PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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九月
Chapter19『Actions speak louder than words.』


二〇三〇年 九月二日

 

 

 

 薄暗い青いボックス席──

 

 

 

「お久しぶりです。お客様、長い休暇はいかがでしたでしょうか?」

 

 仄暗いランプが青きドレスを纏った、銀髪金眼の女性ダイアナの青いピアスを光らせる。

 

「ご客人はこの休暇の中、小さな光を見出だして来ました」

 長い鼻の男が細長い腕を伸ばすと、タロットカードが二枚出現する。

 

 くるくると本へ落ちる一枚は。

 

 芸術家らしき人物が吊るされて、作品が燃やされているタロット。

 であった。

 

「おめでとうございます『刑死者』のアルカナを手に入れました」

 口紅を塗られた口角は微笑み、アイシャドウを塗った目元はこちらを見る。

 

「忍耐の末、未来に打ち克った少年」

 刑死者のタロットが消えていく。

「……つまり」

 パタリとダイアナは本を閉じる。

 

「あなた達と同じ劇の主演に返り咲いた存在」

 鴨沢弘務(かもざわひろむ)の事であろうか、またよく分からない事を言っていると山田士狼(やまだしろう)は首を傾げた。

 

「フフフ、白鳥が襲わなかったのも、劇場に一緒に行けたのも、同質の魂だと判定されたんでしょうね」

 

 同質の魂。

 相変わらず難しい事を言うと、士狼は顔をしかめて考えた。

 

「つまり、鴨沢は俺達と同じって事か?」

 その答えをダイアナに話すと、穏やかな口調で語りかけられた。

「ええ、ペルソナ使いの素質はあった。けれども……試練はとっくに済ませていた」

 ダイアナが腰をかけてゆったりと語る言葉に、士狼は首を傾げた。

「試練って……」

 ひどく困惑する士狼にイゴールは笑うと、いつもの甲高いしゃがれた声で語り出す。

 

「劇場での戦いですよ。鴨沢様は劇場を介さずに、未来を受け止めたのです」

 イゴールの言葉でなんとなく理解はした。

 

「未来を……受け止める……」

 士狼は特に気になった単語を口ずさむ。

 シャドウは不安から生まれ落ち、話し合いぶつかり合い、ペルソナになる。

 そんな話を未来を受け止めると、長鼻の老紳士は語るのだ。

 

「あなた様にも心当たりがあるのでは? 試練の前から未来を受け止めた事を──」

 黄金に輝く瞳が士狼を突き刺す。

「あ……」

 

 その時士狼は気づく。

 

 シャドウの事ではない。

 

 もっと前、自分の根幹になったモノがあるじゃないか。

 

「もう……慣れたか……」

 終わりが来たら終わる。

 それを慣れた事にすれば、大抵の事は受け流しできる。

 そう思って生きてきた。

 だがしかしその代償として、友達という単語の後ろめたさが生まれてしまった。

 

「お気づきになられたようですな」

 イゴールは釣り上がった口元をさらに釣り上げると、ダイアナも微笑む。

()()を超えても尚、お客様の根底にあるモノが渦巻いているのはそういう事です」

 士狼はとても深刻な表情で、自分なりに解釈した意味をダイアナに問いてみる。

「……つまり、俺は友達って言えないモヤモヤからプリマシャドウは生まれていない?」

 

 仄暗くランプは青いボックス席を照らす。

「ええ、そうですね。タキ様が連れ去られて、パニックになったのがきっかけですね」

 

 ダイアナは頷き、膝元の本を開く。

「さて、長期休暇も終わり再び学生生活の日々が始まります」

 

 話題は一変、ダイアナはたおやかに語り出す。

「またもや、新たな絆の気配がしますね」

 絆の気配という単語を聞いた士狼は忘れられない出来事を吐露する。

「……気配ってまた安居院(あごいん)みたいのが起こるのか」

 救おうと手を伸ばそうとしたが、間に合わなかった。

 士狼は切なそうに眉を寄せ、それを見たダイアナは、とても残念そうに視線を落とした。

 

「彼は──選択の余地すら無かった。あなた達の声が届かない程に……」

 

 薄れてく意識、青い部屋が遠のく。

「もし、新たな絆が試練に呼ばれた場合、その犠牲を忘れず、正しき未来への調律を行ってください」

 相変わらず、言っている事は理解はできないが励まされている事だけは伝わっていた。

 

「それではご機嫌よう」

 イゴールの声で目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 同日 朝。

 

 天音(あまね)高校校門前。

 

 

「ういっす! 山田クン! 二学期だな!」

 近衛由成(このえよしなり)は、顔を見上げて気さくに挨拶してきた。

「……そうだな」

 士狼はこくりと頷く。

「……あの、その……学校また頑張ろうね……」

 次に小さな声で話しかけるのはコルサコフ・和也(かずや)

 なんでそんな言葉が出るのかは士狼には分からなかった。

 ただ、青い目線はまだこちらを向けてくれず、地面の方を見ているのは分かる。

 

「頑張るのは、お前の方だっつーの!」

 近衛が後ろにいるコルサコフを見上げて、即座にツッコまれた。

「せめて、オレらぐらいは慣れろよ」

 大変不服そうに話す近衛にコルサコフは申しわけなさそうに、縮みこむ。

 

「こ、これでも慣れてきたんだよ」

 コルサコフは自身の感情を伝えようと必死な態度で表した。

 

「そうだよ由成くん。ただでさえ僕らは一目を気にしすぎて、怖いんだから」

 とここで、黒い丸い無造作ヘアーの鴨沢弘務(かもざわひろむ)が士狼達の前に現れた。

 

「鴨沢!? えっお前、鴨沢なの!?」

 近衛が信じられないという目で鴨沢を見る。

 

「おはよう三人共」

 

 目元は前髪で隠れているので表情は読み取れないが、穏和な態度で話しかけている。

「単位が取れたから、今日から復学する事になったよ」

 

 だから、ゴールデンウィークの時は図書館で勉強して、安居院の件は学校に来ていたのか。

 一本の線が繋がった衝撃のあまり、士狼は猫目をぱちくりと見開いて鴨沢を見ていた。

 

「……あの……大丈夫?」

 珍しくコルサコフから話しかけてきた。

「まだちょっと人の目は怖いけど、学校に行けるよう頑張ったんだ」

 口元は緩やかに弧を描く鴨沢を見て、近衛は小さな体を使って鴨沢とコルサコフの肩を組む為に飛びかかった。

 

「うわっ何!」

 鴨沢は驚く、一方のコルサコフは近衛の挙動にすっかり慣れてしまったのか動じていなかった。

 

「よかったなー!! そうだ! 復学祝いに、帰りファミレス行こ!」

 鴨沢はとても困惑している様子であるが。コルサコフはというと。

 

「……僕も連れて行く気?」

 目を伏せてため息を吐いていた。

「何、当たり前な事言ってんだ祝いだぜ。い・わ・い」

 きょとんと近衛はコルサコフを見つめる。

 さも常識ですという態度で、語りかけてくる。

「山田クンもな! 鴨沢の事、瀧を通じてなんか知ってただろ」

 

 そして当然のように士狼を誘ってくる近衛。

 確かに知人ではあるが、図書館で会って話しただけの関係だ。

「いいのか俺で?」

 

 祝い事するならもっと相応しい人間がいると士狼は首を傾げて、近衛に聞く。

「どうせ、祝うならたくさんいた方がいいだろ?」

 近衛は満面の笑みで楽しそうにしているが、コルサコフと鴨沢の表情は気まずそうであった。

 

「あ……そうだった。コイツら大勢ダメだったわ……オレらだけにしようか」

 この二人は大勢の視線が苦手な共通点がある。

 だから、あのコルサコフも同類だと感じて積極的に声をかけているのだろうか。

「そうそう、復学した話さー瀧に伝えとくわ」

 

 と近衛は明るい色のツインテールの女性が写った写真のストラップを揺らす。

「アイツ、一番気にしてただろーしなー」

 気を遣っているように感じる近衛の言葉。

 

(流石に誘わなかったか……)

 そう思いながらぼんやりと士狼は、スマートフォンのタップ音とどよめきの声を無言で聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 二年B組 朝。

 

 小山内勝(おさないまさる)は教卓につく。

 

 近衛由成は、退屈そうに机に肘当てて気だるそうにしていた。

「えー……今日は転校生を紹介します」

 センコーはドアの先を見て、入りなさいと合図を送る。

 

 ガラガラとドアが開くと、靴音を立てて現れたのは、赤く染めたショートヘアーを逆立ててツンツンさせており、短い眉毛の端にはシルバーピアスをした生徒だった。

 

(んーあ? 男子?)

 黒アイシャドウに青いリップをしたその生徒が、教壇に立つと全身が明らかになる。

 視線を下に向けると上履きは、私物の黒い厚底靴ショートブーツ、網タイツ、さらに上に行くと、幸恵ぐらいの丈の短いスカートだった。

 

(うお! 女子かよ!?)

 由成はここで初めて性別を認識した。

 さらにそのスカートは腰に太いベルトに、ウォレットチェーン。

 校則違反満載の威圧感たっぷりなファッションだった。

 

 そしてようやく半袖シャツにロッカーが着てそうな丸首シャツのおかげで、胸の膨らみを確認した。

 

(厚着とズボンだったら、気づかねえよー)

 転校性の性別をそう分析している由成。

 

 一方周囲の反応は、どよめきが走っていた。

 

(そりゃあ、あんだけピアスバチバチにキめてりゃあ、ビビるよなー)

 

 額のボディピアスだけではない、チェーンがついたイヤーカフスと刺ピアスが近寄りがたい雰囲気をかもしている。

 大半の人間はおののいてしまうのだろう。

 派手に着飾る事が大好きな由成はビビっている人間をおこちゃまだなと、内面ほくそ笑んでいた。

 

「えーと、島崎解子(しまざきときこ)さんだ」

 小山内がチョークの音を立てて転校生の名前を書いていく。

 

「よろしく」

 チャリンとチョーカーのチェーン音を立て、気だるそうに挨拶する転校生こと、島崎解子。

 

「島崎は事情があって転校してきたが、仲良くしなさいね」

 喧嘩だ、喧嘩だろとクラスメイトのざわめき声が聞こえる。

「はい、そこ決めつけない」

 

 小山内は軽く制すると、島崎はため息を吐いた。

「ンな、くだらねえ事を言うヤツには興味がねえよ」

 一重のグレイ系カラコンの目元はどこか挑発的な目つきで、呟いた相手を見ていた。

 

(口悪!!)

 由成は即、島崎の態度にツッコむ。

 

「あのね、買い言葉で返すんじゃない」

 小山内は明らかに困っている、すごく困っている。

 

(小山内、腹大丈夫かー?)

 今までいなかったタイプの相手に悪戦苦闘しているんだろうなと、由成は労った。

 

「じゃあ、この席座って」

 小山内が用意した席に向う姿を見て、由成はふと既視感に襲われた。

(にしても島崎……この赤毛にバチクソキメてる格好……どこかで……)

 

 チェーン音とどよめきの中、記憶を辿ると思い出した。

 ある夏休みの出来事を。

 

「あ!! お前、PUFF CUTES(パフ・キューティーズ)のサポメンやってたヤツだろ!!」

 ガタンと由成が立ち上がって、正体の答え合わせに挑む。

 

「……よく覚えてンな、サポバンの顔も覚えるって、相当ガチだなオマエ」

 どうやら正解だったらしい。

「いつメンだと名前は覚えてる」

 

 ライブには、サポートバンドの紹介はつきものだからこそだと、由成はそう言い切り、話は続く。

「ただ、お前が目立つ格好して、ギターがめちゃくちゃ上手かったから覚えただけだ」

 スポットライトの島崎解子を総評すると、初めて島崎の表情が緩んだ。

 

「……へえ、チャラそーなのに分かってんじゃん」

 笑顔はスカした微笑みで島崎は返す。

「惚れるなよ☆」

 由成はウィンクをしていつもの調子で返すが。

「惚れねーよ、調子乗んな」

 島崎は面白い男子ではなく、ボケ役として認識してきた。

 

(おお、またちょっと違う女子だな)

 なので会話経験が浅いタイプの女子だと、由成は感じた。

 

(可愛いってよりもキマってる女子。生で見んの初めてだなー!)

 由成のボルテージはあがり、あんなに重かった空気が少しだけ軽くなった気がすると由成は思った。

 

「お前さ、女子なのに話しやすいよな!」

 

 島崎が乱暴に席に座ると、由成は座ったまま、ぴょんぴょんと跳ねて移動し、一気に距離を詰めて話しかける。

 

「スゲーなアイツ」という誰かが称賛されたような声が、耳に入る。

 

「そうなのか? よく分かんねーよ、中学から女子校だったし」

 解子は首を傾げると由成はさらにさらにテンションが高揚する。

「女子校!? 女子校ってスゲーいい匂いするのか!?」

 

 未知の世界、そう女子校。

 きっと幸恵や(かなめ)などの女友達みたいな匂いが、校内に漂っているんだろうなと由成の好奇心は止まらなかった。

 

「は? 何言ってンだ? バカだろオマエ、フツーの学校だよ」

 答えは呆れ返ってノーであった。

 しかし一つだけ、島崎は女子のデータベースにない反応をされた。

 

「おお! このノリだよ! 本当に女子かお前?」

 そう今まで付き合ってきた女友達だったら「えっ何言ってんの」や「それは違うかな」とあっさり断られる傾向があった。

 だが、島崎解子は違う。

 男友達のように軽くあしらうだけだった。

 それが由成にとっては初めての経験で、女子でそれをやられるのがとても嬉しく感じたから、発してしまった言葉であった。

 言葉であったが。

 

「あ゛?」

 現実は不機嫌に鋭く睨まれるだけであった。

「なんで睨むの!?」

 びくと体を引かせて、小刻みに由成は震わせる。

 

「……流石に、それはまずいと思うな……由成くん」

 

 後ろからコルサコフがぬうっと語りかける。

「うわっ! テメエ!? いつの間にいたのか!?」

 流石の島崎も驚いて、見開いてコルサコフを見る。

 

「……女子に女子じゃないって言うのは、マズイと思う」

 クスクスと周囲の笑い声が聞こえてくる。

 

「あー悪りい、遠慮しなくていい女子だと思ってつい嬉しくなって……」

 由成はなんだか照れくさくなって、頭をかきながら軽く頭を下げる。

「んだよ。遠慮しなくていい女子って、そんなのワタシには関係ねえよ」

 じとりと島崎はこちらを見たあと、不敵に微笑んで返してきた。

(顔こえーよ)

 由成は勝ち気な笑みを見て内面そう突っ込んだ。

「というか近衛君、ホームルーム中だよ席に戻りなさい」

 小山内は咳払いして注意してきたので、由成は自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 夕方 休み時間。

 

 

「これがよしりーが言ってた転校生!? ブルベ冬系でキマってんじゃーん!!」

 いつもの昼食の集りで、士狼の疑問で未来の不安を復習して推理大会した。

 話題がつきたあと島崎の事を話したら、幸恵が妙に食いついてきたので、急遽廊下で会わす事になった。

 で、島崎解子本人は気だるそうにこちらを見下ろしてくる。

 

「おい、なんだよコイツ」

 話もつけずに急に会わせた為か、説明を求められた。

「オレの幼馴染芥川幸恵(あくたがわゆきえ)。昼飯にお前のこと話したら、会いたがってたからサ♡」

 とりあえず由成は幸恵の紹介をする。

「”会いたがってたからサ♡”じゃねえンだけど! これだからチャラ男は……情報回すの早えーンだよ!」

 容赦のないツッコミだなと由成はわなわなと震える島崎を見て、ノッてきたので由成は舌を出してコツンと頭を叩く。

 

「エヘッ♡」

 眉をひそめてさらに島崎は食いかかってきた。

「おいコラ、テメエぶりっ子ぶるんじゃねえぞ」

 いい反応するなと由成はさらにボルテージが上がっていく。

 

「キャー! トゲ子ちゃんーこわーい」

 怖がる女子の素振りを真似して、由成はからかい始める。

「誰がトゲ子だ!」

 島崎の鋭いツッコミ。

 お笑い芸人かというぐらいの鋭さだ。

 こういうおふざけを女子でやれるのは、楽しいと由成は感じていた。

 島崎と由成のやりとりに通りすがりの生徒がクスクスと笑っている。

 

「ときぴ、よしりーは調子乗るからそのへんにしときなー」

 呆れた幸恵が止めに入ったので、大人しく通常運転で行くか、殴られたくないしと、由成はクールダウンを始める。

 

「今度はときぴって、オマエらなんなの……」

 島崎は呆れ返ってため息をついていた。

「何って、カワイイから!」

 ジャーンという効果音が入るぐらいの、幸恵のドヤ顔をいただきました。

「……オマエら自由かよ」

 島崎は肩をがっくりと落として困惑している。

 

「それがオレの売・り・な・の♡」

 由成はウインクして軽やかに返す。

「だからそれやめろって、イラつくから」

 

 島崎は頭を抱えて短い眉を寄せていた。

「ときぴのメイクって、濃いめの黒いアイシャドウはともかく、それに合わせて青リップを使いこなしてる子なかなかいないよー」

 幸恵はグイグイと島崎に近寄って顔を見上げて、きらきらと見つめている。

 

「ああ、このメイクはだな……」

 島崎が説明しようとするが、幸恵にスイッチが入ったのか容赦なく会話を続ける。

「肌白い! もしかして、トーンアップファンデ使ってる?」

 ぐいと一歩。

「まつ毛はつけまじゃなくて、マスカラ派だねーダマがあるよー」

 ぐいとまた一歩と、幸恵は解子の顔を至近距離で見つめる。

 困った事に由成は男子よりはメイクやファッションに詳しいと自負している。

 しかし、女性メイクの深掘りまでは到達していないので、聞き手に回ってしまった。

 

「分かった、分かったから落ち着け」

 自己紹介の圧はどこへ行ったのやら、すっかりとタジタジになっている島崎。

「あ、ごめん、ごめん。こーいうタイプの子、動画や雑誌でしか見たことなくて!」

 幸恵はようやく我に返ったようである。

 

「特にピアスで盛るのマジでヤバい、顔の痛くない?」

 島崎の両耳のチェーン付きイヤーカフに杭ピアス、右眉尻にボディピアス付ける人間は、この高校では少数派であろう。

「ワタシの場合だと、眉ピアスは穴開ける時だけ痛かったな」

 ようやく由成にも理解できる会話が回ってきた。

「分かる分かる、開ける時痛いよなー」

 耳たぶのシルバーピアスを指差してアピールすると、イヤリング派の幸恵は興味深そうに頷いていた。

 

「へそピの友達いるけど、それよりは痛くなさそうだねー」

 島崎は目をぱちくりと幸恵を視線に向ける。

「オマエしてそうじゃん」

 幸恵は腕を組み、上げた片手の人差し指で困った顔であごをなぞる。

「バレエに支障出そうだからムリ」

 

 ますます島崎は身を引いている。

「えっコイツ、ひょっとして金持ち?」

 突然話を振られたので由成は、芥川の規模の大きさを思い出しつつ苦笑いで語り始める。

「金持ちもなんも、ばかでけえ家の中に、でけえシアタールームも完備してるぐらいの金持ち」

「大金持ちじゃねえか」

 島崎は即座にツッコむ。

 

「で、ときぴは何を話したいの?」

 不思議そうに島崎を見る幸恵に、島崎は咳払いをする。

「一番初めにブルベ冬系とか言ってたよな」

 頷く幸恵。

「そーいうんじゃなくて、これはパンクメイクってヤツ」

 と腕を組んで島崎が言う。

 トゲがついた腕輪してるけど、痛くないのかと由成はぼんやりと思っていた。

 

「ぱんく?」

 首を傾げる幸恵。

「オマエにも分かりやすく言うと、クールなカンジでまとめるみたいなヤツ」

 と、島崎が黒いネイルが塗られた中指と人差し指を突きだして、それを口元に持っていき吸うと、手の形で維持したまま話す。

(このポーズ、昔の父ちゃんの動画で見た事あっけどなんだっけな)

 

 由成は顔をしかめて謎の仕草に注目していると、幸恵はしばらく考えたあと、ゆるく微笑んだ。

「……グランド・ニュースみたいな格好って事?」

 

 島崎の顔を見ると同じく、島崎もこちらの顔を見ていた。

 

「えっ? ギャル向けにロック系ブランドあんの?」

 島崎はとても驚いた表情で頷く幸恵を見た。

 

「へそピの友達がそうだった、けどもう潰れたから、今は古着屋巡りしてるって」

 由成は色んなギャルがいるなとしみじみとそう思った。

「メンズもあって、よしりーが好きそーなのあったよー」

 笑う幸恵を見て由成は目を輝かす。

 

「マジで!? ちょっと後で調べるわ」

 ロック系ファッションのシャツデザインは、スカジャンも愛用する由成にとってデザインが凝っていて好きなので、とても惹かれるブランドだと思った。

 

「……おい、由成。そろそろ授業始まんぞ」

 幸恵と談笑していたら、島崎がなぜ意味深な表情を見せたあと、すまし顔で教えてきた。

「おうそうだったじゃあな、幸恵!」

 

 幸恵をC組に帰すと、由成は島崎と一緒に教室に戻る。

 

「……ってあれ? オレお前に名前教えたっけ?」

 由成は島崎のブーツ底が厚いのか、見上げる形で質問する。

 

「センコーと青い瞳のヤツが名前呼んでただろ」

「なるほどな抜け目ねえな」

 二人は教室に入ると、ぼちぼち席は埋まっている風景が見られる。

 

 島崎を見る同級生は、よそよそしい態度で丸わかりであった。

 

「……お前、見事に避けられてんね」

 乾いた笑みを由成は笑みを浮かべると、島崎は特に気にしていないようだった。

「こういうカッコしてっからな、計算済み」

 とまた手元に中指と人差し指を持っていき、ふーと息を吐く仕草をする。

 その独特な癖に由成はこらえきれず、いつもの明るい調子で聞いてみる。

 

「島崎、そのクセなんなの?」

 

 グレイの瞳がこちらを向ける。

 

「タバコ吸ってんの」

 しれっと島崎は自然体で返しているが、由成は少しだけ構える。

「タバコねえじゃん」

 急におかしな事を言うなと由成は顔をしかめてると、島崎はしたり顔で返してきた。

 

「ねえけど、今は売った側が捕まる時代じゃん」

 雑踏が聞こえてくる。

「みんなにこう言ってんだよ。吸ってたぞってな、そーいう演出(ポーズ)

 

 またしても怖く感じる笑顔を見せられて、気圧されてしまう由成。

 腰を引けつつも島崎の思考が理解できずに、こう返した。

 

「それってさ、ココアスモークでやりゃあいいんじゃね?」

 

 タバコに似せたチョコレート菓子を思いはせながら由成は提案すると、島崎は眉を寄せて返ってきた。

「ハンドサインみてーなモンだから、似せたモン持ってやっても意味ねえよタコスケ!」

 なぜ怒ったのかよく分からないまま、島崎に罵られてしまった。

「なんで怒んの意味分かんねーよ!」

 理不尽だと由成は訴え、島崎は頭を抱えて、こう返してきた。

 

「持ってるよりも、持ってねえ方が相手が効くから意味あんの」

 余計に分からなくなってきたので、由成は頭を両手で抱えて目を閉じた。

 

「わかんねえ、わかんねえよー」

 ナニコレ高度な情報戦と由成が混乱していると、島崎は素知らぬ顔で見下ろしていた。

 

「ライブ以外で中指立てて、ファック言うのがダセえって事だよ」

 その言葉でようやく由成は理解する。

「……喧嘩売ってるって事?」

 頭の中がスッキリした。

「そーいう事」

 短く返されると島崎は、自分の席へと戻っていった。

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