PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter13『And your reports have set the murder on.』actⅦ

二〇三〇年 七月十六日

 

 指導室。

 

「君、退学する可能性も出てくるよ」

 放課後前、突然告げられた、死刑宣告だった。

「なんでだよ」

 安居院平助(あごいんへいすけ)は椅子に座ったまま、生活指導の沢屋敬一(さわやけいいち)に訊いた。

 青筋を立てて睨むが、沢屋は動じなかった。

 

「先日のロッカーの器物破損もそうだが、去年。鴨沢君の親御さんにいじめの件で訴えられて、謹慎してただろ」

 謹慎騒動は地獄だった。

 両親がここしか行く当てがないと泣きじゃくる姿は、見てて殺意が沸いた。

 こんな情けない存在に自分は監視されていたなんて。

 自分の価値が下がっていく気がした。

 そんな気分の悪くなる思い出話が過ぎり、ますます平助は悪態をつく。

 

「確かに君の問題児っぷりは、目に余るし……学校に馴染めないのも理解した」

 沢屋はいつも通りに進行していく。

「どうして君は人をいじめたり、物に当たるんだ。いいことないだろ」

 

 小中学生決まって大人は聞いてくる。

 どうしていじめるのかを。

 

「言ったら、お前もやめさせるんだろ知ってるよ」

 小学生の頃、正直に答えたら。

 よくないことだ、今すぐやめろと言われた。

 

(やめてたまるか。こっちは、自由にやりたいから学校に来てるのによ)

 平助はそういうと沢屋はただ、作業されているかのような態度を見せた。

「そうだよ、人に物を買わせるように脅したり、学校の備品を壊したり、金品を巻き上げるのは犯罪だからね」

 

 大人はみんな決まってそう言う。

 違うんだよ、犯罪がなんだろうと自分はクソ野郎から取り上げられたモンを、こっちで晴らしてるだけなのに。

 誰も理解してくれない。

 そう思っていると苛立ちで足が揺れていた。

 

「それとも……それをするほどの理由はあるのか?」

 沢屋がこっちの領域に踏み込んだ途端、平助の鋭い目元が途端に気が抜け始める。

 

「……」

 言ったら、親からどんな仕打ちが来るのだろうかと。

 平助は考えるのが恐ろしくて言葉が詰まった。

 

「……なるほどね。もし大人に言いづらい何かがあるのなら、児童相談所に行けばなんとかしてくれるかもな」

 沢屋は意味深な事を言われると、平助は思わず立ち上がってしまった。

 

「相談所? 俺はそこまでしろとは言ってねえぞ!」

 ますますやりたい事が取り上げられてしまう、そんな気がした。

「そこまでしないと、一生君は駄目な人生を送るって、言いたいの」

「……」

 言っていることは理解できる。

 だが、話し合いの場を設けられたら、また泣きつかれたらとても嫌だと、平助は視線を落とした。

 

「……とにかく。君の処分は、先生達と協議して夏休み入る前にお知らせしとくから、帰っていいぞ」

 沢屋は書類を机に叩いて整え、録音機のスイッチを押した。

 

 

 そして、今に至る。

 

 刺されて血まみれになって倒れる瀧慈宗(たきちかむね)を見下ろす平助はこう呟いた。

 

「は、お前も大人と同じクチかよ」

 口をそろえて相談という。

 瀧慈宗も大人側だったという話。

 だから、足蹴りを食らわせたのだ。

 

「チクったらどうせ……うぜえアイツらが、泣きついてチャラになる」

 鍵を開けられた監獄から脱出しようとすると、両親(クソヤロウ)が決まって、渡された鍵をはたき落とされる。

 正義のヒーローなんてものが来たら、全部撃墜するに違いない。

 自身を助けようとしたって、無意味だ。

 

 両親(クソヤロウ)がいる限り自分は、監獄の中から出られない。

 一生閉じ込められて、両親(クソヤロウ)の期待に応え続けるだけの囚人。

 だからこそ、学校は自分が自分で生きられる場所だったんだ。

 それすらも奪われるのは、ひどく不安であった。

 

「ああ、そうさ。何もできない、何も届かない、ぼくはどうすればいいんだろう」

 黒影が背後に寄って肩に触れられる。

 

「本当だよな。邪魔者がいる限り、無意味だ」

 すると黒影が顔に近づいて耳元で囁いた。

「邪魔者がいるから、おまえは自由じゃない。だったら、いつものように奪えばいいじゃないか」

 その言葉に平助は何かを感じ取ったのか無言で、黒影を見た。

 

「ちっ、うぜえヤツらだぜ、足止めは意味なかったって事かァ?」

 黒影は舞台の方を向いて体を起こすと、見たことある金髪と黒髪と女子が確認できた。

近衛(このえ)! 鴨沢(かもざわ)!」

 一年の頃のクラスメイトの名前を叫ぶと、聞き覚えのある声が悲鳴を上げていた。

 

「きゃあ!! 瀧君!!」

 まずはポニーテールしている女子、名前は確か三善明美(みよしあけみ)だったか。

 

「うわああああああ! だ、だ、だ、だ、だ誰か治療できるヤツいるか!!」

 で、うろたえて慌てているのが刈り上げ金髪マッシュパーマは、近衛由成(このえよしなり)だった。

 その後ろは陰キャそうな外国人と鴨沢がいたがこいつらは最後に残して、この苛立ちをぶつけようとするか。

 

「俺なら行ける」

 一番背の高い男が冷静に返していた。

「お前が安居院平助!」

 地味な茶髪野郎が俺の名前を呼ぶと同時に、背の高い男が舞台に向かって走っていく。

 

「なんだよテメエら、瀧のダチか?」

 ますます瀧に苛立ちが沸く。

 助けに来た人間がこんなにもいるのに、自分に相談しろと向かってきた事が、腹正しく感じた。

 

「おまえらもなんか持っていそうでいいなあ」

 黒影は恨めしそうに言うと、ポーンの駒達が一斉に客席の方を向けた。

 

「ぼくは自由になりてえんだ!! おまえらみたいなのを見ると、ぼくはイラつくんだよ!!」

 扇子みたいなのを振りかざすと一斉に、駒達が襲いかかる。

「勝手にイラついとけ、クソ野郎がよ!」

 両者、ビリビリと空間を切り裂くような怒声がぶつかり合う。

 さながら不良漫画のワンシーンのようである。

 

「任せた! ロドルフォ!!」

 先陣切ったそいつは白銀の棒を取り出すと、使い古した帽子とマフラーと外套をした蝋燭人形を繰り出してきた。

 

「瀧はなんで、コイツを助けたりしたんだ?」

 ロドルフォと呼んだ蝋燭人形は頭を下げると、火球がどんどん大きくなっていく。

「俺には分からねえよ」

 駒達が一斉に飛びかかってフォークを向ける。

 

「頼んでもいねえのに、どいつもこいつもぼくの事を、相談しろって言うんだ!?」

 黒影は嘲笑まじりに叫んで返すと、話を続けていく。

「無理なんだよ! 邪魔者がいる限り、ぼくは自由になれねえ! 欲しいものは手に入らねえんだよ!!」

 ロドルフォが放たれた赤い閃光──

 それは駒達を浴びせて燃やしていく。

 

「……俺だって父さんがいなきゃ、友達と一緒にいれた」

 ロドルフォに続くかのように、白無垢姿の鳥人と蝶の仮面を被った派手な怪人が、黒影を襲いかかる中、地味な男が呟いた。

 

「……けど、ダメな事はダメだ」

 茶色い猫目は冷たくこちらを見て来た。

 平助はその澄まし顔に腹が立った。

 自身に屈せず真っ直ぐと立ち向う姿が、とても憎たらしく思えたからだ。

 

 地味男は、白銀の棒を(もも)につけた白いホルダーから抜く。

 足元から五線譜と青い炎が舞い上がり、音符の粒子が光り輝く。

 

「ヴァルター!」

 白銀が一閃を描くと、ガラスが砕けた音がした。

 金の甲冑と大きな羽根飾りをつけたつば広帽子の騎士が登場した。

 

「地味男のクセに、随分と派手なのを出すなァ?」

 平助の声を加工した音が劇場に響き渡ると、黄金の吟遊騎士(ミンネジンガー)は黒影に向かって、柄のマイクで歌う仕草をすると火炎の大波が襲う。

 それを浴びた黒影は、再びポーンを生み出していた。

 

「ちっ、炎は効かねえか!」

 長身男が舌打ちをした。

 その束の間、白無垢と怪人が黒影にレイピアと刀斬り突きを繰り出すと、ポーンはわざとそれに飛び込んで盾となり黒影を守り切った。

 

「……ひどい!」

「おい、取り巻きばっかやらせて、ずりーぞお前!!」

 顔見知りの二人が抗議なんてお構い無しに、黒影は扇子を振るいポーンを生み出した。

「うるせえ、使えるもんならなんだって使う!」

 ポーン達は四人に向かって飛びかかると、番傘が開かれた。

 

「今よ!」

 三善の声に合わせてロドルフォのマフラーが腕の様に伸びると、瀧をあっという間にくるんだ。

「しまった!」

 黒影はそう叫ぶと、平助に向かってこう言ってきた。

 

「てめえ! さっさと拾え!」

 突然の命令に平助は舌打ちをして、メンチを切った。

「あ、指図すんな、バケモンがよ、お前のミスだろうがよ!」

 どうして自分が胡散臭い怪物の尻拭いしないといけないんだと、平助は訴えた。

「うるせえさっさと──ー!!」

 

 次の瞬間、猫の鳴き声が聞こえた。

 

「肩……借り……よ」

 

 振り返ると顔が濃い陰キャ野郎が、鴨沢を庇う形で銀の棒を掲げていた。

 声が小さくて何を言っているのか、聞き取りづらかった。

 三本脚の黒猫が、ヴァルターの肩を中間地点にして、こちらに飛びかかってくると、首に下げたランプが光り、思わず手で覆った。

 次の瞬間──ドスンと大きな音が聞こえて、床に振動が伝わり体を飛ばしに来た。

 手を解くとそこには、ゆっくりと引きづられる瀧と、頭を抱えて膝をつく黒影がいた。

 

「……やめろ! なんで捨てるんだ!! ぼくだって、みんなと同じように遊びたかっただけなのに!!」

 先程の威勢はどこへ行ってしまったのだろうか、体を震わせながら黒影は叫ぶと、平助は苦痛に顔を歪ませた。

 

「おい! なんで、テメエが……」

 額から汗が吹き出て、瀧はボロボロのマフラーに巻かれて持ち上げられる。

「なんで……」

 親の対応が面倒くさくて、誰にも明かしていない筈なのに、なんで黒影は──

()()()()()()()()()!!」

 平助の悲痛な叫びが劇場を響かせた。

 

 

 あんなに綺麗な隊列を作っていた筈のポーンの駒達は、乱れて慌てふためいていた。

 瀧がこちらに運ばれるのを眺めていると、山田士狼(やまだしろう)の脳にダイアナの声が響く。

 

(ふふふ、邪魔者を憎む姿はまさにイアーゴの役に相応しいシャドウですね)

 ダイアナが言うには弾かれていたピアノ曲の正体は、ジュゼッペ・ヴェルディの『オテロ』というオペラに登場する。

『イアーゴの使徒信条(クレド)』の伴奏曲アレンジと教えてくれた。

(シェイクスピアも知らないから、俺にはさっぱり……)

 ポスターで知ったが、『オテロ』の原作はウィリアム・シェイクスピアが作った『オセロ』であり、文学方面に疎い士狼はダイアナの感想に共感できなかった。

 

(ざっくりと解説しますと、ライバルを出世させた上司を憎んで、破滅に追い込んだのが、イアーゴという旗手です)

 その言葉に士狼はみるみると顔を青ざめて思わず口に出してしまった。

 

「……エグい」

「どこか?」

 その言葉を聞いたのか、コルサコフ・和也(かずや)は聞き返された。

「じゃ、邪魔者の話。本当なら、酷いことされてたんだなって……」

 本当はイアーゴの動機に引いていたのだが、なんとか話をすり替えておく。

 

「……やられる側はとてもツラいんだよ……士狼君」

 コルサコフの青い目は生気を失い氷柱のような目つきで、目を伏せておどろおどろしい口調で話すと、士狼の背筋が凍った。

 

「も、もしかして……君も僕と同じ?」

 鴨沢弘務(かもざわひろむ)は怯えながら、コルサコフの過去を察した。

「……うん」

 三人の間には、肌を突き刺すような冷えた空気が作られてしまった。

 

「……仲間を作っていじめるヤツは、リーダーを潰せばあっという間に崩れる……」

 気のせいだろうか、コルサコフから(くら)い感情が湧き出ている事に。

 

「……コルサ……コフ?」

 静かだが圧力を感じる雰囲気に気圧されながら士狼は、息が詰まったような表情で名前を呼んだ。

 

「……行って、僕が弘務君の護衛を辞める前に……」

 生気がなく淡々と冷たい口調でコルサコフに話しかけられると、士狼も思わず顔を引きつった。

 そして実感した。

 

(こ、これか……近衛が見たヤツ!!)

 近衛由成(このえよしなり)が話していた、夢見堂で見たとても恐ろしい(近衛主観)コルサコフの姿だと。

「俺は治療に専念する! 山! 任せた!!」

 瀧がこちらに運ばれると、伊福部武(いふくべたける)が指示を下し、指揮棒も振ると、ロドルフォのマフラーから光が放たれる。

 

「わ、わかった!」

 士狼は我に返ると、前衛に躍り出ると指揮棒をくるりと回転させた。

 

「セイリュウ!」

 ガラスが割れる音共に青緑の龍を出現させ、うずくまるシャドウに向けて飛翔させる。

 

「すげえ! 龍だ! やっぱさードラゴンとかさーテンション上がるよな!」

 近衛のはしゃぐ声が聞こえてくる。

「おい。近衛、はしゃぐな、これで仕事できてなかったら、とんだ遠足野郎だぞ」

 またしても伊福部に注意されている近衛。

 

「はいはい、真面目にやりますよっと!」

 ジョバンニがレイピアを天空に掲げると、コチョウフジンは巻き込まれないように一旦退く。

「どーも! (わたくし)おきれい本舗という者ですが!!」

 近衛が生意気に笑って、指揮棒を振り下ろすと、まずは慌てふためいていたポーンの軍勢に落雷を降り注がせた。

 ポーンは床に伏せて、痙攣(けいれん)を起こしている。

 

「道開けておいたぜ! お二人さん!!」

 近衛が威勢よく叫ぶと、三善と息を合わせて、指揮棒を振るった。

 

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