PERSONA:MUSIC DRAMA   作:黒猫13号

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Chapter5『Think today and speak tomorrow.』

二〇三〇年 四月二十五日 放課後

 

 スマートフォンを見る。

 二〇三〇年 四月二十五日(木)

 時刻は十六時五十五分。

 瀧も芥川も近衛もいる。

「よし、集まったな」

 瀧はこちらを見てくると、眼鏡を上げてる。

「ねーちかりん、何するか説明してちょーだい」

 芥川幸恵(あくたがわゆきえ)は、賑やかに飾り付けされたシャープペンシルとちぎった白紙のノートを瀧に見せる。

「山田くんが旧校舎を出て、芥川さんと鉢合わせになった日を思い出していたら、ある違和感を感じたらしい」

 瀧慈宗(たきちかむね)は説明すると、士狼(しろう)は言葉を紡ぐ。

「俺、長い時間旧校舎で瀧を探していた筈なんだけど……」

 

"窓の外は夕焼けなままで二人は鞄を持って、立ち入り禁止だよと驚いた反応を見た。"

 

「シャドウを倒して旧校舎から出たら、まだ夕方だった」

 芥川幸恵は口に掌をかざして驚き。

 近衛由成(このえよしなり)は引きつり笑いである。

「おいおい、冗談だよな……なあ幸恵?」

「ろうちんがちかりんを抱えてここで会ったのは……本当よ、よしりー」

 顔を青ざめる近衛。

「怪奇現象通り越して、ちょっとしたSF映画じゃねえか!」

「ちょっと声が大きい!」

 芥川はしーっと近衛に静粛を求めた。

 

「今日はその実証も行う」

 瀧は凛とした瞳でこちらを見てくると、近衛が耳打ちしてきた。

「瀧の野郎、心なしか張り切っているよな」

 士狼はどう返答すればいいか悩んだ後、答えた。

「父さんの真似事ができるのが嬉しいとか?」

 瀧のシャドウが父さんの真似事と御高説していたので、それであろうと士狼は感じた。

 

「それはよー分からんが、鴨沢みたいな事にならなきゃいいけど」

 士狼は陰口だと思い、近衛の言葉に思わず振り返る。

 その表情はとても不安気で、捨てられた子犬のようであった。

 心配してくれているのかと、近衛の表情で理解した後答えた。

「大丈夫だ、俺達がいる」

 自信に満ちた表情を近衛に見せつけると、複雑そうな表情で返されてしまった。

「ひょっとして、オレを頭数にいれている感じ?」

 近衛は自身を指で指し乾いた笑みに変わった。

「ダメなのか?」

 士狼は目を丸めて即答する。

「……ダメじゃないけど、慣れないというかなんというか」

 想像していた以上に、近衛は瀧の事を苦手意識があるんだなと士狼は実感した。

「でも、あの指輪の数は注意されると思うけど」

 駅広場で見たのは両手に八個、そのうち人差し指はアーマーリングであった。

 アーマーリングとは西洋鎧をモチーフにしたシルバーリングで、無骨なデザインの中一際目立っていた。

「ほっとけよ。学校でしてないからいいだろう」

 ちぎった白紙のノートを目の前にひらひらさせて、近衛は口をへの字に曲げた。

 

「山田くん、今何時かい?」

 士狼はスマートフォンを見る。

「十六時五十七分」

 と報告する。

「まずは芥川さん、正の字を書いてくれないか」

「りょーかーい」

 芥川は下敷きを取り出してバックを机代わりにした。

「オレは?」

 薄茶のボブカットの幼馴染を見下ろしつつ、近衛は役割を聞く。

「君は僕らが例の扉に入ったら、芥川さんと同じ事をする」

 近衛は返事をする。

「結局何がしたいワケ」

 芥川は作業をしつつ、瀧に聞いている。

 

「ここと旧校舎の時間の反映だよ」

 士狼はスマートフォンを眺めながら聞く。

「芥川さんは入る数分前から記録し続けて、旧校舎から帰って来た後の作業の進み具合を」

 時刻は十六時五十八分。

「近衛くんは僕らが入ってから帰って来た後の作業の進み具合で、時間のズレを証明するんだ」

 瀧は淡々と話していると近衛は聞く。

「時間が止まるわけじゃあ、あるまいし、ただの時差で終わ……」

 近衛の口が言い切る前に閉すと、台詞を紡ぐ。

「いや……もう非現実的な事を経験しているヤツおりますもんね」

 スマートフォンから視線を近衛に切り替えると、両手を後頭部に置いていた。

 十七時を告げるチャイムが鳴る。

 封鎖された旧校舎の扉から『死の舞踏』が聞こえてくる。

 

「ヒイ! ガチじゃねえか!」

 士狼に『旧校舎のアンナさん』の軽い詳細を教えた当の本人は、鐘を告げるような出だしを聞いた瞬間怯えている。

「これって『死の舞踏』よね、(かなめ)、これを弾くのに苦戦してたの懐かしいな」

 一方、芥川は作業しつつピアノをやっている人物を口に出しながら、手を動かし続けていた。

 旧校舎の扉は炎を吹き出しながら、白い扉に変わっていく。

「話は山田くんから聞いていたとはいえ、情報無しでいきなりやられると僕に相談するのも無理はないな」

 扉をまじまじと瀧は見ている。

 何故か近衛は二人の顔と扉を行き来しながら困惑した顔を見せられて、旧校舎の白い扉を芥川は手を動かし続けながら見つめている。

 

「ピアノの曲が聞こえるだけで、何も変わっていないじゃん」

 その言葉に瀧も芥川に視線を向ける。

「芥川さんは白い扉が見えていないのか?」

 視線を瀧に移すと詰められたような表情をしている。

 士狼もきょとんと芥川を見ていた。

「えっ、なになに二人とも嘘ついていないよ、本当にただのドアにしか見えないけど?」

 釣り上がった瞳は見開いて、怪訝(けげん)な表情を見せると近衛が眉毛を八の字にして来た。

 

「オレもだ。ナニコレ、もしかして選ばれし勇者しか見れないドア的なヤツ?」

 そう言葉にした途端、ふわりと金髪は揺らしたかと思えば抱え込んでおり、近衛は羨ましそうな表情でこちらを見てくる。

「お前らだけずるいぞ!」

 むくれた表情の近衛が見てくる。

 すると隣で瀧の眼鏡のレンズが夕焼けで反射していた。

「……だったら、槍に貫かれてシャドウに会って来い」

 怒気を感じさせる声色だった。

 それを聞いた近衛はびくりっと体を跳ねて硬直していた。

 

「本当に仲間にいれて良かったのか、山田くん」

 軽薄な近衛に対してこちらを見て、瀧は問い詰めてくる。

「顔が広いし、何よりも溜め込まなさそうだから」

 士狼はその圧に負けじと答える。

「理屈はあっているが、この先が思いやる」

 瀧はふーっと眉を寄せてため息を吐いた。

「芥川さん、紙を見せてくてないか?」

 芥川は相槌を打ち紙をこちらに見せてくる。

 正が二十個書かれている。

「なるほど二十個か」

 瀧は呟いていると、士狼はスマートフォンのカメラ機能でノートの写真を撮る。

「そして、僕達が旧校舎に入ったら、近衛くんは芥川さんと一緒に正を書いてくれ」

 こっぴどく叱られた近衛は怖気ながらこくりこくりと頷いた。

「それじゃあ、行くぞ山田くん」

 時刻は十七時五分。

 士狼と瀧は白い扉を開けて一緒に入っていった。

 

 

黄昏の旧校舎

 

 窓からオレンジの光が無機質な廊下を染め上げ、穏やかな風景を映す。

「ニセアンナさんが襲わせなくとも、入れるみたいだ」

 見渡しながら瀧は言う。

 そういえば気絶してたから、今回が初めて見る光景だと士狼は思うと、スマートフォンの液晶を見る。

 電波は途絶え、時刻は──

 

「二〇〇五年、十一月八日、十七時……」

 吉田杏奈(よしだあんな)の自殺が報じられる前日の十七時になっていた。

 額から脂汗が出て、固唾を飲み込む。

「どうしたんだ」

 心配しに来る瀧。

「こっちだと、時間がめちゃくちゃになっている」

 士狼は青ざめた表情で瀧にスマートフォンを見せた。

「!」

 瀧は切れ長の目を丸めて驚愕すると、考え始める。

 

「思ったよりもヤバいぞ、ここは」

 シャドウは言わずもがな、旧校舎も奇怪な存在だと知らされる。

「うーん、心霊現象を通り越して超常現象だな」

 瀧は眉を寄せて、高校生でも対処の答えを見い出せないでいた。

 ピアノは『死の舞踏』を奏で続ける。

「音楽室に行くぞ」

 士狼は立ち止まっては良くないと思い、瀧を音楽室へと誘った。

 

 

「あら、また来たの?」

 黒い前髪の両端のおさげは淑やかに揺れると、瀧は答える。

「そうだ、吉田さん」

 頷く瀧。

「君の生前について情報を得たから、報告にやってきた」

 事情の説明を聞き終えると、吉田杏奈はそうなのねと気品に微笑む姿を見せてくる。

「つまり君はコンクールのプレッシャーに耐えかねて自殺をしたと、世間ではそうされているんだ」

 瀧は一通り報告すると、アンナさんは視線を落として何かを思い出そうとしている仕草をする。

「……そうなのね、私が全国大会か……」

 憂いを帯びた表情で窓を眺める吉田は、余韻に浸っていた。

 

「未練の記憶がない私からすると、信じられないよ」

 吉田は感慨深そうにポツリと呟く。

「……で、プレッシャー以外に何か心当たりは? 一応『告別』の意味調べたけど特には……」

 士狼は一考した後、ピアノを背にした吉田を見る。

 ベートーヴェンの『告別』正式名はピアノソナタ第二十六番。

 ベートーヴェンがウィーン進行の際、疎開した良き知人に捧げた物しか情報を得なかった。

 

「無いからお願いしているじゃない」

「思い出すのかと思ったけど、どう?」

 真面目な顔の士狼は吉田を真っ直ぐと見る。

「⋯⋯私があなたに聞かせたのは『再会』と付けられた楽章ね⋯⋯」

 考え込む吉田。

「⋯⋯ごめんなさいね、記憶に靄がかかって思い出せないの」

 数分が経つと申し訳なさそうな顔をされた。

「何かヒントになると思っていたんだが、ダメだったか」

 吉田の表情に士狼は少し落ち込む。

「そもそも、ピアノ以外どこまで覚えているんだ」

 秒針の音がしない時計を見てたであろう瀧は吉田に訊く。

 

「⋯⋯そうね、何かを思っていて放課後の屋上へ来たの」

 士狼は壁掛け時計を見る。

 針は十七時のまま止まっていた。

「誰もいない校庭を柵から見下ろして、チャイムを聞きながらそのまま落ちてまでね」

 吉田は首を傾げて前髪のおさげを揺らす。

「死ぬ直前しか覚えていないのか」

 腕を組む瀧。

「それじゃあなんで、ベートーヴェンの曲を聞いてたんだ」

 士狼が問いかけた時、瀧のはっとした表情を見た。

「どうしてかしらね、それがよく分からないの」

 吉田は目を伏せてくる。

 士狼は互いの顔を見つめ合い、二人の深刻な表情を共有しだす。

 

「⋯⋯ただ」

「ただ?」

 吉田の話は続いていたようだ、士狼は聞き返すと、吉田は黒い機材を視線に向ける。

「初めて目が覚めた日にCDを見つけたのが、あなたが聞いていた物よ」

 つまりここにあったものだと吉田は答えた。

「君の今の言葉で思ったんだが備品はまだ片付いていないのか、来年で取り壊す予定なのに⋯⋯」

 瀧の言葉に続く形で士狼が思った違和感を言う。

「俺も変だと思った。取り壊すわりには、ここは綺麗なんだよな」

 老朽化しているから、旧校舎は立ち入り禁止になっていると瀧の口から聞いた。

「私も思ったわ、目が覚めた時からずっと夕方のままなのよ」

 ようやく吉田の話が進展した。

 

「⋯⋯二十五年もこのままって、まるで時間が止まった世界だな」

 士狼の感想に瀧は信じられないと伝えるかのように、大袈裟なリアクションを始めた。

「冗談はよしてくれよ山田くん、ここは嬰琴(えいきん)市立天音(あまね)高等学校に旧校舎だぞ? まるで別の世界に来たとか言わないでくれ」

 ダイアナが言っていた。

 隣の教室から入れた、シャドウの劇場は心裡(しんり)世界だと。

 前に思った事がある、この音楽室もまた心裡世界なのではと。

 その輪郭が少しはっきりしてきた気がする。

 その旨を瀧に伝えなくてはいけない。

 

「⋯⋯俺さ、あの劇場に行った時、隣の教室から出発したんだ。多分、劇場と同じ世界なんだよ」

 瀧はショックを受けたのか立ち眩みをした。

「じゃあ⋯⋯ここもいずれシャドウが?」

 何かの痛みを加えられたような深刻な表情を見せると、瀧は吉田に詰め寄る視線を送った。

「シャドウはよく分からないけど、山田くんが来る前までは何も起きなかったよ?」

 吉田は不安そうな表情を作って首を傾げた。

「どうやらニセアンナさんは、君の生活も荒らしたいらしいね」

 瀧は深刻な顔を士狼と吉田に見せていた。

 

「ともかく、シャドウの劇場をなんとかしないと吉田にも被害が出るという事だな」

 士狼は立ち上がると瀧と一緒に立ち去ろうと、歩き出す。

「なんかとんでもない話になったけど、劇場の方は俺達がなんとかする」

 与えられた情報に呆然としているのか、呆然とする吉田に士狼は声をかけた。

「ごめんね。迷惑ばかりで」

 吉田は慎まやかそうな微笑みに士狼は頷くと、その場から立ち去った。

 

 

「ただいま」

 二人が待つ校舎に到着すると、背後の白い扉が消えていくのに気づき士狼はそれを見つめていた。

「おうおかえり、秒で終わらせて来たな」

 近衛は目をぱちくりとこちらを見てくる。

「本当ねーすぐに帰ってきたじゃん」

 芥川は近衛の顔を見て、茶色のツリ目を緩ませていた。

 ここで士狼は違和感を感じた。

「待て俺達、結構中で話してきたぞ」

 怪訝な士狼も瀧も似たような言葉を同時に口走ってしまったらしく、瀧にバトンタッチする。

「⋯⋯芥川さん紙を見せてくてないか?」

 真剣に聞く姿を見た芥川は不思議そうな顔をすると、紙を掲げてきた。

 

「数は二十四個⋯⋯山田くん今は何時だ!?」

 士狼も恐る恐るスマートフォンを見ると、驚愕の数字が表示されていた。

「⋯⋯十七時⋯⋯六分」

 こちらだと一分しか経っていない。

 士狼の猫目は大きく開き、眉を寄せる瀧は近衛の作業の進行について聞いていた。

 どうやら三つ分ぐらいしか書けなかったとか。

 そして二人の事を不思議そうにする、近衛と芥川に見かねたのか。

 その結果を瀧は簡単に説明した。

 

「つまり、こっちとあっちの時間の進み方が違うって事ね」

 近衛は確認するように瀧に聞いてくる。

「呑み込みが早いな」

「俺も思う」

 士狼は瀧の台詞に同意した。

「へへへ、もっと褒め給えオレを!」

 近衛は胸を反らし両親指で自分を指さしして、どこか自慢げな表情である。

「よしりーは、すーぐ調子乗る」

 容赦のない芥川のツッコミ。

「はいはい。オレの事よりも、イイコトを思いついちゃったんだよな」

 近衛は軽く流し、生意気そうな笑いを作り、口は止まらなかった。

「夏休みの最後の日、旧校舎に行って宿題をやれば一日で済む! どう名案だろ?」

 この発言により、士狼はおおと感嘆、芥川はその手があったかと言っているような表情であった。

 だがしかし、瀧慈宗はそれを──

 

「心霊スポットで騒ぐとバチが当たるぞ、特に近衛くん」

 許してはくれなかった。

「いーじゃん、ちょっとぐらい」

 唇を尖らせ訴える近衛。

「そもそも君は白い扉は見えなかったんだろ?」

 瀧の渾身の一撃だったらしく近衛は崩れ落ちた。

「そうだったー!!」

 まるで映画のようなワンシーンであった。

 

 今日の収穫は。

 ①白い扉は士狼と瀧にしか見えない。

 ②白い扉をくぐった旧校舎は、時間の流れが違う。

 ③そもそも世界が違うかも知れない。

 ④吉田杏奈の記憶は『死の舞踏』と『告知』と死ぬ直前の記憶しかない。

 

 だった。

 

 ④についてはオカルト部の相馬光希(そうまみつき)について何か知っていそうだなと思い、帰りに寄って行こうと思った。

 

二〇三〇年 四月二十六日

 

 ホームルーム。

 担任の真島辰彦(まじまたつひこ)が告げた。

「明日からゴールデンウィークです」

 教室は歓喜に満ちている。

「で、それが過ぎるとすぐ中間テストだから、時間を有効活用するように」

 教室は一転ざわつきに変わる。

「⋯⋯」

 士狼は無言でその様子を眺め、バイト募集のサイトを思い出していた。

 こうして天音高校のゴールデンウィークが始まった。

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