PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter14『Let's Summer Vacation!』

 少年殺人自殺事件について。

 少年に虐待疑惑が浮上してきました。

 

 

「【規制音】とたまたま話した時に、こう言ってたんです」

「見つかったら取りあげられて、勉強ばかり言ってくる、俺の事を人とも思ってないって……」

「私は何もできなかったのが、とても残念です」

 

「奥さんが助けを求める声が聞こえた後に、俺だって、助けられたかった、今度は俺がお前のその声を潰すって聞こえたんですよ」

 

 警察署は、犯人の動機について詳しく調査を進めていく方針です。

 次のニュースです。

 

二〇三〇年 七月十九日

 

 昼休み 和室。

 

「コルサコフは?」

 山田士狼(やまだしろう)は今日も姿を見せない、黒髪碧眼の少年に首を傾げる。

「あのヤロウ、さっきまでいたのに!」

 近衛由成(このえよしなり)は姿勢を構え、キョロキョロと見渡していた。

 

「……まだ、傷つけようとした事を気にしてるのかな」

 憂鬱に俯く三善明美(みよしあけみ)

 コルサコフがペルソナを使って、安居院平助(あごいんへいすけ)に謝罪を強要する姿は、気圧されて硬直したぐらいだ。

 自分達に姿を見せないのは余程悔いているのだろうかと、士狼は思った。

 

「コルサコフくんからしたら、ああなる人間だったのに」

 瀧慈宗(たきちかむね)はむっと眉を寄せて考え込んでいた。

 戦う前、いじめに関する話をしたら吐いたり、話を聞かせたら固まってたので。

 嫌でもコルサコフのツラさが伝わり、ああいう風になるのは無理がない。

 士狼は畳に座って、瀧に向けて頷いた。

「そうじゃねえよ。アイツ、ペルソナが使える自分に怖がってた」

 ドアまで近づいた近衛は上履きを履く。

 

「……もしかしてだけど、コルサコフ君のシャドウが言ってたよね」

 近衛の言葉を聞いて、三善が深刻そうな表情で、顔を見せてきた。

 芥川姉妹はそんな三善を固唾を飲んで、見守っている態度を見せた。

 

「近づくな! ぼくたちは……犯人を祟り殺そうと思ったんだ! って」

 瀧は目を見開き、士郎は目を丸めて思わず「あ……」と呟いてしまった。

 

「おい、説明しろ。なんで、アイツがそんな事を言ったんだ?」

 新入りの伊福部武(いふくべたける)は腕を組んでドカッと座った。

 

「コルサコフくんの言葉から考えると……自分は怨霊だから、僕達を傷つけないように警告した?」

 瀧は端的に要約すると、伊福部は困ったように首を手で当てる。

 

「近づくなか……」

 伊福部の鋭い三白眼が、より険しく光らせる。

「そう考えると、シャドウの言う事も、あてになるもんだな」

 未来の不安と名乗るだけあって、予知めいた事が起きている。

 それを士狼は無言無表情で感じていると、ふと浮かび上がる言葉。

 

 ”おれと契約してもこの先、助けられない事があるかも知れないよ”

 

「……本当にそうだな」

 

 シャドウの言葉を反芻(はんすう)する士狼。

 せっかく誰かを救える力を得たのだ、暴走しないように気をつけようと士狼は心に誓う。

 一方、伊福部は「ひばりとおふくろの事、荷物だと思わせねえぞ」と呟いていた。

 

「コルサコフ! お前、まだ引きずってんのかよ」

 近衛がドアを開けると、弁当を持って入口で立ち尽くしているコルサコフが見えた。

 伏せた目で視線はそらされ、下の方を見ている。

 

「……その……僕は……」

 モゴモゴと小さな声で、何か言いたげなコルサコフ。

 そんな様子に呆れたのか伊福部が箸を置いて、コルサコフのところへ向かう。

 同じく芥川幸恵(あくたがわゆきえ)はどこか心配そうに伊福部の隣に立った。

 

「お前な……次は、気をつければいい話だろうが」

「そーだよ! みんな仕方がないって、思っているよ!」

 二人の圧に、コルサコフは後ろに下がっていく。

 小刻みに怯えるコルサコフを見た士狼は、二人の風貌のせいで、カツアゲされているみたいだと思った。

 

「……ルナを呼ぶ暇がなかったから、僕には……無理だよ……」

 コルサコフの暗く重い囁き声に対して、近衛はつかさず言ってくる。

 

「何言ってんだ? 俺達がいるだろ?」

 ししっと爽やかな笑みを作る近衛。

「そうよ、コルサコフ君がまた暴走したら、私達で止めるから!」

 三善がようやく、この空気に乗っかれるようになった。

 

「怒りを制御できれば、きっとその力は役に立つと思うよ」

 瀧は諭すようにどこか優しげな表情で、コルサコフの力を評価した。

 

「……」

 透き通った青い目を申し訳なさそうに、コルサコフは向けた。

「そんな顔するなコルサコフ、俺達がいる」

 士狼の猫目は凛々しく作って真っ直ぐと見ると、コルサコフは頷き和室に入って来た。

 

「……不安だったんだ」

 静かにコルサコフは語る。

 太い眉毛は八の字を作り、とても悲しそうにしていた。

 

「僕を見て、また仲間外れにされるって」

 ぎゅっと拳を握って、震わせてコルサコフは消え入りそうな口調で本音を吐き出してくれた。

 

「あ……あり……ありがとう」

 コルサコフがはにかむと、それを幸恵が騒ぎ出す。

 

「ルサルサかわいい! かわいい!」

 自分事のようにはしゃぐと、妹の芥川要(あくたがわかなめ)が微笑むを見せる。

 

「ゆきねえ、はしゃぎすぎ」

「だって、初めて笑ったの見たんだよ!」

 幸恵はえらく興奮した状態で返した。

 

 

 数十分後。

 

 和也が合流したところで、いつもの昼食時間になる。

 が、ここ二日間空気がどんよりと曇り空が漂い続けている。

 あの近衛ですらも、静かにもそもそと弁当を食べているぐらいだ。

 

(……気まずい)

 士狼はみんなの様子をいつものように無言で見守り、箸を進めている。

 

「……」

 無言が続く。

(安居院の事、引きずってるな……)

 近衛は無言な空間でも平気なのかと、士狼は新たな発見を得る。

 そんな中、部外者である幸恵が暗い顔で口を開いた。

 

「あのさ! 明日から夏休みじゃん? 頑張ってるみんなにアタシから、プレゼントがあるんだけど……」

 幸恵は笑顔を見せてはいるが、無理して明るく振る舞っているように感じた。

 

「ママにお願いして『ビーチオアシス』の優待券を人数分もらってきたの!」

 その言葉に一番反応したのはもちろん。

「うお! マジで!! 三善の水着も見れるじゃん!!」

 近衛由成だった。

 さっきの落ち込みっぷりはどこへ行ったのだろう。

 鼻の穴を膨らませて、はしゃいでいる。

 

「平助くんの事、ひどいことになっちゃったし、息抜きになるんじゃないかって、ゆきねえが言ってたの」

 要はたおやかに笑って、幸恵の真意を明かす。

 

「ライブ見終わったら、行く、行くー!!」

「アンタはそうよね」

 幸恵は近衛を当たり前のように切り返すと、要はこちらを向いた。

 

「みんな、予定とかある? 慈宗くんは部活あるだろうし」

 互いに見合うメンバー。

「せっかくだし、私は行きたいな」

 まず三善が声を上げる。

 

「八月七日か八日以降なら問題はないけど……本当に無料でいいのかい?」

 また、芥川家特有の太っ腹な、はからいに対して、えらく真面目な顔で、双子の姉妹を見つめる瀧。

 

「遠慮しないで、ちかりん。お疲れ様会みたいなものだから!」

 満面の笑みを浮かべて幸恵は返すと、瀧は黙り込んでしまった。

 

「武くんは?」

 要は、腕を組んで、無言で見つめている伊福部にふる。

「……俺は」

 カタリと弁当箱に箸を置いて、しばし間が入る。

 

「夏休みはバイトで全部埋めた」

 凛々しい顔で宣言すると、要は驚いた表情で、開いた口を手のひらで隠す。

 

「えっ!? どうして?」

 要が聞き返すと武は眉を寄せる。

 

「稼ぎ時に決まっているからだろ」

 武のその言葉に空気が一変、どんよりからざわめきに変わってしまった。

 

「少しでもひばりの為に、金入れたいからな」

 そう言って弁当箱を持つと、食事を再開していた。

 

「福ちゃん、マジでノリが悪い男だな」

 近衛はうげえと、苦々しい表情で口角をつり上げていた。

「仕方がないだろ、医療費の分を働いて埋めねえと」

 伊福部はため息を吐くと、それを見かねたのか幸恵が、切なそうに言ってきた。

 

「……ひばりちゃんの分も用意してるのに……一緒に行かないの?」

 すると伊福部は幸恵の方を見て、ギュッと目を細めた。

 

「おい。なんで勝手に話を進めてんだ……」

 幸恵にツッコむと、要がつかさず会話に入って来た。

 

「仲間外れはあまり好きじゃないよ」

 しょんぼりと落ち込む要をみて、伊福部がぐぬぬと歯を食いしばり眉をつり上げ悩む。

 

「……っ! 反則だろそれ」

 距離を置き、酷く悩む伊福部に幸恵が悲しそうな顔で言ってきた。

 

「アタシ、福っちのビーチバレー楽しみにしてたのに……」

 芥川姉妹に攻められて、伊福部は困惑しながら頭を掻く。

(強引だな)

 士狼はもぐもぐと弁当を頬張って、そのやり取りを見ていると、伊福部はうなだれて大きなため息を吐いた。

 

「……行く日時。早く決めてくれ、シフトが組みやすいから」

 女子の悲しい表情で折れたのか、伊福部は不服そうな表情で二人にそう返した。

 やったーと芥川姉妹は手を取り合い喜んでいる中、近衛は遠く離れたコルサコフに視線を向ける。

 

「そういや、コルサコフも行くのか?」

 コルサコフはびくりと跳ね上がらせると、目を伏せて視線を反らす。

 

「……仕方がないよ、人数分頼んだっていうから……」

 乗り気しないメンバーその二は、とても憂鬱そうである。

「……それに僕、日焼けは赤くなって痛いから嫌だな……」

 

 そう天井を見上げるコルサコフに対して、待ってましたと言わんばかりに幸恵が、コルサコフに近づく。

「ルサルサ、よかったら日焼け止め貸してあげる♡」

 幸恵がウインクして提案し、話を続ける。

 

「てか、ピーチオアシスは室内プールだよー」

 ふふふと笑って幸恵は楽しそうにする。

 これを受けたコルサコフは会釈をし終えると、体育座りして気だるそうに俯いていた。

 

「お前も人の多いとこ、苦手そうだよな」

 いじめが原因で周囲の人達の視線が怖くなった鴨沢の事を思い出しつつ、士狼は丸くなったコルサコフに話しかける。

 

「……うん。声をかけられたり、物珍しそうに見られるのが……」

 逃げ道が断たれて、渋々参加するように見えた。

 

「確かに、お前暗いけど女子ウケしそうだもんな! 逆ナンされるぞ!」

 物珍しそうに見られるを近衛が、変な方向で解釈したのか、そう言葉を紡ぎ、戯けた調子で微笑む。

 

「……」

 が、コルサコフの空気が重くなった。

「あれ? コルサコフクン? どこに落ち込む要素があったのー?」

 近衛は不思議そうにコルサコフを見ると、三善がフォローに回る。

 

「あまり見た目のこと、話さない方がいいと思うよ、近衛君」

「……あ。イケメンって言いたかったけど、落ち込むヤツいる?」

 青い瞳を褒めて、拒絶された男は思い出したみたいだが、納得がいかない模様であった。

 

「……僕だけだから、気にしないでいいよ……」

 ずうんと重く囁くようにコルサコフは返した。

 

(一体、何があったんだろう)

 容姿について気にしたことがない士狼はよく分からないと思い、落ち込んでいる風なコルサコフを見ていた。

 

 話し合いの結果、八月十四日にピーチオアシスに行く事となった。

 

(夏休みか……相馬先輩に顔見せに行こう)

 と士狼はそう思いながら、賑やかに話すみんなを眺めていた。

 

 

 放課後 オカルト部 部室。

 

「山田君! 吉田さんちのアポ取れたわよ!」

 相馬光希(そうまみつき)は目を輝かせ、士狼に詰め寄ってくる。

 

「俺、八月十四日に予定入れてるんですけど、被ってません?」

 相変わらず退きたくなる熱量に、一歩後ろに下がる士狼。

 

「ああ、()()()()被ってないから、安心して」

 そうかと士狼は一瞬何事も無かったように、話を進めようとしたら、ある単語に士狼は首を傾げる。

 

「二つ?」

 ぱんっと相馬先輩は手を叩くと、そのまま頬に寄せて頭を傾けた。

「実は、もう一つお願いがあるんだけど……」

 とスマートフォンを片手に持ち、液晶画面を見せつける。

 どうやらミニブログ式のSNSChirping(チャーピング)の画面らしい。

 

 士狼は生憎こういうものには無関心なので、何が言いたいのだろうと首を傾げる。

「私のアカウント名が読めない?」

 密魔@C116あ12出ます。

 と表示されているのが分かる。

 

「密魔って名前でやってるんですか」

「そこじゃなくて」

 相馬先輩は上にスワイプすると、何やら宣伝している書き込みを見る。

 表示されている画像は本のような画像が三つ貼られており、その下には値段が書かれていた。

 

「新刊、嬰琴市の道祖神について調べてみた……本?」

 士狼は何が言いたいのかさっぱり分からない、相馬先輩を不思議そうに見た。

 

「そうよ。アンナさんの調査の息抜きに私が調べた物を、同人誌にしました!」

 高く大きな鼻がさらに拡大して、自慢気に話す相馬先輩。

 

「そして、それをなんと八月十七日のコミックマーケットで頒布する事となりました! 拍手!」

 狭い部室に拍手を満たしたのは相馬先輩だけであり、士狼はぽかんと、呆けた表情で見つめている。

 

「コミックマーケットって、ニュースでしか知らないけど、よく分からない格好した人とか、参加しているイベントですよね?」

 丸眼鏡を夕焼けに光らせて、相馬先輩はしたり顔で笑った。

 

「それもそうだけど……私が参加するのは、評論・情報ジャンル!!」

 そういえば文化祭で論文を発表すると言ってたが、それと似たものかと士狼は解釈した。

 それと同時にこう口に出してしまった。

 

「先輩、文化祭の論文どうするですか?」

 それを本に出版するよりも論文として出した方がいいのではと、士狼は首を傾げる。

 

「文化祭は『天音高校の七不思議』について書くから大丈夫、先輩方から受け継いだ資料あるし!」

 四月頃に見せてもらった、アンナさんについてのページがあった薄いファイル事かと、士狼は思い出す。

 

「でも、あれ薄かったですよね……」

 眼鏡をクイッと上げるとした相馬先輩は言う。

「無ければ、増やせばいいじゃない」

 そして、ずんずんと近づいてきた。

「ということで……夏休みの部活動は部活動中のみんなに聞き込み調査だから、時間があったらこっちも参加してちょうだい!」

 

 相馬先輩は肩を強く掴んで詰め寄ると、士狼は退く。

 

「考えときます」

 そこまで付き合いきれない意思を、曖昧な返事で表明する士狼であった。

「脱線したわね。まずコミケの頼みごとなんだけど……」

 相馬先輩は、そう夕焼けに染まりながら話し始めた。

 

 明日は夏休み、山田士狼は果たしてどう過ごすのであろうか──

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