二〇三〇年 九月十日
朝、二年C組教室前。
文化祭のオカルト研究部の事やジュース屋について、あれこれと考える。
(……ひょっとして、俺……文化祭忙しいのか?)
客を捌いた後、オカルト研究部に行かないといけない。
(……ゆっくり回れるかな)
ぼんやりとそんな事を考えていると、
「幸恵、どうしたんだ?」
士狼は首を傾げると、幸恵が不安そうに巻かれた薄茶の髪を揺らしてきた。
「実は……
「変って?」
頷く幸恵。
「アタシを見るなり、どこかぼーっとしてるの」
怪訝な顔で、薄く化粧がされた頬を人差し指に触れる仕草を幸恵はする。
「ほら『白鳥』が取り返しがつかない未来を見せるっていう、話を聞いちゃったせいなのかな……って」
ピンク色の艷やかな唇をへの字に結ぶのを見ると、士狼はいつも仲が良い双子姉妹がそんな事になるとはと、不思議に思った。
「……もしかして、心当たりがあるのか?」
それも相まって考え事をしているのではと、士狼は問いてみた。
「え、あー……」
幸恵はギクリと実に分かりやすい顔で、こちらを見ている。
「あ、プールの時。近衛が言ってたな、お前は押しが強いって」
要が選んだ水着じゃなく、幸恵が選んだ水着を着ていると、近衛は言い当てた時に発言した事を思い出す。
「あはは……だって、せっかくのプールだもん……」
乾いた笑みの幸恵。
「それなのにラッシュガードの水着だよ、もっとカワイイの選べばいいのに……」
どうやら姉妹の好みの違いでこんな事が起きてたなんてと、士狼は目を丸めた。
「そんな事があったのか」
気まずく俯く幸恵はこくりと頷いた。
「うん。アタシなりに不満はあるけど……」
眉を寄せて悩む幸恵。
「ほとんど、口に出さなくていいかなって……」
そして大きなため息を吐いた。
「……どうしよ」
底抜けに明るくて、強く出る幸恵がここまで思い詰めるとは。
(だから、あの時なんか思って見てたのか……)
三善と要がじゃれ合ってる時に見せた、幸恵の含み顔。
(思った以上に、深刻そうだ)
士狼も考え始める。
「あれ以降何か……したとか?」
少ない情報量で出た言葉がこれだった。
「……アタシはなんにも、昨日も文化祭のバンド練習に行ってたぐらい」
となると、何かあったのではと士狼は次のうち、複数の名前と顔が浮かぶ。
近衛由成。
数日前練習に使っていた教室の前でたむろってた、派手な容姿のグループ。
一体、誰が犯人だろうか。
選んだ答えは──
カーソル音を鳴らして、決定ボタンを押した。
「近衛?」
水着がきっかけだし、掘り返しているんじゃないかと士狼は思った。
名前を出した途端、幸恵は頷いて直ぐにB組の方へ走り出した!
「あ……」
疑問符つけた意味がないと、説明しなくてはと士狼も幸恵の後を追った。
※
二年B組。
「よしりー!!」
幸恵の声が響き渡る。
クラスメイトの視線が幸恵に向けられて、ざわつく。
派手だな、白ギャル、よしりーって誰だという声が聞こえてくる。
「お、これが噂の芥川だな」
黒髪黒眼鏡の真面目そうな男子が、見慣れた金髪刈り上げアンニュイパーマの少年を見る。
「ノッチ、幼馴染が呼んでる」
眼鏡男に肩を揺らされる近衛由成。
気づいたのか、定規をギターのギターのように構えながら無線イヤホンを外した。
「幸恵どうした? カチコミでも……」
ズンズンと幸恵は歩きながら近衛に近づいていく。
「アンタ、昨日さ要になんか言った?」
腕を組み仁王立ちする幸恵を見て、近衛はきょとんと心当たり無さそうな表情をする。
「は? え? オレ?」
すると緩い空気の茶色い男子生徒が乱入する。
「ノッチ、何も言ってないよ。むしろ、逆だよな」
少し険悪な空気をほぐす様な口調で、幸恵に説明すると、近衛は激しく首を振る。
もぎれるぐらいに。
「桜木の言うとおりだ、オレなんもしてねえ!」
桜木と呼ばれた男子が先に言ったおかげか、幸恵の誤解が真っ先に解けた様であった。
「……じゃあ、一体」
その時、士狼の背後から掠れた低い女子の声が聞こえた。
「幸恵じゃん、コイツになんかあった?」
士狼が振り向くと、その姿にギョッとした。
赤いスパイキーショートヘアーに濃い黒のアイメイク。
耳にはピアスが三つ嵌めており、そのうち二つはチェーンで繋がっている。
「……」
なんだか痛そうな格好をしているなと、手首のトゲがついた腕飾りをじっと士狼は物珍しそうに見る。
「こういう格好、ナマは初めてかァ?」
鼻筋が広い鼻で笑われると、近衛は細いタレ目をさらに細める。
「正解だと思う、師匠」
とピアスのチェーンを揺らして、近衛の隣に立つ。
「で、幸恵どうしたんだ」
そう聞かれて、幸恵ははっとした顔で赤毛の女子を見た。
「……そういえば、ときぴも要と一緒のバンドだったよね」
ときぴと呼ばれた女子はあっさりと認める。
「要に何か言った?」
幸恵は真っすぐと目の前の人物を見る。
「言った。オマエの言葉よりも、自分の気持ちを大切にしろってな」
険悪な空気になってきた。
二人の間に火花が散っている風にも見えた。
「それ……どういう意味?」
ピンク色に塗った幸恵の唇は震えている。
どうやら、悪い意味だと思い込んでいるらしい。
無理もない要を悩ませる言葉だったから、幸恵は心配をしているのが伝わってくる。
近衛はおろおろとしながら、二人の一触触発を回避しようとしている素振りを見せる。
だが、案はなかなか浮かんでいないようだ。
「まんまだよ。自分の気持ちを姉ちゃんに潰されねえようにしろって」
周囲のB組の人達は緊迫した空気に包まれる。
ギャルとロックで治安悪いという小さなヤジが聞こえてくる、始末である。
「アタシが要を潰してる?」
片眉を上げる幸恵。
ますます肌に刺してくる。
まるで耐性の魔法を浴びたような感覚と似ている。
「嫌なモンから解放されて幸せって聞いたんだぞ、アイツ」
その言葉に、近衛と幸恵の表情が息が詰まる。
「……なんで近衛も?」
どうして問いかけていない筈の近衛も反応しているのか訊くと、近衛は立ち上がって少しだけ背伸びして背に乗ってきた!
士狼はよろめいて転びそうになる。
「お前バカだろ、バカすぎんだろ、こんな最悪な空気で何聞いてくれちゃってんだ!?」
悪口を言う近衛の重みが背中から伝わり床に伏せられ、顎を打った。
「……痛い」
一回心配そうに見られたが自分達にお構いなしに、話は続いていく。
「カボチャ野郎共は置いといて」
それは悪口なのかと士狼は口を動かしそうになったが、近衛の両手が口元を覆う。
「……山田クン、お口チャックなストップ、ストップ」
そう注意されると、幸恵も心配そうにこちらを見ているようだ。
「……オマエといるのが窮屈だから、離れたがってンじゃねえの?」
近衛はとても渋い顔をし、幸恵の表情は見る見る青くなっていく。
「アタシそんなつもりじゃ……」
そして身構えて幸恵はそう聞き返す。
「オマエん中ではそうだろが」
ゴツゴツと高い靴音が腹に伝わってくる。
「要は違うンだよ」
淡々と冷え切った声が、幸恵を縮こまさせる。
「可愛がるのイイけど、もう少し考えろって事だよ」
顔を幸恵に近づけて、鋭い眼差しが灰色に光っていた。
「……」
幸恵が視線を反らすと何も言えなくなってしまい、泣き出しそうな様子に気づいたのか、近衛は呟く。
「島崎、手加減って言葉知ってるか」
えらく真面目な態度で、近衛は立ち上がって腕を組む。
「あ、あのノッチがマジになってる!」
桜木の声はうろたえている事がわかる。
「……‥初めて見た」
続いて黒髪眼鏡の男の声。
「……ジョースケ、ケン。お前らは首突っ込むな」
薄笑いを辞めた近衛の表情に、二人の背筋がぴんと伸ばされた。
「首突っ込むなって、テメエも赤の他人だろ……こっちは芥川の話してるんだ」
島崎と呼ばれた赤毛スパイキーショートヘアーの女子は、顔をしかめて近衛に矛先を向ける。
「ひっ!」
ビクンと近衛は肩を跳ね上がらせる。
だが士狼は知っている、こういう時の近衛由成は。
「な、泣かしそうな事言うな! こ、このバカ!!」
引かず立ち向かえるって事を。
「こういうのは灸を添えるぐらいが丁度いいンだよ、腰抜け男!」
近衛の視線を合わせる為、両腕を腰に当てて腰を落とす島崎。
「うるせえ、バーカ! バーカ!」
近衛の反撃。
「オマエの悪口辞書は一単語しかねェのか? このポメラニアン!」
ケンと桜木の吹き出す声が聞こえ、コルサコフ
「ポメラニアンバカにすんじゃねえし! アイツらモフモフでいいだろ!」
その返しで良いのかと、流石の士狼も目を丸くして近衛を見ていた。
「なんでそういう返し方すんだァ? 煽り合いがヘタクソか!?」
島崎も同じ事言っている。
近衛が背から離れたので士狼は立ち上がって、埃を落とす。
そして、近衛と島崎の睨み合いを眺めて思い、こう言った。
「……このままだと、文化祭が危ない」
近衛と島崎はバンド仲間だ。
こんなところで仲が悪くなったら、それどころではない。
士狼は真顔でそう言ったのだ。
至って真面目に考えた結論は──
「いや、そこかよ!!」
近衛のツッコミで返されてしまった。
「だって、お前らバンドやるだろ……」
その言葉に一番反応があったのは、島崎の方だった。
「島崎はなんで、仲を悪くする事ばかり言うんだ?」
首を傾げた士狼はじっと猫目を向けて島崎に訊く。
島崎は気だるそうな態度を取る。
中指と人差し指を立てて口元に持っていき、息を吸って吐く仕草をする。
「……そういう世界で生きてたから、見りゃあ分かんだろ」
そのままひじを曲げて、答える。
「そういう世界?」
疑問がまた一つ増えたと、士狼は宇宙に放り出された感覚になる。
「……オイ、由成。なんだよコイツ、無知過ぎてやりづれー」
頭を掻きながら島崎は近衛にボヤく。
「コイツはマイペース過ぎて、お前の作法も効かねーんだぞ☆」
と、近衛はしたり顔で答えた。
「腹立つ顔してンな」
それを見た解子は、どこか苛立ちを感じさせる声色で言ってきた。
「?」
理解できない、なんで幸恵が泣き出しそうなぐらい追い詰めて、近衛と喧嘩する言動をなんでするのかと。
士狼は疑問符をいっぱい作りながら黙り込む。
「ともかく、島崎も幸恵もしばらく接近禁止な、な!」
近衛が島崎に先生みたいな事を言い出すと、島崎はえらく不服そうな顔で視線を落とす。
「幸恵に謝らないのか?」
泣かそうとした島崎に向けて士狼は問うが、島崎は無言でそのまま自分の席へと戻っていった。
※
同日、和室 昼休み。
「……」
近衛。
「……」
幸恵。
二人ともどこか気まずい空気が流れる。
「あの大丈夫?」
「お、おうちょ、ちょっとな」
ぎこちない表情で近衛は遠慮がちに答える。
「な、なんでもない……なんでもないから!」
幸恵は首を横に振りながら今朝の話を避けようとしているらしい。
で、火元の要は上の空で俯いて小さな弁当箱を持っていた。
(重症だ)
三善が肩を軽く叩くと、要が我に返る様子を静かに見つめる士狼。
一方、そんな様子に見兼ねたのか
「……どいつもこいつもどうしたんだ?」
呆れ返った声と顔で辺りを見渡される。
「確かに、近衛くんも幸恵さんも変だね」
「いつもだと気兼ねない感じだったけど、今日は遠慮がちな感じだ」
むっと瀧は口を結んで眉を寄せると、コルサコフは静かに自分の隣に寄ってきた。
「……ねえ、士狼くん、解子さんと由成くんに何があったの?」
囁く声で問われると、士狼はここで言った方が解決しそうと思い。
「要についてもめてた」
正直に答えると、明美の視線が要に向けられる。
「もめてた?」
瀧は真剣な表情で追及し、要は黙って俯く。
話を続けようとしたら、三善が前に乗り出してこう言ってきた。
「ちょっと待って、山田君」
少し目を伏せて心配そうに要を見ていた。
「これ以上言ったら、要ちゃんが『白鳥』に狙われそうな事かも知れない……」
この言葉にぎくりと、音が聞こえてきそうな表情を近衛と幸恵は作ってきた。
(だからなんで、近衛まで同じ反応するんだ?)
口に出したらまた何か言われるので、心の中だけで呟こう。
「近衛、いくら幼馴染とはいえ、なんで他人事じゃねえみたいな反応すんだ?」
そう思っていたのに伊福部が士狼の代わりに言ってきたので、士狼は思わず伊福部を見た。
「そっか、みんなは知らねえんだった」
近衛があっさりと承諾したので、士狼は思わず近衛を見て、こう訴えた。
「え? その話していいのか?」
困惑する士狼に近衛は呆れた反応を見せつけられた。
「お前はな、話題を振るタイミングがヘタクソすぎる」
バッサリと切り捨てるように言われると、近衛は伊福部に視線を向ける。
「……タイミングって……」
山田士狼は自覚が無かった、故に考え込んでしまうと、コルサコフはぽつりと教えてきた。
「……思った事をなんでも言わないって事」
黒いまつ毛に覆いかぶさる青い眼が寂しそうに、士狼を映す。
「これ言ってもいいかなって、考えるの大事」
コルサコフのアドバイスに士狼は首を傾げて困ったように返す。
「それが分からないんだよな……」
人付き合いを諦め続けた代償なのだろうと、士狼は肩を落とすと、近衛の話題へと切り替える。
「芥川んちにいる早苗さんってお手伝いさんが、チビだったオレらの面倒を見たからな」
三善が要を見てしまう。
「え、そうだったの?」
要は静かに頷く。
「つまり家族当然で育ったんだね」
瀧は分かりやすく簡単にまとめてくれるので、ありがたいと士狼は感謝した。
「そういう事♡だから、要ちゃん
いつもの軽い口調で話し、ウインクをする近衛。
「もって事は……」
そういえば幸恵が会話に混ざっていないなと、瀧の言葉と同時に、思い詰めてる幸恵を見る。
「……だから、嫌いになれないのよね……よしりーは」
と幸恵は薄く微笑んでいた。
「確かに要さんの悩みを嗅ぎつけられたら、大変だ……どう防げばいいんだろう」
みんな要について一斉に考え始める。
来る前に悩みを解決するのが一番いいのだが、幸恵が要を潰させる言葉が引っかかる。
当の本人はどこか申し訳無さそうに見ていた。
しばらく沈黙が続くと、近衛が一番先に答えを出す。
「十七時前に帰るのが一番じゃね?」
シンプルで分かりやすい作戦が来た。
「それが一番だ」
瀧の言葉に、近衛は嬉しそうに微笑んでいるのだが……
「けど、今は文化祭の準備、そして君達はバンドの練習がある」
瀧の言う事は最もだった。
文化祭関連で、十七時前に帰る事が難しくなっている。
それに加えて、近衛と要達はバンド練習もある。
そのバンドの成立者である近衛由成は、目を見開きしまったと叫んだ。
「オレのせいで詰んだ!!」
そしてそのままヘコんでしまう。
「考えなしにやりてえ事ばっかやるから、そうなるんだよ」
近衛の無計画さに伊福部はため息を吐いて、味噌汁をすすった。
「うるせー! ビビってやらないぐらいなら、ぜってー逆の方がいい!」
体を起き上がらせて、ギャンと伊福部に吠える近衛を見て、士狼は島崎のあの言葉を思い出す。
(……ポメラニアン)
ポメラニアンは小さくて、毛が多く丸いフォルム、そして何よりもよく吠える犬。
なるほどだからポメラニアンかと、士狼は納得して箸を進める。
「つか、島崎がこういう事を起こすとは、思わなかったんだよ!! 福ちゃんのバカ!」
自分のせいにされるのは流石の近衛も反論するか。
と、士狼は近衛に同意する形で頷く。
「や、山田クン!? オレの味方になってくれるのか!?」
目をきらきらと輝かせながら、士狼を見つめてくる。
「島崎が悪いからな、近衛はむしろ……」
泣き出しそうだった幸恵の為に、近衛は
「幸恵を助ける為にかばってた」
するとテロリンという擬音が聞こえてくるような調子で、近衛は体を震わせ感動しているような素振りを見せた。
「お前……!」
声色からとても嬉しい事が伝わってくる。
「すまねえな、よく知らねえで言っちまってよ」
そして士狼の話を聞いた伊福部は、ばつが悪そうに視線を落とした。
「うーん……どうにかして白鳥を避けたいけど、出現が読めなさすぎる」
これ以上被害を増やしたくないと、瀧は考え込み始める。
「何か予兆があれば──」
ぶつぶつと瀧は独り言を言って理論を立てているらしい。
「……予兆」
三善がぽつりと呟くと、何かを思い出した顔を見せた。
「そういえば……私が襲われる前の日」
正座をしたまま、凛としたたたずまい視線はこちらに向けられる。
「ニセアンナさんが弾いてた同じ曲を学校で、聞いた事ある」
その時、夏休み前芥川幸恵が話していた言葉を思い出す。
”強いて言うなら、あけみっちが聞いた曲が気になってたぐらい”
十七時になると『白鳥』によって槍に刺され、心裡世界にプリマシャドウやシャドウ達が蠢く『劇場』を作り、連れ去っていく。
その時に旧校舎に現れる扉からは吉田杏奈が弾く『死者の舞踏』ではなく、別のピアノ曲が聞こえてくる現象がある。
つまり、ニセアンナさんと名付けた存在が弾く曲と、三善が連れ去られる前日に聞こえてきた曲が同じという事を言っていると、士狼は思った。
「おいおい、それって大発見じゃね?」
近衛が指をぱちんと鳴らして、三善を見て目を丸めた。
「だんだんと分かって来たね」
瀧は弁当を急いで食べ始めた。
きっとメモを取りたいからなのだろう。
「でもさ、オレは前の日は聞こえなかったけど」
確かに一番真っ先に報告する近衛が何も言ってこないのは、おかしい。
「俺もだ」
続いて伊福部も同じだと名乗る。
「俺も」
士狼もそうだった瀧が連れ去られて、すぐに狙われた。
三善と何が違うのだろうか。
「……明美さん、分かる?」
今瀧は昼食に集中しているので、代わりにあのコルサコフが問いかけ役になっていた。
「え……えーと、きっかけになったのはお祖母ちゃんの事か……」
無理もない、五月に起きた事だ。
引き出すのに時間がかかりそうだ。
「……あの……私は……」
三善が思い出してる間、ここでようやく要が口を開いた瞬間、幸恵が要の元へと近づいていく。
「えっ、ゆきねえ?」
そして要と向き合う形で座り始めた。
「要、アタシに何がイケなかったのか教えて」
近衛はうわあと悲鳴を上げて「やりやがったコイツ!」と硬直させた。
「あっ……えっ……」
要が圧倒されて何も言えなくなってる状況を、コルサコフは見てられないのか、遠くに離れてしまった。
この事態に気づいた、瀧と三善が慌て始めると、伊福部が弁当を置いて立ち上がると、幸恵の肩を置いた。
「ちょっ!? ふくっち!?」
幸恵は突然の伊福部の行動に慌ててると、伊福部が呆れ返った低い声で答えた。
「さっきからコイツを刺激すんなって、言われただろうが」
普段からも低いが、今のは一段と声が低く聞こえる。
おまけにいつものしかめっ面で、迫力が増していた。
「離して! アタシだってマジだから聞いてるの!」
そのままぐいっと伊福部が幸恵を後ろに下がらすと、要の顔が困惑に染まっていく。
戸惑う姿は、どうしたらいいのかと訴えているようだった。
「そんなんだから、要はお前に物が言えねえんだよ」
ここは伊福部が叫ぶと思っていたが、落ち着いて話している。
「……悪りぃ、バカアネキをこうするしか無かった」
怖がっている風にも見える要に対して、ぶっきらぼうに謝罪する伊福部。
「……ごめんね、気を遣わせて……」
要は落ち込みながら答えると、伊福部は首を傾げる。
「なんでお前が謝んだ? バカアネキが詰めるのがよくねえだろ」
理解できないと伊福部の態度と、幸恵がバカアネキと呼ばれて不服そうに反応したところで瀧が箸を置く。
「焦っちゃダメだ幸恵さん、今のままだと僕のようになるよ」
良かれと思って人を追い詰めた過去を持つ瀧は、静かに刺すように幸恵を注意した。
「……けど」
流石に言い返せない幸恵は、おずおずとその場から退いていく。
「君が心配してたら、話が途中で止まったね」
仕切り直しと瀧は眼鏡を上げる。
「三善さん何か分かったかい?」
瀧が冷静に処理すると、三善がこくりと頷いて話し始めた。