PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter13『And your reports have set the murder on.』actⅤ

「……君は鴨沢(かもざわ)!?」

 見張りに来た山田士狼(やまだしろう)は目が隠れた黒髪の男子生徒を見て、名前を呼ぶ。

 ゴールデンウィーク以来の再会だと、猫目を見開いて声を紡ぐ。

 弱々しい態度の隣には、おどろおどろしい低音が聞こえる黒い扉が燃え盛っていた。

 

「一体、誰が……」

 背中から近衛由成(このえよしなり)の声が上がる。

「鴨沢じゃん! 何イメチェンしたの?」

 その軽い口調は、怖い旋律を吹き飛ばしてくれるみたいだ。

「あ、あ……由成くんお久しぶり」

 背中から、足音が続々と聞こえてくる。

 

慈宗(ちかむね)くんが、白い翼と槍を持ったよく分からないヤツから、平助くんを助けに行くって……行っちゃった……」

 黒い扉を指さしおどおどしながら鴨沢はそう告げると、二人は驚きの反応を見せた。

 

安居院(あごいん)を助けに!? とことんヒーロー気取りかよ、アイツは!!」

 近衛は叩きつけるように叫ぶと、士狼は鴨沢に真顔でこう言った。

 

「まさかのいじめてるヤツが、選ばれるなんてな……」

 士狼は意外と瞬きすると、コルサコフ・和也(かずや)はぽつりと話す。

 

「……いじめる人も……関係ない……校則から外れた僕に……不満だったから……」

 どこか悲しげに語られると、三善明美(みよしあけみ)の声が、背中からした。

 

「お待たせしてごめん」

 はあはあと息切れをしているのを確認すると、伊福部武(いふくべたける)が隣に立たれる。

 

「三善。部活はどうした?」

 伊福部は問うと、三善は答えた。

 

「一学期最後の日だから、早めに終わったの」

 みんな揃ったところで、鴨沢が怯えながら訊いてきた。

 

「あ、あの。旧校舎の扉が突然変わったと思ったら」

 混乱しているのか、早口で紡いで来た。

 

「槍を持った白い羽根のヤツが出てきて……」

 士狼に駆け寄って話を続ける。

 

「頭がおかしくなりそうだった……!」

 鴨沢はそう叫んで見下ろされ、藁でもすがる思いという態度を見せつけられた。

 

 そんな会話を聞いたのか。

 瀧の鞄を開けて、ホルダーにしまった指揮棒を取り出している近衛が言った。

 

「は? お前これ持ってなくても見えてんの? ()()()()!?」

 瀧の指揮棒をみんなに掲げられる。

 

「!」

 近衛の言葉に電流が走る。

 

「え? 見えちゃいけないもの……なの?」

 あわあわと鴨沢は皆を見渡すと、士狼はぽつりと呟いた。

 

「一体、どういう事だ?」

 士狼は困惑気味に話し、空気の重さに鴨沢は萎縮しながら黙り込んでしまった。

 

「ちょっとお前ら、今起こっている事を俺達にも説明しろ」

 そうかこの情報は、特に必要ないからまだ共有されていないんだっけと、士狼は気づくと近衛が我先にと説明した。

 

「あの扉はな、『指揮棒』を持ってないヤツは見えねえんだよ、俺がそうだったから」

 四月にあの世界の事を調べた際、起こった出来事を端的に言う。

 

「なのに、コイツは見えているってワケよ……」

 ペルソナという単語を回避しつつの回答に、皆は頷くと三善は言う。

 

「……つまり、普段は見えないけど。条件が揃うと、指揮棒が持っていなくても見えちゃうって事ね」

 三善は指揮棒を抜いて、まじまじと眺めていた。

 

「その棒は一体なんなの? 流行りのおもちゃ?」

 置いてけぼりであると鴨沢は困惑していると、伊福部が答えた。

「まあ、そんなとこだ」

 刺激しないような流れができてくると、士狼は呟いた。

 

「今は、安居院を助けるのが先だ」

 難しい事は後回し、まずは人命救助から始めようとずんずんと前に進もうとする。

 

「ま、待って!」

 鴨沢の声。

「ぼ、僕も連れてって……くれないかな……」

 ざわつく空気に、コルサコフは暗澹(あんたん)なる空気を纏う。

 

「……お化けが襲ってくるから……危ないよ……」

 コルサコフは鴨沢に何かシンパシーを感じたのか、珍しく積極的な態度を取っていた。

 

「それでも、僕は……平助くんと慈宗くんに言いたいことがある……から……」

 表情は前髪で読み取れないか、熱意を感じ取れた。

 

「おうおう、お前さーいい度胸してんなー。コルサコフクン、鴨沢クンの護衛を頼むな♡」

 近衛は感心と鴨沢を讃えると、コルサコフにウインクをした。

 

「……君も派手に暴れてきて……」

 コルサコフはぽつりと近衛に返すと、歯を出して不敵に近衛は微笑んだ。

 

「おう! 任された!」

 同じ攻撃担当の三善を横目に見ながら、拳を突き出す。

「?」

 三善は首を傾げると、代わりに伊福部が拳を近衛にくっつけた。

 

「今回から、俺もお前らと同じ担当だ」

 伊福部は見下ろしながら喋ると、三善がようやくグータッチの意味を理解し拳を差し出した。

 

「よろしくね、伊福部君」

 三善は笑顔で挨拶を交わし、近衛は「お前がいてくれるの頼もしいな!」と軽い交流を見守ると、士狼は顔をひきしめて扉に向かう。

「行くぞ」

 士狼達は次々と扉に入り込んだ。

 

 

(ここは一体……)

 瀧慈宗(たきちかむね)は、いつの間に舞台に降ろされた感覚に気づくと、暗い中辺りを見渡す。

 

(……黒いな)

 黒に塗り潰された空間であり、上靴がはっきりと視認できる。

(しまった! 指揮棒を置いて来てしまった!)

 部活でしばらく来ないから、鞄にしまったままな事を思い出す。

 

(竹刀だけで、シャドウと戦えって言うのか……!?)

 握りしめた竹刀を見ながら、緊迫する慈宗。

 

(それよりも、安居院くんを探さないと)

 素早く頭を切り替えて、安居院探しに専念しだそうと、歩き出す。

 歩いても歩いても、黒い空間で先が見えない。

 

(……もしかして、正式な手段を踏まないと、ダメだったのか?)

 安居院を助けようとがむしゃらになってしがみついたから、そこまで考えていなかった事に気づく。

 

(まずいぞ、これは……!)

 またしてもやってしまったと頭を抱えて悩み出すと、ピアノの音が聞こえた。

(さっきの曲!)

 

 旧校舎の扉から聞こえた曲が降り注ぐと同時に、黒い平原は炎となり踊り出す。

 

(これは、あの廊下から見える炎なのか?)

 熱くない黒炎は渦巻いて揺らめくと、絨毯をめくるように舞台の床が出現する。

 

(こうやって造らるのか)

 あの劇場が造られる瞬間を初めて見た慈宗は、立ち尽くし見入ってしまう。

 黄金の光柱が次々に立つと、ホリゾントと舞台袖が露わになる。

 そして、金の細い光は緞帳(どんちょう)が縫われて、観客席から隠すと、その奥には安居院平助が寝そべった姿を目撃した。

 

「安居院くん!」

 慈宗は駆け寄ろうとすると、安居院から黒い炎が噴射する。

 

「ひょっとして、プリマシャドウか!?」

 黄金の粒子を舞わせて人のカタチを造られていく様子を見ながら、慈宗はそう叫んで、竹刀を構える。

 胸には穴が空き、五線が書かれた帯に拘束される黒霧の存在が出現した。

 

「……おまえは、瀧じゃん。なんで、すっ飛ばしてここにいるのかなァ!?」

 安居院の声をノイズ加工した声が、悪趣味な劇の予告を告げていた。

 

「君から助けに、直接追ってきた!」

 竹刀を構え警戒態勢を取ると、シャドウは(わら)う。

 

「へえ、相変わらずヒーローごっこ、ムカつくんだよねえ」

 この冷笑が、数々の人達の不安を助長する。

 慈宗は呑まれないように、凛々しい表情で気をしっかりと持つ。

 

「実際、ごっこだったよ。けど……今の僕はシャドウに気づかされて、ヒーローごっこを卒業したんだ」

 父のような警察官になりたい信念は本物だと、シャドウに言い返すと、高笑いが聞こえた。

 

「あっはっはっは!! おまえやっぱり嫌いだな……真っ直ぐ過ぎて、消したいぐらいだ!」

 その言葉を発すると同時に、足元からチェスのポーンが次々に出現する。

 そしてポーンから腕が生えると、三又フォークを携えた。

 

「丁度いい、コイツが起きるまでの、いい憂さ晴らしだ!!」

 ダン、ダンと背丈を超えた黒きポーン達は跳ねて行進し、慈宗に向かってくる。

 

「……っ!!」

 慈宗は前を睨んで、後退する。

(焦るな……! 見極めろ!)

 しかし、この大きさは圧倒的不利である。

 

(諦めるな、突破口を見つけろ!)

 一糸乱れぬ進む巨大な軍隊。

 太いフォークが振り下ろされる。

 

「ここだ!!」

 上段構え。

 竹刀に穴が空きそうな衝撃が伝わり、腕が強制的に降ろされる。

「んぐっ!!」

 竹刀はあっという間に床に叩きつけられ、慈宗の手から離れると、次のポーンの攻撃がやってくる。

 

 ──突きだ。

 

 慈宗は冷静にその動きを捉えると、体をのけぞり剣道の(かわ)し方で後退する。

 

(動きが単調で遅いようだな!)

 タン!

 

 足を蹴り上げて、檻の雨の着地点を相手側の竹刀に例えて、するりするりと躱していく。

 そんな様子を見たシャドウの靄が揺れる。

 

「おまえら!! 何をしてんだ!」

 ご機嫌斜めだと慈宗は伝わると、鍛え上げた反射神経と神速と集中力であっという間に、安居院の元へ辿り着く。

 

「安居院くんしっかりしろ!!」

 後ろを警戒しつつも、顔をペチペチと優しく叩く慈宗。

 起き上がって来ないならばと、安居院を急いで背負い込むとシャドウの足元に向かい出す。

 

「やめろ! やめろ! ぼくに攻撃を巻き込ませるな!!」

 そうシャドウは叫ぶと、ポーンの軍勢が一斉にピタリと止まる。

 慈宗は、攻撃に巻き込むなという主張を聞いて、耳がぴくりと動いた。

 

 鴨沢弘務(かもざわひろむ)も今のシャドウのような、悲しげな表情で、いじめの内容を語ってくれた。

 それなのに、自分の攻撃を食らいたくないと叫ぶその姿に、心に火が点いた。

 

「……あんな物よりも……」

 息を荒げて話す慈宗は、頭部らしきものを見上げる。

 

「鴨沢くんや一年の人の方が何十倍も……痛い筈だ!!」

 怯えを見せたシャドウに向かって、慈宗は大声を浴びせる。

 シャドウは悲鳴を上げると、苦しそうに言葉を紡いだ。

「この……熱血野郎がァ!!」

 白熱したやり取りをした後、背中に動いた感触が伝わった。

 

「……な、なんだよあのバケモン!?」

 安居院が暴れ出したので思わず腕を解くと、シャドウと対面した。

 

「よう、敗北者」

 その言葉は安居院が鴨沢に放った一言。

「あ゛? 敗北者? つか、誰だよ俺の声をAIにしたヤツは?」

 安居院が凄んでいると、シャドウは嗤い、たゆたうだけであった。

 

「AIでもねえ、おまえの未来の声だよ」

 ニタニタという擬音がぴったりな口調で話すと、安居院は首を横斜めに見上げて威嚇態勢に入った。

 

「意味わかんねえ、もう少し分かりやすく話せよ、バケモン」

 これが本物の不良なのかと慈宗は思わず、無言で眺めているとシャドウは安居院に近寄る。

 

「恵まれてねえ、ぼくはいつも、クソ野郎に取り上げられてばかりだった」

 その言葉を聞いた安居院は、更に横柄な態度になっていく。

 

「クソ野郎? 俺が恵まれてねえ? なんの話だ? あ゛?」

(この声で鴨沢くんを……)

 慈宗は凶悪そのものを声にした台詞を聞いて、固唾を飲んで二人の対面を見守っていた。

 

「おれの前で隠し事すんなよ!! ぼくは知ってんだよ!!」

 ポーン達がぞろぞろとシャドウに集まっていく。

 

「学校で流行ってたゲームがやりたくて仕方がねえ時や、漫画が読みたくて仕方がねえ時は……」

 ポーンは規律よく整列する。

()()()()()しかねえってやった事をな!!」

 このシャドウの台詞。

 そういえば、鴨沢もゲームや漫画を借りパクされたと語っていたが、動機がこれならばと、慈宗は拳を強く握りしめ卑劣さに憤っていた。

 

「キショッ! なんで、知ってんだよ!!」

 言ったことは真実だと認めると、シャドウは再び悪役みたいな高笑いを浴びせる。

 

「何がおかしい!?」

 安居院は怒声をぶつけると、ポーン達が何やらうごめき始める。

「何もおかしくねえよ、敗北者。だっておまえは、ぼくの生みの親だぜ?」

 三駒のポーンが前に出る。

 

「邪魔なヤツらの事も、おまえの欲しいものも、なんでも知っている!」

 その声に合わせて、ポーン達は指定の位置に動いた。

「ぼくの事をずっと机に縛りつけて、不自由だった」

 一駒の後ろに二駒のポーンがそびえ立つ。

 

「ぼくが欲しいものを言うと、じじいとばばあはいつも言うんだ」

 次の瞬間、後ろに立ったポーンが前のポーンを倒し、舞台に転がされた。

 

「必要ない。それよりも、勉強しなさいって」

 無情に転がされたポーンを放置される様子を見た、安居院は顔をしかめた。

 

「あ゛? お前、なんでそれを知ってんだよ」

 安居院の言葉を無視して、シャドウは続ける。

 

「テストの成績が悪いとズタボロに言われる、もう少し上を目指せって」

 倒した二駒のポーンはフォークを握りしめると、床に転がるポーンを滅多刺しにしていく。

 その異様な光景に慈宗は呆気に取られてしまう。

 

「っ! いい加減にしろ!! 一体、どこまで知ってんだよ!!」

 と安居院はシャドウに向かって蹴りを入れるが、びくともしない。

 

「そうそう。そうやって、このムカつきを晴らしてえと、思ってたとこに……あいつらが目に入った」

 穴が空きボロボロになったポーンは、胸をかきむしる動作をすると立ち上がり、見守っていただけのポーンに向けて、フォークを突き刺しに襲いかかった。

 

「叩けば叩くほど、こいつらはぼくよりも、何十倍も自由で!」

 傷のポーンは次々とポーン達を刺し倒し、滅多刺しにしていく。

 

「何十倍もムカついた」

 

 チェスの駒とはいえ、この演出は狂気に満ちいている。

 コルサコフの時とはまた違った、陰惨(いんさん)とした物であった。

 

(……よく気丈に振る舞えるな)

 心が萎縮しそうな絵面なのに、安居院は依然として動揺していない。

 

「それがなんだ? 俺はそうやって来た」

 安居院は冷めた目つきでシャドウを睨む。

「見て来てイラつくんだよ、俺が欲しいモン持ってるアイツらが、好き勝手にできるアイツらが!!」

 罵声をシャドウに浴びせると、ふわりと安居院の前に立つ。

 

「そうさ! おまえはクソ野郎共には勝てないから、ムカつくヤツラを憂さ晴らしてんだよ」

 傷だらけのポーンは、周囲の倒れた駒達を見下ろしている風に見えた。

 

「クソ野郎共に勝てないおまえは、敗北者なんだよ!!」

 その言葉に安居院は逆上し、再び襲いかかろうとしたので、流石に慈宗は二人の間に入った。

 

「邪魔すんな!! 瀧!!」

 安居院が鬼の形相で叫ばれると、慈宗は凛とした表情で一歩も引かなかった。

 

「ダメだ!! これを認めないと、黒影の思う壺だ!!」

 

 シャドウの言うとおりならば、安居院は抑えつけてくる親に立ち向かえず、そのどうしようもなさをいじめで発散している。

 これを敗北者だと煽り言葉にしたのは、筋が通っている。

 

 つまり安居院平助の不安というのは、抑圧を発散できない環境だからだと慈宗は考えた。

 この不安を受け入れないと、拘束が解かれてしまうと警告する。

 

 だが、挑発に乗ったらしき安居院に突き飛ばされそうになったが、びくともしなかった。

 

「うるせえ!! 誰が敗北者だ!! 俺はジジイとババアに負けてなんかいねえ!!」

 慈宗を無視して、荒ぶってシャドウに抗議する安居院。

 

「クソ野郎共に立ち向かえないから、負けてるんだよバーカ!!」

 生みの親がこうなので、シャドウも自然と喧嘩腰で話してくるのは必然的に思えた。

 

「俺は負けてなんかいねえ!! 俺は好き勝手にやりてえんだよ!!」

 その言葉にシャドウは高らかに宣言した。

 

「タイトルロールは決まったな。ぼくもクソ野郎共を殺して、好き勝手に生きてえんだよ!!」

 

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