PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter13『And your reports have set the murder on.』actⅡ

二〇三〇年 七月四日

 放課後。

 

 小瀬六朗(おせろくろう)は、空き教室の扉の前にいた。

 RE:LINK(リリンク)の呼び出しに応じて、怯えながらドアを開くとそこにいたのは、ニタニタと笑う男がいた。

 

「おい、豚朗。今日は話があって呼び出した」

 六朗は縮こまりながらも、分厚い脂肪の腹を揺らす。

「な、なんでしょう……か……」

 顔つきからしてガラの悪い連中だと、びくびくしながら返答すると、机の上から返事が帰って来る。

 

「お前、第二木曜の売店の話は知っているか?」

 噂とは一体何のことだろうかと、六朗は首を傾げる。

「知らねえのか、食いしん坊そうなのによ!」

 取り巻きの怒声に跳ね上がって悲鳴を上げると、萎縮しながら答えた。

 

「ボク、そこまでがっついていません……」

 取り巻きが睨みをきかせると、恐怖が心の底から湧き出てくる。

「まあまあ落ち着こうか」

 荒ぶる取り巻きをなだめながら、男は机から飛び降りて、こちらに近づいてきた。

「食堂にある売店あるじゃん? そこで第二木曜日にビックカツサンドが売られているって話」

 近づいてくると、恐怖のあまりぎゅっと目をつぶってしまい、視界が真っ黒になる。

 暗闇には、激しい心臓の音だけが聞こえた。

 

「数量限定だから、その日になれば行列ができるんだと」

 その話を初めて、聞いたと六朗は思った。

 友達一人もいないから、無理もない。

 だからこそ、帰る途中、玄関前の校庭で狙われてしまったんだ。

 恐怖で動けないでいると、男の声が暗闇に響き渡る。

 

「オレらの代わりに買ってきてくれない? 豚朗君」

 その言葉に思わず目を見開くと、黒髪に一束赤いエクステを付けた、オールバックの生徒が視界に入った。

「お、お一人様一個だったら、どうするんだよ!」

 数量限定という事はほぼ個数限定が設定されている筈だと、六朗は歯向かう。

 するとつーっと、お腹を撫でられる感触がした。

 

「関係ない、買え」

 険しい目元が物を見るかのような目で見られており、彼の人差し指が離れた。

「こっちはその気になれば殴れるし、殴りたい気分だけど、証拠はなるべく残したくないんだよねえ」

 顔に三日月を浮かべたように笑うと、その歪んだ表情が頭に焼きつきそうになる。

 

「とにかく、来週の木曜日な? ……用意できなかったら──」

 机の側まで歩くと、足を高く上げて振り下ろすと、六朗は悲鳴を上げて腰が引けてしまう。

 だが、その速度は遅く優しく踵を着地させていた。

 怖いものを見せられると六朗は勘違いしたので、絶望した顔のまま力なく床に座る。

 周囲には嗤い声が聞こえて、侮辱的な気持ちになって、心臓を強く掴まれているようであった。

 足を乗っけたまま、オールバック男はこちらを満面の笑みで見る。

 

「こうしてやるから、覚悟しろよ」

 穏やかだが圧力を感じる声色に戦慄。

(……誰か……た、助けて)

 体は一回も痛い思いしていないのに、心はひどく傷つく事をされてとてもつらかった。

 左分けの茶髪が特徴の、どこにでもいそうな雰囲気の男子生徒が脳裏に浮かぶ。

 

(話していいのかな。けど、もし、助けを求めたら……)

 この関係を壊すような事を頼んだら、彼が次の標的にされる。

(……)

 表情は憂い俯くと、誰かのスマートフォンが鳴り響いた。

 デフォルトの着信音。

 着信音までこだわる人間はほぼいないのか、周囲が自分のポッケや鞄を漁っている光景が広がっていた。

 

「チッ、もしもし」

 舌打ちを打って電話に出たのは、オールバック男だった。

「今、学校」

 面倒くさそうな表情で返して、会話を続けていると眉間にしわを寄せて怖い表情を浮かべた。

 

「あ゛? まだあの話やんのかよ! オレがイラついただけの話だろうが、クソババア!!」

 スマートフォンを強くタップして電話を切る。

 ものすごいイラつきを感じる。

「いいな、必ず全員分用意しろよ」

 と肩を置いて顔を寄せられしかめられると、定位置に戻り鞄を担ぐ。

「……」

 取り巻きのニヤケ面が心をきしませ、通り過ぎるのをただ見守る事しかできなかった──

 

 同時刻。

 中央通り・東 コーソン

 

 コーヒーが飲みたくなった山田士狼は、学校隣の商店街『中央通り』に寄る。

 商店街にある喫茶店もいいが、気軽に済ませたかった。

 惣菜屋の前では同じ天音高校の生徒が買い食いしたいのか、たむろしていた。

 

(母さんに教えとこ)

 と士狼は横目に見つつ通り過ぎると、かつてバイトしていたコーソンに立ち寄る。

 レジ前に来ると、いつもの素朴そうな顔立ちの佐藤京子と鉢合わせる。

 

「いらっしゃいませ」

「コーヒーMサイズ一個で」

 鞄から立派な黒い長財布を出して、金色のチャックを開ける。

「かしこまりました、二百十円です」

 佐藤は笑顔で支払いを要求してきた。

 その姿はバイトしていた時に比べて、手際が良くなっていると思い、小銭をトレーに置いた。

 

「山田先輩、高そうなお財布ですね」

 佐藤は後ろを向いて穏やかな口調で話す。

「父さんから貰った。銀行で働いているおかげなのか、すごく使いやすい財布」

 

 士狼は淡々と話すと佐藤はカップを持って振り向いた。

「銀行員って引っ越しがちなんですね」

 前に自分は転勤族と明かした事を思い出しながら、こくりと頷く。

「うん。だから、友達を作る気が無くなった、どうせ別のところに行くから……」

 猫目を伏せて心情を語ると、ことりとカップがレジ台に置かれた。

 

「私は色んな風景が見れて楽しいと思いますよ! うちは旅行もできないから!」

 満面の笑みを浮かべ、励ましている佐藤がそこにいた。

「……」

 そういう考え方を一度もした事が無かったと、士狼はきょとんと佐藤を見下ろす。

「先輩? ちょっとそんなに見つめられると恥ずかしいですよ」

 なぜか気恥ずかしそうな態度を取られてしまった。

 

「いや、俺……そういうの興味無いから、新発見だなって」

 カップを受け取ると、機械の前へと歩き出す。

「先輩、どんだけドライなんですか」

 画面を操作しつつ後輩の声が耳に届く。

 

「……ドライじゃないけど、よくつるむヤツに、天然塩って言われた」

 近衛由成(このえよしなり)の奇妙な呼び方、一体どういう意味なんだろうと、機械のボタンを押す。

「なんですかそれ! 意味わかんなくてウケる!」

 佐藤は、ケラケラと爆笑しているのが分かる返答であった。

「俺も分からない」

 カップをセッティングすると、ボタンを押した。

「会ってみたいですね!」

 コーヒーの香りに口元を緩めると、注がれたカップを取って機械から離れた。

 

「アイツ、騒がしいぞ」

 やれやれと若干面倒くさそうな表情で答える。

「先輩がそういう顔させる人って、何者なんですか」

 と佐藤は呆れた表情を浮かべつつも、お辞儀と挨拶をする。

 士狼はコンビニから出ようとすると、近衛の話題が出たので、昼間の会話を思い出す。

 

(……近衛が全体を把握していないなら……)

 きゅっと士狼の革靴の音がした。

「なあ、佐藤。一年で何か様子がおかしい人を見かけた? 太っている男子だけど」

 その質問に佐藤は訝しげに答える。

伊福部(いふくべ)先輩の次は一年生(うちら)ですか……」

 しばらく沈黙が続く。

「よく分からないです。最近だと文化祭の準備もあるから、部室と準備室にこもりっきりで……」

 佐藤はどこかしゅんと落ち込みながら答えた。

 

「そうか。一応、俺のクラスは伝えているから、駆け込んで欲しいよな……」

 コルサコフの言葉を思い出し、どこか苦く視線を落とすと、コーソンから出た。

 

 

二〇三〇年 七月五日

 

 ボクのいじめは、あまり想像がつかないものだった──

 

 昼間はいつも通り過ごせる。

 ターゲットにされた時は、下駄箱に何か入れられるんじゃないかと覚悟していたけど、一度も嫌なものを入れられていない。

 教室に入ると、机はいじられた事がない。

 これは、クラスも違うから助かっているだけかも知れない。

 クラスも違うという事は、授業中のいじめは当然ない。

 

 昼休み。

 ボクは、一人で弁当を食べている。

 いつも通りに過ごせる。

 本当にいじめの標的にされているとは思えない程、静かで平穏な時間だ。

 今日は弁当を食堂で食べようと、歩いていると自販機に並ぶのは。

 あの時の茶髪の先輩だった。

 

「……」

 気づかれた。

 茶色い猫みたいに大きく釣った目とあう。

「あ、どうも」

 軽くお辞儀をして挨拶をかわす。

「どうも」

 ボクは挨拶を返すと、そのまま黙り込んでしまい。

 無言状態が続いた。

 

(気まずい)

 視線が熱い、本当に様子を伺っている猫みたいな見つめ方をするな、この人は。

 ボクは席を探すためにその場から離れると、背中から声が聞こえた。

「飲み物の件、うまく運べた?」

 パシリの話の事かとボクは少しびっくりして、振り向いて頷く。

 バレたら今度こそ殴られるに違いない、恐怖に怯えてしまったのだ。

「よかった」

 表情に変化はないし、一言だけど口調が安心しているように伝わった。

 

 詮索(せんさく)はしないのかなと、ボクは心の中で怯えていると、お茶のペッドボトルと弁当箱を持った先輩がこちらにやってくる。

 やっぱり、いじめの件気づかれているのだろうか。

 でないと、()()()()()()の単語が出てこない筈だ。

「いつも、一人で食べてるの?」

「え……はい」

 

 意外な質問を真顔で聞いてきたので、拍子抜けした。

「そうなんだ」

 怖い、まるで探りに入っている風に感じる。

 ボクは思わずぎゅっと目を閉じてしまうと、淡々とした声が聞こえた。

 

「一緒に、食べれる人ができればいいな」

 その言葉に目を開くと、クールに立ち去る背中を見送る形になった。

(なんだったんだ今の質問)

 よく分からない人だと、ボクは思わず呆然と立ち尽くしていた。

 

 ゲームセンターにて──

 

 近衛由成(このえよしなり)から、放課後遊びに誘われたので最寄りのゲームセンターに来ている。

 コルサコフも誘いたかったが、人目が多い場所は苦手だと断られたらしい。

 

 騒がしい音と光の中で、シンセサイザーがテンポよく小刻みに曲が開始される。

 音を抑えたシンバル音共に現れるのは、画面上の矢印とラッパの音。

 足がその矢印に合わせて動かそうとすると、間に合わなかった。

 囁き透った女性ボーカルが英語歌詞を歌い始めた。

 とさっきのシンセサイザーが挟む構成に、リズムに合わせて足を動かす。

 

「お前が言っていた、いじめ疑惑のヤツどうなの?」

 ラップを背景に、近衛が次々に降りてくる矢印を器用に捌きながら、聞いてくる。

 

 よく動かしながら話せるなと、山田士狼(やまだしろう)は関心した。

 ただでさえ流れるようなラップで足がついてこないのに、ゆったりした歌唱が難しくしてくる中よくできるなと。

 

「たまたま会ったけど、一人で昼食べてるしか」

 耳に静かで明るい曲調、目には多様な足捌きを要求する矢印が同時に入った。

 流石の近衛も即答はなく、ゲームに集中していた。

 スコア画面に入ると、近衛は息切れせずに惜しそうに眺めていた。

 

「アイデンティティの後にアーンって歌うとこ、山田とハイタッチしたかったな」

 士狼はCと書かれた結果画面を見つめながら、アドリブ入れる余裕はないと返す。

 

「でさ、それしか聞けなかったって、山田クンにしちゃあえらく慎重だな」

 ニシシと軽薄そうに笑われると、士狼はため息を吐いた。

「コルサコフの反応を忘れたのか、あれを見せられると気が引ける」

 いじめについて下手に立ち回るとエスカレートする可能性があると、わざわざトラウマを再発してまで警告したのだ。

 そこまで考えなしではないと士狼は主張する。

 

「確かにな。で、何気ない事しか聞けなかったワケだ」

 足パネルで操作しながら、曲選びに悩む近衛を横目に眺める。

「お前さ、勝手に人のお悩み相談室を開催するのはいいけど、うちの母ちゃんが言った事みたいになるなよ」

 近衛は切なそうな横顔で意味深な警告をしてきた。

「なんて言ったんだ」

 士狼は訝しげに聞く。

 

「看護師は患者とかの面倒を見るけど、そういうのを背負い込み過ぎると潰れるヤツがいるってこと」

 様々な電子音が使われた賑やかな曲と、近衛の真顔がちぐはぐの風景を生んだ。

「……肝に命じる」

 士狼は一呼吸して返事をすると、ニヘリと笑って近衛は答えた。

 

「息抜き大事ヨー」

 と曲を決定して、再び矢印を足で追う。

 早い、早いこれ難易度設定間違っていないかというぐらいの足捌きを要求される。

 

「しかし困ったモンだな……真島だっけお前の担任、いっその事さ、チクるか?」

 近衛は涼しい顔である提案をした。

「……学年も分からないのに?」

 ミスの文字が連続して続いている。

 

「ストレートに聞くんじゃなくて、こういうヤツを見かけたけどどうすりゃあいいって言えば、お悩み相談だけで終わる……筈!」

 両足を力強く踏む近衛。

「筈って、真島が瀧みたいに犯人探ししたら?」

 ようやく矢印を踏めた。

 

「そん時はそん時!」

 パアンと足音を鳴らす近衛に、後先考えない提案をされた士狼は疑わしい目を棒立ちで見つめた。

 

「うおあい! なんだよその目は!」

 無計画過ぎると士狼は、無言の圧力で近衛を詰める。

 

「ヤメテ、なんだよそのガン見は!!」

 士狼はゲーム画面よりもずっと近衛を無言で訴え続けていた。

 

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