PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter2『I'm obliged to be diligent』ActⅢ

「山田士狼は不登校になった鴨沢弘務(かもざわひろむ)の代わりだってさ!!」

 山田士狼(やまだしろう)はその言葉を聞いて、炎でも溶かし切れない程の厚い氷壁を削る手を止めてしまう。

「お客様?」

 ダイアナはその動きを見てポツリと呟く。

 親切にしてくれたのは、鴨沢弘務だと思っていたのか。

 士狼はこの告発にショックを受けて顔を悲しみに歪ませる。

「なあダイアナ⋯⋯シャドウは、瀧を試しているんだよな」

 シャドウが言った台詞は真実なのか、たちの悪いいじめなのか。

 士狼は確かめなければいけなくなった。

「ええ、あのシャドウは未来への不協和音、未来の暗示でもございますから」

 士狼は目を閉じて眉を寄せる。

「じゃあ、アレは瀧から生まれたんだな」

 士狼の声が震える。

「はい、そうですね」

 何かの拍子で眼鏡が外れたのか、瀧がこちらに駆け寄ってくる。

 視界が悪いだろうに、切羽詰まった表情だった。

 

「シャドウもまたタキ・チカムネの心から、生み出された存在でございます」

 ダイアナが淡々と説明する。

「⋯⋯そうか」

 指揮棒は降ろされ背後のヴァルターが消滅し、眼前は氷の壁を叩いて何かを弁明している瀧の姿があった。

「⋯⋯」

 転校してきて困ったのを助けてくれたのは、瀧の為かと失望する士狼。

 照明は五線のノイズがかった黒い影と瀧に当てられる。

 瀧が失意に崩れ落ちた時、分厚い氷の壁を貫通する程の声がまた響いた。

「タイトルロールは決まった!!」

 シャドウの束縛されていた布状な物は解けて、胸の穴から黒炎が吹き上げ体を包む。

「おれはおまえの劇の一番手(プリマ)だ!」

 解放された左手には杖を握り、右手には本らしきものを持つ姿に変化した。

 胸は穴が空いており、そこから黒炎がぼうぼうと溢れだしていた。

 脇には黒炎に包まれる犬と、同じく糸車の女性が瀧の前に立ちはだかる。

 

「⋯⋯なんだあれ⋯⋯」

 士狼はシャドウの禍々しい姿に顔を青ざめた。

「さらに気配が強く⋯⋯! お客様気をつけて!!」

 ダイアナは慌てて妖精を召喚させて、士狼に祝福を授けた。

「まずはあいつから」

 本らしきものが光り、棒状の物から太い氷柱を召喚させ、分厚い氷壁を壊し士狼に襲わせた。

 士狼は失意に打ちのめされて、何もできなかった。

 ダイアナは妖精を変えたのが見えたが、間に合わなかった。

 士狼の腹に氷柱が命中し、豪奢な劇場で宙に浮く。

 ダイアナの支援がなければ、貫かれていただろう。

 そのまま綺麗な弧を描き、背中と後頭部を強打した。

「がっ!」

 士狼の意識が朦朧し、前が霞む。

 

「山田くん!」

 瀧は視界が悪いであろうに、まだ自分に向かって行く。

「⋯⋯来るな」

 瀧は思わず足を止めた。

 表情は遠い場所にいるので、読み取れない。

「俺は鴨沢弘務じゃねえ、山田士狼だ⋯⋯」

 ダイアナの治療を受けながら、痛む体を起き上がろうとした。

「正直言うと、お前には感謝しているよ、けれど⋯⋯マジじゃ⋯⋯無かったんだな」

 裏切られた気持ちになった。

 純粋な親切ではなく、瀧の気晴らしに付き合っていただけに過ぎなかった。

 士狼は絶望に満ちた表情と猫目で瀧を見た。

 

「⋯⋯」

 瀧は視線を落したような仕草をすると、糸車の女性から糸が瀧を襲っていた。

「そうだ、山田くんはおれの失敗を忘れさせてくれる」

 糸車の糸は瀧に絡みつき、釣り下げられる。

「今度こそ、今度こそ! 失敗しないように!」

 瀧は声を上げるとシャドウと同じ高さまで、持ち上げられた。

「けれど、全部知らされてしまった!」

 冷え上がりそうな高笑いに士狼は戦意を失っていた。

 シャドウは瀧を乱雑に飛ばし、舞台から引きずり落とす。

 

「ははは!! 父さんの真似事はおしまい!」

 大仰なポーズを取ると、黒炎犬は遠吠えする。

「あ⋯⋯ああ⋯⋯」

 シャドウの言葉に触れてはいけない単語があったのか、瀧の力ない声が士狼に届いた。

「悪い子には仕置きが必要だな」

 黒炎犬は口に火を溜め始めると、それを察したダイアナが妖精を召喚させる。

「お客様! タキ様!」

 士狼の手はぴくりとも動かなくなった。

 何のためにここまで辿り着いたんだろうか。

 全ては徒労だったのかと、士狼は絶望の淵に至る。

 

「いけません! このままだと全滅ですお客様!」

 ダイアナは士狼を奮い立たせようと活を入れる。

 黒炎犬の火炎が瀧に襲いかかる。

「⋯⋯」

 近くまで吹き飛ばされた為か、瀧の表情が確認できた。

 その表情は申し訳無さそうに、見つめる瀧の姿があった。

「⋯⋯ただ、君も助けたかっただけなんだ」

 シャドウの悪い子という発言に対しての返答を士狼に向けると、ようやく士狼は気づいた。

 白い翼の異形から庇い、眼鏡よりも自分を優先して駆けつけようとしていた。

 動機はどうであれ、瀧の言葉には嘘は無かった。

 体はもう痛まない。

 士狼はゆっくりと立ち上がり、指揮棒を掲げる。

 

「⋯⋯行け──」

 火炎を妖精が防いでいる。

 不思議な事に士狼の周りは、静寂に包まれているような感覚に陥る。

「ペルソナ!」

 指揮棒は凛と振り下ろされ、歌合戦の合図を送る。

 疾風のように、炎のように。

 ヴァルターは現れると、ガイコツマイクの柄から炎を出し、シャドウに向けさせた。

「ぐあっ!」

 シャドウは悲鳴をあげた。

 黒炎犬は主人の危機を察知したのか、元の場所へと戻ろうとする。

「させるか!」

 指揮棒を横に薙ぐと、ヴァルターはそれに合わせて剣を振るい黒炎犬を攻撃するが、イマイチ通じていない。

「くそっ! またかよ!」

 士狼は吐き捨てるとダイアナは助言してきた。

 

「あの犬は斬撃に耐えきれるみたいですね」

(だったら、ダイアナ! 犬の方を任せる!)

 士狼は一気に劇場の通路を駆け下りる。

「かしこまりました」

 妖精を黒炎犬が向かうのを見ると、立ち尽くす瀧を何とかしようと考えた。

「させるか!!」

 糸車の糸と氷柱が士狼を襲う。

「ヴァルター!」

 炎は弧を描いて燃やし溶かし尽くすと、瀧の前まで辿り着いた。

 

「瀧! しっかりしろ!」

 士狼は思いっきり肩を掴んで、生気を取り戻そうとした。

「やまだくん?」

 瀧の真面目な雰囲気はとうに消え失せ、覇気のない返事をした。

「僕は⋯⋯俺は、学級委員長失格だ。助けたかったけど、逆に鴨沢くんを苦しめてしまった」

 瀧はポツリポツリと話を続ける。

「謝りに行ったけど、来ないでくれと言われた」

 シャドウの猛攻がまた襲ってくる。

 士狼はヴァルターを指揮しながら、捌いていく。

「お前を悲しい思いをさせた、俺はアイツの言う通り悪者だ」

 瀧は目を反らし、拳が強く握られたのを見かけた。

 

「⋯⋯すごくショックだった、俺は気晴らしに付き合わされてたんだって」

 指揮棒を静かに振るいながら、ヴァルターを操る。

「けどな」

 火花が散り、溶けた水は二人に降り注ぐ。

「どうして、俺に話さなかったんだ! 苦しそうにしてただろお前!!」

 相談した日と今日の夕暮れの廊下。

 聞いてみたが瀧は話すのを拒否していた。

「あれを作るぐらい悩んでたなら⋯⋯俺もお前を助けたい!」

 劇場に君臨するシャドウを睨んでいると、糸はヴァルター全身にきつく巻き付くと、士狼は苦しみ悶える。

「山田くん!」

 瀧は思わずこちらに駆け込んでいた。

 

「⋯⋯俺も鴨沢の事⋯⋯手伝うから⋯⋯せめ⋯⋯ぐっあ!」

 シャドウが杖を掲げると、本らしきものが青く光りだす。

「だまれ!」

 劇場の空気が冷え込んでいくのを肌で感じた。

「大きいのが!」

 大気は霜となり、照明の光を浴びてキラキラと輝く。

 ダイアナは黒炎犬の攻撃を一時的に防ぐと、ヴァルターに絡みついた糸を焼き切った。

 その隙に、黒炎犬は二人に襲いかかってきた。

「くそ! 二人でもキツイか!」

 ヴァルターは炎を出して黒炎犬を燃やすと、士狼は疲弊し息は荒くなっていた。

「⋯⋯」

 

 瀧は何を思ったのか、士狼に近寄るのをやめて、技を溜めるシャドウの方へと走っていった。

「なんだよ!? おまえは悪い事をしたんだ!」

 杖は瀧に向けられ、士狼は疲弊しきっても尚銀の指揮棒を振るって、ヴァルターに向かわせた。

「⋯⋯そうだ。僕は鴨沢くんと山田くんの事を傷つけた」

 すると、スポーツ経験があるのか、前へ進む踏み込み方が他人と違った。

「けど、力になりたいって思ったのは嘘じゃない!! 」

 二歩目はその姿勢から体を前のめりにしてシャドウに、体当たりしだした。

 

「瀧!?」

 士狼は目の前の光景を見て、思わずその度胸に青ざめ、シャドウにヴァルターを向かわせた。

「だまれ、だまれ!」

 シャドウはもがき悲鳴を上げる。

 糸は瀧を強く縛り苦しめさせようとする。

 だが同時に、背中から帯状のようなものが伸び始める。

「力が弱まっています! お客様今です!」

 士狼の額から汗が大量に溢れ落ちる。

 黒い瞳は前を睨む。

 指揮棒を強く握りしめ、力強い演奏を指揮するが如く、銀の閃光を描いた。

「おれは、おれは⋯⋯悪者だ!! 父さんの真似っ子だ!」

 帯がどんどん苦しむシャドウに巻き付いていく。

 瀧は揺らされながら糸から解放されて、床に叩きつけられた。

 その隙にヴァルターはシャドウに向かってガイコツマイク風の金剣を振るった。

「⋯⋯ああそうか、お前は──」

 その様子を見ていた瀧が何か呟いたかと思うと、シャドウは再び五線ノイズを纏い、拘束された姿に戻った。

 

「っはあ!」

 あまりの激闘に、士狼は膝をついてしまった。

「お客様、今治癒を致しますね」

 妖精は士狼に回復を施してくれる中、瀧はノイズのかかったシャドウに向かって、引きずりながら歩いていく。

「君、いや⋯⋯お前の言う通り、俺はまた委員長をやるのが不安だった」

 瀧の声から慈しみに満ちているのが伝わってくる。

「どうしたら、父さんになれるのかばかりを考えた結果、失敗してしまった」

 倒れているシャドウとの距離が一歩手前まで移動すると、瀧は目線を合わせ始めた。

「それでも俺は⋯⋯身の丈の合わなくても、父さんのように他の人の助けになりたい」

 瀧は手を差し伸べる。

 

「だから──お前は苦しんでいたんだな⋯⋯」

 瀧は静かに語り終えると、シャドウはぽつりと呟く。

「⋯⋯鴨沢くんの事はどうするつもりだ」

 瀧は一旦、口を閉ざす。

 何を考えているのか、思っているのかは分からないが、瀧の事だいい妙案が浮かんだのだろうと士狼は思った。

 そして応えが浮かんだのか、穏やかな口調で語りかける。

「山田くんと父さんにアドバイスを貰って、もう一度向き合おうと思う。今度は傷つけないようにする」

 瀧の言葉に応えるかのように、天井から士狼と同じ鍵のような指揮棒が降りてきた。

「これは⋯⋯?」

「それを(ここ)にさしてくれ、この劇はおまえが主役にふさわしいよ」

 シャドウの声は穏やかであった。

 

「分かった」

 瀧が指揮棒に穴を入れると、シャドウの体が崩壊しだした。

 その中から、指揮者と炎が描かれた青と黒のタロットカードがくるくると落ちてきた。

「我は汝、汝は我──我は無限と有限の探究者なり」

 別の声が劇場に紡がれると、瀧はタロットを受け取って消滅させると雪崩込むように倒れた。

「おい、瀧しっかりしろ!」

 治癒を終えた士狼は駆け寄ると、瀧は油の挿していない機械人形のように体を起き上がらせた。

「⋯⋯ははは『ファウスト』か⋯⋯」

 いつもは涼やかな目元を維持したままの瀧が微笑んだ姿を見た士狼は、安堵で胸を撫で下ろした。

 

「あっ、眼鏡。探してくるわ」

 眼鏡関係なく機敏に動いていたものだから、すっかり忘れてたと士狼は慌てて立ち上がる。

「どうせ壊れているだろうし、しばらくは部活用眼鏡で過ごすよ」

「えっ、そうなの」

 士狼は振り返って返す。

「俺は剣道部だから、普段と部活で使い分けてるんだ」

 シャドウに踏み込んだ時の動きを士狼は思い出す。

「あーだから、あん時すごいキレがあったんだな」

 納得である。

「あの時って?」

「シャドウに立ち向かう時、なんだっけあの技」

 士狼は顎に手を当てて考えると、瀧はおかしそうに笑って答えた。

「面だよ、山田くん」

 

 

黄昏の旧校舎、音楽室

 

「まあ、そんな事が」

 士狼は気絶した瀧を引きずって帰還すると、椅子を並べて簡易ベットを作り瀧を寝かせ、吉田杏奈(よしだあんな)に報告をする。

「いや、反応薄いな⋯⋯あんな化物と激闘したのに⋯⋯」

 士狼は不機嫌な表情で自分は体張ったのにと訴えてくる。

「ごめんなさい、そんなつもりは⋯⋯現実味が薄くて」

 吉田は目を反らして申し訳なさそうに紡ぐと、士狼は腕を組む。

「幽霊がそれ言うか、どおりで神社の人と坊さんが来るはずだわ、この旧校舎は!」

 吉田も現実離れした存在だろうというツッコミと、シャドウとの戦いを経た感想を述べる。

「どういうこと?」

 吉田は首を傾げると、士狼は旧校舎は来年で取り壊す話をする。

 

「⋯⋯」

「そういや、お教でも祓え無かった事になるよなアンタ、余程なんか引っかかる事でもあるの?」

 そうである、僧侶が来たのは恐らくは吉田杏奈を成仏させて工事の安全を確保する為。

 だが、夕焼けに照らされピアノ椅子に座ってこちらを見る吉田を目視できるということは、祓われていない事になる。

「⋯⋯その事なんだけど、山田君、私の未練を思い出させて欲しいの」

 士狼は困惑した。

「ちょっ!! どういう発想!?」

 数時間前に会ったばかりの人間にいきなり、責任重大のお願いをされて、士狼は慌てふためく。

「さっきの話を聞いて思ったけど、あなたならきっと私の未練を明かしてくれるんじゃないかって」

 大人びた憂いの顔つきの少女が士狼を見つめてくる。

「きょ、曲だけじゃなかったんだな」

 そういえば『死の舞踏』という曲しか弾けない状態だったなと、士狼は思う。

「ええ、ピアノで覚えているのは『死の舞踏』の楽譜だけ」

 吉田は鍵盤を見つめながら語り始める。

 

「そもそも、気がついた時にはここにいて、死んだ後のことは全く覚えていないの」

(そういえば、ここもダイアナが言ってた⋯⋯しんり? せかいなのか?)

 ダイアナの存在は心強いのだが、たまに台詞回しが難しい時があるので、平凡な高校生の頭脳では追いつけなかった。

「そうなのか、そいつは困ったな」

 とりあえず相槌を打つ士狼。

「そのぺるそな? を使って立ち向かえるなら、きっと私の未練を教えてくれる気がして⋯⋯」

 吉田は前髪を中分けした三つ編みをいじりながら、士狼を見てくる。

「一つ確認するけど、ここが無くなればお前はどうなるんだ」

 士狼はじっと黒い猫目を向ける。

 

「⋯⋯野ざらしされても、ピアノを弾くと思う」

 地縛霊の吉田杏奈が真面目に答えると、士狼は微妙な顔をした。

「でもな『死の舞踏』じゃない曲を弾く誰かさんと違って、害は無いからな」

 吉田杏奈が『死の舞踏』しか弾けないならば、炎に包まれた暗い旧校舎で弾いている人物は誰だろうか。

 恐らく白い翼の異形の操り主なのではと士狼は考える。

(にしても、あの槍野郎一体何者なんだ)

 左右対称に顔部分を覆う四枚の白い翼の異形を士狼は思い出すと、聞き覚えのある声が参戦した。

「彼女が幽霊だったら成仏させるのが、筋だと僕は思う」

 瀧の声だ。

 

「はっきり言うけど、未練ある割には悪霊感がないんだよな吉田は」

 士狼の台詞に吉田は縮こまって視線を落とす。

「⋯⋯じゃあこう考えないか、その未練は怨みじゃなくて、死んでも忘れられない大切なものがあるとかじゃないかな」

 瀧の発言に士狼の目は見開く。

「冴えてんな!」

 士狼は寝ている瀧に振り向くと、指をさしてナイスだと褒める。

「⋯⋯大切なのもの」

 吉田はスカートの裾をぎゅっと握っている。

「そういえばここに来た時、『告別』って曲を聞いてたよな」

 ベートーヴェンのピアノソナタ『告別』の話をここでした事を士狼は思い出す。

「それと何か関係あるとか?」

 瀧が続ける。

 

「そうかも知れないけど、それだけで絞り出すのはかなり大変だぞ」

「⋯⋯そっか」

 士狼は吉田を申し訳なさそうに見る。

「あの、無理しなくていいから」

 吉田はよそよそしい態度で接してくる。

「ツテがあるしついでに調べてくるよ」

 近衛由成がオカルト部を薦めたので、暇があれば調査すると吉田に約束する。

「それよりも、あの槍野郎だ」

 炎の旧校舎のピアニストに触れたのと、白い翼の異形について思い出したので話を切り出す士狼。

「もしまた、瀧みたいな事をされたら」

 腰に吊るした指揮棒を抜き、眺めながら話し終えると士狼の表情は青ざめる。

 

「⋯⋯」

 吉田も同じ事を想像したのか、何かを考えている表情を作っていた。

 瀧は二人が畏怖している空気の中構わず、冷静に言葉を紡いだ。

「抵抗できずに殺されるな、なんなんだあれは、僕の事をかなり知っていたけど」

 士狼ははっきりと言うなお前と、くわっと口と目を開いて威嚇する。

「そんなにまずいことを言ったか? 実際にそうだったじゃないか」

 瀧の切れ長の目は変わらずの不動明王。

「そうだったけど、よくあんだけ酷い目にあって口にできるよな⋯⋯」

 シャドウにタックルした時も思ったが、度胸が入り過ぎだろうと士狼は思った。

「とても趣味の悪いいじめだと思えば、それに解決策を導いてくれたからそこまで憎んではいないよ」

 夕焼けに照らされ、真面目に語る瀧に対して士狼は畏敬(いけい)の念を瀧に抱いた。

「大人だな。そのシャドウ(反動)がああなるわけだよ」

 士狼が呟くと、瀧は体をぎこちなく動かして、前のめりで食いついてきた。

 

「⋯⋯どうやら、ペルソナだけじゃなそうだな?」

 士狼は鋭いと思いながらその圧力に負けると、ダイアナが説明してきた事を瀧にも話す。

 瀧なら自分よりも理解が深そうだと士狼は思っていた。

「未来への暗示、人の未来への陰りが生んだ影か⋯⋯」

 士狼は緊迫した表情で瀧の反応を待つ。

 しばらくすると、答えが出たのか瀧の口が動いた。

 

「一つ、君と僕との共通点がある」

 瀧が真剣な表情で士狼を見てくる。

「君は僕の事を助けられるのかという不安」

 次に瀧は、瀧の指揮棒を視線に向ける。

「僕は学級委員長を続けていいのかという不安」

 士狼に視線を向けてくる。

「あの白いのは、未来への不安を抱える生徒を狙っているんじゃないかな?」

 瀧が喋り終えると士狼は恐怖に染まった表情を作り、瀧と吉田を見る。

「だとしたら、みんな狙われる事になるんじゃね? テストの時とかさ」

 人に不安を抱えるなと言われても無理な話だろうと、士狼は主張する。

 

「そうなるな。それに死者が出たら、取り壊しの期日が早くなる」

「そうだった。そもそも老朽化で危ないから壊すんだよな、とてもそうは思えないけど」

 夕焼けの音楽室と廊下を見る限り、とても老朽化した建物には見えなかったのだ。

「僕達ができる事は、連れてこられた生徒をペルソナを使って、シャドウと戦うしか方法はないな」

 瀧が提案を出すと士狼は肩をがっくりと落とした。

「⋯⋯結構、大変でしたケド」

 士狼からすれば目標を達成したものなので、これ以上あれが続くと思うと、披露と倦怠が沸いてくる。

「これからは俺がいるじゃないか、鴨沢くんの事を手伝うって啖呵を切ったお前はどこへ行ったんだ?」

 瀧は納得いかないという視線を送ってくる。

「それとこれは別だ!!」

 山田士狼の雄叫びは旧校舎を響かせた。

 

 

ChapterⅡ『I'm obliged to be diligent』 FIN




〓─〓─〓─ペルソナ解説─〓─〓─〓
『ファウスト』
アルカナ:魔術師
 ドイツに伝わる強い知識欲を持った高名な降霊術師。その欲望を悪魔メフィストフェレスと期限付きで契約する。メフィストフェレスから授かった力を使いやがては堕落していく。
 その伝説は様々な芸術作品に用いられて来た。
 
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