PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

55 / 55
Chapter20『Durch Leiden Freude.』

二〇三〇年 九月二日

 

 時は遡り、昼時間、和室にて。

 

 

 瀧慈宗(たきちかむね)は嬉しそうに、鴨沢弘務(かもざわひろむ)の復学を話す。

「よかったな」

 と士狼も祝福すると、瀧は晴れ晴れとした表情でこちらを見ていた。

 

 みんなも温かく瀧を見守ったところで近衛由成(このえよしなり)が転校生について楽しく話しており、それを興味津々で聞く芥川幸恵(あくたがわゆきえ)がいた。

 山田士狼(やまだしろう)は、それを見ながら箸を進める。

(口が悪いヤンキーな女子)

 

 赤いスパイキーショートでスタッグピアスもして、態度も不良じみてクラスメイトを一蹴していた。

「……なんか濃いヤツが来たな」

 

 タケノコを掴むと、士狼はそう呟いて、口に入れシャクシャクと音を立ててる。

「濃いもなんも、睨まれた時マジでビビった」

 近衛は顔を青くしてプルプルと震えていた。

 

「……お前……またなんか言ったのか」

 味噌汁をすすり終えると、伊福部武(いふくべたける)は呆れたような視線を向けていた。

「……女子なのかって聞いてたよ」

 同級生の証言、コルサコフ・和也(かずや)は小さくサンドウィッチをかじる。

 

 とここで、幸恵は何やら不服そうな表情で近衛を見ていた。

 

「は? マ?」

 その表情は圧力がすさまじい事がこちらにも伝わってくる……! 

「よしりー、いくらイケてても、ときぴは女子だよ!! 乙女心わかっていなーい!」

 

 伊福部と瀧は呆気に取られた表情で幸恵を見ていた。

「……乙女心って、アイツそーいうの関係ないって言ってたぞ」

 口を尖らせて由成は抗議をしていた。

「そうなの、ちょっと変わってるね」

 首を傾げ幸恵は島崎の発言に、不思議そうにしていた。

「ふふ、そうだね」

 三善明美(みよしあけみ)はおしとやかそうに笑って話を聞いていた。

「そういうの気にしないんだ」

 芥川要(あくたがわかなめ)が興味深そうに目をぱちぱちとしていた。

 

(……転校生)

 今朝の夢を思い出す。

 

 青いボックス席に佇むダイアナとイゴールの姿。

(新たな絆か──)

 コミックマーケットに向かった車のラジオで蘇らせたあの記憶。

 手を伸ばしても届かなかった自分。

 それらが重なって、あのような惨事を引き起こしたくない。

 さて、どう対策すればよいのだろうか。

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

「なあ、ちょっといいか? お前ら」

 和やかな空気の中、みんなからの視線を感じる。

「どったの、マジな顔して」

 と近衛は訊く。

「……もし島崎が……いや──」

 ダイアナの予言じみた事は言わないでおこう。

 不安を生み出すかも知れないし。

 

「ニセアンナさんと白鳥が現れないようにするには、どうしたらいい?」

 

 旧校舎アンナさん。

 学校に伝わる怪談。

 

 十七時のチャイムが鳴ると、旧校舎の扉からサン=サーンスの『死者の舞踏』を弾いているのは、自殺した吉田杏奈だという怪談。

 それに乗っかったのがニセアンナさん。

 

 ニセアンナさんは『死者の舞踏』以外のピアノ曲を弾く。

 それをバックに大きな白い翼と、顔を覆い隠す四枚の翼を持ち槍と盾を振るう『槍野郎』『白鳥』『死神』と呼ばれるお化け。

 

 三つのうち『白鳥』の呼び名が定着している。

 白鳥は不安を察知し襲うというのなら、旧校舎の見張り以外の対策がある筈だ。

 士狼は持ちかけると、瀧はこくりと頷き長考する。

 

「そうだな」

 大きな厚い掌を握り広げながら伊福部は答える。

 

「不安を打ち消す方法がありゃあ、この力を使わず解決できる」

 やはり平和が一番だと士狼も頷くと、近衛も目を閉じて何回も小刻みに揺れている。

「オレだってこえーもん、『廊下』のシャドウとかさあ……」

 見開き細い染めであろう眉毛を八の字に曲げる。

 

「特に福ちゃんのなんだよアレ!」

 

 プルプルと震えて吠える姿は小犬みたいである。

「プリマシャドウ達も『廊下』のシャドウも連帯ヤバかったぞ!!」

 恨めしそうに伊福部を見上げて唸る近衛に対して、釣り上がった三白眼を細めて困惑している。

「うるせえ、知らねえよ」

 そんなやりとりを見て瀧がくわっと目を見開いた気がした。

 

「伊福部くんのシャドウ達、本当にすごかったね」

 次に褒めから始まる。

 そういえば瀧、廊下の戦闘中興奮しながら手帳にメモしていたな。

「まるで、練り上げたチーム戦のような仕上がりだったよ」

 

 ほくほくしている顔というのは、こういう事であろうか。

 確かに、互いの穴を埋める戦法は参考にはなった。

 

「伊福部くんの話はここまで、まずは一度整理しようか」

 と瀧は胸ポケットから手帳を取り出す。

 その表紙はボロボロになっており、この戦いへの時間を感じさせられた。

 

「整理?」

 三善は聞き返す。

「うん。僕らの『不安』──襲われた理由を挙げて、共通点を探る」

 と瀧は思考に入ると芥川達以外全員で黙り込む。

 

(俺はと……)

 

 落ちたコーラ缶。

 

 白鳥に槍を刺され謎の空間と化した教室に吸い込まる瀧を助けようと、手を伸ばした。

 けど瀧はその手を拒絶して、逃げろと言い返した。

 教室は何事も無かったように、夕闇に染まった光景を映し出していた。

 その時の士狼は今までにない絶望を味わい、大人を呼ぼうと必死に校内を走った結果白鳥に刺された。

 

 

 ”タキ様が連れ去られて、パニックになったのがきっかけですね”

 

 

 ダイアナの言葉を思い出し、士狼はそれを口にする。

 

「俺は瀧を助けられない」

 

 次は瀧。

 

「僕は過去のやり直しと失敗への不安」

 

 次は三善。

 

「私は茶道を諦めて、家族を守る為にお祖母ちゃんの言う事を聞くか」

 

 次は近衛。

 

「オレはオレをちゃんとして見てくれるか」

 

 次は伊福部。

 

「俺はお袋が死ぬかも知れねえ時に、バレーをやるかどうか」

 

 最後はコルサコフ。

 

「……僕はその……大切な人がまた消える事」

 

 みんなが言い終えた後、重たい空気がしばらく続く。

 

「共通点か」

 

 分からない士狼は横に傾げると、みんなも同じ意見だろうと思っていたら。

 近衛が気だるそうにコルサコフに絡む。

 

「コルサコフは未来の不安ってよりも、恨み辛み感がすごかったよな……」

 コルサコフはひどく動揺し、落ち込んでいるのか頭は下を向いていた。

「きっと和也くんはね、もう失くす事が嫌なんだと思うの」

 コルサコフを励ますように要が悲しく微笑む。

「……人の事が嫌いになるぐらいに」

 その言葉にコルサコフは顔を上げて、どこか申し訳なさそうな表情を見せた。

 

「そして安居院(あごいん)くんは、恐らく家族から離れて自由になりたい」

 そんなやりとりを聞き終えた瀧は、プリマシャドウに取り込まれて、殺人自殺した安居院平助(あごいんへいすけ)の名前を出す。

 

「……」

 再び沈黙が続くと要が一番初めに口を開く。

 

「……あ、みんなツライ思いをしている」

 その言葉にみんなが要を見る。

 

「うん、それぞれツラい出来事だったな」

 士狼は思い出話となったが、他のみんなはどう感じているのだろうか。

 

「……それだけだと、無差別に襲う事になる、何か決定打が欲しい」

 その意見は瀧に却下される。

「みんなツラいけどさ」

 続いて近衛が清涼飲料水のペットボトルに口をつけて飲むと、細めのタレ目は真っ直ぐに上まぶたを被せた。

「特に、三善と福ちゃんは家族の為に好きな事は諦めろはなー」

 

 そうだった。

 この二人は家族と引き換えに好きなものを人質に取って、プリマシャドウに突きつけられたな。

 士狼は白飯をかきこんで、箸を進めると、瀧の切れ長の目が見開いた。

 

「家族の為に諦めろ……そうか!」

 

 突然立ち上がり、畳の擦る音が聞こえた。

「僕らは重要な選択を迫られているんだ!」

 拳を強く握りしめ、瀧によるC組学級員長スピーチが始まろうとしている。

 

「どういう事?」

 明美は訊く。

「つまり」

 眼鏡を上げる瀧。

「これから先どうなるんだろうという悩みで、なおかつ──」

 士狼、三善、伊福部の順に見る瀧。

「選択を誤ったら、取り返しがつかない事を起こす人が選ばれる」

 次に近衛、コルサコフの順に見る瀧。

 

「取り返しが……つかないこと……」

 息を呑むように要が瀧を見ていた。

「えっ、そんなのわかんないじゃん!」

 ここでようやく幸恵が参戦してきた。

 そうだよな、このメンバーでは芥川姉妹だけは、まだ襲われていないから、今まで会話に参加できなかった。

 

「そうだね。僕がそうだったように、護衛対象を絞る事はまず不可能だ」

 こくりと瀧は返答する。

「回避不可能なのかったりいな」

 口をへの字に曲げて近衛は、弁当の箸を置く。

 

「赤の他人は、そうだね」

 瀧が話している中、要は無言で不安げな表情を浮かべていた。

「対策として、友達や僕らの様子を細かに見るのが大切だ」

 続いて対策案を紡ぐ瀧。

「要ちゃん? 顔色悪いよ」

 三善がここで要の様子に気づいたのか、とても心配そうな顔で問う。

 

「……あ、うん。ごめん」

 要はそうか細い声で返す。

「そして、ここが一番最悪なケースだ」

 瀧の涼し気な顔立ちが険しくなっていく。

 

「プリマシャドウに乗っ取られるという事は……」

 その口調から真剣さが伝わる。

「取り返しのつかない事をさせられると思う」

 

 その言葉にみんなはざわつき、コルサコフだけは重々しく冷えこんだ瞳になっていた。

(……)

 士狼はきっと恐ろしい事をコルサコフは想像しているに違いないと、固唾を飲む。

 コルサコフから畏怖を感じていると、幸恵は冷めた目つきで語りかける。

 

「なにせプリマだもんねー、みーんな必死になるよ」

 珍しくテンションが低い幸恵に、伊福部は弁当を片付けながら視線を向ける。

「幸恵、どういう意味だ」

 伊福部の言葉に幸恵は頷くと、頬をトントンと人差し指に触れながら答えた。

「バレエで、主役を演じれる人って意味」

 

 両手指を猫の手みたいに構え掲げる幸恵。

 オレンジ色系統にまとめた、きらびやかなネイルがよく見える。

 

「劇の主役は自分だー! って襲いかかるんじゃないの?」

 そのポーズから、体を伸ばして襲いかかる仕草をして幸恵は例えた。

「あっ! そういえば」

 何か思い出したのか近衛は、声に出す。

「オレのシャドウさ”人生(しゅじんこう)の席を賭けた決闘を初めようか!! ”って言ってたケド、そういう事か?」

 

 幼馴染コンビの言葉に眼鏡の鼻パッドの金具を触る瀧。

 

「……なるほど、それだと乗っ取りの筋が通っている」

 そしてペンを取り出しカリカリと音を立てる。

 

「つまり……だよ」

 不安気になりながら三善が喋りだす。

「シャドウに乗っ取られたら、私はお祖母ちゃんの言う事を聞いてたって事?」

 メモ中の瀧に三善は恐る恐る訊いた。

「……そういう事になるだろう」

 瀧がメモをしている間、今度は由成が顔を青ざめている。

 

「ひょえ……気づいてよかったー」

 口元は笑っているが目は笑っていない。

 うん、いつもの近衛の臆病が発動している。

 

「お前は……ネットで炎上して、賠償金払わされる羽目になりそうだな」

 そんな戦々恐々な近衛にトドメを刺すかのように、伊福部が近衛由成の最悪なもしもを口にする。

 

「福ちゃんヤメテ!!」

 ぎゃあんという擬音が聞こえてきそうな程、怯えて、伊福部の腰にしがみつく。

「ちょ、お前! いくらなんでもビビリすぎだぞ!」

「どうやって、ペルソナで戦って来たんだお前」と伊福部はうっとおしそうに近衛を引き剥がそうと、追い払い始めるが。

 

「……それを言うなら、俺も伊福部くんもだよ」

 瀧の一言で空気が一変する──

 

「恐らく、シャドウに乗っ取られていたら……」

 

 一呼吸と瀧は追い詰められたような表情を見せて、淡々と話す。

 

「俺はやっている事が疑心半疑になって、折れていたかも知れないし」

 失敗した自分を続けていいかという不安に苦しめながら生きるのは、確かに辛そうだと士狼は空になった弁当の蓋を閉じる。

 

「伊福部くんはバレーの事を思い出したまま……」

 伊福部を見ながら瀧は語る。

 

「高校を辞めて、家族の為に働いていたかも知れない」

 

 そう瀧は言い終えると、伊福部は腕を組んで俯き黙り込んでいた。

 

「福ちゃんが黙った」

 いつも無愛想に返す男が、深刻そうな表情で黙り込むのは珍しい。

 そう近衛は、みんなの気持ちを代弁してくれたかも知れない。

 そんな重い空気の中、伊福部は苦々しそうに舌打ちをする。

 

「……シャドウの『荷物』ってそういう事かよ」

 こちらに視線を向けると、手は離しているがまだ隣にいる由成は見上げて訊き返す。

 

「福ちゃん?」

 意味深な発言にみんなが注目していると、いつものしかめ面で答えてくれた。

 

「バレーの事を思い出さないままだったら、瀧の言うとおりだった」

 そう、伊福部は元々家族の為に高校を中退しようとしていたんだ。

「あん時の俺は、それが正しいと思っていたからな」

 プリマシャドウも家族の為だと言い寄っていた事を思い出す士狼。

 

「それでもバレーが引き止めた」

 思い出させ、選ぶ道に導いた事に伊福部は感謝していた。

 

「……俺はどれを選んでも、背負ってたんだよ」

 伊福部の発言に士狼はふと疑問に思う。

 

 ダイアナは正しき未来へと導けと言っていたが、伊福部からしたら、プリマシャドウの言葉も正しく感じるのかと問いかけてみる。

 

「……どれも正しいって事?」

 首を傾げた士狼を見て、伊福部は後頭部をかきながら答えてくれた。

 

「俺の場合は正解を選ぶんじゃねえ」

 かく手を下げて、真っ直ぐと前を見据えて伊福部は言葉を続けた。

 

「家族か家族とバレー、どっちか背負って進むだけだ」

 決意表明のような物を聞かされて、みんなが耳を傾ける中、士狼はぽつりと自分なりの感想を呟いてみた。

 

「……そうか、難しいんだな未来って」

 他人からみたら間違いだと思っていたら、本人からすればそうしないといけない事情があるんだなと。

 山田士狼はそう噛みしめていた。

 

 

 同日 五限目。

 二年C組。

「えー、今日は文化祭の出し物について話し合おうと思う!」

 瀧慈宗が眼鏡を上げて黒板に書かれた議題を、見せつけるように投げかけた。

 

(サマになっているなー)

 本当にこういう役割が好きなんだなと、士狼は机に頬杖をついて話を聞いている。

 クラスのみんなが談笑しながら話は続く。

 こういう光景はどこの学校でも変わらないのだ。

「はい! アタシ、チョコバナナ屋やりたい!」

 一番最初に幸恵が立ち上がって元気いっぱいに案を出すと瀧はカツカツと、黒板に書き上げていく。

 

「他に案はあるかい?」

 出し物の候補がこれを革切りに、どんどん上がっていく。

 士狼は特に案は浮かばなかったのでタケノコのように生える挙手と、案に一喜一憂する様子を眺めていただけだった。

 

 数十分が経過──

 

「チョコバナナ、わたあめ、かき氷、ジュース」

 瀧は白い文字を読み上げていく。

「射的屋、輪投げ屋、迷路、お化け屋敷」

 視線をこちらに向けて、瀧は口を動かす。

「これ以上案が無いようなので、多数決で決めようか」

 そう瀧が宣言すると、読み上げた出し物に挙手した手を、数えて黒板に書き続けていった。

 

 結果は、ジュース屋だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。