに頷く士狼は、真っ直ぐと見つめ続けていた。

「聞きたいことが、二つある」

 箸を置いて畳の匂いを吸い込むと、士狼は精悍な顔つきで話す。

 

「まず、鴨沢をいじめてたヤツはどうなった事」

 瀧の表情は険しく、近衛の表情は苦々しい。

 

「それと──そいつのいじめの手口が知りたい」

 士狼はコルサコフに再び視線を向けた。

 近衛の次はコルサコフが張り付いた表情のまま、固まっていた。

 

「コルサコフ。この話が無理なら、部屋から出ていい」

 コルサコフはどこか胸を撫でおろした表情に変わって頷いて、立ち上がる。

 

「決めつけるの早い気がするよ……」

 要は困った表情を見せてくる。

「一応、把握しておきたい」

 士狼はそう答える。

 

 コルサコフは短い黒髪を揺らして、部屋から出たのを見届けると、瀧は眼鏡を光らせて静かに語り出した。

 

「……安居院平助(あごいんへいすけ)彼は暴力よりも、悪口でいじめる人だった──」

 

 

 鴨沢弘務(かもざわひろむ)は登校すると、下駄箱にはホラー画像を印刷された紙がぎっしりと詰められているのを目にする。

 それに驚いて尻もちをつくと、後ろから仲間と一緒に嗤っていたそうだ。

 

 休憩時間になるとたまに、ノートを盗られて勉強の為に写させてくれれば返すと、脅されたりもした。

 

 放課後は呼び出されて色んなものを買わされた。

 安いものでは駄菓子、高いものではゲーム機。

 

 もちろん、彼が持っているゲーム関連のものや漫画は借りたっきり返ってこなかった。

 

 鴨沢弘務が前髪で目元を隠すようになったのも、納得が行く所業の数々であった。

 

「物を買わされるのは同じか」

 士狼は顎に手を当てて考える仕草をすると、近衛は言う。

「安居院のヤツ二年になってから、そういった噂聞かねえしA組はどうなの? 要ちゃんと三善」

 

 呼ばれた二人は顔を見合わせると三善は何か心当たりがあるのか、話し出す。

「中間テストの時、一位取ってた人だ。期末テストだと三位に落ちてたね」

 

 要は暗い表情で続ける。

「期末テストの結果発表の時ロッカーを蹴ってて、怖かった……」

 空気が一変。

 安居院の悪態に凍りついたみたいだ。

 

「……顔つきも福ちゃんみてえに悪かったから、その場にいたらちびりそう」

 近衛は露骨に顔を引きつらせ、青ざめている。

「おい」

 伊福部が不機嫌そうな表情を見せて、圧がけしてくると近衛が士狼の背中に素早く潜り込む。

 

「だ、だって……そういう顔になった理由は分かったけど、それでも事実じゃん!」

 頼むから背中越しで反論しないでくれと、士狼は呆れて弁当を食べる。

 

「今は、ロッカーを蹴る程度まで、落ち着いているのか」

 複雑そうな表情で、瀧は安居院の粗暴行為をおうむ返しする。

 

「落ち着いてるだけならいいけどさ、隠れてまたやってたらマズイよなー」

 近衛はラップを丸めると、目と口を一文字を描いて軽口を叩いた。

 

「……」

 腕を組んで士狼は唸ると、三善は暗い表情で呟く。

「もしそうだとしたら……私のお祖母ちゃんみたいに、遠回りな方法でやってくるんじゃないのかな」

「遠回りな方法?」

 瀧は聞き返すと、三善は真っ直ぐとみんなを見てきた。

 

「あっそうか。男子は知らないもんね、あけみっちがなんでお祖母ちゃんに見つかったのか」

 幸恵は言うと三善が祖母について、詳しく説明すると伊福部が眉を寄せて述べる。

 

「母さんの親戚から住所を聞くってよく考えたな、その婆さん」

「僕らが目が届きにくいところで、やってると言いたいのか」

 瀧は意見をまとめると、要が近衛を見る。

 

「下駄箱の話とノートの話を聞くと、由成くんすら把握できていない状況はおかしいよ」

 

 定位置に戻り座ると、近衛はバツが悪そうな表情で頭をかく。

 

「オレは連絡先十件以上埋まってる男だけど、全学年は把握してねえからな」

 顔が広いとはいえ近衛でも、流石に全学年を把握するのは無理な話だろう。

 

「そういえばオカルト研究部も、同じクラスのヤツから聞いたって話してたしな」

 近衛は目を閉じ、口をきゅっと結んだ表情で頷いた。

 

(……職人のインタビュー?)

 長年一つの事を極めた職人がするようなたたずまいをする近衛を、士狼は淡々とツッコんだ。

 

「とりあえず、俺のクラスだけ教えておいたから、何があったらく……」

 言いかけた、その時。

 後ろからドアの開く音が聞こえた。

 

「……僕みたいに、なかなか相談できない人だったら、来ないと思うよ」

 コルサコフの声だ。

 

「よっおかえり」

 ひょっこりと顔を覗かせた近衛は呼びかけると、畳を踏む音が聞こえてくる。

 その様子を茶色い猫目は捉え、追っていた。

 

「……迷惑かけたくない、心配かけたくない、巻き込みたくない……僕がそうだったから」

 おどろおどろしい表情でコルサコフは歩きながら、当時の心情を語る。

 

「……士狼くんはよく分かんない人だけど、優しいよ」

 彼の彫りの深い顔つきはよりいっそう陰かかる。

「そういう君だからこそ、いじめに巻き込みたくないと思われる」

 遠い場所でうらめしやとそているような態度で、コルサコフは座った。

 

「……」

 士狼は黙り込んでしまい、コルサコフを見つめるしかできなかった。

「瀧君の話によると、山田君は時々、人の気持ちがよく分からない時があるって聞いたけど……今はどう?」

 三善が控えめに微笑みながらこちらを見ると、士狼は呆気に取られた表情を作る。

 

「……正直に言えない人もいるんだなって……」

 士狼はぽつりと言うと伊福部が眉を寄せられる。

 

「俺がいるの忘れているのか? 誰かが自分の事で傷つけたくねえから、構うなと拒否が出ちまう」

 弁当の蓋をかぶせて、バンダナに包み終え、伊福部は静々と語る。

 その澄ました姿は、実際に経験してきたかのようだった。

 

「この状況を抜け出してえが、目の前のネットが高すぎて、ボールが届かねえヤツもいるんだよ」

 伊福部の言葉に瀧とコルサコフと三善は俯き、近衛は「いいこと言うジャン」と褒め、幸恵と要はどこか悲しげな表情であった。

 

 和室はどんよりと重々しい空気に満ちている。

 

「……とりあえず、いじめの問題は慎重にやらないと……もっと酷いめ……に……」

 掠れて溶けていくような囁き声でコルサコフは語った瞬間、口元を手で抑えた。

 雪のような白い肌はますます磨きかかる様子を見た、瀧と近衛と幸恵が真っ先に駆け寄って、コルサコフを囲む。

 

「お前、なんで話したの!? 無茶すんな馬鹿!」

 まず近衛が眉を寄せて、困惑している。

 

「ルサルサ無茶しないで!」

 幸恵が不安げな表情で、背中をさする。

 

「……気分が悪くなる事を話すのは、あまり関心しないけど。よく話してくれたね」

 瀧は話した行為だけを肯定し、精神を落ち着かせようと試みていた。

 

「勉強の成果出てるな、瀧」

 鴨沢弘務の接し方を見直す為に、図書館で勉強している事が分かる行動に、士狼は無表情ながらも賞賛した。

 

「お、俺なんてまだまだ! 鴨沢くんに怖がらせている時点で何も……」

 瀧は照れくさいのか首を大仰に横に振ると、近衛幸恵コンビはニタリと嬉しそうな表情で瀧を見ていた。

 

「もしかして、ちかりん照れてる? かわいいー!!」

「つーか、今”俺”って言った!? お前、俺って言う時あるんだな!」

 真面目でいつも表情はあまり動かない瀧慈宗の貴重な、照れの仕草について二人はからかうようにコメントすると、伊福部が呆れた顔で指摘した。

 

「お前ら気が変わってんじゃねえよタコ。おい、コルサコフ大丈夫か?」

 伊福部がずんずんと歩いて今にも、吐き出しそうなコルサコフの視線を合わせた。

 

「……久しぶりだよ……こういう事になったの……」

 コルサコフは呼吸を荒げて、冷房がきいている筈なのに、汗でぐっしょりと濡れていた。

 

「前もあったの?」

 まるでコンビニに気軽に立ち寄ったお客様がごとく、近衛はコルサコフの過去に入り込む。

 

 その所業に瀧と幸恵は険しい表情、伊福部は背中を向けているので表情こそ読み取れないが、雰囲気が呆れになっているのが伝わってくる。

 

「……三人とも、心配しすぎだよ」

 コルサコフが困ったような声色で話すと、近衛の方を向いた。

「カウンセラーの人が話す前までは、動物の番組や動画を見ただけで、すごく苦しかったから……」

 

 四人のやり取りを見守っていた三善の表情は引きつり、要は困惑の笑みであった。

「……近衛君、コルサコフ君を怒らせた事を言ったのは、シャドウに怖がってああ言ったんだって思ったけど、今回のは……」

 あの三善がドン引きしている。

 

「……由成くんは素直すぎるのが……ちょっと」

 何故か自分ごとのように、肩身が狭いみたいな態度を要は取っていた。

 

「近衛は遠慮しないよな」

 士狼は二人の言い分に賛成頷いて、率直な感想を言う。

 

「お前に言われたくねえよー!」

 と近衛の叫び声が部屋にこだました。

 

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