PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter13『And your reports have set the murder on.』actⅨ

二〇三〇年 七月十七日

 

 山田家の部屋。

 

 昨日は安居院平助(あごいんへいすけ)の件で、えらく大変だったなと山田士狼(やまだしろう)は寝ぼけながら制服の白シャツに着替える。

 

 部屋から出ると、あくびをして頭をポリポリと掻きながらリビングに向かう。

 ベーコンと目玉焼きの匂いが、香ばしく食欲をそそる。

(……コーヒーが飲みたい)

 猫目はだるそうに半目を作ると、ドアノブに手をかける。

 セミの声、青い夏空。

 窓からこぼれる真夏の風景が輝いて、寝起きの士狼にはまぶしく感じた。

 テーブルにはきちっと着飾った父親とエプロン姿の母親がいつものように、朝を迎えてくれた。

 

(……安居院)

 そんな穏やかな両親を見て、思い出す安居院の言葉。

 家族仲は最悪だと知り、邪魔者さえ思っていた彼の心境は、どういうものだったのだろうかと。

 士狼の心は締め付けられそうになって、曇らせる。

 

(……ダメだったな)

 指揮棒すらも出ずシャドウに取り込まれた安居院だったが、解決できないまま終わってしまった。

 何事もなかったので、あのまま帰してよかったのだろうか。

 士狼は悶々と考えながら席に座ると、目玉焼きベーコンにご飯と味噌汁を見下ろした。

 

「……士狼。どうしたんだ」

 父親がテレビのリモコンを、サイドテーブルに置くと食卓に着席する。

 

「……その……」

 てりてりと輝くおかず達。

 士狼は一呼吸置くと、淡々と明かし初めた。

「いじめていたヤツがいてさ、そいつは自分の好きな事をさせてもらえなくて、全部取り上げる親のことをバケモノって言っていた」

 目玉焼きを箸ですくってご飯に乗せると、黄身を潰してそこにしょうゆをかける。

「俺はツラい思いを乗り越えろって言ったけど、説得も意味なくて、そのまま帰した……」

 士狼は父親の顔を見て不安気な表情を作る。

 

「アイツ、大丈夫かな」

 ただ見送る事しかできなかった自分を打ち明けると、父親は落ち着いた振る舞いを見せる。

「そうか。残念だけどそのいじめっ子は、とても難しい家で、父さん達では簡単に解決できない家の子だ」

 皿が擦り合う音と、ニュースを読み上げる声が聞こえる。

 

「その子にツラい思いを乗り越えるというのは、士狼よりもずっと大変で説得できないのも、無理はないよ」

 優しくどこか悲しげな口調と表情を見て、士狼は落胆した。

 黄色と白と黒の茶碗をしばらく眺めると、箸で摘んで食べた。

 

(……うまい)

 安居院の言葉を借りるなら自分は持っている人間なんだと、白米と一緒にその幸せを味わいながら食べていると、次のニュースに進行した。

 

「次のニュースです。昨夜で嬰琴市のマンションで、両親を殺害した事件が起きました」

 事務的に読み上げられる言葉。

 その言葉に安居院の他にもいるのかと、士狼は箸を進めて味噌汁をすする。

 出汁の風合いが口に広がる。

 次にベーコンを引きちぎり、目玉焼きご飯と一緒に食べようと、白米を掴む。

 

「被害者は十六歳少年の両親──」

 その言葉に思わずテレビの方を向いてしまった。

 画面のテロップには刃物による殺傷かと書かれており、心臓が高鳴り士狼はぎょっとし、ニュースに釘付けになった。

 

(別人だよな……そうだよな?)

 箸がすり抜けて、ガチャンと茶碗を叩いた。

「どうしたんだ士狼?」

 父親が肩を揺さぶる感覚で我に返ると、テーブルに落ちたご飯を見る。

 

「いじめっ子の家だと思って……」

 士狼の反応なんて気にもせずに、名前は隠されて、両親は刃物による殺傷。

 犯人と思しき息子は、刃物に喉元に突き立てて死んだだと報道されていた。

 

 

 天音高校 玄関前。

 

 空気が重い。

 空はこんなにも爽やかないのに、生徒達の空気は最悪だった。

「よー山田ー」

 近衛由成(このえよしなり)もこの空気に染まって、とても気だるそうだ。

 

「おはよう」

 士狼は挨拶を返した。

「ニュース見たか?」

「見た」

「名前は伏せられてたけど、昨日の殺人事件さ……安居院じゃないよな……」

 近衛はキョロキョロと見渡す。

 

「……もう噂になってら、オレが見たのはマンションがガッツリと映ってたヤツだから、犯人が分かってたりしてな」

 乾いた笑いを浮かべる近衛。

「……おはよう」

 瀧慈宗(たきちかむね)がとても深刻そうな表情で、挨拶をする。

 

「これは学級委員サマ、お前の父ちゃん警察官だろ、なんかそういう匂わせとかあんの?」

 近衛の質問に瀧は眼鏡を上げて深くため息をついた。

 

「言うわけないだろう。強いて言うなら、朝はドタバタしていたぐらいだ」

 傷は塞がっているが、明らかに疲弊しきってるのが分かる。

「ちぇ」

 近衛は複雑そうな表情で視線を落とした。

 

 空気が重い。

 いじめはよくない、悪い事だ。

 だけど安居院には死んで欲しいと願った事はないし、親を殺せとも願った事はなかった。

 

「……そういえば、コルサコフも大丈夫なのか?」

 そんな事を考えたら、ふとロベールを使った脅迫をしていたコルサコフの顔が思い浮かんだので、士狼は問いかける。

 

「こっちに帰ってきたら、なんか思い詰めてたなアイツ」

 近衛は口をへの字に結んで細眉を寄せると、瀧は言う。

 

「正直に言うと、コルサコフくんの行動も褒められるモノじゃない……」

 重々しく深刻そうな表情を見せてくる。

 

「いじめの事を思い出して、怒りを発散するのは悪い事ではないけど……安居院くんを、暴力で脅す発想はやりすぎだ!」

 瀧は思わず叫んでダンっと足を踏むと、周囲がざわめきこちらに視線が向かれた。

 

「た、瀧。もう少し抑えてくれね?」

 近衛は怒気に触れられてオロオロすると、瀧は深く深く深呼吸をする。

 

「……余程、安居院の事が許せなかったんだな」

 士狼はポツリと呟く。

 あの背筋が凍るほどの無機質な表情。

 明らかに常軌を逸していた。

 

「アイツも人の身勝手でやられてた側っぽいから、キレたんだろうな」

 それだけコルサコフ・和也にとって、安居院平助は憎むべき敵だと判断したに違いないと、士狼はとても難儀な顔を作った。

 

「福ちゃんもグーで殴る(こたあ)ねえのに、なんでも暴力で解決すんなよ……痛いだろうが」

 近衛は若干しゃくれ顔を作りながら両名に呆れていると、士狼は首を傾げる。

 

「……お前もペルソナを使って、止める気だっただろ」

 へっぴり腰でジョバンニのレイピアをロベールに向けたのは、近衛だろと事実を告げる。

 しかも一番最初にだ。

 

「あははは……そうだったな。いや、マジで村を焼きに来たラスボスと会った村民の気持ち、わかったわー」

 近衛が遠い目で夏空を見つめて、トボトボと一緒に歩いていた。

 

 

 一限目 体育館。

 

 急遽、全校集会が開かれて、ざわめく生徒達。

 かったるいや何があったのかという声が聞こえてくる。

 士狼は立ちながら混沌した空気を眺めていると、校長がやってきて、着席の指示が入った。

 士狼は体育座りをして座ると、舞台に前を向ける。

 

「えー……昨夜の殺人事件なのですが、二年A組の生徒が両親を殺害しました」

 一気にざわつく空気。

 士狼は辺りを見渡すと、安居院とコルサコフの姿は見えなかった。

 

「今日は事情聴取の為に警察の方が来るので、何か知っている人がいたら答えるように」

 校長の声を聞いて、三善明美(みよしあけみ)を探して見つけると、暗く沈んでいる後ろ姿を見た。

 

(三善が俺達の中で一番分かっているんだろうな……)

 思わず声をかけたくなったが、辞めておこう。

 

(家族にやりたい事をやらせてくれない気持ちが……)

 祖母に医者になれと強要されて、両親を助ける為に自らの夢を差し出そうとした。

 そんな彼女だからこそ、安居院の事が心配なのだろうか。

 

「犯人の名前は少年法で伏せなきゃいけないので、犯人の名前はネットや他人に言いふらしてはいけません、言いふらした生徒は謹慎処分します」

 何人かぎょっとした反応を示している、口が軽い近衛由成すらも真面目に聞いている事案だというのに。

 

「以上です。もし君達が親について困っている事があれば、先生達に相談してください。力になれるかも知れません」

 確かに士狼が相談した事により、一年生のいじめは解決した。

 

 したのだが──

 

(安居院はダメだった)

 士狼は校長の話を食い入るように聞くと、全校集会は終わった。

 全校生徒が解放されて喜ぶ声、気だるい声、不安気な声が飛び交う中、三善明美が芥川要(あくたがわかなめ)に先を行かす。

 彼女を見送ると、長い黒髪のポニーテールを揺らして、こちらに向かってくる。

 

「山田君」

 不安気な顔を見せると、俯いて士狼を呼び止めた。

 

「どうした三善」

 気のせいだろうか、視線が妙に集まっている気がする。

 

「安居院君のことについて、なんだけどね」

 三善が小声で話しかける。

 

「もし犯人が安居院君だったら、私……あの時の事を話そうと思っているの」

 手元をぎゅっと握って胸を打ち明けると、士狼は特に動揺せず三善を見つめる。

 

「そうか、上手く伝わるといいな」

「ええ、今回もそういう人を救えなくて……しかも、死なせちゃったから、同じ立場の私なら、きっと役に立てると思って」

 コルサコフのシャドウも丸込められ、立場を開示したら、安居院のバケモノ発言で何も言えなかった三善。

 大きく丸い縦長の褐色の瞳には涙で潤んでいた。

 後悔しているんだなと、その表情から士狼は読み取った。

 

「そんな事はない。三善と俺の攻撃で大ダメージ食らわせたんだ、気にするな」

 士狼は真顔で三善をフォローすると、少しだけだが晴れやかになっていくのが分かった。

 

「……ありがとう、あ。事情聴取で私と要ちゃんは、昼休みに来れないから、みんなに伝えておいてね」

 三善の顔がほぐれて微笑むと、その場から立ち去っていった。

 

 

 昼休み 和室。

 

「……A組の人達はともかく、近衛くんとコルサコフくんは来ないのか」

 瀧は辺りを見渡すと煮物を頬張る。

 

「よしりーは来ないと思うよ、追い詰めたの自分だと思ったから会いづらいんじゃないかな?」

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)はのんきそうに言って、分厚い弁当を抱えて食べている。

 

「アイツ、頭もフワフワしてるわりにはメンツ考えるタイプなんだな」

 伊福部武(いふくべたける)は意外そうな表情で、コロッケパンにかぶりつく。

 

「近衛くんといえば……コルサコフくんを止めるとはいえ、なんで拳で殴ったんだ君は」

 渋い表情で瀧は伊福部に近衛と同じ苦言を述べてきた。

 

「殴んなきゃ、アイツは止まらねえって思っただけだ」

 伊福部はパンを飲み込むと、ぶっきらぼうに返した。

 

「殴んなくても、取り押さえる事ができただろ、君の体なら不可能じゃないだろ?」

 怯えがちな態度で忘れがちだがコルサコフは対策部の中では一七七センチと、二番目に背が高い。

 一八三センチの偉丈夫である伊福部なら、成功率が高いだろうにと瀧は眼鏡を上げる。

 

「……そんな余裕はなかった。そんだけヤバかった話だ」

 瀧はふいっと後ろを向いて無愛想な態度を示した。

「……結果的にコルサコフを殺人犯にするのを防いだから、いいけど」

 少し口をへの字に結わえて瀧は結論づけ、お茶を飲み始める。

 

「そんな事よりも、安居院だよ」

 伊福部は不満そうな口調で話してきた。

「確かにアイツがツレえのは分かる、だが一年と鴨沢に手を出して挙句に死にやがった」

 怒気がピリピリと士狼の肌を刺す。

 

「もし、死んだのが安居院だったら。体調なんざ無視してまでも、鴨沢や一年のヤツに頭下げさせりゃあよかったんだ」

 伊福部は噛みちぎるようにパンを頬張り、パック牛乳で飲み干す。

 

(……荒れているな)

 伊福部の大きな後ろ姿を見て士狼は内心呟く。

 

「アイツも俺みてえに意地を捨ててりゃ、死ぬ事はなかったじゃねえか、クソが!!」

 脳内に近衛の悲鳴が聞こえた気がする程の迫力に、士狼は思わず息を呑み、芥川も瀧も同じ反応だった。

 

「……アタシは親の話とかよく分からないけど、ふくっちもある意味似た者同士っぽい?」

 芥川は安居院の共通点と思うところを挙げると、拳ぐらいの唐揚げを一口かじりつく。

 

「あ……だから俺は役所に行けって言ったのか」

 伊福部はこちらを向いて、鋭い三白眼が緩んで見開いた顔を芥川に見せた。

 

「てっきり、ちゃんと考えて言ったのかと……」

 瀧は驚愕の表情である。

 

「芥川のおかげではっきりした、アイツも俺と似た者同士ってワケか……」

 視線を落としてどこか寂し気な横顔を見せると、伊福部は天井を見上げる。

 

「だからって、人を傷つけるなよ……近衛の言うとおりになってどうすんだ」

 

 ”バケモンになってどうする”

 

 まさか、短慮軽率で弱腰気味な近衛由成が安居院に向かって、核心をつく発言をしていたとはと士狼も思い、伊福部も同じのようであった。

 空気は冷え切り無言が続く中、サクサクという芥川の唐揚げの咀嚼音が止む。

 

「てかさ、次またシャドウと戦う時、どーすんの?」

 その言葉に士狼達は芥川の方を見た。

 

「やば、めちゃくちゃ見られてるー! 今油リップ状態なのに!」

 いそいそとティッシュで口元を拭いて、スマートフォンとスティック状の物を取り出し、スマートフォンを見つつ唇に塗っていく。

 

「シャドウに取り込まれると、ルサルサも平助も激ヤバい事をしだすでしょ?」

 パタンとスマートフォンを閉じて、スティック状の物をしまって芥川は真剣な表情で語る。

 

「戦う時は、それも頭に入れないといけなくなるじゃん」

 

 芥川の意見について、瀧は眼鏡を上げてひどく真面目な態度を取る。

「というよりも、一層強くなったと言った方が正しいかな」

 真っ直ぐに芥川の事を見て瀧は話す。

 

「死人が出ないように僕はファウストと戦っている、だから安居院くんの事は、忘れないように肝に銘じておくよ」

 どこか悔しそうな表情で瀧は言うが、伊福部が呆れた態度を見せてきた。

 

「もし、アイツに裏切られてそれだったら、お前ぶっ飛んでんな……」

 ポーンの攻撃を受けて、転がっていただろう瀧の光景が士狼の脳内に再生される。

 

「……もちろん、蹴飛ばされた事もそれなりに怒っているよ」

 瀧はキッと切れ長の目を睨ませる。

 

「けど、親について解決すればきっと……僕達の仲間になってたかも知れないし、いじめられていた人達のわだかまりがとけると思っていたよ」

 

 なんだろう一瞬、瀧の頭上に光柱が降り注いで見えた気がすると、士狼は目をゴシゴシと擦ってもう一度、瀧を見直す。

 

 伊福部は、若干引きつった表情でこうコメントした。

「……お前。本当に俺達と同い年か? 聖人すぎるだろ」

 

 続いては芥川は言ってきた。

「悟りを開くってこういう感じ?」

 

 そのコメントについては、士狼はよく分からないと首を傾げていた。

 

 

 コルサコフの家。

 

「あら、由成くんじゃないの先月はどうもありがとうね」

 近衛由成を迎い入れたのは、コルサコフの母親だ。

 

「どもッス。クッキー美味しかったッス!」

 銀ピアスを夕陽に輝かせてニカッと笑みを浮かべると、母親は照れくさそうに返した。

 

「あらそう、市販品だけど嬉しいわ。ところで、コルサコフに何か用?」

 

 由成はがさっとビニール袋を掲げて、陽気な口調で話す。

「プリントとちょっと様子見に、アイツ大丈夫ッスか?」

 おじゃましますと一言追加して、コルサコフ家に入ると、母親が心配そうな表情を見せた。

 

「それが、また閉じこもっちゃってね……せっかく、先生達のお陰で学校に行けるようになったのにね……」

(アイツ、引きこもりしてたんだな)

 

 近衛はそう思い母親の話を聞きながら、一緒に自室へと向かう。

 

「昨日も様子がおかしかったのに、今日やってた両親を殺したニュースを見て怖がっちゃって、学校を休んじゃったの……」

(そりゃあ、あんな事言ったオレでも、顔合わせできねえと思ったよ)

 昼休みに士狼達と一緒にいなかった理由を心中で呟く。

 それよりもだ。

 とても不安そうに話す母親が優先だと思って、近衛は慰めようと笑顔を作って軽快に話し出す。

 

「大丈夫ッスよ! オレ、コルサコフを元気づける為に来たから! 安心しておばちゃん!」

 近衛の慰めにどこか申し訳なさそうな表情を作る母親。

「……ありがとうね、和ちゃんはいい友達を持ったわね」

 部屋に辿り着くと、母親はドアをノックする。

 

「……何、ご飯は食べたくないって……」

 か細く消え入りそうな声色がドアの向こうから聞こえた。

「和也。由成くんが来たわよ」

 近衛はコルサコフの声だなと思って立っている。

「……帰ってよ、今日は誰も会いたくない」

 コルサコフの台詞を聞いた近衛は、会ったばかりの頃のコルサコフだなと思った。

 

「おばちゃん、ここはオレに任せて二人っきりで話していいか?」

 困惑している母親に席を外させると、近衛はドアの側にあぐらをかいて座った。

 

「冷てえ事、言うなーコルサコフは」

 がさこそとビニール袋を漁る。

 

「……あんな事をしたのに、怖くないの?」

 コルサコフの暗く重い様子にお構い無しに、ポンッと筒状の容れ物の蓋を開ける音を響かせる。

 

「もち、すげー怖かった!」

 黒色の筒からポテトチップスを取り出して、かじる。

 口の中のピザ味を堪能しながら、安居院を殺しかけたコルサコフについて正直に答える。

 

「……そう……」

 コルサコフは抑揚のない口調は、よほど追い詰めているなと近衛は思った。

 

「瀧もめちゃくちゃ怒ってたぜ、怒るのはいいけどやりすぎだって」

 近衛は思い出話のように笑うと、ドアから返事すら聞こえなくなった。

 パリパリとポテトチップスを食べて飲み込んで、もう一枚取ろうとする。

 

「……最初は、逃がさないつもりで掴んだけど」

 瀧の怒っていいけどの単語に動かされたのか、コルサコフはドアの向こうで語り出す。

 

「いつの間にか、許せない気持ちに乗っ取られて……」

 近衛は黙って話を聞く。

 

「傷つけようとしたんだ!」

 コルサコフは叫んだ。

 

「……僕には(ペルソナ)があるんだって、思ったんだろうね」

 痛々しく苦しそうな声で話しだすコルサコフ。

 

「ああ……シャドウの言ったとおりだ、アイツらと同じ事をするんだって」

 その涙声はしっかりと近衛は受け止めていた。

 

「そう思ったら、急に僕が怖くなったんだ」

 コルサコフは泣き出すと、ようやく近衛は口を開いた。

 

「お前さー悪い事できるって言ったじゃん、ラスボスがこれだと向いてねえよ」

 

 近衛はいつもの軽妙な口調ではあるが、悔やむコルサコフはとても不向きだと、さりげなく諭した。

 短慮軽率で弱腰気味な少年は、黒髪碧眼で陰気な少年の懺悔の慟哭(どうこく)を最後まで付き合っていた。

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