二〇三〇年 八月十四日
ピーチオアシス。
「お前ら気合入ってねえな!!」
更衣室の入り口を出ると聞き覚えのある声が、
耳を抑えて顔をしかめると、いつもの金髪ニュアンス刈り上げショートボブ頭が腕を組んで、見上げていた。
「君こそ。アクセサリー類はいらないだろ」
眼鏡を外しゴーグルを着けた
手首には木の珠のアクセサリーが着けられ、代わりに近衛お馴染みのシルバーピアスは外しているのが分かる。
士狼は不思議そうに見て、円型のサングラスを額に差して聞いた。
「いつもの指輪とピアスはどうしたんだ?」
まずは何もはめられていない手のひら、次に耳に残るピアス跡を士狼は視線で追う。
「シルバーアクセサリーは塩素NGなんだよ。あと、無くすのイヤだし」
近衛は木製のブレスレットを見せつけて話を続ける。
「だから、木のヤツとか革とかゴムのヤツを選ぶ」
ご満悦そうに語る近衛に、瀧は呆れた表情を見せる。
「そうじゃなくて、泳ぐのに必要なのか?」
近衛は即答。
「必要だ! てかお前が地味すぎるんだよ」
緑地にヤシの葉模様が描かれた布の水着を着こなす近衛は、瀧のはぴったりとした動きやすそうな膝が隠れるものをはいていた。
(……瀧って結構締まった体つきなんだな、腹筋うっすらあるし)
剣道の賜物だろうが細身の体に、程よい筋肉がついており胸筋も張りがあって、腰回りもしっかりとしていた。
対して伊達男気取りの近衛由成は、筋肉がない。
それは中肉中背の士狼にも言えるが、腰回りも細く薄い。
体格も対称的である。
「僕は泳ぎやすさを重視しただけだよ」
と近衛がこちらを見てきた。
「……ジムじゃねえんだから。そういえばアクセサリーって言ったらよ、山田クンはどーなの?」
紺色の膝下水着を買う時、たまたまサングラス売り場を目にした。
で、つい買ってしまった士狼を見て、近衛は話を振って来た。
「本当だ、君ってサングラスするタイプなんだ」
瀧はこちらを興味深く覗き見ていく。
「……夏だからな」
士狼は真顔で答える。
「瀧、そうじゃねえよ。なんで、オレだけ言われるんだよ」
近衛は不服そうに口を尖らせ、瀧の態度を指摘する。
「日頃の行いだと思うが?」
ばっさりと切り捨てるように瀧は近衛に凛々しく返答すると、「エコヒイキだ」と落ち込んでしまった。
「……相変わらず面倒くせえな」
その低い声は
「だって! オレのアクセよりも! コイツの方がは……」
ぐわんと体を伊福部の方に向けて近衛は抗議しようとするが、ピタと一時停止し小さなタレ目は大きく開いていた。
「どうしたんだ近衛くん?」
瀧も同じ気持ちだったらしい、声がした方を向けるとそこには。
たくましい筋肉を披露する、長身の同級生がそこに立っていた。
(すご……!?)
まずは太ももが太い、露わにした膝もごつりと彫りが深かった。
そんな体格を見た小さく華奢な近衛由成が硬直するのも、無理は無かった。
「太ッ!!」
ようやく現実世界に戻ってきたのか、近衛は叫ぶ。
「身が詰まってる感はあったけど、どうやって仕上げたんだよソレ!!」
二発目。士狼も瀧も大きく頷くと、伊福部は気だるそうに太い首を手に置いた。
「バレーと多分……お袋の介護」
さも普通ですよという伊福部の態度に由成は勢いで、しゃがんで両腕を上に構えた。
「そんなに筋肉残る事ってあんのか!? スゲーな!」
伊福部は実に面倒くさそうに相手をする。
「驚きてえのは、俺の方なんだが」
上腕二頭筋を伊福部がポンポンと叩いていると、ひょっこりと黒褐色の髪と青い瞳の少年が顔を出す。
「……動画で見たけど、人を持ち上げるからじゃないかな?」
コルサコフ・
まるで幽霊のような登場に、由成はびくりと肩を跳ねる。
「びっくりしたー! 相変わらず、人の後ろに隠れるの好きだな」
伊福部の背越しから覗き見るコルサコフは視線を落として、黙り込んでしまった。
由成の大声で周囲の視線が肌を差す。
伊福部の体を見た感想と、由成の第一印象を呟く声も聞こえた。
それはコルサコフも感じ取ったのか、小さく悲鳴をあげて顔を引っ込めた。
「……断れるワケねえか、お前は」
長い前髪をぐしゃりと掴んで縮こまるコルサコフに、伊福部は困っている。
「もっとノッてこーぜ!!」
近衛は両腕を忙しく動かしながらコルサコフに促す。
「……」
コルサコフの声は聞こえて来なかった。
「男子お待たせー!」
「キターーーーーーーッ!!」
近衛がいつも以上にうるさい。
士狼はよく動く、小さな男を冷静に思う。
「よしりーうるさい」
ビニールバックを抱えて顔をしかめる幸恵。
肩紐がクロスしているビキニ姿で、色鮮やかなパレオをまとう。
私服で着けるカチューシャは、ハイビスカスの造花が飾られている。
スレンダーで筋肉質な体格が、逆三角形のシルエットを映えさせている。
これを見た伊福部はぽつりと呟く。
「化粧を落とすと、マジで双子なんだな」
すっぴん状態の芥川幸恵と、常にナチュラルメイクかすっぴんの芥川要と比較し、士狼は大きく頷いた。
(化粧の力ってすごいな)
ぼんやりと士狼はそう思うと、幸恵は言う。
「だから涙袋があって、二重パッチリのルサルサとあけみっちが羨ましいの!」
幸恵は答えそのまま厚底ビーチサンダルを鳴らして、伊福部の元へと駆け寄る。
「おお、リゾート地にいそう」
続いては近衛の感想。
夏休み前三善の水着姿に喜んでたのに、幸恵の前だと予想以上に普通の反応だった。
「おにいちゃん! 見て見てかわいい?」
フリルがついた女児水着を纏う伊福部ひばりは、幸恵に手を引かれ伊福部の元へと辿り着く。
その言葉を聞いた伊福部の表情が和らぐとコルサコフの事を忘れて、屈んでしまった。
「可愛いな」
伊福部がひばりの頭をぽんと置いて撫でると、ラッシュガード姿のコルサコフがものすごく慌てている。
「うわ、待って! 待って!」
ペタペタとビニール音を立てて、近衛に吸い込まれるように背後に隠れる。
だが、身長差があるこの組み合わせは、コルサコフをはみ出す事になる。
「お前の水着。学校の水着みてーだな」
ニシシと歯を見せ愉快に笑う近衛。
「……裸、見られたくないから」
コルサコフが暗いトーンで話すと、近衛が華麗に回転してコルサコフの体つきについて、こう言う。
「……お前、飯食ってる?」
肩幅はあるのに近衛よりも腰が細く薄いコルサコフを見て、軽口を叩く。
「着替えの時見たが、ポテンシャルがあるのにもったいねえ」
ストイックな伊福部はじっと強面でコルサコフを見つめると、屈んで近衛の肩をがっしりと掴んで怯えていた。
「……部活に勧誘しないでよ」
コルサコフの長い睫毛は青い瞳を覆いかぶさり、その声はとても弱々しいものであった。
「しねえよ」
伊福部は即答しひばりの手を繋ぐ。
「集まり自体が苦手なヤツを、無理に誘わねえ」
士狼はそのやり取りをぼんやりと眺めていると──
「みんなお待たせ!」
サイドテールでワンピース水着姿の
要の水着はハイビスカス柄のレースの上着。
そこから覗かせるのは、フリルがついた、オフショルダーの水着。
体つきは脂肪がなくしなやかな
三善は要よりは脂肪が少ないが、なで肩で和服が似合いそうな体型だった。
「うっひょーーーーー!! 明美ちゃん、オトナでカワイイ!!」
周囲を気にせずはしゃぐ近衛。
士狼は近衛のハイテンションについていけないと、無言で眺め事にした。
ちらりと瀧を見れば、どうやら同じ判断をしたようだ。
「ありがとう」
三善が微笑んで返すと、続いては、近衛がむっと顔をしかめ要をじっと見つめる。
「……また幸恵の趣味かこれ」
近衛がそう言うと要は頷く。
「似合ってるけどよ、お前らしいカワイイ水着が見れねえのガックリだな」
複雑そうな表情で近衛は幸恵を見ると、幸恵は気まずそうに視線を反らした。
「幼馴染の目は、誤魔化せなかったという事か」
ぽつりと瀧は言う。
「だって! みんなとプールなのに、ルサルサみたいな水着着ようとしてたんだよ!」
幸恵は反論。
三善と近衛は苦笑い。
要は俯いて顔を真っ赤に染める。
「幸恵さん。好きな水着を着せた方がいいと思うが」
眼鏡を上げる仕草をするが眼鏡をかけていないので、鼻筋を触る瀧の姿があった。
「あけっちと同じ事言ってる」
納得いかないらしい。
どうしてこだわるんだと士狼は疑問に思っていると、上ずった声が割り込んできた。
「いいの! 肌が目立たない水着選んでくれただけでも……十分だから!」
要は両手を激しく揺らして、この場を収めようとしているのが伝わってくる。
「……もう着たから、これ以上追求はしないよ」
瀧はため息を吐いて答えると、幸恵を見下ろした。
「幸恵さん。親切はいいけど、あまり押しつけないように」
よく分からないが、なぜか伊福部は腕を組んで頷き。
幸恵は「はあい」と小さく返す。
「コイツ、たまに強引なとこあるんだよな」
近衛は困ったような表情でそう評価し、幸恵はしょぼくれていた。
※
まずはウォータースライダー、風と冷たい塩素水が肌に当たり心地よい。
パイプを掻っ切るように下る感覚は、普段は控えめな士狼の猫目を輝かせる。
幸恵と近衛は五回ぐらい乗って、とても楽しそうだった。
次に波打ちコーナー。
大小の波を楽しむ場所で、近衛が悪ふざけで士狼の肩をぽんと叩いてから、大波に流されていた。
波に揺られる感覚はとても心地よいと、士狼も満喫し波にされるがままであった。
そんな士狼を見て伊福部は浮き輪に浮かぶ妹の隣で、呆れた表情を見せた。
(……どうしてだ)
と士狼は困惑気味に見ていた。
続いて、大きなプールでビーチボールの打ち合いをする事になった。
伊福部がお手本としてボールを両手で突いて瀧に渡すと、瀧は両腕を真っ直ぐ手を伸ばしてボールを当てると。
ふわりと伊福部の手のひらに受け止められた。
パチパチと近衛と幸恵は拍手を送る。
「こんなモンだ」
すると浮き輪に浮くひばりが目を輝かせて、嬉しそうに笑う。
「おにいちゃん、なつやみになったらいつもそうしてるよね」
ひばりは伊福部の母親が死んだ、後日談を語ってくる。
「伊福部くん、トレーニングを始めたんだね」
ゴーグルを着けた瀧は、伊福部の事をどこか嬉しそうに話す。
「ああ……二年もブランクがあるからな」
人の迷惑にならない範囲で、みんなで輪を作りながら伊福部は話す。
「それを埋める為に、家事とバイトの合間を見てやってる」
伊福部はそう言い切ると、ボールは瀧の方へ向かう。
「ある程度仕上げてから、バレー部に入部か……」
瀧は隣のコルサコフにボールを打ち渡す。
「追いつくのキツくないか?」
伊福部に瀧はそう諭す。
生憎と士狼は運動部も入った事はないので、現役の剣道部である瀧ならではの言葉を紡げなかった。
そうした中、コルサコフは焦ってボールを士狼に渡そうと打ち返す。
ボールは千鳥足で弱々しく低く向かってきた。
「はっ追いついてやるよ」
士狼がボールを近衛に渡し、伊福部は勝ち気な表情を見せた。
「バレーの話になると生き生きするなー福ちゃんは……っと!」
近衛から放たれたボールは、綺麗な曲線を描き幸恵に向かう。
「確かに」
いつもしかめっ面の伊福部なのだが、今日は表情が豊かな気がすると士狼も同意する。
「三善とコルサコフのお陰だ」
そう言えば同居人を抑えていた時に、大きな声で言っていた。
”私みたいな子は、もう見たくない!!”
と珍しく三善が声を荒げていたなと、戦いの最中に思ったと、伊福部の言葉で士狼は思い出した。
「私も家族の為に、好きな事を諦めようとしたから」
上着を脱いだ要がふわりとボールを打ち上げて、儚げに語る三善に落ちていく。
「そうだな。だから、コルサコフに諦めるのは簡単って言われたな」
伊福部は高校を中退する発言のやり取りを思い出したのか、少しむっとした表情を浮かべる。
それを見たコルサコフは、ぱしゃりと水の音共に体を跳ね上がらせる。
「な……何?」
ビクビクとコルサコフは身構える。
「士狼とお前の発言で、白鳥に嗅ぎつけられた」
三善がボールを打ち、ひばりに向かって落ちていく。
「……あ」
怯えながらコルサコフは、視線を逸らし俯いている。
士狼もまたどこか気まずそうな表情を作る。
伊福部が白鳥の槍に刺され劇場に
瀧は母親の危篤状態が原因だと、かばってはくれたのだが。
「最初はなんてもん、気づかせやがってと思ったが……」
ひばりがボールを捉えヘロヘロと低く空を飛び、士狼の技量ではとても拾えない。
「三善の言葉で、お前らの言った意味に気づいた」
粛々と伊福部は語り、ボールの着地点を読んだのかザブザブと水を切って進む。
「俺は
華麗にボールを拾った瞬間、ざばんと伊福部は手を伸ばした姿勢のまま水中に飛び込んでしまった。
「うお! 冷て!」
近衛と女性陣は水しぶきをもろに浴びて、腕で防ぐ仕草をする。
士狼は伊福部が生んだ波の衝撃を腹で感じる。
沈んだのかと士狼はプール底を確認すると、ちゃんと浮かび上がってくる伊福部を見届ける。
(……溺れなくてよかった)
安堵すると次に士狼は、ボールを視線で追う。
萎縮しているコルサコフに、落ちていくのではないか。
「言われてなくとも気づいていたよ、バレーをやった時」
ゴーグルを着けた瀧は口元を緩めこちらを見る。
「ああ。燃えてたよなあの時」
士狼は体育でやったバレー授業を思い出して、瀧に同調する。
「……そんなに分かりやすかったのか」
水中から顔を出し、びしょ濡れの伊福部は目を見開いてこちらを見てくる。
あの熱量は今の伊福部から考えられなかった。
士狼はこくりと頷くと、ボールが明後日の方向へ飛ばした。
「ご、ご、ごめん!」
あたふたとアニメのように慌てふためくコルサコフ。
「任せてルサルサ!」
と幸恵が水中で助走というハンデをもろともせず、華麗に宙を舞う。
パレオは脱いでいるので、蝶々結びされた腰紐がひらひらと舞う、ビキニ姿がお披露目される。
「腰紐タイプのってさ……」
近衛がまじまじと、真顔で幸恵の水着姿を見る。
「ほどいてくださいって、言ってるようなモ……」
自然体かつ爽やかに近衛が評価文を言い切る前に、ざばあんっと大波がこちらにもかかった。
「テメエ、場所を考えろ」
伊福部が仁王立ちでびしょ濡れになった近衛は、しょぼくれた表情で伊福部を見た。
ふわふわの金髪は水を被ってしぼんでいる。
まるでシャワー後のペット姿だと士狼は思うと、こちらも冷たい水しぶきを食らった。
「はーん? エロい事は考えていませーん!!」
近衛がどうやら伊福部の胸元を濡らしたらしい。
近衛の生意気そうな態度に、伊福部は動じず仁王立ちしていた。
※
お昼。
「……」
近衛がとてもしぼんでいる。
それはもうしわくちゃして、焼きそばをすすっていた。
「……ナンデ、キョリトルノ?」
瀧の方へ集まってる女子達を切なそうに見て、カタコトで近衛は話していた。
「本当、こーいうとこは直らないんだから、サイテー」
幸恵は舌を出して、とても怒っている。
後から教えて貰ったのだが、どうやら近衛は脱がせやすい水着と言ってしまったらしい。
つまりは
しかも、七歳になる妹の目の前でだ。
「……近衛君。女の子の目の前で、あれを言うのはちょっとね……」
三善は苦笑、要はまたしても顔を赤らめて俯くばかりであった。
瀧の周りに集まるのも納得だなと、士狼はたこ焼きを楊枝で刺して頬張る。
熱々の球体が口内にほとばしり、ほふほふしていると瀧は言う。
「僕が”女子の部屋に入るのにときめかない”のかといい、君は……」
中間テストの勉強会。
幸恵の自室に普通に入ろうとした瀧を思い出す士狼。
「チクショウ……ハーレム、ズルイ……」
たこ焼きを飲み込むと、士狼はよく分からない台詞を唱える近衛を、ただ無言で見ていた。
「自業自得だバカ野郎」
伊福部はひばりと一緒に、フライドポテトと串からあげのセットを分け合いながら、近衛に一言釘を刺す。
「おにいちゃん、はーれむってなに?」
ひばりは不思議そうに顔を見上げてポテトを頬張る。
「……」
伊福部は焦りと戸惑いの態度を取る。
「……さあな、兄ちゃんにも分かんねえ」
そっけない態度で、ジュースを飲む伊福部を見た士狼は呟く。
「知ってるだろ? その様子」
伊福部がジュースを吹き出すと、降参と言わんばかりに顔を手で抑えて俯く。
「よ、余計な事を言うな!」
伊福部はガルルとこちらを向いて唸ると、ずぞぞと焼きそばを食べる音が聞こえる。
「どうして、簡単にいかがわしい事を口に出すんだ?」
呆れて焼きにおにぎりを頬張る瀧に、近衛は泣き出しそうな表情で口を尖らせる。
「ア、イエ……ダッテ、ショウガナイジャナイデスカ」
その言葉に四人が震え上がった気がした。
「しょうがないじゃないよ」
三善がフライドポテトをつまみながら、絞首刑みたいになってる近衛を厳しい視線を送る。
「要ちゃんみたく、ショックを受ける子もいるんだからね」
名を挙げられた要は、未だに俯いたままだった。
「ホント、ごめん! マジでごめん!!」
ふるふると首を振り目を潤ませたチワワの瞳のように、女子組を見る近衛。
「はー……おい瀧、どうするんだコイツ?」
伊福部は瀧を見ると、ふうと瀧は一呼吸する。
「一つ質問させてくれないか?」
その様子を、たこ焼き美味しいなと士狼がマイペースに食べていると、ボソリとコルサコフの声が聞こえた。
「……よくこの状況で、食べれるね」
士狼はきょとんとした顔で、やや呆れた声色のコルサコフを見た。
「そういうものなのか?」
士狼はじっとコルサコフを目で訴える
「……僕なら落ち着かない」
冷え切った集団を見ながら、コルサコフは食べかけの揚げパンを見下ろしていた。
「君は疑問に思っただけだよね?」
コルサコフとちょっとしたやり取りを終えた後、瀧の質問が投下される。
「そうだが? 脱がせようなんて思っちゃいねえよ!」
近衛は曇りなき眼差しと、真剣な表情で瀧に訴える。
その様子に訴えている側の人間は、呆れ果ているみたいだった。
「本当はあっちに行く時もその表情でいて、欲しいぐらいだ……」
恐らく戦闘中でもにやけ面を忘れない近衛と、清々しい程の潔白証明の近衛の差に、瀧はぼやく。
「よしりーはバカだもんね」
幸恵の言葉が近衛を貫き、またしょぼくれ始めた。
「本当にそんな事を考えてたら、脱がせにやってくるもんね」
幸恵は近衛の言葉を信じる事にしたらしい。
そして、その言葉は意見一致の反応。
士狼も頷き、コルサコフもただ見ているだけだった。
「そー! そー! 流石は幸恵サマ、よく分かってる!」
近衛は勢いよく立ち上がり、盛大に喜んだ。
「脱がせたい欲があんのは否定しねえんだな、お前は……」
伊福部は頭痛が来たような表情を浮かべると、ひばりはみんなのやり取りを不思議そうに見ていた。