PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter16『Ananke』

二〇三〇年 八月七日

 

 某県武道館。

 

 今日は瀧慈宗(たきちかむね)全国高等学校剣道大会(インターハイ)の予選試合を見に来た。

 

 メンバーは──

 山田士狼(やまだしろう)

 近衛由成(このえよしなり)

 三善明美(みよしあけみ)

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)

 芥川要(あくたがわかなめ)の五人。

 

 みんなが座った席は、天高い席で熱気を感じていた。

 近衛は相変わらず女子が絡めば、更に饒舌(じょうぜつ)になる。

 

 三善が近衛の両手全部埋まった、武骨なシルバーリングに「シャドウを殴り倒せそうだね」と感想を述べて。

 

 近衛は「三善ィ……そりゃあねえよ」と落ち込んでいた。

 みんなで席に座ると周囲の視線を感じるのは、どうしてだろうか。

 

 近衛のキャップを被ったオーバーサイズのシャツと半ズボンな、ラッパースタイルのファッションなのか。

 

 幸恵のタンクトップに、ボタンを留めた巻きミニスカートのギャルスタイルなファッションなのか。

 

 士狼と三善と要のファッションがカジュアル系統な分、浮いているのは確かだ。

 

「すごい人だね、見て段幕あるよ!」

 幸恵が向かい側の観客席を見るように促したので、目を凝らして見てみる。

 応援のメッセージが書かれており、どれも個性的であった。

 

「……吹奏楽はないのか?」

 士狼は目の前の観客席を見てぽつりと不思議そうに呟く。

「お前、甲子園じゃねえんだぞ」

 近衛は士狼の顔を覗き込んみ、肘で肩を軽くつついてきた。

「そうなのか」

 淡々と返し視線を移動させると、スクリーンのような物に目に映る。

 

 学校名や紅白の文字を見ると、得点表なような物だろうか。

 次に視線を変える、装備に着替えた剣道部達が白い看板を持って、待機している場所を目にした。

 

(うちの高校は?)

 看板には校名らしき物が書かれていたので、士狼は探してみるが、ここでアナウンスが入る。

 起立を求められたので立ち上がると、今度は一礼をさせられる事になった。

 

「学校みたいな事すんの、なんだか新鮮だな」

 着席させられると、近衛はやや小さいタレ目を物珍しそうに輝かせていた。

 

「茶道もだけど”(どう)”は礼儀作法も大事よ」

 三善がたおやかに微笑んで解説すると、幸恵が三善と近衛の会話に乗る。

 

「いや本当、いつ見てもお辞儀が綺麗だよね、あけみっち!」

「ありがとう。私も幸恵ちゃんのバレエ見たいな」

 その瞬間、幸恵ははにかみながら笑う。

 

「へへへ、そのうち発表会で見せてあげるから!」

 そうだった、幸恵はバレエをやっていたんだった。

 化粧も服も派手だし言動も緩いから、縁遠そうなバレエをやっているのをつい忘れてしまう。

 

「マジで幸恵のバレエ、スゲーよな。よく跳ぶぞー」

 後頭部に腕を組み、どこか誇らしげな表情の近衛に、要が首を傾げた。

 

「由成くん、どうしてそんなに自慢気なの?」

 少なくともその表情からして、嫌味ではなさそうである。

「幼馴染のスゲーところだからだよ! 言わせんな!」

 そう照れくさそうに、近衛は頬をかいていた。

 

「ありがとう。すごく嬉しい!」

 白い綺麗な歯を見せて満面の笑みを見せる、幸恵の姿。

「お、おう……そりゃあ良かった」

 へにゃりと近衛は笑みを返すやり取りに、士狼は思わずこうツッコんでしまった。

 

(なんだこの空気!)

 近衛と幸恵の間に作られる、くすぐったい空気に士狼は戸惑っている中、心中気づかれたのか三善がおかしそうに微笑んでいた。

 

「少女漫画みたいだね。山田君」

 弾んだ声で三善が喋ると、要はきょとんとしていた。

 

「……いつもの二人だけど?」

 良かった仲間がいた。

 思った事は違うけれども、三善の言った意味が理解できない同士だ。

 

「そう……なのか?」

 士狼は首を傾げると、出場校を読み上げる声が聞こえてきた。

 

 

 猛々しい竹刀の音と叫び声。

 動きも俊敏で近衛の一喜一憂と変わる表情こそが、鍛錬された証であった。

 

(そういえば、三善のシャドウでしか見た事がないな)

 ファウストの杖を竹刀に見立て、喉元に突きを食らわせたところを士狼は思い出す。

 

(気迫がすごいな)

 複数の試合を同時に行なっている為なのか、殺伐とした空気が濃厚で肌にヒリつきを覚えた。

 

「おい、山田。スコア表、右奥のとこ天音高(アマコー)だ!」

 近衛が脇に肘を突かれたので、我に返り指さされた方を見る。

 中堅 瀧慈宗──

 

 続いてコートの方を向けると。

 次の試合に向けて、剣道部員達が支度を始めていた。

 防具を身に綴んだ瀧は正座して、頭の防具を膝に置いて静かに待っていた。

 

「ちかりん、すごく似合うねえ」

 その様子を幸恵は見惚れていた。

 

「名前もそうだけど、マジでアイツだけ時代劇ジャン……」

 続いて近衛は褒めてるのか、貶しているのかよく分からない台詞を吐いた。

 

 恐らく前者の方だろうなと、士狼は思いコクリと頷く。

「確かに」

 そんな男子二人を見た三善は、ぽつりと呟いた。

 

「時代劇ね。うん、言えてるかも」

 要も亜麻色の髪を耳にかけて呟く。

「慈宗くんの防具姿を初めて見たけど、本当に侍みたいだね」

 

 満場一致の感想を聞き終えると、試合が始まった。

 まずは全員横一列に並んで、「よろしくお願いします!」と叫んでお辞儀をする。

 

 審判はどうやら、数人いるみたいだ。

 先鋒らしき人物以外、後ろに一歩下がって待機する。

 笛の音が鳴ると両者竹刀を構えて向き合い、旗が上がって始まりを告げた。

 

 一対一の攻守のやり取りは、洗練されており、竹刀の乾いた音が武道館に響かせる。

 

 時に鍔迫り合い、時に相手の様子を伺う。

 気づけば士狼も固唾を呑んで、その試合を見つめていた。

 まずは先鋒はこちらの負け。

 

 続いては次鋒、両者一礼を終えると。

 竹刀の音と叫び声が武道館に響き渡る。

 一本取られたので殺気立っており、ピリピリとした緊張感が肌を刺す。

「……」

 士狼はちらりと隣を見ると、特に幸恵と近衛が緊迫した表情が顔に出ている。

 

 両者の睨み合いから、攻撃をかわす為に後ろに下がり、あるいは竹刀を巧みに振るって防御する。

 その時、天音高校の生徒が「面!!」と叫んで頭頂部を竹刀がうなった。

 

「よし! 一本!!」

 由成がガッツポーズをして立ち上がる。

 礼を済ませた次鋒の選手は、瀧を静かに見下ろして通り過ぎると、瀧が静かに立ち上がる。

 

 中堅──瀧慈宗。

 瀧が相手に向かい合うと、瀧の覇気を感じ取った。

 相手が怯んだかと思うと、瀧は床をダンっと踏み込み。

 

「面ッ!」

 とよく通った聞き慣れた声が耳に響かせた。

 だが相手は負けじと竹刀で防御し、後ろに下がる。

 瀧は追い詰める事はせず静かに動きを止める。

(相手を分析している?)

 防具で表情が分からないが、この動きは『劇場』でよく見せた仕草であった。

 

「慎重だな、オレっちだったらそんまま行くのに!」

 近衛が口をへの字に曲げて、自分だったらこうするとコメントしだした。

「アタシも、あの勢いだったら一本取れるのにね」

 幸恵も近衛と同類のようだ。

 

「二人とも正直過ぎちゃダメだよ、動きが読まれちゃうかも」

 大人しい要がふんっと拳を両手で握る姿でその言葉が出るのも、意外であった。

 

「要ちゃん、そういうのも言えるんだね」

 友達の三善も意外だったようである。

 

「えー、このぐらい私でも分かるよ」

 花が舞いそうな程、ふんわりと微笑んで話す姿を見た士狼はこう思った。

 

(男子と感じが違うなー)

 遠くから眺めていた男子のグループとは違う空気に、士狼はじっと猫目で捉えていると、竹刀の音で現実に戻される。

 

「マジかよアイツ防ぎやがった!」

 両者睨み合いが続く。

 どちらとも譲らない。

 

(こういう展開になるなら、俺がしゃがませるのは無理だよな……)

 ペルソナを酷使し無理やりでも休ませる為に、士狼がしゃがませようと肩を押したが瀧はびくともしなかった事を思い出す。

 

 そんな事を懐かしんでいると、瀧らしき選手が後ろに下がった。

 

 相手の体勢が崩れたと同時に、瀧の声が響いた。

「胴ッ!!」

 

 

 夕方。

 瀧は勝った。

 だが、後の選手が負けてしまい敗退してしまった。

 

 士狼達が瀧の出待ちをしようと談笑しながら探す。

 しばらく歩いていると、見覚えある癖っ毛の黒髪男とジャージ姿の瀧が対面しているのを発見した。

 

「ち、慈宗くん」

 鴨沢弘務(かもざわひろむ)だった。

 体はかすかに震えて、瀧を見据えているのが確認できる。

 

「そーいや、アイツ。安居院(あごいん)のゴタゴタで言いたいこと言えなかったよな」

 鴨沢は瀧に言いたいことがあると言っていたが、先に行っていた瀧は倒れ、コルサコフが怒りで暴走。

 

 さらには、安居院がプリマシャドウに憑かれて、具合悪そうだったので帰したので、話す余地は無かった事を近衛は話す。

 

 みんなが立ち止まり静かに二人の会話を見守る。

「鴨沢……くん」

 瀧はとても深刻そうな表情で鴨沢を見ていた。

 

「……君は人を助けようとする時は、やりすぎてるよ」

 鴨沢の発言に瀧はとても気まずい表情を作る。

 

「おおっと、いきなりクリティカルヒットだ」

 その様子を近衛は小さな声で、実況しだす。

「近衛君、ふざけないの」

 こんな時でもおどける近衛を見て、三善が軽く注意すると、鴨沢と瀧の会話が続く。

 

「……ああ、だから。僕は今度こそ、間違えないと誓ったんだ」

 力なく、自分の愚かさに罪悪感を感じるような態度で、瀧は話す。

「平助くんの時もやりすぎてた」

 士狼達が知らない話を持ち出す鴨沢。

 これには士狼も首を傾げる。

 

「いじめてた人も殺させない為に助けようとするなんて、意味が分からないよ」

 言葉を紡ぎ、ただ真っ直ぐと瀧を見る鴨沢。

 

「僕達は裁きをくだしたいんじゃない、シャドウから救う為に行動しているだけだよ」

 瀧も同じく鴨沢を真っ直ぐと見る。

 

「なんでそこまでして、人を助けたいの?」

 鴨沢の問いかけに瀧の瞳はきらめいたように見えた。

「……父さんが警察官として、地域の人に慕われている姿を見て、僕もなりたいと思ったから」

 その表情は柔らかく穏やかであった。

 

「その夢のせいで、僕はひどい目にあったよ」

 鴨沢はひどく悲しそうな顔をすると、瀧も同じ表情をした。

 とても申し訳なさそうな態度だと、遠目でも分かる。

「……そうだ、僕は君を傷つけた」

 瀧の拳が強く握られる。

 

「今度こそ、君のような人を作りたくない」

 夕焼けは静かに深く頭を下げる瀧を包み込んだ。

「ごめんなさい。僕はとんでもない事をした……ずっと償いたかったんだ!」

 ずっと抱えていた感情が溢れたのか、瀧の声は大きく通っていた。

 

「……」

 変わらずの真っ直ぐで真摯な対応に、鴨沢は無言で眺めていた。

 しばらく無言の間が続く。

 士狼以外の四人は各々緊迫した面持ちで、この様子を静かに見守っていた。

 

「……もう……いいよ」

 鴨沢が口を開く。

「!」

 瀧が顔を上げた。

「償いって、僕にそこまで思われる価値なんて……」

 鴨沢の苦笑いを見て、近衛は頭を抱えて悶え始めた。

 

「重えーよ! 重すぎてドン引きしてんじゃあねえか!!」

 近衛が天空に向かって叫ぶと、瀧と鴨沢がこちらを見た。

 

「よしりーのバカ!! 気づかれたじゃん!!」

 軽く幸恵が背中を叩き、近衛が「いて!」と悲鳴をあげる。

 

「みんな!? 見てたのか!?」

 瀧は慌てふためいてこちらを見てきた。

 

「ごめん、つい気になって」

 三善が両手を合わせて謝り、要も頷く。

「あー! このシカクバカ!」

 近衛が罵声を浴びさせながら、瀧と鴨沢の間に入る。

 

「シカクバカ!?」

 瀧が自分の事かと指を指し、驚愕な表情を見せる。

 

「そこは、不登校にしてごめんなさいだろうが!」

 近衛が簡潔にまとめてくれました。

 と決め台詞が出てきそうな程の言葉選びであった。

 

「償いとか、何アニメや映画みてーな事を言ってんだ! 重いわ!」

 ダンっと足を踏み歌舞伎の見得を切るような仕草を近衛はする。

 

「鴨沢もそう思うよな!?」

 あー、鴨沢も近衛のペースに巻き込まれてしまったなと、士狼は慌てふためく鴨沢を憐れんでいた。

 

「え……気持ちは伝わるけど、そこまで思われてるのはびっくりしてる」

 二対一の状況になってしまったが、瀧はそれでも真面目に対応する。

 

「僕は人を追い詰めたんだ! 許されない事をしたんだ!」

 

 瀧は抱えていたであろう感情を吐露する。

 真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに、そこが瀧の長所であり短所でもあった。

 

「……た、確かに君のせいで学校が怖くなって、行けなくなったし」

 そんな直球ストレートの言葉を受けたのか、鴨沢は気まずそうな態度になっていた。

 

「き、君を避けてたのは、もう二度と関わりたくなかったから……」

 前髪で隠れている筈なのに、目だけが泳いでいるのが見えてきそうな反応であった。

 

「……ここまで真面目に考えていたなんて、思いもしなかった……」

 

 償いをしたい。

 確かにその言葉は重くのしかかる。

 しかし、瀧慈宗がどれほど悔いているのかが分かる言葉でもあった。

 

 士狼はあの日の約束を思い出すと、一歩瀧の側に寄り添った。

「瀧はその……えーと……」

 士狼は真っ先に脳内の辞書を開き始める。

 ここはどう言えばいいのだろうかと、無言で悩んだ。

 数分が経過し、出した答えは──

 

「頑張ってるよすごく」

 その言葉は瀧は眼鏡を上げて視線を落とし、鴨沢はぱちくりと見られ、近衛は膝裏を拳に当てて、カクンと士狼を崩れさせた。

 

「それは分かったけど? だから?」

 鴨沢は困惑している。

 

 どうしてだ、瀧は自分の罪に向き合って、頑張っている。

 それしかないじゃないか。

 なのに、周囲の空気は冷え切っている。

 士狼も困惑して体勢を戻すと、この沈黙を要が打ち破る。

 

「ちゃんと向き合ってるって、言いたいんでしょ?」

 優美に微笑む要。

 士狼は無言で何十回も頷く。

 助け舟が現れた士狼の気持ちを代弁するかのように、近衛は指を鳴らす。

 

「要ちゃん。ナイス!」

 そして再び鴨沢は瀧と向き合う。

「……だから、もういいよ。そこまで思い詰めなくても……」

 

 夏の風が士狼達に吹き始める。

 カサカサと新緑が鳴ると、瀧の堅い顔が破顔した──

 

 

 

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